ダンスとお前とオレと…ロリ? 中編 その2
5日後
「やったー!やっと完成じゃー!!」
「「「「「おめでとうございます!!」」」」」
ヘレナと仲直りして5日後。
オレが練習に参加せず、裏で別の事を進めていたとき。
ヘレナの部屋ではなく、喧嘩していたとき寝泊りしていた部屋にまでその声は響いた。
「…できた、のか。」
オレはペンを置き、書いていた紙をまとめて机の引き出しの奥へしまう。
念のために鍵をかけて。
…魔法使えばこんなもの意味もないんだろうけど。
部屋を出てヘレナたちのいる広間へと足を運んだ。
「おぉ!ユウタ!とうとう『ダンシング・サバト』ができたぞ!」
広間に行けばヘレナがとても嬉しそうな表情を浮かべて迎え入れてくれた。
他の魔女っ子達も同じように嬉しそうにしている。
「そっか。やったじゃんよ。」
「うむ!ここまで頑張ってこれたのも皆魔女達のおかげであり、そしてユウタ。ぬしのおかげじゃ!」
おっと、こいつはずいぶんと丸くなったな。
喧嘩する以前なら「ここまで一人でよく頑張ってきたものじゃ!」なんてことを言っただろうけど。
随分、成長してくれたな…。
「そっか。それじゃ見せてくれよ。今まで別の作業してたから見てないんだ。」
「だめじゃ。」
…あれ?あっさり拒否ですか?何で?
「先に入信者を虜にしてからじゃ。ぬしにはその後で見せてやる。」
「…何で?オレよか新たな入信者達が先か?」
「このダンスで大勢の信者を虜にできればぬしにも通用するはずじゃからな!確実に虜にしてやるから待っておれ!」
…ははは。随分と大きく出たもんだ。
オレを虜に、ね。
まったく可愛らしい考えだな。
「そんじゃ、期待してるぜ。ヘレナ。」
オレはヘレナの頭を撫でる。
いつ撫でても柔らかく暖かな頭だ。
「ほへ〜。」
「あー!ヘレナ様だけずるい!」
「私もしてくださいよ!ユウタ様!」
「私も!私も!」
もはや見慣れた光景にオレは頭を抱えつつも全員の頭をなでまわすのだった。
さてと…皆行ったな。
今、ここの洞窟には誰もいない。
ヘレナは近くの街まで行ってくるなんていっていた。
ここから歩いてもそうかからない近いところらしいが一応長居してくるらしい。
二週間。
その間この洞窟はオレ一人。
盗賊なんてものもこの世界にいるらしいがここへ入るには入り口の魔法をどうにかしないと入れないらしく、ここは安全だということだ。
それは良かった。
これから作業に熱中できる。
邪魔するものがないのなら作業もはかどるだろう。
オレは右手を見る。
焼けた、ひどい火傷を負った右手の平。
治療してくれた魔女っ子には涙目になりながらも包帯を巻いてくれた。
既に自由に動かすには問題ないその手。
「…虜、ね。」
オレは呟き、右手を握り締めながら洞窟の奥へと向かっていった。
すでにデザインは決まったんだ。
あとは形にするだけ。
今夜からは徹夜になるかもしれない。
きっちり二週間後。
ヘレナたちが帰ってきた。
それも、嬉しそうな表情を浮かべながら。
後ろの魔女っ子達も同じように嬉しそうな顔をしている。
「ユウタぁー!」
ヘレナはオレに走り寄ってきた。
小さな体が地面から離れ、オレの胸へ飛び込んでくる。
オレはその体を何とか受け止めた。
…胸に突き刺さった角の痛みに絶えながら。
「おう、お帰り。」
「ユウタ!やったのじゃ!やったのじゃぞ!入信者が100人どころか600人超えたのじゃ!」
「すげーな!頑張ったかいがあったな!」
「それだけではないぞ!なんと街に来ておった者から依頼を受けての!今度は世界を舞台に踊らんかと誘いを受けたのじゃ!」
「おお!そいつはやったじゃねぇか!」
「これもユウタ!ぬしのおかげじゃ!」
そう言ってヘレナはオレの胸板に顔をスリスリ擦り付けてきた。
…角が地味に痛い。
だが腕の中で嬉しそうに微笑むヘレナを見ていたらそんなことどうでもよくなった。
ヘレナはオレの胸から顔を離し、魔女っ子達に向かって言う。
「それではよいか!みなのもの!これからユウタを虜にするために踊るぞー!」
「「「「「おおーー!!!」」」」」
「…今からか?」
ヘレナの小さな体を地面へ下ろし、言った。
「今からじゃ!」
「体は平気なのかよ?疲れてんだろ?」
「疲れなぞユウタの顔を見れば吹っ飛んだわ!」
「…ははは。」
まったく、子供は元気がいいな。
洞窟内広間
いつもヘレナたちが踊っていたステージの上で皆はそれぞれの立ち位置につく。
「それではユウタ、しかと見ておけ!コレがわしらが協力して作り上げた『ダンシング・サバト』じゃ!!ミュージック、スタート!」
そのセリフとともに流れ出す明るく、楽しげな音楽。
…つか、その音楽どうやって流した?
あ、魔女っ子の一人が杖を頑張って振るってる…。
…あの子が音楽役か。大変そうに。
音楽とともに動き出すヘレナ。動き出す魔女っ子達。
両手をあげ、風に揺られるかのように揺らす。
顔には笑顔。それも輝くようなとびきりの。
手を叩き、乾いた音を響かせながらスキップして動く。
輪になり、両手をあげ、一人一人がくるりと一回転。
オレが最初に見たものよりも確実に…いや、格段に上手くなっていた。
そのダンスから感じられるのは魔女っ子達とヘレナの可愛らしさ。
そこからやっぱり少しの背徳感。
だが、それ以上に感じたのは。
ヘレナ達の一生懸命に努力したという成果だった。
ダンスが終わり、オレは拍手を送る。
たった一人の観客だがとびきり大きな拍手をおくる。
「どうじゃった?どうじゃった!?ユウタはわしらの虜になったかのう?」
「おう、なったなった!最高だった!」
オレはしゃがみこみ、ヘレナの頭を撫でてやる。
思えばコイツの頭を何度撫でてきたんだっけか。
この『ダンシング・サバト』が出来上がるまでにかけた時間。
よく考えればオレはこいつらと長く一緒にいるんだよな。
こっちの世界に来て…ずっと一緒にいるのかな…。
「んふふ〜。ユウタ!約束じゃぞ!入信者100人超えたんじゃから褒美じゃ!」
「おっと、そうだったな。」
そんなことも約束してたっけ…。
しまった、コイツ何を言うつもりだ?
オレのできることなんて限られるぞ?
「ええー!?ヘレナ様だけずるいです!!」
「ユウタ様!私たちにもご褒美下さいー!」
魔女っ子達が騒ぎ出す。
そんなことだろうと思って一応考えてはいたんだよな。
この二週間徹夜で仕上げたプレゼントを用意してんだよ。
「皆にもあとで頑張ったご褒美を用意してるから。今は、な。」
オレは魔女っ子達を背に洞窟の奥へ、ヘレナの部屋へと歩き出す。
隣には嬉しそうな顔をしたヘレナを並ばせて。
豪華なドアを閉め、二人してベッドに腰掛けた。
だがヘレナはオレの体へ這い上がり、いつものように胸のところに抱きつく。
何度もしてきたこの体勢。
いつものようにオレはヘレナの頭を撫でた。
「んにゃ〜。こうしてもらうのは気持ちがいいのう〜。」
「そっか。とりあえずはお疲れ様。」
「んふふ〜!ユウタの胸に抱きついておったら疲れなどどうでもよくなったわ!」
「ははは、そっか。」
オレは状態をベッドに倒す。
二人分の体重だけ、ベッドは沈んだ。
「それで…なんか聞いて欲しいお願い事でもあるのか?」
ヘレナの頭を撫で続けながらオレは言った。
できれば無理なく叶えられるような内容にして欲しいな…。
ヘレナはオレの言葉に黙る。
顔を胸板に擦り付け、黙る。
内容を考えているのか?
ヘレナの様子を見ようと顔を向けたらちょうど顔を上げたヘレナと目があう。
黒い瞳がヘレナの顔を映し、
茶色い瞳がオレの顔を映す。
「のう、ユウタ…。」
口を開き、でてきたその言葉にはさっきまでの明るさは消えていた。
真剣な声色。まじめさを孕んだ言葉。
そして何より不安さを感じさせる。
「…どうした?」
「…実はのう、二週間前この洞窟から出る時に…チェックしたのじゃ。」
チェック?
何かチェックするものがこの洞窟にはあったか?
せいぜい手荷物とかじゃないのかよ?
「何をチェックしたんだ?」
「…ぬしと初めて会ったときに言ったじゃろ?この洞窟には侵入者撃退用の魔法をいくつもかけてあった、と…。」
「…。」
言ってたな。それ。
ヘレナと初めてしゃべったときに聞かれたことだ。
「その魔法をチェックしたのじゃが解かれた痕跡もなければすり抜けられた跡もない。あの魔法には転移魔法さえも妨げるほどものなのじゃ。」
「…。」
「洞窟はここまで来るのに分かれ道は存在せん。ただ一本道。勿論外部から掘り進んでこれぬように洞窟内の全ての壁には強化魔法がかけてある。例えドラゴンだろうがエキドナだろうが、名の通ったサキュバスやヴァンパイアにさえ破壊できん強力なものじゃ。」
「…。」
「それが…どれも解かれたわけなく、すり抜けたわけでもないのにぬしは洞窟内に現れた。魔法以外の力によるものかどうなのかはわからんがのう…。」
「…」
気づかれたか…。
いずれ来るだろうことは予想してはいた。
嘘は、つけない。
魔法の使えるヘレナと魔法の使えないオレとではすぐにばれてしまう。
「ぬしがいったいどこから来たのかはわからん。ぬしが何者かさえもいまだわからん…。」
止まる言葉。
その先を言うのをためらっているのだろうか。
ヘレナはオレの目を見つめ、口を開く。
「…でも、それでいいと思うのじゃ。」
「…いいのかよ?素性のしれない輩なんだぞ、オレは。」
「いいのじゃ。」
ヘレナはオレの学生服を強く掴む。
ぎゅっと、さっきより強く抱きついてくる。
「ぬしが何者かはわからん…じゃが、悪いものではないことは確かじゃ。」
「わかんねーぞ?」
「わかるわ。ぬしとわしはどれほど長く共にいたと思っておる?」
長くといえるかはわからない。
でもヘレナがそう言うのなら、オレは確かに長くはいた。
それも、とても近くに長く、いた。…でも。
「長くいてもオレの素性が全てわかるわけでもねーだろ。」
そっけなく言った。
それは事実。
それが、真理。
「なら、これからわかればよい。」
ヘレナはオレから視線を外さない。
じっと見つめたまま言葉を続ける。
「これからこの先までずっと共にいて、徐々にわかっていけば良い。そうすれば時間はかかってもぬしのことが、ユウタのことがわかってくるじゃろ。じゃからわしの願いを聞きいれて欲しい。」
ヘレナは言った。
オレにその言葉を。
オレへ向けたその願いを。
「ずっと、わしのそばにいてくれんか…?」
不安そうなその瞳でオレを見つめ。
震える声で言ったその願い。
それにオレは、返事としてヘレナの頭を撫でる。
撫でながら、ヘレナの顔を見ながら、言った。
「よろしく頼む。」
約束、したもんな。
入信者が100人超えたらなんでもひとつ約束聞いてやるって。
そういってやるとヘレナはとても嬉しそうな顔をする。
にぱぁと、屈託のない笑顔を見せた。
「んふふ〜。」
可愛らしい声を出し、オレの胸板に頬を擦り付ける。
擦り付けながらヘレナはオレの体を上へ上ってくる。
気づけば顔のすぐ前にヘレナの顔があった。
小さく、幼いその顔はどことなく朱に染まっていてどこか恥らっているようなものだった。
…そういう顔されるとなんか…変な気持ちになるな。
初めてヘレナたちのダンスを見たとき…そう、背徳的というか…そんな感じにさせられる。
そんな表情をしたヘレナはあろうことか、
「んむ〜♪」
「…。」
唇を突き出してきやがった。
タコみたく唇をすぼめて。
…とりあえず両手でヘレナの顔を挟むようにして止める。
「…とりあえず聞いておこうか。何やってんだ?」
ヘレナは唇を突き出したままで言う。
オレに止められたことにより少し不機嫌な声色で。
「むー。何って見てわからんのか?キスじゃよ、キス。」
予想はしていた。というかそれしかない動作だった。
「何でだよ…?わけわかんねーよ。」
その行為に至るまでの経緯も何もわかんねーよ。
ヘレナは小さな唇で小さく、それでもオレに聞こえるように言う。
かわいらしい八重歯をのぞかせて。
「ご・ほ・う・び。」
…は?
今コイツなんて言った?
ご褒美?
「さっきのお願いがそうだろーが。」
「さっきのは『お願い』であってご褒美ではないわ!」
「あ、てめっ!」
コイツ人の揚げ足取りやがった!
言われてみれば確かに『ご褒美』とは一言も言ってないけど…!
でもなんかズルくね!?
「それで、コレが『ご褒美』じゃ!」
「…キスってわけ?」
「うむ!」
…ファーストが年下の、それもかなり幼い女の子相手ってどうよ?
生きてる時間の長さで言えばヘレナのほうがずっと上だけどさ、それでも外見は小学生だぞ…。幼児体型だぞ…!
オレの中の何かが崩れていく気がした。
「…ダメ、かのぅ?」
…そういう顔するのは反則だろ。
今にも泣き出しそうに顔を歪めちゃって。
まったく…手のかかる奴だな。
「ん。」
「ふむっ!?」
一瞬。
ほんの一刹那。
オレは唇をヘレナの唇に重ね、すぐさま離す。
触れるだけの静かなキス。
「…これで良いだろ。」
オレは顔を背けた。
いくら年下の体型とはいえ、やはり気恥ずかしいものがある。
それに今のがオレにとっての初めてなんだし…恥ずかしさは倍増。
横目でちらりとヘレナを見ればヘレナは頬を赤く染め、それでも嬉しそうな顔をしていた。
「んふふ〜♪」
そのまま首に抱きつきオレの頬に頬擦りをする。
温かく柔らかい頬の感触が頬から伝わる。
それと同時に女の子の甘い香りが強く香る。
その行為にもその香りにも不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「…のう、ユウタ。」
ちょうどオレの耳のところ。
ヘレナが口を寄せて囁くように言う。
「わしはぬしの5,6倍は長生きしておることを知っておるな?」
どこか熱の篭った声で。
幼さを感じさせているのにどことなく大人の女性のような妖艶さを含ませて。
「…ああ。知ってるさ。」
「じゃったら…その…わしと…………良いかのぅ?」
「…。」
これは予想外だった。
…いや、予想していたといえばしていたかもしれない。
十八歳の健全男子。
その5,6倍生きてる幼女。
仮にも男と女。
気づくものなら気づく感情。
その先にある行為も。
…だからこそオレはヘレナに言葉を返す。
「ダメだ。」
否定の意の篭った言葉を送る。
「…ダメか…ふふ。」
ヘレナは残念そうにオレの耳元で笑う。
小さく、悲しそうに。
「やはりぬしは小さい女子は好かんか…。」
「…そーじゃねぇよ。」
ヘレナの背に腕をまわし優しく抱きしめる。
腕からも伝わってくる体温が非常に心地よい。
温かな体温を感じながらオレはヘレナの耳元で言う。
ヘレナがオレにしたように。
オレも囁くように、言う。
「お前の体じゃオレのは大きいだろ?体の負担になっちまう。」
既に大人に入るオレの体。
勿論下半身だって大人の大きさだ。
…たぶん。
平均値よりは大きかったから…大きいとは思うんだけど………。
「オレは、するんなら相手にも良くなって欲しいんだよ。」
痛い思いはさせたくない。
そういう事をしたことがないからこそ決めている自分の中のルール。
絶対に曲げられないものだ。
「それなら心配無用じゃ!」
ヘレナは急に体を起こしオレの顔を覗き込む。
目をきらきら輝かせて。
小さな子が期待に目を輝かせるかのようにして。
「…何が?」
とりあえず内容を聞こう。
いったい何が心配無用なんだ?
「わしを人間のそれと同じと思ってもらっては困るのぅ!わしは魔物じゃ!」
「魔物って…。」
確かヘレナはバフォメットだっけ?
魔物の中でも最高位に位置する魔物。
魔物っていうよりコスプレした角のある幼女にしか見えないけど。
「人間の常識なんぞ通用せん!じゃから、しよ!!」
「…まったく。」
その言葉に小さくため息をつき、笑う。
本当に手のかかる奴だな。
オレはヘレナを見て言った。
「辛かったら言えよ。」
「うむっ!」
どうやったところでオレはヘレナを甘えさせる。
望んで憎まれ役を買って出たはずなのに、気づけば隣で慰めて。
折らせた心を、支える手伝いをして。
結局のところ。
オレはただ甘いだけかもしれない。
特に、コイツ。
ヘレナのことに関しては…。
THIRD STEP
これにて 終了
「やったー!やっと完成じゃー!!」
「「「「「おめでとうございます!!」」」」」
ヘレナと仲直りして5日後。
オレが練習に参加せず、裏で別の事を進めていたとき。
ヘレナの部屋ではなく、喧嘩していたとき寝泊りしていた部屋にまでその声は響いた。
「…できた、のか。」
オレはペンを置き、書いていた紙をまとめて机の引き出しの奥へしまう。
念のために鍵をかけて。
…魔法使えばこんなもの意味もないんだろうけど。
部屋を出てヘレナたちのいる広間へと足を運んだ。
「おぉ!ユウタ!とうとう『ダンシング・サバト』ができたぞ!」
広間に行けばヘレナがとても嬉しそうな表情を浮かべて迎え入れてくれた。
他の魔女っ子達も同じように嬉しそうにしている。
「そっか。やったじゃんよ。」
「うむ!ここまで頑張ってこれたのも皆魔女達のおかげであり、そしてユウタ。ぬしのおかげじゃ!」
おっと、こいつはずいぶんと丸くなったな。
喧嘩する以前なら「ここまで一人でよく頑張ってきたものじゃ!」なんてことを言っただろうけど。
随分、成長してくれたな…。
「そっか。それじゃ見せてくれよ。今まで別の作業してたから見てないんだ。」
「だめじゃ。」
…あれ?あっさり拒否ですか?何で?
「先に入信者を虜にしてからじゃ。ぬしにはその後で見せてやる。」
「…何で?オレよか新たな入信者達が先か?」
「このダンスで大勢の信者を虜にできればぬしにも通用するはずじゃからな!確実に虜にしてやるから待っておれ!」
…ははは。随分と大きく出たもんだ。
オレを虜に、ね。
まったく可愛らしい考えだな。
「そんじゃ、期待してるぜ。ヘレナ。」
オレはヘレナの頭を撫でる。
いつ撫でても柔らかく暖かな頭だ。
「ほへ〜。」
「あー!ヘレナ様だけずるい!」
「私もしてくださいよ!ユウタ様!」
「私も!私も!」
もはや見慣れた光景にオレは頭を抱えつつも全員の頭をなでまわすのだった。
さてと…皆行ったな。
今、ここの洞窟には誰もいない。
ヘレナは近くの街まで行ってくるなんていっていた。
ここから歩いてもそうかからない近いところらしいが一応長居してくるらしい。
二週間。
その間この洞窟はオレ一人。
盗賊なんてものもこの世界にいるらしいがここへ入るには入り口の魔法をどうにかしないと入れないらしく、ここは安全だということだ。
それは良かった。
これから作業に熱中できる。
邪魔するものがないのなら作業もはかどるだろう。
オレは右手を見る。
焼けた、ひどい火傷を負った右手の平。
治療してくれた魔女っ子には涙目になりながらも包帯を巻いてくれた。
既に自由に動かすには問題ないその手。
「…虜、ね。」
オレは呟き、右手を握り締めながら洞窟の奥へと向かっていった。
すでにデザインは決まったんだ。
あとは形にするだけ。
今夜からは徹夜になるかもしれない。
きっちり二週間後。
ヘレナたちが帰ってきた。
それも、嬉しそうな表情を浮かべながら。
後ろの魔女っ子達も同じように嬉しそうな顔をしている。
「ユウタぁー!」
ヘレナはオレに走り寄ってきた。
小さな体が地面から離れ、オレの胸へ飛び込んでくる。
オレはその体を何とか受け止めた。
…胸に突き刺さった角の痛みに絶えながら。
「おう、お帰り。」
「ユウタ!やったのじゃ!やったのじゃぞ!入信者が100人どころか600人超えたのじゃ!」
「すげーな!頑張ったかいがあったな!」
「それだけではないぞ!なんと街に来ておった者から依頼を受けての!今度は世界を舞台に踊らんかと誘いを受けたのじゃ!」
「おお!そいつはやったじゃねぇか!」
「これもユウタ!ぬしのおかげじゃ!」
そう言ってヘレナはオレの胸板に顔をスリスリ擦り付けてきた。
…角が地味に痛い。
だが腕の中で嬉しそうに微笑むヘレナを見ていたらそんなことどうでもよくなった。
ヘレナはオレの胸から顔を離し、魔女っ子達に向かって言う。
「それではよいか!みなのもの!これからユウタを虜にするために踊るぞー!」
「「「「「おおーー!!!」」」」」
「…今からか?」
ヘレナの小さな体を地面へ下ろし、言った。
「今からじゃ!」
「体は平気なのかよ?疲れてんだろ?」
「疲れなぞユウタの顔を見れば吹っ飛んだわ!」
「…ははは。」
まったく、子供は元気がいいな。
洞窟内広間
いつもヘレナたちが踊っていたステージの上で皆はそれぞれの立ち位置につく。
「それではユウタ、しかと見ておけ!コレがわしらが協力して作り上げた『ダンシング・サバト』じゃ!!ミュージック、スタート!」
そのセリフとともに流れ出す明るく、楽しげな音楽。
…つか、その音楽どうやって流した?
あ、魔女っ子の一人が杖を頑張って振るってる…。
…あの子が音楽役か。大変そうに。
音楽とともに動き出すヘレナ。動き出す魔女っ子達。
両手をあげ、風に揺られるかのように揺らす。
顔には笑顔。それも輝くようなとびきりの。
手を叩き、乾いた音を響かせながらスキップして動く。
輪になり、両手をあげ、一人一人がくるりと一回転。
オレが最初に見たものよりも確実に…いや、格段に上手くなっていた。
そのダンスから感じられるのは魔女っ子達とヘレナの可愛らしさ。
そこからやっぱり少しの背徳感。
だが、それ以上に感じたのは。
ヘレナ達の一生懸命に努力したという成果だった。
ダンスが終わり、オレは拍手を送る。
たった一人の観客だがとびきり大きな拍手をおくる。
「どうじゃった?どうじゃった!?ユウタはわしらの虜になったかのう?」
「おう、なったなった!最高だった!」
オレはしゃがみこみ、ヘレナの頭を撫でてやる。
思えばコイツの頭を何度撫でてきたんだっけか。
この『ダンシング・サバト』が出来上がるまでにかけた時間。
よく考えればオレはこいつらと長く一緒にいるんだよな。
こっちの世界に来て…ずっと一緒にいるのかな…。
「んふふ〜。ユウタ!約束じゃぞ!入信者100人超えたんじゃから褒美じゃ!」
「おっと、そうだったな。」
そんなことも約束してたっけ…。
しまった、コイツ何を言うつもりだ?
オレのできることなんて限られるぞ?
「ええー!?ヘレナ様だけずるいです!!」
「ユウタ様!私たちにもご褒美下さいー!」
魔女っ子達が騒ぎ出す。
そんなことだろうと思って一応考えてはいたんだよな。
この二週間徹夜で仕上げたプレゼントを用意してんだよ。
「皆にもあとで頑張ったご褒美を用意してるから。今は、な。」
オレは魔女っ子達を背に洞窟の奥へ、ヘレナの部屋へと歩き出す。
隣には嬉しそうな顔をしたヘレナを並ばせて。
豪華なドアを閉め、二人してベッドに腰掛けた。
だがヘレナはオレの体へ這い上がり、いつものように胸のところに抱きつく。
何度もしてきたこの体勢。
いつものようにオレはヘレナの頭を撫でた。
「んにゃ〜。こうしてもらうのは気持ちがいいのう〜。」
「そっか。とりあえずはお疲れ様。」
「んふふ〜!ユウタの胸に抱きついておったら疲れなどどうでもよくなったわ!」
「ははは、そっか。」
オレは状態をベッドに倒す。
二人分の体重だけ、ベッドは沈んだ。
「それで…なんか聞いて欲しいお願い事でもあるのか?」
ヘレナの頭を撫で続けながらオレは言った。
できれば無理なく叶えられるような内容にして欲しいな…。
ヘレナはオレの言葉に黙る。
顔を胸板に擦り付け、黙る。
内容を考えているのか?
ヘレナの様子を見ようと顔を向けたらちょうど顔を上げたヘレナと目があう。
黒い瞳がヘレナの顔を映し、
茶色い瞳がオレの顔を映す。
「のう、ユウタ…。」
口を開き、でてきたその言葉にはさっきまでの明るさは消えていた。
真剣な声色。まじめさを孕んだ言葉。
そして何より不安さを感じさせる。
「…どうした?」
「…実はのう、二週間前この洞窟から出る時に…チェックしたのじゃ。」
チェック?
何かチェックするものがこの洞窟にはあったか?
せいぜい手荷物とかじゃないのかよ?
「何をチェックしたんだ?」
「…ぬしと初めて会ったときに言ったじゃろ?この洞窟には侵入者撃退用の魔法をいくつもかけてあった、と…。」
「…。」
言ってたな。それ。
ヘレナと初めてしゃべったときに聞かれたことだ。
「その魔法をチェックしたのじゃが解かれた痕跡もなければすり抜けられた跡もない。あの魔法には転移魔法さえも妨げるほどものなのじゃ。」
「…。」
「洞窟はここまで来るのに分かれ道は存在せん。ただ一本道。勿論外部から掘り進んでこれぬように洞窟内の全ての壁には強化魔法がかけてある。例えドラゴンだろうがエキドナだろうが、名の通ったサキュバスやヴァンパイアにさえ破壊できん強力なものじゃ。」
「…。」
「それが…どれも解かれたわけなく、すり抜けたわけでもないのにぬしは洞窟内に現れた。魔法以外の力によるものかどうなのかはわからんがのう…。」
「…」
気づかれたか…。
いずれ来るだろうことは予想してはいた。
嘘は、つけない。
魔法の使えるヘレナと魔法の使えないオレとではすぐにばれてしまう。
「ぬしがいったいどこから来たのかはわからん。ぬしが何者かさえもいまだわからん…。」
止まる言葉。
その先を言うのをためらっているのだろうか。
ヘレナはオレの目を見つめ、口を開く。
「…でも、それでいいと思うのじゃ。」
「…いいのかよ?素性のしれない輩なんだぞ、オレは。」
「いいのじゃ。」
ヘレナはオレの学生服を強く掴む。
ぎゅっと、さっきより強く抱きついてくる。
「ぬしが何者かはわからん…じゃが、悪いものではないことは確かじゃ。」
「わかんねーぞ?」
「わかるわ。ぬしとわしはどれほど長く共にいたと思っておる?」
長くといえるかはわからない。
でもヘレナがそう言うのなら、オレは確かに長くはいた。
それも、とても近くに長く、いた。…でも。
「長くいてもオレの素性が全てわかるわけでもねーだろ。」
そっけなく言った。
それは事実。
それが、真理。
「なら、これからわかればよい。」
ヘレナはオレから視線を外さない。
じっと見つめたまま言葉を続ける。
「これからこの先までずっと共にいて、徐々にわかっていけば良い。そうすれば時間はかかってもぬしのことが、ユウタのことがわかってくるじゃろ。じゃからわしの願いを聞きいれて欲しい。」
ヘレナは言った。
オレにその言葉を。
オレへ向けたその願いを。
「ずっと、わしのそばにいてくれんか…?」
不安そうなその瞳でオレを見つめ。
震える声で言ったその願い。
それにオレは、返事としてヘレナの頭を撫でる。
撫でながら、ヘレナの顔を見ながら、言った。
「よろしく頼む。」
約束、したもんな。
入信者が100人超えたらなんでもひとつ約束聞いてやるって。
そういってやるとヘレナはとても嬉しそうな顔をする。
にぱぁと、屈託のない笑顔を見せた。
「んふふ〜。」
可愛らしい声を出し、オレの胸板に頬を擦り付ける。
擦り付けながらヘレナはオレの体を上へ上ってくる。
気づけば顔のすぐ前にヘレナの顔があった。
小さく、幼いその顔はどことなく朱に染まっていてどこか恥らっているようなものだった。
…そういう顔されるとなんか…変な気持ちになるな。
初めてヘレナたちのダンスを見たとき…そう、背徳的というか…そんな感じにさせられる。
そんな表情をしたヘレナはあろうことか、
「んむ〜♪」
「…。」
唇を突き出してきやがった。
タコみたく唇をすぼめて。
…とりあえず両手でヘレナの顔を挟むようにして止める。
「…とりあえず聞いておこうか。何やってんだ?」
ヘレナは唇を突き出したままで言う。
オレに止められたことにより少し不機嫌な声色で。
「むー。何って見てわからんのか?キスじゃよ、キス。」
予想はしていた。というかそれしかない動作だった。
「何でだよ…?わけわかんねーよ。」
その行為に至るまでの経緯も何もわかんねーよ。
ヘレナは小さな唇で小さく、それでもオレに聞こえるように言う。
かわいらしい八重歯をのぞかせて。
「ご・ほ・う・び。」
…は?
今コイツなんて言った?
ご褒美?
「さっきのお願いがそうだろーが。」
「さっきのは『お願い』であってご褒美ではないわ!」
「あ、てめっ!」
コイツ人の揚げ足取りやがった!
言われてみれば確かに『ご褒美』とは一言も言ってないけど…!
でもなんかズルくね!?
「それで、コレが『ご褒美』じゃ!」
「…キスってわけ?」
「うむ!」
…ファーストが年下の、それもかなり幼い女の子相手ってどうよ?
生きてる時間の長さで言えばヘレナのほうがずっと上だけどさ、それでも外見は小学生だぞ…。幼児体型だぞ…!
オレの中の何かが崩れていく気がした。
「…ダメ、かのぅ?」
…そういう顔するのは反則だろ。
今にも泣き出しそうに顔を歪めちゃって。
まったく…手のかかる奴だな。
「ん。」
「ふむっ!?」
一瞬。
ほんの一刹那。
オレは唇をヘレナの唇に重ね、すぐさま離す。
触れるだけの静かなキス。
「…これで良いだろ。」
オレは顔を背けた。
いくら年下の体型とはいえ、やはり気恥ずかしいものがある。
それに今のがオレにとっての初めてなんだし…恥ずかしさは倍増。
横目でちらりとヘレナを見ればヘレナは頬を赤く染め、それでも嬉しそうな顔をしていた。
「んふふ〜♪」
そのまま首に抱きつきオレの頬に頬擦りをする。
温かく柔らかい頬の感触が頬から伝わる。
それと同時に女の子の甘い香りが強く香る。
その行為にもその香りにも不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「…のう、ユウタ。」
ちょうどオレの耳のところ。
ヘレナが口を寄せて囁くように言う。
「わしはぬしの5,6倍は長生きしておることを知っておるな?」
どこか熱の篭った声で。
幼さを感じさせているのにどことなく大人の女性のような妖艶さを含ませて。
「…ああ。知ってるさ。」
「じゃったら…その…わしと…………良いかのぅ?」
「…。」
これは予想外だった。
…いや、予想していたといえばしていたかもしれない。
十八歳の健全男子。
その5,6倍生きてる幼女。
仮にも男と女。
気づくものなら気づく感情。
その先にある行為も。
…だからこそオレはヘレナに言葉を返す。
「ダメだ。」
否定の意の篭った言葉を送る。
「…ダメか…ふふ。」
ヘレナは残念そうにオレの耳元で笑う。
小さく、悲しそうに。
「やはりぬしは小さい女子は好かんか…。」
「…そーじゃねぇよ。」
ヘレナの背に腕をまわし優しく抱きしめる。
腕からも伝わってくる体温が非常に心地よい。
温かな体温を感じながらオレはヘレナの耳元で言う。
ヘレナがオレにしたように。
オレも囁くように、言う。
「お前の体じゃオレのは大きいだろ?体の負担になっちまう。」
既に大人に入るオレの体。
勿論下半身だって大人の大きさだ。
…たぶん。
平均値よりは大きかったから…大きいとは思うんだけど………。
「オレは、するんなら相手にも良くなって欲しいんだよ。」
痛い思いはさせたくない。
そういう事をしたことがないからこそ決めている自分の中のルール。
絶対に曲げられないものだ。
「それなら心配無用じゃ!」
ヘレナは急に体を起こしオレの顔を覗き込む。
目をきらきら輝かせて。
小さな子が期待に目を輝かせるかのようにして。
「…何が?」
とりあえず内容を聞こう。
いったい何が心配無用なんだ?
「わしを人間のそれと同じと思ってもらっては困るのぅ!わしは魔物じゃ!」
「魔物って…。」
確かヘレナはバフォメットだっけ?
魔物の中でも最高位に位置する魔物。
魔物っていうよりコスプレした角のある幼女にしか見えないけど。
「人間の常識なんぞ通用せん!じゃから、しよ!!」
「…まったく。」
その言葉に小さくため息をつき、笑う。
本当に手のかかる奴だな。
オレはヘレナを見て言った。
「辛かったら言えよ。」
「うむっ!」
どうやったところでオレはヘレナを甘えさせる。
望んで憎まれ役を買って出たはずなのに、気づけば隣で慰めて。
折らせた心を、支える手伝いをして。
結局のところ。
オレはただ甘いだけかもしれない。
特に、コイツ。
ヘレナのことに関しては…。
THIRD STEP
これにて 終了
11/02/20 21:14更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
戻る
次へ