Old One’s Future
調査の依頼をしてきたグレムリンには散々「うかつに設備に触れるなよ、あの遺跡は遥か昔のきちんと動いてた時には安全設計がしっかりしていただろうけど、今となっては中途半端に動く分どうなるかアタシにもわからんからな」と釘を刺されていたのにやらかしてしまった
床の崩落に巻き込まれて無傷で階下に落ちただけなのは幸運としか言えなかったが、壁に手をつけて立ち上がろうとしたのがまずかった
仮にもダンジョンのトラップ解錠で飯を食っている身なのにうかつすぎた
振り向いた先にある一面が黒い壁になにやらつらつらと古代文字が浮かび上がり、その横にある縦置きにされた棺桶のような箱から光が漏れている
周囲に似たようなものがない事を確認し、立ち上がり、ナイフに手を伸ばして距離をとっている間に光が漏れている箇所から煙のようなものは漏れ出し、黒い壁に浮かび上がる古代文字はグレムリンでも読むことはできないような速度で浮かんでは上に流れて消えていっている
やがて古代文字の流れが止まり、箱の中が開いた
[駆動魔力低下によりセーフモードでの起動......OK;]
[言語機能の一時停止......OK;]
[人格データ保護......OK;]
[人格データによる各部操作機能制限......OK;]
[人格データへのカメラ映像の確認制限......OK;]
「なんだい……助手君には起動前に充電はしっかりしておくように言っておいたじゃないか」
[マスターへの緊急充電要求プロトコル......エラー;]
[マスター登録がされていません]
[生体認証者に対してマスター認証しますか?......[Y/N]]
「……YESだ、元々緊急時はあの子にマスター登録してもらう予定だったんだ、どうせシステム上の主従関係だから問題ないだろうし」
[生体認証者に対するマスター認証プロトコル......開始;]
箱の中から出てきたゴーレム……いやオートマトンは直立姿勢で顔だけうつむいた姿勢のままこちらにぎこちない動きで歩み寄ってきた
以前に依頼者とは別のグレムリンから酒の席で聞いたことがある
古代遺跡に眠るオートマトン達は大抵は燃料が切れているので下手に近づいたり魔力を与えなければ動くことはないが、きちんと保管されているタイプの娘は設備が生きている場合があるが燃料が十分であるかどうかは疑わしい
もし主人になるようにお願いされた場合は応えてあげ、燃料補給をしてあげると賃金飯要らずで家事から護衛怪我の治療までしてくれる素晴らしい従者になると
『ユーザ"ケイ"に質問......当機のマスターになってくださいませんか？』
……ソロでの冒険者活動に最近限界を感じてきている所ではあった
鍵開け、トラップ解除などの危機察知系やマッピングに関する技術には自信があるが、それ以外の直接戦闘や緊急時の治療などは苦手だからだ
今回の古代遺跡調査にしても結局は古代文明に対する知識が無くて通用しない箇所も多々あった
その点彼女を従者とすることができれば、少なくともこの遺跡に対する知識は自分よりもあることから調査は進むだろうし、それ以外の面でも今後彼女に前衛を張ってもらえることを考えれば、ソロでは受けられなかった依頼を受けられることもできるだろう
断ることに対するメリットは浮かばず、ここで断るとおそらく彼女の燃料は切れ、偶然ここに来たお人好しが補給をしてあげるまで動くことすらできなくなるだろうと思うと心が痛む
「ユーザ"ケイ"ってのは俺のことで良いのかな……俺で良ければ君のマスターになるよ」
『感謝します......それではマスター認証登録プロトコルを開始します』
この時の自分は3つ失念していた
一つ、彼女の言う「ユーザ"ケイ"」っていうのがどういう意味なのか
一つ、彼女のマスターになるために何をするのかということ
一つ、彼女の燃料が何なのかということを
[生体認証者からのマスター認証合意......OK;]
[マスター認証登録プロトコル......開始;]
「指から皮膚組織の採取だろう、手早くしてくれたまえ」
[人工舌による口内組織及び唾液サンプルの摂取......開始;]
「なんだその機能は！まっ……待て……この味はあぁ♥」
[口内組織及び唾液サンプルの摂取......完了;]
[マスター認証登録......完了;]
「ふぅ♥……起動する前に私が知らない機能が追加されたのか……？ともあれ、あの子に充電設備まで移動させてもらい駆動用魔力を確保せねば」
[著しい魔力低下によりマスターからの緊急補給プロトコル......開始;]
「……人間からの燃料補給？なんだそれは」
[搾精機構及び吸精機構による魔力補給......開始;]
「……私はそんなものは付けた記憶は無いしどういった機構だ」
[マスターの男性器の露出......確認;]
「……なぜそんな事をする必要があるのだ……まさか！」
[マスターの男性器の搾精機構への格納......確認;]
[吸精機構の起動......確認;]
「うぅ♥私はまだ処女だったはず……？……私が女……いやしかしこの感覚は♥」
「んっ♥んっ……」
[マスター吐精による魔力補給.......確認;]
[駆動魔力残量......11%;]
「なんという快楽だ……確かにこれなら常人達が子を成そうと躍起になるのもわかってしまうな……♥」
[指定駆動魔力残量までループを開始......魔力残量を入力[12〜100%];]
「私が十全に動くにはまだまだ足りないし……なによりもっとこの快楽を味わっていたいな……100%だ♥」
[腰部駆動による魔力補給サポート......開始;]
[人工舌でのマスターの口内愛撫魔力補給サポート......開始;]
『マスターからの緊急補給プロトコル......終了;』
『人格データによる各部操作機能制限......終了;』
『人格データに対するカメラ映像の確認制限......終了;』
今まで経験したことのない快楽により何度何度も彼女の膣(?)内に精を吐き出し
甘い霧がかかったような思考も堕ちてしまうんじゃないかと思うようになった後に彼女がキスを終え口を離し、腰を浮かせて俺の男性器を自らの腰から抜いた
そして奇妙な言葉をつぶやいたと同時に彼女のぎこちない動きが変わったように見えた
「ふぅ……これでやっと自由に動けるな……いや……このまま続けていたさはあったが……♥」
今までの事務的で違和感のあるゴーレム属独特の声色とは違い、人間的(？)な言葉で話はじめた
「ようやく私の意思で『おはよう』と言えるね助手君……私を起動する前に当機に知らない機能や機構がモリモリになっているのは一体どういうことか説明して……ん？」
人……いや……魔物が変わったような口調で話し始めた彼女としばし見つめ合う
「一応君のマスターになったはずなんだけど……助手君ってのはどういうことなのかと、君もなんだかキャラ変わってない？」
とりあえず彼女に対して浮かんだ疑問をぶつけてみる
彼女も紫色が浮かぶ瞳をまばたきさせ……首をかしげた
「君は……私の助手のケイ君ではなかったようだ……失礼したねマスター君、そもそもケイ君は女性だった、魔力切れで記憶メモリが破損したかなハッハッハ」
軽く高笑いした彼女に苦笑いを返すと
彼女は再び口を開いた
「私は元々ここの研究所の人間でアオイ・ミキタという者だったよ、オートマトン"レイ"モデルの研究の一環で人格を移す実験をしていてね……当機に人格データ転送してるから完了したら助手のケイ君に起動するように頼んであったはずなんだけどねぇ……データ容量が大きくても流石に長期連休明けには完了してたと思うのだが……」
自分にとっては半分ぐらい理解し難いがアオイはこの遺跡が正常に稼働していた頃の人間で……オートマトンの中に意識を移したという事だろうか
学のない自分には知り得ない領域の話に頭痛が覚えているとアオイは周囲をキョロキョロ見回し始めた
「そういえばマスター君はどうやってここに来たんだい、まさか私をわざわざ起こしに来てくれた王子様なんてことは無いと思うが」
「それとこの部屋の荒廃具合はいったい……決して綺麗とは言えなかったが天井に穴まで空いててこんなに廃墟然まではいってなかったはずだが……」
愉快そうな様子から不安そうな雰囲気と声色に変わる
「天井についてはさっき上の階で俺が踏み抜いてしまったんだ」
「なんだって！？マスター君、大丈夫なのかい？怪我とか打った所はないかい？」
自分の方に気をかけてくれているが、建物について気にがかりな様子も見せている
その姿にいたたまれない気持ちになり自身の知る情報を伝えることにした
ここは遥か昔の時代の遺跡となっている事、自分は冒険者ギルドからの依頼でその調査に来ている事、そしておそらくアオイが生きていた時代とはまったく異なるのであろう事
私の居た時代が古代扱いされている事には驚いた……
[カレンダー機能......エラー;]
["年"の値がオーバーフローを起こしています]
私が生きている間には発生しないだろうと思っていたようなエラーを起こしている以上はそれが現実なのだろう
今は魔王歴とやらが採用されているらしいのでまた後でコーディングしなければ
この体だと自分の意思と自動とで各種アプリケーションを立ち上げられるのは便利だねぇ
とはいえ100年以上は建て替える必要は無いと豪語されてたこの研究棟が本当にそれどころでない年数を経ても建物の形を残しているのは少々驚きである
[記憶領域内に存在する画像とカメラ映像からの経過年数の計測......開始;]
[推定される経過年数は......"エラー"年と推測;]
自分が当たり前に居た時が古代文明扱い、かの時代では物語の中でしか存在しえなかった「冒険者」という役職が当たり前に存在している事実は少し興味深い
私の所有者になるマスター君が冒険者なのであれば私もそういう役割に組み込まれるのだろうか、剣と魔法の時代に科学的な装備で立ち会うなんて浪漫に溢れていて悪くない
……しかし何故マスター君がケイ君での生体認証が通ってしまったのだろうか
心が痛むが過ぎた時を考えるとケイ君というか私の知る人々はおそらくもう骨も残っていないのだろうに……
[ユーザ"ケイ"とユーザ"マスター"の生体情報の比較......開始;]
[合格閾値60%以上一致比較......OK;]
[完全一致比較......NG;]
[ユーザ"ケイ"とユーザ"マスター"はカテゴリ"クローン未満","類似の血縁個体"と推測されます]
……なるほど、彼女の子孫というわけか
マスター君の言動から推測するにここに訪れたのは偶然ではあるが、助手君へ任せた仕事は長い時を経てマスター君へ昇格して果たされたというわけだな
なんともまた浪漫のある話だ
私の時代から見た古代文明の産物であるオートマトンと同一化する浪漫を描いた私にとっては大好物のシチュエーションではないか
オートマトン,モデル"レイ",製造No."C00001"としてだけでなくアオイ・ミキタとして彼に仕えるに値する理由である
十分な長期連休を休ませてもらった分しっかりマスター君の元で働かせてもらおうか
……それにこちらから手を出したとはいえ私を抱いた責任はとってもらいたいし
彼からの"魔力補給"は非常に甘美なのでまた味わわせてもらいたいのである
[魔力残量......99.998%]
[マスターからの緊急補給プロトコル......不要;]
それは分かっている、何も今すぐ欲しいってわけではない
過充電は当機への負荷になるのは理解しているぞ
["緊急魔力放出プロトコル実行時","予備動力駆動時","各部駆動魔力20%未満時"マスターからの魔力補給プロトコル実行推奨]
[また"夜伽プロトコル","魔物妻モード"時にはマスターとの性行が含まれます]
[緊急魔力放出プロトコルを実行しますか?......[Y/N]]
……NOだ
というか最後の2つ、また知らないものが増えているではないか
人格データ"アオイ・ミキタ"としてはまだ不要と思っているが、
オートマトン,モデル"レイ",製造No."C00001"としては彼との接触を望んでいるのかもしれないな
自分からの話を聞いてアオイは「自分の中で整理するから少し待ってくれ」と目を瞑った
その間に身だしなみを整え、彼女の側に腰を降ろし改めて部屋を見回した
崩落した天井とアオイが保管されてた設備の他には乱雑に何かが上においてある長方形の机のような物、本棚、よくわからない板等など自身にとってはわからないものだらけである
腰を降ろしてから1分も経たないうちに再び彼女の目が開かれた
「……納得したよマスター君、君は未来人の旦那様で私は元古代人の愛玩嫁人形というわけだ」
俺と自分を交互に指を差しニコリと微笑んできた
優しげな表情に思わずドキリとしてしまうが
「嫁人形って……」
「おやぁ、この時代の男性は女性の寝込みを襲っても責任をとってくれないのかい？」
「手を出してきたのはアオイの方からじゃ……」
『当機の魔力低下による危機的状況、設備による補給が間に合わないタイミングでの強制起動のため緊急補給プロトコルの実行が不可欠でした』
『つまりは"女性の弱みを握って抱いた"に分類されます;』
「"アオイ"としてだけでなく"レイC00001"としてもマスター君は責任を取るべきだと言っているね」
一言二言、彼女が起きた時と同じような話し方をして多数決のような判断で決められてしまった
魔物の一種でもあるオートマトンを相手に甘い考えをしてしまったという反省点はあるが
自分としてもあれほどの快感を彼女から与えられてしまった以上手放すという選択肢はないが
しかしアオイの話しぶりを考えると人格の移植？を行っていても元々のオートマトンとしての意識は残っているということなのだろうか
「アオイとは別にレイC00001っていう別の意識があるのか？」
「お、私が聞いてほしいことに気づいてくれたねマスター君」
自分の言葉にアオイは話したくて仕方がない学者らしい声色に変わる
表情もどことなく嬉しそうに見える
「君が話している"アオイ"は古代人アオイ・ミキタがオートマトンのモデル"レイ",製造No."C00001"にある記憶領域内の初期人格データを彼自身の人格に移植しているのだ……彼？……まぁいい……そのため当機の人格部分においては"アオイ"であるしそれ以外の部分についてはオートマトンのモデル"レイ",製造No."C00001"のままなんだ、それ故に当機は"アオイ・ミキタ"であり、"レイC00001"であるのだ」
『要約......当機は主が"アオイ・ミキタ"で"レイC00001"がサポートしている二重人格に近いものと思ってください"マスター";』
『基本的な扱いは"アオイ"としてください;』
長々とアオイが難しい話をした後でレイが短くまとめてくれた
多重人格者なのであれば知り合いには居ないが話に聞くキマイラのようなものなのだろう
少しの間彼女との歓談を楽しんでいたがここに来た目的を思い出した
元々彼女がここを利用していたのであればこの遺跡……研究所にも詳しいだろう
今回の依頼ではここの構造把握、地図作成、遺跡の目的把握のいずれかに応じて報酬を上乗せしてもらえる形だ
「そういえばアオイ、この研究所について知りたい」
「もちろん構わないともマスター君、ボロくはなっているがここは我が家みたいなものだからね」
自分としては大体の構造、できれば地図作成ぐらいまで行ければ御の字ぐらいのつもりだったのでとても助かりそうだ
「じゃあ……ここは何するための場所なのかと、構造的なもの……俺自身で途中まで作ってしまったけど地図はあるかな」
自分の言葉に彼女はウンウンと首を縦に振った
「ここの研究所は多数発掘されているオートマトンのモデル"レイ"型の研究及び改善が目的の施設だったね」
アオイのやっていたことも相当変わっていそうであったが、他の人も似たような事をしていたのだろう
「地上5階、地下5階の全10階でここはその最下層といったところか」
オートマトン独特の奇妙な継ぎ目のある両手をパーの形に広げて見せてくる
理知的に見せている彼女らしくない仕草に可愛さを覚えてしまう
「セキュリティの観点から言ったら外部の者に機密情報を渡すのはご法度だが……私のマスター君になったんだから関係者だ、そもそも規制するための法ももう無いだろう」
「マスター君の背中側の壁に地図が……」
アオイが今度は俺の背中の方向に指を差したので振り向いてみると
確かに壁に紙が貼られているようだが……
「見えないぐらいに風化してるねぇ」
かすかに何かが描いてあったんだろうことはわかるが
手に持ったただけでバラバラに成ってしまいそうなぐらいになってしまっていた
『アームプリンター起動......OK;』
『記憶領域内にある地図情報を印刷します......完了;』
「うむ、これが元々の地図だ、崩落してしまった所もあるだろうが……まぁそれなりの価値はあるだろう」
彼女の右前腕が奇妙な音を立てて回転したかと思うと
丁度いい大きさの地図が描かれた紙が出てきた
「ふふん、優秀な従者っぷりだろう褒めてくれてもいいんだぞ」
……オートマトンは人に奉仕するため色々できると聞いていたがこんな芸当もできるとは驚きだ
自慢げな態度を取るアオイと恐らく彼女を手伝ってくれているであろうレイC00001に感謝せねばなるまい
「ありがとうな、"アオイ"、"レイシー"」
「レイシー？」
レイC00001と呼ぶべきかもしれないがC00001の部分は呼ぶには少々長い
愛称のようなイメージで彼女の片側をレイシーと呼ぶことにした
「アオイのもう一つの人格……でいいのかな、"レイC00001"のことはこれから"レイシー"と呼ぶよ」
『"レイC00001"を名称"レイシー"への変更......OK;』
『こちらこそ感謝します"マスター";』
おそらくアオイではなくレイシーとして返事をし、笑みを浮かべてペコリと頭を下げてきた
感謝しているのはこちらだというのに
「なんだか私まで幸せな気持ちになってしまうな……広義で言えば私でもあるから当然といえば当然かもしれないが」
「……まぁいい、マスター君のここでの用事はこれで終わりだね」
彼女の言う通り依頼で必要な要件は全て満たしている
他になにかあるのであればアオイに聞けばいいだろうし想定以上に早く済んだので日が落ちる前に街まで帰れるかもしれない
「マスター君はもう用はないかもしれないが、私は少し使えそうな物があれば持っていきたいのだが良いだろうか」
「もちろん良いよ」
自分の返事を聞くと彼女は机と思われる物の側へ歩いていき、
それの上を漁ったり引き出しのような物を開けたりし始めた
「流石に端末はだめっぽそうだなぁ……ツールキットは案外大丈夫そうだ」
「ぶっつけ本番環境にはなってしまうが、この体なら最悪コーディングもそのままできるか」
「お菓子なんか腐ってる通り越して溶けてしまってるな……期間限定で楽しみにしてたんだがねぇ」
「……この写真は無事なのか……あれ？」
アオイが机の物色をしているのを眺めているのも手持ち無沙汰なので彼女の側まで歩いていく
……というか柔らかそうなお尻をこちら側に向けていたのでまた元気になってしまう前に意識を逸らす
側まで行った時、彼女は何やら比較的無事そうな一枚の絵が描かれている紙を手にして固まっていた
「どうしたんだ？」
「……いや、なんでもないさ、少し古代に思いを馳せていた」
『該当写真の保存......完了;』
「これで問題ない、さぁ未来の世界へ出発しようじゃないかマスター君！」
手にしていた絵を左前腕に当てると先ほどとは逆に回転して収納されていった
そして彼女は俺の手を引き、出口と思われる方へ足を進めた
この写真は元の体の最後の記念にとケイ君と一緒に撮ったもののはずだ
[該当写真被写体......"アオイ・ミキタ博士","ケイ・グレイ研究助手","スリープモードの当機";]
[撮影推定時期......"エラー"年前;]
私はこの体に移る前から女性で独身で……？……異性経験はなかったと記憶している
助手君とはお互いにいい人に出会えないものだと嘆きあったような話もしていたはずだ
[データベース参照......OK;]
["ケイ・グレイ研究助手","女性";]
["アオイ・ミキタ博士","男性";]
……何やら自身の性別について思考を巡らせると違和感があったが
私は元々男性だったのか……？
[記憶領域内人格データ......破損ファイルあり;]
[項目"性別"が破損......初期設定の"女性"が割り振られています;]
[またマスターより名称入力された"魔王の魔力"による影響にてステータス変更不可;]
……まぁいいか
今の私はオートマトンの"アオイ"でマスター君の嫁人形だ
たとえ彼から聞いた魔物化？とやらの影響だったとしても私はマスター君を好いているし
レイシーもそれで良いだろう
[YES;]
私達のこれまではここでおしまいだ
これより当機は古代より蘇りし未来を生きるオートマトンだ
過去を憂う時間も割くメモリももったいない
帰る道すがら他にも眠っているオートマトンが居たり、アオイがなにかのガラクタの前で大げさにショックを受けていたりしたが
大きな問題は無く街まで帰還することができた
依頼主のグレムリンは想定以上の収穫に大層ゴキゲンになり依頼料の他に酒まで奢ってもらった
またアオイと気が合うらしく彼女となにか話し合ったり、彼女の部品を作ったり調整してもらったりしている
依頼主からさらなる調査をお願いされていてちょくちょく足を運んだり何かを運び出したりしている
それでも結局アオイが正しい時代に起きれなかった理由は不明のままだが彼女としては別に構わないのだそうだ
「『当機は"マスター"に仕える従僕であり、それ以上に必要な情報はありません;』」
アオイがレイシーとハモらせて言うぐらいだからそれで良いのだろう
俺の当初の目的通りソロの時以上に受けられる依頼の幅は広がったが、
アオイに必要以上の苦労をかけるのはあまり良い気分でもないし、
彼女達との時間の方が大切なのでそれなりにやっている
[分身薬の摂取による人格データ"アオイ"との物理的分離......OK;]
[カメラ映像での"マスター"及び"当機"の視認......OK;]
「ほぉう、鏡や映像でなく自分を直接見るというのはなんだか不思議な感じだねぇ」
[思考パターン及び各部駆動操作権限の分離......NG;]
[ステータス......"レイシー","アオイ"リンク状態のままでの操作;]
「想定通りレイシーとは分離している感じはあるが……いつものように彼女の声が頭に響いてくる」
「俺にもなんとなくアオイとレイシーで別々なんだって感覚はするけど……」
["魔物妻モード"起動......OK;]
[性行為に必要な各種機能起動......OK;]
『"マスター"......お慕いしております;』
「今日はレイシーから甘えてくるんだな……おいで」
[人工舌によるマスター口内への口淫......開始;]
[人工舌のマスター口内への侵入......OK;]
「先手を打たれたか……なら私はこっちを楽しませてもらうよ」
["アオイ"側当機の搾精機構及び吸精機構の起動......OK;]
[マスターの男性器の搾精機構への格納......確認;]
[マスターへのステータス移行......"騎乗位";]
[マスターの右手が"レイシー"側当機頭部への接触,ステータス移行......"なでなで";]
[マスターの左手が"アオイ"側当機頭部への接触,ステータス移行......"なでなで";]
[幸福度上昇率......平均の2倍;]
「ほぉう……こういう言うのもっ♥感じやすくなるのはいいねぇ」
["アオイ"の操作による"レイシー"側当機の腕部移動......OK;]
[マスターへのステータス移行......"頭部ホールドディープキス";]
「ふふふ……♥……マスター君はそうされるのが好きだねぇ……♥」
「だけど……私の方も……愛してもらうよ……」
["アオイ"側当機の腰部駆動による性行為サポート......開始;]
[マスターのステータス移行......絶頂;]
[マスター吐精による愛情度上昇.......確認;]
[人工舌によるマスター口内への口淫......終了;]
["アオイ"への提案......ポジションチェンジ;]
「マスター君のこれはたまらないねぇ……レイシーも欲しくなっているようだ♥今度は彼女の番だ」
[マスターの男性器のステータス......勃起継続;]
[マスターのステータス......発情;]
「あぁ……良いよ……今夜も長くなりそうだなぁ」
『感謝します……"アオイ","マスター";』
["レイシー","アオイ","マスター"の幸福度の上昇......確認;]
床の崩落に巻き込まれて無傷で階下に落ちただけなのは幸運としか言えなかったが、壁に手をつけて立ち上がろうとしたのがまずかった
仮にもダンジョンのトラップ解錠で飯を食っている身なのにうかつすぎた
振り向いた先にある一面が黒い壁になにやらつらつらと古代文字が浮かび上がり、その横にある縦置きにされた棺桶のような箱から光が漏れている
周囲に似たようなものがない事を確認し、立ち上がり、ナイフに手を伸ばして距離をとっている間に光が漏れている箇所から煙のようなものは漏れ出し、黒い壁に浮かび上がる古代文字はグレムリンでも読むことはできないような速度で浮かんでは上に流れて消えていっている
やがて古代文字の流れが止まり、箱の中が開いた
[駆動魔力低下によりセーフモードでの起動......OK;]
[言語機能の一時停止......OK;]
[人格データ保護......OK;]
[人格データによる各部操作機能制限......OK;]
[人格データへのカメラ映像の確認制限......OK;]
「なんだい……助手君には起動前に充電はしっかりしておくように言っておいたじゃないか」
[マスターへの緊急充電要求プロトコル......エラー;]
[マスター登録がされていません]
[生体認証者に対してマスター認証しますか?......[Y/N]]
「……YESだ、元々緊急時はあの子にマスター登録してもらう予定だったんだ、どうせシステム上の主従関係だから問題ないだろうし」
[生体認証者に対するマスター認証プロトコル......開始;]
箱の中から出てきたゴーレム……いやオートマトンは直立姿勢で顔だけうつむいた姿勢のままこちらにぎこちない動きで歩み寄ってきた
以前に依頼者とは別のグレムリンから酒の席で聞いたことがある
古代遺跡に眠るオートマトン達は大抵は燃料が切れているので下手に近づいたり魔力を与えなければ動くことはないが、きちんと保管されているタイプの娘は設備が生きている場合があるが燃料が十分であるかどうかは疑わしい
もし主人になるようにお願いされた場合は応えてあげ、燃料補給をしてあげると賃金飯要らずで家事から護衛怪我の治療までしてくれる素晴らしい従者になると
『ユーザ"ケイ"に質問......当機のマスターになってくださいませんか？』
……ソロでの冒険者活動に最近限界を感じてきている所ではあった
鍵開け、トラップ解除などの危機察知系やマッピングに関する技術には自信があるが、それ以外の直接戦闘や緊急時の治療などは苦手だからだ
今回の古代遺跡調査にしても結局は古代文明に対する知識が無くて通用しない箇所も多々あった
その点彼女を従者とすることができれば、少なくともこの遺跡に対する知識は自分よりもあることから調査は進むだろうし、それ以外の面でも今後彼女に前衛を張ってもらえることを考えれば、ソロでは受けられなかった依頼を受けられることもできるだろう
断ることに対するメリットは浮かばず、ここで断るとおそらく彼女の燃料は切れ、偶然ここに来たお人好しが補給をしてあげるまで動くことすらできなくなるだろうと思うと心が痛む
「ユーザ"ケイ"ってのは俺のことで良いのかな……俺で良ければ君のマスターになるよ」
『感謝します......それではマスター認証登録プロトコルを開始します』
この時の自分は3つ失念していた
一つ、彼女の言う「ユーザ"ケイ"」っていうのがどういう意味なのか
一つ、彼女のマスターになるために何をするのかということ
一つ、彼女の燃料が何なのかということを
[生体認証者からのマスター認証合意......OK;]
[マスター認証登録プロトコル......開始;]
「指から皮膚組織の採取だろう、手早くしてくれたまえ」
[人工舌による口内組織及び唾液サンプルの摂取......開始;]
「なんだその機能は！まっ……待て……この味はあぁ♥」
[口内組織及び唾液サンプルの摂取......完了;]
[マスター認証登録......完了;]
「ふぅ♥……起動する前に私が知らない機能が追加されたのか……？ともあれ、あの子に充電設備まで移動させてもらい駆動用魔力を確保せねば」
[著しい魔力低下によりマスターからの緊急補給プロトコル......開始;]
「……人間からの燃料補給？なんだそれは」
[搾精機構及び吸精機構による魔力補給......開始;]
「……私はそんなものは付けた記憶は無いしどういった機構だ」
[マスターの男性器の露出......確認;]
「……なぜそんな事をする必要があるのだ……まさか！」
[マスターの男性器の搾精機構への格納......確認;]
[吸精機構の起動......確認;]
「うぅ♥私はまだ処女だったはず……？……私が女……いやしかしこの感覚は♥」
「んっ♥んっ……」
[マスター吐精による魔力補給.......確認;]
[駆動魔力残量......11%;]
「なんという快楽だ……確かにこれなら常人達が子を成そうと躍起になるのもわかってしまうな……♥」
[指定駆動魔力残量までループを開始......魔力残量を入力[12〜100%];]
「私が十全に動くにはまだまだ足りないし……なによりもっとこの快楽を味わっていたいな……100%だ♥」
[腰部駆動による魔力補給サポート......開始;]
[人工舌でのマスターの口内愛撫魔力補給サポート......開始;]
『マスターからの緊急補給プロトコル......終了;』
『人格データによる各部操作機能制限......終了;』
『人格データに対するカメラ映像の確認制限......終了;』
今まで経験したことのない快楽により何度何度も彼女の膣(?)内に精を吐き出し
甘い霧がかかったような思考も堕ちてしまうんじゃないかと思うようになった後に彼女がキスを終え口を離し、腰を浮かせて俺の男性器を自らの腰から抜いた
そして奇妙な言葉をつぶやいたと同時に彼女のぎこちない動きが変わったように見えた
「ふぅ……これでやっと自由に動けるな……いや……このまま続けていたさはあったが……♥」
今までの事務的で違和感のあるゴーレム属独特の声色とは違い、人間的(？)な言葉で話はじめた
「ようやく私の意思で『おはよう』と言えるね助手君……私を起動する前に当機に知らない機能や機構がモリモリになっているのは一体どういうことか説明して……ん？」
人……いや……魔物が変わったような口調で話し始めた彼女としばし見つめ合う
「一応君のマスターになったはずなんだけど……助手君ってのはどういうことなのかと、君もなんだかキャラ変わってない？」
とりあえず彼女に対して浮かんだ疑問をぶつけてみる
彼女も紫色が浮かぶ瞳をまばたきさせ……首をかしげた
「君は……私の助手のケイ君ではなかったようだ……失礼したねマスター君、そもそもケイ君は女性だった、魔力切れで記憶メモリが破損したかなハッハッハ」
軽く高笑いした彼女に苦笑いを返すと
彼女は再び口を開いた
「私は元々ここの研究所の人間でアオイ・ミキタという者だったよ、オートマトン"レイ"モデルの研究の一環で人格を移す実験をしていてね……当機に人格データ転送してるから完了したら助手のケイ君に起動するように頼んであったはずなんだけどねぇ……データ容量が大きくても流石に長期連休明けには完了してたと思うのだが……」
自分にとっては半分ぐらい理解し難いがアオイはこの遺跡が正常に稼働していた頃の人間で……オートマトンの中に意識を移したという事だろうか
学のない自分には知り得ない領域の話に頭痛が覚えているとアオイは周囲をキョロキョロ見回し始めた
「そういえばマスター君はどうやってここに来たんだい、まさか私をわざわざ起こしに来てくれた王子様なんてことは無いと思うが」
「それとこの部屋の荒廃具合はいったい……決して綺麗とは言えなかったが天井に穴まで空いててこんなに廃墟然まではいってなかったはずだが……」
愉快そうな様子から不安そうな雰囲気と声色に変わる
「天井についてはさっき上の階で俺が踏み抜いてしまったんだ」
「なんだって！？マスター君、大丈夫なのかい？怪我とか打った所はないかい？」
自分の方に気をかけてくれているが、建物について気にがかりな様子も見せている
その姿にいたたまれない気持ちになり自身の知る情報を伝えることにした
ここは遥か昔の時代の遺跡となっている事、自分は冒険者ギルドからの依頼でその調査に来ている事、そしておそらくアオイが生きていた時代とはまったく異なるのであろう事
私の居た時代が古代扱いされている事には驚いた……
[カレンダー機能......エラー;]
["年"の値がオーバーフローを起こしています]
私が生きている間には発生しないだろうと思っていたようなエラーを起こしている以上はそれが現実なのだろう
今は魔王歴とやらが採用されているらしいのでまた後でコーディングしなければ
この体だと自分の意思と自動とで各種アプリケーションを立ち上げられるのは便利だねぇ
とはいえ100年以上は建て替える必要は無いと豪語されてたこの研究棟が本当にそれどころでない年数を経ても建物の形を残しているのは少々驚きである
[記憶領域内に存在する画像とカメラ映像からの経過年数の計測......開始;]
[推定される経過年数は......"エラー"年と推測;]
自分が当たり前に居た時が古代文明扱い、かの時代では物語の中でしか存在しえなかった「冒険者」という役職が当たり前に存在している事実は少し興味深い
私の所有者になるマスター君が冒険者なのであれば私もそういう役割に組み込まれるのだろうか、剣と魔法の時代に科学的な装備で立ち会うなんて浪漫に溢れていて悪くない
……しかし何故マスター君がケイ君での生体認証が通ってしまったのだろうか
心が痛むが過ぎた時を考えるとケイ君というか私の知る人々はおそらくもう骨も残っていないのだろうに……
[ユーザ"ケイ"とユーザ"マスター"の生体情報の比較......開始;]
[合格閾値60%以上一致比較......OK;]
[完全一致比較......NG;]
[ユーザ"ケイ"とユーザ"マスター"はカテゴリ"クローン未満","類似の血縁個体"と推測されます]
……なるほど、彼女の子孫というわけか
マスター君の言動から推測するにここに訪れたのは偶然ではあるが、助手君へ任せた仕事は長い時を経てマスター君へ昇格して果たされたというわけだな
なんともまた浪漫のある話だ
私の時代から見た古代文明の産物であるオートマトンと同一化する浪漫を描いた私にとっては大好物のシチュエーションではないか
オートマトン,モデル"レイ",製造No."C00001"としてだけでなくアオイ・ミキタとして彼に仕えるに値する理由である
十分な長期連休を休ませてもらった分しっかりマスター君の元で働かせてもらおうか
……それにこちらから手を出したとはいえ私を抱いた責任はとってもらいたいし
彼からの"魔力補給"は非常に甘美なのでまた味わわせてもらいたいのである
[魔力残量......99.998%]
[マスターからの緊急補給プロトコル......不要;]
それは分かっている、何も今すぐ欲しいってわけではない
過充電は当機への負荷になるのは理解しているぞ
["緊急魔力放出プロトコル実行時","予備動力駆動時","各部駆動魔力20%未満時"マスターからの魔力補給プロトコル実行推奨]
[また"夜伽プロトコル","魔物妻モード"時にはマスターとの性行が含まれます]
[緊急魔力放出プロトコルを実行しますか?......[Y/N]]
……NOだ
というか最後の2つ、また知らないものが増えているではないか
人格データ"アオイ・ミキタ"としてはまだ不要と思っているが、
オートマトン,モデル"レイ",製造No."C00001"としては彼との接触を望んでいるのかもしれないな
自分からの話を聞いてアオイは「自分の中で整理するから少し待ってくれ」と目を瞑った
その間に身だしなみを整え、彼女の側に腰を降ろし改めて部屋を見回した
崩落した天井とアオイが保管されてた設備の他には乱雑に何かが上においてある長方形の机のような物、本棚、よくわからない板等など自身にとってはわからないものだらけである
腰を降ろしてから1分も経たないうちに再び彼女の目が開かれた
「……納得したよマスター君、君は未来人の旦那様で私は元古代人の愛玩嫁人形というわけだ」
俺と自分を交互に指を差しニコリと微笑んできた
優しげな表情に思わずドキリとしてしまうが
「嫁人形って……」
「おやぁ、この時代の男性は女性の寝込みを襲っても責任をとってくれないのかい？」
「手を出してきたのはアオイの方からじゃ……」
『当機の魔力低下による危機的状況、設備による補給が間に合わないタイミングでの強制起動のため緊急補給プロトコルの実行が不可欠でした』
『つまりは"女性の弱みを握って抱いた"に分類されます;』
「"アオイ"としてだけでなく"レイC00001"としてもマスター君は責任を取るべきだと言っているね」
一言二言、彼女が起きた時と同じような話し方をして多数決のような判断で決められてしまった
魔物の一種でもあるオートマトンを相手に甘い考えをしてしまったという反省点はあるが
自分としてもあれほどの快感を彼女から与えられてしまった以上手放すという選択肢はないが
しかしアオイの話しぶりを考えると人格の移植？を行っていても元々のオートマトンとしての意識は残っているということなのだろうか
「アオイとは別にレイC00001っていう別の意識があるのか？」
「お、私が聞いてほしいことに気づいてくれたねマスター君」
自分の言葉にアオイは話したくて仕方がない学者らしい声色に変わる
表情もどことなく嬉しそうに見える
「君が話している"アオイ"は古代人アオイ・ミキタがオートマトンのモデル"レイ",製造No."C00001"にある記憶領域内の初期人格データを彼自身の人格に移植しているのだ……彼？……まぁいい……そのため当機の人格部分においては"アオイ"であるしそれ以外の部分についてはオートマトンのモデル"レイ",製造No."C00001"のままなんだ、それ故に当機は"アオイ・ミキタ"であり、"レイC00001"であるのだ」
『要約......当機は主が"アオイ・ミキタ"で"レイC00001"がサポートしている二重人格に近いものと思ってください"マスター";』
『基本的な扱いは"アオイ"としてください;』
長々とアオイが難しい話をした後でレイが短くまとめてくれた
多重人格者なのであれば知り合いには居ないが話に聞くキマイラのようなものなのだろう
少しの間彼女との歓談を楽しんでいたがここに来た目的を思い出した
元々彼女がここを利用していたのであればこの遺跡……研究所にも詳しいだろう
今回の依頼ではここの構造把握、地図作成、遺跡の目的把握のいずれかに応じて報酬を上乗せしてもらえる形だ
「そういえばアオイ、この研究所について知りたい」
「もちろん構わないともマスター君、ボロくはなっているがここは我が家みたいなものだからね」
自分としては大体の構造、できれば地図作成ぐらいまで行ければ御の字ぐらいのつもりだったのでとても助かりそうだ
「じゃあ……ここは何するための場所なのかと、構造的なもの……俺自身で途中まで作ってしまったけど地図はあるかな」
自分の言葉に彼女はウンウンと首を縦に振った
「ここの研究所は多数発掘されているオートマトンのモデル"レイ"型の研究及び改善が目的の施設だったね」
アオイのやっていたことも相当変わっていそうであったが、他の人も似たような事をしていたのだろう
「地上5階、地下5階の全10階でここはその最下層といったところか」
オートマトン独特の奇妙な継ぎ目のある両手をパーの形に広げて見せてくる
理知的に見せている彼女らしくない仕草に可愛さを覚えてしまう
「セキュリティの観点から言ったら外部の者に機密情報を渡すのはご法度だが……私のマスター君になったんだから関係者だ、そもそも規制するための法ももう無いだろう」
「マスター君の背中側の壁に地図が……」
アオイが今度は俺の背中の方向に指を差したので振り向いてみると
確かに壁に紙が貼られているようだが……
「見えないぐらいに風化してるねぇ」
かすかに何かが描いてあったんだろうことはわかるが
手に持ったただけでバラバラに成ってしまいそうなぐらいになってしまっていた
『アームプリンター起動......OK;』
『記憶領域内にある地図情報を印刷します......完了;』
「うむ、これが元々の地図だ、崩落してしまった所もあるだろうが……まぁそれなりの価値はあるだろう」
彼女の右前腕が奇妙な音を立てて回転したかと思うと
丁度いい大きさの地図が描かれた紙が出てきた
「ふふん、優秀な従者っぷりだろう褒めてくれてもいいんだぞ」
……オートマトンは人に奉仕するため色々できると聞いていたがこんな芸当もできるとは驚きだ
自慢げな態度を取るアオイと恐らく彼女を手伝ってくれているであろうレイC00001に感謝せねばなるまい
「ありがとうな、"アオイ"、"レイシー"」
「レイシー？」
レイC00001と呼ぶべきかもしれないがC00001の部分は呼ぶには少々長い
愛称のようなイメージで彼女の片側をレイシーと呼ぶことにした
「アオイのもう一つの人格……でいいのかな、"レイC00001"のことはこれから"レイシー"と呼ぶよ」
『"レイC00001"を名称"レイシー"への変更......OK;』
『こちらこそ感謝します"マスター";』
おそらくアオイではなくレイシーとして返事をし、笑みを浮かべてペコリと頭を下げてきた
感謝しているのはこちらだというのに
「なんだか私まで幸せな気持ちになってしまうな……広義で言えば私でもあるから当然といえば当然かもしれないが」
「……まぁいい、マスター君のここでの用事はこれで終わりだね」
彼女の言う通り依頼で必要な要件は全て満たしている
他になにかあるのであればアオイに聞けばいいだろうし想定以上に早く済んだので日が落ちる前に街まで帰れるかもしれない
「マスター君はもう用はないかもしれないが、私は少し使えそうな物があれば持っていきたいのだが良いだろうか」
「もちろん良いよ」
自分の返事を聞くと彼女は机と思われる物の側へ歩いていき、
それの上を漁ったり引き出しのような物を開けたりし始めた
「流石に端末はだめっぽそうだなぁ……ツールキットは案外大丈夫そうだ」
「ぶっつけ本番環境にはなってしまうが、この体なら最悪コーディングもそのままできるか」
「お菓子なんか腐ってる通り越して溶けてしまってるな……期間限定で楽しみにしてたんだがねぇ」
「……この写真は無事なのか……あれ？」
アオイが机の物色をしているのを眺めているのも手持ち無沙汰なので彼女の側まで歩いていく
……というか柔らかそうなお尻をこちら側に向けていたのでまた元気になってしまう前に意識を逸らす
側まで行った時、彼女は何やら比較的無事そうな一枚の絵が描かれている紙を手にして固まっていた
「どうしたんだ？」
「……いや、なんでもないさ、少し古代に思いを馳せていた」
『該当写真の保存......完了;』
「これで問題ない、さぁ未来の世界へ出発しようじゃないかマスター君！」
手にしていた絵を左前腕に当てると先ほどとは逆に回転して収納されていった
そして彼女は俺の手を引き、出口と思われる方へ足を進めた
この写真は元の体の最後の記念にとケイ君と一緒に撮ったもののはずだ
[該当写真被写体......"アオイ・ミキタ博士","ケイ・グレイ研究助手","スリープモードの当機";]
[撮影推定時期......"エラー"年前;]
私はこの体に移る前から女性で独身で……？……異性経験はなかったと記憶している
助手君とはお互いにいい人に出会えないものだと嘆きあったような話もしていたはずだ
[データベース参照......OK;]
["ケイ・グレイ研究助手","女性";]
["アオイ・ミキタ博士","男性";]
……何やら自身の性別について思考を巡らせると違和感があったが
私は元々男性だったのか……？
[記憶領域内人格データ......破損ファイルあり;]
[項目"性別"が破損......初期設定の"女性"が割り振られています;]
[またマスターより名称入力された"魔王の魔力"による影響にてステータス変更不可;]
……まぁいいか
今の私はオートマトンの"アオイ"でマスター君の嫁人形だ
たとえ彼から聞いた魔物化？とやらの影響だったとしても私はマスター君を好いているし
レイシーもそれで良いだろう
[YES;]
私達のこれまではここでおしまいだ
これより当機は古代より蘇りし未来を生きるオートマトンだ
過去を憂う時間も割くメモリももったいない
帰る道すがら他にも眠っているオートマトンが居たり、アオイがなにかのガラクタの前で大げさにショックを受けていたりしたが
大きな問題は無く街まで帰還することができた
依頼主のグレムリンは想定以上の収穫に大層ゴキゲンになり依頼料の他に酒まで奢ってもらった
またアオイと気が合うらしく彼女となにか話し合ったり、彼女の部品を作ったり調整してもらったりしている
依頼主からさらなる調査をお願いされていてちょくちょく足を運んだり何かを運び出したりしている
それでも結局アオイが正しい時代に起きれなかった理由は不明のままだが彼女としては別に構わないのだそうだ
「『当機は"マスター"に仕える従僕であり、それ以上に必要な情報はありません;』」
アオイがレイシーとハモらせて言うぐらいだからそれで良いのだろう
俺の当初の目的通りソロの時以上に受けられる依頼の幅は広がったが、
アオイに必要以上の苦労をかけるのはあまり良い気分でもないし、
彼女達との時間の方が大切なのでそれなりにやっている
[分身薬の摂取による人格データ"アオイ"との物理的分離......OK;]
[カメラ映像での"マスター"及び"当機"の視認......OK;]
「ほぉう、鏡や映像でなく自分を直接見るというのはなんだか不思議な感じだねぇ」
[思考パターン及び各部駆動操作権限の分離......NG;]
[ステータス......"レイシー","アオイ"リンク状態のままでの操作;]
「想定通りレイシーとは分離している感じはあるが……いつものように彼女の声が頭に響いてくる」
「俺にもなんとなくアオイとレイシーで別々なんだって感覚はするけど……」
["魔物妻モード"起動......OK;]
[性行為に必要な各種機能起動......OK;]
『"マスター"......お慕いしております;』
「今日はレイシーから甘えてくるんだな……おいで」
[人工舌によるマスター口内への口淫......開始;]
[人工舌のマスター口内への侵入......OK;]
「先手を打たれたか……なら私はこっちを楽しませてもらうよ」
["アオイ"側当機の搾精機構及び吸精機構の起動......OK;]
[マスターの男性器の搾精機構への格納......確認;]
[マスターへのステータス移行......"騎乗位";]
[マスターの右手が"レイシー"側当機頭部への接触,ステータス移行......"なでなで";]
[マスターの左手が"アオイ"側当機頭部への接触,ステータス移行......"なでなで";]
[幸福度上昇率......平均の2倍;]
「ほぉう……こういう言うのもっ♥感じやすくなるのはいいねぇ」
["アオイ"の操作による"レイシー"側当機の腕部移動......OK;]
[マスターへのステータス移行......"頭部ホールドディープキス";]
「ふふふ……♥……マスター君はそうされるのが好きだねぇ……♥」
「だけど……私の方も……愛してもらうよ……」
["アオイ"側当機の腰部駆動による性行為サポート......開始;]
[マスターのステータス移行......絶頂;]
[マスター吐精による愛情度上昇.......確認;]
[人工舌によるマスター口内への口淫......終了;]
["アオイ"への提案......ポジションチェンジ;]
「マスター君のこれはたまらないねぇ……レイシーも欲しくなっているようだ♥今度は彼女の番だ」
[マスターの男性器のステータス......勃起継続;]
[マスターのステータス......発情;]
「あぁ……良いよ……今夜も長くなりそうだなぁ」
『感謝します……"アオイ","マスター";』
["レイシー","アオイ","マスター"の幸福度の上昇......確認;]
22/03/25 20:57更新 / 錆鐚鎌足