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ーー【傾国】第四章・崩壊の調べーー |
歓迎会の次の日の朝議にて・・・・
この場は今大混乱がおきていた。 その始まりは帝王が入場するとき本来いるはずの・・・数十年連れ添った筈の『季夫人』ではなく・・・昨日入宮をはたし、初の夜枷を命ぜられたばかりの『葛篭姫』がいたのだから・・・ その位置に、帝王の右横に・・・・ 「帝王さまっ! どうして第一王后の季夫人様ではなく葛篭姫さまが隣にいるのですかっ!」 「そうですっ! なぜ長年付き添った季夫人様ではないのですかっ!」 「帝王様っ、目をお覚ましくださいませっ」 ・・・臣下側や後宮側のあちらこちらから飛び交う声、声、声・・・・・ 対して今まで自分がその場所にいた季夫人はというと・・・ 帝王の左横から一歩引いた場所・・・『第二王后』の立ち位置にて・・・ 「・・・なぜ、どうして・・・・きっと・・・きっとあの娘が・・・・何かしたんだわ・・・」 唇を固く閉じて・・・唇を切ったのだろうか、血を滲ませながらそう呟く彼女からは怨嗟の念が血と共に滲み出ていた。 その中、重臣の一人が・・・『言ってはならないことを』言ってしまった・・・ 「帝王さまっ! 何故そのような『辺国の姫なんぞ』に『栄誉ある第一王后の座』をわたすのですかっ! 」 と、国を蔑むだけに留まらずさらには『卑しい身分』と同意の言葉を発して葛篭姫を大衆の面前で辱めた。 「っ・・・」 「!! これ、葛篭よ泣くでない。・・・」 その暴言を聞き涙する葛篭にいち早く気付き手を肩に置き、下から覗き込むようにして労わるような言葉を発す帝王。 それを見て・・・ 「(ふふっ・・・いい気味ね・・・あぁ・・・憎らしい・・・)」 黒い感情が出る季夫人であった。 そこからモノの数秒待たすして・・・・信じられない光景が・・・ 帝王は無表情になり先ほどの暴言を放った重臣の前までほとんど一足飛びで近づき・・・ そして・・・腰に差した『剣』を・・・・ 風が追いつかぬほどの速さで振りぬいた・・・・・ 「くひっ・・・?」 己が死んだとも知れず、変な声を上げ・・・自分の首から大量の血飛沫がでているのを最後にみた重臣は息を引き取った。 ・・・・・一気に静まり返る場内・・・・聞こえるのは・・・恐怖で歯を鳴らす音、誰かが漏らしてしまったのだろう雨の降り始めのような音、泡を吹き数人倒れこむ音・・・・ そして・・・ 「「「きゃ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」 ・・・・時間差で女官達の甲高い悲鳴。 「・・・おい」 「は、はいぃぃ」 そんなことは意に介さず帝王は剣先を死んだ重臣の近くにいた臣下に向けて・・・ 「この国の・・・頂点は誰だ?」 無表情に・・・感情など知らぬような表情でその臣下に問いた。 「貴方様・・・史厳帝王ですぅぅ」 生きた心地がしないのであろう、顔面蒼白になりながら機嫌を損ねないように答えた。 「・・・じゃあ・・・・お前」 「はっはいぃぃぃぃ」 それを聞きやはり無表情のまま別の臣下に問い始めた。 「この国の後宮は・・・・誰のためにある?」 「あ、ああ、貴方様、史厳帝王の為でございますぅぅぅっ」 こちらもやはり白くなりながら答えた・・・ 「そうだ。つまり・・・」 別な臣下に剣先を向けると同時に・・・ 「後宮のモノ達を蔑ろにするという事は・・・どういうことだぁ!! 答えろっ!! 」 大きな怒声で質問を殺気と共にぶつけた。 「ひっ、て、帝王さまを、ぶ、侮辱するのと、い、一緒ですっ」 ・・・可愛そうに・・・一番当たりたくない時に当たってしまった年若い臣下の股下は酷く濡れていた・・・それでも先ほどの二の舞になりたくないが為に必死に答えた。 「そうだっ! そのとおりだ!」 と発言すると甲高い音と共に剣を鞘に仕舞った帝王が自身の席・・・玉座へ外套をたなびかせて歩き・・・・ 玉座の前で反転し、こう宣言した。 「これより葛篭姫及びそれ以外の後宮に対する悪評、罵声、罵倒を禁ずるっ・・・・もし・・・そのことがワシの耳に入ってきた場合・・・」 静まり返る場内に楔を差すように・・・・ 「その発言者の一族郎党・・・・ワシへの謀反有りとして『皆殺し』じゃ・・・・」 ゆっくりと・・・皆に言い聞かせるように・・・しかし何処までも冷たく言い放った。 これにて大混乱から始まり大恐慌後、静寂に包まれた朝議は・・・・身も凍るような宣誓と共に・・・閉議した・・・・ その中・・・焔の・・・葛篭姫の口元は・・・・『微笑んでいた』・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ ここは後宮の一室。件の朝議の後である。その部屋には・・・ 季夫人が佇んでいた・・・・ 日の差す窓の前に立ち外を・・・青空を眺めながら・・・ 「・・・おかしい・・・明らかに・・・」 何かを呟く季夫人。すると・・・ 「・・・今、戻りました。」 「ご苦労。・・・・首尾はどうでしたか?」 日陰の部分から声がしたが、彼女は驚く素振り無く冷たい声で振り向かずに労いと共に疑問を投げかけた・・・ 「・・・」 「・・・・そうですか。・・・この役たたずめ・・・消えろ。」 氷のような視線を首だけ向けて、温度を感じない声でその者を引かせた・・・ ・・・暫くすると再び静かな部屋になった。 「・・・ふふっ・・・葛篭姫・・・覚悟していなさいな・・・」 ・・・その季夫人からは黒い感情しか流れていなかった・・・・ ・・・少し移動して・・・ 先ほど季夫人に発言していた真っ黒の服と頭巾をつけたモノが後宮の天井裏を歩いていた・・・ 「・・・・」 一言も喋らず・・・小さな体を揺らすことなく・・・ 「・・・」 ただただ歩いていた。 「・・・いつまで・・・いつまで・・・こんなことを・・・」 そんな呟きを聞く限り・・・どうやら『彼女』は望んでやっているわけではなさそうだ・・・ 「・・・はぁ・・・」 と、溜息をして・・・息苦しかったのか付けていた頭巾を徐にとると・・・ そこには長海の部屋にいた『彼女』がいた。 「・・・だれか・・『潰してくれないかな』・・・この国を・・・」 なんとも物騒な発言だが・・・その瞳には哀愁が漂っていた・・・ 「・・・・『潰して』やろうか?・・・この国。」 「っ!? 」 あるはずも無い返事が後ろから聞こえてきた。 驚いた彼女は振り向かずにそのまま前へ距離を取って短刀を持ち振り返った。その先にいたのは・・・ 「・・・なるほど・・・お前が『葛篭達』を監視していたのか・・・」 「え? おにい、さん?」 ・・・両刃の短刀を握っていた長海だった。 「・・・少し話がある。ついてきてくれるか?」 「・・・いいよ。・・・ついていってあげる。」 それぞれ獲物を向けて対峙していたが・・・・それだけで長海の力量が分かってしまい・・・長海が発言と共に武器を下ろしたのをみて同意し、自らも武器を下ろし同意する彼女。 ・・・少し場所を移動したその先は・・・ 『葛篭姫の部屋だった』・・・・ 部屋では長海の来訪に気付いた焔が『人除けの術』と『絶音の術』を施して待っていた。 「・・・・」 「・・・はぁ・・・・長海・・・なんでつれてきた?」 「・・・ネズミさん・・・ですか?」 彼女は大いに困っていた。ほいほいついて行った先が監視対象の部屋なのである。そんな彼女は押し黙って沈黙を貫き通しているが・・・ その傍では首から上だけ振り向きジト目で長海をみる焔・・・もとい葛篭姫、『彼女』が珍しいのか耳を引っ張ったりして目を輝かせている葛葉。 「ん? 何か『ココ』に不満があるみたいだから。」 「・・・それだけ?」 「・・・だめか?」 シレッと言う長海に呆れて何も言えなくなる焔。 そんな中、このまま流されるのは不味いと判断したのか・・・ 「・・・見たところ・・・貴女、葛篭姫ではありませんね?」 「・・・だったら?」 真っ向から質問した彼女に対して同じように真っ向から・・・但し殺気と妖力のおまけ付きで返す焔。 それに当てられたのか・・・体が竦む彼女。 「焔。おやめなさい。」 「葛葉、あんた・・・こいつが何か分かっているの?」 「承知しております。」 その様子を見ていた葛葉が焔を静かに叱りつけた。 そして危惧すべき存在だと言っても知っていると答える始末・・・ 「・・・まさか・・・貴女が・・・?」 その遣り取りで気付いた・・・気付かされた・・・本物の気品に・・・ 「・・・はい。私が正真正銘・・・葛篭姫です。」 そういうと彼女は・・・会ったばかりで名前も知らぬ彼女に腰を曲げて挨拶をした。 ・・・その挨拶という短い動作の中にも・・・相手を思いやる慈愛と王家独特の気品が漂っていた。 ・・・彼女は・・・焔とはまた違う魅了にかかってしまったかのようだった・・・ 「・・・私は・・・この後宮の『元』案内人、『現』監視者の『春(ハル)』といいます。・・・今までは大変無礼なことをしてまいりましたが・・・これから貴女様に仕えてもよろしいでしょうか・・・?」 「おいおい、どうした?」 「心変わりしたのか?・・・・ん? 『元』?」 葛篭の挨拶のすぐ後に挨拶をした春。それを囃し立てるようにヤジを飛ばしていた二人だが、焔がある言葉に反応した。 「・・・私は元々・・・『人間』です。」 『『『えっ!?』』』 三人が同時に驚いた・・・ そして春が何故ここにいて、且つ何故この姿になったかを話し始めた。 「私は・・・人間の頃はこの城や都、周辺の地図などを編纂、出版する所にいました。いつものように仕事をしていたら・・・帝王がやってきて私を娶ると言ってきたのです。・・・勿論、最初は抵抗しました・・・・そしたら・・・」 『お前が来ないのならば・・・お前の家族は・・・どうなるかなぁ?』 「・・・やはり下種だわ。」 「・・・同感だ。」 「・・・続きをお願いいたします、春さん。」 コクンと頷き・・・ 「そして後宮に入った私は・・・すぐに飽きられたのでしょう・・・お声が掛からなくなって・・・」 ・・・なんともいえない暗い表情の春だ・・・ 「それから暫くすると『敗戦国』から連れてきた多数の魔物がコチラにきてそのうちの一人、『鼠女(ラージマウス) 』の世話を命ぜられたんですが・・・その結果が・・・ご覧のとおりです。」 落胆の表情をする春。 「でも私はまだマシなほうでした・・・・他国から来た姫が私と同じ様に魔物化すると・・・元人間や元の魔物娘共々・・・・帝王は地下へ幽閉しました。・・・・さらには反抗的な姫君たちまで・・・・外聞的に処刑は不味いと思ったんでしょうね・・・」 「・・・・」 「・・・・」 「春さん・・・・」 目を瞑り握り拳を・・・手が白くなる位強く握る焔と長海に対して葛篭は春の肩に手を置き、春を優しく励ました。 「そして私はココ・・・王都出身とあって先ほどの方達とは違い、『姿を見せない』ことを条件に生かされて・・・かつ駒のように扱われました。・・・いえ今も・・・ですね・・・」 ・・・涙を見せる春・・・その表情はとても演技とは思えない・・・ 悲しい・・・・とても悲しい顔をして・・・・大粒の涙を流していた・・・・・ 「・・・春さん。私、約束します。」 「?」 「「・・・」」 先ほどまで目を瞑り何かを考えていた葛篭が意を決したように目を見開き立ち上がり・・・こう宣言した・・・ 『あなたのような方達をこれ以上生み出さないためにも・・・・私達はこの国・・・史厳国を・・・滅ぼします。』 淡々と語るが決意が重く響く宣言であり・・・・そしてそこには愛があった・・・ 「っ・・・姫・・さま・・・ありがとぅ・・・ござい・・ます・・・・ぅぅぅ」 ・・・春は感謝を述べると大声で泣き崩れた・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 「・・・それでは私は『向こう側』へ戻ります。」 「あぁ・・・あくまでも『ココとオレの部屋で』以外は敵・・・って感じで『演じて』くれ。」 「あと、ほかの『仲間』さんにもよろしくお願いします。」 ・・・結果的に春は『国潰し組』に参加表明した。それぞれの情報網を駆使して内部をもっと混乱させるために春は『あえて』向こう側につき、謀反の為の仲間を集めるということも秘密裏に行うのである。 「それでは・・・行って参ります。葛篭姫様。」 そういうと春は軽い身のこなしで天井裏へ行ってしまった・・・ 「んじゃ・・・オレも行ってくるか・・・『ネズミ狩り』へ・・・」 長海も同じ様に天井裏に行ってしまい・・・蓋を閉じた・・・ ソレを確認した焔は部屋にかかっている術を全てといた。 ・・・と、同時に周りから楽の音色が響き始め、あたりを太陽が赤く染めていた・・・ 「あぁ・・・もう夕暮れだったのね・・・」 「えぇ・・・とても夕日が・・・きれいですね・・・」 ・・・沈み込む夕日がとても美しかった・・・・ 【続】 |