ダンスとお前とオレと…ロリ? 前編
「こうやってーこうじゃ!」
「「「「「こうやってー、こうですかぁ?」」」」」
「ちがーう!こうやってこうやってこうじゃー!!」
「「「「「こうやってこうやってこうですかー?」」」」」
「違うと言うておろうに!!」
…うん、ここは何処だ?
なんだかとても犯罪的な場所に出たぞ…。
薄暗い洞窟を抜けてきたその場所は広い部屋のような場所だった。
うちの学校の体育館よりも広いかもしれない。
そんな広い場所で、こんな人もいない洞窟の奥でオレこと黒崎ゆうたは岩場に身を潜めて様子を伺っていた。
あーうん、何の様子かって言うとね…あー…その犯罪的なんだけど…。
小さいまだ幼い女の子達がね50人ぐらいでねお尻を振ってたんだ。
まるで踊るかのように左右にフリフリとね。
しかもその女の子達全員魔女みたいな格好してるし。
とんがり帽子に骸骨の付いたステッキだぜ?
ハロウィンでもやるのかよ?
さらにおかしいのはその魔女娘達の前にあるステージらしきものの上でさっきっから大声上げてる女の子。
あの服水着じゃね?
つか、あんな水着なくね?マイクロビキニみたいじゃねーか。
あんな布の面積少なすぎて紐巻いてるような服を着ている。
まぁそこはおいておこう。どうでもいいので(どうでもよくないが)。
その女の子頭から角生やしてた…。
茶色い髪の毛の間から二本の角。
ヤギみたいな角だった。
まるでツインテール。
他にも手足はなんか茶色いモフモフしてそうな毛に覆われてるし。
しゃべり方がなんか古風だし。やたら偉そうだし。
自分の身長よりも大きな鎌持ってるし。危ないなおい…。
さっきっから大声上げて魔女娘達に指示出してるところからおそらくあの子がこの集団のトップらしい。
まったく…オレはいったいどんな所へ来たんだよ。
あの変な光に包まれたかと思えば洞窟内に来て。
進んでくればこんな女の子達が踊ってる場所に出て。
どんな異次元ワールドだよ。
女の子達は一心不乱に踊りまくり。何を頑張っているのやら…。
あ、ああ、そういうことか…。
あの子達はきっとお遊戯会のためのダンスの練習をしているんだな。
こんな薄暗い洞窟内でするのはどうかと思うが、一生懸命頑張ってるところを見ると応援してやりたくなるな。
いや、最近の女の子達は頑張り屋さんでいいことだ。
…変なコスプレしなきゃもっと良かったんだが。
あ、あのコスチュームもお遊戯会のための衣装か。
それなら納得。
…一番前にいるあの子のはどうかと思うけど。
微笑ましく思い岩場の陰から抜けここを出ようと移動する。
邪魔しちゃ悪いしな。
こんな変なところからも抜け出したいし。
「ここをこうしてこうしてこうじゃー!!」
「「「「「ここをこうしてこうしてこうですかー?」」」」」
「だーかーらー!違うと言うておるじゃろうが!―そして、さっきからずっとそこで見ておるぬしはなにものじゃぁぁ!?」
「「「「「え?」」」」」
その声で一斉に50人くらいの魔女娘達が振り返った。
「え?何!?誰かいたのか!?」
つられてオレも振り返る。
「ぬしのことじゃぁぁぁぁ!!」
「あ、オレか。」
誤魔化せなかった。
そうか、一番前で踊っていたあの子にはオレのほうが見えてたか。
あの子だけ魔女娘の手本となるべく指示出してこっち見てたし。見えて当たり前か。
「ダンスお疲れ。じゃ。」
右手を上げて挨拶の仕草をとり、来た道を戻ろうとする。
なんか空気が危ない気がするし。
かつて空手の師匠と対峙したときに感じたピリピリした空気というか。
生物的本能が告げる危険信号とか。
そんなものを感じながらオレはそそくさとその場をあとにしようとするが。
「逃がさんわ!!」
角を生やした女の子が鎌の柄で地面を叩いた。
乾いた、硬いものがぶつかり合う音が響く。
瞬間―
「っ!?」
足が動かなくなった。
まるで地面に縫い付けられたかのように。
動かそうとしても動かせない。
おいおい…いったい何だよこれは!?
何が起きてるんだよ!?
「クソっ!」
動かなくなった足に手をかけ、引っ張ろうとしたそのとき。
目の前に女の子が現れた。
無から有が生まれるかのように。
何も無い空間からまるで瞬間移動したかのように。
「!」
「ふん!このわしから、バフォメットのヘレナ・ファーガスから逃げ切れると思うたか!?」
この娘、遠目で見てたからよくわからなかったがここまで近くで見ると…。
…ちっこいなぁ。
小学生レベルじゃねえか。
「おい、聞いておるのか、ぬし。」
「あん?何だよ。」
「わしらのダンスを覗き見おって。何者じゃ!」
「何者じゃって…。」
ここは正直に自己紹介したほうがいいのかな?
でもこんなガキにへりくだるのはなんか情けないし…。
てか、こいつなんかやたらと偉そうにしてるし。
顔も威厳があるというか…いや、ただ単に偉そうな表情を貼り付けてるだけだな。
「さっさと答えんか。」
「あーはいはあ。黒崎。黒崎ゆうただ。」
両手を挙げ、降参の意を示す。
「覗いたのは悪かった。頑張ってるみたいなんでできれば邪魔せずに立ち去りたいんだけど?」
指で足を示す。
「これ、解いてくれ。お前がやったんだろ?」
「いかにも。」
その言葉に女の子は得意げに胸を張る。
…張るような胸は無いが。
「わしのように上級魔物ならばぬしのような人間一人捕らえるのはたやすいわ。」
「うん?」
魔物?
何言ってんだこいつ。
「とりあえずこれ、解いてくれよ。」
「むぅ、わしのすごさがわからんか?」
「わかった。わかったからこれ解いてくれ。頭なでなでしてやっから。」
「…なんか馬鹿にされてる気がするのう。」
まぁいいか、なんて呟きながら女の子は再び鎌の柄で地面を叩いた。
途端に地面から解き放たれる足。
縫い付けられた糸が消えたかのように俺の足は自由に動かせるようになっていた。
これなら逃げれる!
そう思い足で地面を蹴ろうとしたが
「待てい。」
捕まった。
いつの間に出したのか光り輝く紐のようなものがオレの腕に絡まっている。
その紐の先は角の女の子が握っていて。
「魔法を解いた途端に逃げ出すとは何事じゃ。」
逃亡劇、終了。
光り輝く紐はオレの体を勝手に縛っていき、気づけばオレは両手も縛り上げられていた。
「逃がしてくれよ。」
「だめじゃ。」
「なんで?ダンス覗いたことなら謝るから。」
「そうではない。」
とりあえず彼女と目線を合わせるためにしゃがむ。
そうしてやっと同じ目線になった。
ほんとにちっこいな。
「ぬし、いったいどうやってここまで来た?」
「あ?」
「あ?ではない。この場所はわしら『サバト』のための集会場じゃ。そう易々と入れるわけないじゃろう。」
…何だ?鯖糖?
集会場って言うくらいだからなんかのチームかな?
ダンシングチーム?
「入り口には様々な侵入者撃退の強力魔法を施したのじゃぞ?それをどうやって抜けおった?」
「…魔法?」
おいおい、何だよ魔法って…。
確かにさっき感じた足が地面に縫いつく感じは現実じゃありえないことだったけど。
それに今オレの体と腕を縛っているこの紐もなんだか普通の紐じゃないのはよくわかるけど。
魔法って…あの魔法か?
ファンタジーゲームとかでよく出るあれか?
まったく…オレはどんな所に来ちまったんだよ…。
角の女の子はオレの首辺りに顔を近づける。
「むぅ…ぬしからは魔力が感じられんのう…。クンカクンカ。」
「女の子がそういう匂いのかぎ方するのはやめろよ。」
「黒髪黒目…ぬし、ジパング人か?」
「じぱんぐじん?」
どこの人種だ?オレはジャパニーズだぞ。
「いったい何者じゃ?」
「…。」
これは…正直に話したほうがいいのか?
こことは別の世界から来ましたーなんて言ったら変な目で見られそうだし信じてもらえねぇだろうな。
だったら茶化したほうがまだいい。
オレは話をそらすことにした。
「オレなんかよりもダンス、しなくていいのか?すごい一生懸命にやってたけどお遊戯会でもするのかよ?」
「お遊戯会ではないわ。あれは―」
角の女の子はくるりと一回転し、鎌を上へ向けていった。
胸を張って。
堂々と。
「わしらサバトの新境地、『ダンシング・サバト』じゃ!!」
効果音が付くなら『ドーン!!』か『バーン!!』のどちらかが付くぐらいの勢いだった。
きらりと、女の子の八重歯が光った。
キメ顔で何を言い出すんだこの子は。
後ろの魔女娘達は「おぉー!」なんて声出して拍手してるし。
「ダンシング・鯖糖?何だよそれ。」
「『ダンシング・サバト』じゃ!」
女の子はオレの鼻先に鎌を突きつける。
危ないなこいつ。刃物向けんなよ。
こっちは縛られてて身動きとれねえのに。
「ここ最近わしらサバトの信者が急激に減っておる。」
「サバトって何?」
「幼き少女の背徳と魅力のすばらしさを世に広めるといういわば信仰宗教じゃ。」
「帰らせろぉ!!」
こいつはやばい!
なんだよそのやばい宗教は!?
こいつと関わったらとんでもないことになっちまう!!
「新しい信者をより多く集めるために発案したのがこの『ダンシング・サバト』。このわしらの小さく幼く可愛らしい容姿を全力で出せるダンスで新たな信者のハートをキャッチするのじゃ!!」
「マジで帰らせろぉ!!」
危なすぎるぞ!こいつ!
どうやらオレはほんとに別の世界に来ちまったみたいだ!
そして目の前にはさらに新しい世界の扉が!
ここを超えたらオレはダメになる!きっと!いや、絶対に!!
「ヘレナ様。」
魔女娘の一人が角の女の子の前に出た。
オレを見上げ指差す。
「この方に私達のダンスを見てもらってはどうでしょう?」
「!」
「むぅ?なぜじゃ?」
「私達は今までヘレナ様のご指導の下に頑張ってまいりました。しかし今のままではたして男性を虜にできるのでしょうか?」
「むぅ、正論じゃな。とういわけでぬし、わしらが今から踊るから見事わしらにハートをキャッチされろ。そしてサバトに入信しろ!」
「断るっ!」
そんなモンに入信するか!
こちとら宗教沙汰は勘弁願いたいんだよ!
オレのいた世界でもやたら宗教問題はあったからな。
って、人の意見聞かずに始めようとしてんじゃねえよ!
「みなのもの!用意はいいか!」
「「「「「オッケーでーす!」」」」」
「よし、踊るぞー!!」
「「「「「はーい!!」」」」」
そこから始まったダンスはなんていうか…うん、なんとも言えないな。
大半が尻振ってるだけだったし。
動きかなりズレてたし。
一人突っ走ってる奴いたし。…あの角の女の子なんだけど。
ダンスを終えた角の女の子がオレに駆け寄ってくる。
上目遣いでオレの顔を覗き込んだ。
…不覚にも可愛いって思っちまった。
「どうじゃった!?わしらのダンスは魅力的じゃったか!?背徳的じゃったか!?」
「う〜ん…。」
背徳的ではあったな。
でも、正直言えば…。
…これ言わなきゃいけないのか?
この子きっと泣くぞ?
この子相当ダンスに自信があったのか顔を輝かせてオレを見てくるし。
キラキラ輝かしてるよ…目の中星入ってるよ…。
「正直に思ったことを言ってくれ!わしらにハートをキャッチされたか!?」
「あーうー…えっと…正直に言うぞ?」
「おう、言ってくれ!」
一呼吸おき、オレは目の前の角の女の子に言う。
この子達にとって残酷であろうその一言を。
「ないわ。」
「「「「「…………………………………………」」」」」
…ほら、皆黙っちゃったよ。
あれ?後ろの魔女娘達なんか頷いてるぞ。
「あ、やっぱりそうですよね」的な表情してるぞ?
…あの子達も同じこと思ってたのか。
言ってやろうよ。誰か思ってたなら言ってやろうよ。
「ぐ、具体的にどこがダメじゃった!?」
すごい剣幕で聞いてくる角の女の子。
その必死さが伝わってきてもうこれは…言っていいのか迷うな。
目の端に涙溜めてるし…。
言ったら言ったでこの子…泣くんじゃないのか?
「い、いいのか?言うぞ。」
「い、言ってくれ…。どこがなかったんじゃ?」
「全部。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
泣いちゃった!?
泣いちゃったよこの子!
泣くだろうとは思ってたけどマジ泣きだよ!
うわっ!魔女娘達の目が怖い!
何だよお前ら!お前らだって似たようなこと思ってたんだろ!
ボロボロと大粒の涙を流す角の女の子は鎌を取り落とした。
ガランっと金属音をたてて落ち、そのせいかオレを縛っていた輝く紐も解ける。
解けたが…逃げ出す空気じゃないな…。
この角の子を泣かしたっていう罪悪感がとんでもないし。
このまま逃げ出せばこいつらは追ってこないだろうけど…そっちのほうがダメだろ。
女の子泣かして逃げるなんて最悪じゃねぇか。
「うわぁぁぁぁぁぁん!ひっく…うぅ…ぐす…。」
「…。」
このまま逃げ出したらきっと死ぬな、オレ。勿論、罪悪感で。
罪悪感は人を殺すって言うし。
うん、死ぬ死ぬ。
だから…助けるのはこいつらのためじゃない。
オレ自身が罪悪感で死なないため。うん、そうだ。
それ以外はない。他意もない。
「あー…ほら、泣き止めよ。」
「うぅ…ひっぐ…うぅわぁ…。」
こりゃすぐには泣き止みそうにもないな。
オレは指を出し、角の女の子の頬に添え、涙を拭う。
「ダンスのだめなところはこれから直していけばいいだろーが。」
「うっ…ひく…ごれがら…?」
角の女の子が顔を上げる。
泣いたからだろう目が真っ赤だ。
それがさらにオレの中の罪悪感を募らせる。
「そう、これから。」
「うぅ…でも、でもっ…どこがダメなのか…わがらない…!」
「あー…。」
おそらくこのダンス、この角の女の子が一生懸命に作ったのだろう。
だからこそあんなに自信がありそうな表情をオレに向けていたのだろう。
…まったく、近頃の子供っていうのはどうしてこう突っ走りまくりの身勝手で、
とんでもなく頑張り屋なんだろうな…っ。
「だったらダメなところがわかる奴に手伝ってもらえば良いだろ。」
「ぞんなの…いるの…?」
「あー、だから…オレがいるだろ。」
「ふぇ?」
女の子は不思議そうな顔をした。
オレはその子の頭をわしゃわしゃ撫で回す。
「中学生のころ双子の姉につき合わされたんだよ。創作ダンスっていうモンに。だからある程度のことなら手伝えるぞ。」
「…本当かのう…?」
「本当だ。というかむしろ手伝わせてくれ。」
このままじゃ心が痛くて逃げ出せもしない。
角の女の子の涙を全て拭い、肩に手をかけた。
自然、向き合う形となる。
「頼む。」
「……。」
女の子は放心しているようだったがぶんぶん頭を振ってオレのほうを見た。
その顔にもう涙はない。
一番最初に見せたあの偉そうな表情だ。
それでも笑っていて。
どことなく嬉しそうな表情でオレを見た。
「そうかそうか!そこまで言われては仕方ないのう!ぬしにわしらのダンスを手伝わせてやろう!」
どーやら泣き止んでくれたようだ。
まったく、手のかかるお子様だ。
後ろの魔女娘達も嬉しそうに皆で手を取り合ってる。
…「ご愁傷様でーす」なんてかすかに聞こえたのは空耳だろうか?
「そんじゃ、改めましてオレは黒崎ゆうただ。お前は?」
「わしか?さっき言ったじゃろうに。」
「聞き逃してたんだよ。」
「むぅ、仕方ないのう。」
角の女の子は胸を張り、さっき取り落とした鎌を持ち、堂々とオレに言った。
「わしは魔物達の中でも最高位に位置するバフォメットの、ヘレナ・ファーガスじゃ!」
…魔物に、バフォメット…ね。
どーやらオレはマジでとんでもない世界へととばされたみたいだな…。
まったく、これからいったいどうなることやら。
少なくとも退屈だった日常とはオサラバだろうな。
そんなことを考えながらオレは目の前の角の女の子―ヘレナを見つめていた。
「そんなに見つめちゃイヤン…♪」
「………………………………。」
FIRST STEP
これにて 終了
「「「「「こうやってー、こうですかぁ?」」」」」
「ちがーう!こうやってこうやってこうじゃー!!」
「「「「「こうやってこうやってこうですかー?」」」」」
「違うと言うておろうに!!」
…うん、ここは何処だ?
なんだかとても犯罪的な場所に出たぞ…。
薄暗い洞窟を抜けてきたその場所は広い部屋のような場所だった。
うちの学校の体育館よりも広いかもしれない。
そんな広い場所で、こんな人もいない洞窟の奥でオレこと黒崎ゆうたは岩場に身を潜めて様子を伺っていた。
あーうん、何の様子かって言うとね…あー…その犯罪的なんだけど…。
小さいまだ幼い女の子達がね50人ぐらいでねお尻を振ってたんだ。
まるで踊るかのように左右にフリフリとね。
しかもその女の子達全員魔女みたいな格好してるし。
とんがり帽子に骸骨の付いたステッキだぜ?
ハロウィンでもやるのかよ?
さらにおかしいのはその魔女娘達の前にあるステージらしきものの上でさっきっから大声上げてる女の子。
あの服水着じゃね?
つか、あんな水着なくね?マイクロビキニみたいじゃねーか。
あんな布の面積少なすぎて紐巻いてるような服を着ている。
まぁそこはおいておこう。どうでもいいので(どうでもよくないが)。
その女の子頭から角生やしてた…。
茶色い髪の毛の間から二本の角。
ヤギみたいな角だった。
まるでツインテール。
他にも手足はなんか茶色いモフモフしてそうな毛に覆われてるし。
しゃべり方がなんか古風だし。やたら偉そうだし。
自分の身長よりも大きな鎌持ってるし。危ないなおい…。
さっきっから大声上げて魔女娘達に指示出してるところからおそらくあの子がこの集団のトップらしい。
まったく…オレはいったいどんな所へ来たんだよ。
あの変な光に包まれたかと思えば洞窟内に来て。
進んでくればこんな女の子達が踊ってる場所に出て。
どんな異次元ワールドだよ。
女の子達は一心不乱に踊りまくり。何を頑張っているのやら…。
あ、ああ、そういうことか…。
あの子達はきっとお遊戯会のためのダンスの練習をしているんだな。
こんな薄暗い洞窟内でするのはどうかと思うが、一生懸命頑張ってるところを見ると応援してやりたくなるな。
いや、最近の女の子達は頑張り屋さんでいいことだ。
…変なコスプレしなきゃもっと良かったんだが。
あ、あのコスチュームもお遊戯会のための衣装か。
それなら納得。
…一番前にいるあの子のはどうかと思うけど。
微笑ましく思い岩場の陰から抜けここを出ようと移動する。
邪魔しちゃ悪いしな。
こんな変なところからも抜け出したいし。
「ここをこうしてこうしてこうじゃー!!」
「「「「「ここをこうしてこうしてこうですかー?」」」」」
「だーかーらー!違うと言うておるじゃろうが!―そして、さっきからずっとそこで見ておるぬしはなにものじゃぁぁ!?」
「「「「「え?」」」」」
その声で一斉に50人くらいの魔女娘達が振り返った。
「え?何!?誰かいたのか!?」
つられてオレも振り返る。
「ぬしのことじゃぁぁぁぁ!!」
「あ、オレか。」
誤魔化せなかった。
そうか、一番前で踊っていたあの子にはオレのほうが見えてたか。
あの子だけ魔女娘の手本となるべく指示出してこっち見てたし。見えて当たり前か。
「ダンスお疲れ。じゃ。」
右手を上げて挨拶の仕草をとり、来た道を戻ろうとする。
なんか空気が危ない気がするし。
かつて空手の師匠と対峙したときに感じたピリピリした空気というか。
生物的本能が告げる危険信号とか。
そんなものを感じながらオレはそそくさとその場をあとにしようとするが。
「逃がさんわ!!」
角を生やした女の子が鎌の柄で地面を叩いた。
乾いた、硬いものがぶつかり合う音が響く。
瞬間―
「っ!?」
足が動かなくなった。
まるで地面に縫い付けられたかのように。
動かそうとしても動かせない。
おいおい…いったい何だよこれは!?
何が起きてるんだよ!?
「クソっ!」
動かなくなった足に手をかけ、引っ張ろうとしたそのとき。
目の前に女の子が現れた。
無から有が生まれるかのように。
何も無い空間からまるで瞬間移動したかのように。
「!」
「ふん!このわしから、バフォメットのヘレナ・ファーガスから逃げ切れると思うたか!?」
この娘、遠目で見てたからよくわからなかったがここまで近くで見ると…。
…ちっこいなぁ。
小学生レベルじゃねえか。
「おい、聞いておるのか、ぬし。」
「あん?何だよ。」
「わしらのダンスを覗き見おって。何者じゃ!」
「何者じゃって…。」
ここは正直に自己紹介したほうがいいのかな?
でもこんなガキにへりくだるのはなんか情けないし…。
てか、こいつなんかやたらと偉そうにしてるし。
顔も威厳があるというか…いや、ただ単に偉そうな表情を貼り付けてるだけだな。
「さっさと答えんか。」
「あーはいはあ。黒崎。黒崎ゆうただ。」
両手を挙げ、降参の意を示す。
「覗いたのは悪かった。頑張ってるみたいなんでできれば邪魔せずに立ち去りたいんだけど?」
指で足を示す。
「これ、解いてくれ。お前がやったんだろ?」
「いかにも。」
その言葉に女の子は得意げに胸を張る。
…張るような胸は無いが。
「わしのように上級魔物ならばぬしのような人間一人捕らえるのはたやすいわ。」
「うん?」
魔物?
何言ってんだこいつ。
「とりあえずこれ、解いてくれよ。」
「むぅ、わしのすごさがわからんか?」
「わかった。わかったからこれ解いてくれ。頭なでなでしてやっから。」
「…なんか馬鹿にされてる気がするのう。」
まぁいいか、なんて呟きながら女の子は再び鎌の柄で地面を叩いた。
途端に地面から解き放たれる足。
縫い付けられた糸が消えたかのように俺の足は自由に動かせるようになっていた。
これなら逃げれる!
そう思い足で地面を蹴ろうとしたが
「待てい。」
捕まった。
いつの間に出したのか光り輝く紐のようなものがオレの腕に絡まっている。
その紐の先は角の女の子が握っていて。
「魔法を解いた途端に逃げ出すとは何事じゃ。」
逃亡劇、終了。
光り輝く紐はオレの体を勝手に縛っていき、気づけばオレは両手も縛り上げられていた。
「逃がしてくれよ。」
「だめじゃ。」
「なんで?ダンス覗いたことなら謝るから。」
「そうではない。」
とりあえず彼女と目線を合わせるためにしゃがむ。
そうしてやっと同じ目線になった。
ほんとにちっこいな。
「ぬし、いったいどうやってここまで来た?」
「あ?」
「あ?ではない。この場所はわしら『サバト』のための集会場じゃ。そう易々と入れるわけないじゃろう。」
…何だ?鯖糖?
集会場って言うくらいだからなんかのチームかな?
ダンシングチーム?
「入り口には様々な侵入者撃退の強力魔法を施したのじゃぞ?それをどうやって抜けおった?」
「…魔法?」
おいおい、何だよ魔法って…。
確かにさっき感じた足が地面に縫いつく感じは現実じゃありえないことだったけど。
それに今オレの体と腕を縛っているこの紐もなんだか普通の紐じゃないのはよくわかるけど。
魔法って…あの魔法か?
ファンタジーゲームとかでよく出るあれか?
まったく…オレはどんな所に来ちまったんだよ…。
角の女の子はオレの首辺りに顔を近づける。
「むぅ…ぬしからは魔力が感じられんのう…。クンカクンカ。」
「女の子がそういう匂いのかぎ方するのはやめろよ。」
「黒髪黒目…ぬし、ジパング人か?」
「じぱんぐじん?」
どこの人種だ?オレはジャパニーズだぞ。
「いったい何者じゃ?」
「…。」
これは…正直に話したほうがいいのか?
こことは別の世界から来ましたーなんて言ったら変な目で見られそうだし信じてもらえねぇだろうな。
だったら茶化したほうがまだいい。
オレは話をそらすことにした。
「オレなんかよりもダンス、しなくていいのか?すごい一生懸命にやってたけどお遊戯会でもするのかよ?」
「お遊戯会ではないわ。あれは―」
角の女の子はくるりと一回転し、鎌を上へ向けていった。
胸を張って。
堂々と。
「わしらサバトの新境地、『ダンシング・サバト』じゃ!!」
効果音が付くなら『ドーン!!』か『バーン!!』のどちらかが付くぐらいの勢いだった。
きらりと、女の子の八重歯が光った。
キメ顔で何を言い出すんだこの子は。
後ろの魔女娘達は「おぉー!」なんて声出して拍手してるし。
「ダンシング・鯖糖?何だよそれ。」
「『ダンシング・サバト』じゃ!」
女の子はオレの鼻先に鎌を突きつける。
危ないなこいつ。刃物向けんなよ。
こっちは縛られてて身動きとれねえのに。
「ここ最近わしらサバトの信者が急激に減っておる。」
「サバトって何?」
「幼き少女の背徳と魅力のすばらしさを世に広めるといういわば信仰宗教じゃ。」
「帰らせろぉ!!」
こいつはやばい!
なんだよそのやばい宗教は!?
こいつと関わったらとんでもないことになっちまう!!
「新しい信者をより多く集めるために発案したのがこの『ダンシング・サバト』。このわしらの小さく幼く可愛らしい容姿を全力で出せるダンスで新たな信者のハートをキャッチするのじゃ!!」
「マジで帰らせろぉ!!」
危なすぎるぞ!こいつ!
どうやらオレはほんとに別の世界に来ちまったみたいだ!
そして目の前にはさらに新しい世界の扉が!
ここを超えたらオレはダメになる!きっと!いや、絶対に!!
「ヘレナ様。」
魔女娘の一人が角の女の子の前に出た。
オレを見上げ指差す。
「この方に私達のダンスを見てもらってはどうでしょう?」
「!」
「むぅ?なぜじゃ?」
「私達は今までヘレナ様のご指導の下に頑張ってまいりました。しかし今のままではたして男性を虜にできるのでしょうか?」
「むぅ、正論じゃな。とういわけでぬし、わしらが今から踊るから見事わしらにハートをキャッチされろ。そしてサバトに入信しろ!」
「断るっ!」
そんなモンに入信するか!
こちとら宗教沙汰は勘弁願いたいんだよ!
オレのいた世界でもやたら宗教問題はあったからな。
って、人の意見聞かずに始めようとしてんじゃねえよ!
「みなのもの!用意はいいか!」
「「「「「オッケーでーす!」」」」」
「よし、踊るぞー!!」
「「「「「はーい!!」」」」」
そこから始まったダンスはなんていうか…うん、なんとも言えないな。
大半が尻振ってるだけだったし。
動きかなりズレてたし。
一人突っ走ってる奴いたし。…あの角の女の子なんだけど。
ダンスを終えた角の女の子がオレに駆け寄ってくる。
上目遣いでオレの顔を覗き込んだ。
…不覚にも可愛いって思っちまった。
「どうじゃった!?わしらのダンスは魅力的じゃったか!?背徳的じゃったか!?」
「う〜ん…。」
背徳的ではあったな。
でも、正直言えば…。
…これ言わなきゃいけないのか?
この子きっと泣くぞ?
この子相当ダンスに自信があったのか顔を輝かせてオレを見てくるし。
キラキラ輝かしてるよ…目の中星入ってるよ…。
「正直に思ったことを言ってくれ!わしらにハートをキャッチされたか!?」
「あーうー…えっと…正直に言うぞ?」
「おう、言ってくれ!」
一呼吸おき、オレは目の前の角の女の子に言う。
この子達にとって残酷であろうその一言を。
「ないわ。」
「「「「「…………………………………………」」」」」
…ほら、皆黙っちゃったよ。
あれ?後ろの魔女娘達なんか頷いてるぞ。
「あ、やっぱりそうですよね」的な表情してるぞ?
…あの子達も同じこと思ってたのか。
言ってやろうよ。誰か思ってたなら言ってやろうよ。
「ぐ、具体的にどこがダメじゃった!?」
すごい剣幕で聞いてくる角の女の子。
その必死さが伝わってきてもうこれは…言っていいのか迷うな。
目の端に涙溜めてるし…。
言ったら言ったでこの子…泣くんじゃないのか?
「い、いいのか?言うぞ。」
「い、言ってくれ…。どこがなかったんじゃ?」
「全部。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
泣いちゃった!?
泣いちゃったよこの子!
泣くだろうとは思ってたけどマジ泣きだよ!
うわっ!魔女娘達の目が怖い!
何だよお前ら!お前らだって似たようなこと思ってたんだろ!
ボロボロと大粒の涙を流す角の女の子は鎌を取り落とした。
ガランっと金属音をたてて落ち、そのせいかオレを縛っていた輝く紐も解ける。
解けたが…逃げ出す空気じゃないな…。
この角の子を泣かしたっていう罪悪感がとんでもないし。
このまま逃げ出せばこいつらは追ってこないだろうけど…そっちのほうがダメだろ。
女の子泣かして逃げるなんて最悪じゃねぇか。
「うわぁぁぁぁぁぁん!ひっく…うぅ…ぐす…。」
「…。」
このまま逃げ出したらきっと死ぬな、オレ。勿論、罪悪感で。
罪悪感は人を殺すって言うし。
うん、死ぬ死ぬ。
だから…助けるのはこいつらのためじゃない。
オレ自身が罪悪感で死なないため。うん、そうだ。
それ以外はない。他意もない。
「あー…ほら、泣き止めよ。」
「うぅ…ひっぐ…うぅわぁ…。」
こりゃすぐには泣き止みそうにもないな。
オレは指を出し、角の女の子の頬に添え、涙を拭う。
「ダンスのだめなところはこれから直していけばいいだろーが。」
「うっ…ひく…ごれがら…?」
角の女の子が顔を上げる。
泣いたからだろう目が真っ赤だ。
それがさらにオレの中の罪悪感を募らせる。
「そう、これから。」
「うぅ…でも、でもっ…どこがダメなのか…わがらない…!」
「あー…。」
おそらくこのダンス、この角の女の子が一生懸命に作ったのだろう。
だからこそあんなに自信がありそうな表情をオレに向けていたのだろう。
…まったく、近頃の子供っていうのはどうしてこう突っ走りまくりの身勝手で、
とんでもなく頑張り屋なんだろうな…っ。
「だったらダメなところがわかる奴に手伝ってもらえば良いだろ。」
「ぞんなの…いるの…?」
「あー、だから…オレがいるだろ。」
「ふぇ?」
女の子は不思議そうな顔をした。
オレはその子の頭をわしゃわしゃ撫で回す。
「中学生のころ双子の姉につき合わされたんだよ。創作ダンスっていうモンに。だからある程度のことなら手伝えるぞ。」
「…本当かのう…?」
「本当だ。というかむしろ手伝わせてくれ。」
このままじゃ心が痛くて逃げ出せもしない。
角の女の子の涙を全て拭い、肩に手をかけた。
自然、向き合う形となる。
「頼む。」
「……。」
女の子は放心しているようだったがぶんぶん頭を振ってオレのほうを見た。
その顔にもう涙はない。
一番最初に見せたあの偉そうな表情だ。
それでも笑っていて。
どことなく嬉しそうな表情でオレを見た。
「そうかそうか!そこまで言われては仕方ないのう!ぬしにわしらのダンスを手伝わせてやろう!」
どーやら泣き止んでくれたようだ。
まったく、手のかかるお子様だ。
後ろの魔女娘達も嬉しそうに皆で手を取り合ってる。
…「ご愁傷様でーす」なんてかすかに聞こえたのは空耳だろうか?
「そんじゃ、改めましてオレは黒崎ゆうただ。お前は?」
「わしか?さっき言ったじゃろうに。」
「聞き逃してたんだよ。」
「むぅ、仕方ないのう。」
角の女の子は胸を張り、さっき取り落とした鎌を持ち、堂々とオレに言った。
「わしは魔物達の中でも最高位に位置するバフォメットの、ヘレナ・ファーガスじゃ!」
…魔物に、バフォメット…ね。
どーやらオレはマジでとんでもない世界へととばされたみたいだな…。
まったく、これからいったいどうなることやら。
少なくとも退屈だった日常とはオサラバだろうな。
そんなことを考えながらオレは目の前の角の女の子―ヘレナを見つめていた。
「そんなに見つめちゃイヤン…♪」
「………………………………。」
FIRST STEP
これにて 終了
11/02/13 20:36更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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