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第九話 町の救世主がこんなに残念なわけがない
『道を逸れた町 カンバス』昼過ぎ

???「遅い遅い遅〜い!あのムチプリマンドラゴラは何をしとるのじゃ〜!」
サバトの受付カウンターの上で地団駄を踏むちんまい魔物がいる。

受付魔女「書類が飛んでしまいます、埃がたちます、目障りです。」
右手で書類を押さえ、左手をパタパタさせてあからさまに嫌な顔をするジト目の魔女もいる。

ここはサバトの依頼受付カウンター。
亭拉を呼ぶために新入りの巨大マンドラゴラを遣いに出したが二時間以上経ってもまだ戻ってこないことに苛立ちを隠せない魔物。

???「折角朝食まで用意しておったと言うのにもう昼になってしまったではないか〜!」
受付魔女「暴れるなら奥の執務室にしてください、スッゴく仕事の邪魔です。」
表情の変わらないジト目の魔女だがこめかみに青筋が立っている。
右拳が震えているのでソロソロこっちの我慢の方が限界だろう。

不思議草「いやー、プリンなんて生まれて始めて食べましたぁ〜。」
テイラ「そりゃー30年間埋まったまんまだったからなぁ。」
シルク「私も少しずつ重いものが食べられるようになってきました。」
スエード「あの程度で何をいっているのだ、魔物娘な肉を食え肉を!」
三人「お前(あなた)(トカゲさん)は食べ過ぎだ(です)(ですよ)。」
ガヤガヤと亭拉達四人がサバトに入ってくる。

???「遅〜い!こっちは朝御飯も食べずに待っておったのに何をしとったんじゃ〜!」
受付台から飛び降り亭拉達の前でピョンピョン跳び跳ね怒りを露にする。

スエード「朝飯を食ってた、ガッツリな。」
シルク「食後のデザートも頂いていました、やっぱりアイスクリームは美味しいですね。」
不思議草「私もご馳走になりました〜、プリン最高でした〜。」
テイラ「ところでこのちっこいのは何だ?ひ○にゃん?」
全く悪びれる事無く答える四人を前に怒りで目眩がしたものの、

???「きききききき、貴様るぁあああああ!」
空中に魔方陣を描き身の丈ほどの大鎌を出し亭拉に斬りかかる。

テイラ「甘い!」
迫る大鎌の刃を左手で摘まみ右手で柄を握り締めふんだくる。

あっけにとられたちっこい魔物を放っといて鎌を近くの柱に突き刺しちんまい魔物の首根っこを掴んでカールした角を大鎌の柄に引っかける。

???「おーろーせー!おーろーすーのーじゃー!」
脚が地面につかないうえに手が角を引っかけた大鎌の柄に届かないので虚しく手足をじたばたする。

テイラ「確か『バフォメット』が呼んでると聞いたんだが?」
受付魔女「それが「バフォメット」様です。」
受付魔女の言葉にチラリと吊るされている魔物を見る。

テイラ「これが?」
受付魔女「ええ、それが。」


……
………

執務室

バフォ「まず自己紹介じゃな、ワシはこのサバトの主『コットン・オーガンジー』バフォメットじゃよ。」
身体に不釣り合いな応接椅子にふんぞり返っているが先ほどのやり取りのせいで欠片も威厳が感じられない。
因みに向かいのソファーにはスエードとマンドラゴラが、亭拉はシルクを巻き付けたままだと背もたれの有る椅子に座りにくいので横のサイドテーブルに座っている。

受付魔女「当サバトで事務仕事を一手に引き受けております『ポプリン』見ての通り魔女です。」
続いてバフォメットの隣に立っていた受付の魔女も自己紹介を始める。

テイラ「亭拉…いやここじゃ名前が先か、『アキラ・テイラ』旅人だ。」
シルク「『シルク』です、『ブラジア』からテイラ様の道案内をさせていただいています。」
スエード「『スエード』修行中のリザードマンだ。」
一人一人自己紹介を済ませていく亭拉達であったが、
不思議草「マンドラゴラの…えーっと、私名前がありません。」
何故か亭拉側に混じっていたマンドラゴラも一緒に自己紹介を始めた。

コットン「お主が掘り出したんじゃろ?名前くらい着けてやれ。」
亭拉に視線を向ける。

テイラ「この町でも『名前を付けた相手と結婚』なんて風習はないよな?」
まさかとは思ったが一応聞いてみる。

コットン「そんな風習ありゃーせんからさっさと付けい、こっちとしても呼びにくいんじゃ。」
手のひらをヒラヒラさせて急かすコットン。
シルクがいつもよりほんの少し巻き付く力を強くしたのを感じた亭拉は首に回された彼女の手にそっと自分のてを重ねてから、

テイラ「じゃあ『ホップ・サック(Hop・sack)』でいいや。」
かなり適当に決めたつもりだが本人は気に入ったらしく頭の花わゆらゆら揺らしている。

テイラ「で、こんな事のために呼び出した訳じゃないんだろう?」
テイラの言葉を聞いてコットンはニンマリと笑いながら答える。

コットン「お主の収穫したマンドラゴラがことのほか上質での、作れる薬の種類も効果も格段に良くなった。」
もって参れ、とポプリンに指示をだし話を続ける。

コットン「まず惚れ薬の効果が格段に上がった、精力剤や魔物の強化薬、傷薬と解毒薬の即効性も高まった、言う事無しじゃ。」
コットンの説明に合わせてポプリンが机に薬を並べていく。

コットン「そこでじゃ、お主をサバトに迎え、魔術薬開発に手を貸して貰おうと…」
テイラ「この魔物の強化薬、具体的にどんな効果なんだ?」
コットンの言葉を遮り亭拉が机の上の薬瓶に手を伸ばす。

コットン「ん?それは魔物の肉体を強化する薬、具体的には筋力や魔力を高め自然治癒力や使える魔法を強化したりもできる、所謂魔物の万能薬じゃな。」
テイラ「ならこれ、シルクにも使えるか?」
そう言って亭拉はシルクの体について説明を始める。

テイラ「…そんなわけで長い旅を続けるに当たって少しでも丈夫な身体にしてやりたい。」
亭拉が着いているとは言え過酷な旅になることには違いない。
巻き付いたままでは突発的な事故や奇襲に対応できない等デメリットは多い。

コットン「ふむ、ちょっと見せてみい。」
コットンが椅子から飛び降りテイラに近づくと、亭拉もシルクに診察を受けるよう促す。

しばらく身体のあちこちを触ったり目を覗き込んだりしていたコットンだが困ったような顔をして亭拉に答える。

コットン「残念じゃがこの娘の身体は薬ではどうにもならんのう、圧倒的に魔力が足らなさすぎる、少しずつ精を摂取して身体を慣らしていくしかないのう。」
やはり薬での治療には身体が耐えられないようだ。

コットン「交わりは無理でも唾液や男の体から漏れでる精を体内に取り込んでいけば少しずつ丈夫になっていくじゃろう。」
シルク「あ、今まで通りで良かったんですね♥」
今まで常に亭拉に巻き付いていた事や干し肉を口移しで食べさせて貰っていた事が、結果的にシルクの身体に良い影響を与えていたようだ。

シルク「最近『ブラジア』にいた頃より沢山ご飯が食べられるようになったり少しなら太陽の光に当たっても気分が悪くなったりしなかったのはテイラ様のお陰だったんですね♥」
妙に上機嫌になったシルクを見てホッとする亭拉。

スエード「良かったな、これならテイラと交われる日もそう遠くはないぞ。」
シルク「そ、そんな♥私はテイラ様の道案内としてお側にいるだけで ♥ そんな ♥ …テイラ様と///♥♥♥」
スエードの言葉に顔を真っ赤にして両手で頬を包みながらいやんいやんと身体をくねらせるシルク。

コットン「話が途中になったがどうじゃ?このサバトで働かんか?」
テイラ「それはできないな、こっちにも事情がある。」
そう言って腰のベルトに挟んであった『聖騎士の証』を机に置く。

スエード「おい、それは!」
いきなり正体をバラした亭拉に驚くスエードと、
コットン「なんじゃ、お主『教会堕ち』か?いや、この証は…」
亭拉がただの騎士では無いことに気付くコットン。

コットン「なるほど、お主『神託』を受けておるんじゃな…」
途端に表情を固くし、仄かに殺気を漂わせるバフォメット。

テイラ「『人に害なす魔物を殲滅し邪悪なる魔王を倒せ』それが俺の受けた『神託』だ。」
重くなった場の空気を気にせずに話を続ける亭拉。

テイラ「だから寂れた町を救った駄フォメットに喧嘩売ったりはしないよ。」
目をつむり手をヒラヒラさせて言い放つ。

コットン「しかし、魔王様に仇なす輩を野放しにはできぬ。」
そんな亭拉の態度を見ても気を緩めること無く魔力を高め始めるコットン。

テイラ「それなんだがな…」
一変して亭拉も真剣な表情になり、
テイラ「どうもこの世界はおかしい、実際の魔物と『教会』の言う魔物の違いもそうだが魔物の生態や教会の…いや主神の魔物への対応も、なんだか矛盾だらけだ。」
コットン「どういうことじゃ?」
テイラの言葉にコットンも殺気を収めるが未だ魔力は高めたままである。

テイラ「まだハッキリはしないが、今のまま魔王が世界を征服すれば新しい男が生まれずいずれ魔物が滅ぶ、主神も人間に影響力があるなら魔物をどうにかするより人間に魔物との子供ができないようにすれば良いのにそれをしない。」
ポプリン「迷っているのですか?」
重い空気に今まで黙っていたポプリンも口を挟む。

テイラ「正直言うとそうだ、だから暫くはこの世界を見て回ろうと思っている、最終的にどうするかはその後決めるよ。」
テイラの独白後、暫く沈黙が続く。

コットン「話はわかった、お主が今すぐワシらに危害を加える気はないとしてもじゃ、これ以上町に置いとくわけにはいかんのう。」
コットンの出した結論は町からの追放、敵では無いが決して味方にならない相手への対応としては妥当なところだろう。

テイラ「あぁ、今日中に町を発とう。」
サイドテーブルから腰をあげ、部屋を出ようとしたテイラとその後を追おうとするシルクとスエード。

コットン「待たんか!」
コットンの一言に三人が振り替えると、

コットン「ワシとの朝食をすっぽかしたんじゃ、昼食には付き合ってもらうぞ!」


……
………

テイラ「どうしてこうなった…」
サバトの台所でフリフリのエプロンを着て食材を前にする亭拉。

ポプリン「コットン様のお言葉では『ワシとの朝食をすっぽかした罰としてワシのために昼食を用意するのじゃ!』だそうです。」
同じくフリフリのエプロンを着て隣に立つポプリン。

テイラ「あの駄フォメットめ、毒でも持ってやろうか?」
ポプリン「あれでも一応この町の統治者ですので即効性の有る毒はお控えください。」
あくまで毒を盛ることは否定しないポプリンに疑問を持った亭拉が理由を訪ねると、
ポプリン「私はこのサバトが出来てすぐに事務員募集の求人を見て面接を受けたのですがいきなり押し倒され魔女にされました。」
目線を遠くに向け淡々と話始めるポプリンに目を向け黙って話を聞く亭拉。
ポプリン「以来32年間、事務仕事が全くできないコットン様のためにひたすら働き続けて参りました、恨み言の一つや二つありますよ。」
そう言いつつもクスリと笑う。

テイラ「なるほど、だったらあの駄フォメットの嫌いな食材をたっぷりと使ってやるとするか。」
ポプリン「はい、コットン様はピーマンと玉葱が苦手です。」
そして二人はてきぱきと調理を始める。

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まず一品目
挽き肉に塩コショウで味を付け微塵切りの玉葱と混ぜ絞り器に入れる

次に丸のままのピーマンのヘタを取り種を取り除く
そして内側に小麦粉をまぶす

ピーマンのヘタを取った穴から絞り器を突っ込み挽き肉を詰める

余熱していたオーブンに入れて焼き上がりを待つ

続いて二品目
馬鈴薯を皮を剥かずに茹でる
この時皮に一周切れ目を入れてから茹でると後から皮を剥きやすい

馬鈴薯を茹でている間に挽き肉とタップリの微塵切り玉葱を炒め塩コショウで少し濃い目に味を付ける

茹で上がった馬鈴薯の皮を剥いて炒めた挽き肉と玉葱と混ぜる
この時馬鈴薯を潰しすぎないようにする

小判型に形を整え小麦粉をまぶし、溶き卵を潜らせパン粉を付けて油で揚げる

コンガリ狐色になったら完成

――――――――――――――――――――――――――――――――

亭拉がピーマンの肉詰めとコロッケを作っている間にポプリンが付け合わせの温野菜とサラダを用意してくれた。

ポプリン「見たことのない料理ですね、見た目がピーマンその物の料理と一見ただの揚げ物と思わせておいて中にはタップリの玉葱ですか。」
テイラ「ああ、俺の居た世界の料理でな、ピーマンを避けたと思ったら大量の玉葱という二段構えの布陣だ。」
不思議そうに尋ねるポプリンに対して邪悪な笑顔で答える亭拉。
この後の昼食でコットンが大泣きしたのは言うまでもない。

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この後、カンバスでは紙に包んで歩きながらでも食べられるコロッケが訪れる商人や魔物に大人気の名物料理となる。
しかし、その味付けに
『ジパング産の醤油派』
『大陸産のソース派』
『なにも付けないプレーン派』
ができ、大論争が起こったのはまた別のお話。

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13/02/14 13:33更新 / 慈恩堂
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■作者メッセージ
どうも慈恩堂です。
相変わらす勇者っぽくない主人公ですね。

私の中では
バフォメット=駄フォメット
は、心理でございます。

登場人物
コットン・オーガンジー
駄フォメット
一応町の救世主
面接にきた女の子をいきなり魔女にしたり、酒場を間接的ながら強制的にカフェにしたり結構横暴
本当は亭拉にケツキックされたりグーで打たれたり角を引っこ抜かれそうになったりとする予定だったが、無駄に話が長くなりそうだったのでカットされた

ポプリン
サバトで一番の古株魔女
事務仕事の一切できない駄フォメットの代わりにサバト運営を一人でこなすできる女
コットンの扱いが非常に雑だがいつもの事なので双方とも全く気にしていない
常にジト目

ホップ・サック
過剰成長したマンドラゴラ
変態的性格(魔物としては普通?)で亭拉を手こずらせる影の実力者?
蓄えた魔力が多すぎるため薬の材料にされず遣いっパシりにされている
本人は自分の名前を『"ポップ"・サック』と聞き間違えているが実際は農作物収穫用の麻袋『ホップ・サック』(収穫時に入れられていた麻袋)の事である
ばい〜んキュッぼい〜ん

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