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第6回「四人の魔女と四人の使い魔(前編)」- マイ編 -
 紅い夜空に血色の月が浮かんでいた。

 夜の静寂(しじま)を切り裂いて、少女が飛ぶ。
瘴気を孕んだ夜風が彼女の身体を撫でて行く。

「ふにゃあ…、すっかり遅くなっちゃったよ」
 眠そうな目を擦りながら少女は欠伸まじりに呟いた。

「少しぐらい遅れても構わないさ。…主役は最後に登場するものだ」
 彼女の傍で男の声がそう囁いた。
「そっかぁ。…うん、マイはヒロインだもん。遅れていくのがセーカイなんだね♪」
 彼の言葉に、少女は無邪気な笑みを浮かべ、脳天気に納得する。
「その通りだとも」
 青年は鷹揚に頷き。
「さて行こうか、我が愛しき人よ。時代が吾輩たちを待っている」
「うん、分かったよ、お兄ちゃん♪」
 少女は元気に答え、青年と共に空を駆けた。

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 サバト魔界本部主催の飛行魔法大会が3日後に迫ったその夜。
 大会運営委員会によって、パーティが開かれる事になっていた。

 宵の口を告げる鐘が鳴る頃。
 思い思いに着飾った選手や大会関係者がぞくぞくと会場に足を運んでいた。

 その中に赤紫色の髪の少女、ヘザーの姿もあった。
「ふわあぁ、すっごいパーティだね!」
 パーティ会場であるホールに入って開口一番、ヘザーは感嘆の声を上げた。
「…み、皆、ドレスとか着てるし。あたし、ちょっと浮いてるかも…」
 彼女は自分が着ている赤色の飛行服(フライト・スーツ)を見下ろして、声を小さくする。
 こういった催しに参加するのが初めてだったヘザーはどういった服装で参加すればよいかが分からず。とりあえず、一張羅である飛行服にしたものの。初っ端から、ちょっぴり後悔していた。

「ヘザーはまだマシだろ…。俺なんか完全に普段着だぜ」
 彼女の隣に立っている青年が恥ずかしそうにそう漏らした。
元漁師でこういった席に縁も無かった彼に一張羅などある筈も無く。
せめて、ツギあての無い新めの服装にしたものの。
一見して分かる場違い感は隠すことはできない。ザ・普段着。

「うう…兄やん、大丈夫だよね…?」
「…あー、うー…何て言うか…」
 流石の彼も軽々しく大丈夫とは言えなかった。

「そこのお二方。入り口の真ん中に立っていると迷惑ですわよ?」
 その時、2人の背後からそんな声がかけられた。

「あっ、ごめんなさい…」
 ヘザーと青年は慌てて端によりながら振り向く。
するとそこには一組のカップルが立っていた。
1人は白いドレスを着た金色の髪の少女。
もう1人は白い正装の青年。
「ぼーっとしてないでパーティを楽しんだらどうですの、ヘザーさん」
 白いドレスの少女、ゾフィーアは少し不機嫌そうにそう続けた。
「あっ、ゾフィーアちゃん!」
 見知らぬ人の中に見知った少女の顔を見つけたヘザーは嬉しそうな声を上げた。
「ゾフィーアちゃんも招待されてたんだねっ」
「当たり前ですわ。わたくしも大会参加者ですもの」
 ツンと顔を逸らしながら彼女は事も無げにそう答えた。

 ヘザーとゾフィーアは、とある草レースで知り合った間柄だ。
大会での優勝を目指す者同士。良きライバルとして互いを認めあっていた。

「それにしても可愛いドレスだよね…とっても似合ってるよ」
 ヘザーはゾフィーアのドレスをしげしげと見つめた後、少し羨ましそうに微笑む。
「どんな格好で参加するかは個人の自由ですわ。そんなに堅苦しいパーティでもありませんし。
わたくしは、たまたま、このドレスを着て行きたい気分になっただけで…」
 早口でそうまくしたてる彼女の顔はほんのりと赤かった。
「服装なんて気にする必要は無いよ。パーティは楽しんだ者が勝ちだからね」
 ゾフィーアの隣に立っている青年が穏やかに笑う。
「うん。2人とも、ありがとう」
 2人の言葉にヘザーは大きな笑みを浮かべた。

「ところで飲み物でもどう? 何か取ってくるよ」
「ああ、悪いな。…じゃ、頼むわ。その代わり、料理は俺が取ってくるよ」
 ヘザーの兄やんである青年が気さくな笑みでそう返す。
「分かった。飲み物は皆、何がいい?」
「わたくしはワインを」
「あたしはジュースをお願いします」
「俺もジュースでいいや。…料理はどうする?」

「兄やん、ケーキ!」「ケーキでお願いします」
 2人の少女は揃ってケーキを注文する。
彼女たちの視線はテーブルの上のお菓子に注がれていた。
「いやいや。まずは腹ごしらえしようぜ」
「そうだよ。お菓子でお腹一杯にするのはナシだからね」
 2人の青年は苦笑を浮かべつつ、お互いに顔を見合わせる。
「「えー!」」
 少女たちは不満そうに口を尖らせた。
「とりあえず、全員サラダで」
 穏やかな青年がオーダーする。
「OK。サラダ4人前ね」
 気さくな青年はオーダーを確認すると料理を確保すべくテーブルへと向かった。
「じゃあ、僕も行ってくるから、ちょっと待っててね」
 彼もそう言うと飲み物を求めて、その場を後にした。

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「むぅ、サラダかぁ…ケーキが良かったのに…」
「仕方ありませんわ。デザートを楽しみにしておきましょう」
 2人残った少女たちはそんな他愛のない会話を交わしながら、青年たちを待っていた。

 そんな時、パーティ会場の一角でざわめきが起こった。

「…何かしら?」
 ゾフィーアが視線をざわめきの方に向けると、そこに人垣が見えた。
どうやら、招待客たちが誰かを取り巻いているらしい。
よほどの有名人でも来ているのだろうか。
そう思うとちょっとだけ彼女の好奇心がくすぐられた。
「ヘザーさん、ちょっと行ってみません?」
「そうだね…、一体なんだろう?」
 ヘザーも気になっているらしく、二つ返事で頷く。

 彼女たちは連れ立って、人垣へと向かった。
 近づいていくと人垣の中心に立っているのが一組のカップルだと判った。
「…リーリャちゃん…!」
そして、人垣の間から覗いた黒髪の少女の姿を目にしたヘザーは驚いた様子で足を止めた。
「どうかしましたか、ヘザーさん?」
 並んで歩いていた少女の異変に気づき、ゾフィーアも立ち止まる。
振り返るとヘザーはバツが悪そうな表情を浮かべていた。
「うん…ちょっと…ね…」
 ヘザーはモゴモゴと言葉を濁す。
 どうやらヘザーと黒髪の少女との間に何かあるらしい。
そう察したゾフィーアは少女の方へと視線を向ける。
彼女は黒いドレスを着たその少女の顔に見覚えがあった。
「彼女は確か、リーリャ=バランニコフさん…でしたかしら?
史上最高と言われた《最速の魔女》、"青い魔女"と呼ばれた方の娘さんですわね」
 ゾフィーアがチラリと見るとヘザーは分かり易く動揺していた。

 金色の髪の少女は内心で溜息をつくと不意にヘザーの手を取る。
「行きましょう、ヘザーさん。顔見知りなら、挨拶するのが礼儀ですわ」
「えっ…?」
 ヘザーの不安そうな瞳にゾフィーアが映った。
「…レースでも何でも。彼女を避けて通る事はできませんでしょう?」
 ゾフィーアはキッパリとそう告げるとヘザーの手を引っ張った。

「ちょ、ちょっと、ゾフィーアちゃん! あたしはいいよ…」
 ゾフィーアに引っ張られ、ヘザーは黒髪の少女リーリャの前へと引き出された。
「…ヘザー」
 2人に気づいたリーリャが無表情に視線を向けてくる。
「こ、こんばんわ…リーリャちゃん…」
 思わず視線が合ってしまい、ヘザーはぎこちない笑顔でそう挨拶した。
そんな彼女をリーリャは何も言わずにじっと見つめてくる。
「…はじめまして。わたくし、ゾフィーア=メルダースと申します。
リーリャ=バランニコフさんですわね? お会いできて光栄ですわ」
 そこへ隣のゾフィーアが口を挟んできた。
彼女は一歩進み出ると優雅にお辞儀して自己紹介する。
「どうも…」
 リーリャも黒いドレスを揺らして、お辞儀を返す。

「キミがメルダース君か」
 リーリャの隣に立っていた黒い礼装の青年が話に加わってきた。
「噂は聞いているよ。予選で中々の飛行を見せたようだね」
「そんな噂が流れているなんて、お恥ずかしい限りですわ。
けれど、大会本番では噂以上の飛行をお見せできる…とは思いますが」
 ゾフィーアは自信に溢れた笑顔でその青年を見上げた。
「それは楽しみだ」
 彼は余裕の笑顔でそう答えた。

 隣で見えない火花が散っている最中。
 ヘザーはモヤモヤとした気持ちを抱えて、リーリャを見つめていた。
リーリャの方は静かな眼差しで彼女の兄を見上げていたが。

 以前、ヘザーはリーリャを怒らせた事があった。
ヘザーはリーリャが憧れの女性の娘だと知り、リーリャに母親の話をねだった。
それがリーリャの気に障ったらしい。その後、怒った彼女が早々に立ち去った為、謝る暇も無かった。
この事件がヘザーの心にずっと、ひっかかっていた。

「あの…リーリャちゃん。この間はごめんね…」
 ヘザーは意を決し、謝罪の言葉を口にした。
 リーリャはゆっくりと視線をヘザーへと向け、わずかに唇を噛んだ。
彼女は目を伏せると小さな声で答える。
「…別に…気にしてないから……こっちこそ…怒鳴ったりしてゴメン」
 リーリャはボソボソとそう言ったきり黙ってしまった。
そんな彼女にヘザーはかける言葉が無かった。
リーリャが気にしてない様には見えなかったから。

「あのね…」
 ヘザーが何か言おうと口を開いた瞬間。
彼女たちの頭上でガラスの砕ける派手な音が響いた。

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「きゃあっ!」
「危ない!」
 降り注ぐガラス片。
 悲鳴を上げて、しゃがみ込む少女たちを傍に控えていた男達が覆い被さって庇う。
 幸いな事にガラス片が落ちた付近に人気は無く、怪我人は出なかった。

「にゃーはっはっは! マイちゃん参上っ!!」
 天井から幼い少女の声が突然聴こえてくる。
ホールにいた全員が何事かと見上げるとソレは割れた天窓を通って、ゆっくり降下してきた。

 ソレは肌色の物体だった。

 シャンデリアの蝋燭の灯かりを浴びて、ソレが仰向けになった若い裸の男だと判る。
そして、その上に緑髪のツインテールをなびかせた幼い少女が跨っていた。

てか、どう見ても騎乗位です。公衆の面前で盛ってますよコイツら。

 全員があっけに取られている中、悠然と魔女が跨る使い魔(おにいちゃん)が降りてきた。

「何ですの…あの、空飛ぶ猥褻物陳列罪は…」

 彼女こそが、この物語、最後のヒロイン、マイ=コテツだった。
11/07/18 13:03更新 / 蔭ル。
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■作者メッセージ
マイ=コテツ
使用魔具:お兄ちゃんv
スピード:3 コントロール:1 スタミナ:5
 仰向けに横たわる使い魔(お兄ちゃん)の上に選手が騎乗する異色のコンビ。
2人を繋げるものはお兄ちゃんの肉棒のみ。
 常に精を補充している為、抜群のスタミナを誇る。
反面、常に快楽に溺れている故にコントロールは最悪。
加減速や旋回の度にナカで暴れて大変な事になるらしい。

※最後の魔女、華麗に登場(?)

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