季夫人を封じてから数日･･･

ここは葛篭の部屋･･･

「焔、暫くは動くなよ?」
「あぁ、御免ね･･･長海･･･春･･･」
「焔さん、貴女が無理してしまっては計画が無事に進められないんですよ?」
本来の姿になって寝具の上に仰向けに寝ている焔に付き添うように長海と春が寝具や備えの椅子に座って看護をしている。

その焔の顔は･･･どこからどう見ても病人の顔だった･･･
閉じかけた瞳、額や顔から珠のような汗、荒い息、白いことが自慢の肌が病的にさらに白くなっている･･･

しかしその表情は数日前より幾分かよくなっている･･･

どうしてこの状況になってしまったのか?

･････････

･････

･･･


季夫人を封じた夜、部屋に帰ってくるなり『複写』が行き成り解けて･･･倒れてしまった。急いで皆で寝具に寝かし、長海と葛篭は焔があらかじめ溜めておいた『人除けの呪符』と『絶音の呪符』を四方の壁に貼り付けた。
･･･いつもと同じようになった部屋の中、苦しそうに息をする焔･･･

「ふぅ･･･ぅ････まさか･･･ここまで集中的に･･･ぅ･･･符を使うことに･･･なっちまうなんて･･･ぅぅ･･･」
「え? どういうこと?」
「符? 確かに今日は多くつかっていたな･･･」
愚痴る焔の口から符の言葉が出てきたとき春と奈々が疑問にみちた声と共に顔を顰めて首を捻った。

「･･･つまり、妖力の過剰行使が原因･･･」
「そぅ･･･その通り････ぅぅ」
「何っ?!焔っ･･･どういうことだ･･･っ」
顎に手を当てて考えていた慎香がハッとした表情になり小さく呟いたその言葉に焔は反応した。
驚愕の表情になる長海は慎香を見たのち直ぐに焔に向き直る。

「焔･･･史厳帝王の精はどうした?･･･まさか垂れ流しではないだろうな?」
今度は奈々がハッとした表情になって･･･焔に問いかける。

「は、はっ･･･あんなの全部入れたくないね････ぅぅ･･･この尻尾だって･･･ぅぁ･･･長海のものに･･･ぅ･･･少しだけ帝王のヤツの精･･･ぅぅ･･･肉体に宿っている方を･･･ぅぅ･･･いただいた･･･結果･･･ぅ･･だよ･･･」
「焔･･･お前･･･」
奈々は驚いた。･･･と同時に･･･

≪やはり･･･長海は皆から好かれて･･･ふふっ･･･≫

･･･交わることで精液から直接吸うのではなく、態々体内から精力を変換して吸収する･･･
そんな回りくどいことをする焔の心情は如何ほどだろうか･･･

･･･奈々は優しい笑みで焔を見つめていた。

「で、でも･･･それって･･･」
「えぇ･･･符術、ましてやこれだけ大掛かりなものをいくつも･･･となると･･･使う力･･･妖力というか、魔力というか･･･とにかく、それが足りなくなるのは必然。････どうしてそうなるまで･･･あっ･･･」
焔のその発言を聞いて頭の良く回る春と慎香は直ぐにソレによる危険性を察知した。
そして原因となりえるものが一つ･･･慎香の頭によぎる。

「･･･ふふっ･･ぅ･･･何、気にし･･･ぅぅ･･･ないで･･･。」
「やっぱり･･･私に使ったんですね･･･大半を････」
思い当たる原因･･･それは慎香の【気付けの儀式】。

普段から隠していた妖力すら開放して･･･
長い呪印を妖力を篭めて書き上げて･･･
最後の一喝に更に力を篭めて･･･

「うぅ･･･ご、ごめん･･･なさい･･･ぅぅっ･･･ﾋｸﾞｯ･･･」
･･･それを悟ってしまった慎香はその綺麗な赤い瞳を潤ませ･･･涙が止まらなくなり･･･寝具の横でへたり込んでしまった･･
そしてその大きな手で顔を隠してしまった････

そこへ･･･

「･･･だから･･･ぅぅ･･･気にする･･･ぅぁ･･･なって･･･」
「あ･･･」
ふわりと慎香の頭の上に焔の手が･･･
あまり体に力が入らないのだろうか･･･肩肘立てて小刻みに震えながらも手を伸ばし･･･

慎香の頭を撫でる･･･

それに気付き顔を上げたところへ･･･

「･･･まぁ、焔がいうなら･･･そういうことだ。」
「･･･だから気にするな。」
奈々、長海も隣に立ち慎香の肩にそれぞれ手を置いた･･･

「･･･あ゛･･･あ゛り゛がどう゛･･･ござい゛まじゅ･･･」
耳が完全に折れ曲がり･･･
尻尾が歓喜で激しく振れ･･･
涙でぐしゃぐしゃになりながら･･･



慎香は仲間の暖かさに触れていた･････



「･･･ぅ･･･そ、それじゃ･･･ぅぁ･･･あたしは･･ぅ･･･寝るとしま･･･ぅぁ･･･すか･･･」
そういうと撫でていた手を引っ込めて･･･力なく両手をダラリと体の直ぐ横にぴたりと沿わせて静かに目を閉じた･･･

暫くすると安らかな寝息が聞こえてくる･･･
すぅ･･･すぅ･･･と。


･･･安心しきった無邪気な笑顔の焔から。


「･･･長海、あたしは今日ここに残るよ。･･･春はどうする?」
「わたしは･･･自分の部屋に戻るよ･･･いても何も出来ないもの･･･」
「そうか･･･慎香は?」
その焔の表情を見て再び己も笑顔になる奈々･･･だが直ぐにいつもの凛とした表情になると長海にここに残って見張りをすることを伝え、春と慎香にも意見する。

「私も残ります。･･･これが最初の恩返しですっ」
先ほどまでの泣き顔は何処へやら･･･奈々に引けをとらぬ凛々しさになる慎香。
･･･尻尾はゆらゆらと少し早く左右に揺れていた。

･････････

･････

･･･

そして今に至るのである。
その件の二人はというと･･･

朝になって長海と春が姿を見せた途端に糸の切れた操り人形のようにそれぞれ倒れていった･･･

奈々は長椅子に仰向けに･･･
慎香は壁にあった肘掛付きの椅子に体を少しずらして･･･

･･･スゥースゥーと寝息を立てて寝ている。
･･･では今まで名前の挙がらなかった葛篭はというと･･･

「葛篭･･･ずっと居たんだな。」
「えぇ･･･一晩中手を握っていてくれていたわ。･･･見てよ長海、この顔。」
耳を折って困った顔をして微笑む焔の視線の先には･･･

･･･口から涎をたらして、ふわりと微笑んでいる葛篭が寝具の隣の椅子に座ったまま寝具に突っ伏して寝ていた。

夜に奈々と慎香、葛篭が。
昼に春と長海が。

それぞれ番をして焔の回復を待っていた･･･


ただ･･･この日は違った。









『あら? それが貴女の本当の姿なのかしら?葛篭姫さん･･･』











「っ!!」
「･･･っ!」
部屋に聞いたことの無い声が響く･･･
【術が解けていない部屋】に･･･
その声の主は長海と奈々の間くらいにスッと･･･

揺らめいて現れた。

奈々が飛び起き、距離をつめて直ぐに抜刀･･･できなかった。
同じように直ぐに長海は声のした方へ剣を抜き放･･･て無かった。

「･･･」
「･･･それはしまっていただけないか? 武人殿･･･」
･･･奈々の刀の柄頭に手を突き出し抜刀を封じた上、腕の鎌を喉元に突きつけられたまま止まった状態で･･･
･･･長海の喉下には短剣が薄皮一枚斬れてつきつけらけた態で･･･

各々止まっていた･･･

長海は目線だけでその短剣をもつ手の持ち主を見る･･･
声を聞いた･･･
そこには････

長海より頭一つ飛び出た黒い鎧を全身に纏う女がいた。




対して奈々も己を封じている目の前の女に目だけで全身をみる･･･
無表情の顔に口を布で覆っている･･･
腕をみる･･･
それは･･･

腕から直に生えていて･･･奈々の顔が鏡のように映りこんでいた。



「それほど警戒していただなくても結構ですよ。･･･私の名前は･･･」


『季礼(きれい)』


「･･･季夫人の養娘です。」
そういった瞬間っ!!


一気に部屋が重く冷たい空気になった。
･･･寝ていたモノも全員起きた･･･


「･･･そして【前・史厳帝王】の娘でもあり、将軍でもあります。」
カツンカツンと靴を響かせて･･･

「今日は争う為に来たのではなく･･･」
普通は紺や白のはずが･･･黒一色で揃われた将軍職の人が良く着る服に身を包んだ･･･

「ちょっとした提案とお願い、それと感謝と謝罪を述べに来ました。」
腰から蝙蝠のような翼が生え･･･
先が独特な形になった尻尾をゆらゆらと揺らし･･･
黒の腰まである艶やかな長髪とその頭の頂点の左右から伸びる捻じれた立派な角･･･
そして墨のように静かに･･･しかし、しっかりと燃えるような紅い瞳･･･

「では･･･貴女が葛篭姫ですね?」
「･･･はい･･･私ですが?」
･･･焔の横で未だに座り焔の手を握りながらも訪問者である季礼に顔を向ける。その葛篭の眼は･･･何時ぞやの春と奈々を説得した時の威厳が滲み出ていた。

しかし、相手も同じような･･･威厳に満ち、自信に溢れていた。

「･･･では、まずは礼を･･･養母である季夫人を【殺さずに】生かしていただきありがとうございます。･･･どうしました? そんなに驚かれた顔をされて?」
･･･無理もない。季夫人の消息を知っているのは傾国勢だけのはずなのに･･･
焔はその発言で危機感を覚え発言者である季礼へ攻撃を･･･

「ふふふ･･･季礼様に攻撃してはいけませんよ?焔さん?」
･･･する為に伸ばした手をしっかりと握られる。

誰に?

焔と同じような服を着た･･･
同じような尻尾･･･
同じような耳･･･
同じような髪･･･
ただ違うのは･･･

おしとやかな顔で目の色が左右で違うということだ。
左目は狐種の魔物のように金色なのに･･･
右目は翡翠のような翠色･･･

「お初にお目にかかります、私は【禄(ろく)】。以前、流浪の傭兵団を率いていました。･･･貴女のお噂はその時に常々聞いておりましたよ。同じ狐である身として非常に鼻が高かったです。･･･ちなみに私は【稲荷】ですけどね。」
クスクスと焔の腕を握っている手とは逆の手で口に手を当てて笑う禄。
･･･焔は違う意味で焦っている･･･

「あぁ･･･焔さん、今は術なんてつかえませんよ? 私が握っているこの手から焔さんの術を無効化していますから･･･」
そう･･･術が全く発動しないことに焦っていたのだ･･･

「そして私は運よく焔さんと同系統の術を使っているので･･･このように私たちだけ、この術が張り巡らされた部屋に入れたんd･･･」
「もういいかしら? 禄･･･」
「はっ････これは少々おしゃべりが過ぎました･･･」
話が長いと目線と言葉で季礼は禄の発言を遮った。

「･･･つまりソレのおかげで･･･季夫人の場所を知ったと?」
「えぇ、それで差し支えないわ。」
「･･･んで、私らにお礼参りでもしにきたのかい? 季礼さんよ?」
喧嘩腰の焔に涼しい顔で答える季礼に益々機嫌を悪くする焔。

「いいえ。･･･むしろソチラが数日遅かったら私たちが同じようなことをしていましたが?･･･季夫人に対して。････そうね･･･【大魔蟲(デビルバグ)】にでもしたかしら･･･」
くっくっくっ、と黒い微笑みで笑う季礼。
･･･そこへ･･･

「･･･仮にも養母だろ? ･･･あたしらが言えた義理じゃないけどさ、どうしてそこまで嫌うんだ?」
「簡単ですよ。･･･権力を直ぐに欲しかった当時の現史厳帝王は私を無理に養子にして城内粛清をはじめたんですよ･･･当時の･･･私の本当の父に罪を全て擦り付けて、失脚させ、当時の優秀な良官達を断罪し、処刑し････そして１０年。･･･それが今の史厳帝王ですよ。そして季夫人･･･アイツは私を進んで引き取った･･･建前で。部屋に閉じ込められて一歩も出るなと･･･私の前に来るんじゃないと･･･武器をもつなと･･･」
ｷﾞﾘｯと握る手･･･眼は憎悪の炎がやどった季礼。

「そして５年前･･･余興だといって連れてこられた席で･･･私に･･･仮にも娘である私にっ････しかも現史厳帝王の前でっ････」

『淫夢魔(サキュバス)と交わらせたんですよ････っ』

「･･･それでこのような体になりました。･･･これで恨むな、というんですか?････幸いにもこのことを知っているのはあの二人だけでしたのでまだよかった。･･･いや良くないですね･･･それを気に私は各地に･･･戦地に派遣されるようになりました･･･人との争いの場所のみで魔物との戦争の場所は避けられて･･･脅されながら･･･」
「･･･娘でさえ･･･か･･･」
「･･･其のときに私は季礼様と知り合いました。」
季礼の会話に俯き聞く傾国勢、そのうち焔がぼそりと呟く･･･
そのおもい空気を少し軽くするように禄が季礼との成り行きをはさんだ。

「えぇ。･･･ほら、毛嫌いする理由がわかりましたか?･･･つまりはそういうことですよ。」
「礼はわかった。･･･あとの謝罪、提案、お願いというのは?」
ああ、そうでしたね･･･と季礼が一言呟き･･･

季礼は立ち上がり奈々、慎香、春に向き合う。

「な、なんです?」
「･･･何か?」
「･･･なんだ?」
そして三者三様の反応をして季礼を見つめる･･･





「･･･ごめんなさい。私に力が無かったばかりに貴方達に養父の魔の手を向けてしまったこと･･･ここに深く謝罪いたします･･･」
スッ･･･と綺麗に腰を直角に曲げて･･･

三人に頭を下げた。





その季礼の突然の礼に驚く三人。
あたふたする春。
目を閉じて黙り込む奈々。
そして困った顔をした慎香が焔に目配せをすると･･･

うなずき返された･･･

「･･･お顔を上げてください。貴女が謝るのは何か違う気がしますが･･･その謝罪･･･受け取ります。しかし、これで許したわけではないです。」
「勿論です。･･･あと･･･この二人に見覚えはありませんか? 慎香さん。」
「えっ? ･･･っ!!･･･ま、まさか･･･」
長海と奈々を押さえ込んでいた者たちが季礼の合図で二人から離れて･･･

兜と布を取ると･･･

「お久しゅうございます。慎香様。」
「･･･久しぶり。･･･慎香様。」
「【剣(つるぎ)】に【御影(みかげ)】っ!?････無事だったのね･･･」
二人を見た慎香は涙が出ていた･･･

「･･･えっと･･･慎香とは一体どういうつながりで?」
「これは失礼、武人殿。私の名は御影。種族は【死霊騎士(デュラハン)】だ。元敏省近衛兵隊長･･･機会があったら是非一度手合わせ願いたいな。」
「･･･私、剣････【大鎌蟷螂(マンティス)】。････元敏省近衛兵副隊長。」
問いかける長海に丁寧に答える御影とぶつ切りの要所要所のみ言葉を発する剣。

「なぜそちらに?」
「それはですね･･･」
「御影さん、私が話しますよ。」
再開を喜ぶあまり本来の目的を忘れそうになる御影を季礼は苦笑いをしながら注意する。

「では･･･ここに来た目的ですが･･･」

再び空気が重くなる･･･

全員共に武装は解除しているが･･･

「あなた方はこの国を潰そうとしていらっしゃいますね?･･･大いに結構です。もう一度始めるにはまず既存の悪を滅ぼす必要があります。･･･そしてココからが提案なんですが･･･私たちも国を疲弊させるお手伝いをいたしましょう。」

傾国勢は戸惑った。･･･何が目的かと･･･

「そのかわり、その間に良心的な臣を集め再編し、私たちは国をもう一度作り直します。」

･･･それが本当なら･･･旨い話でもある。････だが、うまい話の裏は･･･

「･･･んで軍備を整えてここら一体でも攻めて統一でもするんかい?」
「えぇ。其の通りですが?」

･･･焔が上げた最悪な予想をあえて言ってみると･･･まさに其の通りだった。

「今、周りでは戦争ばかりです。そんな時代だから現史厳帝王のような俗物が出てくるんです。･･･つまり戦争がなくなればこのようなことにはならなかったと言う結果論でもありますが･･･。国を武力で統一した後、王政を解体し民主政治に切り替えれば･･･あとはお分かりですね?」
「軍はそのまま治安維持にまわされ、見知った顔が国･･･いや其の場合地方を纏める･･･ってことかい?」
「えぇ。頭の回転が速くて助かります。」
この凄い速さの論議･･･聞いている者のうち･･･

長海は酷く唸っていた。
奈々は眉間に皺を寄せて人差し指をあてて唸っていた。
春と慎香はうんうん、と首を立てにふりながら話に相槌を打っていた。

･･･各々の知能指数がわかる瞬間であった････

「･･･んで、提案はわかった。･･･お願いは?」
焔はニヤリと黒く笑む･･･

「ふふ･･･手を組んでいただくということです。」
同じように黒く笑む季礼･･･


･････暫く沈黙が続いた後････

「･･･断る。」
「あら? ･･････それは残念。･･･では途中までの共同戦線はいかが?」
「･･･それなら良しとしましょう。」

焔はすっ、と右手を出した。

「なら･･･一時同盟締結と言うことで･･･」

その右手を季礼が掴む。
･･･握手の形をとった。

「それでは･･･私たちはこれで･･･皆さん、ごきげんよう････」

スゥーッ、と部屋に入ってきたように静かに出て行く季礼。
季礼が部屋から出た瞬間、季礼の姿が人間と全く変わらないものになった･･･

それを目の当たりにした傾国勢が驚いていた間に他の三人もいつの間にかいなくなっていた。
その後、長海がふと先ほどのやり取りについて焔に聞いた･･･

「焔、なんで最初の案を蹴ったんだ?」
「･･･長海、私らが楼坑に帰れなくなってもいいのかい?」
『っ!!?』
その焔の言葉に傾国勢全員が固まった･･･

「･･･さしずめ脅しの道具だろうね。」
「･･･とんでもない狸がいたもんだ」
･･･全員から冷や汗が出ていたのはきっと見間違いではないだろう･･･

その日以降は焔も通常通りに史厳帝王を誘惑し、長海と奈々は互いの武を高める為に修行に明け暮れていた。･･･よほど手も足も出なかったのが悔しかったと見える。
春と慎香で城内の内情を探り、囚われた各国の姫の内情を少しずつ把握していった。
そして葛篭は自分が女官という立場を利用し、街や下男下女などから史厳国の内情を事細かに瑠璃王へと秘密裏に流していた･･･

そして季礼側も徐々に働きかけて･･･下級文官やら武官などを篩いにかけて少しずつ己らの計画を実行して言った･･･


こうして二組の傾国勢により･･･


･････････

･････

･･･

傾国同盟から更に数日･･･

いまだ季夫人消息不明で騒がれて騒々しいはずの城内はすでにいつもの静けさに戻っていた。
･･･ありえないくらい自然に･･･

なぜ?

それは史厳帝王の放った一言が原因だった･･･






「季夫人がいなくなった?･･･放っておけ。わしは今葛篭姫との逢瀬に行く途中なんじゃ･････邪魔をするでないっ!」





･･･この日以降季夫人の話題は潰えてしまった･･･
政務も滞り、いつもの覇気がなくなって、痩せ細り･･･常に上の空の状態の史厳帝王をみて流石に怪しがってきた家臣達は各々如何するか考えた末に･･･



私財を溜め込み今のこの混乱に乗じて成り上がろうとするモノ･･･



諦め、在野のモノとして生きようと城を後にするモノ･･･



仕事を放棄し、贅沢を謳歌しようとするモノ･･･



なんとか国を立て直そうと奮起し、季礼に取り込まれるモノ･･･



諦め、今まで溜め込んだ金銀財宝をもって国外の領へ逃亡するモノ･･･



己の権限を利用し、売官し、直も私腹を肥やすモノ･･･



まだ決められず惰性のまま生活をするモノ･･･



･････頂点が･･･国がどんどん腐敗していく･････


【続】