イキ残れ!炎の就活(?)サバイバル!
照りつける日差しが眩しくて、目が覚めた。
眼前に広がるのは青い空と白い雲。
そして聞こえてくるのは心地の良い波の音。
ここは・・・どこだ?
少なくとも自宅じゃない事は確かだ。
俺の家はこんな壁どころか柱1本すらない開放的な造りはしてないし、太陽ギラギラでじっとしていても汗ばむほど暑い南国チックなところになんて住んでいなかったはずだ。
あと、なんで俺はスーツを着てるんだ?
周りを見渡すと、俺のほかにもスーツにネクタイでビシっと決めた男数十人が横たわっている。
南国の浜辺に謎のスーツ男集団がお昼寝中・・・、なんだこの状況?
・・・ん?スーツ?
あー、だんだん思い出してきた。
大学を卒業した俺は就活氷河期の洗礼をモロに受けていた。
何十単位で面接を受けに行くもどこも不採用。
本格的に『自分の存在価値』を真面目に考え始めるぐらいに病み始めた頃、ある企業の求人広告が目に飛び込んできた。
『人材求む!誰でもできる!初心者でも安心!面倒な履歴書必要なし!アットホームな職場です!』
思いつく限りの胡散臭い言葉で埋め尽くされた広告を見て「うわぁ・・・」と思いつつも、俺は気付けばその企業に電話をかけていた。
正直、もう採用してくれるならどこでもいいと思っていたし、延々と続く就活地獄の影響で『求人を見たらすぐ行動!』と脳内に刷り込まれていたせいかもしれない。
面接当日、何度も着ずぎて愛着すら湧いてきた、お馴染みのリクルートスーツに身を包んだ俺は「今度こそは!」と気合を入れて指定されたビルに足を踏み込み・・・そこからの記憶がない。
そうだ、俺は就活で面接に来ていたんだ。
なのに今こうして南国の浜辺で爆睡・・・なして?
「はーい!みなさーん、おはよーございまーす!!」
突如、拡声器を持った女の声が波の音を消し去った。
この声に寝ていた奴らも目を覚まし始める。
「本日は我が社の面接にお越しいただきありがとーごさいまーす!!私はこの会社の社長のヒルダっていいまーす!よろしくねー!!」
キンキンと甲高い声が寝起きの頭に響く。
この一見馬鹿そうな女が社長?
マジで選ぶ会社間違えたかもしれん。
「突然こんな南の島に連れてきてごめんねー!?みなさんにはこれから入社試験をしてもらいまーす!ルールは超カンタン!うちの社員と『鬼ごっこ』をしてもらいまーす!捕まったら即☆入社決定―!制限時間まで逃げきれたら残念☆今後のご活躍を心よりお祈り申し上げまーす!」
なんだそのふざけた入社試験・・・。
ん?
捕まったら採用なの?
内容は置いといて、普通逆じゃね?
「あのー、捕まったら入社なんですか?」
俺のほかにも疑問に思った奴がいたのか、そんな質問が就活生の中から聞こえた。
「もっちろーん!捕まっちゃった人は皆まとめて採用だよー!定員なしの一斉採用だから頑張って逃げてねー!!」
どうやら聞き間違いではないらしい。
「え、それって本当に簡単じゃね?自分から捕まりにいけばいいってことだよな?」
「よっしゃー!ようやくこの就活地獄から抜け出せる!」
「田舎のお母ちゃん、お父ちゃん・・・俺、やっと仕事決まったよ・・・。」
「有名国立大学を卒業したこの僕に相応しい企業かは疑問ですが・・・まぁ、とりあえず採用されてあげましょうかね!」
「Zzzz・・・。」
各々すでに採用が決まったかのように喜んでいる。
確かにこの条件なら全員採用ってこともあり得るだろうな。
わざわざ面接を受けに来ているわけだし、間違ったって制限時間まで逃げ続けるヤツなんていないだろうし。
つーか、まだ寝てるヤツいたな!?
「うんうん☆みなさんのやる気が見て取れて私うれしいよー!じゃあ、鬼役を務めるうちの社員を紹介するよー!カモーン!!」
合図とともに浜辺に停泊していた船からビジネススーツの美女集団がぞろぞろと出てきた。
浜辺にスーツの集団が2組というこの状況も異様なのだが、鬼役の集団はさらに異様な雰囲気だった。
皆一様に頬を赤らめ、目を細めて恍惚の吐息を漏らしており、それでいて若干血走った双眸から発せられた視線は俺達を絡めとって離さない。
そして特に目を引いたのは彼女たちの容姿である。
肌の青い者、尻尾の生えた者、羽根の生えた者、下半身が蛇の者・・・。
そう、鬼役の社員は全員が魔物娘だったのである。
「彼女たちが私の可愛い部下ちゃんたちでーす!捕まえたあとは煮るなり焼くなり好きにしていいって言ってあるから、みなさん頑張ってねー!!」
「ちょっと待ったぁーーーー!!!」
思わず声を荒らげてしまった。
「魔物娘と鬼ごっことか嫌な予感しかしないんですけど!?捕まったら即採用なんじゃないんですか!?俺たちのこと騙したんですか!?」
「採用だよー?この娘たちの夫として『永久就職』ってことで、まとめて採用しちゃうよー?」
「「「「なにぃーーーーーーー!!!!」」」」
や、やられた・・・!
やっぱりそんな美味い話はなかったんだ!
就活生たちに衝撃走る。
「こ、広告は!?あの言葉は嘘だったんですか!?」
「そんな、信じてたのに・・・酷い!!」
「くっ!やはりこんな会社は高学歴の僕には相応しくなかったということか!」
「Zzzz・・・。」
いや、あの胡散臭い広告を真に受けるお前らもどうかと思うが・・・。
つーか、まだ寝てるヤツいるな!?
「えー?『誰でもできる=精子さえ出れば誰でも子作りできる』、『初心者でも安心=童貞くん?むしろ大歓迎!』、『履歴書必要なし=オチンチンがあなたの履歴書よ♡』、『アットホームな職場=幸せな家庭(ホーム)を作りましょう』ね?嘘なんてついてないでしょー?」
んなアホな!?
あとアットホームって絶対そんな意味じゃないから!
「つーかその理論なら365日年中無休で働き詰めって事じゃねぇか!くっそブラックじゃねぇか!!」
「ヒューヒュー♪(口笛の音)あれー?聞こえないなー?」
なんて都合のいい耳してやがる、このアマぁ・・・!
「制限時間は日没までー!この浜辺に戻ってきたら『不採用』ってことでー!・・・ま、そんな事にはならないと思うけど♡」
最後にそう呟くとヒルダは微かに妖艶な笑みを浮かべた。
「一通り説明も済んだ事だし、そろそろ始めるねー!下半身と心の準備はいいかなー!?ではでは!よーい・・・スタートーーー!!!」
地獄の鬼ごっこ開始の号砲が鳴らされる。
「「「「うおぉぉぉーーー逃げろぉぉぉーーーー!!!!」」」」
一斉に走り出す就活生。
就職はしたいけど魔物娘と強制結婚とか冗談じゃねえ!
毎日限界まで絞り尽されて干物になる未来が目に見えるわ!
そんなインキュバス化待ったなしのブラック企業なんかこっちから願い下げだわ!
「Zzzz・・・ん?もう朝か?つーかここはどこだ?」
あ、あいつまだ寝てたんだ。
「あら〜?きみ、随分とお寝坊さんなんだね〜?」
「え?わぁ!?なんでこんなところにワーシープが!?」
「そんなにお眠なら〜、私の毛皮に包まれて寝ちゃいなよ〜。ほら〜ふかふかでしょ〜?」
「うわぁ・・・なんだこれ、ふわふわで・・・それに変な気分に・・・///」
「ふふふ〜、もう硬くなっちゃってるね〜♡じゃあ、お姉さんと楽しい『入社試験』、始めちゃおっか〜♡」
さっそく1人目の犠牲者が!
とりあえずこの場から離れなければ!
こんな身を隠す物1つない浜辺にいたらすぐに捕まっちまう!
俺達、就活生一同は森に逃げ込んだ。
ここなら隠れるところは腐るほどある。
一先ずここでやり過ごそう・・・って、ん?
この森、やけにデカい花やキノコが多いな。
「うわぁ!なんだ!?勝手にツタが身体に・・・!?」
声のする方を見てみると数人の就活生が草のツタやキノコの菌糸に身動きを封じられていた。
「ふふふ、森に逃げ込むなんて・・・まるで私達に『捕まえてください』って言ってるようなものじゃない。」
「そうそう。美味しく食べてあげるから安心してね♡」
気付けばいたるところからアウラウネやマタンゴ、ドリアードなど植物系の魔物娘の笑い声が聞こえる。
ま、まさか・・・この花やキノコ全部、魔物娘!?
「おい!今すぐここから逃げるぞ!」
「ま、待ってくれ!俺を置いていかないでくれ!俺たち仲間じゃないか!?」
「知るか!今日初めて会った奴に構ってられるか!俺は生きて帰るんだ!」
「そうだ!そもそも同じ会社の採用試験受けに来たヤツなんてみんな敵みたいなもんだしな!」
酷い人間のエゴを垣間見た気がする。
「そんなに嫌な顔しないでー?私悲しいなぁ。」
「気持ちよくしてあげるから安心してね。じゃあ、これから『入社試験』を始めまーす♡」
くそっ!
もう半数以上が捕まっちまった!
隠れる物の多さが仇になった。
こんな視界の悪さじゃ奇襲をかけられてすぐに捕まる!
とにかく走らなければ!
「はぁ、はぁ・・・待ってくれ!僕は頭はいいんだが・・・走るのは苦手で・・・ぐぇっ!?」
「つっかまえたー!ヘルハウンドの俺と追いかけっこするなんてよぉ。お前、見かけによらず度胸あるじゃねぇか。」
ああ、また尊い犠牲(ただの無駄死に)が・・・!
「は、離せ!僕はお前みたいな乱暴な女は大嫌いなんだ!チェンジ!せめて白澤さんのような知性的な先生っぽい女性でお願いします!」
「へへっ、その反抗的な態度・・・ますます気に入ったぜ!腰が砕けるまで徹底的に犯し尽してやるからな!覚悟しろよぉ!」
「いやー!ママー!助けてー!!」
自称インテリ高学歴・・・お前のことは忘れない、安らかに逝け。
まぁ、相手が相手だから安らかにイカせてくれるわけないと思うが・・・。
獣人系魔物娘に追われること数時間。
魔物娘の無尽蔵に近い体力にただの人間が敵うはずもなく次々と採用者(脱落者)だけが増えていく。
ついに数十人までいた就活生は俺を含めてあと2人になっていた。
「まずいぞ、行き止まりだ!」
「くそっ!ここまで逃げてきたのに・・・!」
目前に広がる断崖絶壁。
飛び降りるのは無理そうだな・・・。
こうしている間にも魔物娘の集団が俺たちの後を追いかけてくる。
どうすれば、どうすればこの状況を切り抜けられる・・・!?
「・・・1つだけ、いい考えがある。」
「なに!?本当か!?」
やったぜ!これで助かる!やっぱり持つべきものはいい友人だな!
今日会ったばかりで名前も知らんが!
「いいか?逃げようとするから駄目なんだ。相手は魔物娘、身体能力に決定的な差がある以上、闇雲に逃げてもすぐに追いつかれちまう。」
うんうん、そうだな!
ならどこかに隠れてやり過ごすか?しかし森のときみたいに待ち伏せされるって可能性も・・・?
「逆に考えるんだ・・・捕まっちゃってもいいさ、と。」
・・・・・・・・・は?
そういうと奴は清々しいほどの笑顔で断崖絶壁の崖から飛び降りた。
宙を舞う奴の身体は地面に激突する前に、空を飛んでいたハーピーにキャッチされた。
「いきなり飛び降りるからびっくりしたよー?」
「もう、疲れたよ・・・。別にいいじゃないか、気持ちよくしてもらえるんだから・・・。きっと辛さを感じる間もなく絞り尽されるんだから・・・。」
「きゃはは、もう諦めちゃったの?よしよーし、よく頑張ったね。私自慢の羽毛でじっくりしっぽり癒してあげるから、安心して身をゆだねてねー?」
「うへへへ・・・羽毛ふかふかぁ・・・あったかぁい・・・。」
な、なんてことだ!
あの野郎、いくらなんでも自分から死ぬことなんてなかったのに・・・!
そうか、それがお前の選んだ選択なんだな・・・お前のその覚悟、確かに受け取ったぜ。
お前はよく戦ったよ、もうお休み・・・。
でもな、俺はまだ死にたくない!
しかし状況は厳しいことに変わりはない。鳥系の魔物娘のいるとなると隠れようとも空から見つかる可能性が高い。
なら・・・とるべき行動は1つだ!
どんなに汚い手を使っても生き延びてやらぁ!!
波打ち際に佇む美女が1人。
照りつける日差しと常夏の気温で、汗ばんだ頬には銀色に輝く髪が張り付き、なんとも艶めかしい色気を振りまく。
細い手首にはめた、見るからに高価そうな腕時計に視線をやり、ヒルダは時間を確認した。
「4時間経過かー。そろそろみんな捕まったかなー?うーんっ!それにしても暇だなー!」
豊満に実った肉体を強調するかのように、頭の上で手を組み大きく背伸びをした彼女を尋ねる声が1つ。
「はぁ、はぁ・・・ひ、ヒルダさん!ちょっと話を聞いてくれませんか!?」
そう、俺だ。
命からがらあの場を逃げ切った俺は訳あって、最初に目を覚ました浜辺に再び足を踏み入れた。
「あれー!?戻って来ちゃったのー!?どうしたのかなー!?何か分からない事でもあったかなー!?」
「い、いや、そういうことではないんですが・・・。お願いがあります!俺を見逃がしてくれませんでしょうか!?」
そう命乞いである。
「就活生側は俺しか生き残りがいません!もうゲームとして成立してないでしょう!?この通りです!お願いします!」
こんなふざけたゲームに馬鹿正直に参加してやる義理はない。
俺は靴を舐めてでも生きて帰ってやる!!
「うーん、それは無理かなー!?だってみんな『ここで素敵な結婚相手を見つけてやるんだ』って意気込んでたしー!?今さら中止なんて心が痛いよー!」
くっ!やはり一筋縄ではいかないか!
「じゃ、じゃあせめて普通に入社試験を受けさせてくれないでしょうか!?ほら!ここまで生き残ったんですから、きっと御社の即戦力になりますよ!?どうでしょうか!?」
「うーん・・・どうしよっかなー?」
・・・だ、駄目か?
「うーん・・・よし!分かったよ!特別に試験内容を変えてあげちゃおー!みんなには内緒だよー!?」
や、やった!
これで助かる!!
散っていった仲間たち、お前たちの死を・・・俺は無駄にしない!
俺は生きて帰るんだ!
そして、あわよくばこのまま普通に内定もらって就職するんだ!
ははは!笑いが止まらまねぇな!!
「そうだなー?試験内容はー・・・えいっ!」
ヒルダは唇に指をあて、悩んだ素振りを見せたかと思うと、急に俺に抱き付き、そのまま柔らかい砂の上に押し倒した。
「ひ、ヒルダ・・・さん!?」
「試験内容は・・・『私の膣内に最低10回中出しする』こと♡もちろん10回以上イっても大丈夫だから、じゃんじゃん気持ちよくなっちゃおーね!」
ヒルダは怪しい笑みを浮かべると、俺のパンツの中に手を伸ばしてきた。
「ちょ!?俺の言いたいのはそういうことじゃなくて!これじゃさっきとあんまり変わらな・・・!」
「ち・な・み・にー!」
?
「『私』が鬼役じゃないなんて一言も言ってないよー?もちろん、人間でもないんだけどね♡」
ヒルダの背中から、彼女の髪と同じ色をした、禍々しくもとこか神々しい翼が。
頭からは漆黒よりもさらに暗い色の角が。
臀部からは男を誘惑するかのようにユラユラと動く艶めかしい尻尾が生えてきた。
「じゃあ、これから『特別入社試験』をはじめまーす!頑張っていっぱいピュッピュしようねー!でもでもー、安心してね!出なくなっちゃっても、無理やり出させるから♡」
俺は悟った。
もう逃げ場などないのだと。
「うふふっ、リリムの身体を堪能してね♡極上の天国へ連れて行ってあげる♡」
数秒後、島に響き渡る嬌声が1つ増えた。
それは日が落ちても鳴り続いたという・・・。
就活って・・・大変だなー。
眼前に広がるのは青い空と白い雲。
そして聞こえてくるのは心地の良い波の音。
ここは・・・どこだ?
少なくとも自宅じゃない事は確かだ。
俺の家はこんな壁どころか柱1本すらない開放的な造りはしてないし、太陽ギラギラでじっとしていても汗ばむほど暑い南国チックなところになんて住んでいなかったはずだ。
あと、なんで俺はスーツを着てるんだ?
周りを見渡すと、俺のほかにもスーツにネクタイでビシっと決めた男数十人が横たわっている。
南国の浜辺に謎のスーツ男集団がお昼寝中・・・、なんだこの状況?
・・・ん?スーツ?
あー、だんだん思い出してきた。
大学を卒業した俺は就活氷河期の洗礼をモロに受けていた。
何十単位で面接を受けに行くもどこも不採用。
本格的に『自分の存在価値』を真面目に考え始めるぐらいに病み始めた頃、ある企業の求人広告が目に飛び込んできた。
『人材求む!誰でもできる!初心者でも安心!面倒な履歴書必要なし!アットホームな職場です!』
思いつく限りの胡散臭い言葉で埋め尽くされた広告を見て「うわぁ・・・」と思いつつも、俺は気付けばその企業に電話をかけていた。
正直、もう採用してくれるならどこでもいいと思っていたし、延々と続く就活地獄の影響で『求人を見たらすぐ行動!』と脳内に刷り込まれていたせいかもしれない。
面接当日、何度も着ずぎて愛着すら湧いてきた、お馴染みのリクルートスーツに身を包んだ俺は「今度こそは!」と気合を入れて指定されたビルに足を踏み込み・・・そこからの記憶がない。
そうだ、俺は就活で面接に来ていたんだ。
なのに今こうして南国の浜辺で爆睡・・・なして?
「はーい!みなさーん、おはよーございまーす!!」
突如、拡声器を持った女の声が波の音を消し去った。
この声に寝ていた奴らも目を覚まし始める。
「本日は我が社の面接にお越しいただきありがとーごさいまーす!!私はこの会社の社長のヒルダっていいまーす!よろしくねー!!」
キンキンと甲高い声が寝起きの頭に響く。
この一見馬鹿そうな女が社長?
マジで選ぶ会社間違えたかもしれん。
「突然こんな南の島に連れてきてごめんねー!?みなさんにはこれから入社試験をしてもらいまーす!ルールは超カンタン!うちの社員と『鬼ごっこ』をしてもらいまーす!捕まったら即☆入社決定―!制限時間まで逃げきれたら残念☆今後のご活躍を心よりお祈り申し上げまーす!」
なんだそのふざけた入社試験・・・。
ん?
捕まったら採用なの?
内容は置いといて、普通逆じゃね?
「あのー、捕まったら入社なんですか?」
俺のほかにも疑問に思った奴がいたのか、そんな質問が就活生の中から聞こえた。
「もっちろーん!捕まっちゃった人は皆まとめて採用だよー!定員なしの一斉採用だから頑張って逃げてねー!!」
どうやら聞き間違いではないらしい。
「え、それって本当に簡単じゃね?自分から捕まりにいけばいいってことだよな?」
「よっしゃー!ようやくこの就活地獄から抜け出せる!」
「田舎のお母ちゃん、お父ちゃん・・・俺、やっと仕事決まったよ・・・。」
「有名国立大学を卒業したこの僕に相応しい企業かは疑問ですが・・・まぁ、とりあえず採用されてあげましょうかね!」
「Zzzz・・・。」
各々すでに採用が決まったかのように喜んでいる。
確かにこの条件なら全員採用ってこともあり得るだろうな。
わざわざ面接を受けに来ているわけだし、間違ったって制限時間まで逃げ続けるヤツなんていないだろうし。
つーか、まだ寝てるヤツいたな!?
「うんうん☆みなさんのやる気が見て取れて私うれしいよー!じゃあ、鬼役を務めるうちの社員を紹介するよー!カモーン!!」
合図とともに浜辺に停泊していた船からビジネススーツの美女集団がぞろぞろと出てきた。
浜辺にスーツの集団が2組というこの状況も異様なのだが、鬼役の集団はさらに異様な雰囲気だった。
皆一様に頬を赤らめ、目を細めて恍惚の吐息を漏らしており、それでいて若干血走った双眸から発せられた視線は俺達を絡めとって離さない。
そして特に目を引いたのは彼女たちの容姿である。
肌の青い者、尻尾の生えた者、羽根の生えた者、下半身が蛇の者・・・。
そう、鬼役の社員は全員が魔物娘だったのである。
「彼女たちが私の可愛い部下ちゃんたちでーす!捕まえたあとは煮るなり焼くなり好きにしていいって言ってあるから、みなさん頑張ってねー!!」
「ちょっと待ったぁーーーー!!!」
思わず声を荒らげてしまった。
「魔物娘と鬼ごっことか嫌な予感しかしないんですけど!?捕まったら即採用なんじゃないんですか!?俺たちのこと騙したんですか!?」
「採用だよー?この娘たちの夫として『永久就職』ってことで、まとめて採用しちゃうよー?」
「「「「なにぃーーーーーーー!!!!」」」」
や、やられた・・・!
やっぱりそんな美味い話はなかったんだ!
就活生たちに衝撃走る。
「こ、広告は!?あの言葉は嘘だったんですか!?」
「そんな、信じてたのに・・・酷い!!」
「くっ!やはりこんな会社は高学歴の僕には相応しくなかったということか!」
「Zzzz・・・。」
いや、あの胡散臭い広告を真に受けるお前らもどうかと思うが・・・。
つーか、まだ寝てるヤツいるな!?
「えー?『誰でもできる=精子さえ出れば誰でも子作りできる』、『初心者でも安心=童貞くん?むしろ大歓迎!』、『履歴書必要なし=オチンチンがあなたの履歴書よ♡』、『アットホームな職場=幸せな家庭(ホーム)を作りましょう』ね?嘘なんてついてないでしょー?」
んなアホな!?
あとアットホームって絶対そんな意味じゃないから!
「つーかその理論なら365日年中無休で働き詰めって事じゃねぇか!くっそブラックじゃねぇか!!」
「ヒューヒュー♪(口笛の音)あれー?聞こえないなー?」
なんて都合のいい耳してやがる、このアマぁ・・・!
「制限時間は日没までー!この浜辺に戻ってきたら『不採用』ってことでー!・・・ま、そんな事にはならないと思うけど♡」
最後にそう呟くとヒルダは微かに妖艶な笑みを浮かべた。
「一通り説明も済んだ事だし、そろそろ始めるねー!下半身と心の準備はいいかなー!?ではでは!よーい・・・スタートーーー!!!」
地獄の鬼ごっこ開始の号砲が鳴らされる。
「「「「うおぉぉぉーーー逃げろぉぉぉーーーー!!!!」」」」
一斉に走り出す就活生。
就職はしたいけど魔物娘と強制結婚とか冗談じゃねえ!
毎日限界まで絞り尽されて干物になる未来が目に見えるわ!
そんなインキュバス化待ったなしのブラック企業なんかこっちから願い下げだわ!
「Zzzz・・・ん?もう朝か?つーかここはどこだ?」
あ、あいつまだ寝てたんだ。
「あら〜?きみ、随分とお寝坊さんなんだね〜?」
「え?わぁ!?なんでこんなところにワーシープが!?」
「そんなにお眠なら〜、私の毛皮に包まれて寝ちゃいなよ〜。ほら〜ふかふかでしょ〜?」
「うわぁ・・・なんだこれ、ふわふわで・・・それに変な気分に・・・///」
「ふふふ〜、もう硬くなっちゃってるね〜♡じゃあ、お姉さんと楽しい『入社試験』、始めちゃおっか〜♡」
さっそく1人目の犠牲者が!
とりあえずこの場から離れなければ!
こんな身を隠す物1つない浜辺にいたらすぐに捕まっちまう!
俺達、就活生一同は森に逃げ込んだ。
ここなら隠れるところは腐るほどある。
一先ずここでやり過ごそう・・・って、ん?
この森、やけにデカい花やキノコが多いな。
「うわぁ!なんだ!?勝手にツタが身体に・・・!?」
声のする方を見てみると数人の就活生が草のツタやキノコの菌糸に身動きを封じられていた。
「ふふふ、森に逃げ込むなんて・・・まるで私達に『捕まえてください』って言ってるようなものじゃない。」
「そうそう。美味しく食べてあげるから安心してね♡」
気付けばいたるところからアウラウネやマタンゴ、ドリアードなど植物系の魔物娘の笑い声が聞こえる。
ま、まさか・・・この花やキノコ全部、魔物娘!?
「おい!今すぐここから逃げるぞ!」
「ま、待ってくれ!俺を置いていかないでくれ!俺たち仲間じゃないか!?」
「知るか!今日初めて会った奴に構ってられるか!俺は生きて帰るんだ!」
「そうだ!そもそも同じ会社の採用試験受けに来たヤツなんてみんな敵みたいなもんだしな!」
酷い人間のエゴを垣間見た気がする。
「そんなに嫌な顔しないでー?私悲しいなぁ。」
「気持ちよくしてあげるから安心してね。じゃあ、これから『入社試験』を始めまーす♡」
くそっ!
もう半数以上が捕まっちまった!
隠れる物の多さが仇になった。
こんな視界の悪さじゃ奇襲をかけられてすぐに捕まる!
とにかく走らなければ!
「はぁ、はぁ・・・待ってくれ!僕は頭はいいんだが・・・走るのは苦手で・・・ぐぇっ!?」
「つっかまえたー!ヘルハウンドの俺と追いかけっこするなんてよぉ。お前、見かけによらず度胸あるじゃねぇか。」
ああ、また尊い犠牲(ただの無駄死に)が・・・!
「は、離せ!僕はお前みたいな乱暴な女は大嫌いなんだ!チェンジ!せめて白澤さんのような知性的な先生っぽい女性でお願いします!」
「へへっ、その反抗的な態度・・・ますます気に入ったぜ!腰が砕けるまで徹底的に犯し尽してやるからな!覚悟しろよぉ!」
「いやー!ママー!助けてー!!」
自称インテリ高学歴・・・お前のことは忘れない、安らかに逝け。
まぁ、相手が相手だから安らかにイカせてくれるわけないと思うが・・・。
獣人系魔物娘に追われること数時間。
魔物娘の無尽蔵に近い体力にただの人間が敵うはずもなく次々と採用者(脱落者)だけが増えていく。
ついに数十人までいた就活生は俺を含めてあと2人になっていた。
「まずいぞ、行き止まりだ!」
「くそっ!ここまで逃げてきたのに・・・!」
目前に広がる断崖絶壁。
飛び降りるのは無理そうだな・・・。
こうしている間にも魔物娘の集団が俺たちの後を追いかけてくる。
どうすれば、どうすればこの状況を切り抜けられる・・・!?
「・・・1つだけ、いい考えがある。」
「なに!?本当か!?」
やったぜ!これで助かる!やっぱり持つべきものはいい友人だな!
今日会ったばかりで名前も知らんが!
「いいか?逃げようとするから駄目なんだ。相手は魔物娘、身体能力に決定的な差がある以上、闇雲に逃げてもすぐに追いつかれちまう。」
うんうん、そうだな!
ならどこかに隠れてやり過ごすか?しかし森のときみたいに待ち伏せされるって可能性も・・・?
「逆に考えるんだ・・・捕まっちゃってもいいさ、と。」
・・・・・・・・・は?
そういうと奴は清々しいほどの笑顔で断崖絶壁の崖から飛び降りた。
宙を舞う奴の身体は地面に激突する前に、空を飛んでいたハーピーにキャッチされた。
「いきなり飛び降りるからびっくりしたよー?」
「もう、疲れたよ・・・。別にいいじゃないか、気持ちよくしてもらえるんだから・・・。きっと辛さを感じる間もなく絞り尽されるんだから・・・。」
「きゃはは、もう諦めちゃったの?よしよーし、よく頑張ったね。私自慢の羽毛でじっくりしっぽり癒してあげるから、安心して身をゆだねてねー?」
「うへへへ・・・羽毛ふかふかぁ・・・あったかぁい・・・。」
な、なんてことだ!
あの野郎、いくらなんでも自分から死ぬことなんてなかったのに・・・!
そうか、それがお前の選んだ選択なんだな・・・お前のその覚悟、確かに受け取ったぜ。
お前はよく戦ったよ、もうお休み・・・。
でもな、俺はまだ死にたくない!
しかし状況は厳しいことに変わりはない。鳥系の魔物娘のいるとなると隠れようとも空から見つかる可能性が高い。
なら・・・とるべき行動は1つだ!
どんなに汚い手を使っても生き延びてやらぁ!!
波打ち際に佇む美女が1人。
照りつける日差しと常夏の気温で、汗ばんだ頬には銀色に輝く髪が張り付き、なんとも艶めかしい色気を振りまく。
細い手首にはめた、見るからに高価そうな腕時計に視線をやり、ヒルダは時間を確認した。
「4時間経過かー。そろそろみんな捕まったかなー?うーんっ!それにしても暇だなー!」
豊満に実った肉体を強調するかのように、頭の上で手を組み大きく背伸びをした彼女を尋ねる声が1つ。
「はぁ、はぁ・・・ひ、ヒルダさん!ちょっと話を聞いてくれませんか!?」
そう、俺だ。
命からがらあの場を逃げ切った俺は訳あって、最初に目を覚ました浜辺に再び足を踏み入れた。
「あれー!?戻って来ちゃったのー!?どうしたのかなー!?何か分からない事でもあったかなー!?」
「い、いや、そういうことではないんですが・・・。お願いがあります!俺を見逃がしてくれませんでしょうか!?」
そう命乞いである。
「就活生側は俺しか生き残りがいません!もうゲームとして成立してないでしょう!?この通りです!お願いします!」
こんなふざけたゲームに馬鹿正直に参加してやる義理はない。
俺は靴を舐めてでも生きて帰ってやる!!
「うーん、それは無理かなー!?だってみんな『ここで素敵な結婚相手を見つけてやるんだ』って意気込んでたしー!?今さら中止なんて心が痛いよー!」
くっ!やはり一筋縄ではいかないか!
「じゃ、じゃあせめて普通に入社試験を受けさせてくれないでしょうか!?ほら!ここまで生き残ったんですから、きっと御社の即戦力になりますよ!?どうでしょうか!?」
「うーん・・・どうしよっかなー?」
・・・だ、駄目か?
「うーん・・・よし!分かったよ!特別に試験内容を変えてあげちゃおー!みんなには内緒だよー!?」
や、やった!
これで助かる!!
散っていった仲間たち、お前たちの死を・・・俺は無駄にしない!
俺は生きて帰るんだ!
そして、あわよくばこのまま普通に内定もらって就職するんだ!
ははは!笑いが止まらまねぇな!!
「そうだなー?試験内容はー・・・えいっ!」
ヒルダは唇に指をあて、悩んだ素振りを見せたかと思うと、急に俺に抱き付き、そのまま柔らかい砂の上に押し倒した。
「ひ、ヒルダ・・・さん!?」
「試験内容は・・・『私の膣内に最低10回中出しする』こと♡もちろん10回以上イっても大丈夫だから、じゃんじゃん気持ちよくなっちゃおーね!」
ヒルダは怪しい笑みを浮かべると、俺のパンツの中に手を伸ばしてきた。
「ちょ!?俺の言いたいのはそういうことじゃなくて!これじゃさっきとあんまり変わらな・・・!」
「ち・な・み・にー!」
?
「『私』が鬼役じゃないなんて一言も言ってないよー?もちろん、人間でもないんだけどね♡」
ヒルダの背中から、彼女の髪と同じ色をした、禍々しくもとこか神々しい翼が。
頭からは漆黒よりもさらに暗い色の角が。
臀部からは男を誘惑するかのようにユラユラと動く艶めかしい尻尾が生えてきた。
「じゃあ、これから『特別入社試験』をはじめまーす!頑張っていっぱいピュッピュしようねー!でもでもー、安心してね!出なくなっちゃっても、無理やり出させるから♡」
俺は悟った。
もう逃げ場などないのだと。
「うふふっ、リリムの身体を堪能してね♡極上の天国へ連れて行ってあげる♡」
数秒後、島に響き渡る嬌声が1つ増えた。
それは日が落ちても鳴り続いたという・・・。
就活って・・・大変だなー。
19/04/20 02:09更新 / 九