『貴女の為だけにアカリを灯します・・・』


「・・・・・・っん・・・・・」
一人暗がりの部屋にて布団を被り朝の日差しが襖の間から差すのを嫌そうにする動きを見せる。
そのモノの枕元には酒瓶がコレでもかと転がっていた。

「・・・ぁぁ・・・気ダルイ・・・」
そして燦燦と差し込む太陽の熱気に負けていそいそと布団から出てきたのは全く手入れなどされていなさそうなボサボサでパサパサな【黒い】髪と尻尾の狐の魔物のようだった。

「・・・宗右衛門・・・ぐっ!」
誰かの名前を呟くと悔しそうな顔になり近くにあった飲みかけの徳利に手を伸ばし一気に喉へと流し込んだ。

「っくっくっく・・・・・・・ぱぁっ!・・・うぅぅっ・・」
と思うと次は泣きだしてしまった。

そして泣き止めばまた酒を飲み、また泣き・・・それが彼女の腹が空腹を訴えてくるまで続いた。

やがて彼女は一切の動作が止まると?


「・・・はぁ。仕事に行かなくてはな・・」
未だ影が差す顔は酷くやつれていた。普段の彼女からならキリッとした印象を受ける釣りあがった目尻は下がり、爛々としていた紅い瞳は濁っていた。

ズルズルと体を気ダルそうに姿鏡の前までやってきて今まで肩が肌蹴てだらしなく着ていた白の寝巻きをパサリと畳の上に落とす。
そして映し出された自身の姿を見て溜息と苦笑をたたえて自ら貶める言い方で鏡の中の自分にいった。


「ははっ、なんてぇ体だよ。頬なんかあと少しで骸骨になるんじゃないかい? 体の線も随分と貧相になってきちまった。いつも整えていた綺麗な黄金の髪と尻尾はどうしたよ? ・・・情けないね。本来の毛色が出ちまうくらいに妖力が弱くなっちまっているなんてね。」


そう愚痴ると自分の右側の耳をチョィッ、と摘む。
ついで尻尾をゆっくりと抱くように抱える。尻尾は所々ささくれだっていた。


「こんな黒の妖狐じゃぁ町にいらないからって術で金にしていた・・・なんてなぁお笑い種だな。・・・はは、恋ってのはこんなにも人を、妖怪をだめにしちまうなんてな・・・」
スッ、と鏡に・・・否、鏡の自分の手のひらに触れて更に彼女は言う。


「だらしないねぇ、本当にどうしようもない位に。嘘をついていたバチでもあたったんかね? ・・・こんな姿じゃ奉行所に顔見世できないね。はは、情けない。アイツが昇進してたったの4日でココまで墜ちるとは・・・本当に゛・・な゛ざげな゛い゛・・っ」


身体が全体が小刻みに震え、流しきったであろう涙が再び彼女の頬を伝う。


「っぐっ・・・・これじゃ赤李にも宗右衛門にも、後輩にも誇れないじゃないか・・・そうだろう? 【禮前(わたし)】よぉ・・・」
しかしすぐになき止みまるで汚いものを見るような目で鏡の中の自分を見て罵る。


しばしの沈黙。


まるで空間が止まったかのような錯覚。


その時襖の向こうから若い男の声が聞こえる。

「禮前様? 着替えをお持ちしました。」
「・・・そうか、はいっていいぞ。」
入室の許可を出した禮前は軽く今での白い寝巻きを簡単に着てその男の入室を待つ。

「はい。失礼しまs・・・えっ!? ら、禮前様っ?! 術を施されていないんですかっ!?」
入ってきたのはこの禮前の屋敷で唯一の人間で男でもっとも古参の小間使いである瑠璃であった。

「・・・あぁ、もうめんどくさくなってなあ。」
「い、いけません! すぐに精力剤をお持ちいたしますっ」
この瑠璃という小間使い。かなり仕事のできる男である。だが歳に比べて童顔ということと低身長もありまだ元服したてのように見えるも宗右衛門と変わらない年齢であったりする。

「よい。・・・はぁ、こんなことになる位失恋というのは酷いものなのか・・・」
「・・・左様で。」
その何気ない禮前の一言で苦虫を潰したような顔になる瑠璃。

「恋なんてしなけりゃ・・・いっそこのまま・・・」
「・・・禮前様、先に謝らせていただきます。すいません。」
「?? 何をいっt・・・ 」

パァァン!



「・・・え?」
「いい加減にしろっ! アンタが譲った道をいつまでも悔やむなっ! アンタがウジウジしているとコッチまで気が重くなるんだよっ!」
下を向いていた禮前に一言謝罪を言うと瑠璃は禮前の頬に思いっきり平手打ちを食らわした。



「・・・っ! 手前ぇになにがわかるってんだっ!」


パァァン!


思考が追いついて瑠璃のその言葉に怒りが込みあがってきた禮前は今まで積もっていた黒い感情をのせるように瑠璃の頬に平手打ちをする。


「あぁ! わからないねっ! まだ俺はアンタほど長くいきていないんでね!」


パァァン!


「生意気言うなっ! 橋下から拾って今まで育ててまだ21のガキがっ!」


パァァン!


「あぁそうだよっ! だがなっ! アンタ自分で言ったろうが! 『自分で誇れるものを心に一本通して生きろ』って!! それがなんだよっ! この体堕落っぷりはっ!!」


パァァン!


「っ! う、うるさい! うるさいうるさいうるさいっ!!」


パァン!


禮前はハッとした表情になりその心の内に様々な感情が出てきた。
心内で葛藤して身体が震えている禮前など露知らぬ瑠璃は禮前に対して止めの一言を放つ。




「今のアンタには今まで俺が好きだった禮前の心がねぇんだよっ! 俺の母親であり、身近な異性であり、凛とした態度で俺に正しい道を解いてくれた人生の師であり、初恋の人だった禮前がっ!!」




ぎゅっ!

「っ!!」
ピクン、と身体が跳ねる禮前。一瞬自分が何をされているか分からなかったが徐々に自我がはっきりして良く周りを観察すると・・・


自分が瑠璃に抱きつかれていた。
だが身長差で禮前の方が背が高い。その為瑠璃は顎が肩に乗るくらいに背伸びしている。


「・・・こんなにやつれたアンタを見たくねぇよ。」
「っっ! ・・・瑠璃、るりぃ・・・る゛り゛ぃぃいい!」
ガクンと膝から落ちる禮前は瑠璃をぎゅっと抱きしめ返してまた涙を流す。

でも今度の涙には確りとした熱があった。

「・・・ないちゃえよ、んで心をすっきりさせてしまえよ。」
「う゛ん、う゛ん・・・・・・ぁぁぁぁぁ」
ポンポンと頭を赤子をあやす様に撫でる瑠璃に顔を埋めてワンワン声を上げて泣く禮前であった。

どれくらいの時間が過ぎただろうか?

頭の上にあった太陽が今ではもう西の彼方に沈みかけていた。

「・・・お気は済みましたか? 禮前様。」
「・・・あぁ、手を煩わせてすまないな。瑠璃。」
涙を拭き前を見るその表情はまさに凛とした麗人、同心禮前そのひとであった。
そして互いの体をスッと離して向かい合う。

「さて、私の処分はいかがなさいますか?」
その顔を見て静かに微笑んだ瑠璃は頭を軽く下げながら今回の不躾な態度への処断を仰いだ。それはそうだ。いかに人を思えばこその気持ちがあれど主人に手を上げた小間使いなぞ良くて放免、悪ければその場で打ち首だ。


だが禮前はそのどちらでもないことを言った。

「・・・その前に質問をしよう、正直に答えよ!」
「はい。何なりと。」
「今でも私を好いているか? 愛を感じているか?」
「・・・はい。」
瑠璃は少し赤くなりながらも応える。

「先までの通り、私はまた道を踏み外すかもしれん。その時は修正してもらえないか?」
「・・・?・・・は、はい。」
あれ?、と思いながらも正直に答えていく瑠璃。

「なら私のことを屋敷では禮前と呼び捨てにしろ。敬語なども不要だ。」
「・・・??? え、は、はぁ・・・」
なおも頭に疑問符が浮かぶ瑠璃。

「・・・だから家ではあまえさせてくれないかな? 瑠璃ぃ?」
「・・・わかったよ。」
最後の質問に答えた瞬間デレッとした態度になり、今までの堅苦しい言い方でなく街にいる生娘のように柔らかな言い方になる禮前。その顔にはニコニコとした笑顔があった。瑠璃もその意図に気付いてハハッ、と苦笑いをする。

「これからもよろしくね? る・り・♪」
正座している瑠璃にしな垂れ掛かり人差し指で瑠璃の胸板でツツッとのの字を書く禮前の尻尾は嬉しさの余りパタパタとコレでもかって言うほどにブンブン振れていた。

そしてその夜は只管激しく交わった。使用人と主という壁が取り払われて晴れて夫婦となった記念といわんばかりに・・・

・・・・・・・・・

・・・・・

・・・


後日、禮前をみた奉行所の面々は吃驚していた。金色だった髪が濡れた烏のようなしっとりとした黒髪になってフサフサだった2本だった尻尾も3本になって帰ってきたのだから。自分の過去をさらりと説明したら奉行所の皆は口を揃えて「あぁ、なるほど。」と納得した。
その日からの禮前の働きぶりは凄まじく、一年経たずして彼女は・・・


「東西総括奉行様のおな〜りぃ〜」
一同、白い敷石の上の者はみな平伏する。
壇上の同心及び役人も頭を垂れる。

そして出てきたるはこの街の名裁き、【宵ノ宮(よいのみや)】の治安の顔である東西統括奉行だ。東町、西町での奉行の上の最高権力。

「皆のもの、面をあげよっ!」
その声は凛とした女性のものだった。
壇上に続き敷石のものも顔を上げるとそこにいたのは9尾の黒毛妖狐が正装をして堂々と座っていてた。

「ではコレより捌きを始めるっ! この黒髪のように何者にも染まらぬ私の前では一切の嘘偽りは許さぬ。心して喋るが良い。」
こうして今日の捌きが始まった。

そしてその日の夜には?

「只今戻ったぞ!」
「お、お帰り。 疲れたかい? 禮前?」
玄関を開けて帰宅を告げると背に子供を背負った瑠璃がやってきて労いの言葉をかけた。

「うん、でも今日も愛してもらうから疲れなんてないもの♪」
「はぁ。毎晩5回以上ってしんどいんだけど?」
玄関を潜ってから態度と口調が一変する禮前に全く動揺することなく瑠璃も応える。

「・・・ねぇ瑠璃?」
「・・なんだ? 禮前?」

『大好き♪』
『あぁ、俺もだ♪』

・・・今日もこの家は明るいようです。

【完】


振られたままおわらせるかよっ!!
どうも記念すべき50作目にナニかいてんだっ! のjackryですww

エロエロなシーンを期待した人・・・へへっ! 残念だったなっ!!・・・ごめんなさい調子こきました・・・(ビクビク
この話の夜の部はいつものように・・・

☆  脳  ☆  内  ☆  補  ☆  完  ☆

・・・でお願いします。
次回は・・・・エロイのかきます。てかかかざるを得ない・・・(汗


いかがだったでしょうか?(´・ω・`)


11/08/23 17:02 じゃっくりー

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