『異世界から呼ばれたら不幸ということではない・・・はず』 |
ここは熱帯地方に生殖している木々が生い茂る密林、その中でも昼ですら薄暗いと感じてしまうほどの密集度があるその最奥にて剣戟の甲高い音と共に慌しく走る男女の声がこだましていた。 「くっ・・・なんだコイツっ!?」 「話が違うじゃないっ! 」 息荒く何かに追われるように逃げる二人のハンターがほとんどポロ雑巾のようになってしまった装備で必死の形相で明るい場所へ、森の出口へ向かい走っていくと遥か後方の木が撓りをあげた。やがてどんな強風でも決して折れることは無いであろう木々があられもない方向へ撓ったかと思うとナニカがそこから次の木々へと飛び移っていく。 まるで身軽な猿のように飛び移る。 しかしハンター達はソレを見る余裕なんて微塵もない。 徐々に近づくその風きり音の低い音たるや、如何なる巨大な生物か想像にたやすかった。。 木漏れ日にすら映らせぬ影が徐々に、徐々に前方を走るハンター達へと木々を飛び移り、やがて一本の大樹の根元に砂埃と青々とした木の葉を巻き上げて止まったその影は暗がりの中から森の出口の方に振り向く顔は紅い残光を残しギロリと黄金色の双眸がハンター達を見据え腹の底から低い唸り声で威嚇をしているようである。 「ハァハァ・・・・ち、ちくしょう・・・はえぇっ・・・ギルドは楽な仕事だって言ったのにっ!!」 「そ、その上大きさも金冠サイズとか・・・あ、ありえないわっっ!!」 後ろからの言いようの無いプレッシャーの中二人のハンターは生きた心地がしない心境でも助かりたい一心で出口へと向かい文字通り草の根別けて走っていくそのさまは果たしてその追跡者にはどう見えるのだろうか。 出口がすぐ間近に迫った時、後ろから咆哮が聞こえて二人は更に速度を上げてより必死に逃げていった。 はたして二人は無事にベースキャンプにたどり着いたが顔面蒼白の上うわごとの様に何度も何度も呟きながら彼方此方から血が止まらない体と膝を抱えて蹲っていたそうな・・・ 『迅竜・・・ナルガ・クルガ・・・・っ』 対して先ほどの森では未だに大樹の根元から2人が逃げたほうへ睨みを利かせる影一つ。 彼女・・・ナルガ・クルガはこの頃人間が頻繁に自身のテリトリーへ入るのを日ごろから疎ましく思っていた。 今日のこの日も森の日当たりの良い木陰で休んでいるところへの強襲である。 そんなことをされれば誰でも怒るもので、普段からの苛立ちがこの瞬間に爆発しいつも以上にハンターを痛めつけたナルガは暫し目を瞑ったかと思うと普段のトパーズのような金目に戻り再び森の奥へと戻っていくその体からは未だに警戒色が薄れていない。 (・・・なんで私のテリトリーに入ってくるのかしら?) 先ほどとは違って木々を縫うように移動せずにゆっくりと地面を歩きながら移動する彼女は徐々にリラックスしていきふとそんなことを思い、戦闘態勢では見せない顔で悩んでいるようでもある。 (私だって・・・何もしなければ何もしないのに・・・どうしてニンゲンってこうも無意味に攻めてくるのかしら?) 終いには目を瞑ってうんうんと悩めかしい声をくぐもらせながら住処の洞窟へとたどり着いてしまった彼女は先ほどの戦闘で多少なり受けてしまったキズを治すため静かに眠りについたのであった。 ・・・彼女が眠りについて暫く後、地面が月光のようにポゥッと光だし点だったその光が目を見張るほどの脅威の速度で線になり、地面に奇妙で複雑な紋章を書きはじめたが彼女は今や夢の中。 音無く書かれていくその紋章は次第に大きく書かれていき終いには彼女の周りを大きく囲む様な大きさへとなり最後の模様として一部を欠いていた一番外の円をつないで数瞬の間の後、その紋章がカッと眩く光った。 ・・・そして、その紋章の書いてあった後地には岩が大きく抉られた状態で残っており彼女は何処にもいなかった。 ・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ ここは図鑑世界の大陸の南辺境にある親魔領のとあるサバト支部の地下室。 ちょんと頭にとんがり帽子を被った如何にも魔女という感じの少女はなにやら床にチョークで大きな円を書いていた。 その模様・・・まさに先の彼女の下に描き出されたものと同一の紋様だった。 「・・・ふふふ・・・これで・・・これでやっと・・・私にもおにいちゃんが・・・・フフフ・・・」 ドス黒い笑みで塗られた顔からはとても体格年齢にあったようなものではなかったというのは置いておき、いよいよ完成したのか円の端と端を繋ごうとしたとき・・・ 鉄で出来た重々しい扉が大きな音で開かれて光と共にその部屋を開け放った! 「アスコット! それは禁忌としたはずじゃ! すぐにやめt・・・」 「フフ・・トルネオ様っ! もう遅いですッ!!」 扉を蹴り開けて怒りと焦りの表情をしたバフォメットが魔女の元へ勢いを殺さず走り寄るも一歩間に合わず術式が完成してしまったようで、魔女からは口端が釣りあがった歪んだ笑みをして最後の線と線をつないでしまったその刹那。 今まで唯の白線だった魔方陣は魔女の止めの行為で完成し目を潰しそうなほどの眩い光と共に何も無かったはずの空間が湾曲し始める。 やがてその歪みは次第に大きくなっていく。 「くっ!?」 「フフ・・・オニイチャン・・・オニイチャン・・・」 あまりの眩しさに手で顔を覆い隠すバフォ様に対して魔女はその光に対して歪んだ笑みのままその魔方陣の中心をみやっていたのだが光が収まるにつれてその持ち上げられた口角が段々下がっていき、瞳も期待から怯えに変わってしまい更には震えだして地面に尻餅をついてしまった魔女。 「い、いやぁ・・・なに・・・これぇ・・・」 涙目になり悲鳴に近い声を上げながら首を横に振り後ずさりをする。 その様はまさに壊れた玩具のようだった、と後に他の魔女は語ったのであった。 「んぅ?! どうしたっ?! アスコッt・・・・あぁ・・・なるほど・・・」 眩しさが止んで目を開けられるようになったバフォ様はすぐに状況を確認するべく魔方陣が書かれていた床へと視線を移すと納得いった様子で冷や汗を流す。 そのひんやりと冷たい床上には黒い毛に覆われ猫のように尖った耳と独特の模様の目元、毛だらけだが毛先のみ露出している尖った尻尾を持ち、腕からは鋭く尖った棘のような翼が生え20Mは優にくだらない体格の生き物がいた。 「これは・・・異世界の竜(ドラゴン)を・・・むぅ?!」 自己分析して声に出している最中のバフォ様の前でソレは起こったのである。 体の輪郭が薄っすらと光り始めた彼女は次第に体が小さくなっていく。 そして徐々に変形し形成されていくその姿は・・・ シルエットは魔物娘のドラゴンそのものであるのに本来鱗であろう部分は尻尾の先端と腕の翼以外漆黒の毛で覆われており、そのモフモフの腕からはマンティス以上に大きな突起と翼膜があった。 しかし背中には翼が無く耳も皮膜ではなくまるでワーキャットやスフィンクスのような猫族みたいな耳になっており、その姿はまさにイレギュラーであった。 「・・・ぬぅ・・・まさか目の前で変体を見れるとはのぅ・・・」 そう唸るバフォ様の前でやっと変体が終わった彼女はそれと同時にゆっくりと目を開けた。 「・・・ん・・・ん? ・・・・ここは・・・どこ?」 これがこの世界に着た彼女の第一声でした。 「あー・・・コホン・・・ワシの言葉はわかるかのぅ?」 まだ意識が半分眠っているであろう彼女に呼びかけるバフォ様は何の警戒も無しに彼女へと近寄っていく。 近づいて分かったことが数点。 目元の赤かった模様はそのまま釣りあがった目尻のアイシャドーとなっており、その目の色はまるでジパングの秋の山々のような哀愁を感じられる気がするほどのトパーズカラーであった。 さらに言うならば・・・ (ぐぬぅ!? なんという美乳よっ! ) そう、彼女はキョヌーでした。図鑑にも勝ると思われるその胸は呼吸に合わせて上下していたそれをちょうど彼女の前まで来たバフォ様が恨みの念を篭めて見上げて凝視していると段々と意識がはっきりしていく彼女。 「・・・っ! 貴様っ! ニンゲン!?」 やっと意識がはっきりした彼女はちょうど目の前に来たバフォ様を見るや全身の毛を逆立てて目が赤く光った。 彼女は攻撃体勢に入ってしまったようで、しかしバフォ様は何も気にすることなくまるで友人のように話し出しのである。 「ん? ニンゲンがそんなに嫌いかのぅ? ・・・そりにワシは魔物じゃぞ?」 「・・・? お前はニンゲンじゃないのか?」 バフォ様は「ほれ♪」と手を彼女の前でワキワキとさせて尻尾をフリフリと彼女の前に差し出し、ピコピコ動く耳とツノを見せ付けたことにより彼女は警戒を解いた。 「・・・そういえば・・・ここは何処だ? 洞窟ではないみたいだが・・・」 「ここか? ココはおぬしと違う次元の世界じゃ。」 「次元???」 彼女はバフォ様から出た聞きなれない言葉を聞いて眉尻を下げた目がわっかになって左手の人差し指を頬にくっつけ首をかしげた。 (ぐはっ!? な、なんというギャップっ!! こ、これは萌えるっっ!!) 先ほどまで警戒していた彼女が見せたそのあまりにも可愛い動作の不意打ちにバフォ様は胸を押さえて少し蹲ってしまうが彼女から心配されたのですぐに鼻血以外を元に戻して一緒に話を戻したのだった。 「あっと・・・は、鼻からなにk」 「心の汗じゃ。気にするでない。」 「は、はぁ・・・」 その力説を聞いても未だに心配の目を向ける彼女にバフォ様は何事も無かったかのように話を進める。 やがて二時間ほどが過ぎてバフォ様は彼女にこの世界、構造、ついでに一般常識、ニンゲンはこっちではそんなに野蛮じゃないこととそれらを説明をし終え彼女のほうも納得した様子で凡そのことは理解した模様だった。 そして近くに積まれた紅い模様が沢山ついたティッシュの山をまだ入り口で腰を抜かしていた魔女に処理するように言うとバフォ様はついて来いという動作で彼女を扉の外へ連れ出した。 歩くこと数分、階段を上ること10000段。彼女がめんどくさくなって壁を飛び始める様を下からベストアングルだったことで鼻血を出してなだめること数十回。 そうして着いたのはサバト支部の屋根であった。 「みてみよ。この街を。・・・ニンゲンは居れども誰も魔物を攻撃しておらんじゃろう?」 「・・・うん。確かに。」 「素直でよろしい。(ハァハァ・・・・・・・そしてもう一つ言い忘れておったが・・・」 未だに鼻血が止まらぬバフォ様の出血が増した後バフォ様は申し訳ない表情で彼女に向き直ると彼女にとっては重い現実を突きつけられた。 「おぬしはもう元の世界には戻れん。魔方陣が一方通行もあるが・・・この世界に適応してしまったその体では・・・な?」 「うん、わかった。この街に住めばいいの?」 「あっさりですかっ!?」 重い沈黙の後激怒した彼女にヤられると思っていたバフォ様は体中に魔力を溜めていたが彼女の物凄く淡白で明るい笑顔つきの回答で魔力が空中に霧散してそのままバフォ様がノリツッコミをしたのであった。 「ん? だってココなら私のテリトリー(縄張り)は無いから私が襲われることは無いもの。」 「・・・た、確かにそうじゃが・・・うぬぬ・・・」 あまりの予想外な回答でバフォ様が唸っていると魔女が慌しく革靴の音を響かせて屋根に通じる通路からコチラに向かって走ってきていた。 「た、大変ですトルネオ様っ! 北の森にて発見した教団騎士が数十基この街に向けて進軍していますっ!」 「・・・キョウダンキシ?」 「あー、えーっと・・・この世界の中で魔物は悪として殲滅しようとしているニンゲンの一派じゃ。」 バフォ様改めトルネオが掻い摘んで彼女に説明すると彼女の目じりが釣りあがった。 「この暖かい感じがする・・・この街を壊そうとしているニンゲン?」 「え? あ、あぁ・・まぁ・・・そうじゃな。」 彼女の独特の表現にちょっと理解をするまで時間が掛かったトルネオだったが次第に彼女から殺気が放たれていることに気付いた。 「この街は好き。この街を壊そうとするニンゲンは・・・許さない。」 殺気とともに段々目が赤くなっていく彼女は魔女のほうへ振り向き穏やかな声でこう聞くのである。 「そいつらは・・・ドッチの方角にいるの?」 ・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 「隊長。準備が整いました。」 「よし。」 ここはかの街より北にある広大な森の一角にて待機している教団のキャンプベース。 先ほどまで展開されていた宿営の道具を片付け終わった騎士の小隊長にあたる人物が総大将に当たる人物に部隊で最後の準備報告をするところであった。 「ではコレより憎き魔物共を駆逐する為の第一戦を行うっ! 全軍すすめぇぇ!」 『おぉぉっ!!』と気合の乗った返答をする一団。 だが一人、この集団の中で余り乗り気の無い男が一人いた。 大将のすぐ隣で馬を走らせる副将、インテグラル。 彼はこの瞬間まで大いに悩んでいた。 「インテよ、どうした?」 「・・・あ、隊長・・・」 声を顰めて語りかけるは前進の命令を出した人その人だったがインテグラルは彼と同じようにして声を顰めて返す。 副将であるインテグラルは他の隊員に悟られないようにして表情を重くしてしまうと隊長もつられてしかめっ面になった。 「よほど嫌われているんですね、俺達。」 「反魔物でありながら命の尊さを謳っていただけなのだがな・・・」 そう、隊長たちは命は平等と常日頃から謳っていたが為に他の部隊や貴族、教会関係者から厄介者として集められた部隊であり、その部隊の最初で最後の命令が・・・ 『隣の街を落として来い。なおこの命令に拒否権はない。・・・拒否してもいいが、果たして君達の家族はどういった非難をあびるかなぁ?』 司祭のその時の顔は「黙っていけ。さもなくば親族を・・・」と物語っているようで隊長とインテグラルは顔色一つ変えずに受託したが司祭の部屋を出て数分でインテグラルは泣き崩れ、隊長は蹲って石床を跡が残るくらい強く叩き拳から血が出ていた。 この理不尽な脅迫文を聞いた隊員達もやはり皆この2人と同じような状態になるのは言うまでもない。 ほとんどの隊員は親魔物領への脱走するのではないのか、という疑惑が無理やりかけられており身近な親族が人質同然にとられていたからこの悔しさはどれほどのものか。 ではほとんど心のうちがインテグラルと一緒なのにどうして他の隊員に聞かれないようにしているのかということだが、この司祭相当疑い深く、命令を下した隊と同じ50人の教団近衛兵を一緒にして行かせたのである。 つまり、戦場で死ぬということ以外道がない状況であった。 「さてこの状況・・・どうしたものk・・・っ!?」 「隊長・・・っ!?」 隊長がボヤキを放とうとした時、不意に肌全体が粟立った感覚になる。インテグラルも例外ではなく、隊長は迷うことなく一時停止の指示を出し全軍に注意を促した。 しかし。 「なにをしているっ! このグズ指揮官がっ! 止まらせるんじゃないっ!」 「全軍止まるなっ! 走りぬけっ! 」 教団近衛兵達が全く指示を聞かず、挙句罵倒し隊長を貶める始末。 この傲慢な態度に隊長の周りにいたインテグラル達数名は眉間や額に青筋を立てたが如何せん状況が宜しくなく歯を強くかみ締めて悔しさを飲み込んだのだった。 ーーだがここで止まらなかった近衛兵は後に後悔をするであろう。 なぜならその進軍する先に太陽を背にして仁王立ちをして待ち構える紅き眼光を放つ異形のドラゴンが居たのだから。 そしてその時は程なくしてやってきたのである。 「うぎゃーーっ!!?」 「エグッっ!?」 遥か先まで先行する近衛兵らの前線から悲鳴が聞こえてきた。 待機していた隊と進軍中の近衛兵らは何事かと先頭の集団に目を向けるとそこでは一方的な攻撃が行われていた。 木々を縫うようにして移動するその影は砂埃と共に兵達の前へ降り立つと最寄の兵の金属鎧ごと拳を振りぬいていく。 その拳の威力たるや、一撃でよろいが拉げてしまい自力で脱げなくなった上にそれで止まらずにすぐ後ろの数人を鎧の主ごと後方へ纏めて吹き飛ばしていた。 更には少し遠いところで弓を構える兵を目ざとく見つけた影は自前の尻尾を左右に軽く振ったかと思うと大きく前方へ振りかぶりその尻尾から逆棘がついた鱗が弓兵へと襲い掛かった。 その棘の威力たるや、金属の鎧に深々と刺さりいくつか狙いの外れた棘がすぐ傍の大木に刺さったかと思うとそれらは悉く貫通し更に奥にある大木に半分ほど刺さって止まった。 その棘の威力に驚いて固まっていた兵士が再び前方、影のいる方へ目を向けるとそこには影の右拳が視界一杯に広がっていた。 兵士が一人空中へ錐揉みになりながら飛んでいるその下では徐々に恐怖に染まってきた近衛兵達が果敢にも立ち向かっていった。 対して少し離れた場所では先ほど悪態をついた近衛兵が数人の徒党をくんで隊長に対して言われも無い罵倒をしていた。 「なんでグズの部隊は一歩も動かないっ! 友軍がやられているんだぞ! 助けに行かぬかっ!!」 「お言葉ですが、今から行ってももう半分も残っていない部隊を救出するのは不毛でしょう。諦めてお国にお帰りになっては? 「戦敗報告」と共に。」 その罵倒を涼しい顔で受け流した隊長は皮肉を篭めてその下種な近衛兵に笑顔で応えた。 隊長のそれを見たインテグラル達も笑顔なのは言うまでも無い。 「な、き、貴様らっ! 国を裏切るのかっ!」 「裏切るも何も・・・『・・・お前が隊長かの?』・・・ほら?」 隊長と不毛な口論をしていた近衛兵が最終手段を切り出そうとした時その集団の後方からトルネオと共に数人の魔女と20人近いリザードマン、10人近くのギルタブリル、数人のスフィンクスに一人のアヌビスがいた。 「此度の侵略、理由がおありですか?」 「ふん! 魔物ごときにはなs」 そこまで暴言をはいた近衛兵の首に突如違和感が出来てそれを確認するため下を向くと自身が乗った馬に3本の矢が生えていた。更に自身の首には紅い線が馬に刺さった矢と同じ数の線キズが出来ていたのだった。 「ひ、ひぃぃぃ?!」 「言い忘れましたが、エルフの方々が数人コチラに鏃を向けているので口にはお気をつけて。」 それを無表情で語るアヌビスの言葉には少し怒気が含まれているのはいうまでも無い。 「上からの命令で仕方なく攻めた。・・・うそは言っていない。」 「なっ、き、貴様っ!」 「親族達も覚悟の上で言っている。・・・助かるならばどうか親族達を保護してくれないか?」 「・・・詳細を、よろしいですか?」 隊長はアヌビスに向き直り事の顛末を洗いざらい話した。 その全てを聞いたアヌビスはふぅ、と溜息を一つして回りをゆっくりと見回す。 隊長の管理下にある者は悉く首を縦に振り先ほどの隊長の証言に肯定的に応えており近衛兵たちは歯をむき出しにして悔しそうにしていた。 今のこの状態ですら先頭のほうからは悲鳴と甲高い金属音が響き渡っていた。 「・・・分かりました。この方たちを保護いたします。」 暫しの沈黙の後アヌビスは隊長を指差して宣言をすると近衛兵たちの方へ向き直りこう宣言する。 「そしてあなた達は戦犯として罰します。」 「なんだとっ! ふざけるなっ!! おいグズ隊長っ! お前、そんなことしていいのか? ん? 国の親族らがどうなっても・・・」 「安心せい、そのものらはすでに保護下においてあるでの。」 その聞くに値しない雑言をトルネオは笑いながら一蹴した。 「はっ?! そ、そんなことできるわけ・・・」 「ふむ? 信じられぬか? ・・・ならコレでも?」 とトルネオが背から取り出して見せたのは『司祭がいつも被っている帽子』であった。 「な、なぜ・・・それを・・・・っ!?」 先ほどまで紅かった顔がみるみる青くなっていく近衛兵たちのうち数人があまりのショックで倒れて落馬した。 「あそこにはのぅ・・・こうやって自身の兵を出して手薄になるのを見越してダークプリーストが数十人潜入しておっての♪ 今頃万魔殿でおぬしらの上官達とヤってはいるんではないかの?」 それを聞いた瞬間ほとんどの近衛兵が意識を手放し落馬した。 「・・・おわったよ。こっちは?」 その近衛兵にとって鉛のように重たい空気を更に重くするモノがココに姿を現した。 手に鮮血を纏った影、彼女がとうとうココまでやって来たのだ。 つまり近衛兵はもう数人しか意識を保っているものが居ないということになる。 誰がどう見ても親魔側の勝利であった。 「では隊長殿、手続きとその他の相談事があるのでご同行、よろしいですか?」 「分かりました。」 そのまま戦後処理ということで皆気が緩んでいた、その時っ! 「・・・・しねぇぇぇ!!!」 「っ! 危ないっ! 君っ!」 先頭の惨事の中から不意に立ち上がった近衛弓兵が後ろを向いて完全に油断していたドラゴンの彼女の首めがけて懇親の矢を放ったが、彼はすぐさま何処からか飛んできた矢が額に当たり命の灯火を消してしまった。 その矢はというと彼女の首めがけて飛んでいき、あと30センチというところでその斜線上にインテグラルが割り込んだのだ。 そしてそのまま運悪くインテグラルの鎧の横の隙間から矢が入り・・・・肺を片方貫いた。 「っ! し、しっかりしろ! ニンゲン!」 倒れ掛かるインテグラルを上手くキャッチした彼女の顔が少しずつ青くなっていくのがわかる。 「い、急いで医者をっ! 」 「いや、こっちから行ったほうが早いっ!」 「なっ、トルネオ! 貴方ナニを言って・・・」 近づいてくる両軍の関係者が心配する中トルネオはとんでも無いことを言い放った。 「おぬしっ! この場所へ急いで運べっ! なるべく衝撃を与えぬようにじゃっ!」 「わ、わかった!」 素早く口で説明したトルネオはドラゴンの彼女に向かって早く行くように催促をすると彼女はインテグラルを確りと抱えて地面を脚力のみで蹴りだし、最寄の大樹に足を当てて更にその大樹を蹴りだし次の大樹へと移る。 その速度たるや森の狩人と誉れ高いマンティスにも劣らなかった。 しかしそれだけ激しく動いても腕の中で横になるインテグラルには一切の衝撃がなく、体もほぼ水平を保っていた。 「・・・あれはバケモノか?」 「おぬしがいうか? ラガよ・・・」 そう呟くアヌビスのラガに空かさず突っ込みを入れるトルネオを他所に僅か数瞬で見えなくなったのであった・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 「・・・ん・・・あ、あれ? ここは・・・うぐっ!?」 「あ、まだ動かないで! 」 眩しい位の日の光を目に受けてその太陽のささやかな攻撃で目が覚めたインテグラルは上体を起こそうとしたが途端に激痛に襲われてしかめっ面になってしまう。 と、そこへ優しく心配そうな声をかける影が居た。 彼女その人である。 「あ、あれっ? 君は・・・無事だったみたいだね。良かった・・・」 「えっと・・あ、貴方の・・・お、おかげです・・」 紅くなってモジモジして下を向く彼女のなんとかわいいことか。 「そうか・・・えっと・・・」 「・・・私には名前がないんです。」 「・・・名前が無い??」 名前を聞こうとしたのか口ごもってしまったインテグラルだったがそれを先読みした彼女の思わぬ返事で顔一杯に疑問を浮かべてしまうのだった。 そんな彼に彼女は自分がどういうところから来たのか、今までの経緯を彼の質問を挟みながら話していくのであった。 「なるほど・・・誤召喚か・・・」 「でもいいんです。あの世界は縄張りが重要でしたが、この姿になって早5日。皆さん優しい人ばかりで・・・いまではもう過去の私に戻ろうとは思いませんし、ニンゲン嫌いも無くなりました。」 「そうか・・・ん?? 5日??」 彼は彼女の語りの中で重要な言葉を聞いたので確認のため彼女に向き直ると? 「はい、貴方はずっと気絶していらっしゃいましたよ?」 「おぉ、なんということだ・・・」 頭を抱えて蹲る彼はすぐに復帰して彼女に向き直る。 「えっと・・・隊の皆は?」 「故郷へ帰られた方もいらっしゃいますが、この街へ残られた方も・・・」 そういうと彼女はイスに座って彼と向かい合って視線を首ごと窓の外へと視線を向け、つられて彼も視線を向けることに。 「ほら、計画ではココでベンチに座ってだな・・・」 「あ、はは・・・もうちょっと緩くしようよ、な?」 ちょうどソコから外の公園をのぞく事が出来、ソコの一つのベンチでは普段着の隊長とラガがベンチに座って仲良く、いや、仲睦まじく乳繰り合っていたのです。 「・・・あんなかんじで。」 「・・・納得しました。」 それを遠い目で見た彼ははぁ、と溜息を一つして彼女のほうへと向き直る。 それから暫くの無言の後のこと。 「・・・あ、あの・・・」 「うん?」 暖かい空気が流れる空間でまったりとしていた彼が彼女に呼ばれて首を向けるとやはり彼女は指をモジモジとさせて彼の顔を見ては逸らし、見ては逸らしを繰り返していた。 彼は彼女が何か言いたいのが分かったので彼女から言い出すまでずっと待っていた。 「あ、あ、あ・・・貴方に助けられたときに・・・そ、その・・・す、好きになっちゃい・・・ました・・・」 「・・・・え・・」 彼女の尻すぼみの声でも彼にはばっちり聞こえてしまったみたいで彼女と彼はほぼ同時に顔を鬼灯のように紅くしていく。 「そ、そういえば・・・名前についてなんだが・・・」 「えっ?」 そのなんとも気まずい空気を脱するべく彼は彼女に語り始めた。 彼女は予想外だったのか目を見開いて驚きの表情で彼を見つめる。 「・・・゛アリア ゛・・・というのはどうだい? ・・・いつまでも君や貴女というのもアレだし・・・」 「・・・っ! アリア・・・アリア・・・アリア・・・♪」 彼女はよっぽど嬉しかったのだろうか尻尾をゆったりと左右に揺らし両手で頬を押さえ込んだ顔には笑顔が出来ていた。 「・・・あ、あなたの名前は?」 「え、僕かい? 僕はインテグラルさ。」 「インテグラル・・・インテグラル・・・♪」 アリアは愛しいという感情をもつインテグラルの名を呟くにつれて目じりが垂れてくる。 が、すぐさま凛とした表情に戻すと彼女は彼の両手を自身の両手で包み込み彼の胸の上に置いてこう宣言した。 「インテグラル、私はあなたのことを好きになりました。ど、どうか・・・わ、私と・・・その・・・こ、恋人に・・・なってくれませんか・・・?」 「アリア・・・」 宣言をしていくにつれて自身が無くなっていくようでどんどん声が小さくなっていき心なしか体も震えて瞳には涙が溜まり始めていた。 そんなアリアの必死の告白に対してインテグラルは一息呼吸をして自分を律するようにして彼女に真剣な目で向き合い彼女の今にも涙が零れ落ちそうなトパーズカラーの瞳を見据えて・・・ 「まだ僕たちは互いの事をまだ知らないから・・・恋人からで良ければ・・・ね♪」 「っ! あり・・・がとうっ・・・・!!」 彼が告白の返事をした後、震える彼女を自身の体に鞭打って彼女を抱きしめる彼は終始笑顔だった。 対して彼女は彼が怪我人ということもあって優しく抱きしめ不安でいっぱいだった表情が喜びで満ち溢れ嬉し涙を流していた。 ・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 「ねぇインテ?」 「んぅ? なんだい? アリア?」 その日から数年後の朝のこと。 ベッドで横になる二人はお互いが生まれたままの姿なのは今までその行為をしていたのだから仕方ないが。 「もうすぐ記念日ね・・・」 「うん、もうすぐだね・・・」 互いの顔が触れ合えそうな距離で互いに微笑んでいた。 するとなにやら五月蝿いくらいの足音を立てて夫婦となった2人の部屋の前で止まり、その来訪者はドアを叩いた。 「パパー! ママー! もう会議の時間だよー!!? ラガさん達に起こられちゃうよ?!」 「おっと・・・それはいけないな?」 「えぇ・・・早く着替えましょう?」 二人は素早く起き上がると服を着替えてゆっくりと扉をあける。 その先には背に翼を生やした黒い毛に覆われたドラゴンの小さな女の子が2人を見上げて不機嫌そうに立っていた。 「もぅ! おそいよぉう!」 「はいはいゴメンな? フィト。」 「ほらフィト? パパが困っているでしょ? 」 ドアを空け切った瞬間にその娘フィトはインテグラルの足にぎゅぅっと抱きついて額を擦りつけるようにして甘えていた。 彼はその娘をあやすようにして頭を撫でるとフィトは「ふにゃ〜♪」と気持ちよさそうに享受しているも母親であるアリアに剥がされてしまう。 「ぶぅ〜」と不満顔で頬を膨らますフィトは渋々ながら離れてかわりにインテグラルとアリアの手を左右の手でそれぞれ握って強く前へと歩き出した。 「もぅ! はやくご飯たべようよ!!」 「ははっ、はいはい♪」 「ふふっ♪」 ーーーこうして異世界から来た彼女だったが、今は幸せに暮らしているとさ・・・・♪ーーー 【完】 |
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ナルクルかーーいーーよーーー!!!!
Q:モンハンで一番好きな飛竜は? A:ナルガ・クルガしかありえません。 どうでしたか? 結構ビクビクしています・・・(非難されそうで・・・) でも後悔は無い!・・・・うん多分・・・ いかがでしょうか?(´・ω・`) 11/09/24 23:27 じゃっくりー |