アクマ ヲ アワレム ウタ
角を曲がって直ぐ、少年は派手に転倒した。
その拍子に彼の腕から林檎が地面へと転がる。
空腹による眩暈の所為なのか。あるいは何かに足を取られた所為なのか。
飢えと打ちつけた身体の痛みで朦朧とする頭では判然としない。
けれど今すべき事だけは分かる。
一刻も早く立ち上がって逃げなければ…。
だが、彼がその思いを遂げるより早く。曲がり角の向こうから男が姿を現した。
「この盗人のクソガキが！」
男の怒号が通りに響き渡る。その声に通行人が何事かと振り返えった。
しかし、ほとんどの通行人たちは一瞥で事情を察し、途端に興味を失くして立ち去っていく。
立ち止まった人間達も面白半分で見物している連中か、わずかな同情を浮かべている傍観者に過ぎない。
この街で少年のような、浮浪児の子供など珍しくない。
そして、彼らが食う為に盗みを働く事も。
「覚悟はできているんだろうなぁっ！」
怒りに身を震わせながら男は手にした棒切れを振り上げる。
確かにこんな事件は珍しくもない。
しかし、盗まれる方からすれば、容認できる事でもなかった。
微かな風切り音とともに棒切れが振り下ろされる。
「ぐうっ…！？」
背中に鋭い痛みが走り、焼け付くような熱さを帯びていく。
何度も。何度も。叫びとともに棒切れが振るわれた。
少年はただ痛みに耐える事しかできない。
亀のように身を縮め、嵐のような暴力が通り過ぎるのを待つ。
やがて、男も息が切れたのか。その手が止まった。
「余計な手間をかけさせやがって…！」
彼は路上に転がった林檎を１つ残らず拾い集める。
「役人に突き出されなかっただけ、ありがたく思え…！」
男はそう吐き捨てると立ち去っていった。
後に残されたのはボロ雑巾のように路上に転がる少年、只１人。
それもスラムでは珍しい光景でもなかった。
呼吸をする度に身体中の傷が痛んだ。
少年は身を起こそうと身体を動かす。わずかに動かしただけでも全身に激痛が走った。
痛みに呼吸が止まり、空気を求めて喘ぐ。
もう何日も食べていない。
先程の疾走で残っていた体力を全て使ってしまった。
カラカラに乾いた喉がひゅうひゅうと音を立てる。
彼は息を吐き出す毎に自分の中から気力がゆっくりと抜けていくのを感じた。
夜でもないのに視界が暗くなっていく。
通りの喧騒が徐々に静かになっていき、世界が遠くなっていく。
ああ、僕は死ぬのか。
薄れいく意識の中で彼はぼんやりとそう思った。
死ぬのは怖い。けれど同時にそれを安堵する気持ちもある。
天国へ行けば、もう飢えや乾きで苦しまなくてもいいだろう。
そんな事を考えながら、少年の意識はプツリと途切れた。
＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃
夜の闇の中で何かがゴソゴソと動いた。
建物の間から覗いた月の光を浴び、それは黒い輝きを反射した。
夜の街を徘徊するその人影はふと地面の上に横たわっている美味しそうな匂いに気づいた。
彼女が歩く度に下半身を覆う黒い甲冑がキチキチと軋むような音を立てる。
月明かりに照らされて露になったのは少女の白い顔だった。
彼女は素早く、その美味しそうな匂いへと近づくとその傍らにしゃがみ込む。
匂いの元を覗き込んでみると、それが人間のオスだと分かった。
まだ、若いオス。だが、十分に美味しそうな匂いがする。
少女は己の劣情が命じるまま、その少年の衣服を破る。
元々、ボロ布のような服は簡単にバラバラになった。
彼女は彼の身体を抱き起こし、そして動きを止めた。
それは少年が、かなり衰弱している事に気づいたからだ。
見れば、身体中のいたる所に傷がある。このまま放っておけば死んでしまうだろう。
それが分かった途端、彼女の心に不思議な感情が湧き上がった。
いままで感じた事の無い不思議な心の動き。
彼女は今すぐにでも人間と交わって気持ち良くなりたかった。
けれど、彼女は人間にも気持ち良くなって欲しいとも思った。
少女が自分の心に戸惑っていると背後から声がかかった。
「どうしたの？」
振り返ると直ぐ傍に少女の姉が立っていた。
「姉さん、この人間が…」
「…大分弱っているわね」
姉は触角をユラユラとさせながらそう呟いた。
「何とかならないかな…？」
妹は縋るような視線を姉へと向ける。
「…そうね、"ギシキ"が間に合えばなんとかなるかもね」
姉はしばらく考え後、そう答えた。
「とりあえず、巣に連れ帰りましょう」
「わかったわ、姉さん」
妹は姉の言葉に頷くと裸の少年を背負う。
その身体は驚くほど軽かった。
＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃
少年が目覚めて最初に感じたのは自分の肌がしっとりと濡れている感触だった。
雨でも降っているのだろうか？ ぼんやりとそう考える。
しかし、雨に打たれているにしては不思議と冷たくも寒くもなかった。
むしろ、何かに。誰かの温もりに包まれているように暖かく、心地よかった。
「にんげん、おきたっ！」
枕元でそんな叫び声が突然上がった。
周囲でザワザワと何かが動く音が聴こえ、幾つもの見知らぬ少女たちの顔が彼を覗きこんでくる。
彼の意識が急激に覚醒する。そして視界に並んだ顔を見上げてぎょっとなった。
一瞬、同じ顔が並んでいるのかと錯覚したからだ。
だが、よく見れば、顔立ちが似ているだけで、それぞれ別の顔だと分かった。
おそらく姉妹なのだろう。
「良かった。間に合った…」「ニンゲン、ゲンキになった？」「目が覚めた？」「大丈夫？」
少女たちが一斉に口を開き、それぞれに少年へと問いかけてくる。
「え…あの…うん…えっと…？」
しかし少年には口が１つしかない。
それに突然、見知らぬ少女たちに囲まれて、彼は混乱していた。
「全員、待てっ！」
その一喝により、彼女たちの質問攻めと動きが止まった。
少年も少女たちも声のした方を揃って振り返る。
薄明かりの中、少し年上に見える少女が立っていた。
彼女の姿を見て、少年は再び、ぎょっとなる。
頭から伸びる節くれだった触角。身体の要所を覆う黒い外皮。
人と甲虫が混ざり合ったような少女の姿はどう見ても人間ではない。
はっと気づき周囲を見回す。
彼を囲んでいる少女たちも皆、同じ姿をしていた。
魔物。
幼い頃、寝物語で聞いた事しかなかった怪物を目にして、彼は恐怖に震え上がった。
魔物は人間を食べる。そんな昔話が脳裏をよぎる。
「寒いの…？」
傍らからそんな声が聞こえた。
振り返ると触れるほどの間近に少女の顔が近づいていた。
彼女の身体から漂う汗の混じった甘い匂いに、少年の心臓が跳ねる。
「あっためてあげようか？」「わ、私も…」「ずるーい」「おしくらまんじゅう！」
弾かれたように少女たちは彼へと殺到し、柔らかい身体を遠慮なく押し付けてくる。
「だーかーらー！ 全員、止めっ！！」
再び一喝が響き、少女達はしぶしぶと離れていった。
「あの…僕、どうなるの…？ 食べられちゃうの…？」
少年はビクビクと怯えながら、震える声でそう尋ねた。
「私たちは人間を殺したりしないわ…」
年長らしい少女は彼を安心させるように微笑みながら答えた。
「生きていくために精を貰ったりするけどね」
「精？」
聞きなれない単語を耳にして彼は鸚鵡返しに聞き返す。
「オチンチンからでるシルのことだよー」
無邪気な声が聞こえたかと思うと少年の股間を未知の感覚が襲った。
「うわっ！？」
視線を落とせば、少女の１人が外皮に覆われた指先で彼の逸物を突いていた。
いまさらながら少年は自分が裸である事に気づき、慌てて両手で股間を隠す。
「ごめんね…もう貰っちゃったけど…」
別の少女が耳元でそう囁く。
彼女の身体は汗とは違う透明な液体と白く濁った液で汚れていた。
その少女だけではない。周りにいる少女たちは全て同じような有り様だった。
「一杯貰っちゃったぁ…」「美味しかったよ…？」「ギシキ、ギシキ！」
彼女たちはそれぞれ顔を赤らめながら一様に身体をくねらせた。
その光景に少年の鼓動が高鳴る。なぜ自分が興奮しているのか、分からなかいが。
「ぎ、儀式…？」
彼は身体の内に溜まった熱を吐き出すように疑問を発した。
「そうギシキ。美味しい人間のオスを、もっと美味しくする為のギシキ…」
年長の少女はそう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。
「よ、よく分かんないんだけど…？」
「わたしたちもわかんなーい」「美味しければ、別にいいよ」「賛成…」
新しい魔王によって、世界の理が変貌した時。
全ての魔物は魔物娘へと変わった。
それは全ての魔物娘が魔王の、サキュバスの魔力を帯びるようになったという事。
故に魔物娘と交わった男は徐々にインキュバスへと変わっていく。
大量の魔力を受けたインキュバスは普通の人間よりも高い能力を持つという。
ならば、インキュバスになる事で弱った命を救う事もできるかもしれない。
彼女たちにそんな意図があったのかどうかは定かではない。
ただ、少女たちは"もっと美味しい人間"―インキュバスが彼女たちを満足させてくれるタフな存在である事は知っていた。
「とりあえず、助かったのかな…」
少女たちから襲われない事が分かった少年は安堵の息を吐き出した。
むしろ、彼女たちに感謝するべきかもしれない。
あれほど痛んでいた傷も綺麗さっぱり消えていた。
緊張が解けたからだろうか。彼のお腹の虫がぐうと鳴った。
「お腹空いてるの？」
「うん、ここ何日も食べてないから…」
「じゃあ、ご飯をあげるね」
傍らの少女は優しく笑うと不意打ちで少年の唇を奪った。
＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃
少女の柔らかい唇が彼の唇に触れている。
少年は驚いて身体を離そうとするが、彼の頭は彼女の両腕によって抱えられていた。
少女の舌が彼の唇を割り開き、口内へと侵入する。
「んんぅっ！？」
互いの舌が絡み合うとそこを中心として、全身に正体不明の震えが走った。
少年の身体から力が抜け、抵抗する意志が奪われる。
そのまま、少女にされるがままになっていると彼女は唾液を彼の口の中へと流し込んできた。
次々と唾液が流し込まれ、少しずつ息苦しくなってくる。
だが、口は塞がれている為、吐き出す事もできない。
少年は仕方なく少女の唾液を飲み下した。
それは何故か甘い香りがした。
昔一度だけ食べた事のある蜂蜜入りのお菓子のような甘い香り。
「ふうっ…」
散々、唾液を流し込んで満足したのか、少女が口を離す。
「はぁ…っ」
解放された少年は息を整える為に深呼吸する。
彼がひと呼吸しない内に今度は別の少女が彼の唇を奪う。
「んぐっ！？」
彼女も同じように舌先で少年の唇をこじ開けると唾液を流し込んでくる。
その後、少女たちは代わる代わる少年へ唾液を与えた。
「も、もうお腹一杯だから…っ！」
一体何人の唾液を受け入れただろう。
流石にお腹一杯になり、唇が離れた瞬間、少年は自らの口を両手で覆った。
「ええー、もう！？」「まだキスしてないのに…」「わたしの番は…？」
キスをし損なった少女たちから不満の声が上がった。
「お腹一杯になった…？」
最初にキスをしてきた少女がそう尋ねてきた。
「う、うん…」
改めて尋ねられると恥ずかしい。けれど、それが嫌な訳ではなかった。
彼女たちとのキスはとても気持ち良く、心も身体も満たされた気分になる。
インキュバスは伴侶たる魔物娘の魔力を糧として生きていく事ができる。
少年はそんな事は露とも知らなかったが、彼の空腹は少女たちによって、満たされていた。
「それじゃあ、ご飯の後はエッチにしよ？」
少女はそう言うが否や彼の腰の上に跨る。
そして、キスですっかり準備万端となった少年の逸物に腰を落とした。
「あああぁぁっぁっ！」
彼の逸物は彼女の膣内へと勢い良く飲み込まれた。
「くぅっ！？ な、何…これ…！？」
初めて味わう蜜壺の感触に少年はわなないた。
少女の中は熱く濡れており、彼から精を搾り取らんと絶えず蠢き、締め付けてくる。
「あっ！ くぅっ！ ああぁぁぅっ！」
彼はその刺激にたまらず、身体を大きく震わせると彼女の膣内(なか)に精を吐き出した。
「あ♪ んぅっ♪ 熱いの…出てるぅっ♪」
奥壁に精液を受け、少女は身を震わせた。
「はうっ…」
少年はぐったりと息を吐き出す。だが、彼の息子はまだまだ元気一杯だった。
「あはっ…もっとぉ…はあぁんっ…欲しいよぉ…」
さらなる快楽と精を求めて、少女は彼の上で腰を振り始めた。
「うぅっ…！ や…やめ……」
抗議の声を上げようとした少年の口を別の少女が自らの口で塞いだ。
それを皮切りに少女たちが彼の身体へと群がってくる。
ある少女は彼の腕を取り、その指先を自分の秘所へと導き。
別の少女は彼の足の指を舐め、べっとりと唾液で汚していく。
そして、あぶれた少女たちは互いの身体の火照りを慰めあうように姉妹で交わり合う。
「んああっ…！ すごいぃぃっ…！ ひゃあぅ…オチンチン…すごいっ！」
「にゃあっ…ゆびぃ…！」「んむっ…あむぅ…っ」「…せ…切ないよぉ…あぁぁん…」
少年を中心に幾重にも少女たちの嬌声が響き、木霊していく。
彼女たちの喘ぎ声に包まれ、彼の射精感が高まっていく。
それはやがて限界を迎え、マグマのように噴き溢れた。
「ひゃううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅんんっっ！！」
たっぷり精を注がれた少女も同時に絶頂を迎えたらしく一際大きい叫びを上げた。
それが呼び水となったのか。あるいは少年が放った精の匂いを敏感に嗅ぎ付けたのか。
「あああああうううあああぁぁぁぁっ！！」
「あああぁぁぁっ！ うううぅぅぅっあん！！」
「イク！ イっちゃうぅぅぅぅっ！」
波紋のように絶頂の波が広がっていく。
全員、しばらく、荒い息で絶頂の余韻に喘いでいた。
だが、少年の上に跨っていた少女が腰を上げると全員が目の色を変えて起き上がる。
二度、精を放ったにも関わらず、彼の逸物は勢いを衰えさせる様子は見せなかった。
続けざまに別の少女が彼の上に跨り、逸物を蜜壺へと飲み込む。
周囲の少女が素早くローテーションし、それぞれが気持ち良くなる場所を確保する。
魔物たちの狂宴はまだまだ終わる気配を見せなかった。
少年は代わる代わる少女へと精を放つ。
けれど、それによって彼が空っぽになる事は無かった。
何故なら、出したものの代わりに。
少女たちから流れ込んでくる温かなものが彼を満たしてくれたから。
＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃
あれからどれ位の時が経っただろう。
時間の流れが気にならない程に彼は満たされていた。
飢えも無く。乾きも無く。
彼を必要とする温もりと。彼が必要とする温もりに包まれた場所。
世界は苦しみで満ちている。
それでも、きっと。
誰もが幸せになれる場所がある。
その拍子に彼の腕から林檎が地面へと転がる。
空腹による眩暈の所為なのか。あるいは何かに足を取られた所為なのか。
飢えと打ちつけた身体の痛みで朦朧とする頭では判然としない。
けれど今すべき事だけは分かる。
一刻も早く立ち上がって逃げなければ…。
だが、彼がその思いを遂げるより早く。曲がり角の向こうから男が姿を現した。
「この盗人のクソガキが！」
男の怒号が通りに響き渡る。その声に通行人が何事かと振り返えった。
しかし、ほとんどの通行人たちは一瞥で事情を察し、途端に興味を失くして立ち去っていく。
立ち止まった人間達も面白半分で見物している連中か、わずかな同情を浮かべている傍観者に過ぎない。
この街で少年のような、浮浪児の子供など珍しくない。
そして、彼らが食う為に盗みを働く事も。
「覚悟はできているんだろうなぁっ！」
怒りに身を震わせながら男は手にした棒切れを振り上げる。
確かにこんな事件は珍しくもない。
しかし、盗まれる方からすれば、容認できる事でもなかった。
微かな風切り音とともに棒切れが振り下ろされる。
「ぐうっ…！？」
背中に鋭い痛みが走り、焼け付くような熱さを帯びていく。
何度も。何度も。叫びとともに棒切れが振るわれた。
少年はただ痛みに耐える事しかできない。
亀のように身を縮め、嵐のような暴力が通り過ぎるのを待つ。
やがて、男も息が切れたのか。その手が止まった。
「余計な手間をかけさせやがって…！」
彼は路上に転がった林檎を１つ残らず拾い集める。
「役人に突き出されなかっただけ、ありがたく思え…！」
男はそう吐き捨てると立ち去っていった。
後に残されたのはボロ雑巾のように路上に転がる少年、只１人。
それもスラムでは珍しい光景でもなかった。
呼吸をする度に身体中の傷が痛んだ。
少年は身を起こそうと身体を動かす。わずかに動かしただけでも全身に激痛が走った。
痛みに呼吸が止まり、空気を求めて喘ぐ。
もう何日も食べていない。
先程の疾走で残っていた体力を全て使ってしまった。
カラカラに乾いた喉がひゅうひゅうと音を立てる。
彼は息を吐き出す毎に自分の中から気力がゆっくりと抜けていくのを感じた。
夜でもないのに視界が暗くなっていく。
通りの喧騒が徐々に静かになっていき、世界が遠くなっていく。
ああ、僕は死ぬのか。
薄れいく意識の中で彼はぼんやりとそう思った。
死ぬのは怖い。けれど同時にそれを安堵する気持ちもある。
天国へ行けば、もう飢えや乾きで苦しまなくてもいいだろう。
そんな事を考えながら、少年の意識はプツリと途切れた。
＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃＃
夜の闇の中で何かがゴソゴソと動いた。
建物の間から覗いた月の光を浴び、それは黒い輝きを反射した。
夜の街を徘徊するその人影はふと地面の上に横たわっている美味しそうな匂いに気づいた。
彼女が歩く度に下半身を覆う黒い甲冑がキチキチと軋むような音を立てる。
月明かりに照らされて露になったのは少女の白い顔だった。
彼女は素早く、その美味しそうな匂いへと近づくとその傍らにしゃがみ込む。
匂いの元を覗き込んでみると、それが人間のオスだと分かった。
まだ、若いオス。だが、十分に美味しそうな匂いがする。
少女は己の劣情が命じるまま、その少年の衣服を破る。
元々、ボロ布のような服は簡単にバラバラになった。
彼女は彼の身体を抱き起こし、そして動きを止めた。
それは少年が、かなり衰弱している事に気づいたからだ。
見れば、身体中のいたる所に傷がある。このまま放っておけば死んでしまうだろう。
それが分かった途端、彼女の心に不思議な感情が湧き上がった。
いままで感じた事の無い不思議な心の動き。
彼女は今すぐにでも人間と交わって気持ち良くなりたかった。
けれど、彼女は人間にも気持ち良くなって欲しいとも思った。
少女が自分の心に戸惑っていると背後から声がかかった。
「どうしたの？」
振り返ると直ぐ傍に少女の姉が立っていた。
「姉さん、この人間が…」
「…大分弱っているわね」
姉は触角をユラユラとさせながらそう呟いた。
「何とかならないかな…？」
妹は縋るような視線を姉へと向ける。
「…そうね、"ギシキ"が間に合えばなんとかなるかもね」
姉はしばらく考え後、そう答えた。
「とりあえず、巣に連れ帰りましょう」
「わかったわ、姉さん」
妹は姉の言葉に頷くと裸の少年を背負う。
その身体は驚くほど軽かった。
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少年が目覚めて最初に感じたのは自分の肌がしっとりと濡れている感触だった。
雨でも降っているのだろうか？ ぼんやりとそう考える。
しかし、雨に打たれているにしては不思議と冷たくも寒くもなかった。
むしろ、何かに。誰かの温もりに包まれているように暖かく、心地よかった。
「にんげん、おきたっ！」
枕元でそんな叫び声が突然上がった。
周囲でザワザワと何かが動く音が聴こえ、幾つもの見知らぬ少女たちの顔が彼を覗きこんでくる。
彼の意識が急激に覚醒する。そして視界に並んだ顔を見上げてぎょっとなった。
一瞬、同じ顔が並んでいるのかと錯覚したからだ。
だが、よく見れば、顔立ちが似ているだけで、それぞれ別の顔だと分かった。
おそらく姉妹なのだろう。
「良かった。間に合った…」「ニンゲン、ゲンキになった？」「目が覚めた？」「大丈夫？」
少女たちが一斉に口を開き、それぞれに少年へと問いかけてくる。
「え…あの…うん…えっと…？」
しかし少年には口が１つしかない。
それに突然、見知らぬ少女たちに囲まれて、彼は混乱していた。
「全員、待てっ！」
その一喝により、彼女たちの質問攻めと動きが止まった。
少年も少女たちも声のした方を揃って振り返る。
薄明かりの中、少し年上に見える少女が立っていた。
彼女の姿を見て、少年は再び、ぎょっとなる。
頭から伸びる節くれだった触角。身体の要所を覆う黒い外皮。
人と甲虫が混ざり合ったような少女の姿はどう見ても人間ではない。
はっと気づき周囲を見回す。
彼を囲んでいる少女たちも皆、同じ姿をしていた。
魔物。
幼い頃、寝物語で聞いた事しかなかった怪物を目にして、彼は恐怖に震え上がった。
魔物は人間を食べる。そんな昔話が脳裏をよぎる。
「寒いの…？」
傍らからそんな声が聞こえた。
振り返ると触れるほどの間近に少女の顔が近づいていた。
彼女の身体から漂う汗の混じった甘い匂いに、少年の心臓が跳ねる。
「あっためてあげようか？」「わ、私も…」「ずるーい」「おしくらまんじゅう！」
弾かれたように少女たちは彼へと殺到し、柔らかい身体を遠慮なく押し付けてくる。
「だーかーらー！ 全員、止めっ！！」
再び一喝が響き、少女達はしぶしぶと離れていった。
「あの…僕、どうなるの…？ 食べられちゃうの…？」
少年はビクビクと怯えながら、震える声でそう尋ねた。
「私たちは人間を殺したりしないわ…」
年長らしい少女は彼を安心させるように微笑みながら答えた。
「生きていくために精を貰ったりするけどね」
「精？」
聞きなれない単語を耳にして彼は鸚鵡返しに聞き返す。
「オチンチンからでるシルのことだよー」
無邪気な声が聞こえたかと思うと少年の股間を未知の感覚が襲った。
「うわっ！？」
視線を落とせば、少女の１人が外皮に覆われた指先で彼の逸物を突いていた。
いまさらながら少年は自分が裸である事に気づき、慌てて両手で股間を隠す。
「ごめんね…もう貰っちゃったけど…」
別の少女が耳元でそう囁く。
彼女の身体は汗とは違う透明な液体と白く濁った液で汚れていた。
その少女だけではない。周りにいる少女たちは全て同じような有り様だった。
「一杯貰っちゃったぁ…」「美味しかったよ…？」「ギシキ、ギシキ！」
彼女たちはそれぞれ顔を赤らめながら一様に身体をくねらせた。
その光景に少年の鼓動が高鳴る。なぜ自分が興奮しているのか、分からなかいが。
「ぎ、儀式…？」
彼は身体の内に溜まった熱を吐き出すように疑問を発した。
「そうギシキ。美味しい人間のオスを、もっと美味しくする為のギシキ…」
年長の少女はそう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。
「よ、よく分かんないんだけど…？」
「わたしたちもわかんなーい」「美味しければ、別にいいよ」「賛成…」
新しい魔王によって、世界の理が変貌した時。
全ての魔物は魔物娘へと変わった。
それは全ての魔物娘が魔王の、サキュバスの魔力を帯びるようになったという事。
故に魔物娘と交わった男は徐々にインキュバスへと変わっていく。
大量の魔力を受けたインキュバスは普通の人間よりも高い能力を持つという。
ならば、インキュバスになる事で弱った命を救う事もできるかもしれない。
彼女たちにそんな意図があったのかどうかは定かではない。
ただ、少女たちは"もっと美味しい人間"―インキュバスが彼女たちを満足させてくれるタフな存在である事は知っていた。
「とりあえず、助かったのかな…」
少女たちから襲われない事が分かった少年は安堵の息を吐き出した。
むしろ、彼女たちに感謝するべきかもしれない。
あれほど痛んでいた傷も綺麗さっぱり消えていた。
緊張が解けたからだろうか。彼のお腹の虫がぐうと鳴った。
「お腹空いてるの？」
「うん、ここ何日も食べてないから…」
「じゃあ、ご飯をあげるね」
傍らの少女は優しく笑うと不意打ちで少年の唇を奪った。
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少女の柔らかい唇が彼の唇に触れている。
少年は驚いて身体を離そうとするが、彼の頭は彼女の両腕によって抱えられていた。
少女の舌が彼の唇を割り開き、口内へと侵入する。
「んんぅっ！？」
互いの舌が絡み合うとそこを中心として、全身に正体不明の震えが走った。
少年の身体から力が抜け、抵抗する意志が奪われる。
そのまま、少女にされるがままになっていると彼女は唾液を彼の口の中へと流し込んできた。
次々と唾液が流し込まれ、少しずつ息苦しくなってくる。
だが、口は塞がれている為、吐き出す事もできない。
少年は仕方なく少女の唾液を飲み下した。
それは何故か甘い香りがした。
昔一度だけ食べた事のある蜂蜜入りのお菓子のような甘い香り。
「ふうっ…」
散々、唾液を流し込んで満足したのか、少女が口を離す。
「はぁ…っ」
解放された少年は息を整える為に深呼吸する。
彼がひと呼吸しない内に今度は別の少女が彼の唇を奪う。
「んぐっ！？」
彼女も同じように舌先で少年の唇をこじ開けると唾液を流し込んでくる。
その後、少女たちは代わる代わる少年へ唾液を与えた。
「も、もうお腹一杯だから…っ！」
一体何人の唾液を受け入れただろう。
流石にお腹一杯になり、唇が離れた瞬間、少年は自らの口を両手で覆った。
「ええー、もう！？」「まだキスしてないのに…」「わたしの番は…？」
キスをし損なった少女たちから不満の声が上がった。
「お腹一杯になった…？」
最初にキスをしてきた少女がそう尋ねてきた。
「う、うん…」
改めて尋ねられると恥ずかしい。けれど、それが嫌な訳ではなかった。
彼女たちとのキスはとても気持ち良く、心も身体も満たされた気分になる。
インキュバスは伴侶たる魔物娘の魔力を糧として生きていく事ができる。
少年はそんな事は露とも知らなかったが、彼の空腹は少女たちによって、満たされていた。
「それじゃあ、ご飯の後はエッチにしよ？」
少女はそう言うが否や彼の腰の上に跨る。
そして、キスですっかり準備万端となった少年の逸物に腰を落とした。
「あああぁぁっぁっ！」
彼の逸物は彼女の膣内へと勢い良く飲み込まれた。
「くぅっ！？ な、何…これ…！？」
初めて味わう蜜壺の感触に少年はわなないた。
少女の中は熱く濡れており、彼から精を搾り取らんと絶えず蠢き、締め付けてくる。
「あっ！ くぅっ！ ああぁぁぅっ！」
彼はその刺激にたまらず、身体を大きく震わせると彼女の膣内(なか)に精を吐き出した。
「あ♪ んぅっ♪ 熱いの…出てるぅっ♪」
奥壁に精液を受け、少女は身を震わせた。
「はうっ…」
少年はぐったりと息を吐き出す。だが、彼の息子はまだまだ元気一杯だった。
「あはっ…もっとぉ…はあぁんっ…欲しいよぉ…」
さらなる快楽と精を求めて、少女は彼の上で腰を振り始めた。
「うぅっ…！ や…やめ……」
抗議の声を上げようとした少年の口を別の少女が自らの口で塞いだ。
それを皮切りに少女たちが彼の身体へと群がってくる。
ある少女は彼の腕を取り、その指先を自分の秘所へと導き。
別の少女は彼の足の指を舐め、べっとりと唾液で汚していく。
そして、あぶれた少女たちは互いの身体の火照りを慰めあうように姉妹で交わり合う。
「んああっ…！ すごいぃぃっ…！ ひゃあぅ…オチンチン…すごいっ！」
「にゃあっ…ゆびぃ…！」「んむっ…あむぅ…っ」「…せ…切ないよぉ…あぁぁん…」
少年を中心に幾重にも少女たちの嬌声が響き、木霊していく。
彼女たちの喘ぎ声に包まれ、彼の射精感が高まっていく。
それはやがて限界を迎え、マグマのように噴き溢れた。
「ひゃううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅんんっっ！！」
たっぷり精を注がれた少女も同時に絶頂を迎えたらしく一際大きい叫びを上げた。
それが呼び水となったのか。あるいは少年が放った精の匂いを敏感に嗅ぎ付けたのか。
「あああああうううあああぁぁぁぁっ！！」
「あああぁぁぁっ！ うううぅぅぅっあん！！」
「イク！ イっちゃうぅぅぅぅっ！」
波紋のように絶頂の波が広がっていく。
全員、しばらく、荒い息で絶頂の余韻に喘いでいた。
だが、少年の上に跨っていた少女が腰を上げると全員が目の色を変えて起き上がる。
二度、精を放ったにも関わらず、彼の逸物は勢いを衰えさせる様子は見せなかった。
続けざまに別の少女が彼の上に跨り、逸物を蜜壺へと飲み込む。
周囲の少女が素早くローテーションし、それぞれが気持ち良くなる場所を確保する。
魔物たちの狂宴はまだまだ終わる気配を見せなかった。
少年は代わる代わる少女へと精を放つ。
けれど、それによって彼が空っぽになる事は無かった。
何故なら、出したものの代わりに。
少女たちから流れ込んでくる温かなものが彼を満たしてくれたから。
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あれからどれ位の時が経っただろう。
時間の流れが気にならない程に彼は満たされていた。
飢えも無く。乾きも無く。
彼を必要とする温もりと。彼が必要とする温もりに包まれた場所。
世界は苦しみで満ちている。
それでも、きっと。
誰もが幸せになれる場所がある。
11/06/29 07:52更新 / 蔭ル。