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全く持って忌々しい。
何でこんな簡単なことに気がつかなかったんだ。
アイツの正確は嫌と言うほど思い知っていたはずなのに

「皆さんお手元にお飲み物は行き届いていますでしょうか？」

『身請け』なんて金を払ってネモを連れ出すだけだと勝手に思っていた。
あったとしてもネモとニュクススタッフとの別離のシーンくらいだと。

「この良き日を皆さんと向かえることができて感無量です」

支配人から「ネモを頼みます」と頭を下げられた辺りから
涙腺と警戒心が緩んでいたのかもしれない。

「二人の幸せを私事のように喜ぶ身勝手を　どうかお許しください」

二人で支配人室を出ようとした瞬間、足元で捕縛陣が展開された。
ご丁寧に対象はアタシだけ。ネモは横であたふたするしかない。

「えー　それでは　ネモ君とガロア君の門出を祝って・・・」

「乾杯！」

カンパーイ！と歓声が上がり皆が杯を傾ける。
ここはニュクスの食堂。真昼は閑散としているこの場所が今では満員だ。
毎日顔をつき合わせている奴から知らない人まで良い服を着て集まっている。

「だーっはっはっは！めでてぇなぁ。酒が旨いぜ！」
「私の患者なのですから当然幸せになってもらわねば♪」
「魔物×人間のカップルがまた一組・・・早速記事にしなくては！」

それぞれ好き勝手に振舞っている。喜んでくれるのは嬉しいが
アタシ達をネタに騒ぎたいだけの連中が大半なのだろう。

「主賓がそんな仏頂面していちゃいけない。スマイルスマイル」
先程スピーチしていた我らが大将、アーツがにこやかに歩み寄ってきた。
普段の薄汚い旅装を解いて、今はそれなりに着飾っている。
「テメェ　いつから一枚噛んでやがった」
「もちろん半年前からさ☆」

なんということはない。この男は最初から事態を把握していたのだ。
この『街』に寄った際に毎回外泊するアタシを不思議に思ったアーツが
秘密裏に調査（the　尾行）してニュクスを見つけたらしい。
支配人と意気投合したアーツはアタシとネモがくっついた時の事を考えて
計画を練りに練ったということだ。

「ネモ君が誘拐されたこと以外は概ね予定通りさ☆」
このスカしたツラをぶん殴る事ができたらどれだけスカッとするのだろう。

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「まあ　その件はいいさ・・・それよりも」
「なんだい？」

「何か不満でも？」と言いたげにアーツが首を傾げる。
その表情は取り澄ましたかのように整っているが
唇の辺りが何かに耐えるように引きつっている。
我慢できずにアタシは目の前のテーブルを叩きながら叫んだ。

「何でアタシがタキシード着なきゃならないんだ！」

そう　このバカが用意した衣装は男女が逆転していた。
そもそものサイズが違うので衣装の交換すらできない。
アタシの横でドレス姿のネモが真っ赤になってうつむいている。
・・・早く二人っきりになりたい。

「ガロアさん　カッコイイ！」
「ネモー　俺だー　結婚してくれー」
「どういうことなの・・・」
「ふつくしい」

悔しいことにアタシ達の格好は案外好評のようだ。
確かにアタシはドレスが似合う体格ではないが　納得いかない。
確かにネモのドレス姿はどこに出しても恥ずかしくない程だが・・・

タキシードだって似合うはずだ！

袖が余ったダボダボのタキシードを着た涙目のネモ・・・
むぅ　想像しただけで理性が裸足で逃げていきそうだ。
後でアタシのタキシードをネモに着てもらおう。是が非でも。

ネモを見つめながら一人悦に入っているとアーツが机に一枚の書類を置いた。
『パートナー登録証』の文字の下に記名欄が二箇所ある。
傍らに置かれたペンとインクは重要書類用の最高級品で魔力を帯びている。
調査用の魔法をかけると記入者の詳細を閲覧できる魔法のインクだ。

「支配人が見受けの条件にコレを追加したいそうだよ」

『パートナー登録証』は人間と魔物の婚姻届のようなものである。
領内は今だ教団が権威を振りかざしており人間と魔物の結婚は不可能である。
しかしながら魔物と共に生活する人間は増え続けている。
事態を重く見た領主が『世帯の管理』を名目に断行したのが
戸籍に魔物を入れる事を許可する政策　『パートナー登録証』なのである。

婚姻届とは別物なので教会は手を出す事ができず、半ば黙認している。
また住民も制限の少ない政策を逆手に取る者も少なくない。

人間の女と魔物の両方を妻にしたり（政策上　重婚ではない）
養子のような形で幼い魔物を引き取ったり
その逆に魔物が人間の子供を養ったり

領内といっても手続きができるのは『街』だけなので
自然と人と魔物のカップルは外周市場で暮らすようになる。
そんなわけでこの政策は『街』の発展に拍車をかける一因となったのだ。

まぁ　つまり　なんだ
「連れて行くなら　けじめをつけろ」
ってことなんだろうな　きっと
アタシに異存はなかったが、ふとネモの反応が気になって振り返ると

ネモの右手には既にペンが握られていた。

声をかける間も無く空欄に”ネモ・ニュクス”と一息に書き込む。
使い終わったペンを感慨深げに見つめた後、ネモはペンをこちらに差し出す。
そこにいつもの笑顔は無い。そのかわりに
覚悟を決めた男の顔があった。

アタシはひとつ頷くとペンを取り書類を手元に引き寄せた。
空欄に”寝床を探す民・ガロア”と記入する。
昔は大嫌いだった一族の名が、今は誇らしく感じられる。

探していたのは一夜の逢瀬ではなく　いつもそばに居て欲しい男だと
ネモに会ってから気付く事ができたからかもしれない。

二人の名が書き込まれた『パートナー登録証』はファイスの懐に収まった。
街庁舎所属の人間が奴しかいないからである。・・・不安だ。
まぁ　そんなこんなでアタシ達は世間様公認のパートナーとなり
祝福の宴は翌日の昼まで続いたそうだ。
・・・何故　他人事のような言い方をするかって?

ファイスのバカが　また『魅惑のテソロ』をアタシの前に出したからだよ！
おかげさまで共同作業の方はバッチリだったよ！　クソ！　忌々しい・・・
あぁそうさ！ドレスもタキシードも液まみれだったさ！　ちくしょうめ！

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「・・・あれから　もう半年も経つんですね」
「・・・そうだな」

記念品の水晶から発する光、その中にあの日の参列者が映っている。
みんな幸せそうに笑っている。アタシも　ネモも・・・

ここはアタシ達の馬車の荷台に据え付けられたベッドの上だ。
あの後ネモはアタシと一緒にアーツの所で働く事になったんだ。

ちなみにこの馬車を買う為の資金は身請けの時に払った金が使われている。
・・・アーツと支配人がグルになって計画していたことの一部がコレだ。
「ガロアは身請けした後のことなんか何も考えないでしょうからね」
とはアーツの言葉。・・・くっ！　反論できないのが悔しい！

ちなみにネモは帳簿付けなどで活躍しているらしい。
元々商人の息子なので基礎はできていたらしく飲み込みも早いらしい。
「俺の弱点だった部分を補ってくれて助かっているよ」
とアーツがメチャクチャ感激していた。ネモすごい。

ネモが活躍している中、アタシは以前と変わらず過ごしている。
まぁ　その　道中ほとんど寝ている。
盗賊団ひとつ潰したあたりから『アーツの所には暴れ牛がいる』という噂が
たちまち広まり襲ってくる奴が滅多にいないんだ。
やること無いので　もっぱら眠っている。

「もうすぐまた　『街』に帰れますね」
「あぁ　次の荷を積んだら『街』だな・・・」

『街』に帰った時はニュクスに泊めてもらっている。
先生の定期健診もそのとき受けていて、経過は良好だそうな。
その証拠といっては何だが、ネモの胸には紋章が刻み込まれている。

いつしか浮かび上がったそれは交差した斧の上に角のデカイ牛の紋章。

アタシが魔法を使えないからか、ネモも魔法を使う才は発現しなかった。
期待されていた体質の改善だが・・・今の所確かめようが無い。

毎日　アタシが搾り出しているからだ。

「またベッドを壊して叔父さんを怒らせちゃうかも」
「ニュクスのベッドもこの馬車みたいに頑丈ならいいのにな」

・・・お察しの通り、絶賛ピロートーク中だ。
正常位で繋がったまま、ネモがアタシの胸を優しく揉んでいる。
ちなみにネモが今だ敬語なのは、敬語がネモの口調だからだ。
両親が日常で敬語を使う人だったそうで自然にネモも敬語になったそうだ。
・・・それはそれで可愛い　なんて思った事は口が裂けても言えない。
顔がニヤけていたらしく、ネモが不思議そうに声をかけてくる。

「どうかしましたか？」
「ん？あぁ　やっぱりネモはアタシの『枕』なんだなぁって」
「まくら？」
更に傾げてしまったネモの頭を撫でながら　告げる。

「アタシの一族は、大事な人の事を『枕』に例えるんだ」

それは母が子守唄のように聞かせてくれた言葉

「寝床を探す民は三つの枕を幸せの証としているんだ」

一つ目の枕は　お母さん
二つ目の枕は　大好きになった人
三つ目の枕は　生まれてくる子供

「ネモはアタシにとって”二つ目の枕”なんだよ・・・　へへっ！」
照れ隠しに髪を乱暴に撫でているとその手をゆっくりと脇に退けられ

ゆっくりと　力強く　唇を奪われた。

子供のままで止まっていた身長が少しずつ伸びてきたおかげで
今では繋がったままキスすることができる。

「”三つ目の枕”も　欲しいですか？」
「・・・」

言葉で返すのも癪だったのでネモを押し上げてそのまま押し倒した。
ベッドサイドの籠から赤い野菜を取り出して丸ごとほおばり噛み砕く。
半分ほどキスをしながらネモの口に注ぎ込んだ。あの日のように。
あの日との違いは、ネモのほうもベストコンディションである事。

今度こそ馬車を壊してしまうかもしれないが　それもいいさ。
次の馬車は三人暮らせるものが必要なんだから・・・

―――――――fin―――――――

■作者メッセージ
初めての方は『お読みいただきまことにありがとうございます！』
俺をご存知の方は『突然失踪して申し訳ありませんでした！』
恥ずかしながら帰ってまいりました。Ｊｕｎｋ-Ｋｉｄｓです。

この作品は途中まで書いてから一度筆を置いてます。
途中から文体が変わっているかもしれませんがご容赦を・・・
今回もネタだらけです。見つけた方はひっそり笑ってください。
『魔物娘側の視点で書いてみよう』という考えではじめたのですが
非常に難産でした。女心とかワカラン・・・
あと俺は正常です。決してショタに目覚めたわけではありません。
ニト○プラスのハ○ーワールドで男萌えなんて口が裂けても語るに堕ちた。

今回は実験的に連載形式での投稿です。
読みにくかったら感想に「筋肉フェチ」「馬熊」などの書き込みを・・・

それでは　あなたの脳が新しい性癖に目覚めぬ事を祈りつつ・・・

私信　Ｋ・Ｋさん　感想ありがとうございます！
　　　遅くなりましたが返信させていただきました。

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