『貴方を思って・・・』



「にぃちゃん遅ーいっ!!」
「ぜぇぜぇ・・・ま、まてって・・・ぜぇぜぇ・・・」
太陽が燦燦と照りつけて肌を黒く焦がすように降り注ぐ熱線を浴びつつ山の木々を掻き分けて進む影が二つ。
一人は麦藁帽子に小麦色の健康的な日焼けをした少年で、もう一人はハーフパンツにノースリーブというラフな格好の肩で苦しそうに息をする青年であった。

「にぃちゃん・・・運動不足じゃない?」
「ゼェ・・・ほ、ほっとけっ! ・・・ゼェ・・デスクワーク中心・・は・・・こんなもん・・・だっ!!」
彼は今親戚の集まりに参加するため都会から一時帰省した中校生である。
そんな彼が何故肩で息をしてまでここにいるのかというと少し時間を遡ってみたみよう。

それは一時間前のこと。

「はぁ? 自由研究で昆虫の標本つくる?」
「うん! だからさ・・・ちょっと手伝ってよ・・・ね?」
彼が居間の畳の上で「あ゛〜たりぃ〜」とボヤきながら携帯ゲーム機をしているときに声をかけてきたのは親戚でありそこそこ歳の近い小学生の甥っ子だった。
申し訳なさそうに言う甥っ子に眉毛を片方だけ吊り上げて如何にも嫌そうな顔をする彼。
それを見ていた彼の母親は手元の作業を中断して彼にすぐさま近づいてゲーム機を彼から取り上げてこういった。

「由(ゆう)っ! たまにしか来ないんだからソレ位手伝ってやんなっ!」
「な、なにいってやがr」
「ほら、啓(けい)ちゃん。サッサとこいつを連れ出してやんな。・・・ちゃんと面倒みれなかったら・・・小遣い半額な?
彼、由のことを無理やり立たせて由の母は甥っ子の啓に笑顔で答えて由の肩を後ろから押したが、その際に由しか聞こえないくらいの音量で脅迫をかけたのだった。
これに冷や汗をかいた由は態度をガラリと変えて啓に付き添って山へと入っていったのである。

そして今にいたるわけである。

「・・・・ちょっと休憩する?」
「・・・ゼェッ・・・た、頼む・・・」
啓に心配されるくらい汗の量が半端じゃない由は啓の優しさに素直に従うほどだった。
ちょうど良い木陰を見つけた由達はそこへ各々腰を下ろし、手元に持ってきた水を水筒から出して飲み始めた。
が、由がもってきた水筒は量が少なかったようで二口、三口ほど飲んだ瞬間空になってしまった。

「・・・あり?」
「あはは! おにぃちゃんって抜けてるね♪」
「・・・っ・・・う、うるせぃ!」
その凡ミスをやらかした由になんの隔てもなく笑いこける啓に対して由は顔をコレでもかと赤くしたのであった。

「っははは・・・はぁ〜・・・こ、この先に天然の湧き水あるからさ・・・く、汲んできなよにぃちゃん・・・くっくっく・・・」
「・・・っくしょう・・・ちょっとまってろよ?」
悪態をつきながらも由はゆっくりと立ち上がり啓が指差すほうへと歩いていくのを見るあたり実は根は素直のように思える。

歩くこと数分。草葉を掻き分けて進むごとに水が高所から打ちつけられる音が聞こえてくるではないか。
由は進む速度を少しだけ速めていくと視界から木々の葉がなくなり其れなりに広い空間へとたどり着くと確かに大きな岩の上の方からバケツを思い切りひっくり返すようにあふれ出る湧き水があり、その小さめの滝の下には水汲みに適した水溜りがあった。

でもソコには先客が水浴びをしていた。・・・・全裸で。

「〜〜〜♪」
「・・・」
茂みから身を完全に出しているのにもかかわらず全く警戒していないその先客は白蛇だったのだ。

良く見れば目を瞑って鼻歌を歌っているその顔は綺麗に整っていて可愛い、というより綺麗が似合う。
体は以前由が学校で習った種別ごとの特徴の一つ、蛇の下半身は真っ白であり、鱗も腰まである髪も真っ白であった。
そして胸。

「(・・・見た目、同じ位の歳だよな?・・・・にしも・・・でけぇ・・・)」
思春期の男の子が前かがみになるくらいの破壊力をもったソレは白蛇の彼女が左右に揺れるたびにプリンのように揺れながら連動して動いている。

「〜〜♪・・・・っ!? だ、だれっ!?」
「えっ、あ、あのっ・・・き、綺麗ですね・・・」
「・・・えっ?」
鼻歌を歌っていた彼女だったがちょうど鼻歌が終わったようでその瞳をゆっくり開けたところで由と目があってしまった。
その赤い瞳に見られた由はとっさに思いついた言葉を言い放つが言った瞬間に由は心の中で「ねぇわ・・・まじねぇわ・・・オレオワタ・・・」と思っていて次に来るであろう悲鳴を聞きたくなくて目を閉じて耳を塞いでいたが一向に悲鳴が聞こえてこない。

不思議に思った由が恐る恐る力いっぱい閉じた目を開けていくと、彼女は胸を両手で隠し下半身を自身の尻尾で巻いて下を向いて何かを小声で呟いていた。

「あ、あのぅ・・・」
「・・・あなたの名前は?」
耳から手をどけて弱弱しく彼女の無反応振りに心配になった由は声をかけたがその瞬間に由のほうへ視線を戻し由の目を見る白蛇は行き成り由の名前を聞いてきた。

「え、あ、ゆ、由っていいます・・・」
「そう・・・わたくしは縁(ゆかり)というの。・・・ふぅん・・・中々好みじゃない♪
そのまま彼女、縁は由のことを頭の先から爪先まで何か品定めをするように何度も頭を上下に行ったり着たりさせていたがその縁の行動に寒気を感じた由は本能の警告に従ってこの場を脱しようと踵を返してもと来た道を走ろうとしていた。

「あ、まっ待って!」
「の、覗いてすいませんでしたぁぁ!!」
縁の静止も聞かずにその場を走り去った由は何とか啓の元へ再び汗だくになりながらにたどり着き日も傾いてきたということで下山したのだった。

「・・・いっちゃった・・・由か・・・旦那様・・・ふふっ♪」
由が去って暫くは服を着るためその水場にいた縁だがふと漏らした言葉には嬉々とした感情が入っていたのだった。

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「・・・あれからもう4年か・・・」
部屋のベットで横になる由は今年で高校2年になる。
そしてふとした時に思い出されるは縁のことだった。

「・・・可愛かったな・・・なんで逃げちゃったんだろうなオレ・・・」
由はあの時の自分の行動しだいでもしかしたら縁が彼女になれたかも。と淡い期待をもったもしもに夢見る由は高校入学を機に一人暮らしを始めた。
その借り宿というのが高校から少しはなれた平屋の一軒立てのボロであったが学生に優しい大家さんのおかげで無理なく暮らしている。
だが唯一難点があり、それがちょっと彼の精神力をヤスリで削るように削いでいっていた。

「・・・っあ・・・また隣のうちから・・・全く・・・昼間から勘弁してくれよぉ・・・」
壁が薄い。家と家の間隔はそこそこ離れてはいるが如何せん壁が薄いので隣の情事が丸聞こえという思春期の学生にはたまらない環境だった。
しかしこのことに目を瞑ればそのデメリットを帳消しにする破格の待遇のため由はここから引っ越す気はさらさら無い。

「はぁ・・・眠いなぁ・・・ぅー・・・ぅぅ・・・」
今月いっぱいまで夏休みなのだが由はあらかじめ宿題をやってしまうタイプなので時間を持て余しており何もすることが無くてこの頃日がな一日ゴロゴロしていることが多かった。この日も例外ではなく疲れてもいないのに習慣からか段々と眠気が襲ってきて由はつかの間の昼寝タイムとあいまったのであった。

由が眠りに入り10分ほどが経った頃、アルミサッシの網戸がプラスチック特有の音を立ててゆっくりと開いていき続いて太陽を背にした白く反射する髪をそよ風に靡かせて由の寝ているソファのすぐ傍までやって来た。

「・・・ふふ、可愛い寝顔ですね♪ 旦那様・・・4年間この日をお待ち申しておりました・・・成人となったわたくし縁は由様に、旦那様にお仕えするために馳せ参じました。・・不束者ですが・・・よろしくお願いいたします♪」
窓から差し込んだ太陽の日差しが映し出した巫女服のような着物の上からでもわかる白い肢体は4年前よりも格段に女らしくなっていた。
縁は安らかに眠る由の頬に自らの手を添えて母が子に説くように優しく嫁入りの言葉を囁くも勿論由は夢の中にいるので聞こえるわけが無い。
やがて彼女はその手を名残惜しそうに離し由のボロ家の台所へと蛇の下半身を由を起こさないように静かに引き摺り夕餉の準備を始めるようであった。

「・・・まっててくださいね・・旦那様♪」



縁が台所で水まわりの掃除と食事の準備が整う頃にはすっかり夜の蚊帳が降りた後だった。

「・・・ぅぁ・・・のど乾いたなぁ・・・??・・・・おいしそうな匂い・・・」
「はい、旦那様。わたくしが清めた清水です。」
由が喉の渇きと共にまどろみから意識を徐々に覚醒さていくと普段ではありえないような美味しそうな匂いが部屋の中に漂っておりその日常からの違和感に眉を顰めていると不意に後ろからほっそりとした白い肌の手が透明で綺麗な水を溜めたコップとともに出てきた。

「っうぇ!? ・・・あ、き、きみは・・・縁? だったかな??」
「まぁ♪ 私の名前、覚えておいでだったのですねッ♪」
「っぅぇ!? ちょちょっと!?!?」
その不意打ちに未だ半目だった目を見開いて驚き振り返れば4年前にみた白いラミアの娘があの頃の名残がある顔に笑顔を携えて立っていて由は「あぁまだ夢かぁ・・・」と現実逃避に入ってしまった。
故に彼女をみて驚きや恐怖よりも先に懐かしさが出てきた彼は確認の為に名前に疑問符つきだが彼女の名前を言うと彼女は元々笑顔だった顔を更に明るいものに変えて嬉しさの余りコップを放り出して彼の頭を胸に抱え込むようにして抱きつき尻尾も絡ませてきたのである。

「あ、す、すいません・・・嬉しくて・・・つい・・・」
「ま、まぁ・・・別にいいです・・・(胸・・・柔らかかった・・・)」
「・・・クスッ・・・ふ・・ふふ・・・旦那様・・お顔が・・・っっ♪」
その至福のサンドイッチから名残惜しそうに顔を離し由はこの最高の感触が夢では無いと再認識したことで顔が様々な感情が入り混じった何とも表現しにくい表情になってしまいその面白い顔を見ていた縁は粗相をしてしまった自分を恥じて俯いていたのが次第にまた鈴のように澄んだ声でクスクスと忍び笑いだしていく。
由もそんな彼女を見ているうちに段々と笑いがこみ上げていき終いには二人揃って声高々に何の憚りもなく笑い出したのであった。

そして一頻り笑うとどちらからともなく話し始めた。

ー互いの過去のこと。

ー今までの生活のこと。

ーお互いあのときを忘れられなかったこと。

ー・・・実はすでに互いに好意を持っていたこと。

「そう・・だったのか・・・じゃあ、今更な気もするけど・・・・・・僕の彼女になってください。」「・・・いいえ、彼女にはなりません。」
「・・・えっ?」
互いに好意を持っていたことが分かった由は顔を赤くして頬を指で二、三度と掻くと顔つきを凛とさせて彼女の目を見て愛の告白をしソファから降り立ち腰を曲げて自身の右手を彼女に一直線に差し出してみせる。
しかし彼女は暫しの沈黙の後、由の告白を否定するような発言を放った。
その思わぬ拒否の返事に体から一気に熱が抜けていき由は思わず不安から彼女の方へ顔だけにならず上半身まで上げて見上げてしまった。

その瞬間。





ギュッ




「・・・?!」
「旦那様の゛ 彼女 ゛にはなりません。わたくしは旦那様の゛ 妻 ゛になります♪」
下半身を彼女の尻尾に巻きつかれ、上半身を抱きこまれた彼の耳元で小鳥の囀りのようにして彼の求愛に答える彼女は微笑んでいたのだった。

「・・・よろこんで♪」
「はいっ、旦那様♪」



その日以降、学生でありながら夫になった由と水神の巫女で妻の縁は互いを助け合いながら生涯を幸せに暮らしたとさ・・・・・

【完結・・・】























「あ、旦那様? 」
「ん? どうした?」

『・・・浮気は絶対に許しませんからね?』
・・・縁の背後に浮かぶ蒼い炎はきっとただのイメージだよね?
・・・でも妙にリアルなのは・・何故っ!?

【ホントに完。】

ラミア種コンプリート・・・・といっていいのかな?(過去作とあわせて。

お久しぶりです! 皆様!
ラジオSSをCGIにあげたと同時に白蛇アップ・・・・・・・・orz
タイミングが会わなかった・・・・クッ!

処女は沈黙の天使さんにもってかれたし・・・(自重しないw

欝だ・・・・SS書こう・・・(エッ!?

ただちょっとテンション下がったまま書いたので字数は比較的少なめになりました。
いかがでしょぅか?(´・ω・`)

11/10/03 21:52 じゃっくりー

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