無垢とお前とお茶目とお前とオレと…ロリロリ? 中編
基本的に孤児院でオレは子供たちの世話をしている。
遊び相手や子供たちを寝かしつけるなど様々な世話だ。
時には子供たちに食べさせる料理を作ったり、時に風呂の世話までもしたりと…。
気を抜けば…襲われかねないギリギリのところまで世話をしていた。
そう、ギリギリだ。
気を一瞬でも抜けば襲われる。
もしくは襲ってしまう、そんなところまで。
時々積極的な行動へと移る娘まで出てくるからなぁ…。
例えば…風呂。
海に暮らす魔物娘たちに風呂は勿論必要はない。
必要なのはオレの方。
オレが風呂に入ろうとするといつの間にか潜んでいるネレイスに引きずり込まれかけた。
海で引きずり込もうとするあいつとは別の、この孤児院で暮らす娘が、だ。
その後「お背中流させていただきますよ〜♪」都会ってスポンジも使わずに体を擦り付けられたときは本当に…やばかった。
あいつ、オレと歳が近いからなおのこと。
発育のいい胸を擦り付けられたときは理性の鎖が千切れかけたぞ。
あの手この手でオレを誘惑してくるからなぁ…。
気が抜けないったらありゃしない。
この孤児院の先生にいたっても、だ。
下半身は蛸で上半身が美女の魔物娘。
マリ姉と同い年のスキュラの先生。
彼女もまた手のかかるお方。
この前なんて仮眠室の天井に吸盤で張り付いていていきなり上から降ってこられた。
あれも…危うかった。
触手で手足絡められるわ、自由を奪われ服の中に手を突っ込まれるわ…
本当に危うかった…。
ニーナがタイミングよくノックをしてくれたから何とか助かったが…。
あれ以来そういうことについてはとても警戒している。
近いうちに襲われそうな気がする。うん。すごくする。
とにかく。
この孤児院内には積極的な娘が多い。
その一人としてナタリーも例外ではなかった。
「わ〜い♪ユウ兄ぃ〜♪」
そんな可愛らしい声と共に抱きついてくるナタリー。
オレの腰に腕をまわして離れないようにしがみついてきた。
ゼリー質の肌の感触がなんとも言えないくらいに心地よい。
のだが…。
「ちょっと離れててくれよ、ナタリー。これから着替えるんだから。」
「うん?ユウ兄着替えるの?」
「おう。服が海水で濡れてるからな。」
先ほど海に落ちたせいで服がべたべた張り付いて気持ちが悪い。
それにこの孤児院は半分海に沈んでいるようなもの。
だから服なんて着ていても意味がない。
基本的にここでオレは水着姿。
「だから離してくれ。」
オレはナタリーの手を外そうとするがナタリーはより強く抱きつく。
がっしりと。
そして一言。
「やだ。」
「…。」
困った子だ。
満面の笑みを浮かべてオレを見上げてくる。
上目遣いで。
…可愛いんだよなぁ。
反則的なくらいに。
「だったら〜ナタリーが脱がしてあげる〜♪」
そういうとナタリーはオレの学生服のボタンに手を伸ばしてきた。
「おいおい…。」
ナタリーはまだ幼い。
それも年はニーナと変わらないくらいに。
だから幼い体つきをしているナタリーには手を伸ばしても届くのは胸くらいまで。
「んん〜…もうちょっと…。」
一番上のボタンにまで手を伸ばそうと頑張るナタリー。
本当に…可愛いんだよなぁ。
オレ自身小さい女の子が好きというわけではない。
向こうにいたころはじゃれ付いてくる無邪気な子供としか認識していなかった。
だが、この世界に来て。
魔物の女の子に触れ合って、その気持ちは揺らいでいる。
小さい子も…ありかもしれない。
あ、ロリコンじゃないからね?
「仕方ないな。」
オレはしゃがみ込むことでナタリーの手が届くようにしてやった。
それだけでもナタリーは嬉しそうに笑う。
「えへへ〜頑張るよ〜♪」
「頼むぜ。」
そう言ったところで、学生服の裾を引っ張られた。
見てみれば引っ張っていたのはニーナ。
その顔はなにか物欲しそうな表情。
ああ…そっか。
ニーナもしたいんだ。
「そんじゃ、ニーナにも頼もうかな。」
そういうとニーナは元気よく頷いてにっこりと笑う。
「うんっ!」
ニーナもナタリーと同じようにボタンに手を掛けて外し始めた。
はぁ…可愛いな、おい。
見ているだけで和みそうになるほどに。
でも、ロリコンじゃないから。
自分から襲うなんてことはしないから。
二人はオレにとっての妹みたいな存在なんだし。
そんなことを考えていたら違和感を感じた。
しゃがみ込んでナタリーとニーナの二人が学生服のボタンに手の届くようにしたのだが…そこ以外から感じた。
なんていうか…ごそごそしている感覚。
見ればニーナは一生懸命にボタンを外しているのだが…ナタリーが。
ナタリーがオレの下半身をおもむろにいじっていた。
「…何してんだナタリー?」
「うん?お着替えでしょ?だったら下も脱がないといけないんだよね〜?」
「下は後で脱ぐからいいって。」
「いいから、任せてよ〜♪」
「そこは任せらんねえよ。」
なんだか…わざとらしいなコイツ。
無邪気なのに…邪気を感じる…。
ニコニコ笑うナタリーの手は明らかに股間を刺激しようと動いているし。
だが稚拙な動き、そんなんじゃ反応はしない!
オレをその気にさせられはしない!
あのネレイスやスキュラぐらいの大胆さと発育がないからな!
…って何してるんだオレ。
自己嫌悪。
「あれ〜おかしいよ〜?」
ナタリーは手の動きをやめずに首をかしげた。
そうして次の発言にオレは固まらざるをえなかった。
「男の人はこうすると大きくなるって聞いたのに〜?」
びしりと、オレの体にヒビが入った気がした。
ボタンを外していたニーナが不思議そうにナタリーを見ている。
「ナタリーちゃん、大きくなるって?」
「んとね〜男の人はこうやって撫でると大きくなって気持ちよくなってくれるってお姉が言ってたの。」
…誰だそんなこと教えたのは。
よりによって純粋無垢で積極的なコイツに。
まさか…この孤児院のネレイスか?それともスキュラの先生か?
マリ姉…ってことは…考えられないな。
「…ナタリー、それはいったい誰から教えてもらった?」
「んとね〜エー姉。」
…え?
エー姉だって?
それはもしかして…?
「それって…メロウのエレーヌか?」
「うん、そうだよ。」
あんの野郎おぉぉぉぉぉぉぉ!!!
頭の中年中桃色花畑のエロエロメロウ!やってくれやがったな!!
子供にそんな知識を授けんじゃねえよ!教え込むんじゃねえよ!
そーゆー知識は自然についていくからいいんだよ!
子供のときにそんな知識を持ったら好奇心と合わさって危険になるんだよ!
ある意味好色な奴らよりも危険なんだよ!
とにかく、オレのすべきことはひとつ。
「…それは忘れろ。」
「え?何で?」
ナタリーは首をかしげた。
可愛らしいと思うがそれよりも今は別のこと。
その余計な知識は捨てさせるべきだ。
「それは…自然についてくる知識だからな。」
「でも…エレーヌお姉ちゃん、他にも色々と教えてくれたよ?」
今度はニーナから言ってきた。
おい、他って何だよ。
良い事じゃない気がする。とんでもなくする。
「…何を教わった?」
「えっと…しっくすな―」
「忘れろ。それは本当に忘れろ。」
あの野郎おぉ!!マジでいらねぇ知識を植えつけていきやがった!
ここは海のど真ん中の建物だからマーメイド種などの魔物娘達がよく寄ってくる場所でもある。
時にはマーメイド。
時にはシー・ビショップ。
時にはネレイスなど様々な魔物娘達が寄ってくる。
メロウであるエレーヌもまた例外ではない。
時折姿を見せに来るけど…ついでにそんな性知識を植えつけて欲しくないな…!
本当に困った奴だ。
ある意味、この孤児院にいるスキュラやネレイスよりもタチが悪い。
「…とにかくエレーヌから教わったことは全部忘れるよ?いいな?」
「え〜何で〜?」
「とにかく、な!」
オレはナタリーを引き離し、ボタンを外された学生服を脱いだ。
まったく。
これじゃあ先が思いやられるって言うのに…。
小さくため息をついてオレは近くの椅子に学生服を掛けて、もう一度ため息をついた。
この孤児院での子供の世話といえばやはり遊び相手になること。
孤児院は半分海に浸かっている様なものなので室内でも海の魔物娘達は自由に泳ぎまわれる。
その分、人間は少々行動しにくいが。
孤児院内で人間はオレ一人なので遊び場は基本周りの浅瀬だ。
たまには遠くのほうまで泳ぎにも行くのだが…。
一人になったら狙われるからなぁ…主にネレイスに。
それに皆は海の魔物。
人間であるオレには海で出来ないこともできちゃうからなぁ。
素潜り…そんなに長く出来ないからなぁ。
なので基本は浅瀬で遊んでいる。
どんなことをと聞かれれば…そうだな…。
陸上でしか出来ないこと…とかだろうか?
ただいまオレがやっているように。
ニーナとナタリーを背に乗せてお馬さんごっこをしたりとか。
「わ〜い♪」
「ユウタお兄ちゃんの背中ひろーい!」
こんなことでも喜んでもらえるのならこちらとしても嬉しいものだ。
まるで妹でも出来たような感覚。
オレは末っ子だったからなぁ。
新鮮でとても興味深い感覚だった。
ただ、その感覚を味わっている中で、ナタリーが動き出した。
オレの背に乗ったまま体を必要以上に揺らしてくる。
ゼリー質の体がオレの背で跳ねる。
その動きは服を脱いで水着姿になっているオレの背にダイレクトに伝わるのだが…どうしたのだろう?
体を上下に動かしたりして…。
「ナタリー?どうしたんだ?」
「こんな風にすればいいのかなって思って。」
…うん?何だって?
なんだかまたおかしくなってきたぞ?
「…こんな風にって…何が?」
「えっとね〜…きじょうい。」
凍った。
オレの体がまるで絶対零度に引き下げられカチカチになってしまったかのように。
今…ナタリーはなんて言った?
きじょうい?
騎乗…位?
あれ?何でそんなことを知ってるんだ?
「ナタリーちゃん、きじょういって何?」
「えっとね〜エー姉が言ってたんだけどね〜きじょういっていうのは男の人を気持ちよく―」
「ナタリー、それは忘れろ。ニーナも今聞いたことは忘れろよ?」
「え〜?」
「ユウタお兄ちゃん、どうして?」
「…どうしてもだ。」
頭を抱えたくなった。
何で子供がそんないらん知識を持ってるんだよ。
…エレーヌ、何やってくれてんだよ。
この様子だと…まだ他にも教えられていそうだ。
まったく…。
両手両足をついた四つん這いの姿勢でオレは小さくため息をついた。
お馬さんごっこをしてから数時間後。
さすがにあれをずっと続けているわけにもいかないので遊びを変えることにした。
室内で出来る遊び。
といっても孤児院内は基本海水に浸っている。
浸っていないのはオレがよく使う仮眠室と風呂と台所ぐらいだろう。
それ以外は皆が動きやすいように、生活しやすいようになっている。
皆海の魔物だから当然といえば当然だ。
オレにとっては少しばかり不便だが。
そして、孤児院の二階の仮眠室にオレとニーナとナタリーはいた。
床に座って手に持っているのは布の袋に小さい豆を詰めたもの。
オレのいた世界の伝統の遊び道具、お手玉。
それを三つもってナタリーとニーナに見えるように座っていた。
「これをこうやって…ほっ、よっとっ。」
オレは三つのお手玉を器用に放り投げ、ジャグリングのようにとっては投げを繰り返す。
「わぁ〜ユウ兄すごいすごい!」
「ユウタお兄ちゃんかっこいい!」
そこまで言われるとは思わなかった。
確かに傍から見るとすごく見えるんだよな、これって。
お手玉。
子供でも出来る遊びでなおかつ女の子向けの遊び。
オレの裁縫技術なら人数分楽々作れてすぐ出来るので孤児院にあった針と余っていた布、さらには小豆の代用として似たような豆を少しもらって先ほど作った。
いや、懐かしい。
オレも小さいころはお祖母ちゃんに教えられたっけ。
それでオレは上手く出来たけど双子の姉のほうが上手く出来なくて…。
それで…よくお手玉を投げつけられたっけ…。
執拗に…特に顔面に向かって…。
…痛い思い出だな。
オレは手を止め、二人の手にお手玉を渡した。
二人に二つずつ。
「ほら、やってみな。最初は難しいから二つずつからな。」
「うん♪」
「わかった!」
二人は元気よく返事をして二人はお手玉を上へ投げ始める。
投げて、そのまま落ちた。
中に入っている豆がむなしい音をたてる。
「…。」
「…。」
「…最初は上手くいかないもんだって。」
だからそんな目で見つめないでくれ。
まだ一回目だからな。
最初は誰だって下手なもんだからな。
不機嫌そうに頬を膨らませないでくれ。
数分後。
驚いたことにニーナがすでに三つのお手玉を投げていた。
ニーナって器用だったんだな。
普段はおとなしくて引っ込んでいる印象があったけどやれば出来る子なんだろう。
「どうどう?ユウタお兄ちゃん!」
「おう、上手だぞ!」
手だけを動かしたままオレのほうを向いているニーナ。
視線を外しているというのに手は規則正しく動いてお手玉を投げる。
すげぇ…わずか数分でここまで出来るもんか…!?
三つのお手玉を投げられるっていうのはオレの中ではちょっとした自慢だったんだけど…。
見事に破られたな。
この調子なら四つ五つもすぐに出来そうだ。
それに比べて…ナタリーは…。
「あはは〜♪楽し〜♪」
お手玉二つを投げて遊んでいた。
ジャグリングのようにではなく、ただ投げていた。
…楽しめればそれでいいと思うからいいんだけど。
どうやらナタリーはニーナほど器用というわけではないらしい。
器用なほうがいいというわけでもないからいいけど。
「あ、そうだ!」
そこでニーナが何か思いついたように声を上げた。
やはり手は動かしたまま。
器用だ…オレよりもずっと。
ナタリーはオレの顔を見て得意げな表情をする。
その大きな瞳にオレの顔を映して。
どうしたのだろう?
「ユウタお兄ちゃんは知ってる?」
「うん?何を?」
「あのね、お手玉ってね―
―手玉にとるっていう由来があるんだって。」
「…。」
「他にもね、もてあそぶことの意味もあるんだって。」
「…。」
本日三度目の硬直だった。
え?なんで?
何でニーナがお手玉の由来を知ってるんだ?
それはオレしか知らないはず…いや、オレとエレー…あ!
「…またエレーヌか?」
「そうだよ。」
だよなー!
それはオレがエレーヌに言ったことだもんな!
この前楽しくしゃべってたときに教えたことだもんな!
それがよりのよってこんなところで返ってくるとは思ってなかった!
「ねぇねぇ、ユウタお兄ちゃん。もてあそぶって何?」
「…ニーナ、それはまだ知らなくていいことだからな。」
「えー?」
そんな顔をしないでくれ。
疑問に思うことはいいことだと思う。
だけどそんなとんでもないことに疑問を持たないでくれ。
子供は無邪気で何も知らないからこそこんなところで困るんだよなぁ。
ニーナは不思議そうな顔をしたままで、隣ではナタリーが楽しげにお手玉を投げている。
恥ずかしがりやなところもあるニーナと。
ちょっとお茶目なナタリー。
二人ともまだまだ幼くそして無垢な存在。
だからこそ、何でも興味を持つ。
その興味をそんなことに持ってもらいたくはないな。
オレは二人から見えないように小さく息を吐いた。
夜。
海面に月が映る真夜中。
孤児院内の子供達は寝静まったころ。
静かな孤児院の一室で大人組が一息ついていた。
大人組なんていってもいるのはオレとマリ姉とスキュラの先生とオレと歳の近いネレイスの四人である。
「は、ふぁ〜…なんか精神的に疲れた…。」
純粋無垢、天真爛漫な子供たちを相手にするのは楽しいことだが、予想以上に疲れる。
「お疲れ様。」
テーブルの上に突っ伏す、いまだ水着のオレに慰労の言葉を掛けてくれるマリ姉。
そのまま優しくオレの頭を撫でてくれる。
温かく柔らかな手が気持ちがいい。
このまま溶けてしまいそうなぐらいに。
癒される…。
「ふふー♪そんなに疲れているのならウチが癒してあげるのにィ♪」
「…いいです、遠慮しときます。」
オレは顔を上げて前を見た。
オレに向かい合うように座る女性。
マリ姉と同じ歳の美女。
赤くて長く癖のある髪の毛。
その上に古い壷をアクセサリーのように乗っけている。
椅子に座っている状態でもわかるその体の美しさ。
そして、椅子の下にはマリ姉のような魚の下半身ではない。
八本の足、蛸のような足をしている彼女。
スキュラ。
この孤児院で先生をしている女性。
名前をマルグリット。
オレを襲ってきた女性。
彼女は顔にニヤニヤとした笑みでこちらを見ていた。
「本当にユウタは良くやってくれてるよォ。だからこそお礼したくなっちゃうなァ♪」
「いや、本当にいいですから。」
ハッキリ言って彼女に対してちょっと恐怖している。
仮眠室で襲われかけたからなぁ。
あれがトラウマとなっていてマルグリットさんの前にいるだけで震えそうになるほどだ。
あれは怖い。心臓が飛び出るかと思ったほどだ。
オレは体を起こして今日何度目かになるため息をつく。
そんなオレの前にカップが置かれた。
中には温かそうに湯気を立てる液体。
色からするに紅茶の類だろう。
「はい、ユウタ。ハーブティーよ。」
オレにハーブティーを渡してくれた女の子。
歳の近い…といっても一歳しか違わない彼女。
青く、つやつやとした鱗の生えた肌。
水かきのある手足に尻尾。
オレよりも年下だというのにすでに豊満で完成された体つき。
海にもぐれば十中八九オレを引きずり込もうとするあいつと同じ種族。
ネレイス。
この孤児院の子供たちの中で一番年上の子だ。
「ん、ありがと。アレット。」
オレはカップに口を付け、ハーブティーを飲もうとした。が。
「…何か入れたか?」
変な味がした。
なんていうか…こってりどろっとした甘さが。
ハーブティーにこんな味はあっただろうか。
そもそも紅茶の類なら味よりも風味だろうに。
ここまで変わった味はしないだろうに。
舌先に変な味を感じたのですぐさまカップを置く。
その途端に舌打ちが聞こえた。
ひとつはアレットから。
もうひとつはマルグリットさんから。
…この二人何か企んでるな。
「つまんないよ、そんな飲まずに気づいちゃうなんて。気づくのなら全部飲んでからにしてよ。」
「…今度は何を入れた?」
「媚薬。」
やっぱり入れてたか。
ここのところ飲み物から食べ物にいたるまでそうだ。
やたら甘いと感じたものは口に入れないようにしている。
料理もほとんどはオレが担当するようにしている。
そうしないと、きっととんでもないことになるから。
絶対になるから…。
アレットはくすくす笑いながらオレの首に腕をまわしてきた。
するりと、流れるような動作でオレを拘束する。
動けないように抱きしめる。
当然のように発育のいいその胸をオレに押し付けて。
「…何?」
「いや、ユウタは本当に動じないなーって思って。」
「動じたらまずいだろーが。」
「いや〜あたし達にとってはそっちのほうが嬉しいよ♪」
「その分オレが困るんだよ。」
「こーんな美少女相手に困る要素なんてないでしょ?」
「そんな美少女だから困るんだって。」
オレはアレットの腕から抜け出しアレットを見た。
青い海のような瞳を見て言った。
「そーゆーことは本当に好きになった相手にしろよ。」
「…ナタリーにはよく抱きつかせてるよ?」
「ナタリーはしょうがないだろ。」
シー・スライムとして男性に密着しないといけない。
それが彼女にとっての食事。
男性の汗や唾液がナタリーにとっての食事となるからだ。
「でもニーナも抱きついてるよ?」
「ニーナは…。」
ナタリーと一緒になって抱きついて来るんだよな。
ニーナはカリュブディスとして雑食。
ちゃんとニーナのために料理を作っているし、彼女もそれを食べている。
確かに抱きつかれる意味はないのだが…。
「…そうしたい年頃なんだろ。」
ニーナは孤児。
ナタリーもまた孤児。
歳が歳だから人肌を求めたくなるのだろう。
親という存在がいない彼女たちだから。
「じゃ、あたしも人肌が恋しいよ!」
「お前は好きになった相手にしろって。そのほうが気兼ねなくできるだろ?」
「……ユウタって本当に…どうしようもない、よ。」
「そーかい。」
この年頃は難しい。
それこそニーナやナタリーのような幼い子達よりも。
オレと歳が近いのに。
やはり男と女、別の生物ってことだろうな。
アレットはマルグリットさんの隣の椅子に座ってそっぽを向いた。
不機嫌にしちゃったか。
原因は…オレだろうな。
何でかは…わからないけど。
そこでオレはまた、ため息をつく。
この孤児院にいるとやっぱり疲れる。
その分楽しいからいいんだけど。
そういえば、と思う。
以前もこんな風に子供達の相手をしたことがあった気がする。
空手道場で、オレよりも年下の子達を相手に。
あの頃も楽しかった。
師匠の対応は普通だったし。
皆で笑っていれたし。
賑やかで愉快な雰囲気だった。
瞼を閉じて少しだけあのころを思い出してみる。
そこは道場。
広い空間にいるのはオレと師匠のみ。
二人以外、誰もいない。
他の門下生は皆師匠の『殺戮衝動』を知って来なくなった。
それが当たり前だろう。
誰だってそんな危険な人物の下で武術を習いたいなんて思うわけない。
オレ以外は。
「…二人っきりになっちゃいましたね、師匠。」
「そうだね、ユウタ。」
「ちょっと寂しいですね。」
「だね。」
師匠は笑った。
悲しそうな笑みをオレに見せた。
胸の奥深くに刺さるような、そんな悲しい笑みを。
「…。」
師匠は悔いている。
弟子なんかを取ってしまったことを。
空手道場を開いてしまったことを。
そんなことをしなければ誰も傷つけずにすんだから。
それさえしなければオレを殺しかけなかったはずだから。
でも。
師匠はただ寂しかった。
誰かにかまって欲しかった。
その理由がわかるほどオレは師匠を知っているわけではない。
でも、それでも。
師匠が今まで孤独だったってことぐらいはわかる。
あの衝動のせいでどれ程独りで過ごしてきたのか、わかる。
だから、オレは…。
「…どっかで門下生の募集でもしてきますか?」
その孤独を埋めるための提案をした。
…のだが…。
「うん?どうして?」
師匠は不思議そうにオレを見て言った。
「え、いや、どうしてって…二人だけじゃこの道場も寂しいじゃないですか。」
「二人だけじゃ寂しい?」
「そりゃ…この広い道場に二人っきりっていうのは…。」
「そっか、ユウタは寂しいんだね…それなら作っちゃおうか。」
「…作る?」
「そう。弟子を作るんだよ。」
その意味がわからなかった。
弟子を作るなんて…どこかにアテでもあったのだろうか?
師匠の口から出たのは予想外な答えだった。
「自分と、ユウタの弟『子』…♪」
は?と思った。
え?って感じだった。
何を言ってるんだこの女性は。
なんという発言をしてんだこの人は。
なんで『子』を強調した?
「師匠。わけが…わからないんですけど…。」
「んもぅ、だから、ユウタと自分が子供を作って…その子達に教えればいいんだよ♪」
「…は?」
「この道場が寂しくなくなるくらいだから…十人以上は確実だね♪」
「…え?」
「ユウタとの子かぁ♪やっぱりユウタに似て黒髪かな?それとも自分に似た灰色の髪かな?」
「…いやいや、師匠?なんでそんな近寄ってくるんですか?」
「大丈夫だよ、ユウタ。安心して全部自分に任せて…♪」
「いやいやいやいや、師匠?顔が怖いですよ?涎垂れてますよ?息荒いですよ?」
…………あれ?…なんか違くね?
回想するとこ…間違ってね?
懐かしむところ…全然あってなくね?
何でそっちを思い出してんだ。
そっちは師匠がオレへの対応をがらりと変えた後のことじゃねえか。
なんかもう…なんか…なんかなぁっていう日々が始まった頃じゃねえか…。
今の状況と関係ないし。
何思い出してんだ…オレ。
自己嫌悪で再びテーブルに突っ伏したところ、急に足を叩かれた。
強い力ではなく、気づいてもらえるように優しい力で。
とんとんと、叩かれた。
何だ?マルグリットさんの足だろうか?
足のほうへと顔を向けて見ればそこにいたのは―。
「…ニーナ?」
ニーナがいた。
オレを見上げてどこか泣き出しそうな顔で。
オレの足に引っ付いて。
「…眠れないのか?」
「…。」
ニーナは静かに頷いた。
そっか、寝れないのか。
この年頃なんだ、寝れなくなる日だってあるのだろう。
子供なんだから。
「…仕方ないな。」
オレはニーナを抱き上げる。
背中に腕をまわして、落ちないように。
その柔らかな体を持ち上げた。
「ちょっと行ってくる。」
オレはそのまま席を立ち、寝室へと向かった。
背中からはブーイングと苦笑の声。
誰が誰だかなんて見なくてもわかる。
まったく、困った奴らだ。
この孤児院での寝室というは海水で浸っている。
それは魔物娘たちのため。
海で暮らしているのだから寝室も海水に浸っているのは当然だろう。
人間であるオレにとって寝られる場ではない。
そのためオレは二階の仮眠室で寝ている。
だが、時には。
こうやって寝られない子供がいるときぐらいは。
子供が寝付くまで隣で手を握っていたりもする。
「怖い夢でも見たのか?」
「…。」
ニーナは答えない。
ただオレに強く抱きつくだけ。
それだけ。
「…そっか。」
オレも同じように抱きしめる。
ニーナが安心してくれるように。
少しでも寝付きやすくなるように。
と、そこで。
「ユウタ、お兄ちゃん…。」
ニーナがオレを呼んだ。
弱弱しく、不安そうな声で。
「うん?どうした?」
「ユウタお兄ちゃんは…ニーナのこと…好き…?」
どうしたのだろう?
急にそんなことを聞いてくるなんて。
なんていうか…ニーナらしくない。
何かあったのだろうか?
とにかくオレはニーナの言葉に答えた。
「おう、好きだ。」
嘘ではない言葉。
ニーナのことは好きだ。
妹のような存在として、オレはニーナを好いている。
「それじゃあ…ナタリーちゃんも好き…?」
「ああ、二人とも同じくらいに好きだ。」
「じゃあ…ユウタお兄ちゃん…。」
ニーナは動き出す。
オレの腕の中で体をもぞもぞと動かして。
どうやら下に下りたいようだ。
オレはニーナの体を下におろす。
海水でオレの膝まで満たされているこの部屋に。
下ろされたニーナはオレの手を掴んだ。
「どうした?」
「あのね…ユウタお兄ちゃん。」
ニーナはオレを見つめる。
大きな瞳がオレの顔を映し、きらきらと輝く。
部屋には沈黙。
明かりはつけてない。
窓から差し込む月明かりにオレとニーナは照らされる。
静かな空間でニーナは言葉を発した。
「ユウタお兄ちゃん………して…。」
その言葉の意味を理解する前にオレは部屋から消える。
この空間から跡形もなく。
オレは知らなかった。
この寝室は皆が寝ている場所。
部屋の入り口付近は浅く、奥のほうは深くなる造りである。
その部屋の入り口付近にそれがあったことを。
ニーナは孤児で巣がないカリュブディス。
そんな彼女がいったいどこで寝ていたのか。
その答えはオレの足元にあったらしい。
海水に満たされ、夜なのでいまいち視界がハッキリとしない足元。
そこにそれはあった。
―ニーナの巣はそこにあった。
おそらく孤児院に来てから作ったのだろう。
それかここ最近になって作ったのだろう。
とにかく。
その存在を理解したときには時すでに遅し。
オレはニーナに手を引かれ、そのまま巣に吸い込まれていた。
普段オレのために起こす渦潮を発生させることなく、静かに。
マリ姉たちに気づかれることもなく。
オレはニーナの巣に引きずり込まれた。
ドタバタ孤児院生活 夜編始まり!
遊び相手や子供たちを寝かしつけるなど様々な世話だ。
時には子供たちに食べさせる料理を作ったり、時に風呂の世話までもしたりと…。
気を抜けば…襲われかねないギリギリのところまで世話をしていた。
そう、ギリギリだ。
気を一瞬でも抜けば襲われる。
もしくは襲ってしまう、そんなところまで。
時々積極的な行動へと移る娘まで出てくるからなぁ…。
例えば…風呂。
海に暮らす魔物娘たちに風呂は勿論必要はない。
必要なのはオレの方。
オレが風呂に入ろうとするといつの間にか潜んでいるネレイスに引きずり込まれかけた。
海で引きずり込もうとするあいつとは別の、この孤児院で暮らす娘が、だ。
その後「お背中流させていただきますよ〜♪」都会ってスポンジも使わずに体を擦り付けられたときは本当に…やばかった。
あいつ、オレと歳が近いからなおのこと。
発育のいい胸を擦り付けられたときは理性の鎖が千切れかけたぞ。
あの手この手でオレを誘惑してくるからなぁ…。
気が抜けないったらありゃしない。
この孤児院の先生にいたっても、だ。
下半身は蛸で上半身が美女の魔物娘。
マリ姉と同い年のスキュラの先生。
彼女もまた手のかかるお方。
この前なんて仮眠室の天井に吸盤で張り付いていていきなり上から降ってこられた。
あれも…危うかった。
触手で手足絡められるわ、自由を奪われ服の中に手を突っ込まれるわ…
本当に危うかった…。
ニーナがタイミングよくノックをしてくれたから何とか助かったが…。
あれ以来そういうことについてはとても警戒している。
近いうちに襲われそうな気がする。うん。すごくする。
とにかく。
この孤児院内には積極的な娘が多い。
その一人としてナタリーも例外ではなかった。
「わ〜い♪ユウ兄ぃ〜♪」
そんな可愛らしい声と共に抱きついてくるナタリー。
オレの腰に腕をまわして離れないようにしがみついてきた。
ゼリー質の肌の感触がなんとも言えないくらいに心地よい。
のだが…。
「ちょっと離れててくれよ、ナタリー。これから着替えるんだから。」
「うん?ユウ兄着替えるの?」
「おう。服が海水で濡れてるからな。」
先ほど海に落ちたせいで服がべたべた張り付いて気持ちが悪い。
それにこの孤児院は半分海に沈んでいるようなもの。
だから服なんて着ていても意味がない。
基本的にここでオレは水着姿。
「だから離してくれ。」
オレはナタリーの手を外そうとするがナタリーはより強く抱きつく。
がっしりと。
そして一言。
「やだ。」
「…。」
困った子だ。
満面の笑みを浮かべてオレを見上げてくる。
上目遣いで。
…可愛いんだよなぁ。
反則的なくらいに。
「だったら〜ナタリーが脱がしてあげる〜♪」
そういうとナタリーはオレの学生服のボタンに手を伸ばしてきた。
「おいおい…。」
ナタリーはまだ幼い。
それも年はニーナと変わらないくらいに。
だから幼い体つきをしているナタリーには手を伸ばしても届くのは胸くらいまで。
「んん〜…もうちょっと…。」
一番上のボタンにまで手を伸ばそうと頑張るナタリー。
本当に…可愛いんだよなぁ。
オレ自身小さい女の子が好きというわけではない。
向こうにいたころはじゃれ付いてくる無邪気な子供としか認識していなかった。
だが、この世界に来て。
魔物の女の子に触れ合って、その気持ちは揺らいでいる。
小さい子も…ありかもしれない。
あ、ロリコンじゃないからね?
「仕方ないな。」
オレはしゃがみ込むことでナタリーの手が届くようにしてやった。
それだけでもナタリーは嬉しそうに笑う。
「えへへ〜頑張るよ〜♪」
「頼むぜ。」
そう言ったところで、学生服の裾を引っ張られた。
見てみれば引っ張っていたのはニーナ。
その顔はなにか物欲しそうな表情。
ああ…そっか。
ニーナもしたいんだ。
「そんじゃ、ニーナにも頼もうかな。」
そういうとニーナは元気よく頷いてにっこりと笑う。
「うんっ!」
ニーナもナタリーと同じようにボタンに手を掛けて外し始めた。
はぁ…可愛いな、おい。
見ているだけで和みそうになるほどに。
でも、ロリコンじゃないから。
自分から襲うなんてことはしないから。
二人はオレにとっての妹みたいな存在なんだし。
そんなことを考えていたら違和感を感じた。
しゃがみ込んでナタリーとニーナの二人が学生服のボタンに手の届くようにしたのだが…そこ以外から感じた。
なんていうか…ごそごそしている感覚。
見ればニーナは一生懸命にボタンを外しているのだが…ナタリーが。
ナタリーがオレの下半身をおもむろにいじっていた。
「…何してんだナタリー?」
「うん?お着替えでしょ?だったら下も脱がないといけないんだよね〜?」
「下は後で脱ぐからいいって。」
「いいから、任せてよ〜♪」
「そこは任せらんねえよ。」
なんだか…わざとらしいなコイツ。
無邪気なのに…邪気を感じる…。
ニコニコ笑うナタリーの手は明らかに股間を刺激しようと動いているし。
だが稚拙な動き、そんなんじゃ反応はしない!
オレをその気にさせられはしない!
あのネレイスやスキュラぐらいの大胆さと発育がないからな!
…って何してるんだオレ。
自己嫌悪。
「あれ〜おかしいよ〜?」
ナタリーは手の動きをやめずに首をかしげた。
そうして次の発言にオレは固まらざるをえなかった。
「男の人はこうすると大きくなるって聞いたのに〜?」
びしりと、オレの体にヒビが入った気がした。
ボタンを外していたニーナが不思議そうにナタリーを見ている。
「ナタリーちゃん、大きくなるって?」
「んとね〜男の人はこうやって撫でると大きくなって気持ちよくなってくれるってお姉が言ってたの。」
…誰だそんなこと教えたのは。
よりによって純粋無垢で積極的なコイツに。
まさか…この孤児院のネレイスか?それともスキュラの先生か?
マリ姉…ってことは…考えられないな。
「…ナタリー、それはいったい誰から教えてもらった?」
「んとね〜エー姉。」
…え?
エー姉だって?
それはもしかして…?
「それって…メロウのエレーヌか?」
「うん、そうだよ。」
あんの野郎おぉぉぉぉぉぉぉ!!!
頭の中年中桃色花畑のエロエロメロウ!やってくれやがったな!!
子供にそんな知識を授けんじゃねえよ!教え込むんじゃねえよ!
そーゆー知識は自然についていくからいいんだよ!
子供のときにそんな知識を持ったら好奇心と合わさって危険になるんだよ!
ある意味好色な奴らよりも危険なんだよ!
とにかく、オレのすべきことはひとつ。
「…それは忘れろ。」
「え?何で?」
ナタリーは首をかしげた。
可愛らしいと思うがそれよりも今は別のこと。
その余計な知識は捨てさせるべきだ。
「それは…自然についてくる知識だからな。」
「でも…エレーヌお姉ちゃん、他にも色々と教えてくれたよ?」
今度はニーナから言ってきた。
おい、他って何だよ。
良い事じゃない気がする。とんでもなくする。
「…何を教わった?」
「えっと…しっくすな―」
「忘れろ。それは本当に忘れろ。」
あの野郎おぉ!!マジでいらねぇ知識を植えつけていきやがった!
ここは海のど真ん中の建物だからマーメイド種などの魔物娘達がよく寄ってくる場所でもある。
時にはマーメイド。
時にはシー・ビショップ。
時にはネレイスなど様々な魔物娘達が寄ってくる。
メロウであるエレーヌもまた例外ではない。
時折姿を見せに来るけど…ついでにそんな性知識を植えつけて欲しくないな…!
本当に困った奴だ。
ある意味、この孤児院にいるスキュラやネレイスよりもタチが悪い。
「…とにかくエレーヌから教わったことは全部忘れるよ?いいな?」
「え〜何で〜?」
「とにかく、な!」
オレはナタリーを引き離し、ボタンを外された学生服を脱いだ。
まったく。
これじゃあ先が思いやられるって言うのに…。
小さくため息をついてオレは近くの椅子に学生服を掛けて、もう一度ため息をついた。
この孤児院での子供の世話といえばやはり遊び相手になること。
孤児院は半分海に浸かっている様なものなので室内でも海の魔物娘達は自由に泳ぎまわれる。
その分、人間は少々行動しにくいが。
孤児院内で人間はオレ一人なので遊び場は基本周りの浅瀬だ。
たまには遠くのほうまで泳ぎにも行くのだが…。
一人になったら狙われるからなぁ…主にネレイスに。
それに皆は海の魔物。
人間であるオレには海で出来ないこともできちゃうからなぁ。
素潜り…そんなに長く出来ないからなぁ。
なので基本は浅瀬で遊んでいる。
どんなことをと聞かれれば…そうだな…。
陸上でしか出来ないこと…とかだろうか?
ただいまオレがやっているように。
ニーナとナタリーを背に乗せてお馬さんごっこをしたりとか。
「わ〜い♪」
「ユウタお兄ちゃんの背中ひろーい!」
こんなことでも喜んでもらえるのならこちらとしても嬉しいものだ。
まるで妹でも出来たような感覚。
オレは末っ子だったからなぁ。
新鮮でとても興味深い感覚だった。
ただ、その感覚を味わっている中で、ナタリーが動き出した。
オレの背に乗ったまま体を必要以上に揺らしてくる。
ゼリー質の体がオレの背で跳ねる。
その動きは服を脱いで水着姿になっているオレの背にダイレクトに伝わるのだが…どうしたのだろう?
体を上下に動かしたりして…。
「ナタリー?どうしたんだ?」
「こんな風にすればいいのかなって思って。」
…うん?何だって?
なんだかまたおかしくなってきたぞ?
「…こんな風にって…何が?」
「えっとね〜…きじょうい。」
凍った。
オレの体がまるで絶対零度に引き下げられカチカチになってしまったかのように。
今…ナタリーはなんて言った?
きじょうい?
騎乗…位?
あれ?何でそんなことを知ってるんだ?
「ナタリーちゃん、きじょういって何?」
「えっとね〜エー姉が言ってたんだけどね〜きじょういっていうのは男の人を気持ちよく―」
「ナタリー、それは忘れろ。ニーナも今聞いたことは忘れろよ?」
「え〜?」
「ユウタお兄ちゃん、どうして?」
「…どうしてもだ。」
頭を抱えたくなった。
何で子供がそんないらん知識を持ってるんだよ。
…エレーヌ、何やってくれてんだよ。
この様子だと…まだ他にも教えられていそうだ。
まったく…。
両手両足をついた四つん這いの姿勢でオレは小さくため息をついた。
お馬さんごっこをしてから数時間後。
さすがにあれをずっと続けているわけにもいかないので遊びを変えることにした。
室内で出来る遊び。
といっても孤児院内は基本海水に浸っている。
浸っていないのはオレがよく使う仮眠室と風呂と台所ぐらいだろう。
それ以外は皆が動きやすいように、生活しやすいようになっている。
皆海の魔物だから当然といえば当然だ。
オレにとっては少しばかり不便だが。
そして、孤児院の二階の仮眠室にオレとニーナとナタリーはいた。
床に座って手に持っているのは布の袋に小さい豆を詰めたもの。
オレのいた世界の伝統の遊び道具、お手玉。
それを三つもってナタリーとニーナに見えるように座っていた。
「これをこうやって…ほっ、よっとっ。」
オレは三つのお手玉を器用に放り投げ、ジャグリングのようにとっては投げを繰り返す。
「わぁ〜ユウ兄すごいすごい!」
「ユウタお兄ちゃんかっこいい!」
そこまで言われるとは思わなかった。
確かに傍から見るとすごく見えるんだよな、これって。
お手玉。
子供でも出来る遊びでなおかつ女の子向けの遊び。
オレの裁縫技術なら人数分楽々作れてすぐ出来るので孤児院にあった針と余っていた布、さらには小豆の代用として似たような豆を少しもらって先ほど作った。
いや、懐かしい。
オレも小さいころはお祖母ちゃんに教えられたっけ。
それでオレは上手く出来たけど双子の姉のほうが上手く出来なくて…。
それで…よくお手玉を投げつけられたっけ…。
執拗に…特に顔面に向かって…。
…痛い思い出だな。
オレは手を止め、二人の手にお手玉を渡した。
二人に二つずつ。
「ほら、やってみな。最初は難しいから二つずつからな。」
「うん♪」
「わかった!」
二人は元気よく返事をして二人はお手玉を上へ投げ始める。
投げて、そのまま落ちた。
中に入っている豆がむなしい音をたてる。
「…。」
「…。」
「…最初は上手くいかないもんだって。」
だからそんな目で見つめないでくれ。
まだ一回目だからな。
最初は誰だって下手なもんだからな。
不機嫌そうに頬を膨らませないでくれ。
数分後。
驚いたことにニーナがすでに三つのお手玉を投げていた。
ニーナって器用だったんだな。
普段はおとなしくて引っ込んでいる印象があったけどやれば出来る子なんだろう。
「どうどう?ユウタお兄ちゃん!」
「おう、上手だぞ!」
手だけを動かしたままオレのほうを向いているニーナ。
視線を外しているというのに手は規則正しく動いてお手玉を投げる。
すげぇ…わずか数分でここまで出来るもんか…!?
三つのお手玉を投げられるっていうのはオレの中ではちょっとした自慢だったんだけど…。
見事に破られたな。
この調子なら四つ五つもすぐに出来そうだ。
それに比べて…ナタリーは…。
「あはは〜♪楽し〜♪」
お手玉二つを投げて遊んでいた。
ジャグリングのようにではなく、ただ投げていた。
…楽しめればそれでいいと思うからいいんだけど。
どうやらナタリーはニーナほど器用というわけではないらしい。
器用なほうがいいというわけでもないからいいけど。
「あ、そうだ!」
そこでニーナが何か思いついたように声を上げた。
やはり手は動かしたまま。
器用だ…オレよりもずっと。
ナタリーはオレの顔を見て得意げな表情をする。
その大きな瞳にオレの顔を映して。
どうしたのだろう?
「ユウタお兄ちゃんは知ってる?」
「うん?何を?」
「あのね、お手玉ってね―
―手玉にとるっていう由来があるんだって。」
「…。」
「他にもね、もてあそぶことの意味もあるんだって。」
「…。」
本日三度目の硬直だった。
え?なんで?
何でニーナがお手玉の由来を知ってるんだ?
それはオレしか知らないはず…いや、オレとエレー…あ!
「…またエレーヌか?」
「そうだよ。」
だよなー!
それはオレがエレーヌに言ったことだもんな!
この前楽しくしゃべってたときに教えたことだもんな!
それがよりのよってこんなところで返ってくるとは思ってなかった!
「ねぇねぇ、ユウタお兄ちゃん。もてあそぶって何?」
「…ニーナ、それはまだ知らなくていいことだからな。」
「えー?」
そんな顔をしないでくれ。
疑問に思うことはいいことだと思う。
だけどそんなとんでもないことに疑問を持たないでくれ。
子供は無邪気で何も知らないからこそこんなところで困るんだよなぁ。
ニーナは不思議そうな顔をしたままで、隣ではナタリーが楽しげにお手玉を投げている。
恥ずかしがりやなところもあるニーナと。
ちょっとお茶目なナタリー。
二人ともまだまだ幼くそして無垢な存在。
だからこそ、何でも興味を持つ。
その興味をそんなことに持ってもらいたくはないな。
オレは二人から見えないように小さく息を吐いた。
夜。
海面に月が映る真夜中。
孤児院内の子供達は寝静まったころ。
静かな孤児院の一室で大人組が一息ついていた。
大人組なんていってもいるのはオレとマリ姉とスキュラの先生とオレと歳の近いネレイスの四人である。
「は、ふぁ〜…なんか精神的に疲れた…。」
純粋無垢、天真爛漫な子供たちを相手にするのは楽しいことだが、予想以上に疲れる。
「お疲れ様。」
テーブルの上に突っ伏す、いまだ水着のオレに慰労の言葉を掛けてくれるマリ姉。
そのまま優しくオレの頭を撫でてくれる。
温かく柔らかな手が気持ちがいい。
このまま溶けてしまいそうなぐらいに。
癒される…。
「ふふー♪そんなに疲れているのならウチが癒してあげるのにィ♪」
「…いいです、遠慮しときます。」
オレは顔を上げて前を見た。
オレに向かい合うように座る女性。
マリ姉と同じ歳の美女。
赤くて長く癖のある髪の毛。
その上に古い壷をアクセサリーのように乗っけている。
椅子に座っている状態でもわかるその体の美しさ。
そして、椅子の下にはマリ姉のような魚の下半身ではない。
八本の足、蛸のような足をしている彼女。
スキュラ。
この孤児院で先生をしている女性。
名前をマルグリット。
オレを襲ってきた女性。
彼女は顔にニヤニヤとした笑みでこちらを見ていた。
「本当にユウタは良くやってくれてるよォ。だからこそお礼したくなっちゃうなァ♪」
「いや、本当にいいですから。」
ハッキリ言って彼女に対してちょっと恐怖している。
仮眠室で襲われかけたからなぁ。
あれがトラウマとなっていてマルグリットさんの前にいるだけで震えそうになるほどだ。
あれは怖い。心臓が飛び出るかと思ったほどだ。
オレは体を起こして今日何度目かになるため息をつく。
そんなオレの前にカップが置かれた。
中には温かそうに湯気を立てる液体。
色からするに紅茶の類だろう。
「はい、ユウタ。ハーブティーよ。」
オレにハーブティーを渡してくれた女の子。
歳の近い…といっても一歳しか違わない彼女。
青く、つやつやとした鱗の生えた肌。
水かきのある手足に尻尾。
オレよりも年下だというのにすでに豊満で完成された体つき。
海にもぐれば十中八九オレを引きずり込もうとするあいつと同じ種族。
ネレイス。
この孤児院の子供たちの中で一番年上の子だ。
「ん、ありがと。アレット。」
オレはカップに口を付け、ハーブティーを飲もうとした。が。
「…何か入れたか?」
変な味がした。
なんていうか…こってりどろっとした甘さが。
ハーブティーにこんな味はあっただろうか。
そもそも紅茶の類なら味よりも風味だろうに。
ここまで変わった味はしないだろうに。
舌先に変な味を感じたのですぐさまカップを置く。
その途端に舌打ちが聞こえた。
ひとつはアレットから。
もうひとつはマルグリットさんから。
…この二人何か企んでるな。
「つまんないよ、そんな飲まずに気づいちゃうなんて。気づくのなら全部飲んでからにしてよ。」
「…今度は何を入れた?」
「媚薬。」
やっぱり入れてたか。
ここのところ飲み物から食べ物にいたるまでそうだ。
やたら甘いと感じたものは口に入れないようにしている。
料理もほとんどはオレが担当するようにしている。
そうしないと、きっととんでもないことになるから。
絶対になるから…。
アレットはくすくす笑いながらオレの首に腕をまわしてきた。
するりと、流れるような動作でオレを拘束する。
動けないように抱きしめる。
当然のように発育のいいその胸をオレに押し付けて。
「…何?」
「いや、ユウタは本当に動じないなーって思って。」
「動じたらまずいだろーが。」
「いや〜あたし達にとってはそっちのほうが嬉しいよ♪」
「その分オレが困るんだよ。」
「こーんな美少女相手に困る要素なんてないでしょ?」
「そんな美少女だから困るんだって。」
オレはアレットの腕から抜け出しアレットを見た。
青い海のような瞳を見て言った。
「そーゆーことは本当に好きになった相手にしろよ。」
「…ナタリーにはよく抱きつかせてるよ?」
「ナタリーはしょうがないだろ。」
シー・スライムとして男性に密着しないといけない。
それが彼女にとっての食事。
男性の汗や唾液がナタリーにとっての食事となるからだ。
「でもニーナも抱きついてるよ?」
「ニーナは…。」
ナタリーと一緒になって抱きついて来るんだよな。
ニーナはカリュブディスとして雑食。
ちゃんとニーナのために料理を作っているし、彼女もそれを食べている。
確かに抱きつかれる意味はないのだが…。
「…そうしたい年頃なんだろ。」
ニーナは孤児。
ナタリーもまた孤児。
歳が歳だから人肌を求めたくなるのだろう。
親という存在がいない彼女たちだから。
「じゃ、あたしも人肌が恋しいよ!」
「お前は好きになった相手にしろって。そのほうが気兼ねなくできるだろ?」
「……ユウタって本当に…どうしようもない、よ。」
「そーかい。」
この年頃は難しい。
それこそニーナやナタリーのような幼い子達よりも。
オレと歳が近いのに。
やはり男と女、別の生物ってことだろうな。
アレットはマルグリットさんの隣の椅子に座ってそっぽを向いた。
不機嫌にしちゃったか。
原因は…オレだろうな。
何でかは…わからないけど。
そこでオレはまた、ため息をつく。
この孤児院にいるとやっぱり疲れる。
その分楽しいからいいんだけど。
そういえば、と思う。
以前もこんな風に子供達の相手をしたことがあった気がする。
空手道場で、オレよりも年下の子達を相手に。
あの頃も楽しかった。
師匠の対応は普通だったし。
皆で笑っていれたし。
賑やかで愉快な雰囲気だった。
瞼を閉じて少しだけあのころを思い出してみる。
そこは道場。
広い空間にいるのはオレと師匠のみ。
二人以外、誰もいない。
他の門下生は皆師匠の『殺戮衝動』を知って来なくなった。
それが当たり前だろう。
誰だってそんな危険な人物の下で武術を習いたいなんて思うわけない。
オレ以外は。
「…二人っきりになっちゃいましたね、師匠。」
「そうだね、ユウタ。」
「ちょっと寂しいですね。」
「だね。」
師匠は笑った。
悲しそうな笑みをオレに見せた。
胸の奥深くに刺さるような、そんな悲しい笑みを。
「…。」
師匠は悔いている。
弟子なんかを取ってしまったことを。
空手道場を開いてしまったことを。
そんなことをしなければ誰も傷つけずにすんだから。
それさえしなければオレを殺しかけなかったはずだから。
でも。
師匠はただ寂しかった。
誰かにかまって欲しかった。
その理由がわかるほどオレは師匠を知っているわけではない。
でも、それでも。
師匠が今まで孤独だったってことぐらいはわかる。
あの衝動のせいでどれ程独りで過ごしてきたのか、わかる。
だから、オレは…。
「…どっかで門下生の募集でもしてきますか?」
その孤独を埋めるための提案をした。
…のだが…。
「うん?どうして?」
師匠は不思議そうにオレを見て言った。
「え、いや、どうしてって…二人だけじゃこの道場も寂しいじゃないですか。」
「二人だけじゃ寂しい?」
「そりゃ…この広い道場に二人っきりっていうのは…。」
「そっか、ユウタは寂しいんだね…それなら作っちゃおうか。」
「…作る?」
「そう。弟子を作るんだよ。」
その意味がわからなかった。
弟子を作るなんて…どこかにアテでもあったのだろうか?
師匠の口から出たのは予想外な答えだった。
「自分と、ユウタの弟『子』…♪」
は?と思った。
え?って感じだった。
何を言ってるんだこの女性は。
なんという発言をしてんだこの人は。
なんで『子』を強調した?
「師匠。わけが…わからないんですけど…。」
「んもぅ、だから、ユウタと自分が子供を作って…その子達に教えればいいんだよ♪」
「…は?」
「この道場が寂しくなくなるくらいだから…十人以上は確実だね♪」
「…え?」
「ユウタとの子かぁ♪やっぱりユウタに似て黒髪かな?それとも自分に似た灰色の髪かな?」
「…いやいや、師匠?なんでそんな近寄ってくるんですか?」
「大丈夫だよ、ユウタ。安心して全部自分に任せて…♪」
「いやいやいやいや、師匠?顔が怖いですよ?涎垂れてますよ?息荒いですよ?」
…………あれ?…なんか違くね?
回想するとこ…間違ってね?
懐かしむところ…全然あってなくね?
何でそっちを思い出してんだ。
そっちは師匠がオレへの対応をがらりと変えた後のことじゃねえか。
なんかもう…なんか…なんかなぁっていう日々が始まった頃じゃねえか…。
今の状況と関係ないし。
何思い出してんだ…オレ。
自己嫌悪で再びテーブルに突っ伏したところ、急に足を叩かれた。
強い力ではなく、気づいてもらえるように優しい力で。
とんとんと、叩かれた。
何だ?マルグリットさんの足だろうか?
足のほうへと顔を向けて見ればそこにいたのは―。
「…ニーナ?」
ニーナがいた。
オレを見上げてどこか泣き出しそうな顔で。
オレの足に引っ付いて。
「…眠れないのか?」
「…。」
ニーナは静かに頷いた。
そっか、寝れないのか。
この年頃なんだ、寝れなくなる日だってあるのだろう。
子供なんだから。
「…仕方ないな。」
オレはニーナを抱き上げる。
背中に腕をまわして、落ちないように。
その柔らかな体を持ち上げた。
「ちょっと行ってくる。」
オレはそのまま席を立ち、寝室へと向かった。
背中からはブーイングと苦笑の声。
誰が誰だかなんて見なくてもわかる。
まったく、困った奴らだ。
この孤児院での寝室というは海水で浸っている。
それは魔物娘たちのため。
海で暮らしているのだから寝室も海水に浸っているのは当然だろう。
人間であるオレにとって寝られる場ではない。
そのためオレは二階の仮眠室で寝ている。
だが、時には。
こうやって寝られない子供がいるときぐらいは。
子供が寝付くまで隣で手を握っていたりもする。
「怖い夢でも見たのか?」
「…。」
ニーナは答えない。
ただオレに強く抱きつくだけ。
それだけ。
「…そっか。」
オレも同じように抱きしめる。
ニーナが安心してくれるように。
少しでも寝付きやすくなるように。
と、そこで。
「ユウタ、お兄ちゃん…。」
ニーナがオレを呼んだ。
弱弱しく、不安そうな声で。
「うん?どうした?」
「ユウタお兄ちゃんは…ニーナのこと…好き…?」
どうしたのだろう?
急にそんなことを聞いてくるなんて。
なんていうか…ニーナらしくない。
何かあったのだろうか?
とにかくオレはニーナの言葉に答えた。
「おう、好きだ。」
嘘ではない言葉。
ニーナのことは好きだ。
妹のような存在として、オレはニーナを好いている。
「それじゃあ…ナタリーちゃんも好き…?」
「ああ、二人とも同じくらいに好きだ。」
「じゃあ…ユウタお兄ちゃん…。」
ニーナは動き出す。
オレの腕の中で体をもぞもぞと動かして。
どうやら下に下りたいようだ。
オレはニーナの体を下におろす。
海水でオレの膝まで満たされているこの部屋に。
下ろされたニーナはオレの手を掴んだ。
「どうした?」
「あのね…ユウタお兄ちゃん。」
ニーナはオレを見つめる。
大きな瞳がオレの顔を映し、きらきらと輝く。
部屋には沈黙。
明かりはつけてない。
窓から差し込む月明かりにオレとニーナは照らされる。
静かな空間でニーナは言葉を発した。
「ユウタお兄ちゃん………して…。」
その言葉の意味を理解する前にオレは部屋から消える。
この空間から跡形もなく。
オレは知らなかった。
この寝室は皆が寝ている場所。
部屋の入り口付近は浅く、奥のほうは深くなる造りである。
その部屋の入り口付近にそれがあったことを。
ニーナは孤児で巣がないカリュブディス。
そんな彼女がいったいどこで寝ていたのか。
その答えはオレの足元にあったらしい。
海水に満たされ、夜なのでいまいち視界がハッキリとしない足元。
そこにそれはあった。
―ニーナの巣はそこにあった。
おそらく孤児院に来てから作ったのだろう。
それかここ最近になって作ったのだろう。
とにかく。
その存在を理解したときには時すでに遅し。
オレはニーナに手を引かれ、そのまま巣に吸い込まれていた。
普段オレのために起こす渦潮を発生させることなく、静かに。
マリ姉たちに気づかれることもなく。
オレはニーナの巣に引きずり込まれた。
ドタバタ孤児院生活 夜編始まり!
11/04/29 21:57更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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