外と貴方とオレと膝枕 前編
朝食としてジパング料理という向こうの世界でよく口にしていたご飯、味噌汁、焼き魚という典型的な日本食を食べて。
故郷に似た味にしんみりとしつつ。
朝食後とくにすることもないのでオレとフィオナは二人して外にいた。
用事があるのは午後から。
午前中はすることがない。
なので適当にぶらついたり城下町へと散歩しに行こうかとも思ったが近かったのでここにいる。
外といっても広場。
魔王城の庭である。
整備された芝生の上に二人はいた。
一人は足を伸ばして座っていて。
もう一人は伸ばされた足の、腿の部分に頭を乗せて寝転んでいる。
まるで腿を枕にしているかのように。
傍から見たら見間違えようのないこの姿勢。
膝枕である。
ただし、オレが枕役だけど。
うーん…普通は逆だよな。
普通は女の子の膝の上に男の子が頭をのせるんだよな。
フィオナの膝でオレが寝るのが普通だろうに。
オレの腿に頭をのせているフィオナ。
心地よさそうな笑みを浮かべて目を細めている。
時折頬を摺り寄せるのだがそれがまたくすぐったくも心地いい。
まぁ、いいか。
こんなフィオナ、見られるんだし。
たまには、いいか。
そう思ってオレはフィオナの頭を撫でる。
「ん〜♪」
ただそれだけでも彼女は可愛らしい声を漏らす。
猫みたい。
そういえばお父さんの実家で飼っている猫がいたな、なんて思い出す。
捨て猫だったのか野良猫だったのか。
おばあちゃんがどこからか引き取ってきたらしい。
あれがやけにオレに懐くんだよな。
友達の家にいた人に慣れた猫でさえオレに寄ってこなかったのに。
不思議だ。
時折オレの言葉を理解しているような行動もしてたし…。
…ただ、我が麗しの暴君こと双子の姉が異常なほどに気にしてたな。
まるで師匠を相手にしてるかのように。
…なんでだったんだろ?
そんなことを考えながら上を見た。
上、空。
薄暗く黄昏時のような色の空だ。
魔界というのは魔物や人間が暮らしている表の世界とは違う。
薄暗い空の色や、変わった形の植物、わずかながらに魔力を含んだ空気とさまざまなものが。
表から来た人は禍々しいなんて印象をもつらしい。
そうだろうか、と思う。
別にこれはこれで綺麗だと思うのに。
オレのいた世界じゃ見られない風景。
それは奇妙で興味を引くものである。
そう思ってしまうのはオレの価値観がおかしいのか、それともオレが別の世界の人間だからか。
別世界。
向こうの世界。
こうやって何もせずにゆっくりと空を眺めたことなんてあっただろうか。
フィオナの頭を撫でて特にすることもなくのんびりとしていたオレはそんなことを考えてしまう。
向こうじゃただ勉強勉強の日々だったからなぁ。
わずかな時間さえ勉強にまわして大学合格に向けて頑張るだけの日々。
色なんて既にない、つまらない繰り返しの日々。
あの頃からすればこんなことになるなんて予想できなかった。
…予想できるわけないな。
別の世界に召喚されて、魔王の娘と結婚して。
とにかく、勉強から身を引いてまったく違うことをこなす日々となった今現在。
向こうで学んでいたことが結構役に立てていたりする。
食堂の料理の手伝いだったり、学んだ知識の披露だったり。
時にはクレマンティーヌの補佐を勤めてこの世界の政治などに関わることもある。
といってもオレが出来るのは向こうでやっていたことをただ話すだけだけど。
でもそれはそれで、向こうにいたときよりも充実した、色のある日々だ。
…別の意味の色も、ありまくりだけど…。
でも、こんなことを考えたり。
こうやってフィオナが心地良さそうな顔をしてるのを見れて。
この世界に来れてよかったと、つくづく思う。
そんな風に思いながらオレは瞼を下ろそうとしたそのときだった。
「おや、ユウタ君じゃないですか。」
「ん?」
その声に目を向けるとそこにいたのは薄青い肌で透き通るような緑の長髪をした美女がいた。
ただし、下半身が蛇。
フィオナ同様人間ではない。
エキドナ。
魔物の母。
オレのいた世界でも魔物の母と神話で描かれていた存在。
名をエリヴィラ・アデレイト。
…えっと…実に言いにくいけど…その…。
オレの、二人目の妻である。
…二人目。
向こうの世界じゃ法律上認められていない、重婚である。
厳密に言えば重婚を認めている国もあるらしいけどオレの住んでいたところでは犯罪になる。
だが、こっちの世界じゃ向こうの法律もオレの価値観も関係ない。
苦笑してしまう。
まだ後三人、計五人の妻がいる自分に。
気づけば複数の女性を愛している自分に。
もしかしたらさらに増えるかもしれない、なんて恐怖している自分に。
向こうの世界の価値観を持ちながらも皆を愛して。
頑張りながらも毎晩尽くして。
あの頃とは違う日々を過ごして。
本当に、変わったと思う。
「何をしているのですか?」
「うん?何って―」
「―膝枕よ。」
フィオナがうっすら目を開けて答えた。
少しばかり不機嫌そうな声色で。
二人でいた時間を邪魔されたことに対して怒るように。
「膝枕…ですか。」
対するエリヴィラ。
なぜだか呆れたような表情をしていた。
またか、またなのか。
そういう風に言っているようにも見える。
「普通、逆じゃないのですか?」
「いいじゃないの、ユウタがしてくれるんだから。」
「…貴方は。」
ふぅとため息をつくエリヴィラ。
呆れていることが誰から見てもわかるようなものだった。
「いつもいつもユウタ君に甘えすぎていると思うのですが?」
「いいじゃないの、好きなんだもん。」
「ユウタ君の迷惑になると思うのですが?」
その言葉にオレは笑う。
その言葉がおかしかったからじゃない。
その言葉が嬉しかったからだ。
向こうの世界じゃそんな風に気にかけてくれる人なんてそういなかったから。
そう思ってもらえるだけでも嬉しい。
「平気だって、エリヴィラ。オレがこうしていたいんだよ。」
「ですがユウタ君。」
おっと、どうやらエリヴィラは食い下がろうとしないみたいだ。
優しいエリヴィラらしいけど、ちょっぴり過保護なところもあるんだよなぁ。
それがまた嬉しいんだけど。
そんな風に思いながらもオレは腿を叩いた。
伸ばして広げたもう一方の足を。
フィオナが頭をのせているのとは逆のほうを。
「それならエリヴィラも膝枕、どう?」
「い、いえ私は…っ。」
そう言って拒もうとするがエリヴィラはオレの腿が気になるのかちらちらとこちらを見ている。
変なところで遠慮をするんだよな。
それはオレへの優しさによるものだろう。
そうだったらすごく嬉しい。
こんなオレに、そこまでしてくれて。
「ほら、来てくれよエリヴィラ。」
「で、ですが…。」
「ユウタが来てって言ってるじゃないの。遠慮しすぎなのよ。」
「貴方はもう少し遠慮すべきでしょう!」
いけない、言い争いになってる。
別に仲が悪いわけじゃないのにまったくこの二人は。
まぁ…確かにフィオナは少しばかり遠慮して欲しいところもあるけど、エリヴィラももう少し自由になっていいと思うんだよな。
とにかく、だ。
「エリヴィラ、おいで。」
手を伸ばす。
エリヴィラを誘うように。
彼女を迎えるように。
「そ、それでは…♪」
恥ずかしそうに頬を赤く染めてエリヴィラはオレの隣に座る。
「失礼します♪」
そう言ってフィオナとは反対側のオレの腿に頭を載せた。
腿に感じる二人の重み。
大して重いなんて思わない。
むしろ軽いくらい。
両腿に載った二人の頭。
二人は上を見ているから当然オレと目があう。
黒い瞳に、映る。
フィオナは嬉しそうに笑い、エリヴィラは恥ずかしそうに微笑んだ。
思わずこちらも微笑んでしまう。
嬉しい。
こうしているだけで微笑んでくれる二人がいることが。
こうして、甘えてくれる存在がいることが。
だからオレは。
そっと手を伸ばして二人の頬に手を添えた。
「ありがとう。」
思わずそう言葉が漏れる。
何に対して?
二人に対して。
どうして?
それは、こんなどうしようもないオレを受け入れてくれて。
それは他の三人にも言えることだった。
オレの言葉に二人とも一瞬驚いたような顔をするがすぐさま微笑んでくれる。
「どういたしまして♪」
「はいっ♪」
さて、このままで終わったのなら素晴らしいものだろう。
綺麗で、微笑ましい事だっただろう。
でも、だ。
それで終わらないのがこの二人。
というか、この世界である。
こんな状況。
こんな状態。
距離は詰められ手を伸ばせばすぐそこに届くという距離にいて。
それが愛し合うもの同士である。
フィオナは勿論、エリヴィラも意外とそういうことが好きだったりする。
それもフィオナに負けないくらい、好きだったりする。
「ユウタぁ♪」
「ユウタ君…♪」
頬を染めて、潤んだ瞳がオレを捕らえて離さない。
爛々と輝く赤い瞳と。
煌々と輝く金色の瞳。
どちらも共通して言えることといえば…ひとつ。
瞳の奥で情欲が燃えてる…!
「えっと…あの…。」
できれば勘弁してもらいたい。
ここは室内じゃないんだから。
魔王城の広い庭の中央なのだから。
公の場なんだから。
ここにいるのはオレとフィオナとエリヴィラの三人だけじゃない。
歩いているのもいるし。
いちゃついてるカップルもまたいるし。
稽古のためか走っている方々もいたりする。
端のほうの壁際まで行けば茂みに隠れている方々もいる。
その…するために茂みに隠れてしてる方々もいる。
よくもまぁ外でしようなんて気になるな。
オレには無理だ。
「外は無理。」
「え〜!?」
「何でですか!?」
二人ともあからさまにがっかりとした声を上げた。
っていうか、フィオナにいたっては朝に五回もしただろうが。
そして、こういうときは遠慮しないよなエリヴィラって。
まったく。
「外じゃしないっていつも言ってるだろ?」
「何でよ、外でするのって開放感があって気持ちいいじゃない。」
「他に見られるのが嫌なんだよ。」
そう、それだ。
オレが嫌っている理由。
外ですれば見られるのは確実。
公の場でするなんて公開しているだけじゃないか。
自らの痴態を晒しているだけじゃないか。
「恥ずかしいじゃん。他の誰かに見られるのって。」
「それがいいんじゃないの。」
その発言はまずいだろーが。
ある種の性癖を持った奴の発言だぞ。
「それは勘弁してくれよ。」
理由はそれだけじゃないんだから。
もう一つ理由があるんだから。
「何でよ?」
そう言ってフィオナは顔をぐっと近寄せてくる。
近い。
互いの吐息が頬にかかるほどの距離しかない。
今更という感じもするがそんな行動にどきりとさせられる。
そんな風に感じながらもオレは言った。
「嫌なんだよ。その…他の奴らに……その姿を見せたくないんだよ。」
「え?」
「その…。」
思わず視線を外してしまう。
ちょっとした気恥ずかしさから。
たぶん、今自分の顔を鏡で見たら赤くなっていると思う。
「その…フィオナ達が乱れてる姿…他に見せたくない…。」
それが普通だろう。
いくら美人の妻を持ったからといってそこまで見せびらかしたいわけじゃない。
そりゃ自慢の一つぐらいしたくはなるけど。
それでも愛しい妻の肌を晒して喜べるような男じゃない。
むしろ、独り占めしたいし。
だから本当ならフィオナのあの露出の多い姿もやめてもらいたいくらいだし。
オレも少しは我侭ということだ。
オレの言葉を聞いた二人はくすりと笑った。
「そっか♪」
「ふふ♪ユウタ君も意外と欲張りですね♪」
…これくらいは当然だと思うけどな。
オレだって独占欲ぐらいあるんだよ。
男で、高校生で、それでいて夫なんだから。
「というわけで外でするのは勘弁してくれよ。」
「いえいえユウタ君。」
するりと身を乗り出してくるエリヴィラ。
あれ?どうして?
さっきのオレの言葉を聞いてなかったのだろうか?
外じゃしない理由を言ったのになんでそうやって身を寄せてくるのだろうか。
「ようはしている姿を他に見られなければいいのですね?」
「…まぁ…。あ、でも茂みに隠れても勘弁ね。」
茂みに行けば最中のカップル沢山いるんだもんなぁ。
この前はちょっと覗いただけで一人でしてたサキュバスを見つけちゃうし。
…襲われかけたけど何とか逃げられた。
「それじゃあ…♪」
何を思いついたのかエリヴィラは体をくねらせる。
体といっても下半身の蛇の部分を。
そしてオレの体とエリヴィラの体へ巻きついていく。
そんなにきつくもないぐらいの強さで。
二人の体が合わさるぐらいに。
エリヴィラの柔らかな胸がオレの胸板に押しあたって形を変えるぐらいに。
そうして気づけば。
オレはエリヴィラに巻かれていた。
というかエリヴィラ自身と共に。
…おやおや?これは…。
エリヴィラの言いたいことがわかったような気がする。
蛇の部分が隠しているのはオレの脇の下ちょうどまでだ。
傍から見れば巻かれて仲睦まじく抱きしめあっている姿にしか見えないだろう。
下半身は蛇の部分が覆い隠しているし、胸はオレとくっついているので覗き込まない限りは見えないだろう。
…あれ?これってやっぱり…。
そういうこと…ですかね。
「エリヴィラ…?」
不安そうに名を呼ぶオレに対してエリヴィラはにっこり微笑んだ。
頬を赤く染めて、可愛らしく。
さらに言うと…明らかに欲情した妖艶な笑みで。
「これなら…見られても平気でしょう?」
「いやちょっと…。」
予想外だった。
っていうか、向こうの世界にいたオレには通じないものだった。
まさかこんな手を使ってくるとは…。
しかし予想できなくて当然だろう、下半身が蛇の女性なんて向こうにいるわけがないんだから。
「それじゃあ…しましょう♪」
「いやいやいやエリヴィラ?」
確かに大事なところは隠れてるから他から見られないけど…でも。
でも…ねぇ…。
気分的にというか…外でしてることに変わりないというか…。
本当なら室内のほうがオレは好きなんだけど。
でもこの状態だ。
オレが逃げだすことを予期していてかエリヴィラの締め付けは強くもないが弱くもない。
オレを逃さないように。
抜け出すことが出来ないように、最低限の力を加えてきている。
流石オレの妻。
よくわかっていらっしゃる。
オレは降参の意を示して両手を挙げた。
そしてそのままエリヴィラを抱き寄せる。
「きゃ♪」
「まったく…仕方ないなぁ。」
オレだって本当はしたい。
そりゃ求められれば答えたいと思う。
その相手が愛すると決めた想い人なのだから当然だろう。
でもやっぱり…その…十代で成長が止まったこともあるからか性欲がとんでもないんだよなぁ。
オレもお盛んだな。
心の中で自嘲気味に笑い、エリヴィラの顔にオレの顔を寄せた。
静かに、ゆっくりと。
どちらともなく瞼を閉じて。
触れ合う感覚を存分に味わおうとして。
何も言わずに静かにキスをしようとして―出来なかった。
それはなぜか?
理由は簡単。
オレが向いていた方向がいきなり変わったから。
エリヴィラのほうではない、別の方向へと無理やり向けられたから。
手で顔を挟まれて、そしてそのまま無理やり唇を奪われる。
「んんんっ!?」
「んじゅ、ちゅるるっ♪」
「…あれ?」
唇に触れるこの柔らかいものはなんだかわかる。
口内へと侵入してきたものもなんだか予想はつく。
そしてそれがいったい誰のものなのかさえも。
「フィ、フィオナさんっ!!」
そう、フィオナだった。
先ほどから会話に参加していないオレの妻だった。
エリヴィラに名前を呼ばれるも彼女は無視を決めてオレの口内を犯してくる。
縦横無尽に、嘗め尽くす。
そして唾液を流し込む。
甘くて、とても甘い煮詰めた蜜のように感じるものが口内をとおって喉の奥へと流れていく。
流れるたびにオレの理性が溶かされるように感じた。
「はん、む♪ちゅぅ、んんんん♪」
「んんんーっ!?」
目の前にいるエリヴィラなんてお構いなし。
朝よりもさらに激しいキスでフィオナはオレを求めてきた。
…っていうか、長いし激しい。
目の前にエリヴィラいるんだぞ。
いや、これはエリヴィラがいるからだろう。
明らかに見せ付けているように思える。
「私を差し置いて何やっているのですか!?」
「んんん、ちゅるっ♪」
ようやく唇を離してくれたフィオナ。
だけど腕はオレを捕らえるように絡みつき、抱きしめてくる。
背後から腕をまわして。
オレの背中に胸を当てるように。
「何って見てのとおりよ?」
「見てのとおりって…!」
「私だっているんだからね?二人して目の前で見せ付けるようにいちゃいちゃしちゃって…私だってユウタといちゃいちゃしたいのよっ!」
お前とは朝っぱらに散々いちゃいちゃベタベタどろどろしっぽりしただじゃん。
昨晩だってこれでもかというほどしたじゃん。
…オレ自身も同じようにしたいとは思ってるけど。
「何言っているんですか!体中からユウタ君の匂いをさせて!その様子だと朝もしていたのでしょう!?」
「朝だけじゃ足りないんだもんっ!」
横目で見るとオレの顔のすぐ隣にフィオナの顔があった。
ただしふくれっ面で。
子供っぽい。
というかこれじゃあ大きな子供だな。
「一日中ユウタといちゃいちゃしてたいんだもんっ!!」
「私だってユウタ君といちゃいちゃしていたいですよっ!!」
…何これ。
修羅場じゃねーか。
思いっきりどろどろした修羅場じゃねえか。
オレが原因で起きたことに対して少しばかり嬉しいなんて思っちゃったりするけど…でも。
勘弁して欲しい。
ちょいと我侭なリリム。
こういうことだけは遠慮しないエキドナ。
どちらもオレのいた世界じゃ伝説になるほどの存在だ。
そんな二人が喧嘩なんかしたら…タダで済むわけがない。
流石に城全壊とはならないだろうけど…この庭が無事で済むわけがないだろうな。
止めなきゃいけない。
いけないけど…。
止めたら…止めたでまた大変なことになるんだろうなぁ。
まぁ…仕方ないか。
オレは二人の頬に手を添えて止めようとしたそのときだった。
フィオナが、言った。
なんていうか…言っちゃいけないことを。
「それなら二人でユウタにすればいいじゃないの?」
「っ!」
「あ、その手がありましたね。」
「っ!!」
え…ちょっと!?
今なんて言った!?
二人で…?
マジでか!?
ただでさえ一人相手にしてどれだけ搾られてると思ってるんだよ!?
それに朝から五回もしてるし!!
しかしそんなオレの意志なんて当然無視されることだろう。
なぜわかるかって?
だって…それがいつものことだから。
「それじゃあ…ユウタ♪」
そう言ってフィオナはオレの耳元に口を寄せた。
「それでは…ユウタ君♪」
そう言ったエリヴィラはオレの学生服のボタンを外して手をするりと服の内側へと侵入させる。
まるで地を這う蛇のように。
それでいて愛するものを撫でるように。
それに対してフィオナは首に手を這わせる。
まるで宝石を撫でるように。
それでいて想い人を愛撫するように。
そして。
二人は同時にオレに囁いた。
「しよ♪」
「しましょう♪」
それに対してオレ。
拒否権なんてものは最初から存在してない。
それ以前に愛しい相手から求められれば嬉しいし、応えたいと思うんだけど……。
…えっと。
性欲お盛んな十代としてもこれは…。
流石にきついって…いうか…。
……午後まで体力もつだろうか…。
故郷に似た味にしんみりとしつつ。
朝食後とくにすることもないのでオレとフィオナは二人して外にいた。
用事があるのは午後から。
午前中はすることがない。
なので適当にぶらついたり城下町へと散歩しに行こうかとも思ったが近かったのでここにいる。
外といっても広場。
魔王城の庭である。
整備された芝生の上に二人はいた。
一人は足を伸ばして座っていて。
もう一人は伸ばされた足の、腿の部分に頭を乗せて寝転んでいる。
まるで腿を枕にしているかのように。
傍から見たら見間違えようのないこの姿勢。
膝枕である。
ただし、オレが枕役だけど。
うーん…普通は逆だよな。
普通は女の子の膝の上に男の子が頭をのせるんだよな。
フィオナの膝でオレが寝るのが普通だろうに。
オレの腿に頭をのせているフィオナ。
心地よさそうな笑みを浮かべて目を細めている。
時折頬を摺り寄せるのだがそれがまたくすぐったくも心地いい。
まぁ、いいか。
こんなフィオナ、見られるんだし。
たまには、いいか。
そう思ってオレはフィオナの頭を撫でる。
「ん〜♪」
ただそれだけでも彼女は可愛らしい声を漏らす。
猫みたい。
そういえばお父さんの実家で飼っている猫がいたな、なんて思い出す。
捨て猫だったのか野良猫だったのか。
おばあちゃんがどこからか引き取ってきたらしい。
あれがやけにオレに懐くんだよな。
友達の家にいた人に慣れた猫でさえオレに寄ってこなかったのに。
不思議だ。
時折オレの言葉を理解しているような行動もしてたし…。
…ただ、我が麗しの暴君こと双子の姉が異常なほどに気にしてたな。
まるで師匠を相手にしてるかのように。
…なんでだったんだろ?
そんなことを考えながら上を見た。
上、空。
薄暗く黄昏時のような色の空だ。
魔界というのは魔物や人間が暮らしている表の世界とは違う。
薄暗い空の色や、変わった形の植物、わずかながらに魔力を含んだ空気とさまざまなものが。
表から来た人は禍々しいなんて印象をもつらしい。
そうだろうか、と思う。
別にこれはこれで綺麗だと思うのに。
オレのいた世界じゃ見られない風景。
それは奇妙で興味を引くものである。
そう思ってしまうのはオレの価値観がおかしいのか、それともオレが別の世界の人間だからか。
別世界。
向こうの世界。
こうやって何もせずにゆっくりと空を眺めたことなんてあっただろうか。
フィオナの頭を撫でて特にすることもなくのんびりとしていたオレはそんなことを考えてしまう。
向こうじゃただ勉強勉強の日々だったからなぁ。
わずかな時間さえ勉強にまわして大学合格に向けて頑張るだけの日々。
色なんて既にない、つまらない繰り返しの日々。
あの頃からすればこんなことになるなんて予想できなかった。
…予想できるわけないな。
別の世界に召喚されて、魔王の娘と結婚して。
とにかく、勉強から身を引いてまったく違うことをこなす日々となった今現在。
向こうで学んでいたことが結構役に立てていたりする。
食堂の料理の手伝いだったり、学んだ知識の披露だったり。
時にはクレマンティーヌの補佐を勤めてこの世界の政治などに関わることもある。
といってもオレが出来るのは向こうでやっていたことをただ話すだけだけど。
でもそれはそれで、向こうにいたときよりも充実した、色のある日々だ。
…別の意味の色も、ありまくりだけど…。
でも、こんなことを考えたり。
こうやってフィオナが心地良さそうな顔をしてるのを見れて。
この世界に来れてよかったと、つくづく思う。
そんな風に思いながらオレは瞼を下ろそうとしたそのときだった。
「おや、ユウタ君じゃないですか。」
「ん?」
その声に目を向けるとそこにいたのは薄青い肌で透き通るような緑の長髪をした美女がいた。
ただし、下半身が蛇。
フィオナ同様人間ではない。
エキドナ。
魔物の母。
オレのいた世界でも魔物の母と神話で描かれていた存在。
名をエリヴィラ・アデレイト。
…えっと…実に言いにくいけど…その…。
オレの、二人目の妻である。
…二人目。
向こうの世界じゃ法律上認められていない、重婚である。
厳密に言えば重婚を認めている国もあるらしいけどオレの住んでいたところでは犯罪になる。
だが、こっちの世界じゃ向こうの法律もオレの価値観も関係ない。
苦笑してしまう。
まだ後三人、計五人の妻がいる自分に。
気づけば複数の女性を愛している自分に。
もしかしたらさらに増えるかもしれない、なんて恐怖している自分に。
向こうの世界の価値観を持ちながらも皆を愛して。
頑張りながらも毎晩尽くして。
あの頃とは違う日々を過ごして。
本当に、変わったと思う。
「何をしているのですか?」
「うん?何って―」
「―膝枕よ。」
フィオナがうっすら目を開けて答えた。
少しばかり不機嫌そうな声色で。
二人でいた時間を邪魔されたことに対して怒るように。
「膝枕…ですか。」
対するエリヴィラ。
なぜだか呆れたような表情をしていた。
またか、またなのか。
そういう風に言っているようにも見える。
「普通、逆じゃないのですか?」
「いいじゃないの、ユウタがしてくれるんだから。」
「…貴方は。」
ふぅとため息をつくエリヴィラ。
呆れていることが誰から見てもわかるようなものだった。
「いつもいつもユウタ君に甘えすぎていると思うのですが?」
「いいじゃないの、好きなんだもん。」
「ユウタ君の迷惑になると思うのですが?」
その言葉にオレは笑う。
その言葉がおかしかったからじゃない。
その言葉が嬉しかったからだ。
向こうの世界じゃそんな風に気にかけてくれる人なんてそういなかったから。
そう思ってもらえるだけでも嬉しい。
「平気だって、エリヴィラ。オレがこうしていたいんだよ。」
「ですがユウタ君。」
おっと、どうやらエリヴィラは食い下がろうとしないみたいだ。
優しいエリヴィラらしいけど、ちょっぴり過保護なところもあるんだよなぁ。
それがまた嬉しいんだけど。
そんな風に思いながらもオレは腿を叩いた。
伸ばして広げたもう一方の足を。
フィオナが頭をのせているのとは逆のほうを。
「それならエリヴィラも膝枕、どう?」
「い、いえ私は…っ。」
そう言って拒もうとするがエリヴィラはオレの腿が気になるのかちらちらとこちらを見ている。
変なところで遠慮をするんだよな。
それはオレへの優しさによるものだろう。
そうだったらすごく嬉しい。
こんなオレに、そこまでしてくれて。
「ほら、来てくれよエリヴィラ。」
「で、ですが…。」
「ユウタが来てって言ってるじゃないの。遠慮しすぎなのよ。」
「貴方はもう少し遠慮すべきでしょう!」
いけない、言い争いになってる。
別に仲が悪いわけじゃないのにまったくこの二人は。
まぁ…確かにフィオナは少しばかり遠慮して欲しいところもあるけど、エリヴィラももう少し自由になっていいと思うんだよな。
とにかく、だ。
「エリヴィラ、おいで。」
手を伸ばす。
エリヴィラを誘うように。
彼女を迎えるように。
「そ、それでは…♪」
恥ずかしそうに頬を赤く染めてエリヴィラはオレの隣に座る。
「失礼します♪」
そう言ってフィオナとは反対側のオレの腿に頭を載せた。
腿に感じる二人の重み。
大して重いなんて思わない。
むしろ軽いくらい。
両腿に載った二人の頭。
二人は上を見ているから当然オレと目があう。
黒い瞳に、映る。
フィオナは嬉しそうに笑い、エリヴィラは恥ずかしそうに微笑んだ。
思わずこちらも微笑んでしまう。
嬉しい。
こうしているだけで微笑んでくれる二人がいることが。
こうして、甘えてくれる存在がいることが。
だからオレは。
そっと手を伸ばして二人の頬に手を添えた。
「ありがとう。」
思わずそう言葉が漏れる。
何に対して?
二人に対して。
どうして?
それは、こんなどうしようもないオレを受け入れてくれて。
それは他の三人にも言えることだった。
オレの言葉に二人とも一瞬驚いたような顔をするがすぐさま微笑んでくれる。
「どういたしまして♪」
「はいっ♪」
さて、このままで終わったのなら素晴らしいものだろう。
綺麗で、微笑ましい事だっただろう。
でも、だ。
それで終わらないのがこの二人。
というか、この世界である。
こんな状況。
こんな状態。
距離は詰められ手を伸ばせばすぐそこに届くという距離にいて。
それが愛し合うもの同士である。
フィオナは勿論、エリヴィラも意外とそういうことが好きだったりする。
それもフィオナに負けないくらい、好きだったりする。
「ユウタぁ♪」
「ユウタ君…♪」
頬を染めて、潤んだ瞳がオレを捕らえて離さない。
爛々と輝く赤い瞳と。
煌々と輝く金色の瞳。
どちらも共通して言えることといえば…ひとつ。
瞳の奥で情欲が燃えてる…!
「えっと…あの…。」
できれば勘弁してもらいたい。
ここは室内じゃないんだから。
魔王城の広い庭の中央なのだから。
公の場なんだから。
ここにいるのはオレとフィオナとエリヴィラの三人だけじゃない。
歩いているのもいるし。
いちゃついてるカップルもまたいるし。
稽古のためか走っている方々もいたりする。
端のほうの壁際まで行けば茂みに隠れている方々もいる。
その…するために茂みに隠れてしてる方々もいる。
よくもまぁ外でしようなんて気になるな。
オレには無理だ。
「外は無理。」
「え〜!?」
「何でですか!?」
二人ともあからさまにがっかりとした声を上げた。
っていうか、フィオナにいたっては朝に五回もしただろうが。
そして、こういうときは遠慮しないよなエリヴィラって。
まったく。
「外じゃしないっていつも言ってるだろ?」
「何でよ、外でするのって開放感があって気持ちいいじゃない。」
「他に見られるのが嫌なんだよ。」
そう、それだ。
オレが嫌っている理由。
外ですれば見られるのは確実。
公の場でするなんて公開しているだけじゃないか。
自らの痴態を晒しているだけじゃないか。
「恥ずかしいじゃん。他の誰かに見られるのって。」
「それがいいんじゃないの。」
その発言はまずいだろーが。
ある種の性癖を持った奴の発言だぞ。
「それは勘弁してくれよ。」
理由はそれだけじゃないんだから。
もう一つ理由があるんだから。
「何でよ?」
そう言ってフィオナは顔をぐっと近寄せてくる。
近い。
互いの吐息が頬にかかるほどの距離しかない。
今更という感じもするがそんな行動にどきりとさせられる。
そんな風に感じながらもオレは言った。
「嫌なんだよ。その…他の奴らに……その姿を見せたくないんだよ。」
「え?」
「その…。」
思わず視線を外してしまう。
ちょっとした気恥ずかしさから。
たぶん、今自分の顔を鏡で見たら赤くなっていると思う。
「その…フィオナ達が乱れてる姿…他に見せたくない…。」
それが普通だろう。
いくら美人の妻を持ったからといってそこまで見せびらかしたいわけじゃない。
そりゃ自慢の一つぐらいしたくはなるけど。
それでも愛しい妻の肌を晒して喜べるような男じゃない。
むしろ、独り占めしたいし。
だから本当ならフィオナのあの露出の多い姿もやめてもらいたいくらいだし。
オレも少しは我侭ということだ。
オレの言葉を聞いた二人はくすりと笑った。
「そっか♪」
「ふふ♪ユウタ君も意外と欲張りですね♪」
…これくらいは当然だと思うけどな。
オレだって独占欲ぐらいあるんだよ。
男で、高校生で、それでいて夫なんだから。
「というわけで外でするのは勘弁してくれよ。」
「いえいえユウタ君。」
するりと身を乗り出してくるエリヴィラ。
あれ?どうして?
さっきのオレの言葉を聞いてなかったのだろうか?
外じゃしない理由を言ったのになんでそうやって身を寄せてくるのだろうか。
「ようはしている姿を他に見られなければいいのですね?」
「…まぁ…。あ、でも茂みに隠れても勘弁ね。」
茂みに行けば最中のカップル沢山いるんだもんなぁ。
この前はちょっと覗いただけで一人でしてたサキュバスを見つけちゃうし。
…襲われかけたけど何とか逃げられた。
「それじゃあ…♪」
何を思いついたのかエリヴィラは体をくねらせる。
体といっても下半身の蛇の部分を。
そしてオレの体とエリヴィラの体へ巻きついていく。
そんなにきつくもないぐらいの強さで。
二人の体が合わさるぐらいに。
エリヴィラの柔らかな胸がオレの胸板に押しあたって形を変えるぐらいに。
そうして気づけば。
オレはエリヴィラに巻かれていた。
というかエリヴィラ自身と共に。
…おやおや?これは…。
エリヴィラの言いたいことがわかったような気がする。
蛇の部分が隠しているのはオレの脇の下ちょうどまでだ。
傍から見れば巻かれて仲睦まじく抱きしめあっている姿にしか見えないだろう。
下半身は蛇の部分が覆い隠しているし、胸はオレとくっついているので覗き込まない限りは見えないだろう。
…あれ?これってやっぱり…。
そういうこと…ですかね。
「エリヴィラ…?」
不安そうに名を呼ぶオレに対してエリヴィラはにっこり微笑んだ。
頬を赤く染めて、可愛らしく。
さらに言うと…明らかに欲情した妖艶な笑みで。
「これなら…見られても平気でしょう?」
「いやちょっと…。」
予想外だった。
っていうか、向こうの世界にいたオレには通じないものだった。
まさかこんな手を使ってくるとは…。
しかし予想できなくて当然だろう、下半身が蛇の女性なんて向こうにいるわけがないんだから。
「それじゃあ…しましょう♪」
「いやいやいやエリヴィラ?」
確かに大事なところは隠れてるから他から見られないけど…でも。
でも…ねぇ…。
気分的にというか…外でしてることに変わりないというか…。
本当なら室内のほうがオレは好きなんだけど。
でもこの状態だ。
オレが逃げだすことを予期していてかエリヴィラの締め付けは強くもないが弱くもない。
オレを逃さないように。
抜け出すことが出来ないように、最低限の力を加えてきている。
流石オレの妻。
よくわかっていらっしゃる。
オレは降参の意を示して両手を挙げた。
そしてそのままエリヴィラを抱き寄せる。
「きゃ♪」
「まったく…仕方ないなぁ。」
オレだって本当はしたい。
そりゃ求められれば答えたいと思う。
その相手が愛すると決めた想い人なのだから当然だろう。
でもやっぱり…その…十代で成長が止まったこともあるからか性欲がとんでもないんだよなぁ。
オレもお盛んだな。
心の中で自嘲気味に笑い、エリヴィラの顔にオレの顔を寄せた。
静かに、ゆっくりと。
どちらともなく瞼を閉じて。
触れ合う感覚を存分に味わおうとして。
何も言わずに静かにキスをしようとして―出来なかった。
それはなぜか?
理由は簡単。
オレが向いていた方向がいきなり変わったから。
エリヴィラのほうではない、別の方向へと無理やり向けられたから。
手で顔を挟まれて、そしてそのまま無理やり唇を奪われる。
「んんんっ!?」
「んじゅ、ちゅるるっ♪」
「…あれ?」
唇に触れるこの柔らかいものはなんだかわかる。
口内へと侵入してきたものもなんだか予想はつく。
そしてそれがいったい誰のものなのかさえも。
「フィ、フィオナさんっ!!」
そう、フィオナだった。
先ほどから会話に参加していないオレの妻だった。
エリヴィラに名前を呼ばれるも彼女は無視を決めてオレの口内を犯してくる。
縦横無尽に、嘗め尽くす。
そして唾液を流し込む。
甘くて、とても甘い煮詰めた蜜のように感じるものが口内をとおって喉の奥へと流れていく。
流れるたびにオレの理性が溶かされるように感じた。
「はん、む♪ちゅぅ、んんんん♪」
「んんんーっ!?」
目の前にいるエリヴィラなんてお構いなし。
朝よりもさらに激しいキスでフィオナはオレを求めてきた。
…っていうか、長いし激しい。
目の前にエリヴィラいるんだぞ。
いや、これはエリヴィラがいるからだろう。
明らかに見せ付けているように思える。
「私を差し置いて何やっているのですか!?」
「んんん、ちゅるっ♪」
ようやく唇を離してくれたフィオナ。
だけど腕はオレを捕らえるように絡みつき、抱きしめてくる。
背後から腕をまわして。
オレの背中に胸を当てるように。
「何って見てのとおりよ?」
「見てのとおりって…!」
「私だっているんだからね?二人して目の前で見せ付けるようにいちゃいちゃしちゃって…私だってユウタといちゃいちゃしたいのよっ!」
お前とは朝っぱらに散々いちゃいちゃベタベタどろどろしっぽりしただじゃん。
昨晩だってこれでもかというほどしたじゃん。
…オレ自身も同じようにしたいとは思ってるけど。
「何言っているんですか!体中からユウタ君の匂いをさせて!その様子だと朝もしていたのでしょう!?」
「朝だけじゃ足りないんだもんっ!」
横目で見るとオレの顔のすぐ隣にフィオナの顔があった。
ただしふくれっ面で。
子供っぽい。
というかこれじゃあ大きな子供だな。
「一日中ユウタといちゃいちゃしてたいんだもんっ!!」
「私だってユウタ君といちゃいちゃしていたいですよっ!!」
…何これ。
修羅場じゃねーか。
思いっきりどろどろした修羅場じゃねえか。
オレが原因で起きたことに対して少しばかり嬉しいなんて思っちゃったりするけど…でも。
勘弁して欲しい。
ちょいと我侭なリリム。
こういうことだけは遠慮しないエキドナ。
どちらもオレのいた世界じゃ伝説になるほどの存在だ。
そんな二人が喧嘩なんかしたら…タダで済むわけがない。
流石に城全壊とはならないだろうけど…この庭が無事で済むわけがないだろうな。
止めなきゃいけない。
いけないけど…。
止めたら…止めたでまた大変なことになるんだろうなぁ。
まぁ…仕方ないか。
オレは二人の頬に手を添えて止めようとしたそのときだった。
フィオナが、言った。
なんていうか…言っちゃいけないことを。
「それなら二人でユウタにすればいいじゃないの?」
「っ!」
「あ、その手がありましたね。」
「っ!!」
え…ちょっと!?
今なんて言った!?
二人で…?
マジでか!?
ただでさえ一人相手にしてどれだけ搾られてると思ってるんだよ!?
それに朝から五回もしてるし!!
しかしそんなオレの意志なんて当然無視されることだろう。
なぜわかるかって?
だって…それがいつものことだから。
「それじゃあ…ユウタ♪」
そう言ってフィオナはオレの耳元に口を寄せた。
「それでは…ユウタ君♪」
そう言ったエリヴィラはオレの学生服のボタンを外して手をするりと服の内側へと侵入させる。
まるで地を這う蛇のように。
それでいて愛するものを撫でるように。
それに対してフィオナは首に手を這わせる。
まるで宝石を撫でるように。
それでいて想い人を愛撫するように。
そして。
二人は同時にオレに囁いた。
「しよ♪」
「しましょう♪」
それに対してオレ。
拒否権なんてものは最初から存在してない。
それ以前に愛しい相手から求められれば嬉しいし、応えたいと思うんだけど……。
…えっと。
性欲お盛んな十代としてもこれは…。
流石にきついって…いうか…。
……午後まで体力もつだろうか…。
11/07/25 20:45更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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