連載小説
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ダンスとお前とオレと…ロリ? 中編
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイトっ!って感じなんだけどどうだった?」
「どうだったじゃないだろ…。いきなり人を引っ張ってきやがって。これから空手の稽古なんだよ。」
「別にいいでしょ、あんなの。それよりもこっちは明日ダンスのテストなんだから。しっかり見てダメだししてよね!」
「…だめなとこ言えばいいのか?」
「そう。できる限り言って。今日中に直さないといけないから。」
「あー…じゃ、言うぞダメなとこ。」
「うん。」
「全部ダメだと思う。」
「…ふんっ!!」
「あだっ!!?何だよ!何すんだよ!こっちは親切心でダメだししたっていうのに!」
「あんたは人の気持ちがわかってない!そんなにストレートに言う奴がある!?」
「これも一種の優しさだろ。厳しさも時として優しさだ。」
「あんたの場合は別のとこに優しさをもってこい!」

「………………うぉ。」
起きた。
なんだか懐かしい夢を見てたな。
しかもよりによってダンスの夢。
「…起きるか。」
オレはそう呟いてゆっくりと体を起こそうとした、が。
「ふみゅぅ…。」
「…。」
ああ、そうだったな。
そういえばいたなコイツ。
オレは体を起こすのを止め、胸元に抱きついている女の子を見た。
ヘレナ・ファーガス
魔女達の集会サバトの頂点であり、魔物の中でも最高位に位置するバフォメットという女の子。
その女の子が今、オレの胸元で抱きついて眠っていた。
「…。」
実をいうとあれからオレはヘレナに世話になっていたりする。
とにかくこいつを泣かした責任を取ろうと思いこいつらのダンスをともに作っていくことは決めた。
決めたがその後が問題だった。
行く場所、住む場所なし。
勿論金もない。
この世界にとばされたことにより住居へ帰ることができなくなったオレにヘレナは提案した。

「だったらわしの部屋で暮らせばよかろう。」
「あん?よかろうって…いいのかよ。」
「安心せい。わしの部屋はかなり広いし客人一人もてなすには十分なくらいじゃ。」
「そーじゃなくて、お前がいいのかって。」
「いい。」
「…女の子が男を自分の部屋に通すときは警戒とかするもんだろ。」
「何でじゃ?あ!パンツでも盗むつもりか?」
「盗まねぇよ!興味もないし!」
「つまらんのう。年頃の男はそういうものに興味があるもんじゃないのか?」
「何で年下の女の子の下着に興味を示さないといけないんだよ…。」
「むぅ…つまらん。あ!そうじゃ!」
「ん?」
「ぬしがわしの部屋に暮らす上で一つ条件がある!」
「…どんな?」
「わし専用の抱き枕となれ!」
「…抱き枕?」
「うむ!われながらいい提案じゃ!これで今日から淋しく一人寝をせんですむし、トイレに一人で行かんでもすむ!」
「…まぁ、お前が良いなら良いけどよ。オレに潰されんなよ。」
「うむ!」

というわけである。
なので、オレは今現在へレナの抱き枕になっていた。
場所はあの洞窟の広間のさらに奥。
どうやらそこが居住空間になっていたらしく他の魔女っ子達も共に住んでいる。
意外と広い。
広すぎて、そして豪華すぎる居住空間だった。
「おい、ヘレナ。朝だぞ。」
とりあえずヘレナの体を揺らし、起こす。
さっさと朝飯にしたいんだよな。
ここで出される料理全部魔女っ子達が作ってくれるんだが意外と美味しい。
それがこの世界に来たオレにとっての密かな楽しみである。
それに皆よく接してしてくれるし。
「う〜…。あと五分。」
「五分も待たない。さっさと準備して飯食いに行くぞ。」
「う〜…やだ。」
「やだって…。」
ヘレナはオレの胸板に顔を擦りつけより強く抱きつく。
モフモフの手足で。
なんか…コアラみたい。
オレの今の服は上はワイシャツ、下は学生服。
なので胸板にヘレナの感触がダイレクトに伝わる。
例えば角の硬い感触とかも…あたた、地味に痛いし硬いなコレ。
「このまま連れてってくれ。」
「…またかよ。」
「いいじゃろう?」
「…仕方ねえな。」
オレはヘレナを抱きかかえると学ランを羽織った。
前のボタンを半分までとめ、着替えを終える。
その姿を部屋にあった等身大の鏡(ヘレナがダンスを考えるときに使用)で確認する。
「…。」
何だろう。
胸の空いている部分から茶色い角と頭が出ている。
なんか…カンガルーみたい。
そんなことを考えながらヘレナの部屋を出て、顔を洗いに洗面所へと向かった。

「あ、ユウタ様!おはようございます!」
「おう、おはよう!」
廊下の向こう側から歩いてきた魔女の子に挨拶する。
礼儀正しくていい子だなぁ。
どっかの角娘とは大違いだ。
「…また、ですか?」
魔女の子はオレの胸を見て言う。
そこには後頭部と角だけとび出た茶色の頭。
「そ、またなんだよ。」
「…いいなぁ。」
…何だその視線は?
思い切り羨ましそうな顔だぞ。
…あ、そうか。
魔女の子達は皆へレナ大好きっ子なんだった。
とすると、望ましがられてるのはオレのほうか。
「変わるか?」
「あ、いえ!そんな…ユウタ様にご迷惑が…。」
「…?」
ヘレナを引き取ってくれるんじゃないのか?
たいした迷惑もかからないんだけど?
…顔赤いぞ?
「そ、それよりも朝食の準備ができたのでヘレナ様とユウタ様をお呼びに来たのですが!」
「おう、いつも悪いな。」
彼女の頭を帽子の上から撫でてやった。
「ふにゃぁ♪」
まったくかわいい奴だなぁ。
ここの居住空間には男はオレ一人。
他はこのような魔女っ子達とこの角娘。
自分以外こんなちっこい子達に囲まれてると…なんていうか感覚が狂う。
なんていうの…?
常識が狂う?
いや、価値観が狂う。
…何かに対しての価値観が。
「そんじゃ、顔洗ったらすぐ行くわ。」
「はい、お待ちしております!」
にこやかな笑顔でオレを見送ってくれる魔女っ子。
あんなに綺麗な笑顔だとこっちも清清しい気持ちになるね。
何よりかわいいし。
オレは手を振り、洗面所へと足を進めた。

「っとここにタオルだったな。」
この居住空間にすんで既に二週間。
もう慣れてきたと思っているがやはり朝っぱらから驚かされる。
目の前の鏡。
装飾が金だ。豪華だ。豪勢だ。
タオル。
思っているよりフッカフカだ。
日光に晒したお布団よりもフカフカだ。
壁。
洞窟内だというのに真っ白。
純白でありこれまた高級感を際立たせる。
本当、すげーや。
ヘレナ曰く全部魔法でどうにでもなるんだと。
魔法すげーや。
「ほら、ヘレナ。洗面所だぞ。」
「むむむ…眠い。」
「顔くらい自分で洗えよ。」
「や。」
一文字で返しやがった。
どんだけガキなんだよコイツ。
自分で「わしはぬしの5,6倍は生きておるのじゃぞ!もっと敬わんか!」とか言ってたくせに。
仕方ないのでオレは先に顔を洗うことにした。
蛇口を捻るとそこから流れ出さずに球体を作り出す水。
徐々に大きくなり蛇口を閉めるとそれは大きくなることをやめた。
初日のほうはコレだけでもかなり驚かされたっけか。
魔法、すげー。
どうやってんの?重力は?重力加速度は?
理系特有の知識が呼び起こされそうなので思考中断。
その球体の水から少量の水をすくい、自分の顔にかける。
2,3回繰り返し、顔をタオルで拭った。
さて、今度はヘレナの番だ。
「ヘレナ、顔。」
「む。」
顔がオレの胸板から離れ、前を向く。
オレはその顔に手馴れた手つきで水をかける。
「ぶっ!冷たっ!も、もっと優しくせんか!!」
「はいはい、顔拭くぞー。」
コレで何度目だっけか?
この作業もかなり繰り返したからな。
いつものようにタオルでヘレナの顔を優しく拭く。
「ふにゃ…ユウタは手つきは優しいのう。」
「そいつはどーも。」
タオルを置き、寝癖を整え、残った球体状の水を流す。
コレで準備万端。
「朝食食いに行くからそろそろ出てくれよ。」
「やじゃ。ユウタのここからは出たくない。」
再び顔をオレの胸板に擦り付けるヘレナ。
困った問題児め。
愛らしい仕草ではあるがそれよか今は飯だ。
でもコイツは折れそうにない。
「ったく。」
よって折れるのはオレしかないわけで。
とりあえず抱きかかえたまま食堂へと向かうオレだった。

朝食を終え、場所はあの広間。

そこではあの日オレが除き見ていた時と同じように魔女っ子達が踊っていた。
ただ違う点があるとすれば。
ヘレナもそれに加わり、その光景をオレが前から見ているというものだった。
「右足はもう少し上へ上げなー。そうそう、いい感じだぞー。」
「そこでターンのときに余所見はしないよーになー。そう、前を見る感じでだぞー。」
「腕は真っ直ぐ伸ばすことを意識しよー。そんな感じ。いいぞいいぞ。」
オレは魔女っ子達とヘレナに指示を出す。
懐かしいな。
かつて双子の姉に付き合わされた創作ダンスを思い出す。
ははは、ダメだしして何度殴られたっけな…。
覚えてねーや。
あの感覚を思い出すと今でも…あれ?何だこれ。
目から汗が…?
「どうじゃった!?今度のわしらはどうじゃった、ユウタ!」
いつの間にかダンスを終え、ヘレナが下からオレの顔を見上げていた。
自然、上目遣いになりキラキラ輝く目と目が合う。
「あ、ああ。良くはなってきてるぞ。」
慌てた様子でオレは言った。
やべっ、不覚にも可愛いと感じちまった…。
そういうとヘレナはうんうんと嬉しそうに頷く。
すごく嬉しそうな笑顔で。
「そうじゃろう、そうじゃろう!良くなってきとるじゃろう!」
「お、おう。」
とりあえず頭を撫でておく。
ご褒美のつもりで。
すると、ヘレナは気持ちよさそうに目を細め、顔を緩ませた。
「ほへ〜。」
「あー!ヘレナ様だけずるいですー!」
「私達も頑張りましたよ!ユウタ様!」
「褒めて褒めて!」
あっという間にオレの周りを魔女っ子達に囲まれた。
この数を順番に撫で回すのは骨が折れそうだな…。
でも、まぁ全員頑張ったんだ。オレも頑張らないとな。
そんなことを考えつつもオレは彼女達の頭を撫で続けるのだった。

そんなこんなで数日間。
ダンスの指導をし続けたかいもあったということか、『ダンシング・サバト』のダンスは着々と魅力を纏っていった。

だが、数日後。
それは起きた。

「だーかーらー!!こうこうこうじゃと言っておろうに!!」
「はっ!そうだったらここはこうにはなりはしねえよ!」
バフォメット、魔物。
人間とは別種である。
というか、そもそも別々の生物であるのだからそれは起きて当然としか言いようがない。
それはすなわち、

意見の食い違い

「なんでわからんのじゃ!この石頭!」
「お前は一人で決め付け過ぎなんだよ!もう少し遠目で物事を見てみろ!」
「頑固!」
「わがまま!」
「石頭!」
「身勝手!」
「なんじゃなんじゃ!ロリコンのくせに!」
「そこは全力で否定させてもらおうか!ガキ!!」
「むむむむむ!」
「…はっ!」
「ふんっ!!」
喧嘩である。
オレはヘレナと反対方向へ顔を向け、ヘレナもオレと反対の方へ顔を背けた。
「ぬしがこんなに分からず屋だとは思わんかったわ!ユウタ!」
「そいつはこっちの台詞だ!ヘレナ!」
ヘレナは声を荒げ、さっきよりも大きな声で言う。
さっきよりも怒りを露にして。
「なんじゃなんじゃ!こっちは一人でがんばってきたのじゃぞ!一人でここまでダンスを完成させてきたのじゃぞ!それを何故わからん!?」
「はっ!ぬかせ!お前一人で頑張ってここまで形になったわけじゃねーだろーが!!」
オレは冷たく言い放った。
その一言がヘレナの中で何かを弾けさせたのだろう、ヘレナは黙った。
否、震えた。
怒りに、憤りに、そして、
涙した。
「…。」
「う、うぅぅぅ、何でわからんのじゃ!この大馬鹿者がぁ!!」
そう言い放つと彼女はどこかへ走り去っていく。
無論、オレは追わない。
最初からこの現場を見ていた魔女っ子達もだ。
ヘレナの姿が視界から消えて、一人の魔女っ子がオレの前に出た。
拳をぶるぶる震わせて。
怒っているかのように。
「あんまりです!ユウタ様!!」
その子は声を荒げてオレに言った。
「あんなに言わなくても良いじゃないですか!ユウタ様だってヘレナ様の努力を知っていたはずですよ!?」
「ああ、知ってるさ。」
オレはそっけなく答える。
ため息をつき、目の前の魔女っ子を見据えた。
魔女っ子は目を潤ませ、今にも泣き出しそうな顔でオレを睨み付ける。
他の魔女っ子達もだ。
「だったら何であんなひどい言い方するんですか!?あんなことしたらヘレナ様が可哀そうです!もしヘレナ様が今回のことで気を悪くしてせっかく頑張ってきたダンスがだめになったらどうするんですか!?」
「…はぁ。」
その言葉にオレは再びため息をついた。
しゃがみ、魔女っ子と目線を合わせる。
よく見ればその顔には涙が一筋流れていた。
「例え話。オレ達の体には骨ってあるだろ?」
「…骨ですか?」
「そう。」
自分の腕を指差し、示す。
「骨は一度折れたりすると次は折れないようにってより丈夫に作られるんだ。」
「…それが、何ですか?」
「精神的にも同じことが言えるんだよ。」
オレは目の前の魔女っ子から目を逸らし、ある方向に目を向ける。
ヘレナの走り去ったほうを、見つめる。
「ヘレナは独りよがりだけど、それでも頑張り屋だ。だからこそここらで一度、精神的に折れることを経験しとかなきゃいけないんだ。」
「…何で、ですか。」
魔女っ子は涙を拭わずオレを見つめたまま言った。
オレはそっと手を伸ばし指で涙を拭ってやる。
あの時、ヘレナを泣かせてしまったときのように。
「ダンスが完成して、それを披露したときの相手方の反応がイマイチだったらどうする?」
「…?」
「もしくは否定的なものだったら?それとも暴言を吐くような輩だったら?」
「…。」
「一生懸命頑張ったものを貶された時の傷はかなり深く刻まれる。ヘレナだったら心をバラバラにして立ち直れなくなるかもしれない。」
「…っ!」
「だからここらで、一度は挫折ってモノを体感しなきゃいけないんだ。いざって時の抗体を作るためにも。より強い心を持つためにも。必要なことなんだよ。」
「…でも、あんな言い方したらユウタ様は嫌われるだけじゃすまないんじゃ…。」
「それでも、いいさ。」
オレは魔女っ子の頭を撫でた。
帽子の上からそっと。
「誰かが嫌われ役になんねーと事は始まんないだろ。お前らがわざわざそんな役買って出るような事させられっかよ。ここは慕い続けたお前らよかよそ者のオレのほうが適任だ。」
オレは笑って言ってやる。
ただ、上手くは笑えず苦笑いな表情で。
その顔を見てだろうか魔女っ子は顔を歪ませた。
ぐしゃぐしゃに、まるで泣き出しそうに。
「ユ、ユウタ様…!」
「はい、この話終わり。絶対にこのことはヘレナに言うなよ。」
「「「「「はいっ!」」」」」
周りの魔女っ子達も一緒に返事をした。
さて、問題はこれからだ。
こうなった以上へレナとしばらくは顔を合わせないようにしないと。
そして一番の問題。
今日からオレはどこで寝ようか。

あれから「寝るところがないのなら私の部屋に泊まってください!」という50人近くの魔女っ子達の勧誘を丁重にお断りし、案内された何にも使われていな部屋にオレはいた。
部屋にはベッドと机。
机の上にはかつてこの部屋にいた者が勉強でもしていたのか紙と羽ペン。
「…はぁ。」
何度目かわからないため息をつき、オレはベッドに身を沈めた。
ヘレナ…大丈夫かな?
あいつは頑張りやだからこそ脆い部分がありすぎる。
だからこそ今回はわざと冷たく対応したが…。
…まだ早かったか?
もう少し甘やかしてもよかったか…。
そんな思考が頭の中を駆け巡る。
「…オレも、まだまだ甘いのかな…?」
そんなことを一人呟き、瞼を閉じる。
今は寝よう。
明日のダンスはヘレナが出るのならオレは部屋で篭ってるか。
その間にダンスには欠かせないアレでも考えて…。
そこでオレの意識は途切れた。

ヘレナと喧嘩して今日で2日目。
あいつはダンスには参加してこなかった。
それどころか部屋からも出てないということらしい。
…やりすぎたか。
ここまで来てオレは後悔した。
やはりヘレナにはまだ早すぎたか…。
今ダンスのほうはオレが見ている。
とはいっても、オレは所詮部外者。
せいぜい動きにズレがあるところを注意するだけだ。
このダンスを考えたのはヘレナ。
だからこそオレなんかがいじってはいけない。
決定するのはあくまでヘレナ。
完成させるのもヘレナ自身。
だからあいつがいなけりゃダンスはまったくといって良いほど進まない。
「ユウタ様…。」
魔女っ子一人がオレに話しかけてきた。
その顔に浮かぶのは、不安や心配。
「…ヘレナの様子はどう?」
「はい、ちゃんと食事はとられてます。…部屋からは出てきませんが。」
「…そうか。」
やっぱり早すぎた。
というか、やりすぎたか…。
あいつ一人で立ち直らなきゃ意味がないが…仕方ない。
「ちょっくらヘレナのとこ、行ってくるわ。」
オレはゆっくりと歩き出す。
せめて、あいつが立ち直れるような『きっかけ』を作ってやんねえと。
「行かれるのですか…。」
「ああ、行くしかないさ。折ったのがオレなんだ、だったらせめて立ち直れるように助けんのもオレだろ。」
「ユウタ様…気をつけていってらっしゃいませ。」
「おう。」
「ヘレナ様の魔法で消し炭にならないようにお祈りしております…。」
「…怖いこというな。」

結局のところ、オレは甘いだけなのかもしれない。
ヘレナの部屋の前でノックをしてからふと思った。
鬼になれなんていうのは流石に無理なんだが。それでも甘やかしが過ぎるのかもしれないな。
「ヘレナー?」
「…。」
返事はない。
「…入るぞ。」
ドアノブに手をかけ、音を立てずにドアを開いた。
ヘレナは、いた。
広い部屋の真ん中。
オレとともに寝ていたあの大きなベッドの上に。
シーツを頭から被って、そこにいた。
「ヘレナ…。」
「…。」
呼びかけてみるも、返事はない。
「…はぁ。」
何度目かわからないため息をつきベッドの横に腰掛けた。
サバトの頂点バフォメットが寝るだけあってそのベッドは高級感を感じさせてくれるほどやわらかい。
ここにオレは数週間寝ていたなんて考えられないくらいに。
「ヘレナ。」
「…。」
返事はやはりない。
ないが、反応は見せた。
もぞもぞと動き、シーツから顔を少しだけ出してオレを見る。
否、睨み付ける。
「…何用じゃ…?」
ようやく聞けた言葉はドスのきいた低い、怒りを込めたものだった。
顔には泣き続けていたのか涙の跡がくっきり残っていて。よく見れば目の下に隈がある。
…眠れていないのだろう。
「わしは今、とてつもなく機嫌が悪いのじゃ。さっさと出て行け。」
「いいぜ、お前が望むのならそうしようか。でもせめて最低限言わせてからにしてくれ。」
「ふん、ぬしから聞くことなど何一つないのじゃ。出て行け。…消し炭になる前にな。」
こいつはとことん嫌われたな。
でも、そうでもしないとこいつが成長してくれない。
厳しさもときに、優しさなんだから。
「お前は一人で突っ走りすぎる。」
「…。」
「お前は何でも一人で片付けようとする。」
「…。」
「お前は固いんだよ。無駄に。それがお前の悪いとこだ。」
「…言いたいことはそれだけかのう?」
気づけばヘレナの右手。
赤く小さな球体ができていた。
そこからわずかながら熱を感じる。
…炎の魔法だろうか。
「さっさと失せろ。もしくは消えろ。でないとわしがぬしを消す。」
「…そ。」
炎の勢いが徐々に強くなる。
脅しで済ますつもりはないようだ。
「…消えろ。」
低い声で、唸るように言った。
それにオレは―
「っ。」
「なっ!?」
その球体を握りつぶす。
魔法を使えず、今まで知りもしなかったものを消すことなんてオレにはできない。
だから、無理やり握り潰し、炎を消した。
ぐじゃっと、オレの手が焼かれた音か、もしくは炎の球体が潰れた音かわからない音を立てて炎は消えた。
「…っつ…女の子が、そーゆー危ないことすんなよ。」
オレはもう片方の手でヘレナを無理やり抱き寄せる。
小さい体らしく軽いその体をオレの腕の中に収める。
意外にもなんの抵抗もせずに腕の中に収まった。
「…何をする……?」
「…少し休め。目の下隈あるぞ。」
「ふん、いらん世話じゃ。」
「…アホが。お前は一人で頑張りすぎなんだよ。」
ぎゅっと、さっきより強く抱きしめた。
「周りには魔女達がいるだろーが。お前一人で頑張りすぎんなよ。少しは手伝ってもらったりしとけ。」
「ふん。助けなどいらんわ。ダンスはわし一人で作り上げた考えじゃ。」
「そのダンスを踊るのは魔女達もだろ?」
「…。」
「だから、少しはあいつらに頼ったりしろよ。」
「…。」
「お前一人頑張ってたらいつか倒れるし、いずれ立ち止まる。」
「…。」
「そーなんないためにも、誰かに助けを求めろよ。」
「…そんなこと、できんわ。」
「何で?」
ヘレナはオレ胸板に顔を押し付ける。
その表情を悟られないようにするためか。
「今更誰に助けを求められる?今まで一人で考えてきて、今更誰にすれば良いのじゃ…?」
そこで、オレはヘレナの頭に手を置いた。
まったく…一人で頑張りすぎんだよ。
余計な見栄を張ったせいで今まで弱くなれなかったからって。
折れることさえ自分に許さないで。
上に立つ者だけあって責任感じて。
一人で無茶をしすぎなんだよ。
「オレに頼っといてよく言うぜ。」
「なっ!?アレはぬしがどうしてもというから仕方なく頼んだんじゃろうが!」
ヘレナは顔を上げ、真っ赤にしながら怒った。
どうやらいつもの調子が戻ってきたな。
「ははは、そうだったな。」
「まったく…ぬしというやつは…。」
「そんなヘレナに一つ提案だ。」
オレは声色を変え、言う。
明るく、楽しげに提案する。
「このダンスの初披露で入信者が百人超えたらご褒美として何かひとつ言うこと聞いてやるよ。」
「!!本当かの!?」
ヘレナの表情が変わったな。
効果あったみたいでよかった。
「本当だ。だからこれからは無茶せずに皆で頑張れよ。」
ヘレナの頭を撫でながらオレは笑って言った。
まったく…オレはいったい何やってんだ。
コイツの心折っといて、立ち直らすきっかけ与えて…。
ダメなのはオレのほうだな…。
「それじゃあ、今から頑張ろうかの!。」
「…そんだけ隈作っといて何言ってんだ。とりあえず今は寝ろ。」
ヘレナの体を抱きしめたままベッドに倒れる。
高級感溢れる柔らかさは二人分の体重の分だけ沈み、暖かく包み込む。
「抱き枕がなくて今まで寝れなかったんじゃねーの?」
「ふっふん!そんなことないわ!」
「はいはい。」
苦笑を浮かべつつ瞼を閉じる。
どうせならオレもともに寝かせてもらうとしよう。
かつてやっていたように慣れた手つきでヘレナとともにシーツに包まった。
「…ユウタ。」
「ん?何だ?」
「…すまんかった。」
「ダンスのことか?」
「それもあるが…。」
ヘレナは顔を上げ、オレを見つめる。
茶色の瞳にオレの顔が映った。
「その…手を…。」
「ああ、コレね。平気だって。気にすんな。」
「…焼けておるのじゃぞ?」
「たかだか火傷だろ?血は出てないし、死にはしないから平気だって。」
「…じゃが。」
そこまで言って腕に力込め、ヘレナを強く抱きしめる。
抱きしめて言葉を止めさせる。
「もう、寝ろ。とにかく休んどけ。」
そこでオレの意識は途絶えた。
意識が消える前に小さな声で「ありがとう」といわれた気もしたが…。
気のせいだろう。きっと…。


 SECOND STEP
 これにて 終了
11/02/16 21:09更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
バフォ様編の中編です!
今回は大人な主人公とバフォ様、優しさと厳しさを重視して書いてみました。
改めて見てみると
主人公…大人すぎる…。
コイツは本当に高校生なのだろうか…。
今回のバフォ様編はもう少し続きそうです。
では、
主人公とバフォ様のおりなすバフォーい展開をご堪能あれ…。

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