隣接部屋のOLドラゴンと大学生の夏のある金曜日
講義も終わり、今日はバイトもないので買い物だけをして帰ってきた
華の金曜日……プレミアムフライデー……金玉キラキラ金曜日……ブラックフライデー……いくつか変なものは混ざっているけれど、次の日から休みの金曜日というのは胸が踊る
気分もいいので6缶パックのビールも買ってきた……今日一人で全て飲むわけでなはいが備蓄がないわけではないのに買ってしまったのは余分な出費かもとアパートまでの帰路で思ったが、今日は金曜日で気分が良いので気にしないこととする
時間は夜に差し掛かる時間というにはまだまだ早く、時期によっては既に太陽が沈んでいるであろう時間だが、日中の殺人的な太陽光によりおおよそ人が生きられないであろうレベルまで室温があげられているのでエアコンの冷房を付け、買ってきたものを冷蔵庫に放り込む
実家に居た頃ならば親に急かされ夕飯の支度をしてそのまま食べていたところだが、一人暮らしの大学生は一国一城の主、好きなときに食事を取るということで冷蔵庫に入れられた新入りは生存時間が伸びるのである
部屋に鎮座するPCの電源を入れ、ズドンと椅子に座り、ヘッドセットを被り、最近買ったゲームの世界に意識を向けて部屋の暑さも外からのセミの鳴き声も遠ざかっていく
ピロンとPCとスマホの両方に入っている連絡用アプリ通知音が耳に入り、PC画面のポップアップから内容を確認し、現実世界に意識を戻す
既に部屋の外の世界からは太陽が消えているだろう時間になっていた
若干凝ってしまった体を伸ばし、立ち上がり、キッチンに足を向ける
冷蔵庫から中ぐらいのじゃがいもを二個……いや三個取り出し、若干残っている土を洗い流しながら愛用しているピーラーでショリショリ皮を剥き、芽と周辺もしっかり取っておく、まだまだ新鮮な芋なので大きな問題はないかもしれないが自分はそういうところは気にするタイプなのである
ある程度の大きさに切って耐熱皿に乗せてしばらく電子レンジと仲良くしてもらう
芋ができるまでのスキマ時間を有効活用する、できる男なので
これまた大きめなしいたけを買ってこれたのでこのコを使う、キッチンペーパーで軽くヒダの部分を拭き、軸を切落し、アルミホイルの上に乗せたところで味付けをどうするか思案
今日はビールなので無難に塩コショウのみで良いんじゃないかと俺A氏が提案するが、じゃがいもの使い道を考えると同じタイプの味付けになるのでオリーブオイルを使って洋風すべきだと俺B氏が反論を述べる
間に割って入った「焼きしいたけは醤油」という天啓に従い、軽く醤油を垂らしオーブントースターに放り込んでツマミをぐりっと、後で生姜を忘れないようにせねば
実はじゃがいもと同じく冷蔵庫から取り出していた大きな玉ねぎの頭とおしりを刈り取ってムシムシと皮を剥いて軽く水洗い
まな板に立ったと思ったところで一刀両断し、横に寝かせて細切り、小さい方が火の通りが良くなるのと多く見えるのが好み
一人暮らしには大きいんじゃないのと思われるが、炒める以外にも色々できるのでこいつがあればだいたいなんとかなると思ってる相棒のフライパンに少なめのサラダ油を流し込み、中火で加熱し玉ねぎを放り込み、心地いい音を聞きながらガシガシと炒める
玉ねぎに油が馴染んで火が通りテカリが出てきたあたりで少し前からまだかまだかと呼び出し音を鳴らしている電子レンジ君から耐熱皿を取り上げ中身の芋君を玉ねぎ君と合流させる
これで味を整えて完成!とするのもいいけれども、ここで取り出したるは秘密兵器のコンビーフ
塩気が濃い目の素敵な牛さんをパーティに加えればタンパク質も補給されて満足感が更にアップするという目論見である
フライパンの大事な中身が焦げてしまわないうちにコンビーフを缶から取り出し仲間入りさせてほぐしていく
全体的になじんだところで完成しても良いのだが、今回はご飯のおかずではなくビールの肴にすることを思い出し、全体的に黒こしょうを散らしていく、コイツがいれば対ビール特攻のバフが入ると信じているのだ
完成した玉ねぎとじゃがいもとコンビーフのキメラを皿に流し込み、先に完成していい匂いを漂わせている焼きしいたけも救出し別の皿に並べて端に生姜をチューブからにゅっと出して、2つの小皿に醤油を張る
準備した4つの皿と二膳の箸をお盆に乗せたところで思い出す、玉ねぎを炒めるフェーズまでにんにくを入れるのを忘れていたと
今日は金曜日なのだ、匂いを気にせずモリモリにんにくを足すべきだった、パーフェクトな男になりきれなかったと後悔が襲いかかるがこの後の事を考えるとまぁそれでも良かったんじゃないかと開き直る
皿の大きさから気持ちずっしり来るお盆を持ち上げ、リビングのテーブルの方……ではなく玄関の方に向かって歩く
そのまま外に出て片手でお盆をプルプルと保持しながら鍵をかける、ビールを取りに戻る事を考えると面倒感はあるが、実家のようなノーガードでも問題無い田舎ではないので防犯は大事
そのまま右隣の部屋前まで歩いていき、また片手をプルプルさせながら、自室のではない鍵を使って解錠し中に入る
今回も落とさなくて良かったと思いつつも部屋の中に入ると、これが夏パワーだと思い知ってしまうような熱気に包まれている
「ちょっと、またエアコンつけてないじゃないすか」
「ん?あぁすまない、向こうの世界の火山に住んでた時より全然快適なものでね、忘れていた」
部屋の主はすっかり失念していたといった様子でリモコンに手を伸ばし文明の利器を起動した
そりゃあそんな過酷な環境に比べるとリゾート気分ぐらいの感覚かもしれないが、彼女と違ってこちらはまだ人間なので呑気に酒盛りできるほど暑さ耐性があるわけではないのだ
「む、今日のも美味しそうだ、この醤油は……このきのこにつけて食べれば良いのだな」
「そうっす、ビール取ってくるんで先に食べててもいいっすよ」
自室と同じ間取りのリビングまで慣れた感じで歩き、中央に鎮座するテーブルにお盆に乗ってたつまみを乗せていく
その傍らにある椅子にリラックスした様子で座っている部屋主は先のやり取りの通り人間ではない
「いや、どうせ隣の部屋なんだ、それぐらいは待つよ、君と一緒に食べ始めた方がきっと美味しい」
「うい、じゃあチャッと持ってきますね」
胸元に余裕のなさを感じる紺色の夏用インナーと膝までの長さのスウェットパンツなのは仕事帰りのOLとしては納得の行く服装だが
手足は爬虫類のそれのように真紅色の鱗に覆われ先端部には熊も逃げ出すぐらいの爪が備えられ、同じく燃えるような色をしている人の腕よりも太く長い尻尾がご機嫌そうにゆらりゆらりと揺れ、背中から生えている力強そうな翼は尻尾と同じく彼女の機嫌を表している、彼女に似合った鱗よりも深くもはや黒に近い赤色のロングなストレートヘアを備えた頭頂部からは一対の角が生えている
彼女はドラゴンである
今となってはさほど珍しくもない、自室と彼女のこの部屋のように隣り合った世界からやって来たという魔王の眷属たる魔物の一人で、彼女の場合は向こうの世界で野生のドラゴンらしく生きていたのに飽きてこちらにやってきて、今では最寄り駅から二区間離れた場所の近くにある会社でOLをやっているそうだ、その戦場での彼女の正装たるシャツとスラックスが部屋の片隅に脱ぎ捨てられているのが見えてしまった
「スーツ、シワついちゃうしさっさと洗うか洗わないならハンガーにかけといた方がいいっすよ」
「どうにも窮屈でな、帰ってきたらこうしてやりたくなるんだ、まぁ酒を取りに行ってもらってる間に片付けるさ」
だらけている様子を見るにそれも怪しいと思いつつ部屋に戻ることとする
彼女の正装が正位置に戻っている可能性は二分の一、戻っていない方に今日のビールの一本をかけようか
想定通りツマミはビールが進み、彼女の舌にもあったらしく色々な感嘆符を交えつつ自分と同じく缶ビールとツマミを交互に口に運んでいる
クール系な彼女の整った顔がニコニコとして嬉しそうに食べている様子を見ると作った甲斐があるというものだ
「そういえば前から聞きたかったんすが、持ってた財宝の一部換金してるからお金には困ってないって話だけどどうしてこっちに来てわざわざ働いてるんすか」
「んー……そうだなぁ……向こうでの暮らしも嫌いではなかったが、こっちの『人間の暮らし』ってのに興味が湧いてやってみることにしたって感じだろうか」
大きい手には小さすぎるようにも思える自分のと対になってる夫婦箸の片割れを慣れた手つきで操り、生姜を乗せて醤油を垂らしたしいたけを口に運び、ビールを流し込む
はふぅと息を吐く動作にも色気を感じつつも、思いつきのような理由で国外どころか世界も飛び出してきた彼女に感心する
「そんな理由で始めて働けてるってのもすごいっすねぇ、実際にやってみてどんなもんです?」
自分もコンビーフと黒こしょうがまばらに乗っているじゃがいもを口に運び、塩気と刺激が消えないうちにビールで洗い流す、我ながら上手くできている
彼女との2人分で考えるのであればもう少し量を増やしても良かったかもしれないとほとんどなくなってきているツマミを見て思ったが、今回持ってきたビールの残りが二人が片手に持っている分しか無いことからこれで良かったのだろう
「仕事自体は悪くない、それなりのやり甲斐と忙しさに同僚とも関係も良好だ……」
「が……通勤の電車は好かん、人魔が多すぎるし翼も伸ばせないし通勤の距離なら自ら飛んだ方が楽だ、人に倣うならばと最初の数ヶ月は我慢したがいつぞや見たくまともに飛べなくなった時以外は乗りたくない」
不満を漏らしてツマミの残りを一気に平らげビールの残りをキューっと流し込む姿と彼女とこうして飲むようになったきっかけの日の姿を思い出して自然と苦笑いが浮かんでくる
そういえばあの時も金曜日だったなと思い出す
「まぁこちらで生活するようになって良いことは沢山ある、娯楽は豊富で色々と新鮮な知識を仕入れることができ、あちらでは食べることはなかったであろう飯も美味い」
「そして何より君と出会えてこうして酒を酌み交わすことができるようになったからな……っともう飲みきってしまっていたか、ごちそうさまだな」
再び缶に口を付けてようやく空になっていたことに気がついた彼女のお茶目さに笑みがこぼれるが、自分の分のビールも一気に飲みきり立ち上がる
「お粗末様でした、じゃあサクっと片付けて来ますね」
「あぁ、ちゃんと『また来る』んだぞ、あぁそれとこれは今日の宴代だ、受け取ってくれ」
彼女の瞳の奥に妖しいものというか獲物を見据えている様子に気が付き本能的な少し怖気を感じるが、彼女が何も無い空間に開いた穴のようなものに手を突っ込んで取り出し、お盆の端のほうに雑に置かれた紙幣の桁と枚数にぎょっとする
「いやいや、流石にこれは高すぎるっすよ、こっちに来てそれなりに経ってるから飲食代とか材料費とかの相場は知ってますよね」
「我は君との時間、食事に最低これだけの価値を感じているからな、少ないぐらいだ」
「多いと思うなら……うむ……そうだなこの後の時間の代金も入っているとでも思ってくれ」
厭らしい笑みを浮かべる彼女にはこれ以上反論を述べても聞かないだろうし、あまり待たせて襲われるとなると最悪これらの片付けが週明けになってもおかしくなくなると考えると先程自分が言った通りサクっと片付けてしまいたい
そう思いすっかり軽くなったけど乗っている価値は重くなってしまったお盆を持ち上げ、自分の部屋に向かった
彼女とこうして酒盛りをするきっかけになった日を思い返す
暑さの和らいだ頃のコンビニバイト上がり、夜番の2つ上の人に今回も連絡事項はなかったといつも通りの引き継ぎを行った日
夕飯はバイト前の早めに済ませてしまった分空腹感があるので軽いツマミでも作ってお酒で流し込んでやろうかと企みながらアパートにたどり着くと、自分の部屋の前でなにかが扉に向かって何かをしているシルエットを見てしまった
『なにか』というのも背丈は人ほどではあるのだが、明らかに人には無い部位がついているからだ
叫び声をあげそうになりそうなのを抑えて目を凝らすとビビリ散らすような怪異ではないことに気がついた
共用部の天井からの明かりに照らされている人外の存在はどう見ても自分の部屋の隣に住んでいるドラゴンのシャルさんだ
時々ゴミ捨てのタイミングが被ったりすると挨拶や軽い雑談を交わす程度の仲なのでどうして自分の部屋の扉にと思いながらも近づくと、彼女の顔が己の鱗のように赤らんでいて、ガチャガチャと自分の部屋のものと思われる鍵を入れたり出したり回せなさそうにしている
どうやら酔っ払っているようだ
「んむぅ……どうして開かぬ……鍵はこれしか無いのだぞ……」
「シャルさん……そこは自分の部屋ですよ……」
美しいし嫌いというか好ましい部類の魔物が相手でも酔っ払っている状態では相手はしたくないのだが、自室の前というか扉を占拠されてしまっているのであればどうしようもない
「何を言っている……ここは……我の部屋……宝物庫だ……」
「いかにイサム君といえど……竜の寝床に無断で立ち入るのは……向こうの世界の盗人と変わらんぞ……」
赤らんだ顔で威圧的な言葉を投げつけられるも酔っ払いの言葉である、それに間違えているのは彼女である以上こちらの方に理があるのだバイト先での厄介客に遭遇したときのことを考えるとまだましな方だ
「シャルさん、それは自分の部屋ですって、その鍵だと合わないし……この鍵だと……ほら開きました」
フラフラする彼女を適当になだめつつどかし、自分の鍵で解錠する
元の世界では野生の暮らしをしていたと聞いているのでこのまま共用部で寝転がっていても平気だろうが、酔っているとはいえ知っている魔物がそんな状態になってしまうと思うと心苦しさは出てしまうため、彼女を自分の部屋に誘導するぐらいはすべきだろうとは思いどうやって諭そうかと思ったところで不意に視界の高さが変わる
「イサム君……鍵を複製してまでそんなに我が寝床に来たかったのか……その剛胆さは気に入った……うむ、我が宝物庫に入る価値はあるな」
「えっ……ちょっと……シャルさん……?」
「今日はたらふく飲んで気分も良い!それに新たな……いや今までにはなかった至上の宝が飛び込んで来てくれた!とても良き日だ!」
彼女はいわゆるお姫様抱っこの形で軽く自分を持ち上げ、解錠された扉の中に我が物顔で入っていく
すぐそこにある彼女のから発せられる匂いや息遣いは酒臭いというよりも、おそらく魔物としての甘ったるい果実のような香りにお酒の匂いが混ざっているような感じであり長時間包まれてしまうと酔ってしまうというかアルコールではなく彼女に酔ってしまいそうな感じもしている
酔っていようが慣れた手つきで水のような物を魔法で作り鱗と力強さを感じる爪が生えた足をさっと拭い、自分の靴を無理やり剥がして玄関に放り投げ、そこにあることを知っているかのような迷いのない千鳥足で自分のベッドのあるところまで歩き、今までにない丁寧さで自分をベッドに下ろし、雑にスーツを脱ぎ捨てた彼女は自分の上にのしかかった
「ふふふ……早速この宝を堪能せねばなぁ……」
「あぁもう……初めてなんでお手柔らかにお願いしますよ……」
魔物に獲物判定されたら逃げるすべはないからねーとへらへら実体験を語っていた友人の姿が脳裏をよぎる
まさに今がその状況なのだろうと腹を括ることとした、なんだかんだで相手のことは全く知らない訳では無いし、好感を抱いていたほうなのだ
彼女の大きな手が乱雑に自分の衣服を剥ぎ取り、彼女の柔らかな女性の部分を直に感じてしまう
初めて押し付けられる異性の象徴に体を強張らせていると最後の砦たる下着も剥ぎ取った彼女が自分の怒張したソレに手を伸ばしていた
「これは中々いい業物ではないか……使い心地を試してしっかり扱えるようにせねばな♥」
強固な鱗に包まれた彼女の手に包まれると見た目とは裏腹に肉の詰まった張りがありつつも柔らかな感触に刺激される
それでいて今までのような自身の片手以上に気持ちいいやり方を把握しているかのように絶妙な速度で扱かれる
「シャルさん……」
「好い声で鳴いてくれるな……嬉しくなってしまうぞ」
そのまま彼女は顔を近づけ、口づけし、無理矢理に舌をねじ込んでくる
キスの作法もわからぬ身ではあるが、彼女の動きに合わせてこちらも絡ませるが、下半身への猛攻も合わせて抑えきれないほどの射精感がこみ上げて来て彼女の手の中に吐精してしまう
「うむ……匂いも……味も格別だな」
彼女の舌と顔が離れてしまうことに名残惜しさを感じていることを知ってか知らずか、彼女は自身の手の中に吐き出された精液をべろりと長い舌で何度も何度も舐め取っていく
「それではメインディッシュをいただくとしようか」
電気も付けてない暗い部屋で妖しく光る彼女の瞳はきっとどんな宝石よりも美しいのだろうとぼんやりとした頭で感想が浮かぶ
竜に目をつけられた人間は哀れにも蹂躙されるしかないのだ
この後、何度も何度も彼女と交尾を行い求めあい、いつの間にか二人共意識を失っていた
目が冷めたのは土曜日の昼下がり、すっかり酔いの覚めたシャルさんから謝罪とともにこれからも大事にすると誓われ更に何度か彼女の中に精を吐き出した
落ち着いてから、片付けを行い、お互いのことを話し合い、改めて向き合った
シャルさんは普段はどんなに飲んでも平気らしいが、どうやらあの日は同僚の魔物と向こうの世界で作られたお酒をしこたま飲んだらしく、通常のお酒ではしないような酔い方をしていたらしい
これからは酔って自分に過剰な迷惑をかけたくないので、基本的に飲みたいのであれば自分と普通のお酒を飲むこと、同僚と飲みに行く時は魔界産のお酒は飲まないことを約束をした
泥酔していた彼女がはっきりと覚えているかは不明だが、シラフだった自分には強烈な初体験の記憶だったため今でも鮮明に思い出せてしまい、思い出したりフラッシュバックする度に下半身に血が集まってしまう
少ないとはいえ調理道具と皿や調理道具を洗う時間が長く感じる
待たせている彼女の下に戻らねばと魔物に魅入られた男の本能が焦り始める
力を入れすぎて彼女用の箸を折らないように、焦った勢いで二人で選んだ皿を割ってしまわないように
彼女のために振るっているフライパンに油が残らないように、自制しながら洗剤を染み込ませたスポンジでこすり、早めに落ちるようにぬるま湯で流していく
各々の道具からぬめりが落とされ、軽く払って水切りラックに乗せていき、最後のフライパンを乗せ、かけてあるタオルで手を拭う
よしこれで終わりだと思った瞬間、浮遊……いや……落下感がしたと思ったら、自分の身体はいつぞや見たく彼女の両腕の中に収まっていた
「ふふふ……我慢できなくなってね……思わず呼び出してしまったよ」
「時短なのはこちらとしてはありがたいっすけど、びっくりするんで一声ぐらいかけてくださいよ」
「びっくりしたイサム君の顔も可愛いからね……それはちょっと難しいお願いだ」
こちらとしても我慢できなかったのはそうなので眼の前にある彼女に口づけをすると
嬉しそうに舌を絡ませ、そのままの状態で彼女は尻尾を己の胴ごと巻き付け、更に翼で繭を作るかのように自分の背中まで包み込みベッドの上にゆっくりと倒れ込んだ
「んちゅ……ふふ……君はこうされるのが好きなのだろう……わかっている♥」
「ちゅぅ……そうすけどまだ服が……ってあれ……?」
「何も……問題あるまい」
薄着とはいえ上も下も下着も着ているはずだったのだが、いつの間にやらシャルさんの柔らかい人肌ともっちりとした竜の部分と直に触れ合っている感触がする
いつの間にやら彼女が服を脱がす魔法を使って二人共を脱衣させていたらしい、きっと今頃自室の洗濯機の中に入っているのだろう
「こっちの方でも『いただきます』だな」
「存分に召し上がってくださいな」
臨戦態勢に入っている愚息に触れていた彼女の女性器は既に準備完了というよりも待てをされている犬のようによだれを垂らしており、彼女も無意識のうちに腰を動かし擦り付けていた
そのままゆっくりと腰を引き、慣れた様子で正確に迎え入れてくれる
彼女の膣内は火傷してしまうんじゃないかと錯覚してしまうほどに熱を帯びていて、思考が痺れるほどの性感を伝えてくる
ズプンと音がたったかのように最奥まで男性器の先端がたどり着くのと同時に歓喜を上げるかの如く締め付けられ一度目の射精を行った
「いいぞ……君の精はたまらなく甘美なんだ……もっともっと出してもらうぞ♥」
彼女自身も気持ちよさそうに声を漏らし、じっとこちらの眼を見つめてくれたかと思うと再び唇を奪われる
なされるがまま、彼女のしたいように口内と舌を彼女に貪られながらも、こちらはこちらで彼女が気持ちよくなれる位置を当てられるように腰を動かす
彼女の側からも合図があるわけでもなく同じタイミングで腰を押し付けて来る上、槍を磨き上げるが如く膣内も絡みつき、蠕動してくる
幾度も腰を突き合わせ、何度目かの最奥にたどり着いたタイミングで再び彼女の膣内に精を吐き出す
彼女の背に回している腕に力がこもり身体を震わせながら射精していると、彼女の方も軽くビクビクと身体を震わせて絶頂に達し、こちらを見つめる視線がが少しの間蕩けたように彷徨うがすぐに戻って来る
二人共が絶頂を終えるとほんの少しの間、フっとお互いの身体が弛緩するがどちらともなく片方を求めて動き出しそれに合わせてもう片方が受け入れるように合わせていく
お互いに身体を貪り、奉仕し、快楽を浴びる
我慢することなく絶頂に達し、精を彼女の中に吐き出し、迎え入れる
視界、嗅覚、感触、味覚、全てが二人だけの要素に支配されているような、溶け合うように交わりあっていく
意識の覚醒とともに真横にあるシャルさんの顔がこちらを見据えていることと背中と片腕から彼女の翼と被膜の感触がすることに幸福を感じながら気持ちの良い土曜日の朝を迎えた
今日は彼女とどう過ごそうか考えながら彼女の角を優しく撫でると気持ちよさそうに喉を鳴らしてくれる
「おはよう、今日も良い寝顔だったよ」
「シャルさんの翼に包まれて眠るのはこの上なく気持ちいいっすからねぇ……」
夏場で布団が暑くてかぶれなくとも、彼女の翼に包まれて眠るのであれば快眠は保証されているようなものだ
しばらく性感の伴わない程度にいちゃついてから二人してノソノソとベッドから抜け出し、トースターではなく彼女のブレスで焼いたパンをモソモソとかじる
最初のうちは彼女のブレスの勢いが強くて火災報知器が鳴り響いていたというのに、今となってはちょうどいい狐色の焦げ目が付く程度の仕上がりになるよう調節できるようになっていて成長を感じる
「そういえば昨晩聞くのを忘れていたけれども、そろそろ夏休みのようだがなにか予定はあるのか?去年みたいにお盆の時期ぐらいはご実家に帰るとか?」
彼女の質問にまだ若干寝起きのモヤがかかっている状態で思考する、友人との約束、バイトのスケジュール、最近の親とのやり取り、それとシャルさんの少し寂しげな雰囲気
「ボチボチ友達と遊ぶ予定があったり、去年に比べて控えめにバイトが入ってたりはありますけど、今年はなんか親が色々あってバタバタしてるみたいだから地元には帰らないっすね」
自分の返答に彼女の目の色が変わる
追い打ちをかけるように彼女が喜びそうな口撃を間髪入れずに放つ
「仕事のある平日の昼間とかはともかくとして、できるだけシャルさんと一緒に居たいから今回はバイトも控えめっすね、もちろん休みの間の晩ごはんはできるだけ作りますよ!」
「おぉ……おぉ!それはとても良いな!地元に帰るというならば我もついて行ってご両親に挨拶でもと思ったが、とても魅力的な提案ではないか」
親に挨拶というのは彼女が自分の今後も考えてくれているのだと嬉しくなってしまうが、大学生の身分では今はまだそうでもなくても良いんじゃないかとかも思う
両親自体はそういうことになったらとても喜んでくれそうな気はするが
今はまだシャルさんと自分の部屋を行ったり来たりして過ごすぐらいでちょうどいいのだ
華の金曜日……プレミアムフライデー……金玉キラキラ金曜日……ブラックフライデー……いくつか変なものは混ざっているけれど、次の日から休みの金曜日というのは胸が踊る
気分もいいので6缶パックのビールも買ってきた……今日一人で全て飲むわけでなはいが備蓄がないわけではないのに買ってしまったのは余分な出費かもとアパートまでの帰路で思ったが、今日は金曜日で気分が良いので気にしないこととする
時間は夜に差し掛かる時間というにはまだまだ早く、時期によっては既に太陽が沈んでいるであろう時間だが、日中の殺人的な太陽光によりおおよそ人が生きられないであろうレベルまで室温があげられているのでエアコンの冷房を付け、買ってきたものを冷蔵庫に放り込む
実家に居た頃ならば親に急かされ夕飯の支度をしてそのまま食べていたところだが、一人暮らしの大学生は一国一城の主、好きなときに食事を取るということで冷蔵庫に入れられた新入りは生存時間が伸びるのである
部屋に鎮座するPCの電源を入れ、ズドンと椅子に座り、ヘッドセットを被り、最近買ったゲームの世界に意識を向けて部屋の暑さも外からのセミの鳴き声も遠ざかっていく
ピロンとPCとスマホの両方に入っている連絡用アプリ通知音が耳に入り、PC画面のポップアップから内容を確認し、現実世界に意識を戻す
既に部屋の外の世界からは太陽が消えているだろう時間になっていた
若干凝ってしまった体を伸ばし、立ち上がり、キッチンに足を向ける
冷蔵庫から中ぐらいのじゃがいもを二個……いや三個取り出し、若干残っている土を洗い流しながら愛用しているピーラーでショリショリ皮を剥き、芽と周辺もしっかり取っておく、まだまだ新鮮な芋なので大きな問題はないかもしれないが自分はそういうところは気にするタイプなのである
ある程度の大きさに切って耐熱皿に乗せてしばらく電子レンジと仲良くしてもらう
芋ができるまでのスキマ時間を有効活用する、できる男なので
これまた大きめなしいたけを買ってこれたのでこのコを使う、キッチンペーパーで軽くヒダの部分を拭き、軸を切落し、アルミホイルの上に乗せたところで味付けをどうするか思案
今日はビールなので無難に塩コショウのみで良いんじゃないかと俺A氏が提案するが、じゃがいもの使い道を考えると同じタイプの味付けになるのでオリーブオイルを使って洋風すべきだと俺B氏が反論を述べる
間に割って入った「焼きしいたけは醤油」という天啓に従い、軽く醤油を垂らしオーブントースターに放り込んでツマミをぐりっと、後で生姜を忘れないようにせねば
実はじゃがいもと同じく冷蔵庫から取り出していた大きな玉ねぎの頭とおしりを刈り取ってムシムシと皮を剥いて軽く水洗い
まな板に立ったと思ったところで一刀両断し、横に寝かせて細切り、小さい方が火の通りが良くなるのと多く見えるのが好み
一人暮らしには大きいんじゃないのと思われるが、炒める以外にも色々できるのでこいつがあればだいたいなんとかなると思ってる相棒のフライパンに少なめのサラダ油を流し込み、中火で加熱し玉ねぎを放り込み、心地いい音を聞きながらガシガシと炒める
玉ねぎに油が馴染んで火が通りテカリが出てきたあたりで少し前からまだかまだかと呼び出し音を鳴らしている電子レンジ君から耐熱皿を取り上げ中身の芋君を玉ねぎ君と合流させる
これで味を整えて完成!とするのもいいけれども、ここで取り出したるは秘密兵器のコンビーフ
塩気が濃い目の素敵な牛さんをパーティに加えればタンパク質も補給されて満足感が更にアップするという目論見である
フライパンの大事な中身が焦げてしまわないうちにコンビーフを缶から取り出し仲間入りさせてほぐしていく
全体的になじんだところで完成しても良いのだが、今回はご飯のおかずではなくビールの肴にすることを思い出し、全体的に黒こしょうを散らしていく、コイツがいれば対ビール特攻のバフが入ると信じているのだ
完成した玉ねぎとじゃがいもとコンビーフのキメラを皿に流し込み、先に完成していい匂いを漂わせている焼きしいたけも救出し別の皿に並べて端に生姜をチューブからにゅっと出して、2つの小皿に醤油を張る
準備した4つの皿と二膳の箸をお盆に乗せたところで思い出す、玉ねぎを炒めるフェーズまでにんにくを入れるのを忘れていたと
今日は金曜日なのだ、匂いを気にせずモリモリにんにくを足すべきだった、パーフェクトな男になりきれなかったと後悔が襲いかかるがこの後の事を考えるとまぁそれでも良かったんじゃないかと開き直る
皿の大きさから気持ちずっしり来るお盆を持ち上げ、リビングのテーブルの方……ではなく玄関の方に向かって歩く
そのまま外に出て片手でお盆をプルプルと保持しながら鍵をかける、ビールを取りに戻る事を考えると面倒感はあるが、実家のようなノーガードでも問題無い田舎ではないので防犯は大事
そのまま右隣の部屋前まで歩いていき、また片手をプルプルさせながら、自室のではない鍵を使って解錠し中に入る
今回も落とさなくて良かったと思いつつも部屋の中に入ると、これが夏パワーだと思い知ってしまうような熱気に包まれている
「ちょっと、またエアコンつけてないじゃないすか」
「ん?あぁすまない、向こうの世界の火山に住んでた時より全然快適なものでね、忘れていた」
部屋の主はすっかり失念していたといった様子でリモコンに手を伸ばし文明の利器を起動した
そりゃあそんな過酷な環境に比べるとリゾート気分ぐらいの感覚かもしれないが、彼女と違ってこちらはまだ人間なので呑気に酒盛りできるほど暑さ耐性があるわけではないのだ
「む、今日のも美味しそうだ、この醤油は……このきのこにつけて食べれば良いのだな」
「そうっす、ビール取ってくるんで先に食べててもいいっすよ」
自室と同じ間取りのリビングまで慣れた感じで歩き、中央に鎮座するテーブルにお盆に乗ってたつまみを乗せていく
その傍らにある椅子にリラックスした様子で座っている部屋主は先のやり取りの通り人間ではない
「いや、どうせ隣の部屋なんだ、それぐらいは待つよ、君と一緒に食べ始めた方がきっと美味しい」
「うい、じゃあチャッと持ってきますね」
胸元に余裕のなさを感じる紺色の夏用インナーと膝までの長さのスウェットパンツなのは仕事帰りのOLとしては納得の行く服装だが
手足は爬虫類のそれのように真紅色の鱗に覆われ先端部には熊も逃げ出すぐらいの爪が備えられ、同じく燃えるような色をしている人の腕よりも太く長い尻尾がご機嫌そうにゆらりゆらりと揺れ、背中から生えている力強そうな翼は尻尾と同じく彼女の機嫌を表している、彼女に似合った鱗よりも深くもはや黒に近い赤色のロングなストレートヘアを備えた頭頂部からは一対の角が生えている
彼女はドラゴンである
今となってはさほど珍しくもない、自室と彼女のこの部屋のように隣り合った世界からやって来たという魔王の眷属たる魔物の一人で、彼女の場合は向こうの世界で野生のドラゴンらしく生きていたのに飽きてこちらにやってきて、今では最寄り駅から二区間離れた場所の近くにある会社でOLをやっているそうだ、その戦場での彼女の正装たるシャツとスラックスが部屋の片隅に脱ぎ捨てられているのが見えてしまった
「スーツ、シワついちゃうしさっさと洗うか洗わないならハンガーにかけといた方がいいっすよ」
「どうにも窮屈でな、帰ってきたらこうしてやりたくなるんだ、まぁ酒を取りに行ってもらってる間に片付けるさ」
だらけている様子を見るにそれも怪しいと思いつつ部屋に戻ることとする
彼女の正装が正位置に戻っている可能性は二分の一、戻っていない方に今日のビールの一本をかけようか
想定通りツマミはビールが進み、彼女の舌にもあったらしく色々な感嘆符を交えつつ自分と同じく缶ビールとツマミを交互に口に運んでいる
クール系な彼女の整った顔がニコニコとして嬉しそうに食べている様子を見ると作った甲斐があるというものだ
「そういえば前から聞きたかったんすが、持ってた財宝の一部換金してるからお金には困ってないって話だけどどうしてこっちに来てわざわざ働いてるんすか」
「んー……そうだなぁ……向こうでの暮らしも嫌いではなかったが、こっちの『人間の暮らし』ってのに興味が湧いてやってみることにしたって感じだろうか」
大きい手には小さすぎるようにも思える自分のと対になってる夫婦箸の片割れを慣れた手つきで操り、生姜を乗せて醤油を垂らしたしいたけを口に運び、ビールを流し込む
はふぅと息を吐く動作にも色気を感じつつも、思いつきのような理由で国外どころか世界も飛び出してきた彼女に感心する
「そんな理由で始めて働けてるってのもすごいっすねぇ、実際にやってみてどんなもんです?」
自分もコンビーフと黒こしょうがまばらに乗っているじゃがいもを口に運び、塩気と刺激が消えないうちにビールで洗い流す、我ながら上手くできている
彼女との2人分で考えるのであればもう少し量を増やしても良かったかもしれないとほとんどなくなってきているツマミを見て思ったが、今回持ってきたビールの残りが二人が片手に持っている分しか無いことからこれで良かったのだろう
「仕事自体は悪くない、それなりのやり甲斐と忙しさに同僚とも関係も良好だ……」
「が……通勤の電車は好かん、人魔が多すぎるし翼も伸ばせないし通勤の距離なら自ら飛んだ方が楽だ、人に倣うならばと最初の数ヶ月は我慢したがいつぞや見たくまともに飛べなくなった時以外は乗りたくない」
不満を漏らしてツマミの残りを一気に平らげビールの残りをキューっと流し込む姿と彼女とこうして飲むようになったきっかけの日の姿を思い出して自然と苦笑いが浮かんでくる
そういえばあの時も金曜日だったなと思い出す
「まぁこちらで生活するようになって良いことは沢山ある、娯楽は豊富で色々と新鮮な知識を仕入れることができ、あちらでは食べることはなかったであろう飯も美味い」
「そして何より君と出会えてこうして酒を酌み交わすことができるようになったからな……っともう飲みきってしまっていたか、ごちそうさまだな」
再び缶に口を付けてようやく空になっていたことに気がついた彼女のお茶目さに笑みがこぼれるが、自分の分のビールも一気に飲みきり立ち上がる
「お粗末様でした、じゃあサクっと片付けて来ますね」
「あぁ、ちゃんと『また来る』んだぞ、あぁそれとこれは今日の宴代だ、受け取ってくれ」
彼女の瞳の奥に妖しいものというか獲物を見据えている様子に気が付き本能的な少し怖気を感じるが、彼女が何も無い空間に開いた穴のようなものに手を突っ込んで取り出し、お盆の端のほうに雑に置かれた紙幣の桁と枚数にぎょっとする
「いやいや、流石にこれは高すぎるっすよ、こっちに来てそれなりに経ってるから飲食代とか材料費とかの相場は知ってますよね」
「我は君との時間、食事に最低これだけの価値を感じているからな、少ないぐらいだ」
「多いと思うなら……うむ……そうだなこの後の時間の代金も入っているとでも思ってくれ」
厭らしい笑みを浮かべる彼女にはこれ以上反論を述べても聞かないだろうし、あまり待たせて襲われるとなると最悪これらの片付けが週明けになってもおかしくなくなると考えると先程自分が言った通りサクっと片付けてしまいたい
そう思いすっかり軽くなったけど乗っている価値は重くなってしまったお盆を持ち上げ、自分の部屋に向かった
彼女とこうして酒盛りをするきっかけになった日を思い返す
暑さの和らいだ頃のコンビニバイト上がり、夜番の2つ上の人に今回も連絡事項はなかったといつも通りの引き継ぎを行った日
夕飯はバイト前の早めに済ませてしまった分空腹感があるので軽いツマミでも作ってお酒で流し込んでやろうかと企みながらアパートにたどり着くと、自分の部屋の前でなにかが扉に向かって何かをしているシルエットを見てしまった
『なにか』というのも背丈は人ほどではあるのだが、明らかに人には無い部位がついているからだ
叫び声をあげそうになりそうなのを抑えて目を凝らすとビビリ散らすような怪異ではないことに気がついた
共用部の天井からの明かりに照らされている人外の存在はどう見ても自分の部屋の隣に住んでいるドラゴンのシャルさんだ
時々ゴミ捨てのタイミングが被ったりすると挨拶や軽い雑談を交わす程度の仲なのでどうして自分の部屋の扉にと思いながらも近づくと、彼女の顔が己の鱗のように赤らんでいて、ガチャガチャと自分の部屋のものと思われる鍵を入れたり出したり回せなさそうにしている
どうやら酔っ払っているようだ
「んむぅ……どうして開かぬ……鍵はこれしか無いのだぞ……」
「シャルさん……そこは自分の部屋ですよ……」
美しいし嫌いというか好ましい部類の魔物が相手でも酔っ払っている状態では相手はしたくないのだが、自室の前というか扉を占拠されてしまっているのであればどうしようもない
「何を言っている……ここは……我の部屋……宝物庫だ……」
「いかにイサム君といえど……竜の寝床に無断で立ち入るのは……向こうの世界の盗人と変わらんぞ……」
赤らんだ顔で威圧的な言葉を投げつけられるも酔っ払いの言葉である、それに間違えているのは彼女である以上こちらの方に理があるのだバイト先での厄介客に遭遇したときのことを考えるとまだましな方だ
「シャルさん、それは自分の部屋ですって、その鍵だと合わないし……この鍵だと……ほら開きました」
フラフラする彼女を適当になだめつつどかし、自分の鍵で解錠する
元の世界では野生の暮らしをしていたと聞いているのでこのまま共用部で寝転がっていても平気だろうが、酔っているとはいえ知っている魔物がそんな状態になってしまうと思うと心苦しさは出てしまうため、彼女を自分の部屋に誘導するぐらいはすべきだろうとは思いどうやって諭そうかと思ったところで不意に視界の高さが変わる
「イサム君……鍵を複製してまでそんなに我が寝床に来たかったのか……その剛胆さは気に入った……うむ、我が宝物庫に入る価値はあるな」
「えっ……ちょっと……シャルさん……?」
「今日はたらふく飲んで気分も良い!それに新たな……いや今までにはなかった至上の宝が飛び込んで来てくれた!とても良き日だ!」
彼女はいわゆるお姫様抱っこの形で軽く自分を持ち上げ、解錠された扉の中に我が物顔で入っていく
すぐそこにある彼女のから発せられる匂いや息遣いは酒臭いというよりも、おそらく魔物としての甘ったるい果実のような香りにお酒の匂いが混ざっているような感じであり長時間包まれてしまうと酔ってしまうというかアルコールではなく彼女に酔ってしまいそうな感じもしている
酔っていようが慣れた手つきで水のような物を魔法で作り鱗と力強さを感じる爪が生えた足をさっと拭い、自分の靴を無理やり剥がして玄関に放り投げ、そこにあることを知っているかのような迷いのない千鳥足で自分のベッドのあるところまで歩き、今までにない丁寧さで自分をベッドに下ろし、雑にスーツを脱ぎ捨てた彼女は自分の上にのしかかった
「ふふふ……早速この宝を堪能せねばなぁ……」
「あぁもう……初めてなんでお手柔らかにお願いしますよ……」
魔物に獲物判定されたら逃げるすべはないからねーとへらへら実体験を語っていた友人の姿が脳裏をよぎる
まさに今がその状況なのだろうと腹を括ることとした、なんだかんだで相手のことは全く知らない訳では無いし、好感を抱いていたほうなのだ
彼女の大きな手が乱雑に自分の衣服を剥ぎ取り、彼女の柔らかな女性の部分を直に感じてしまう
初めて押し付けられる異性の象徴に体を強張らせていると最後の砦たる下着も剥ぎ取った彼女が自分の怒張したソレに手を伸ばしていた
「これは中々いい業物ではないか……使い心地を試してしっかり扱えるようにせねばな♥」
強固な鱗に包まれた彼女の手に包まれると見た目とは裏腹に肉の詰まった張りがありつつも柔らかな感触に刺激される
それでいて今までのような自身の片手以上に気持ちいいやり方を把握しているかのように絶妙な速度で扱かれる
「シャルさん……」
「好い声で鳴いてくれるな……嬉しくなってしまうぞ」
そのまま彼女は顔を近づけ、口づけし、無理矢理に舌をねじ込んでくる
キスの作法もわからぬ身ではあるが、彼女の動きに合わせてこちらも絡ませるが、下半身への猛攻も合わせて抑えきれないほどの射精感がこみ上げて来て彼女の手の中に吐精してしまう
「うむ……匂いも……味も格別だな」
彼女の舌と顔が離れてしまうことに名残惜しさを感じていることを知ってか知らずか、彼女は自身の手の中に吐き出された精液をべろりと長い舌で何度も何度も舐め取っていく
「それではメインディッシュをいただくとしようか」
電気も付けてない暗い部屋で妖しく光る彼女の瞳はきっとどんな宝石よりも美しいのだろうとぼんやりとした頭で感想が浮かぶ
竜に目をつけられた人間は哀れにも蹂躙されるしかないのだ
この後、何度も何度も彼女と交尾を行い求めあい、いつの間にか二人共意識を失っていた
目が冷めたのは土曜日の昼下がり、すっかり酔いの覚めたシャルさんから謝罪とともにこれからも大事にすると誓われ更に何度か彼女の中に精を吐き出した
落ち着いてから、片付けを行い、お互いのことを話し合い、改めて向き合った
シャルさんは普段はどんなに飲んでも平気らしいが、どうやらあの日は同僚の魔物と向こうの世界で作られたお酒をしこたま飲んだらしく、通常のお酒ではしないような酔い方をしていたらしい
これからは酔って自分に過剰な迷惑をかけたくないので、基本的に飲みたいのであれば自分と普通のお酒を飲むこと、同僚と飲みに行く時は魔界産のお酒は飲まないことを約束をした
泥酔していた彼女がはっきりと覚えているかは不明だが、シラフだった自分には強烈な初体験の記憶だったため今でも鮮明に思い出せてしまい、思い出したりフラッシュバックする度に下半身に血が集まってしまう
少ないとはいえ調理道具と皿や調理道具を洗う時間が長く感じる
待たせている彼女の下に戻らねばと魔物に魅入られた男の本能が焦り始める
力を入れすぎて彼女用の箸を折らないように、焦った勢いで二人で選んだ皿を割ってしまわないように
彼女のために振るっているフライパンに油が残らないように、自制しながら洗剤を染み込ませたスポンジでこすり、早めに落ちるようにぬるま湯で流していく
各々の道具からぬめりが落とされ、軽く払って水切りラックに乗せていき、最後のフライパンを乗せ、かけてあるタオルで手を拭う
よしこれで終わりだと思った瞬間、浮遊……いや……落下感がしたと思ったら、自分の身体はいつぞや見たく彼女の両腕の中に収まっていた
「ふふふ……我慢できなくなってね……思わず呼び出してしまったよ」
「時短なのはこちらとしてはありがたいっすけど、びっくりするんで一声ぐらいかけてくださいよ」
「びっくりしたイサム君の顔も可愛いからね……それはちょっと難しいお願いだ」
こちらとしても我慢できなかったのはそうなので眼の前にある彼女に口づけをすると
嬉しそうに舌を絡ませ、そのままの状態で彼女は尻尾を己の胴ごと巻き付け、更に翼で繭を作るかのように自分の背中まで包み込みベッドの上にゆっくりと倒れ込んだ
「んちゅ……ふふ……君はこうされるのが好きなのだろう……わかっている♥」
「ちゅぅ……そうすけどまだ服が……ってあれ……?」
「何も……問題あるまい」
薄着とはいえ上も下も下着も着ているはずだったのだが、いつの間にやらシャルさんの柔らかい人肌ともっちりとした竜の部分と直に触れ合っている感触がする
いつの間にやら彼女が服を脱がす魔法を使って二人共を脱衣させていたらしい、きっと今頃自室の洗濯機の中に入っているのだろう
「こっちの方でも『いただきます』だな」
「存分に召し上がってくださいな」
臨戦態勢に入っている愚息に触れていた彼女の女性器は既に準備完了というよりも待てをされている犬のようによだれを垂らしており、彼女も無意識のうちに腰を動かし擦り付けていた
そのままゆっくりと腰を引き、慣れた様子で正確に迎え入れてくれる
彼女の膣内は火傷してしまうんじゃないかと錯覚してしまうほどに熱を帯びていて、思考が痺れるほどの性感を伝えてくる
ズプンと音がたったかのように最奥まで男性器の先端がたどり着くのと同時に歓喜を上げるかの如く締め付けられ一度目の射精を行った
「いいぞ……君の精はたまらなく甘美なんだ……もっともっと出してもらうぞ♥」
彼女自身も気持ちよさそうに声を漏らし、じっとこちらの眼を見つめてくれたかと思うと再び唇を奪われる
なされるがまま、彼女のしたいように口内と舌を彼女に貪られながらも、こちらはこちらで彼女が気持ちよくなれる位置を当てられるように腰を動かす
彼女の側からも合図があるわけでもなく同じタイミングで腰を押し付けて来る上、槍を磨き上げるが如く膣内も絡みつき、蠕動してくる
幾度も腰を突き合わせ、何度目かの最奥にたどり着いたタイミングで再び彼女の膣内に精を吐き出す
彼女の背に回している腕に力がこもり身体を震わせながら射精していると、彼女の方も軽くビクビクと身体を震わせて絶頂に達し、こちらを見つめる視線がが少しの間蕩けたように彷徨うがすぐに戻って来る
二人共が絶頂を終えるとほんの少しの間、フっとお互いの身体が弛緩するがどちらともなく片方を求めて動き出しそれに合わせてもう片方が受け入れるように合わせていく
お互いに身体を貪り、奉仕し、快楽を浴びる
我慢することなく絶頂に達し、精を彼女の中に吐き出し、迎え入れる
視界、嗅覚、感触、味覚、全てが二人だけの要素に支配されているような、溶け合うように交わりあっていく
意識の覚醒とともに真横にあるシャルさんの顔がこちらを見据えていることと背中と片腕から彼女の翼と被膜の感触がすることに幸福を感じながら気持ちの良い土曜日の朝を迎えた
今日は彼女とどう過ごそうか考えながら彼女の角を優しく撫でると気持ちよさそうに喉を鳴らしてくれる
「おはよう、今日も良い寝顔だったよ」
「シャルさんの翼に包まれて眠るのはこの上なく気持ちいいっすからねぇ……」
夏場で布団が暑くてかぶれなくとも、彼女の翼に包まれて眠るのであれば快眠は保証されているようなものだ
しばらく性感の伴わない程度にいちゃついてから二人してノソノソとベッドから抜け出し、トースターではなく彼女のブレスで焼いたパンをモソモソとかじる
最初のうちは彼女のブレスの勢いが強くて火災報知器が鳴り響いていたというのに、今となってはちょうどいい狐色の焦げ目が付く程度の仕上がりになるよう調節できるようになっていて成長を感じる
「そういえば昨晩聞くのを忘れていたけれども、そろそろ夏休みのようだがなにか予定はあるのか?去年みたいにお盆の時期ぐらいはご実家に帰るとか?」
彼女の質問にまだ若干寝起きのモヤがかかっている状態で思考する、友人との約束、バイトのスケジュール、最近の親とのやり取り、それとシャルさんの少し寂しげな雰囲気
「ボチボチ友達と遊ぶ予定があったり、去年に比べて控えめにバイトが入ってたりはありますけど、今年はなんか親が色々あってバタバタしてるみたいだから地元には帰らないっすね」
自分の返答に彼女の目の色が変わる
追い打ちをかけるように彼女が喜びそうな口撃を間髪入れずに放つ
「仕事のある平日の昼間とかはともかくとして、できるだけシャルさんと一緒に居たいから今回はバイトも控えめっすね、もちろん休みの間の晩ごはんはできるだけ作りますよ!」
「おぉ……おぉ!それはとても良いな!地元に帰るというならば我もついて行ってご両親に挨拶でもと思ったが、とても魅力的な提案ではないか」
親に挨拶というのは彼女が自分の今後も考えてくれているのだと嬉しくなってしまうが、大学生の身分では今はまだそうでもなくても良いんじゃないかとかも思う
両親自体はそういうことになったらとても喜んでくれそうな気はするが
今はまだシャルさんと自分の部屋を行ったり来たりして過ごすぐらいでちょうどいいのだ
24/02/24 19:30更新 / 錆鐚鎌足