竜騎士になれるまで
数組の竜騎士達に守られながらこちらに手を振るケンタウロス達が駆け回る広大な草原を抜け、世間話をしにくるハーピー達と共に山脈の間を抜け、自分の乗る飛行船は憧れの地、竜皇国ドラゴニアの下層へ着陸した
逸る気持ちを抑えてここまで護衛をしてくれた竜騎士達に礼を述べ足早に退船手続きを済ませる
「そんなにそわそわされて、よっぽど楽しみにされていたのですね、この国の民として嬉しいです」
受付の龍にクスクスと笑われつつも自身の目的を告げると彼女もまるで自身の事かの様に嬉しそうに大きな手でこちらの両手を包み込んだ
「まぁ、その為に遠路はるばるここまでいらしてくれたのですか、貴方も陛下に認められる立派な方になれるよう応援させていただきますね」
暖かい応援に胸を打たれながらも感謝の言葉を述べてその場を去る
あぁ、ついに憧れの竜騎士になれる時が来たのだ
数年前の自分はこの地に足を踏み入れるような事は一切考えていなかった
穏やかな時間の流れる緑明魔界となった故郷で友人達や家族のように愛しい人を見つけ、親の仕事を継いで幸せな時間を過ごすのだろうと考えていた
幼い頃に親魔物領となった故郷の地が好きで、魔物娘達のお陰で発展していく街が好きだった
きっかけはある日街に訪れた行商人の一団
「竜商人」を名乗る彼らは、他の魔物娘の商人達とは大きく違っていた
行商人としてよく見かけるゴブリンや形部狸は一切おらず、構成される魔物娘はワイバーンやドラゴン等のドラゴン属の人達のみ
もちろん荷物を運ぶのは馬車馬や飼いならされた魔界豚ではなく、彼女達竜である
その名に恥じない彼らはドラゴニアという国からやってきて、自らの故郷の良さを広める為に各地を巡っている途中だったそうだ
取り扱う商品もよく見る魔界産の物ではなく、竜に由来しているかのような品々ばかり
ある意味異質とも受け取れるようなそれらに自分はすっかり引き込まれてしまった
竜達が飛び回り、愛を育み、美味しい食べ物や美しい観光地、冒険者を魅了するダンジョンや闘技場
彼ら彼女らの口から出てくる取り扱う商品や土地の説明は興味を引かれるものばかり
そして広告役の吟遊詩人の吹く力強く、心地よさの感じる竜魔笛の音色と、それに合わせて歌う彼の伴侶のワームの紡ぐ物語に魅了されてしまった
かつての暗い歴史を経て建国された人と竜が手を取り合って歩む竜達の理想郷、そしてその中での花形となる竜騎士と騎竜の愛の物語
それは、自分も竜騎士となって騎竜と共に空を駆け巡りたい、共に愛を育みながら魅力的な土地に住んでみたいと思わせるには十分すぎる物語だったのだ
夢を抱いた自分はそれを目指すための道を歩んだ
いつかのためにへばってしまわない様に身体を鍛え
親と話し合い、快諾されてからは路銀稼ぎのために必死で働き
竜商人達から聞いた物だけでなく集められるだけの情報を集めてドラゴニアまでの進路を決め
仲の良かった友人達に別れを告げて旅に出た
人の足ではとても遠い道のりだったが、道行く商人の馬車に乗せてもらい、気の良い魔物娘達に狙われそうになりつつも一時的に共に歩んだり、食料がギリギリで空腹になりながらも道中の街にたどり着いたりと充実した旅だった
そしてドラゴニアの隣国から出ている飛行船の定期便に乗り込み、この地へたどり着いたのだ
「それでは竜騎士訓練生と騎竜候補者の親睦会を始める、各自相棒が決まったら申請するように、我慢できなくなった場合でもこちらで処理するので心配はいらないぞ、今日の残りは自由時間とする為好きにすると良い」
竜騎士団長殿が言葉を告げ、パァンと手を叩くと共に辺りが一気にざわめき出す
訓練生側にはこれから先の竜騎士人生が決まり、騎竜候補側には待ちに待った伴侶が決まるかもしれないのだ、騒がしくなるのも仕方ないことだろう
周りを見ると早くも相棒が決まったのかワームに巻きつかれている者やワイバーンと仲睦まじそうに手を絡ませ騎竜申請に向かう者も見受けられる
訓練生よりも騎竜候補者のが多いと言う話を事前に説明されているのであぶれると言うことは無いだろうが自身も決めなければ
騎竜候補者は今か今かと目を爛々に輝かせて居る茶髪のワイバーンや、にこやかな笑みを浮かべて他の騎竜候補者と談笑する黒髪の龍、よだれを垂らしながらあちらこちらに目移りしているワーム等本当に個性豊かな魔物ばかりである
皆が皆魅力的に映るが故に自分も目移りしながら部屋をウロウロしていると、部屋の端で佇む一人のドラゴンが目に映った
真っ直ぐに天を刺すかのように頭から生えた三本の角、カールがかかりグルグルと巻かれた金髪のロングヘアー、肩から豊満な胸元付近以外を覆う貴族の纏うドレスと騎士が身につける鎧を足したかのような金色の鱗
訓練生達に値踏みするかの視線を向ける彼女がこの部屋の中に居るどの竜よりも魅力的に見えた
真っ直ぐに彼女の方に歩み寄ると、彼女の方もこちらに気がついたのか他の訓練生に向けていたような視線をこちらにも投げかけてきた
「相手がドラゴンだからと怖気づいてはいけない」入団手続きをしている際に教えてもらった言葉を胸に自身の想いを素直に伝えるために手を差し出した
「こんにちは、俺はロン・ミド、貴女がもし良ければ騎竜になってくれませんか」
彼女はもう一度足の爪先から頭の天辺まで舐めるような視線を向けるとニコリと微笑んだ
「ワタクシを選ぶとは中々分かる殿方のようですわ、完璧たるこのワタクシに釣り合うにはまだ足りないとは思うけれども、磨けば光る原石のようなものですわね、完成された宝石も魅力的だけど自らの手で磨き上げた物の方が魅力的に映ると大お祖母様もおっしゃっていましたし、構いませんわ」
そしてふわりと髪をかき上げ、差し出された手を取り、顔を近づけ、騎士が王への誓いをするかのように軽い口付けをする
「5代目ドラグノスたるこのワタクシ、ベアグラム=ドラグノス、貴方の騎竜になりましょう、ワタクシに似合う竜騎士に磨き上げてみせますわ」
顔を上げ、自信満々な笑みを見せる彼女に釣られ思わず自分も口元が緩んだ
はっきり言うとワタクシはまだロンを背中に乗せるつもりはまだありませんわ
体力と槍捌きはドラゴニアへ来るまでの旅で並よりはマシなレベル、知識は無学な者より毛が生えた程度、舌は未だに味の違いがそれほど分かっていない、女性の扱いはまだまだ
……まぁワタクシへの想いは認めますわ
力も知識も財も備えたドラグノス家の現当主たる完璧なワタクシに釣り合っているとは言えませんもの
ワタクシに認めてもらうための努力を惜しまない姿はとても輝いているけれども、凡才である彼の成長速度は微々たるもの
だからこそ手を差し伸べますわ、だからこそワタクシの伴侶となり背に乗るための資格がありますわ
「ロン、そろそろ訓練は切り上げて食事にしますわよ」
ワタクシの声に彼は振り返る
練習用の槍を使った自主訓練を行っていたけれども、彼の姿に疲労の色が見えたのでこれ以上は続けていても効果が次第に薄くなる
このまま付き合ってあげてもいいけれどもワタクシの方から止めてあげないと彼はベストな切り上げ時を見失うだろう
そういう所も含めてまだまだですわね
「了解、今日は何にしようか」
……汗を拭ってこちらに歩いてくるロンの姿が様になっているからってドキドキしてなどいませんわ
美味しそうな匂いとか彼を食べたいとかは思っていませんわ
「昨日はドラゴンステーキを食べましたし、今日はワタクシが特別にシチューとドランスパンを作って差し上げますわ」
ワタクシの言葉に思わずガッツポーズをする彼を見て思わず笑みが溢れる
外食するよりもワタクシの手料理のが美味しいのは当然なのだけれども、彼の好みがこちらに寄ってきた事が嬉しい
「あくまでも頑張っている貴方へのご褒美という事を忘れないように、また食べたいのであれば明日からもワタクシの背に乗るに相応しい殿方になるための努力を続けるのですわよ」
彼の手を取り寮への道を歩き始める
あぁ、この努力の証たるこの手がワタクシの手綱を握る時が待ち遠しいですわ
ベアと手をつなぎ、街を歩く
街の警備訓練と言えば聞こえは良いけれども、いつものように騎竜との仲を深める為の教官達の粋な図らいだ
確かに訓練生といえど警備員の増員にはなるが、それ以上に竜が多く住むこの国、というか城下町では騎竜の乗れない状態ではそれほど役には立たないだろう
騎竜と共に街を見て回り、平和を満喫するだけである
「さて、今日はどこを見て回りますの?また武器屋でドラゴニウム製の槍を眺めるだけなのは勘弁してくださいまし」
どうやら以前にいつか練習用の物から自身の槍に持ち変えた時の参考にと長々と武器屋で眺めていた事を根に持っているらしい
確かに騎竜をおざなりにしてそこまで身になるものでない事をしていたのは悪かったとは反省している
しかし自身満々な彼女だが、構ってもらえないと拗ねたりする所は可愛い所だと思う
「んー、特に決めてないし、この間の件のお詫びも兼ねてベアに任せるよ」
俺の言葉にベアの瞳が獲物を狩る時のそれに変わった様に見え、ゾワリと背筋が震える
口元をニィとつり上げ、俺の手を引いて足早に道を進む
道行く人々や竜形態になっている竜騎士先輩方の騎竜達を避けつつ竜翼通りをしばらく歩き、ワームが男性に巻き付いてキスをしている像の近くの脇道へ入る
大通りの様々な店にもくれず、真っ直ぐと路地裏の方へ向かっていることから目的地の検討がついてしまった
「あー……ベアグラムさん、お昼まだだしパムムでも食べたいかなぁって……駄目だよな……」
ベアは俺の言葉が聞こえていないかのように足を止めず、ずんずんと狭い道を進んでいく
独り身なのか羨ましそうにこちらを眺めるワームや愛を語り合っているリザードマンと男性の脇を通り、埃っぽく光が差さない道が次第に桃色の空気と明かりが漂い始める
「ワタクシに任せるといったのはロンですわよ、腹をくくってくださいまし」
ふいに後ろを振り向いて不敵な笑みを浮かべるベアに思わず苦笑いをする
ここの雰囲気は苦手なので極力寄りたくなかったのだが……
目的地に着き、足を止める
辺りは日中で狭いわけでもないのにもかかわらずぼんやりと薄暗く、濃すぎるが故に霧状になった魔力が漂っている
扇情的な服装をしたワイバーンが客引きを行う娼館やバフォメットが店前で大きな鍋を煮込んで新商品の路上販売をしている媚薬品店、デーモンが見たこともない魔法道具を取り扱っている露天等が軒を連ねている
竜騎士団が警戒というかあまり触れない様にしている地域、竜の寝横丁である
「確かに今の貴方には少々濃い場所ではあるけれども、ワタクシにとっては表の店では物足りない物もありますわ、まだエスコートしろとまでは言わないけれどもせめて隣で堂々としていてくださいまし」
そう言って喜々として媚薬品店の中へ入っていく彼女に遅れないように続く
ベアとの付き合いもそれなりになってきたけれども、彼女に主人として認められるまではまだかかりそうだなぁと心の中でため息を吐いた
温泉に浸かりながらロンの上に跨がり、唇を奪う
「ちゅ……んちゅる……んっ」
彼の舌に甘えるようにゆったりとワタクシの舌を絡み付ける
彼は応える様に背中に腕を回し、隙間が無くなるかの様に密着させる
「ベア……ちゅ……今日はやけに素直だな……れろ」
確かに閨事でもいつもは彼がワタクシの扱いを上手くなれるように導くようにしているけれども、今日はなんだかそんな気持ちがおきませんわ
水神の湯の効能が影響しているのか、今は彼の成長やワタクシ自身のプライドがあまり気にならない
「竜泉郷に居る間は休養すると決めましたもの、何も考えずに愛しい貴方を求めても問題はありませんわ」
彼の腕のワタクシを抱きしめる力がギュッと強くなる
あぁ♥こうして彼に包まれるのは幸せですわ
「なら俺も余計な事は気にせずベアと愛し合わないともったいないな」
今度は彼の方からワタクシの口内に舌を侵入させる
温かい彼の舌が求めてくるのが愛しくて幸福感が身体を駆け回ると同時に物足りなさが集まってくる
ワタクシのお尻に当っている温泉よりも熱く、反り立っている彼の雄が欲しくて堪らない
「そうですわ……今ワタクシ達がすべきことは……お互いの気持ちを確かめ合うことだけですわ♥」
腰を上げ、彼の雄の部分を迎え入れるためにゆっくりと腰を下ろす
ワタクシの入り口と触れ合っただけでも軽く痺れるような甘美な刺激が身体を走るけれども、速度は落とさない
にゅるりと膣内に挿入ってくるのに合わせてゾクゾクと本能的な喜びとビクビクと震えてしまうほどの快楽が沸き起こってくる
全身を駆け巡るこの感覚は彼と出会ってから1日でも味わってない日は無いけれども飽きが来ない、むしろもっと欲しくなる
「うぅ……ふぅ……ベア……愛してる……何があっても逃さないぞ」
愛しい剛直に貫かれる感覚と快楽に翻弄されつつも耳元で囁かれる彼の想いに思考が蕩けていく
あぁ……もっとロンと愛し合いたい、彼の精をこの身に受けたい、ワタクシの愛を彼にぶつけたい
そういった感情に埋め尽くされていく
「ロン……ワタクシも愛していますわ……貴方が欲しくて……いえ……貴方の全てはワタクシのモノですわ……この身体も……貴方の心も……だからこそワタクシは貴方を愛して……ワタクシの全てを受け止める責任があるのですわ♥」
彼が上半身をガッチリと抱きしめながら下から腰を突き上げてくる
こちらも彼に合わせて腰を動かすが、ビリビリと痺れるような快楽が全身を駆け巡り、余裕のない乱暴な動きになる
かろうじて自身が気持ち良くなるよりも彼を気持ち良くさせたい想いのが勝っているので彼が好きな動きに近づけてはいる
「ぅ……あ……ベアのが……吸い付いてきて……もうっ……」
彼の言葉から一拍おいて彼のモノが震えたかと思うと蕩けるような幸福感がお腹の辺りに広がる
ワタクシが作るどの自信作の料理よりも美味に感じる彼の精を受け、もっと欲しいもっと味わいたいと魔物としての本能が鎌首をもたげてくる
あぁ、もはや抑えることなどできませんわ
ここに居るのは家柄に相応しく完璧であり続けようとするドラゴンではなく、何よりも愛しき雄と愛し合う事しか考えていない1匹の雌ですもの
厳粛とした空気の中、俺とベアが並んで歩く
少し離れた所から同期や世話になった先輩や教官が見守ってくれている
部屋の壁には竜騎士団のシンボルが描かれた旗が吊り下げられており、城や街を守る竜騎士達が描かれたステンドグラスが奥で待っている騎士団長殿と女王陛下の背後から光を照らしている
お二方の前まで歩くと団長殿が金色をベースとして赤色の線が絡みつくような模様の槍を持って一歩前へ進んだ
「これよりロン・ミド及び騎竜ベアグラム=ドラグノスを我ら竜騎士団の仲間として正式に迎える」
「君には竜騎士の証でもあり、己が気高き竜と共に歩む証であるこの誓いの竜槍を授けよう」
手渡された槍を受け取り、一礼をすると、団長殿が一歩下がり、陛下がゆらゆらと波打つ炎の様な外套を手に一歩前へ進む
「新たな竜騎士の誕生を祝して私からも贈り物をしよう、私の焔が君の盾となり力となり騎竜との絆を深める事を願っている」
陛下から受け取った外套をベアが俺に掛けてくれたのを確認し、一礼をしてから一歩下がる
俺は左腕を胸に当て、右腕を伸ばしてベアの手を握り、彼女を見つめる
彼女もそれに応えるように左腕を伸ばして俺の手を握り、右手を胸に当て、頷く
「ロン・ミドはドラゴニアと愛しき騎竜に降りかかる厄災を払う槍になる事を誓います」
「ベアグラム=ドラグノスは主人の翼となり愛と焔をもって悪意を焼き払う騎竜になる事を誓いますわ」
「「我々は愛を深め、力を蓄え、ドラゴニアを護る為に尽力する人竜一体の竜騎士となる事をここに誓います(わ)」」
ベアと手を繋いだまま宣誓を述べ、礼をすると辺りから歓声があがる
慈しむような笑みと拍手をしてくれる団長殿と陛下に背を向け、歩き始める
繋いだ手から感じるベアの温もりを離すまいとガッチリ掴んでいると彼女はこちらの顔を覗き込んできた
「ロン、貴方はワタクシの前を……いえ、ワタクシの隣を歩くに相応しい殿方になったと思いますわ、今夜……というよりもこの後の閨事はエスコートしてくださいまし♥」
満面の笑みを浮かべて早くここを出て自室に戻ろうと急かす彼女に軽くキスをし、彼女の背中と足を抱える……所謂お姫様抱っこをして赴任式の場を去った
逸る気持ちを抑えてここまで護衛をしてくれた竜騎士達に礼を述べ足早に退船手続きを済ませる
「そんなにそわそわされて、よっぽど楽しみにされていたのですね、この国の民として嬉しいです」
受付の龍にクスクスと笑われつつも自身の目的を告げると彼女もまるで自身の事かの様に嬉しそうに大きな手でこちらの両手を包み込んだ
「まぁ、その為に遠路はるばるここまでいらしてくれたのですか、貴方も陛下に認められる立派な方になれるよう応援させていただきますね」
暖かい応援に胸を打たれながらも感謝の言葉を述べてその場を去る
あぁ、ついに憧れの竜騎士になれる時が来たのだ
数年前の自分はこの地に足を踏み入れるような事は一切考えていなかった
穏やかな時間の流れる緑明魔界となった故郷で友人達や家族のように愛しい人を見つけ、親の仕事を継いで幸せな時間を過ごすのだろうと考えていた
幼い頃に親魔物領となった故郷の地が好きで、魔物娘達のお陰で発展していく街が好きだった
きっかけはある日街に訪れた行商人の一団
「竜商人」を名乗る彼らは、他の魔物娘の商人達とは大きく違っていた
行商人としてよく見かけるゴブリンや形部狸は一切おらず、構成される魔物娘はワイバーンやドラゴン等のドラゴン属の人達のみ
もちろん荷物を運ぶのは馬車馬や飼いならされた魔界豚ではなく、彼女達竜である
その名に恥じない彼らはドラゴニアという国からやってきて、自らの故郷の良さを広める為に各地を巡っている途中だったそうだ
取り扱う商品もよく見る魔界産の物ではなく、竜に由来しているかのような品々ばかり
ある意味異質とも受け取れるようなそれらに自分はすっかり引き込まれてしまった
竜達が飛び回り、愛を育み、美味しい食べ物や美しい観光地、冒険者を魅了するダンジョンや闘技場
彼ら彼女らの口から出てくる取り扱う商品や土地の説明は興味を引かれるものばかり
そして広告役の吟遊詩人の吹く力強く、心地よさの感じる竜魔笛の音色と、それに合わせて歌う彼の伴侶のワームの紡ぐ物語に魅了されてしまった
かつての暗い歴史を経て建国された人と竜が手を取り合って歩む竜達の理想郷、そしてその中での花形となる竜騎士と騎竜の愛の物語
それは、自分も竜騎士となって騎竜と共に空を駆け巡りたい、共に愛を育みながら魅力的な土地に住んでみたいと思わせるには十分すぎる物語だったのだ
夢を抱いた自分はそれを目指すための道を歩んだ
いつかのためにへばってしまわない様に身体を鍛え
親と話し合い、快諾されてからは路銀稼ぎのために必死で働き
竜商人達から聞いた物だけでなく集められるだけの情報を集めてドラゴニアまでの進路を決め
仲の良かった友人達に別れを告げて旅に出た
人の足ではとても遠い道のりだったが、道行く商人の馬車に乗せてもらい、気の良い魔物娘達に狙われそうになりつつも一時的に共に歩んだり、食料がギリギリで空腹になりながらも道中の街にたどり着いたりと充実した旅だった
そしてドラゴニアの隣国から出ている飛行船の定期便に乗り込み、この地へたどり着いたのだ
「それでは竜騎士訓練生と騎竜候補者の親睦会を始める、各自相棒が決まったら申請するように、我慢できなくなった場合でもこちらで処理するので心配はいらないぞ、今日の残りは自由時間とする為好きにすると良い」
竜騎士団長殿が言葉を告げ、パァンと手を叩くと共に辺りが一気にざわめき出す
訓練生側にはこれから先の竜騎士人生が決まり、騎竜候補側には待ちに待った伴侶が決まるかもしれないのだ、騒がしくなるのも仕方ないことだろう
周りを見ると早くも相棒が決まったのかワームに巻きつかれている者やワイバーンと仲睦まじそうに手を絡ませ騎竜申請に向かう者も見受けられる
訓練生よりも騎竜候補者のが多いと言う話を事前に説明されているのであぶれると言うことは無いだろうが自身も決めなければ
騎竜候補者は今か今かと目を爛々に輝かせて居る茶髪のワイバーンや、にこやかな笑みを浮かべて他の騎竜候補者と談笑する黒髪の龍、よだれを垂らしながらあちらこちらに目移りしているワーム等本当に個性豊かな魔物ばかりである
皆が皆魅力的に映るが故に自分も目移りしながら部屋をウロウロしていると、部屋の端で佇む一人のドラゴンが目に映った
真っ直ぐに天を刺すかのように頭から生えた三本の角、カールがかかりグルグルと巻かれた金髪のロングヘアー、肩から豊満な胸元付近以外を覆う貴族の纏うドレスと騎士が身につける鎧を足したかのような金色の鱗
訓練生達に値踏みするかの視線を向ける彼女がこの部屋の中に居るどの竜よりも魅力的に見えた
真っ直ぐに彼女の方に歩み寄ると、彼女の方もこちらに気がついたのか他の訓練生に向けていたような視線をこちらにも投げかけてきた
「相手がドラゴンだからと怖気づいてはいけない」入団手続きをしている際に教えてもらった言葉を胸に自身の想いを素直に伝えるために手を差し出した
「こんにちは、俺はロン・ミド、貴女がもし良ければ騎竜になってくれませんか」
彼女はもう一度足の爪先から頭の天辺まで舐めるような視線を向けるとニコリと微笑んだ
「ワタクシを選ぶとは中々分かる殿方のようですわ、完璧たるこのワタクシに釣り合うにはまだ足りないとは思うけれども、磨けば光る原石のようなものですわね、完成された宝石も魅力的だけど自らの手で磨き上げた物の方が魅力的に映ると大お祖母様もおっしゃっていましたし、構いませんわ」
そしてふわりと髪をかき上げ、差し出された手を取り、顔を近づけ、騎士が王への誓いをするかのように軽い口付けをする
「5代目ドラグノスたるこのワタクシ、ベアグラム=ドラグノス、貴方の騎竜になりましょう、ワタクシに似合う竜騎士に磨き上げてみせますわ」
顔を上げ、自信満々な笑みを見せる彼女に釣られ思わず自分も口元が緩んだ
はっきり言うとワタクシはまだロンを背中に乗せるつもりはまだありませんわ
体力と槍捌きはドラゴニアへ来るまでの旅で並よりはマシなレベル、知識は無学な者より毛が生えた程度、舌は未だに味の違いがそれほど分かっていない、女性の扱いはまだまだ
……まぁワタクシへの想いは認めますわ
力も知識も財も備えたドラグノス家の現当主たる完璧なワタクシに釣り合っているとは言えませんもの
ワタクシに認めてもらうための努力を惜しまない姿はとても輝いているけれども、凡才である彼の成長速度は微々たるもの
だからこそ手を差し伸べますわ、だからこそワタクシの伴侶となり背に乗るための資格がありますわ
「ロン、そろそろ訓練は切り上げて食事にしますわよ」
ワタクシの声に彼は振り返る
練習用の槍を使った自主訓練を行っていたけれども、彼の姿に疲労の色が見えたのでこれ以上は続けていても効果が次第に薄くなる
このまま付き合ってあげてもいいけれどもワタクシの方から止めてあげないと彼はベストな切り上げ時を見失うだろう
そういう所も含めてまだまだですわね
「了解、今日は何にしようか」
……汗を拭ってこちらに歩いてくるロンの姿が様になっているからってドキドキしてなどいませんわ
美味しそうな匂いとか彼を食べたいとかは思っていませんわ
「昨日はドラゴンステーキを食べましたし、今日はワタクシが特別にシチューとドランスパンを作って差し上げますわ」
ワタクシの言葉に思わずガッツポーズをする彼を見て思わず笑みが溢れる
外食するよりもワタクシの手料理のが美味しいのは当然なのだけれども、彼の好みがこちらに寄ってきた事が嬉しい
「あくまでも頑張っている貴方へのご褒美という事を忘れないように、また食べたいのであれば明日からもワタクシの背に乗るに相応しい殿方になるための努力を続けるのですわよ」
彼の手を取り寮への道を歩き始める
あぁ、この努力の証たるこの手がワタクシの手綱を握る時が待ち遠しいですわ
ベアと手をつなぎ、街を歩く
街の警備訓練と言えば聞こえは良いけれども、いつものように騎竜との仲を深める為の教官達の粋な図らいだ
確かに訓練生といえど警備員の増員にはなるが、それ以上に竜が多く住むこの国、というか城下町では騎竜の乗れない状態ではそれほど役には立たないだろう
騎竜と共に街を見て回り、平和を満喫するだけである
「さて、今日はどこを見て回りますの?また武器屋でドラゴニウム製の槍を眺めるだけなのは勘弁してくださいまし」
どうやら以前にいつか練習用の物から自身の槍に持ち変えた時の参考にと長々と武器屋で眺めていた事を根に持っているらしい
確かに騎竜をおざなりにしてそこまで身になるものでない事をしていたのは悪かったとは反省している
しかし自身満々な彼女だが、構ってもらえないと拗ねたりする所は可愛い所だと思う
「んー、特に決めてないし、この間の件のお詫びも兼ねてベアに任せるよ」
俺の言葉にベアの瞳が獲物を狩る時のそれに変わった様に見え、ゾワリと背筋が震える
口元をニィとつり上げ、俺の手を引いて足早に道を進む
道行く人々や竜形態になっている竜騎士先輩方の騎竜達を避けつつ竜翼通りをしばらく歩き、ワームが男性に巻き付いてキスをしている像の近くの脇道へ入る
大通りの様々な店にもくれず、真っ直ぐと路地裏の方へ向かっていることから目的地の検討がついてしまった
「あー……ベアグラムさん、お昼まだだしパムムでも食べたいかなぁって……駄目だよな……」
ベアは俺の言葉が聞こえていないかのように足を止めず、ずんずんと狭い道を進んでいく
独り身なのか羨ましそうにこちらを眺めるワームや愛を語り合っているリザードマンと男性の脇を通り、埃っぽく光が差さない道が次第に桃色の空気と明かりが漂い始める
「ワタクシに任せるといったのはロンですわよ、腹をくくってくださいまし」
ふいに後ろを振り向いて不敵な笑みを浮かべるベアに思わず苦笑いをする
ここの雰囲気は苦手なので極力寄りたくなかったのだが……
目的地に着き、足を止める
辺りは日中で狭いわけでもないのにもかかわらずぼんやりと薄暗く、濃すぎるが故に霧状になった魔力が漂っている
扇情的な服装をしたワイバーンが客引きを行う娼館やバフォメットが店前で大きな鍋を煮込んで新商品の路上販売をしている媚薬品店、デーモンが見たこともない魔法道具を取り扱っている露天等が軒を連ねている
竜騎士団が警戒というかあまり触れない様にしている地域、竜の寝横丁である
「確かに今の貴方には少々濃い場所ではあるけれども、ワタクシにとっては表の店では物足りない物もありますわ、まだエスコートしろとまでは言わないけれどもせめて隣で堂々としていてくださいまし」
そう言って喜々として媚薬品店の中へ入っていく彼女に遅れないように続く
ベアとの付き合いもそれなりになってきたけれども、彼女に主人として認められるまではまだかかりそうだなぁと心の中でため息を吐いた
温泉に浸かりながらロンの上に跨がり、唇を奪う
「ちゅ……んちゅる……んっ」
彼の舌に甘えるようにゆったりとワタクシの舌を絡み付ける
彼は応える様に背中に腕を回し、隙間が無くなるかの様に密着させる
「ベア……ちゅ……今日はやけに素直だな……れろ」
確かに閨事でもいつもは彼がワタクシの扱いを上手くなれるように導くようにしているけれども、今日はなんだかそんな気持ちがおきませんわ
水神の湯の効能が影響しているのか、今は彼の成長やワタクシ自身のプライドがあまり気にならない
「竜泉郷に居る間は休養すると決めましたもの、何も考えずに愛しい貴方を求めても問題はありませんわ」
彼の腕のワタクシを抱きしめる力がギュッと強くなる
あぁ♥こうして彼に包まれるのは幸せですわ
「なら俺も余計な事は気にせずベアと愛し合わないともったいないな」
今度は彼の方からワタクシの口内に舌を侵入させる
温かい彼の舌が求めてくるのが愛しくて幸福感が身体を駆け回ると同時に物足りなさが集まってくる
ワタクシのお尻に当っている温泉よりも熱く、反り立っている彼の雄が欲しくて堪らない
「そうですわ……今ワタクシ達がすべきことは……お互いの気持ちを確かめ合うことだけですわ♥」
腰を上げ、彼の雄の部分を迎え入れるためにゆっくりと腰を下ろす
ワタクシの入り口と触れ合っただけでも軽く痺れるような甘美な刺激が身体を走るけれども、速度は落とさない
にゅるりと膣内に挿入ってくるのに合わせてゾクゾクと本能的な喜びとビクビクと震えてしまうほどの快楽が沸き起こってくる
全身を駆け巡るこの感覚は彼と出会ってから1日でも味わってない日は無いけれども飽きが来ない、むしろもっと欲しくなる
「うぅ……ふぅ……ベア……愛してる……何があっても逃さないぞ」
愛しい剛直に貫かれる感覚と快楽に翻弄されつつも耳元で囁かれる彼の想いに思考が蕩けていく
あぁ……もっとロンと愛し合いたい、彼の精をこの身に受けたい、ワタクシの愛を彼にぶつけたい
そういった感情に埋め尽くされていく
「ロン……ワタクシも愛していますわ……貴方が欲しくて……いえ……貴方の全てはワタクシのモノですわ……この身体も……貴方の心も……だからこそワタクシは貴方を愛して……ワタクシの全てを受け止める責任があるのですわ♥」
彼が上半身をガッチリと抱きしめながら下から腰を突き上げてくる
こちらも彼に合わせて腰を動かすが、ビリビリと痺れるような快楽が全身を駆け巡り、余裕のない乱暴な動きになる
かろうじて自身が気持ち良くなるよりも彼を気持ち良くさせたい想いのが勝っているので彼が好きな動きに近づけてはいる
「ぅ……あ……ベアのが……吸い付いてきて……もうっ……」
彼の言葉から一拍おいて彼のモノが震えたかと思うと蕩けるような幸福感がお腹の辺りに広がる
ワタクシが作るどの自信作の料理よりも美味に感じる彼の精を受け、もっと欲しいもっと味わいたいと魔物としての本能が鎌首をもたげてくる
あぁ、もはや抑えることなどできませんわ
ここに居るのは家柄に相応しく完璧であり続けようとするドラゴンではなく、何よりも愛しき雄と愛し合う事しか考えていない1匹の雌ですもの
厳粛とした空気の中、俺とベアが並んで歩く
少し離れた所から同期や世話になった先輩や教官が見守ってくれている
部屋の壁には竜騎士団のシンボルが描かれた旗が吊り下げられており、城や街を守る竜騎士達が描かれたステンドグラスが奥で待っている騎士団長殿と女王陛下の背後から光を照らしている
お二方の前まで歩くと団長殿が金色をベースとして赤色の線が絡みつくような模様の槍を持って一歩前へ進んだ
「これよりロン・ミド及び騎竜ベアグラム=ドラグノスを我ら竜騎士団の仲間として正式に迎える」
「君には竜騎士の証でもあり、己が気高き竜と共に歩む証であるこの誓いの竜槍を授けよう」
手渡された槍を受け取り、一礼をすると、団長殿が一歩下がり、陛下がゆらゆらと波打つ炎の様な外套を手に一歩前へ進む
「新たな竜騎士の誕生を祝して私からも贈り物をしよう、私の焔が君の盾となり力となり騎竜との絆を深める事を願っている」
陛下から受け取った外套をベアが俺に掛けてくれたのを確認し、一礼をしてから一歩下がる
俺は左腕を胸に当て、右腕を伸ばしてベアの手を握り、彼女を見つめる
彼女もそれに応えるように左腕を伸ばして俺の手を握り、右手を胸に当て、頷く
「ロン・ミドはドラゴニアと愛しき騎竜に降りかかる厄災を払う槍になる事を誓います」
「ベアグラム=ドラグノスは主人の翼となり愛と焔をもって悪意を焼き払う騎竜になる事を誓いますわ」
「「我々は愛を深め、力を蓄え、ドラゴニアを護る為に尽力する人竜一体の竜騎士となる事をここに誓います(わ)」」
ベアと手を繋いだまま宣誓を述べ、礼をすると辺りから歓声があがる
慈しむような笑みと拍手をしてくれる団長殿と陛下に背を向け、歩き始める
繋いだ手から感じるベアの温もりを離すまいとガッチリ掴んでいると彼女はこちらの顔を覗き込んできた
「ロン、貴方はワタクシの前を……いえ、ワタクシの隣を歩くに相応しい殿方になったと思いますわ、今夜……というよりもこの後の閨事はエスコートしてくださいまし♥」
満面の笑みを浮かべて早くここを出て自室に戻ろうと急かす彼女に軽くキスをし、彼女の背中と足を抱える……所謂お姫様抱っこをして赴任式の場を去った
16/11/21 20:44更新 / 錆鐚鎌足