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ーー【傾国】第一章・埋伏の毒ーー |
その日ある国がある国によって滅亡の危機に瀕していた。
危機に瀕した国は『楼坑(ろうこう)』・・・親魔派国家で、 攻め立てている国は『史厳(しけん)』・・・反魔派国家である。 史厳は武力にモノをいわせ隣国を従属させていった。勿論抵抗する国家もいる。 ・・・だがそんな国家は数ヶ月後には『地図から』消えてしまうのだ・・・ それほどの軍事力をちらつかせ、国境に兵を配置し・・・ あとは史厳帝王が『たった一声』放つだけで・・・ 何十万という人と人の殺し合いが始まる・・・ ・・・そんな目の前に迫る危機に緊迫した空気が楼坑の国中に漂う中、楼坑国首都の楼坑城の執務室で一人の男・・・否、一人の王が悩んでいた・・・ その王の名は『瑠璃王(るりおう)』・・・楼坑の最高権力者である。 「・・・国を滅ぼされたく無ければ、一番美しい娘を差し出せ・・・だとっ・・・」 ギリッと歯を食いしばり机に肘を立て、左拳を包む右手を強く握った。 ・・・瑠璃王が読んでいたのは史厳側からの『調停文』という名の脅迫状だった。 「くそっ!! ・・・・国民全員の命が大事に決まっているがっ・・・・クソッ! クソッ!」 ダン! ダン!と机に拳をぶつけ・・・血が机についても怒りの炎は鎮火することは無かった。 「・・・お父様」 「っ・・・葛篭(つづら)」 音も無く開いた扉から現れたのは・・・麗しい白い肌、少し色素が抜けて茶色になった腰より下まで伸ばした髪、おっとりとした印象の眉に瑠璃色の眼、身長は165位の古代中国の王妃のような服を着た少女がいた。 彼女は『葛篭(つづら)』・・・楼坑の第三王女であり・・・姉妹の中で一番の美人と言われていた・・・ 「お父様・・・その話は・・・本当なのですか?」 ・・・そして一番心の優しい王女でもあった・・・ 「・・・あぁ・・・本当だ・・・武力は使うが・・・約束は必ず守るときくからな・・・」 自慢の黒い腰上まである長髪を垂らし俯き・・・肩を震わせて答える瑠璃王・・・ 「・・・私g」 「っ! ダメだ!!・・・・・これに答えて史厳に行くということは・・・」 「おそらく・・・一生この国の土を踏むことが出来なくなる・・・と言うことですよね。」 と、否定する瑠璃王に真っ直ぐな・・・『覚悟』を持った瞳で見つめる葛篭・・・ 「・・・本当に・・・よいのだな? ・・・葛篭・・・」 「はい・・・この国の為になるのなら・・・」 歯を食いしばり涙を流しながら最終確認を・・・『最後通牒』を出した瑠璃王にコクンと俯き気味に返事をする葛篭。 「・・・わかった。・・・お前の覚悟、絶対にムダにはさせないぞ・・・葛篭っ」 「はい・・・」 涙をながしながら歩き出した瑠璃王は葛篭のまえで止まり、葛篭を抱きしめる瑠璃王。 ・・・すこしの時間が経って・・・ 「・・・焔、長海・・・かのものらを・・・ここへ呼べ!!」 「はっ!」 ゆっくりと立ち上がった瑠璃王は決意のこもった瞳で執務室の扉の向こう側にいるであろう衛兵に向って叫ぶ瑠璃王。・・・その『瑠璃色の瞳』に決意の炎を宿しながら・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 「お呼びですか? 瑠璃王。大将軍補佐・長海(ちょうかい)、只今馳せ参じました。」 「同じく妖術団妖狐隊隊長・焔(ほむら)、馳せ参じました・・・瑠璃王。」 ほんの少しの時間で執務室まで駆けつけた二人。 一人は人間。その外見は華奢な体躯だが・・・武人特有の闘気が隠し切れていない。そうとうの武人と言うことが分かる。ソレこそ肩書きに恥じないほどである。 そしてもう一人は・・・妖狐である。尻尾が七本・・・コレだけで妖力が如何ほどか大抵の人は分かっていただけるであろう。金髪の髪を後ろで纏めて・・・いかにも戦闘向きの服を着ていた。 「両名・・・これより各々の職を解く!!」 『『なっ!?』』 驚くとも無理は無い。いきなり退職を突きつけられたのだ。・・・王直々に・・・そして・・・ 「そしてコレより『葛篭姫』の護衛長にそれぞれ任命する!!」 『『 っ!! 』』 その直ぐ後に本来の軍令等でならありえない名前が出てきたことに二人揃って驚いた。 「どっ、どういうことですかっ!」 「そ、そうですっ! 何故に『葛篭』の名前がでてくるんですか!!」 狼藉する長海に、更に深く聞こうとする焔。しかし王の前と言うのに崩れた言い方になり、更には葛篭姫を・・・王族を敬称をつけずによんでいる。が、王は怒るどころか普通に対応している。・・・本来ならありえないが・・・何故か・・・それは・・・ 三人が葛篭と幼馴染だからである。王もそのことを踏まえた上で職務以外のときはこのように敬称など省いた砕けた言い方でも良い、と念押ししたくらいである。 だが回りには誰一人としておらず、ましてや扉の前にいるであろう兵ですら人払いをさせた状況だったので一人として咎める者は居なかった・・・ 「うむ・・・お前たち。史厳が戦争を仕掛けてこようとしているのは知っているな?」 「はい。」 「もちろんです。」 王も硬い口調から普段の父親のような喋り方になって状況を説明し始め、それぞれ相槌を打つ二人。 「それでな・・・史厳帝王がな『国を潰したくなかったら美姫を寄こせ。』と脅迫をかけてきたんだよ。」 「なん・・ですと・・・」 「・・・ふざけているっ!」 怒りの余り・・・二人の気が著しく膨れ上がり、室内の気温が少し下がった。しかしそんな二人を王は・・・ 「まぁ落ち着け。」 「・・・すいません瑠璃王・・・」 「・・・申し訳ない・・・」 そんな二人を落ち着かせたのだった。 「そしてそれを葛篭に知られてしまってな・・・・」 「心中お察しいたします・・・」 「それは確かに・・・お気の毒に・・・」 落胆した王に慰める忠臣二人。それぞれ葛篭の性格を良く知っている三人だからこそできる会話である。葛篭は一度決めたら梃子でも動かないほどの頑固者であった・・・ 「それで護衛長・・・というわけですか・・・」 「・・・なるほど」 そして自分達が呼ばれた理由が明確になり合点が行った二人であった。 そんな二人に・・・ 「・・・実はもう一つ・・・頼みたいことがある。」 「っ・・・・なんでしょうか?」 「っ・・・・もう一つ・・・とは?」 そういうと王は手を拱く動作をし、耳を指差した。 『『 !! 』』 二人はすぐさま意図を把握し顔を近づけていった・・・ 額と額がぶつかるか、ぶつからないか位まで寄せた二人に対して瑠璃王はこう囁いた・・・ 『中から史厳を潰してきてくれないか?』 『『 !! 』』 二人は大いに驚き互いを見つめ再び視線を瑠璃王に移した。 「・・・つまり『埋伏の毒』をしてこいと・・・」 「・・・そうおっしゃるんですか・・・・葛篭の護衛をしつつ・・・で・・・」 二人は冷や汗が出てきた・・・どうか聞き違いであって欲しいと・・・ 「うむ。相違ないぞ。」 ・・・その期待は脆くも崩れ去った二人であった・・・ 「方法は問わない。それは全てお前たちに任せる。・・・だが葛篭に被害が出てはならぬ。」 「これまた・・・」 「難しいことを・・・」 二人して利き手で顔を覆い溜息を吐いた。 「・・・できるか?」 「・・・信頼していらっしゃるんですね。」 「私たちを・・・」 困った顔をしつつも微笑む二人に・・・ 「うむ。大切な家族同然だからな。」 ((あぁ・・・敵わないなぁ・・・この人には・・・)) 二人はすばやく跪き・・・ 「長海。此度の任務、快く承りますっ!」 「同じく焔。快く承りますっ!」 拝礼の構えでその任を承諾した。 「よし。これよりこのときをもって・・・開始とするっ!・・・・・絶対死なぬようになっ!」 『『御意っ! 』』 これより・・・史厳の崩壊がはじまった・・・・ 【続】 |