Fall after
同族でさえ解り合えない人類の事、そこに魔物が加わればなおの事。
魔物を受け入れ共存を唱える者と断固受け入れない者。
なまじ技術を持ち合わせた彼らがいとも簡単に滅亡のスイッチを押すことにそれほど時間はかからなかった。
都会に出てきた農家の娘♪
鉄砲で撃たれて死んじゃった♪
開戦直後、仕事を求め都会に出てきた一人の少女の人生は出来の悪いジョークのようにいとも簡単に幕を閉じる。
その亡骸は衛生面から回収され、予算面から隔離された。
鉄砲で撃たれた農家の娘♪
友達いっぱい寂しさいっぱい♪
夫を殺された魔物娘達が人類を許せるわけがなく、人類もまた戦争の原因たる魔物娘を許せるわけがなく。
とうとう核の焔が世界を焼き付くした。
魔物の中には放射能の影響を受けない者も居た。
しかし瓦礫と黒い雨に被われた世界に見切りをつけた魔物達は一人また一人と元の世界に帰っていった。
朽ちてボロボロ農家の娘♪
暗くてジメジメキノコも生えた♪
微生物さえ死に絶えた死の世界にあって、集められた死者の霊が魔力となったか。
魔力は少女を苗床として大きな大きなキノコになった。
生きとし生けるもの全てが居なくなった世界の中で大地は変わらず胎動を続け、十数年に一度の大地震は文明の残り香さえもただの瓦礫と変えていった。
それはキノコの生えた地下にもおよび、天井はひび割れ一つまた一つと崩れ始める。
屋根が崩れて光が見えた♪
光が見たのはキノコの娘♪
戦死者の無念からか少女の生への執着からか、死してゴーストになるのではなくマタンゴとして転生した彼女が見たのは肉であったであろう黒い土と骨であったであろう白い土。
寂しさ溢れたキノコの娘♪
根っこをちぎって這い出した♪
朦朧とぼやけた意識の中で少女がとった行動は異性との関わりを強く求める魔物娘としては至極当然の事だったのかもしれない。
ただし彼女が求めたのは異性ではなくとにかく自分以外の存在。
ひたすらに他者を求めて元の自分の体から石付を引き剥がし両腕を使って瓦礫の隙間から外界へと這い出していった。
お出かけ始めたキノコの娘♪
外もボロボロ灰だらけ♪
度重なる大地震で全ての文明が崩れはて、雨も降らずに風にさらされ続けた世界は人工の岩と焦げた大地以外に目に写るものはなかった。
誰かに会いたいキノコの娘♪
誰にも会えない壊れた世界♪
ニューロンが菌糸に置き換わった己の頭でさえ自分がこの世界に独りぼっちな事に気が付くのに時間はかからなかった。
干上がった海の水と未だただよい続ける無数の塵でどんよりと曇った空、風化した文明と焼き固められ固く冷たい大地。
生前土と触れ合うことを生業としていた少女にとって他者との関わりを亡くしたのと同じくらい大地との関わりを無くしたのは繊維質の塊に変わった胸を引き裂かんばかりに苦しめる。
頬を伝った雫だけでは決して大地は潤わない。
硬い地面が嫌いなキノコ♪
硬い地面をひっぺがす♪
怒りからか哀しみからか、一心不乱に地面を掘り返すマタンゴの少女。
魔物に変わったお陰で重機を使わずとも軽々と瓦礫を取り除き一ヶ所に積み上げていくことが出来る。
幸いなことに時間はたっぷりと有る。
辛いことに時間だけがたっぷりと有る。
お山を造ったキノコの娘♪
欲張り積み上げガラガラペッチャン♪
乾燥した世界に遮る物無い強い風。
考えもなしに積み上げた瓦礫が少女に会いに来るのは当然と言えば当然だったのかもしれない。
不運だったのは会いに来たのがとびきりの大物だった事。
幸運だったのは少女が大地の染みに変わるまでその事に気づかなかった事。
岩のお布団キノコの娘♪
目が覚め見たのは見知らぬ野原♪
少女が目覚めたのは柔らかな大地。
彼女の身体を栄養として広がった七色の黴。
しかし少女にはそれが何かは関係無かった。
ただ地面か柔らかい、それが何よりも幸せだった。
“もっと広げよう”
無心に大地を掘り返していただけの少女に初めて目的が出来た。
掘って積み上げ潰れて起きて♪
世界を旅するキノコの娘♪
他に競争相手の居ない黴達は少女が掘り返す地面や積み上げた瓦礫に瞬く間に広がっていき世界を七色に変えていった。
その黴の行進に遅れないようにいつの間にか少女の身体に白くしなやかな足がはえていた。
黴と共に国をぐるりと一周した少女が見たものは見慣れたカラフルなモヤモヤではなく細い茎に小さな葉っぱが連なるシダ植物。
世界が少女と共に歩き始めた。
原っぱ造りに出掛けたキノコ♪
帰ってきたらともだち増えた♪
新たな住人は少女に耕された大地と黴に分解された栄養を糧としその数を増やしていった。
僅かな水分をかき集め、光合成をして栄養を作る。
朽ちた体は黴によって分解され次の命の糧となる。
光合成が起きれば水蒸気が発生する。
水蒸気が立ち上れば気流ができる。
気流が出来れば雨が降る。
一滴の滴が大河を造るように一滴の雫がとうとう大地に恵みの雨をもたらした。
長く上空を漂っていた雲が待ち焦がれていたように大地に帰る。
数を増やしたともだち達と両手を広げて迎える少女。
その頬を伝う雫は雨だけではない。
一人で泣いてたキノコの娘♪
ともだち増えてもやっぱり泣いた♪
少女が目覚めたのはいつだっただろう。
少女が辛くて泣いたのはいつだっただろう。
少女が嬉しくて泣いたのはいつだっただろう。
少女のともだちがヒョロヒョロの蔓から逞しい木になったのはいつだっただろう。
少女が彼女と会ったのはいつだっただろう。
???「なかなか面白そうな所に出たじゃない、いいわ!此処を私の箱庭にしてあげる!」
光の中から突然現れた銀髪の女の子。
友達迎えたキノコの娘♪
先ずは何から話そうか♪
…………………………………………………………………………………………………………
腹が立つほど充実したのどかな午後のひと時。
気が狂うほど穏やかな暖かい日差しにふと昔の事を思い出してしまった。
かつて憎しみさえ持っていた静かな時間が今となっては掛け替えの無い大切な時間。
しかし大抵こんな日には彼女がやってくる。
待ち焦がれていた招かれざる客が・・・
???「お茶会にするわよ!お菓子を出しなさい!」
蹴破られたドアが壁にぶつかり砕け散る。
幸いあの猫は上手く逃げ延びたようだ。
???「全く・・・お茶をたかりに来たのかお菓子をせびりに来たのかどっちなんです?」
この愛らしくも傲慢な女の子が私の世界のお姫様。
桃色ウサギにお菓子の用意をするように伝えて(どうせ勘違いしてるだろうから後でお尻を蹴っ飛ばさないと…)私はお湯を沸かしに行く。
???「こんなところまでお供もつれずに来るなんて、今頃お城では・・・お楽しみなんでしょうねぇ・・・」
ポットに水を汲みコンロにかける。
お姫様とは言え古い付き合いだ、背中越しに会話するくらい失礼にはならない。
彼女も彼女で勝手知ったるなんとやら、こちらに目も向けず勢いをつけて椅子に飛び乗っている。
あの純粋で天の邪鬼なお姫様は何故か私の造った背凭れがハート型のチャイルドチェアがお気に召さなかった。
(やっぱり座った瞬間に手足を拘束して股の間が激しく振動するのがいけなかったのだろうか?)
大人用の椅子に無理して座り、足で眠りネズミを捏ね繰り回しながら(最近見ないと思ったらそんなところで寝ていたのか…)テーブルの上に仏頂面を覗かせている。
???「そういえばあの赤黒いトカゲもやっと相手を見つけたらしいぞ、お前も早く旦那を見つけたらどうなんだ?人一倍寂しがり屋の癖に…」
優しくも無礼なお姫様が店の隅に飾られた紅くてまあるい大きな帽子を眺めて問いかける。
店を持ってからハットしか被らなくなったが、今も大切に飾られた私の初めて造った帽子。
確かに私は寂しがり屋だ。
一人が嫌で世界一つ作り出すほど重度の寂しがり屋だ。
今でも私が初めて作った山の私が初めて作った草原に私が初めて出会ったともだちの側で小さな店を開いている。
色事に熱心なここの住人を避けてこんな辺鄙なところまでたどり着ける男など月の数さえ居ないだろうに。
だが今はそれなりに満たされている。
呆れるほど充実した贅沢な喧騒。
蹴り飛ばしたくなるほど抱き締めたい大切な隣人達。
疎ましいくらい愛しい私のお姫様。
今の私を振り向かせるなら並大抵の殿方では勤まらないだろう。
ポットがカタカタと音をたて始めた頃、窓の外から妖精達の歌声が聞こえる。
この世界で最初に出来た物語をこの世界で最初に聞いた女の子が付けたメロディーにのせて。
「「「都会に出てきた農家の娘♪」」」
魔物を受け入れ共存を唱える者と断固受け入れない者。
なまじ技術を持ち合わせた彼らがいとも簡単に滅亡のスイッチを押すことにそれほど時間はかからなかった。
都会に出てきた農家の娘♪
鉄砲で撃たれて死んじゃった♪
開戦直後、仕事を求め都会に出てきた一人の少女の人生は出来の悪いジョークのようにいとも簡単に幕を閉じる。
その亡骸は衛生面から回収され、予算面から隔離された。
鉄砲で撃たれた農家の娘♪
友達いっぱい寂しさいっぱい♪
夫を殺された魔物娘達が人類を許せるわけがなく、人類もまた戦争の原因たる魔物娘を許せるわけがなく。
とうとう核の焔が世界を焼き付くした。
魔物の中には放射能の影響を受けない者も居た。
しかし瓦礫と黒い雨に被われた世界に見切りをつけた魔物達は一人また一人と元の世界に帰っていった。
朽ちてボロボロ農家の娘♪
暗くてジメジメキノコも生えた♪
微生物さえ死に絶えた死の世界にあって、集められた死者の霊が魔力となったか。
魔力は少女を苗床として大きな大きなキノコになった。
生きとし生けるもの全てが居なくなった世界の中で大地は変わらず胎動を続け、十数年に一度の大地震は文明の残り香さえもただの瓦礫と変えていった。
それはキノコの生えた地下にもおよび、天井はひび割れ一つまた一つと崩れ始める。
屋根が崩れて光が見えた♪
光が見たのはキノコの娘♪
戦死者の無念からか少女の生への執着からか、死してゴーストになるのではなくマタンゴとして転生した彼女が見たのは肉であったであろう黒い土と骨であったであろう白い土。
寂しさ溢れたキノコの娘♪
根っこをちぎって這い出した♪
朦朧とぼやけた意識の中で少女がとった行動は異性との関わりを強く求める魔物娘としては至極当然の事だったのかもしれない。
ただし彼女が求めたのは異性ではなくとにかく自分以外の存在。
ひたすらに他者を求めて元の自分の体から石付を引き剥がし両腕を使って瓦礫の隙間から外界へと這い出していった。
お出かけ始めたキノコの娘♪
外もボロボロ灰だらけ♪
度重なる大地震で全ての文明が崩れはて、雨も降らずに風にさらされ続けた世界は人工の岩と焦げた大地以外に目に写るものはなかった。
誰かに会いたいキノコの娘♪
誰にも会えない壊れた世界♪
ニューロンが菌糸に置き換わった己の頭でさえ自分がこの世界に独りぼっちな事に気が付くのに時間はかからなかった。
干上がった海の水と未だただよい続ける無数の塵でどんよりと曇った空、風化した文明と焼き固められ固く冷たい大地。
生前土と触れ合うことを生業としていた少女にとって他者との関わりを亡くしたのと同じくらい大地との関わりを無くしたのは繊維質の塊に変わった胸を引き裂かんばかりに苦しめる。
頬を伝った雫だけでは決して大地は潤わない。
硬い地面が嫌いなキノコ♪
硬い地面をひっぺがす♪
怒りからか哀しみからか、一心不乱に地面を掘り返すマタンゴの少女。
魔物に変わったお陰で重機を使わずとも軽々と瓦礫を取り除き一ヶ所に積み上げていくことが出来る。
幸いなことに時間はたっぷりと有る。
辛いことに時間だけがたっぷりと有る。
お山を造ったキノコの娘♪
欲張り積み上げガラガラペッチャン♪
乾燥した世界に遮る物無い強い風。
考えもなしに積み上げた瓦礫が少女に会いに来るのは当然と言えば当然だったのかもしれない。
不運だったのは会いに来たのがとびきりの大物だった事。
幸運だったのは少女が大地の染みに変わるまでその事に気づかなかった事。
岩のお布団キノコの娘♪
目が覚め見たのは見知らぬ野原♪
少女が目覚めたのは柔らかな大地。
彼女の身体を栄養として広がった七色の黴。
しかし少女にはそれが何かは関係無かった。
ただ地面か柔らかい、それが何よりも幸せだった。
“もっと広げよう”
無心に大地を掘り返していただけの少女に初めて目的が出来た。
掘って積み上げ潰れて起きて♪
世界を旅するキノコの娘♪
他に競争相手の居ない黴達は少女が掘り返す地面や積み上げた瓦礫に瞬く間に広がっていき世界を七色に変えていった。
その黴の行進に遅れないようにいつの間にか少女の身体に白くしなやかな足がはえていた。
黴と共に国をぐるりと一周した少女が見たものは見慣れたカラフルなモヤモヤではなく細い茎に小さな葉っぱが連なるシダ植物。
世界が少女と共に歩き始めた。
原っぱ造りに出掛けたキノコ♪
帰ってきたらともだち増えた♪
新たな住人は少女に耕された大地と黴に分解された栄養を糧としその数を増やしていった。
僅かな水分をかき集め、光合成をして栄養を作る。
朽ちた体は黴によって分解され次の命の糧となる。
光合成が起きれば水蒸気が発生する。
水蒸気が立ち上れば気流ができる。
気流が出来れば雨が降る。
一滴の滴が大河を造るように一滴の雫がとうとう大地に恵みの雨をもたらした。
長く上空を漂っていた雲が待ち焦がれていたように大地に帰る。
数を増やしたともだち達と両手を広げて迎える少女。
その頬を伝う雫は雨だけではない。
一人で泣いてたキノコの娘♪
ともだち増えてもやっぱり泣いた♪
少女が目覚めたのはいつだっただろう。
少女が辛くて泣いたのはいつだっただろう。
少女が嬉しくて泣いたのはいつだっただろう。
少女のともだちがヒョロヒョロの蔓から逞しい木になったのはいつだっただろう。
少女が彼女と会ったのはいつだっただろう。
???「なかなか面白そうな所に出たじゃない、いいわ!此処を私の箱庭にしてあげる!」
光の中から突然現れた銀髪の女の子。
友達迎えたキノコの娘♪
先ずは何から話そうか♪
…………………………………………………………………………………………………………
腹が立つほど充実したのどかな午後のひと時。
気が狂うほど穏やかな暖かい日差しにふと昔の事を思い出してしまった。
かつて憎しみさえ持っていた静かな時間が今となっては掛け替えの無い大切な時間。
しかし大抵こんな日には彼女がやってくる。
待ち焦がれていた招かれざる客が・・・
???「お茶会にするわよ!お菓子を出しなさい!」
蹴破られたドアが壁にぶつかり砕け散る。
幸いあの猫は上手く逃げ延びたようだ。
???「全く・・・お茶をたかりに来たのかお菓子をせびりに来たのかどっちなんです?」
この愛らしくも傲慢な女の子が私の世界のお姫様。
桃色ウサギにお菓子の用意をするように伝えて(どうせ勘違いしてるだろうから後でお尻を蹴っ飛ばさないと…)私はお湯を沸かしに行く。
???「こんなところまでお供もつれずに来るなんて、今頃お城では・・・お楽しみなんでしょうねぇ・・・」
ポットに水を汲みコンロにかける。
お姫様とは言え古い付き合いだ、背中越しに会話するくらい失礼にはならない。
彼女も彼女で勝手知ったるなんとやら、こちらに目も向けず勢いをつけて椅子に飛び乗っている。
あの純粋で天の邪鬼なお姫様は何故か私の造った背凭れがハート型のチャイルドチェアがお気に召さなかった。
(やっぱり座った瞬間に手足を拘束して股の間が激しく振動するのがいけなかったのだろうか?)
大人用の椅子に無理して座り、足で眠りネズミを捏ね繰り回しながら(最近見ないと思ったらそんなところで寝ていたのか…)テーブルの上に仏頂面を覗かせている。
???「そういえばあの赤黒いトカゲもやっと相手を見つけたらしいぞ、お前も早く旦那を見つけたらどうなんだ?人一倍寂しがり屋の癖に…」
優しくも無礼なお姫様が店の隅に飾られた紅くてまあるい大きな帽子を眺めて問いかける。
店を持ってからハットしか被らなくなったが、今も大切に飾られた私の初めて造った帽子。
確かに私は寂しがり屋だ。
一人が嫌で世界一つ作り出すほど重度の寂しがり屋だ。
今でも私が初めて作った山の私が初めて作った草原に私が初めて出会ったともだちの側で小さな店を開いている。
色事に熱心なここの住人を避けてこんな辺鄙なところまでたどり着ける男など月の数さえ居ないだろうに。
だが今はそれなりに満たされている。
呆れるほど充実した贅沢な喧騒。
蹴り飛ばしたくなるほど抱き締めたい大切な隣人達。
疎ましいくらい愛しい私のお姫様。
今の私を振り向かせるなら並大抵の殿方では勤まらないだろう。
ポットがカタカタと音をたて始めた頃、窓の外から妖精達の歌声が聞こえる。
この世界で最初に出来た物語をこの世界で最初に聞いた女の子が付けたメロディーにのせて。
「「「都会に出てきた農家の娘♪」」」
14/01/17 20:19更新 / 慈恩堂