連載小説
[TOP][目次]
朝と君とオレとキス
「…んぁ。」
起きた。
柔らかな枕の上。
温かなベッドの上。
薄くも手触りのいい高級感溢れるシーツに包まれながらオレこと黒崎ゆうたは目を覚ました。
もう朝か…。
普段なら目覚まし時計の電子音で目が覚めるのだがこういった日も少なくない。
目覚ましよりも先に起きる。
どうやら体が覚えているのかその時間になると自然と目が覚める。
こういう日は目覚めが良くて行動もしやすい。
…でもまだ寝ていたいと思っちゃうんだよな。
よし、後5秒寝よう。
5秒数えたらここから出よう。
1.2、3―
「―起きちゃったよ。」
後2秒あったのをすっ飛ばして起きちゃった。
思い切り目が覚めちゃったよ。
まぁいいか。早く起きたほうが色々と準備できるし。
朝飯の用意しないといけないし。
そう思って体を動かす。
ええと…昨日買った卵で何を作るか…。
あいつのことだ、朝からこってりした油物を出したら残される。
だったらやはり軽めの朝食にするか。
朝食の準備をしようとして体を起こそうとしたそのときだ。
「…?」
体が動かない。
なんていうか…重いんだ。
一人分の体重じゃないというか。
オレの重さじゃないというか。
時折目が覚めて倦怠感は感じることはあるが…それじゃない。
まるで誰かが抱きついているとかそんな感じ。
それにさらにおかしいことがある。
温かい。
先ほどまで寝ていたから体温がベッドに伝わったとかじゃなくて。
まるで抱きしめられているかのように温かいんだ。
そして柔らかい感触も感じる。
何だこりゃ。
まだオレは夢の中にでもいるのかよ。
そんな風に思いながら手を動かして体におかしなものがないか探る。
…触れた。
何か…柔らかくて温かいものに。
「あんっ♪」
…あれ?声がした?
しかも女性の声。
いけね、これ本当に夢か…?
まだ夢の中かよ…。
参ったな。
すりすりとまるで頬ずりされているかのようなものを胸板に感じて。
腹に胸を押し付けられているかのように柔らかなものを感じる。
なんてこった早いとこ夢から覚めないて朝食を作らないと…。
とにかくオレは視線を体のほうへと下げた。
体にくっついているものを見るために。
黒い瞳に映ったそれは―白。
雪のような穢れのない白い髪の毛。
そこから生えているのは二本の角。
その他にも陶磁器のような綺麗な肌。
その肌を晒すことを惜しまずに体には服を纏っていない。
気づかなかったがオレ自身も同じように服を着ていない。
共に裸。
裸で抱きついているそいつは。
「…あれ?」
そいつの正体をオレは知っている。
それがいったい誰なのかオレは知っている。
フィオナ・ネイサン・ローランド。
魔王の娘でリリム。
オレを現代世界から召喚した女性で。
どんな男でも魅了するような魅力を持っていても純粋な乙女で。
ちょっと我侭だけど可愛らしいオレの愛しい想い人。
その姿を見てああと思う。
まだ寝ているのに身を捩って唸る姿を見て思う。
そうだったと。

―今は…こっちが現実なんだ。

いけないいけない。
どうも最近現実と夢が混同してしまう。
いつもはそんなことないのに。
朝目が覚めてもちゃんとしているのに。
こっちが現実。
あっちが夢。
それが『今』で。
あれは『過去』なんだから。
「…ぁ。」
だったら早く起きる必要はないか。
別にいつものように朝食を作ってもいいんだけど今はこうしていたい。
向こうの世界では感じることの出来なかったものを感じていたい。
愛しい女性を抱きしめることの出来る喜びを堪能していたい。
オレはフィオナの背中に手を回して抱きしめようとした、そのときだった。
ぐぅ〜、と。
結構大きな音が腹から響いた。
…腹、減ったな。
昨夜だって十分食べたのだが既に消化しきっているのだろう。
更なる栄養を求めているのだろう。
そりゃそうだ。
昨夜はとんでもないくらいにその…求め合ったんだから。
一桁で終わるわけもない。
サキュバスの最高位にいるリリムと性欲お盛んな学生。
そんな二人がたかだか数回で終わるわけもない。
さらに言うとオレはもう人間ではなくなっている。
フィオナと体を重ねていたことからか、それとも魔界という違う環境に生きていたからか。
いつの間にか気づいたらそうなっていた。
インキュバス。
魔力というものを糧に生きる魔物らしい。
別段外見は変わったところはない。
いや、外見は変わらなくなったといったところか。
若々しいままでいられることはいいと思うけど…せめて二十歳位まで成長したかった。
いやね、十代で成長が止まるってことは性欲もお盛んなままでいいんだけどね。
インキュバスになってから性欲が異常に高くなった気もするけど。
インキュバスになってから魔力を糧に生きてるんだろう。
だから空腹とかも感じない…はずなんだけど。
やはりそう簡単に生活リズムが抜けるもんじゃない。
それ以上に昨夜が激しすぎた。
それが主な原因だろう。
体中の栄養全部出し切ったと思うくらいしたからなぁ。
…毎晩そんな感じなんだけど。
とにかく、朝食だ。
作るか食堂まで食べにいくかは後で決めるとして。
それじゃあまずはフィオナを起こさないと。
オレの上でオレに抱きついているフィオナをどかさないと。
オレはフィオナを起こしに掛かる。
「フィオナ。朝だぞー。」
揺らすが、起きない。
本当ならフィオナの体から抜け出すことは造作もないことなんだ。
あの師匠に抱きつかれても何度避けて抜けてを繰り返したことか。
おかげで脱出には自信があったり。
でも今は出来ない。
フィオナが抱きついているからじゃない。
えっと…なんていうか…その…。

―昨夜のまま、だからということなんだよな。

いまだに繋がりっぱなしの体。
フィオナの中に呑み込まれているオレのもの。
学生の朝だから勿論生理現象で既に固くなっているけど…。
本来なら十分な湿度を持たないフィオナの中は入れているほう、入れられているほう共に負担を強いる。
本来なら。
昨夜人間のころじゃ絶対に出来ないというほどの回数をしたんだ。
フィオナの中に何度流し込んだのかも覚えていないくらいに。
そんな出鱈目な量を注ぎ込まれた彼女の中は昨夜の見込んだオレの欲望で潤していく。
本能もそれに反応しているのかフィオナの中も別の湿り気を帯びてきた。
ただ入れているというだけなのに。
さすがサキュバスの最高位。
男が喜んで精を捧げたくなってしまう魔性の膣だ。
そんな中にいて抜け出したいと思えなくなってしまう。
オレだって男。
欲望には従順なんだから。
知らない相手に誘惑されても振り切ることはたやすい。
上っ面だけの魅惑に惑わされるつもりもない。
甘い言葉も気持ちが篭っていなければただの言葉。
でも、それが愛した相手なら別だ。
好いて愛したフィオナなら、話は別だ。
枷は外れ、楔は砕け、理性なんて蕩けてしまう。
欲望のままに交わり求めてしまう。
それもまたいいんだけど…でも。
流石に交わるだけの生活っていうのは自堕落すぎるというか。
他のこともしてみたいといか。
それと朝飯食べたいというか。
とにかくこのまま欲に流されるわけにもいかないのでフィオナを起こすことにした。
「フィオナー…朝だぞー…。」
そんなことをいいながら揺するのだが…。
「んん〜っ…。」
身を捩じらせて唸るだけだ。
オレ後頭部へ手を回して。
まるでキスするかのように抱き寄せて。
寝ぼけてするにはあまりにも的確で素早い動作で。
気のせいか右足にフィオナの尻尾のようなものが巻きつく感覚までする。
…これは。
「ふにゅ…。」
フィオナ……起きてるな。
わざとらしく寝た振りをしてるのだろうけど…バレバレだ。
その証拠に抱きつき方がおかしい。
寝ぼけていてここまで的確に抱きしめられるか。
目を瞑っていればバレないとでも思っているだろうか。
さらに言うと…。
「んんー…。」
「…。」
唇を突き出してきた。
口づけをしてといわんばかりに。
お目覚めのキスを求めているように。
…わざとか。わざとなのか?
「んんー…。」
「…。」
求められることに悪い気はしない。
好かれることには慣れてないけど…好きになられるのは嬉しい。
でもさ。
朝からそう…激しいのはどうかと思うんだ。
フィオナのことだ、これがタダのキスで終わるわけはないだろう。
そんなことぐらい既にわかっている。
でも…。
「んんーっ!」
寝ている振りをしているはずなのに…どうでもよくなったのか不機嫌気味にキスをねだるフィオナ。
我慢しないなぁ。
それでもキスはせがむんだよなぁ。
そっちのほうにいたっては強情というか…粘り強いというか。
子供のように無邪気というか。
幼子のように可愛らしく我侭というか。
「んんーっ!!」
「…。」
…まったく…仕方ないな。
心の中で苦笑しながらフィオナをオレからも抱きしめる。
そして、静かに。
あの日に、誓いを立てたあのときのようにゆっくりと唇を近づけて…。
「ん。」
「んん♪」
キスをした。
そのまま唇を重ねて、離す―
―はずだった。
がばっと、フィオナの腕が動きオレを抱き寄せた。
「ふむっ!?」
「んんん〜♪」
そのまま当然のように口内へと侵入してくるフィオナの舌。
唇を掻き分けて、深く深くへ潜り込んでくる。
舌でオレの舌を探り、見つけられたと思えば絡めてくる。
絡んで絡み合って、粘液が舌を伝って流れ込んできた。
甘い、と思う。
本来唾液に味なんてものはないだろう。
それでもそう感じてしまう。
それは相手がリリムという人外でサキュバスの最高位だからか。
それとも、オレがフィオナを好きだからか。
甘くて蕩けるようなキス。
脳まで染み込んでくるような、理性まで溶かすような口付け。
眠りに落ちたお姫様を目覚めさせるのにはキスと相場は決まっている。
実際フィオナは魔王の娘でお姫様といってもいいだろう。
でもこれじゃあ逆だ。
目覚めさせられるのはオレの本能のほうだ。
その証拠にフィオナの中に呑み込まれているオレのものは先ほどよりも熱く脈打ち猛っている。
昨夜あれだけこなしたというのに。
学生でインキュバスじゃ底なしだな。
「ん、ちゅる♪はん、むぅ♪」
「んん。」
いつの間にかオレからも求めるように舌を突き出す。
フィオナの舌を唇で挟んだり啜ったりしているだけじゃ満足せずにオレもさらに深いところまでを求めてしまう。
唇から滴るのはオレの唾液か、フィオナの唾液か。
あるいは二人のものが混ざり合ったものか。
舐めとりたいという衝動にも駆られるがこのキスをもっとしたいとも思ってしまう。
いつの間にかオレも我侭になったような気がする。
いや、自分に素直になったというところだろうか。
本当に変わった。
「ちゅっ♪」
そんな音を立てながらフィオナはようやくオレから唇を離した。
長かった。
一分二分なんてもんじゃないぞ。
十分ぐらいいったか?
「んん、おはよう、ユウタ♪」
「…おはよう。」
「うふふ、いい朝ね♪」
いい朝…というか激しい朝だ。
いつもこんな感じだけど…。
「フィオナ、とりあえず朝ごはんにしない?」
「え?ご飯?」
「そ、ご飯。」
本当ならこのまま寝過ごすのもまたいいのだがちょいと思い出したことがある。
今日の午後予定があった。
バフォメットであるヘレナのダンシングサバトの手伝いと、デュラハンであるセスタの稽古。
どちらも体力使うからなぁ。
特に稽古は。
だからせめて朝だけでも食事をしておきたい。
「とりあえず上いいか?」
いまだにオレの体に乗りっぱなし抱きつきっぱなしのフィオナに言う。
そうはいうものの…。
「ん?何で?」
疑問で返された。
「…え?いやご飯にするから。」
「それなら…♪」
一瞬見えた。
フィオナの赤い瞳の中に見えた。
燃え上がる欲望が。
貪欲な本能が。
頬を紅潮させている様子はこれからの行為に胸を時めかせる乙女に見える。
唇の端に垂れた唾液を舐め取る様子はこれから食事をする捕食者にも見える。
浮かべた表情は微笑み。
ただし、とんでもなくいやらしい笑み。
それを目にして気づく。
あ…しまった。
オレにとってのご飯とフィオナにとってのご飯はまったく意味が違うんだった…。
オレはインキュバスとはいえ口にするのは人間のころと変わりないもの。
フィオナだって空腹を満たすために同じものを食していた。
あのときまでは。
オレがフィオナと繋がるまでは。
フィオナがオレを受け入れるまでは。
そして、今は。
抑える必要もない今は。
遮るものもないこの瞬間は。
フィオナにとっての本当の食事は。
オレの、精。
どうして忘れてるんだよ。
今までだってそうだったのに。
どうやらまだ頭の中が上手く切り替わっていないようだ。
現実と夢の区別があやふやのようだ。
なんだか混乱してしまう。

「それじゃあ、いただきます♪」

そんなふうに混乱しているオレを無視してフィオナはまた唇に吸い付いてくる。
先ほどのように激しく深く。
そして、甘く。
愛しい相手と繋がることに喜びを感じるように。
オレとのキスをもっとしたいというかのように。
そんなキスにオレも応える。
全身全霊を込めて。
オレの優しさをもってして。
舌を絡めて、フィオナの口内へと舌を潜らせて。
先ほどまでは渋っていたがやはりオレもこの行為をやめるなんて事は出来そうにない。
朝からするというのはなんか自堕落な生活のように思えるけど。
愛しい相手とすることを拒みたいとは思わない。
オレを求めてくれているというだけでどれだけ嬉しいことか。
だから、オレも応えたい。
いつの間にか自然と繋ぎあう手。
指を絡めてキスをして。
それを何度繰り返しただろう。
もう数え切れないほどフィオナとキスをし、肌を重ねてきた。
でも。
いまだに初恋のように高鳴るこの胸は。
いまだに焦がれるこの気持ちは。
この先何度もフィオナとすることになるのだろうが彼女に慣れることは出来そうにないという心のあらわれだろう。
離れられもしないだろう。
あのときのように逃げることなんてもうしない。
もうできそうにもなかった。
「ちゅ、ん♪ユウタ、んんっ♪」
キスをしながら呼ばれるオレの名。
それはオレがここにいるということを確かめたいのか。
それとも不安なのかもしれない。
あのときのように。
フィオナから離れていったときのように。
寂しくさせてしまったときのように。
そんな想いをさせるのはもう嫌だ。
だからオレも。
オレからも、応える。
「ん、フィオナ。」
抱きしめ、繋いで、絡めて、呼んで。
互いの存在を。
ここにいるという事実を確かめる。
何度もしているからこそ確かめたくなる。
こんな美女と肌を重ねて、添い遂げることが出来て。
これが夢なんじゃないかと思ってしまう。

―まだ、夢の中なんじゃないかと思ってしまう。

「あむ♪ん、ふっむぅ―うんっ!?」
フィオナの声が驚きに変わった。
驚きというよりも急に加わった他の刺激に対して反応したのだろう。
キス以外の他の刺激。
それは、オレが動いたこと。
右手をフィオナの尻尾へと這わしたことだ。
人間に尻尾なんてついていないからわからないがどうやら尻尾というのは敏感なものらしい。
脊髄から繋がっているようなものなのだから当然か。
猫は尻尾でバランスをとるので体の中でも重要な器官だとも聞くし。
それは尻尾を持つものたちにも例外はない。
リリムだってそうらしい。
人差し指でくすぐるように撫でるだけでびくりと震えるフィオナの体。
「あっ…やぁ…ぁっ♪尻尾は、ダメぇ…♪」
ダメと言われてやめるわけもない。
敏感な部分を弄られている感覚に悶える姿を見たオレはさらに動きを追加する。
わざと音を立てて。
フィオナの尻尾にキスをした。
「ひゃあっ♪」
普段オレがされている分のお返しといわんばかりに。
くすぐり、弄り、キスをする。
それはまるで愛撫のようで。
それはオレの証を刻み込むような動きだった。
尻尾を撫でていた手を止め先端にそっと口付ける。
ただ触れるだけの子供っぽいキスをした。
「んぁあああああっ♪」
痙攣するフィオナの体。
それと同時に締まる彼女の中。
危うく忘れそうになったがオレのものはフィオナの中に埋まったままだ。
だからその痙攣はモロにオレに伝わってくる。
「おわっ!」
ぎゅっと締め付けるフィオナの中。
柔らかくて吸い付いてきて、思わず果ててしまいそうになるのだが何とか堪える。
初めてのほうでは何度もすぐに果てていた。
そもそも淫魔であるフィオナの中は常人が耐えられるような快楽で済ませてくれるわけがない。
人外の快楽。
魔性の快感。
愛液が染み込んでいった分だけ感覚は鋭くなるし。
擦れるたびに神経を浮かされているかのように思える。
なくなって溶けてしまって、一つになったんじゃないかと思えるぐらいに。
あのころと比べれば随分と進んだと思う。
慣れのなかった快楽に耐えられるようになった。
でもそれはフィオナともっと愛し合うためで。
彼女ともっと長くしていたいがため。
「んん…♪ひどい、ユウタ…。」
体を痙攣させながらもそんなことを言う。
何がひどいのだろう。
フィオナは頬を膨らませてオレを見つめる。
「イっちゃったじゃないの。」
「うん?嫌だった?」
その言葉にフィオナは首を振った。
それと共に揺れる白い長髪。
毛先が肌をくすぐるようでなんともくすぐったい感覚だ。
「違うの。嫌なんじゃなくて…ユウタにも気持ちよくなってもらいたいの。」
フィオナはそう言った。
真っ直ぐオレを見て。
赤い瞳にオレを映して。
その言葉に、その瞳に。
オレは嬉しくなってしまう。
「そう思ってくれるだけで十分だよ、フィオナ。」
もうすでに気持ちいいし。
そう想われるだけでも心地いいのだから。
しかしオレの言葉にフィオナは満足しなかったのだろう。
オレの手から離れた尻尾を動かした。
「…フィオナ?」
「ダメ。」
しゅるりとオレの右足に巻きついたのは間違いなくフィオナの尻尾だろう。
見なくてもわかる。
こうやって巻きついてきたのは初めてじゃないんだし。
さっきだって巻きついていたんだし。
そして腕はオレの後頭部へとまわされ、抱き寄せられる。
「まだユウタの精液、出してもらってないし…それに。」
そこでフィオナは言葉を切って微笑んだ。
子供のように無邪気で、幼くも精一杯優しくしようとしている子供みたいに。

「ユウタに気持ちよくなってもらいたいの♪」

その一言を言われるだけでどれほど嬉しいことか。
その言葉を贈ってくれるだけでどれほど喜ばしいことか。
快楽なんていらない。
それだけでも十分だと思える。
でもフィオナはそれで満足しない。
それに…この体勢。
オレの足に尻尾を巻きつけたこの姿。
これは昨晩もした格好。
フィオナがこれでもかというほど絞ろうとするときにしてくる姿勢。
オレの体が離れないようにぶれないように尻尾で引き寄せて。
「…ちょっと待ったフィオナ。」
朝からこれはキツイだろ!
せめて夜まで待ってくれよ!!
しかしそんなオレの気持ちなんて知ってか知らずか。
フィオナは笑みを浮かべる。
いやらしい、妖艶な笑みを。
「ダメ♪待ってあげないんだから♪」
そう言ってフィオナは腰を動かした。
ゆっくりと、埋まっていたオレのものを吐き出す。
しかし彼女の中はその動きを拒むかのように蠢く。
離れたくないといわんばかりにオレのものに吸い付いてくる。
若干の抵抗。
しかしそれは膨大な快楽へとなる。
「うぁっ!」
「はぁぁぁぁあ♪」
塗りこまれる愛液。
絡みつく肉壁。
ただ引き抜くという動作だけでも果ててしまいそうになる。
オレのもが抜けるギリギリのところまで腰を上げるフィオナ。
同時に張る彼女の尻尾。
これ以上離れない。
これ以上逃げられない。
オレのものが外れて出てしまわないようにという束縛であり。
それと同時にこれはフィオナの気持ちでもある。
ずっといたいという、傍にいたいという。
彼女の想いでもある。
そう考えると離れないようにと締め付けられる足の感覚さえ心地良く感じてしまう。
フィオナを見た。
オレを抱きしめて離さない愛しの女性を見た。
頬を快楽に赤く染め、蕩けた表情をしたフィオナ。
その顔を見ているだけでも情欲が湧き上がり、欲望が滾ってしまう。
思わず相手のことなんて考えずに乱暴にしたいと。
もっと快楽を貪りたいと思ってしまう。
でも、そんなことはしない。
そんな自分勝手な欲望をぶつけてフィオナを傷つけたいとは思わない。
それに。
そんな欲望をぶつけられるのは…大抵の場合…。

―オレの方なんだよなぁ…。

そんなことを考えていたら急にフィオナが腰を降ろしてきた。
ゆっくりと焦らすようにするわけがなく。
深く、激しく降りてくる。
そしてオレのものを歓迎してくれるフィオナの中。
先ほどよりもずっと強く抱きしめられて絞られる。
「ぁあっ!!」
「ひゃぁぁあん♪はぁ、あ♪」
熱くて、熱くて、とても熱いフィオナの中。
まるで燃えていると錯覚してしまうような感覚は燃え上がるような快楽へと変わっていく。
単調な上下運動。
出して、押し込み、吐き出し、また呑み込む。
そんな単純な動きが恐ろしいほど気持ちいい。
だがそれだけではない。
オレもフィオナももう初めてではない。
互いが互いに純潔を捧げあった仲であり、共に体を重ねてきた相手である。
肌を重ねた回数は既に三桁へ達しているかもしれない
そこまですればついてくるのが経験である。
どうすれば気持ちよくなってくれるのか自然とわかってくるし、技術だって身についてくる。
「んん♪こう、してぇ♪」
「うわ…っ!」
腰をただ上下させるだけではなくなった。
円を描くように腰をグラインドしてきた。
先ほどとはまた違った感触が体を駆け巡る。
フィオナの中で擦れる感覚。
柔らかい媚肉に表面を削り取られているかのように錯覚する。
しかしそれはあながち間違っちゃいないだろう。
削られてるのはオレの理性なのだから。
削って剥がして、オレの欲望を浮き立たせる。
時折溢れ降りかかる愛液がさらに追い討ちをかけてくる。
「っ!フィ、オナ!」
自分で出した声が震えているのに気づく。
快楽によって蕩けかけているのも。
気を抜けば情けない声を出してしまいそうなことにも。
そんなオレの声を快楽に蕩けながらもしっかりと聞いていたフィオナは腰の動きを早めた。
「んんぁっ♪ユウタぁ♪」
そうして何度も激しく腰を動かす。
気づけばオレからも合わせるように腰を動かしていて。
いつの間にかシーツも跳ね除け裸で交わりあう二人の姿がそこにはあった。
腰を上下するリリムの姿と。
下から突き上げる男の姿。
互いが激しく求め合い、時折光る雫が弾ける。
それは汗か、それとも彼女の愛の証か。
部屋に響く二人の交合の音。
肌と肌のぶつかり合う淫らな音と。
湿ったものが擦りあう淫靡な音。
そこに混じるのは女の嬌声と男の押し殺されたくぐもった声。
「ん、ぁっ!!」
オレはフィオナの腰を引き寄せた。
オレのものをさらに深く差し込むように。
「あぁあん♪」
それに反応して締まるフィオナの中。
子宮口がオレのものの先端に吸い付き、来るであろうものを一滴も漏らさないようにと抱きしめる。
昨晩あれだけ激しく交わったというのにまだ貪欲に求める。
そして、オレも。
それに応えるようにフィオナの中へと精を流し込んだ。
「来たぁぁあああ♪」
どくどくと流し込まれるオレの精。
それを催促するように蠢くフィオナ。
その動きにその快楽に耐えることなんて不可能。
むしろ応えるようにオレからもさらに精を流し込んだ。
人間にしてはあまりにも長い時間で。
人にしてはあまりのも多い量を。
ようやく長い射精を終えたオレはフィオナを抱きしめていた。
腕の中でびくびくと震える様子から先ほどので彼女も達したようだった。
「はぁ…はぁ…は、ん…♪」
ゆっくりと顔をオレのほうへと向けたフィオナはそのまま唇を突き出してくる。
先ほどのと同じように、甘えるかのように。
オレも拒む理由はなく当然といわんばかりに唇を重ねた。
「はん、ちゅ♪んんん、む♪」
「んん。」
終えた後のキス。
この余韻の残る口付けがまたたまらない。
出して意識も冷静になってきて、現実に戻ってきたとき傍に愛しの相手がいてくれるということが実感できて。
唇で、確かめ合えて。
起こすときにしたものよりも短く、激しさのないものだったがそれでも十分に満たされる。
そうしてどちらともなく静かに唇を離した。
「はぁ…♪ユウタぁ♪」
「はいはい。」
甘えるようにねだるように。
オレを呼んでくるフィオナを抱きしめて頭を撫でる。
いつものように。
毎日、しているように。
こうしていると落ち着くらしい。
そもそもオレはしている側なのでよくわからないが…フィオナ曰く安心するだとか。
だからこうして二人で抱き合ったときなんてよくしている。
髪を梳くように緩やかに。
そうして、いくらか落ち着いてきたところでオレはフィオナに声を掛けた。
「…朝ご飯に、しよう。」
「ふぇ?」
「いや、朝ご飯。」
本題である。
わりと重要なことである。
いくら人間の体ではなくなったとはいえどうも腹がすく。
やはりちゃんとしたものを食べないと体が満足してくれないらしい。
人間だった頃の習慣が抜けないというか…。
それに午後からの用事のためにも少しばかり腹を満たしておきたい。
しかしフィオナはオレに向かって笑みを向けた。
微笑みなんて優しいものじゃなく。
いやらしい妖艶な笑みを。
「今…してるでしょ♪」
「…いやいや。」
それはフィオナにとっての食事だろ。
その分オレは出してるから体力とかいろいろ使うっていうのに。
「それに…♪」
そう言ってフィオナは下腹部を摩る。
ちょうどオレのものが入っている辺りを。
愛おしそうに撫で回す。
「まだ、満足してないもん♪」
「いやいやいや。」
昨夜十分しただろっていうのに。
「あと三回はして欲しいの♪」
「いやいやいやいや!」
あと三回!?
朝から四回も出せって言うのか!
いくらなんでもキツイっていうのに!
いくら性欲盛んな年頃で成長止まったからっていっても体にこたえるっていうのに!
止めようと手を伸ばす。
が、しかし。
そんなオレの動きを見切っていたかのようにフィオナはオレの手首をつかんだ。
優しく包み込むように。
しかし、オレの動きを制するように。
オレが動けないくらいの力を込めて。
「ね、ユウタ♪」
そう言っていやらしく笑うフィオナを前にオレは引きつった笑みを浮かべた。


フィオナに求めるままに抜かずの三回。
それで終わりと見せかけてオレからも求めて一回。
一番最初にしたのをあわせると…。
朝から五回もしていることになる。
っていうか最後にいたっては自分から求めちゃったよ。
…意外とお盛んだな、オレ。
そんな風に思いながらもいつもの服に着替える。
白いYシャツに黒い学校指定の学生服。
服の材質は多少変わってしまっているものの向こうにいたときと同じ姿だ。
ボタンを閉めてベルトも巻いて。
着替え終わって振り返った。
振り返った先。
というか先ほどまで肌を重ねていたベッド。
その上に着替え終わったフィオナが座っていた。
露出の多い、男の欲望を誘い出す服。
挑発的で、魅惑的。
だが年頃の女の子なんだからもう少し露出は控えたほうがいいと思うんだけどね。
そんなフィオナはいまだにベッドに座り込んだままだ。
「どうしたんだよ?」
なんていうか…フィオナは動く気配を見せない。
何か面白いことでも思いついたのか嬉しそうな笑みを浮かべて。
子供みたい、と思ってしまう。
実際はオレのほうが下なんだろうけど。
「腰、抜けちゃった♪」
「…は?」
腰が抜けた?
「だってユウタが激しすぎるんだもん♪」
「いや…。」
そりゃ乗りに乗ったときはオレだって激しいかもしれないけどさ。
でも腰が抜けたって。
たった一回激しくしただけじゃん。
それ以外全部攻めてきたじゃん。
「腰抜けちゃって動けないから、抱っこして♪」
「…。」
まったくこのわがまま姫は。
そっちが狙いというわけか。
というか腰が抜けたとしても翼で飛べるだろうに。
なんてことは言わずにオレはフィオナの体を抱き上げた。
勿論お姫様抱っこで。
「まったく、仕方ないな。」
「やん♪」
結構軽いフィオナの体。
抱き上げると同時に甘い香りが鼻腔をくすぐる。
散々してオレ自身にも香りが移っているだろうけど。
「そんじゃ、フィオナ。今日はどっちにする?食堂まで行くのか、それともオレが作るか?」
「ん〜それじゃあ食堂に行きましょ。」
「…この状態で?」
「当たり前でしょ♪」
…聞くべきじゃなかったな。
流石にお姫様抱っこしたまま食堂まで行くのは周りの視線が痛い。
羨望の眼差しで見られてるんだろうけど…刺さるんだよねあれ。
「行かないの?行かないならベッドでもっとして欲しいな〜♪」
「あーはいはい、行くって。」
まったく困ったお姫様だ。
そう心の中で呟き苦笑してオレはフィオナを抱き上げたまま部屋を出て食堂へと向かうのだった。
11/07/19 22:12更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
戻る 次へ

■作者メッセージ
ということで始まりました!
クロクロハーレムエンド!
ハーレムを迎えた主人公の後日談という形です!
いちゃいちゃエロエロです!
今回はただひたすらいちゃエロ、ほのぼのです!
はじめはリリムであるフィオナ
主人公を召喚した者ではじめてを贈りあった仲は伊達じゃない!
朝っぱらからしちゃいましたw

そして次回はエキドナのエリヴィラ!
午前中主人公は彼女に出会って…!

それでは、次回もよろしくお願いします!


あ、次回フィオナも出ます!!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33