外伝 何も知らぬ者達
魔界には学校という児童養育施設がある
魔王が代替わりした後に急速に発展を遂げた魔界に、ここ数年の間にできた
出来るまでに至った理由は多々あるが、有力なのは「魔王様の暇つぶし」らしい
しかし、気まぐれで作ったにしては制度もしっかりしているし、本来学ぶことの出来ない魔法や
魔王軍の騎士団長が剣の指南をしてくれるなどの高い教育の質から数年のうちには魔物の
親達はこぞって自分の子供を学校に入れてやったのだ
学校の制度は瞬く間に魔界の各所に広がり、現在では義務教育化の話すら
持ち上がっている
今回はそんな学校に通っていたあの三人のちょっとした昔話・・・・
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・えーと」
ナイトメアが目の前の三人を身ながらオロオロとしている・・・・
机の上には一つのケーキ、かわいらしいショートケーキ、ホイップの上には特大のイチゴが
乗っている
そんなケーキを囲むようにして
「やはり、ここは尋常に剣で勝負と言うことにしてはどうだろうか」
デュラハンのヴァネッサが
「それじゃあどう考えたってアンタが勝に決まってるでしょ?却下よ」
ヴァンパイアのヴィオレットが
「そうじゃ、良い案があるぞ?」
「「聞こう」」
「その辺のインキュバスに三人のパンツを差し出して、誰のパンツを
受け取るのかで決めればよい」
バフォメットのベルベレットがいた
「ええーっと・・・・公平にジャンケンでいいんじゃないのかな?」
「パーラ・・・・それは余りにも面白くない」
「パンツ渡す案よりは100倍増しだけど、ジャンケンで事が決しては
ヴァンパイアであることに意味がないわ」
「やはりここは剣で勝負を・・・・」
バーラと呼ばれたナイトメアは頭から大粒の汗を流しながら引いていた
彼女はパーランド・リメイソン、愛称はパーラ。見ての通りナイトメアだ。
この四人は学園内では常に行動を共にしているグループである
といっても・・・・一人は滅多に姿を現さないのだが
「良いわ!!この際だからいろんなことに決着をつけましょう!!
単刀直入!!この三人の中で一体誰が魔物として魅力的か!!」
「ほぉ・・・大きくでてきたなヴィオ」
「して、どうして判別する?」
「自分が一番と思っている私たちが話し合いで解決できるわけもなし、ならばいっそのこと
他人の手にゆだねるのも一興」
ヴィオレットは隣でポークビーンズを食べていたインキュバスの胸ぐらをいきなり掴みあげる
「あんた」
「は、はい!?」
困惑してなにがなにやらといった彼にヴィオレットは冷めた目で見下ろしている
「私たちの中で誰が一番魅力的か選びなさいな」
「うえええええ!!?」
「私を選ばなかったら・・・・分かっているわよね?」
「タ、タタタタンマです!僕には将来を誓った彼女が!!」
「選ぶだけじゃ、浮気などにはなるまいて・・・存外ウブな男のようじゃの」
「私はもっとしっかりしている男が良いが・・・・」
「さあモヤシ君?」
「勝手に不名誉極まりないあだ名がついてる!?」
「選びなさい」
「ええっと・・・・それじゃあ・・・・そっちのナイトメアさんで・・・」
「「「・・・・・」」」
バーラは突如指名されたことにより顔に蒸気を沸かせて真っ赤になった
その仕草が何ともかわいらしい
三人は机に突伏している
「あれか、ツンデレとかロリババアとか武道娘はすでに終わったのか?
終了のお知らせなのか?」
「まだじゃ・・・・まだ終わらんよ」
「ていうかあんたは若干武道娘かどうか分からないわ・・・・」
もやし君(仮)は部屋の片隅で炒められていた
「のぅパーラよ、もうお主が食べてはどうじゃ?イチゴが嫌いだからといって儂等にくれたが、
このままではこのケーキも・・・・」
ベルベレットが視線を机の上のケーキに戻したが
そこにはすでにケーキの姿など影も形もなかった
「ケーキが・・・・」
「テクノブレイクしおった・・・」<ゴス!
ヴィオレットのチョップがベルベレットの頭にたたき込まれゴロゴロと床をのたうち回る
ヴィオレットはあからさまに不機嫌そうな顔で後ろを振り向くとそこには紅茶を飲みながら
優雅にケーキを頂いている少女がいた
「またあんたなの?ジェリエッタ」
「何のことかしらヴィオレット、私は「自分のケーキ」を食べているだけよ?」
ジェリエッタという少女はニヤニヤ笑いながら頬杖をつく
しかしヴィオレットはため息をはいていすに座り直す
「あら、噛みついてこないのね?」
「また、貴方のものは私の物っていう屁理屈こねるだけでしょ、不毛だわ」
「なーんのことかしら、フフ、美味しい♪」
彼女はジェリエッタ・フルスタニア
名門フルスタニア家 ヴェスティア・フルスタニア公爵の令嬢
魔界の中でも特に地位が高いヴァンパイアの貴族である
みての通り、ヴィオレットと彼女は犬猿の仲である
家同士のつき合いは良いのだが、どうにも二人の反りはあわないらしい
「さて、ケーキも片づいたことだし・・・この後の発表会のことなんだけど」
まるでジェリエッタなど意にも介さぬといった具合に無視をしながら話を始めたヴィオレット
「ようやっと形になったのぉ・・・・取りかかってから4ヶ月、ずいぶんかかった
ものじゃわい」
「仕方ないだろう、夏休みの自由研究程度の物で済ますつもりはないのだから
途中経過を発表しながら、資金を出資してもらって・・・ようやくここまでこぎ着けてきたんだ」
「苦節の日々であったのぉ」
「あんたは滅多に学校に来ないでしょうが!!ほとんど私たちがやったようなものじゃない!
人間を観察してる暇があれば手伝えっての!!」
「ちゃんと資料などは捻出したじゃろうに」
「うん、私も術式を歓声させるのにすごい役にたったよ、でも、
今日でやっと一区切りってところだね?」
「ええ、パーラも無理言って悪かったわね?レポート一人で任せちゃって」
「仕方ないよ、私は魔力の操作あんまり上手くないし・・・それにほら、私、物を書くの得意だから
・・・・・ヴィオちゃん!?」
「?」
パーラの慌てように疑問符を浮かべたときにはすでに遅かった
ヴィオレットの頭からよく冷えた液体が頭から降り注ぎ濡れる・・・・
「あっつぅ!!!?」
ヴィンパイアの弱点の一つに、流水ありけり
白い液体を頭からかぶり、煙をあちこちから出していた
「ヴィオレットがケフィアまみれに!?」
「本当にケフィアなところがミソじゃな」
「二人とも落ち着いてないで!!」
パーラはハンカチでヴィオレットが頭からかぶったケフィアをふき取ってやる
「も、申し訳ございません!!何かにつまづいてしまって・・・・!!」
申し訳なさそうに頭を下げるゴーレムの娘、おそらく下級生で
ヴィオレットの顔も名前も知っているのだろう
「あなたは気にすることはないわ、誰にだって失敗はあるんですもの」
そうゴーレムに声をかけてやったのはジェリエッタであった
彼女は蔑むような目をヴィオレットに向けている
「ジェリエッタ・・・・あんたいい加減私にちょっかい出すのやめなさいよ!!」
「あら?彼女が転んだのは私のせいだとでもいうのかしら?」
確かにジェリエッタが足をかければゴーレムの娘が転び、その先にいる
ヴィオレットのケフィアがかかるかもしれないが・・・・
「ジェリエッタよ、お前がヴィオレットと犬猿の仲なのは知っているが」
「ヴァネッサさん?私はそんな仲にすらなったつもりはなくてよ」
「そうか、しかし・・・・その関係にあまり他の者を巻き込まんことだ」
「・・・・・・フフ、失礼するわ」
ジェリエッタはあくまでシラを通してその場を去ろうとしたが・・・・
ヴィオレットの横に立って彼女を拭いてあげているパーラの前に立ち・・・
「退いてくださる?大きくて獣臭い体が邪魔なのです」
「は・・・・ぅ・・・・はい・・・」
「ちょっとあんたねえ!!」
「のぅ、ジェリエッタ」
ベルベレットの鎌の切っ先がギラリとジェリエッタの喉元に突きつけられる
「何かしら?」
「儂からも一つ忠告じゃ・・・・儂の前であまり過ぎた口は開かぬ事じゃ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふふ、気をつけるわ」
そう言ってジェリエッタはゆらりゆらりと歩いていった・・・・ベルベレットの覇気に他の三人も
口を閉ざしてしまっていた
伊達にバフォメットではない、という所か
ベルベレットは鎌を消してイスから立ち上がる
「さて、そろそろ儂等も行こうかのぉ?」
「その前にヴィオレットを綺麗にしなければな・・・・魔力プールに連れていくとしよう」
「あの女・・・・ただじゃすまないんだから・・・・・」
「・・・・・・ええっと、私は大丈夫だからね?」
とまあ・・・・これがここでの三人の日常である
いつの時代も女の戦いというのは苛烈であるようだ。
余談ではあるが、例え女の戦いを目の前にみたとしても首を突っ込まぬ事である
下手に首を突っ込めば両方敵となり収拾がつかなくなることが多々ある
女の戦いは男の戦いと違って丈夫で長持ち、効果もよく続くので
なるべく関わらないようにすること
そんな余談もおいておき、お話の続きに戻りましょう
大きな大教室の中、様々な魔物たちと少数のインキュバスが集まっていた。
女が三人よれば姦しいというが、ここまであつまると姦しいどころではない。
すぐ横の会話すらも聞こえないほど彼女たちの雑談の声が上がっている
まあ内容の程は人間のそれとあまり変わらない
彼氏がどうとか、化粧品がどうとか、勉強のグチであるとか。
なんともホノボノと心温まる光景である
そんな騒がしい大教室の教壇に一人のワーバットが立った、
ジーンズにタンクトップというなんともラフな格好をしているがこれでも一応教師である
名前はセザンヌ・カルマデッフェ
自由奔放、傍若無人な態度で振る舞っているが面倒見がよく生徒たちからは慕われている。
胸が大きくて飛びにくいことが永遠の悩み。
彼女の登場に気づいたのか、一部の生徒は慌てて口を閉じて耳に手を当てる
およそ半分の生徒が耳をふさいだが、残り半分はそのまま喋っていた
「スゥ〜〜〜〜〜」
セザンヌが大きく息を不吸い込み
「――――――――――――――――――――――――!!」
超音波
高周波を発生させることができる上顎と下顎の犬歯をかみ合わせて
そのまま高周波を発生させると、振幅がドえらい数値をはじき出すほど高い音波が発生する。
騒がしい生徒を黙らせるには一番であるが、これにより数人の生徒が
意識を失う。まあ、ご愛敬という事だ
「全く・・・・授業ベルを私の超音波に変えてやろうか!?始まる1分前には授業を受ける態度を
とりやがれ!」
セザンヌの厳しい声とやってほしくない提案が飛ぶ
「今日は二ヶ月に一度の発表会だ、それぞれ研究してきたテーマもだいたいは形になってきた頃だろ?この発表は前から言ってるとおり内申にすげえ響くからな、しっかりやれよ?」
すでにあなたの超音波が私の耳に響いています
「先生、少し質問が」
耳がズキズキと痛んでいるワーウルフが手を挙げて質問してきた
「んだよ」
「隣の教室が偉く騒がしいようですが・・・・」
確かに、セザンヌの超音波で教室の中は静かになった
だが、まだ騒音は聞こえてくる・・・・ワーウルフの言うとおり隣の部屋からなにやら楽しそうに
騒ぐ声が聞こえてくるのだ
「ああ、下級生が隣の家庭科室で調理実習だとよ」
「先生!私は調理実習の見学がしたいです!」
「オオ良いぞ行ってこい、単位がいらないなら行ってこい」
「セザンヌ先生・・・・単位がほしいです」
「お前はもっと机と向き合うことだ、さあ時間も押してるんだ、さっさとはじめっぞ」
パンパンとコウモリの翼をたたきあわせる、結構良い音がしたり
「トップバッターは・・・・・ああ、ベル達んところだな?なんつかお前が学校にきてるのも
珍しいが・・・・」
「失敬な、こんなにまじめな生徒がどこにおる」
「一ヶ月に一回くらいしか顔を出さない奴をまじめとは言わん・・・まあいい、
準備はできてるか?」
「愚問じゃぞセザンヌ先生、このベルベレット・アナスタシア何時でも男子更衣室に忍び込む
準備はできてい」ゴスッ!
ヴァネッサとパーラ、ヴィオレットが教壇の上に立ち、ベルベレットは
頭にタンコブを作りながら立っていた
「それでは始めます」
「ああ」
もうベルベレットの奇行にも皆は慣れたのか、全員がスルースキルを発動させていた
「我々の研究のテーマは周知の通り」
「純度の低い魔石を精錬し、純度100の魔石を作り上げることです」
「魔界が急速な発展を遂げたのは魔石の力による所も大きいのは皆さん知っていると思う、
しかし現在、その急速な発展から純度の高い魔石の流通が少なくなってくるという懸念を
魔王様は予見された」
「儂が休日に二度寝をしようと布団の中でごろごろしていたところな、採れないのならば
造ればいいという発想に至り研究を始めた訳じゃ」
「「「・・・・・・・・」」」
三人はどうやら発想の発端の理由を聞いていなかったらしい
言葉に詰まっていた
「依然までの途中経過で、純度がきわめて低いカスのような魔石を不純物と分離することに
成功していたわけじゃがな分離の段階で液体に変えてしまった魔石を再び個体にどうやって
戻すかが課題であった」
「それをパーラが独自の術式で、結晶化に成功させました」
そう言いながらヴィオレットはベルベレットに目配せをするとベルベレットは
フィンガースナップをして空間を裂き裂け目の中からソレを取り出した
ソレをみて皆が感嘆の声を上げる
それはまるでバラの花を象ったような美しい造形の魔石、不純物0の証である月のような
光を放っている・・・・
「ってことは、お前等の研究は成功したのか?」
「そういうことです、セザンヌ教諭」
「いや・・・・なんていうか・・・・お前等ケロっとした顔してるが、歴史に名を残すことようなこと
やってるんだぜ?」
再び教室にどよめきが沸き上がる・・・・
ベル達4人はたいそう満足げと行った表情でお互いに笑いあっていた
「お待ちなさいな」
そんなどよめきの中、ひときわ大きな声がまったをかけた
「・・・・・・」
ヴィオレットの表情が険しくなる・・・・その声を上げたのはジェリエッタだからだ
「ソレが本当に精錬してできた魔石なのかどうかという確証はありませんわ」
「どういう意味だ」
「確かにソレは純度100の魔石・・・・美しいことも認めます。ですが、それをあなた方が
造ったという証拠がありませんわよ?」
「過程や結果はパーラがレポートにまとめている。後で読めばいいだろう」
「そこにかかれているのが嘘八百であるとしたら?だいたい、ナイトメア如きの
者がそんな術式を完成できるわけありません」
その言葉にベルベレットとヴァネッサが顔を険しくした。二人は裂け目から
鎌と剣を取り出した
「やめなさいな、二人とも」
ヴィオレットの声が二人を止めた
「ようは証明すればいいんでしょう?この魔石を造ったのは私たちだって言うことを」
「・・・・・・」
「なら見せてやろうじゃないの・・・・・先生、ちょっと時間をもらえるかしら?
10分で準備します」
「ああ・・・・その間に他の班の発表をすませちまうぞ〜」
そういって再び手をパンパンとたたくと、ヴィオレット達はお互いの視線を
併せてうなづくと、その場から霧のように消えた
「・・・・・・なにやってんだおまえ」
「むぅ・・・・なぜに空間跳躍だけはうまくイカンのじゃろなあ」
ベルベレットの生首が生えていた
〜10分後〜
「キングクリムゾン!!!」
ヴァネッサが何か言ってる
「頭のネジ大丈夫?」
「案じるな、一度言ってみたかっただけだ」
「??」
床には巨大な魔法人が描かれ、中心には所々黒ずんだ宝石が一つ。
それを囲むようにベルベレットとヴァネッサ、ヴィオレットが立っていた
「それではこれより儂等の研究の集大成を皆々様方にご覧いただこう。解説はおなじみ
パーランド・リメイソンがお送りするぞぃ」
「が、頑張ります!」
「お前は生成には参加しないのか?」
「私は・・・・魔力の操作が苦手で・・・」
「パーラは術式や理論、レポートを受け持ち。私たちは生成を受け持った。
適材適所と言うものだ」
「ん・・・・それじゃあそろそろ始めてくれ」
「はい、それはこれより<未来の旦那さんに喜んでもらう料理を造るわよ!
「「「・・・・・・・・・」」」
隣の部屋から調理実習の先生の声が漏れていた・・・・嫌な予感しかしない
「え、えっと・・・・実際にやっているところを説明していきます。皆、お願いします」
「うむ」
ベルベレット達が手をかざして地面に描いた魔法陣に魔力を篭めると
管の中を水が走るように光が走り、魔法陣は美しい光で輝き始める
「まず、魔石を<割ってボールの中でかき混ぜるの、愛を篭めてね
隣の教室では卵料理を始めたらしい
「ま、魔石を精錬しやすい状態、魔力体に変換します」
中心に置賜石がゆっくりと宙に浮き初めてくるくると回転を始めた
その回転は徐々に早さを増していく
<ああ〜あ、そんなに強くやっちゃだめよ!こぼれてるじゃないのよ!
もっと丁寧に・・・そう、力任せにしないで・・・そう、上手よ
本当に卵料理を造っているのかはなはだ疑問である
そうこうしているうちに魔石は個体としての形を失い、液体のような姿になった。
丸いワインレッドの液体がくるくると回転している
「本来、魔石を魔力体に変えるのだって一流の錬金術師でも
苦労するもんだが・・・・それをこうも簡単にやってのけるか」
「このパーラ考案の魔法陣のおかげじゃよ」
「私も、初めてやったときは鳥肌覚えちゃったわ」
「えっと・・・・それじゃあ次に、この変換した魔力体に
<塩と胡椒、あと味の●とかいれてくの、入れすぎないようにね?
他にも愛液とか、でる人は母乳とか、上級者はおしっ●とかね
味付けに入ったようだ
「・・・・魔力体の中にある不純物を分離、隔離します」
「ヴィオレット、ヴァネッサ」
「わかってるわよ」「承知している」
ヴィオレットとヴァネッサがいったん魔力操作を切って
別の方向を向くいて再び手を中空にかざすと魔法陣の中に
別の色の魔法陣が浮かび上がる
「これは・・・・複合魔法陣か?」
「別々の操作を別々の魔法陣で行っては精度にかけるので、思い切って
<熱したフライパンにゆっくり卵を注ぐのよ、そう、ゆっくりね
卵が焼けている音が聞こえてくる、とても美味しそうである
「・・・・お、思い切って、一つの魔法陣でやれば、いいかなって」
パーラは半泣きであった
「あ〜あ〜、これもパーラが考えたものか?」
「ああ、仮定にある二万五千を越える魔法を順番に、瞬時に発動させ魔力体の自然融解を
最小限にとどめつつ次の工程に移ることができるんだ」
「まったく大した頭脳じゃて、儂も考案書を家で読ませてもらったが・・・・
我らバフォメットも形無しじゃ」
「そんな・・・ベルのお姉さんに比べたら私なんて・・・・」
「姉上とてきっと賞賛してくれるじゃろうて、もっと自分に自信を持て
<頑張れ頑張れ出きる出きる出きる君なら出きる頑張れ頑張れ頑張れ
そうこう話をしているうちに魔力体は二つに分離され
黒い球体と、真水のような液体が二つ空中でくるくると回転している
「ご存じの通りだが、純魔力とは不純物が入っていない、つまりあらゆる性質に染まって
いない魔力のことをいうのだが、この純度の高い魔力は周囲にある様々なものに影響されて
すぐに別の性質を持つ魔力に変わってしまう」
「誘惑や、破壊のエネルギーを持つ着色魔力のことだな」
「この魔法陣の上で回転をしていれば不純物が混入することはないが、
このままでは結晶化ができない・・・・それが先の発表会からの問題点であったが・・・・」
「やっぱりパーラが?」
「ええ♪」
「えへへ・・・・」
回転する純魔力体が徐々に平べったく・・・・まるで皿のようになっていく
そして、薄い輪へと姿を変えた
「先日行われた学園祭で、ジパングの魔物さんたちが催した綿飴から発想を得ました」
「あれは溶かした飴を小さな穴から噴出させて蜘蛛の糸のように出して
箸に絡みつけると言うものじゃ」
「同じ原理で、純魔力をとばして中央にぶつけてやればできるんじゃないかなって思って、
それでやってみたら<オムレツになってるじゃない
輪の内縁から少しずつだが光が漏れて・・・・
そして、中心には特殊な術式が展開し、漏れた純魔力が集まっていく・・・
光は徐々に中心で固形化して、まるで薔薇の蕾のようになりはじめた
「おお・・・・すげえ・・・・これが<ママの味、卵焼きよ
美味しくできあがったらしい
時を同じくいて、輪が完全になくなって、魔法陣の中心には
薔薇の花の形をした魔石が浮き上がっていた・・・
純度100%証、ムーンライトの光が神々しく放たれていた
教室から一斉に歓声と拍手が沸き上がった
魔法陣を操作していた三人も手を止め、四人はお互いに手を叩きあった
「ただ、この術式を展開し続けるのに膨大な魔力と集中力を要します。
操作を別々に行わなければならない点を見ても、まだまだ改良しなければ
いけない部分もあります・・・」
「それがこれからの課題じゃな、抽出した不純物もどうするか・・・・
まあ、まだまだやることは多そうじゃて」
「OKOK,十分だ・・・・お前等の研究には脱帽モンだよ全く・・・・これからも慢心することなく、
研究を昇華させていってくれ」
「「「「はい」」」」
<よくできました、先生からご褒美よ
皆の拍手と先生の称賛を受けて四人は大層満足そうであった・・・・
ヴィオレットはふふんと誇った笑顔を浮かべてジェリエッタをみる
「・・・・・・・・・・」
ジェリエッタは目を細め、表情はピクリとも動かさなかった
<他人のがうまくできたからって、妬んじゃダァメ♪
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
まるで魔界全てに響きわたるような、愉快な笑い声が響く
学校の屋上でベルベレット、パーラ、ヴィオレット、ヴァネッサがあつまっていた
高笑いをしているのはヴィオレットだ
「見たかってのよ!あんたが散々バカにした相手はここまで
やったわ!!」
明白にダレと言わないところはご愛敬か
「まあ、ヴィオレット程ものを言うわけではないが、達成感の
心地よさは感じるな・・・・武辺者であった私がこう事をなせるのは光栄な事だ」
「うむ、今回の研究は先生方が正式に魔術協会に提出してくれるそうじゃ・・・・
儂等の名前ととものにのぉ」
「うん・・・・評価されるといいね」
「されるともさ・・・・さて、時間も頃合いじゃ、儂はそろそろお暇させてもらおう」
そういってベルベレットは立ち上がる、三人の視線はベルに注がれる
「また人間を見に行くの?」
「人間だけではない、魔物もじゃ」
「は、魔物はともかく人間なんて下等生物を鑑賞して何がおもしろいのか理解に苦しむわ」
ベルベレットはクククとおどけたように笑った
「人と魔物は切っても切れん関係であろ?儂等もいずれはよい男をとり子供を残さねばならん、
ならば人間という者がどういう者か知っておいて損はなかろう」
「ふん・・・・あんな気持ち悪いもの物たたせて腰を振るしか脳がない下等生命体なんか」
「お主の父も人間であろうが」
「お父様は特別よ、お母様に選ばれた崇高で特別な人なんだから!」
「まあ、ヴィオレットよ、お主がなんと思おうが摂理は摂理覆すことなどできはせんよ。
なればこそ、儂は人間という物を知りたい・・・・本や話の中だけでなく儂は自分の目と耳で
彼らを知っていきたいのじゃよ」
ヴァネッサは小さく微笑を浮かべると目をつぶって壁にもたれかかる
「まあ、おまえのそれは今に始まったことではない、好きにやればいい
学ぶという姿勢をしていることは尊い事だからな」
「うん、それに私たちがもし人間さんのことで悩んだらアドバイスとかもらえそうだしね、
ベルちゃんは一杯人間とお話をしてるんでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
「?」
「あ、ああ・・・いや、人間と話したことはなくてのぉ」
急に照れくささを隠すようにモジモジとしはじめるベルベレット
「「「は?」」」
「インキュバスや父上とならはだが・・・・魔物の力に染まっていない人間とは
まだ話したことがない・・・・・のじゃ」
「はあああ!?じゃああんた本当に見てるだけ!?」
「じゃからそう言うておろうに!!いいんじゃいんじゃ!そのうち
そりゃもう静かなるドンのような男を捕まえてきてやるわ!!」
「ははは!!まあ楽しみにしておくよ」
「がんばってドンさん捕まえてきてくださいね」
「(勢いでドンを言っただけじゃが・・・・あれ?儂の好みドン決定?)」
ベルベレットはそう思いながらゆっくりと空中に浮き上がると
空間の裂け目を作り出してその中に下半身をつっこむ
「それではの」
「ああ、元気でな?また会う日まで」
「がんばってね〜」
「・・・・まあ、元気で」
「おう、お主等も元気での」
そういってベルベレットは裂け目の中に入りこみ消えてしまっ。た
残った三人はふぅっと息を吐く
「将来は、私も夫となる男をさらい、子を成すか・・・・まだ、なにか実感がわかないな」
「でも、そう遠くないんじゃないかな?私たちだっていい年なんだし、いいかげん魔力の
補給剤の接種で補うのも限界だから」
「・・・・・・・・人間か・・・・・お父様みたいな人間、どこかにいないかしら」
「むしろそのお父様を襲うという手は?」
「それだ!」
「それでいいの!?」
キャイキャイと雑談が響く屋上
それが彼女たちの日常であり、代わり映えのない日々であったが・・・・・
そんな日々にヒビが入るのに時間はかからなかった
「・・・・・・・・・・」ギリ・・・
それから一ヶ月・・・・
ベルベレットが久方ぶりに登校した
「ふぅあああああああああああああああああああっほぉおい!!」
「普通の欠伸をしなさい」
教室の中で大きな欠伸をしながら眠たげに眼を擦るベル
「ぐ!?」
「どうした?」
「・・・・手の毛が目に入った」
超痛そう
「なんで何の意味のないボケを次々とかますのよあんたは!!」
「意味のないことをすることも人生には必要であると言える」
「それっぽく言うな!」
ベルベレットはごしごしと目をこすりながら周囲を見渡す
ヴィオレットに・・・ヴァネッサ
「パーラはどこじゃ?」
みれば、パーラの姿が見あたらない・・・・いつもならば大抵誰かと一緒に集まってくるのだが。
「ああ、そういえばあんたは知らなかったのよね」
「人間の世界にいったんだよ」
「何!?」
ベルベレットは毛の入った目を丸くして驚いている、がかなり痛そう
「そうか・・・・自分では押さえられないピンクな気分を解消しようと男を捕まえに行ったのか
・・・・能登が声優やりそうな顔して意外にやるのぉ」
「大魔●峠見てこい」
「ていうかそんなわけないでしょうが」
ズビシとベルの額にヴィオの手刀が軽く当てられる
「ジェリエッタの家が人間界の社会訓練を提案してきてね、何人かの生徒を募集したのよ」
「人間界とはどのようなところか?人間を相手にどう接すればいいかを学ぶためだそうだ、
お前がいれば真っ先に立候補しそうなイベントだったな」
「それにパーラがか?」
「ああ、自ら立候補していったぞ?自分も人間のことをよく知りたいと言ってな?
あと二日ほどで帰ってくるそうだ、土産も沢山買ってくると言っていたな
是非とも私は伝説の剣とまで歌われた「ボクトウ」なるものを期待しているのだが」
「ふぅむ・・・・・」
「どうしたのよ?あんたらしからぬ神妙な顔をして」
「・・・・・・・いや、そうか・・・・まあなんでもないよ」
「変なベルね、いや変なのはいつもか」
<さぞ素晴らしき名刀であるんだろうな・・・・ジパングのサムライという者は
皆その伝説の剣を腰に差しているらしい・・・・いったいどれほどの切れ味か・・・
経過報告
パーランド・リメイソン、人間の男性の夢の中で性行に至る
対象の男性。年齢は20歳、比較的穏やかな性格で正義感は強いがMの資質あり。
今後の良好な関係に期待する
経過報告
パーランド・リメイソン、先日報告した男性に捕縛される
一時は肝を冷やしたが、上手く立ち回ったようで男性と有効な関係を
築き上げることに成功したようだ
経過報告
男性との関係は良好、本日ついに現実に性行を行うことに至った
本人も幸せそうな顔をしており、監査官としての充足も覚える
訓練も残り一週間を残すところとなったが、予想以上の結果を
残してくれた。こちら側であの男を誘導してパーランドと共に
魔界につれて変える予定、受け入れ準備をされたし
緊急報告
パーランド・リメイソン 通信魔法に応じなくなり行方不明に
目標の男性を遺体で発見、自宅にて何者かに殺害されていた。
その一方が届いたのはパーラが人間界に出てちょうど1ヶ月がたった頃だった
報告によればパーラは一人の男性と接触し、順調な関係を築いていたという
だが、ある夜にその男の元へ出かけてから全く帰ってこなくなった
パーラを担当していた監視役員が駆けつけていたところ、その男は殺され
パーラの姿は影も形もなく、懸命の捜索を行ったが痕跡すら発見できず。
事の次第を重くみたフルスタニア家は魔王に状況を告白
パーラの捜索は軍をあげてのものとなったが・・・・失踪から3週間と2日
未だ痕跡の発見にも至らず・・・・
「・・・・・・・・・・」
あの日、パーラとベルベレット達4人が集まっていたテーブルに
今はヴィオレット、ヴァネッサ、ベルベレットの三人がいるだけである
「・・・・・・・・」
そして、やはり目の前にはショートケーキが一つ
「あれじゃな」
「なんだ」
「寂しいものじゃな」
「ああ」「そうね」
「儂が休んでいるときも寂しいものか?」
「「全然」」
三人は同時にジュースのストローに口をつけて飲み始める
「まあお前がいないと、あいつは寂しがっていたがな」
「ええ子じゃ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ねえベル」
「なんじゃ」
「あんたは探せないの?いろんな物を見るの得意なんでしょ?」
「探せれば探しておるわ」
「そうよね・・・・ん」
ヴァネッサはジュースを一気にストローで飲み干す・・・・・
ワインレッドのベリージュースが無くなり、氷がカランと音を立てた
「あれじゃな」
「なによ」
「流動体は苦手なくせに、ジュースは平気なんじゃな」
「口の中に入れると平気みたいね・・・・・はぁ、ジュースおかわりしてくる」
「あ、儂も」
「私も頼む」
「・・・・・・・・・」
ヴィオレットはグラスを三つもってジュースサーバーにまで向かった
「・・・・・・」
皆、完全に調子を狂わせている
別にグループの中核だったわけでもないし、特別目立った特徴のある子でもない
おどおどとしていて弱気な少女だった彼女、そんなパーラが消えただけで自分達は
これまでにないほど調子を狂わせている
「・・・・・・・」
本来なら自分がジュースを取って来るなど絶対に無い、しかしそんな嫌悪すら抱かずに
こうして皆の分まで入れているということは、それどころではないと言うところか
「・・・・ちょっと、ヴィオレットさん?いつまでそうしている気?」
「!」
気がつけば目の前のグラスからはオレンジジュースがこぼれていた
あわてて栓を閉めて、布巾でオレンジジュースがこぼれたグラスを取る
「はぁ・・・・」
「全く・・・・・ヴァンパイアとあろう物がずいぶん腑抜けていますわね」
「・・・・・・・ジェリエッタには関係のないことよ、それに、あんたにはわからない
だろうからね」
「聞き捨てなりませんわね、パーランドさんが失踪したことは悲しいことですが
そんなに落ち込んではパーランドさんも報われませんわ」
まるでパーラが死んでしまったような言い方にヴィオレットの血がたぎった
「パーラが失踪したのだってちゃんとした監視をしてなかったからでしょう!?
今回のことも元々はあんたの家が企画したんじゃない!!失踪者を出したあんたに
そんなでかい面をされる謂われはないわ!」
ヴィオレットの罵声が飛ぶ、しかし・・・・
「わ、私だって・・・・・こんなことになるなんて・・・・」
ひどく動揺したジェリエッタを見て、怒気も行き場を失った。
彼女自身も今回の一件には責任を感じているのだろうか・・・・
ヴィオレットもそれ以上のことは言わずに、ジェリエッタに背を向けて歩いていった
「・・・・・・・・」
ジュースがたっぷり入ったトレイを持ちながら元の机に戻ってきたヴィオレット
と、その机には別の者が一人座っていた
教師のセザンヌ・カルマデッフェだ
セザンヌが二人に何かを話したようだが、ヴァネッサとベルベレットの表情は沈んでいる
「どうしたの?二人とも・・・・セザンヌ先生」
「ああ、ヴィオレットか・・・・」
「・・・・・・・パーラが見つかったそうじゃ」
「!!」
驚きの余りに盛っていたトレイを地面に落としてしまう
グラスが割れて、周囲にジュースが散乱してしまった
「本当!?セザンヌ先生!!」
「・・・・・ああ・・・・だけど・・・・」
「だけど、何よ・・・・まさか殺されたなんて・・・・」
「いや、パーラは生きている・・・・生きているんだが・・・・・・・」
「と、とにかくパーラにあわせてよ!!あの子の顔を見ないと安心できないじゃない!!」
しかしセザンヌの表情は重い・・・・・やはりよからぬことがあったのか
「よい、セザンヌ先生よ。パーラに会わせてくれ」
「・・・・いいのか?」
「ああ・・・・」
「私も、自分の目で見なければ納得などできん」
「・・・・・そうか」
「・・・・?」
嫌な予感程良く当たるものである
ヴィオレット、ベルベレット、ヴァネッサは目の前の親友の変わり果てた姿を見て驚いた
「・・・・パーラ・・・・・」
ヴァネッサの呼び声にも応じない・・・いや、彼女たちも目の前のそれが
パーラだとは思えなかった・・・・
「・・・・・」
パーラはぼんやりと天井を見ている・・・・口をだらしなく半開きにして
その口元からは涎が垂れている
「ぁ・・・・か・・・・・イキ・・・・おむ・・・・・」
訳の分からない言葉を発しながら、寝ころんでは起き上がり、
腕をがむしゃらに動かしたり・・・・床をなめ始めたり・・・・
そこには、あのころの愛らしい笑顔を浮かべる少女パーランドの姿はなかった
ただ無意味な行動を繰り返し、まるで赤子のようにじたばたともがくだけ
その体は無惨という他ない
右耳は削がれ、左目は潰されたのか無く、顔面には複数の殴打傷
両手には無数の刺し痕があり、何か薬品を投与されていた痕跡が見受けられた。
服を着ていてわかりづらいが、右胸は膨らみがあるが、左胸の膨らみはない。
そしてもっとも目を覆いたくなるのは
彼女の馬の下半身が、胴から後ろ足にかけて無くなっていることだった
かろうじて上半身にある人間の内臓をもっているので、下半身、馬の胴体を
失っても何とか生きていることができたのだろう
「ヒヒ・・・・イッジャアアアアアアアアアン・・・・ずず・・・・アヒひひひひ」
「・・・・・・っ!!」
ヴィオレットはこみ上げてくる嘔吐感に口をふさぎ、その場にへたりこんだ
ベルベレットはきわめて冷静を装っているが、顎がふるえている
ヴァネッサは・・・・静かにセザンヌに振り向く
「いったい、何が?」
「・・・・捜索隊が踏み込んだときは、パーラはすでに事切れる寸前だったらしい
そこをなんとか封印して、こうして病院にまでつれてきたんだ
なんとか・・・・命は助かったが・・・・」
「・・・・・・何があった、と聞いています」
セザンヌは一瞬戸惑ったが、絞り出すように事実を言い放つ
「・・・魔物狩りにあって連れさらわれた・・・ということだ、そこでこのような仕打ちを受けた」
あまりにも単純で、笑ってしまうような事だ・・・・
何か、特別な事情があって彼女がここまで磨耗したわけでもなんでもない
ただ、人間の欲望に飲まれてしまった・・・・・それだけの簡単な結果
「これは・・・・これは人間がやったの?」
ヴィオレットは震える声で訪ねた・・・・吐き気で胸が痛むのをおさえ
怒りと憎悪の矛先を再確認するように
「・・・・そのようじゃな・・・・これは人間がやったのじゃろう」
「我々魔物は人間を蝕む、魅力を持って男を手に入れ、魔力を持って女を同族へと変える。
彼らにとって我らは忌むべき存在だが・・・・・」
「じゃがこれは、その規範の範疇を越えている!!これは・・・・「狂気」から生まれた
「惨劇」に他ならん!!!」
「・・・・パーラが・・・・」
ヴィオレットは下唇をかみながら溢れでる涙を止められなかった
「パーラが・・・・・パーラが壊れてしまった・・・・・パァアラアアアアア!!」
熱い涙がこぼれ落ちる・・・・
憤怒と悲壮に飲まれたヴィオレットは、ヴァンパイアの誇りなど忘れたように・・・・
一人の少女として、トモダチとして
パーラの残酷な結末を悲しんだ
ヴァネッサもこらえきれずに右目から一筋の涙を落とす
「っ!!」
「ヴァネッサァアア・・・・パァアアラが・・・・パァァァラがああああ!!」
「ああ・・・・・・ ああ!っ・・・・」
ヴァネッサも・・・泣きじゃくるヴィオレットを抱きながら涙を流す・・・・・
「・・・・・・・」
ベルベレットも泣いていた・・・・・泣き声こそあげなかったが
憤怒にゆがんだ表情で歯を食いしばり、体をふるわせて泣いていた
そんな三人を、ガラス張りの部屋の向こうにいるパーラが気づいた
彼女はゆっくりと三人をみて、まるで子供のような無垢な笑顔を浮かべ・・・・
「ひひ・・・・あき・・・・んんんんー・・・・・・・・・ハィ・・・・・・ぅうぅうう・・・・・・えが・・・
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアッッハッハハイヒヒイイイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイ!!
ゲ ゲゲ ゲ ゲ ゲゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲエ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲゲ ゲ ゲエ ゲ
ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲゲゲ ゲ ゲ ゲ ゲゲ ゲ ゲ ゲゲ ゲ ゲゲ ゲゲ ゲ ゲ ゲ ゲゲ ゲ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヒ、ヒヒ・・・・アハハ・・・・
恐ろしいのは魔物か、人間か・・・・
そんな問いかけの答えも出ずままに、時は流れていった
「はぁあ!?お見合い!!?冗談じゃないわ!!」
ヴィオレットが声をあらげながら、目の前の二人に罵声を浴びせる
二人はヴィオレットの父と母だ、二人はソファに座りながら
ヴィオレットを厳しい目で見ている、親の目だ。
「どうして私が人間なんかと一緒にならなくちゃいけないのよ!!冗談じゃないわ!!」
「といってもだ、お前も良い年頃なのに未だケンゾクの一人も付き従えてはいない・・・・
お前くらいのヴァンパイアならば一人前になろうとそういった活動に熱心になるものだ」
「ジェリエッタちゃんはもう随分前に魔界を出て今ではかなりの数の眷属を増やしたのよ
あなたにはあなたの考えがあるでしょうが、少しは・・・」
「お小言はもううんざりよお母様・・・・私は人間なんて嫌い。パーラをあんなにした
人間なんて・・・・」
パーラの名前を出すと二人も強くはいえなくなってしまった
あの事件は二人も大いに悲しんだからだ
「・・・人間すべてがそういった者共ではないわ、中には高貴な魂をもった人間だっている、
それを見定めてこそのヴァンパイア。貴方がいつまで経ってもそうしないから」
「だから、私達の目で見定めてみたのだ・・・・会うだけでも良い一度その人間に・・・・」
「嫌な物は嫌よ!どうしてもっていうのなら・・・・家出してやる!!!」
ヴィオレット、人生初の家出をする
その報はすぐにベルベレットとヴァネッサにも届けられた
二人は魔王城の吊り橋を歩きながらため息を吐く。
「やれやれ・・・・学校を出てからは引きこもりライフを送っていた、ヴィオレットが
外に出てきたと聞けば家出とは」
「あやつらしいわ・・・・・と、あまり暢気にはしておられんのぉ
あやつどうやら間違えて人間の世界に飛んでしまったらしい探し出さねばな」
「うむ・・・・もうあのようなことはごめんだからな・・・・とにかく私はすぐさま人間の世界に
旅立とうと思う・・・・お前はどうする?」
「無論探すとも・・・・しかし、どこをどう探して良いものか」
「・・・・・・」
ヴァネッサは自らの腰に下げた剣の柄の上に腕を乗せる・・・・
「あれから随分と経つな・・・・」
「うむ」
あれ、というだけでもベルベレットにはそれがなんなのか理解できたのだろう
「あれから、私も人間について深く考えさせられた・・・・
お前が言うとおり、人間とは様々におもしろい者達かもしれん
だが、ああいった欲望や狂気をもった者達であるという事も・・・・」
「・・・・・して、どう結論づけた?儂に聞かせてくれ」
ヴァネッサは首を振る・・・・
「お前が数十年挑んだ問題に、浅い知識しか持たん私では到底答えなどでなかったよ・・・・
しかし」
「?」
「とりあえず、私は人間を信じてみることにするよ・・・・臆病に否定したり逃げ回っては、
それこそ袋小路に陥るだろう」
「・・・・・・そうじゃな、願わくば、お主によい男が現れる事を」
「ああ、お前もな・・・・それでは私はここで、元気な姿でまた会おう」
「お互いにの」
ヴァネッサはマントをはためかせながら自分の家の帰路についた
ベルベレットはその背中を見送りながら魔界の薄暗い空を見上げる
「・・・・・うむ、一度・・・・本気で男を捜してみるのもいいのかもしれぬなあ・・・・」
そう呟きながらベルベレットは空間の裂け目の中に消えた・・・・
それから三日後、ベルベレットはある男と出会い
物語はゆっくりと動き出す
魔力が充満したカプセルの中に浮かぶのは一匹のダークスライム
緑色に光る液体の中で、紫苑色の液体が女性の形を作っている。
「・・・・・・・・・・」
それを見上げているのは一匹のバフォメット。
黒く長い髪をした・・・・鳥の骸骨を髪飾りにつけている。
そのバフォメットは無表情にダークスライムを見上げてている
「・・・・・体が変わっても・・・・壊れた心は戻るまい」
一瞬
哀れむような瞳を見せた後、そのバフォメットは消え失せた
Fin.
11/08/31 23:20更新 / カップ飯半人前
戻る
次へ