薄い男と海藻女
「お願いします!!」
「え、えー・・・。」
青い海と白い砂浜。
空には海鳥が飛び、穏やかな潮風が頬を撫でる。
そんな心も安らぐ風景の中で、私の目の前にいる男は砂浜に顔が埋まってしまうぐらい綺麗な土下座をしながら懇願していた。
どうしてこうなった・・・?
私はフロウケルプという魔物だ。
普段は沖の海底でユラユラと波に揺られながら過ごしているのだが、先日の嵐で流されてしまったらしく、気付けばこの砂浜に漂流してしまっていた。
『さて、これからどうするか?』と1人物思いに耽っていた時、この男が現れたのだ。
男は私を見つけるなり駆け寄り見事なスライディング土下座を披露し今に至る。
その土下座の理由というのが・・・。
「お願いします!あなたの海藻を俺にわけてください!!」
・・・だ、そうだ。
正直訳が分からない。
「え、えーと・・・なんで?」
「はっ!すいません!ちょっと興奮してしまって・・・!」
男は我に返ったのか、砂の中から頭を引っ張り出し、今度は謝罪を繰り返す。
何はともあれ、これでやっと落ち着いて話ができそうだ。
「私としても海藻をわけてあげることは構わないけど、まずは理由が聞きたいわ。」
そう言えば私たちフロウケルプの海藻からは上質な出汁がとれるらしい。
この男もそういう目的だろうか?
実は老舗の料亭の板前さんで、究極の出汁を完成させるために私の海藻を〜とか、そういう感じ?
もしくは家族が病気で、その薬の材料として海藻が必要とか?
「そうですね、先ずはこれを見てください!」
男は被っていた帽子を天高く放り投げ、頭を露出させた。
現れたのは・・・。
「見事なまでのハゲね。」
おでこから頭のてっぺんにかけて頭皮がむき出しになった頭がそこにあった。
なんていうか・・・『中年のサラリーマンとかこういう髪形してるよね☆』って感じのハゲ頭みたいな?
「えーと。このハg・・・薄毛と私の海藻とに何の関係が?」
「海藻食べて発毛促進でウハウハ!!」
あー、そう来たかー。
思っていたよりも凄い低俗な理由だった。
「ほら、俺って顔はいい方じゃないですか。」
いや、知らんけど・・・。
「性格もいいし、仕事もできるし、運動神経バツグンだし。」
だから知らんて・・・。
「他は完璧なのに、このハゲ頭だけがコンプレックスなんですよ!だから海藻食べて髪の毛が生えれば絶対に女子にもモッテモテになるはず!!」
色々と残念な思考の持ち主だった。
「この頭のせいで彼女もできず、同僚からは笑われ、近所の小学生からは毎日のように『ハーゲ!ハーゲ!』と後ろ指をさされる始末・・・!もうこんな人生嫌なんですよぉ!!」
悲惨だ。
「い、いや、でも髪の毛なんて年齢とともに抜けてくるもんだし・・・ね?」
「俺はまだ25歳です!」
Oh・・・マジか。
酷いものだ。
神も仏もあったもんじゃないとはまさにこの事・・・別に『神』と『髪』をかけてる訳じゃないからね?本当よ?
「だからお願いします!海藻ください!!」
再び土下座を決めこむ男。
うーん、どうしようかな・・・?
いやね、別に海藻をわけてあげることは構わないのだ。
いいのだけれど・・・。
「あのね?言いにくいんだけど・・・海藻って食べても発毛が促進されるとは限らないわよ?」
「・・・・・・え?」
「いや、だから効果ないってことよ。」
「え・・・えぇー!!!」
よく海藻を食べれば髪が生えるとかって言うけど、あれって科学的な根拠があるわけじゃなくて、ただ単純にワカメとかヒジキの見た目が似てるってだけで効果はないらしい。
海藻の私が言うんだから間違いないわ。
こういう風に勘違いしてる人って意外といるのよね・・・。
「そんな!じゃあ俺はどうすればいいんですか!?」
「さあ?育毛剤でもぶっかければいいんじゃない?」
「もうやってます!一回に5種類くらい!」
まぁそうでしょうね。
でも5種類はかけ過ぎだと思うわ。
「そんな・・・!今まで1日3食ワカメとかヒジキとか食べてたのに・・・それが全部無駄だったなんて・・・!」
流石に可哀想になってきたわね・・・。
なんか私が悪いことしたみたいな構図になってるし。
「で、でも栄養価は高いんだし!食べてて損は無いと思うわよ!」
「マジですか!?」
「え、ええ・・・。」
ただ発毛に直結しないってだけで。
「では海藻わけてくれんですね!?」
「ええ、いいわよ。ここまで話しといて今さら断るもの気が引けるしね。で、どれくらい欲しいのかしら?」
「じゃあ200枚ほど!」
「多いわ!!」
200枚もあげたら私がハゲになっちゃうわよ!
何考えてんのかしらこの毛根死滅男は!
「えー、だっていちいち海藻わけてもらいに海まで来るの面倒くさいですし・・・あ、そうだ!」
「はいはい、今度はどんな馬鹿なことを考え付いたのかしら?」
「俺の家に来ませんか?」
「・・・・・・え?」
「そうすれば海藻だって必要な時に必要な分だけ手に入るし、わざわざ海まで来なくてすみますし・・・うん、これは妙案です!」
「え、ちょ・・・ま、待ちなさいよ!」
それって、俗に言うプロポーズなんじゃ・・・!
「お願いします。俺に毎日味噌汁を作ってくれませんか?」
「−−−−−ッ///」
ああ、もうっ。
そんな臭い台詞、まっすぐな目で言われたら・・・断れないじゃない。
「・・・しょうがないわね。いいわよ。味噌汁だけとは言わず、毎日ご飯を作ってあげようじゃない。もちろん、海藻入りのね。」
「マジで!?やったー!これで髪の毛もフッサフサだー!!」
まったく、直接効果は無いって言ってるのに・・・。
まぁ、これからどうやって海底に戻ろうかって考えていたことだし・・・付き合ってあげるのも悪くないかしらね。
私は彼の腕に抱き付き、今晩の献立は何にしようかと頭を悩ませた。
でも、それがたまらなく幸せに感じたのは言うまでもない。
「え、えー・・・。」
青い海と白い砂浜。
空には海鳥が飛び、穏やかな潮風が頬を撫でる。
そんな心も安らぐ風景の中で、私の目の前にいる男は砂浜に顔が埋まってしまうぐらい綺麗な土下座をしながら懇願していた。
どうしてこうなった・・・?
私はフロウケルプという魔物だ。
普段は沖の海底でユラユラと波に揺られながら過ごしているのだが、先日の嵐で流されてしまったらしく、気付けばこの砂浜に漂流してしまっていた。
『さて、これからどうするか?』と1人物思いに耽っていた時、この男が現れたのだ。
男は私を見つけるなり駆け寄り見事なスライディング土下座を披露し今に至る。
その土下座の理由というのが・・・。
「お願いします!あなたの海藻を俺にわけてください!!」
・・・だ、そうだ。
正直訳が分からない。
「え、えーと・・・なんで?」
「はっ!すいません!ちょっと興奮してしまって・・・!」
男は我に返ったのか、砂の中から頭を引っ張り出し、今度は謝罪を繰り返す。
何はともあれ、これでやっと落ち着いて話ができそうだ。
「私としても海藻をわけてあげることは構わないけど、まずは理由が聞きたいわ。」
そう言えば私たちフロウケルプの海藻からは上質な出汁がとれるらしい。
この男もそういう目的だろうか?
実は老舗の料亭の板前さんで、究極の出汁を完成させるために私の海藻を〜とか、そういう感じ?
もしくは家族が病気で、その薬の材料として海藻が必要とか?
「そうですね、先ずはこれを見てください!」
男は被っていた帽子を天高く放り投げ、頭を露出させた。
現れたのは・・・。
「見事なまでのハゲね。」
おでこから頭のてっぺんにかけて頭皮がむき出しになった頭がそこにあった。
なんていうか・・・『中年のサラリーマンとかこういう髪形してるよね☆』って感じのハゲ頭みたいな?
「えーと。このハg・・・薄毛と私の海藻とに何の関係が?」
「海藻食べて発毛促進でウハウハ!!」
あー、そう来たかー。
思っていたよりも凄い低俗な理由だった。
「ほら、俺って顔はいい方じゃないですか。」
いや、知らんけど・・・。
「性格もいいし、仕事もできるし、運動神経バツグンだし。」
だから知らんて・・・。
「他は完璧なのに、このハゲ頭だけがコンプレックスなんですよ!だから海藻食べて髪の毛が生えれば絶対に女子にもモッテモテになるはず!!」
色々と残念な思考の持ち主だった。
「この頭のせいで彼女もできず、同僚からは笑われ、近所の小学生からは毎日のように『ハーゲ!ハーゲ!』と後ろ指をさされる始末・・・!もうこんな人生嫌なんですよぉ!!」
悲惨だ。
「い、いや、でも髪の毛なんて年齢とともに抜けてくるもんだし・・・ね?」
「俺はまだ25歳です!」
Oh・・・マジか。
酷いものだ。
神も仏もあったもんじゃないとはまさにこの事・・・別に『神』と『髪』をかけてる訳じゃないからね?本当よ?
「だからお願いします!海藻ください!!」
再び土下座を決めこむ男。
うーん、どうしようかな・・・?
いやね、別に海藻をわけてあげることは構わないのだ。
いいのだけれど・・・。
「あのね?言いにくいんだけど・・・海藻って食べても発毛が促進されるとは限らないわよ?」
「・・・・・・え?」
「いや、だから効果ないってことよ。」
「え・・・えぇー!!!」
よく海藻を食べれば髪が生えるとかって言うけど、あれって科学的な根拠があるわけじゃなくて、ただ単純にワカメとかヒジキの見た目が似てるってだけで効果はないらしい。
海藻の私が言うんだから間違いないわ。
こういう風に勘違いしてる人って意外といるのよね・・・。
「そんな!じゃあ俺はどうすればいいんですか!?」
「さあ?育毛剤でもぶっかければいいんじゃない?」
「もうやってます!一回に5種類くらい!」
まぁそうでしょうね。
でも5種類はかけ過ぎだと思うわ。
「そんな・・・!今まで1日3食ワカメとかヒジキとか食べてたのに・・・それが全部無駄だったなんて・・・!」
流石に可哀想になってきたわね・・・。
なんか私が悪いことしたみたいな構図になってるし。
「で、でも栄養価は高いんだし!食べてて損は無いと思うわよ!」
「マジですか!?」
「え、ええ・・・。」
ただ発毛に直結しないってだけで。
「では海藻わけてくれんですね!?」
「ええ、いいわよ。ここまで話しといて今さら断るもの気が引けるしね。で、どれくらい欲しいのかしら?」
「じゃあ200枚ほど!」
「多いわ!!」
200枚もあげたら私がハゲになっちゃうわよ!
何考えてんのかしらこの毛根死滅男は!
「えー、だっていちいち海藻わけてもらいに海まで来るの面倒くさいですし・・・あ、そうだ!」
「はいはい、今度はどんな馬鹿なことを考え付いたのかしら?」
「俺の家に来ませんか?」
「・・・・・・え?」
「そうすれば海藻だって必要な時に必要な分だけ手に入るし、わざわざ海まで来なくてすみますし・・・うん、これは妙案です!」
「え、ちょ・・・ま、待ちなさいよ!」
それって、俗に言うプロポーズなんじゃ・・・!
「お願いします。俺に毎日味噌汁を作ってくれませんか?」
「−−−−−ッ///」
ああ、もうっ。
そんな臭い台詞、まっすぐな目で言われたら・・・断れないじゃない。
「・・・しょうがないわね。いいわよ。味噌汁だけとは言わず、毎日ご飯を作ってあげようじゃない。もちろん、海藻入りのね。」
「マジで!?やったー!これで髪の毛もフッサフサだー!!」
まったく、直接効果は無いって言ってるのに・・・。
まぁ、これからどうやって海底に戻ろうかって考えていたことだし・・・付き合ってあげるのも悪くないかしらね。
私は彼の腕に抱き付き、今晩の献立は何にしようかと頭を悩ませた。
でも、それがたまらなく幸せに感じたのは言うまでもない。
16/03/17 09:19更新 / 九