Power of the dragonflame
俺は一人、とある山に掘られた洞窟にやってきた。中の作りは単純で、ただひたすら真っ直ぐ奥に続いているだけだ。
「ここか……ドラゴンが出ると噂の洞窟ってのは」
ドラゴンは自らのお宝を守るため、その近くからはあまり離れないという。つまりこのまま進めば、そいつと出会えるということだろう。
「一人で来るのは正直怖かったが、残ったのが俺一人だからな……」
元々山に登り始めた時は、何人かでパーティを組んでいた。それがいつの間にか魔物に襲撃を受け、一人減り二人減り、気付けばこの洞窟の前に立った時は俺しかいなかった。俺も含めて男女二人ずついたのだが、一人は薬草を探しに行ったらアルラウネに娶られ、一人は小さいスライムに寄生されてどこかへと消え、もう一人はローパーに捕まった。しかし俺は何故かここまで誰にも襲撃を受けなかった。アルラウネやスライムはともかく、ローパーとなったアイツなら追いかけてくるのかと思ったが、どうやらどこかに恋人でもいたのだろう。フラフラと危なげな表情を浮かべて、森の奥へと消えていった。
「しかしまぁ、ほかの魔物すら襲ってこないとはな……」
ワーウルフが出たとも噂があるし、そうでなくとも人里離れた森の中なのだ。何かがいてもおかしくはないはずなのだが、ひょっとして、ガキの頃もらったお守りが効いてるのかも知れん。と、そうこうしている内になにか物音が聞こえてきた。
「いよいよ、ご対面って奴か……?」
息を潜めて、俺は剣に手をかけ、ゆっくりと息を殺して進む。周囲に目を配れば、役に立たなくなって脱ぎ捨てたのであろうボロボロの防具や、折られた剣に斧、曲がった盾など、様々な残骸が残っている。
「……」
今更ながら体が震えてきた。殺されるかも知れない恐怖と、殺し合いができるかも知れない興奮。ドラゴンも魔物なので、魔王の影響を受けて人間と結婚する者も見てきた。だが、やはり旧時代から恐れられてきただけはあって力は並の魔物とは段違いで、殺しはせずとも戦いを楽しむ者はやはり存在するのだとか。これらを見る限りそれはここのドラゴンには当てはまるようで、楽しみで仕方がない。かつて夢見た英雄になれるかも知れないのだ。息を潜め、壁に身を寄せ、ゆっくりと進む。わずかな物音にも気を使って。
「我の宝が欲しいか?」
低くも澄んだ女の声が突然響いてきた。どうやら俺のことなど既に気づいていたらしい。
「ああ、欲しいね。それよりも、竜殺しの栄誉がな!」
響く声に俺は力一杯の声で答えた。すると、響く声は低く笑いながら俺を誘う。
「浅はかな人間よな……どれ、一つ遊んでやろうではないか。はよう来い」
「言われなくとも!」
気づかれてしまえば潜む理由などない。真っ直ぐ真ん中を堂々と歩く。すると奥にたどり着いたのか、松明のようなもので照らされた広い空間に出た。
「あんたがここの主か」
「ああ、そうだ。貴様が此度の挑戦者か?」
「そういうことになるな」
その空間のど真ん中、俺の正面にいる女。美しく整えられた顔以外はほぼ緑の鱗で包まれており、その逞しい腕と足はなるほど力強そうだ。垂らされた太い尻尾にも迫力がある。こちらまで気圧されそうだ。
「ここまで来た以上、言葉は不要だろう?」
そう言って女は構えた。わざわざこちらに合わせて戦ってくれるらしい。そうしてくれるのならば、俺も武器と防具は捨てた。
「そうだな。それに丸腰で来てくれるのならば、こちらもその礼儀に答えよう」
「いいのか?こちらとしては譲歩のつもりだったのだが」
「なら、互いに遠距離攻撃はナシ、でいかないか?」
「なるほど承知した。楽しもうか、人の子よ!」
そう言って女は、一瞬で間合いを詰めてきた。迫る拳を紙一重でかわし、残した膝で腹部に一撃。
「つあっ!?」
だが、ダメージを負ったのはこちらの方だった。当たり前か、鱗とはそのためにある。防具を外した今の我が身では、攻撃を加えることすら難しいのか……
「ん?……ああ、すまなかった。これでは対等とは言えんな」
すると女は、前面の鱗を消してくれた。寸胴のような鱗に包まれていたから胸がそんなに大きいとは思っていなかったというか、そのボディラインは反則だろう……目のやり場に困る。
「さぁ、これでこちらも相応のダメージを受けるようにはなったぞ。続けようか、宴を!」
「そこまでサービスしてもらっちゃ、ますます引けねぇな!」
再び向かってくる拳を、今度は左拳で迎撃する。力の差でもちろん押し切られるが、そんなことは百も承知!
「狙いはこっちだ!」
反対の拳で下顎を綺麗に捉えた!ひるんだところに右肘で鳩尾に叩き込むと、女の右腕を抱え込んで背負う。
「っ!まさか!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
そのまま地面に叩きつけた。ジパングで習う柔術で言う「背負投」というものらしい。
「ぐはっ!?……だが甘い!」
しかし、女もただでは起きなかった。掴んだままだった腕を力任せに引っ張って体勢を崩されると、鳩尾付近に拳が入る!
「うぐぁっ!?」
鍛えた腹筋ごと貫かれるかの如く響いてくる衝撃が俺を襲う。呼吸が止まり、悶える俺を、女はただ眺めるだけ。
「くっ……かはっ……」
「どうした、そんな程度でこの我に挑んできたというのか人の子よ!」
「ふざ……けんな……!」
まだ俺は終わっていない!こんなところで終われはしない!
「うおおおおおおおおああああああああああっ!」
気合で呼吸を整え、立ち上がりながら女に肩から体当たりして吹き飛ばす。
「がはぁっ!?」
今度は女が転がっていくが、勢いが止まるとすぐさま立ち上がる。
「ふふふ……そうだ、人の子よ。我をもっと楽しませろ!」
「俺もまだまだこんなもんじゃねぇぞ……」
自分の体が戦えるような状態じゃないことくらい自分で理解している。だが俺は立ち上がらなければならなかった。このまま負けることは、己の矜持が許さなかった。
そのまましばらく殴り合いが続くが、俺は全身擦り傷だらけでいくつか骨も折られ、流石に立ち上がれなくなった。女は多少泥や砂で汚れてはいるが、傷ついた様子はなかった。
「なかなか、久しぶりに楽しかったぞ……」
「クッソ……動けねぇ……」
「……ここまでやっておいて聞くのもアレだが、生きているか?」
「死にそう……ではある……」
かすれたような声で答えるのがやっとだ。もはや指一本動かすのも厳しい。
「我と共に休め。少しは楽になるだろう」
そう言うと女は、どこにあったのかベッドへと俺を運んだ。運ばれている間は声を出すのも辛くなるほどの痛みが全身を襲うが、ベッドに寝た瞬間、睡魔が俺を急激に襲ってきた。
「ワーシープの綿を使ったベッドだ。疲労回復の魔法もかけられている。これならば、傷の治りも早かろう」
彼女の声を聞きながら、俺の意識は闇へと落ちていった……
「全く、まさか拳で我と戦おうなどという酔狂な人間がいるとはな……」
久しぶりに、体を思いっきり動かせたからよしとするが。それにこの男、奥する様子もなく闘志をむき出しにして殴りかかってきた。
「……そうか、我はこの男が欲しいのか」
そして、衝動のように襲い来る体の疼き。古き姿を取り続けている間を除けば、初めての衝動。まるでそれはジリジリと中から炙るように我を熱くする。しかし、今この男を組み敷いたところで満足はできぬだろう。
「ふふふ……久しぶりに、美味い飯を用意するか。いや、それとも風呂が先か?」
無意識に尻尾が踊り、表情が緩んでしまう。あんな装備でこんな奥の奥までやってくるだけでも体力を消耗してしまうというのに、その上で我と死闘を繰り広げたのだ。我に自らの力のみで土をつけさせた。それだけで充分、本能は彼を認めたようだ。
「くくくっ……我がメストカゲに落ちる時を、我自身が楽しみにするとはな」
我とて出不精ではない。たまに同胞と会って話をしたりもする。そんな中で、男と結ばれたら四六時中男のことしか考えなくなるだとか、子供と仲良く暮らしているだとか、色々聞かされたものだ。
「まぁ何にせよ、この男が起きてからだな」
そして、我はこの男を抱きしめながら眠りについた。体の疼きがやかましいが、それ以上に我も相当体力を使ったようだ。どの道このまま何もできないなら、寝てしまったほうがいいだろう。
「……知らない天井だ」
「つい先ほどまで、この我と死合おうていたというのにか?」
「アンタは……ぐぅっ!?」
声のする方へ体を向けようとすると、鈍い痛みが全身を襲う。
「無理をするな。今のお前はいくつか骨を折っているのだからな」
「骨折……だと……」
それもそうか、ドラゴンとバカ正直に真正面から殴り合えば当然とも言えるだろう。
「俺の……負けか……」
「そうだな、立っていられたのは我で、立ち上がれなくなったのはお前だった」
「底が知れないな、竜種ってのは……」
「これでも王者の血筋だからな。だがその我にたった一人で挑み、決して逃げ出さなかった。これだけでも並の人間なら十分だと思うがね」
「慰めのつもりかよ、余計痛いわ」
「クックック」
ドラゴンは低く笑う。だがその声にも表情にも、こちらを馬鹿にするような雰囲気は感じ取れなかった。
「まぁ今は休め。我が看取ってやろう」
「死なないなら上等だ」
そして俺の意識は暗転していった。
「ここか……ドラゴンが出ると噂の洞窟ってのは」
ドラゴンは自らのお宝を守るため、その近くからはあまり離れないという。つまりこのまま進めば、そいつと出会えるということだろう。
「一人で来るのは正直怖かったが、残ったのが俺一人だからな……」
元々山に登り始めた時は、何人かでパーティを組んでいた。それがいつの間にか魔物に襲撃を受け、一人減り二人減り、気付けばこの洞窟の前に立った時は俺しかいなかった。俺も含めて男女二人ずついたのだが、一人は薬草を探しに行ったらアルラウネに娶られ、一人は小さいスライムに寄生されてどこかへと消え、もう一人はローパーに捕まった。しかし俺は何故かここまで誰にも襲撃を受けなかった。アルラウネやスライムはともかく、ローパーとなったアイツなら追いかけてくるのかと思ったが、どうやらどこかに恋人でもいたのだろう。フラフラと危なげな表情を浮かべて、森の奥へと消えていった。
「しかしまぁ、ほかの魔物すら襲ってこないとはな……」
ワーウルフが出たとも噂があるし、そうでなくとも人里離れた森の中なのだ。何かがいてもおかしくはないはずなのだが、ひょっとして、ガキの頃もらったお守りが効いてるのかも知れん。と、そうこうしている内になにか物音が聞こえてきた。
「いよいよ、ご対面って奴か……?」
息を潜めて、俺は剣に手をかけ、ゆっくりと息を殺して進む。周囲に目を配れば、役に立たなくなって脱ぎ捨てたのであろうボロボロの防具や、折られた剣に斧、曲がった盾など、様々な残骸が残っている。
「……」
今更ながら体が震えてきた。殺されるかも知れない恐怖と、殺し合いができるかも知れない興奮。ドラゴンも魔物なので、魔王の影響を受けて人間と結婚する者も見てきた。だが、やはり旧時代から恐れられてきただけはあって力は並の魔物とは段違いで、殺しはせずとも戦いを楽しむ者はやはり存在するのだとか。これらを見る限りそれはここのドラゴンには当てはまるようで、楽しみで仕方がない。かつて夢見た英雄になれるかも知れないのだ。息を潜め、壁に身を寄せ、ゆっくりと進む。わずかな物音にも気を使って。
「我の宝が欲しいか?」
低くも澄んだ女の声が突然響いてきた。どうやら俺のことなど既に気づいていたらしい。
「ああ、欲しいね。それよりも、竜殺しの栄誉がな!」
響く声に俺は力一杯の声で答えた。すると、響く声は低く笑いながら俺を誘う。
「浅はかな人間よな……どれ、一つ遊んでやろうではないか。はよう来い」
「言われなくとも!」
気づかれてしまえば潜む理由などない。真っ直ぐ真ん中を堂々と歩く。すると奥にたどり着いたのか、松明のようなもので照らされた広い空間に出た。
「あんたがここの主か」
「ああ、そうだ。貴様が此度の挑戦者か?」
「そういうことになるな」
その空間のど真ん中、俺の正面にいる女。美しく整えられた顔以外はほぼ緑の鱗で包まれており、その逞しい腕と足はなるほど力強そうだ。垂らされた太い尻尾にも迫力がある。こちらまで気圧されそうだ。
「ここまで来た以上、言葉は不要だろう?」
そう言って女は構えた。わざわざこちらに合わせて戦ってくれるらしい。そうしてくれるのならば、俺も武器と防具は捨てた。
「そうだな。それに丸腰で来てくれるのならば、こちらもその礼儀に答えよう」
「いいのか?こちらとしては譲歩のつもりだったのだが」
「なら、互いに遠距離攻撃はナシ、でいかないか?」
「なるほど承知した。楽しもうか、人の子よ!」
そう言って女は、一瞬で間合いを詰めてきた。迫る拳を紙一重でかわし、残した膝で腹部に一撃。
「つあっ!?」
だが、ダメージを負ったのはこちらの方だった。当たり前か、鱗とはそのためにある。防具を外した今の我が身では、攻撃を加えることすら難しいのか……
「ん?……ああ、すまなかった。これでは対等とは言えんな」
すると女は、前面の鱗を消してくれた。寸胴のような鱗に包まれていたから胸がそんなに大きいとは思っていなかったというか、そのボディラインは反則だろう……目のやり場に困る。
「さぁ、これでこちらも相応のダメージを受けるようにはなったぞ。続けようか、宴を!」
「そこまでサービスしてもらっちゃ、ますます引けねぇな!」
再び向かってくる拳を、今度は左拳で迎撃する。力の差でもちろん押し切られるが、そんなことは百も承知!
「狙いはこっちだ!」
反対の拳で下顎を綺麗に捉えた!ひるんだところに右肘で鳩尾に叩き込むと、女の右腕を抱え込んで背負う。
「っ!まさか!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
そのまま地面に叩きつけた。ジパングで習う柔術で言う「背負投」というものらしい。
「ぐはっ!?……だが甘い!」
しかし、女もただでは起きなかった。掴んだままだった腕を力任せに引っ張って体勢を崩されると、鳩尾付近に拳が入る!
「うぐぁっ!?」
鍛えた腹筋ごと貫かれるかの如く響いてくる衝撃が俺を襲う。呼吸が止まり、悶える俺を、女はただ眺めるだけ。
「くっ……かはっ……」
「どうした、そんな程度でこの我に挑んできたというのか人の子よ!」
「ふざ……けんな……!」
まだ俺は終わっていない!こんなところで終われはしない!
「うおおおおおおおおああああああああああっ!」
気合で呼吸を整え、立ち上がりながら女に肩から体当たりして吹き飛ばす。
「がはぁっ!?」
今度は女が転がっていくが、勢いが止まるとすぐさま立ち上がる。
「ふふふ……そうだ、人の子よ。我をもっと楽しませろ!」
「俺もまだまだこんなもんじゃねぇぞ……」
自分の体が戦えるような状態じゃないことくらい自分で理解している。だが俺は立ち上がらなければならなかった。このまま負けることは、己の矜持が許さなかった。
そのまましばらく殴り合いが続くが、俺は全身擦り傷だらけでいくつか骨も折られ、流石に立ち上がれなくなった。女は多少泥や砂で汚れてはいるが、傷ついた様子はなかった。
「なかなか、久しぶりに楽しかったぞ……」
「クッソ……動けねぇ……」
「……ここまでやっておいて聞くのもアレだが、生きているか?」
「死にそう……ではある……」
かすれたような声で答えるのがやっとだ。もはや指一本動かすのも厳しい。
「我と共に休め。少しは楽になるだろう」
そう言うと女は、どこにあったのかベッドへと俺を運んだ。運ばれている間は声を出すのも辛くなるほどの痛みが全身を襲うが、ベッドに寝た瞬間、睡魔が俺を急激に襲ってきた。
「ワーシープの綿を使ったベッドだ。疲労回復の魔法もかけられている。これならば、傷の治りも早かろう」
彼女の声を聞きながら、俺の意識は闇へと落ちていった……
「全く、まさか拳で我と戦おうなどという酔狂な人間がいるとはな……」
久しぶりに、体を思いっきり動かせたからよしとするが。それにこの男、奥する様子もなく闘志をむき出しにして殴りかかってきた。
「……そうか、我はこの男が欲しいのか」
そして、衝動のように襲い来る体の疼き。古き姿を取り続けている間を除けば、初めての衝動。まるでそれはジリジリと中から炙るように我を熱くする。しかし、今この男を組み敷いたところで満足はできぬだろう。
「ふふふ……久しぶりに、美味い飯を用意するか。いや、それとも風呂が先か?」
無意識に尻尾が踊り、表情が緩んでしまう。あんな装備でこんな奥の奥までやってくるだけでも体力を消耗してしまうというのに、その上で我と死闘を繰り広げたのだ。我に自らの力のみで土をつけさせた。それだけで充分、本能は彼を認めたようだ。
「くくくっ……我がメストカゲに落ちる時を、我自身が楽しみにするとはな」
我とて出不精ではない。たまに同胞と会って話をしたりもする。そんな中で、男と結ばれたら四六時中男のことしか考えなくなるだとか、子供と仲良く暮らしているだとか、色々聞かされたものだ。
「まぁ何にせよ、この男が起きてからだな」
そして、我はこの男を抱きしめながら眠りについた。体の疼きがやかましいが、それ以上に我も相当体力を使ったようだ。どの道このまま何もできないなら、寝てしまったほうがいいだろう。
「……知らない天井だ」
「つい先ほどまで、この我と死合おうていたというのにか?」
「アンタは……ぐぅっ!?」
声のする方へ体を向けようとすると、鈍い痛みが全身を襲う。
「無理をするな。今のお前はいくつか骨を折っているのだからな」
「骨折……だと……」
それもそうか、ドラゴンとバカ正直に真正面から殴り合えば当然とも言えるだろう。
「俺の……負けか……」
「そうだな、立っていられたのは我で、立ち上がれなくなったのはお前だった」
「底が知れないな、竜種ってのは……」
「これでも王者の血筋だからな。だがその我にたった一人で挑み、決して逃げ出さなかった。これだけでも並の人間なら十分だと思うがね」
「慰めのつもりかよ、余計痛いわ」
「クックック」
ドラゴンは低く笑う。だがその声にも表情にも、こちらを馬鹿にするような雰囲気は感じ取れなかった。
「まぁ今は休め。我が看取ってやろう」
「死なないなら上等だ」
そして俺の意識は暗転していった。
14/12/17 01:56更新 / ☆カノン