連載小説
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迫り来る乱
 シグレに振られて以降、フィーナは現れなくなった。レスカティエの街には居るらしいのだが、フィーナがどこで何をしているのかまでは、シグレは知らない。彼は現在も、ルカと共に生活している。今までの激動が嘘であるかのように、ようやくシグレの生活が落ち着いてきたのだ。

 しかし、神はどうやらシグレに対する試練をまだまだ与えるつもりらしい。彼の住むレスカティエに、戦乱の足音が刻一刻と迫りつつあったのだから。
 レスカティエを攻めようとしているのは、もちろん反魔物国家の連中である。目的は、彼らにとっての聖地であるレスカティエの奪還と、シグレであった。
 世間に広く周知されてるように、レスカティエは元々は反魔物国家の中心的存在であった。その街を魔物達にとられたままというのは、彼らにとって大変な屈辱である。
 そして、もう一つ。シグレは反魔物国家の連中にとって、重大な極悪人である。彼の断罪をせぬままでは、神の意向に反する事になるのだ。彼らにとって、神の意向は絶対である。何としても、シグレを討ち取らねば気が済まないのだ。
 上記のような理由で、反魔物国家の連中は遠征軍を編成し、レスカティエ襲撃計画を実行しようとしていた。


✳✳✳✳✳


「大変だ! 反魔物国家の連中が攻めてきた!」
 敵の襲撃をいち早く察知したのは、城門の物見矢倉に詰めていた見張りの兵だった。
 間の悪い事に、デルエラらの魔物の精鋭部隊は、別の都市の救援の為、不在だった。それでも、魔物娘たちは一定の戦闘力はあるものの、見張りの兵たちはここ数年の間に太平に慣れてしまい、戦闘力経験が落ちていた。だから、留守の兵達は大苦戦していた。
「お前ら、どいてろ」
 結局、ここでも頼りになるのはシグレの力であった。マリスでの拷問によって全盛期の力を失ったとはいえ、兵たちの中でシグレが一番の手練れである事に変わりはなかった。
「城門で食い止めろ。絶対に街には入れるな!」
 苦戦する兵たちをかばうようにして、前に進み出るシグレ。彼は自ら最前線へと突っ込んで行き、敵をなで斬りにする。既にデルエラには敵襲の知らせを放っている為、ここで持ちこたえれば形成は優位になる。それまでの間はここで食い止める。そう思いながら、シグレは剣を振るっていた。
 しかし、シグレにとって誤算だったのが、彼自身の抹殺も敵の目的に入っていた事であった。その為、敵の意識がシグレに向いてしまう。全盛期の頃ならともかく、今のシグレでは持ちこたえられそうになかった。
 次々に迫る剣に、飛んで来る矢。見る見るうちにシグレの身体が傷だらけになっていく。それでも致命傷だけは避けていたが、ついに身体が言うことを聞かなくなる。
(やられた!)
 迫り来る剣に、シグレはハッとする。斬られたと覚悟したものの、いつまでたっても衝撃は来ない。
「お前……」
 傷つき倒れたシグレを庇うように、フィーナが覆いかぶさっていた。そんな彼女の身体から、どんどん血が流れ落ちていく。
「シグレが、死ななくて、良かった……」
 苦しそうな吐息の中、それでもフィーナは弱々しく微笑む。そんな彼女に、シグレは目を見開いて絶叫する。
「フィーナ!」
 その時になって、ようやくデルエラ達が戻ってきたらしい。シグレの周辺では、敵兵が駆逐されていく。そんな中で、シグレはぐったりしたフィーナを抱えながら、その名を呼び続けた。
21/02/08 04:09更新 / 香炉 夢幻
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