『春車菊という花』 |
親魔領の一角にある街・・・『イロトワーホル』の郊外・・・ そこで『彼女』は視線を感じた・・・ それは街を出て直ぐのこと・・・ 「・・・・また今日もついてきてる・・・」 (もううんざり・・・一週間前以上からあの男に付きまとわれている。 影でコソコソ何かしているのか時折モジモジして・・・・ホントになんなのよ・・・) 「はぁ・・・(呆」 (・・・さっさと森に行って逃げちゃおう・・・・) ズルズルズル・・・・ そう思った『彼女』は『引きずり』を早めて森へ入ってしまった・・・・ そしてその『彼女』を追うとする『男』が1人・・・ 「っ!? ・・・・はぁ・・・・また見失ってしまった・・・・」 どうやら森の入り口近辺で『彼女』を見失ったらしい・・・ この『男』・・・『ケイン』は草花の買い付けなども行う花屋の商人である。 そのケインは『彼女』をおいかけている・・・ 何故? 「・・・・今日こそ告白しようと思ったのに・・・はぁ(呆」 どうやら告白するつもりだったらしいが、気が弱いのかその踏ん切りがつかないでいるうちに時期をのがし、今の状況に至るらしい・・・ そんなケインは今日はあきらめたのか・・・トボトボと自分の店に帰っていった・・・ その様子を覗く一対の紅蓮の瞳が・・・ (ふぅん・・・あいかわらず顔はいいんだけど・・・性格がね・・・) ・・・先ほどの『彼女』だった・・・真っ白な髪を腰まで伸ばし、白磁器と見紛うような白肌。 そして・・・・ クリーム色の蛇バラに、表面が新雪の様に真っ白な鱗に覆われた『蛇の下半身』。 そう。『彼女』は『ラミア』。しかもアルビノ(色素欠乏症)といわれる世にも珍しい『真っ白なラミア』だった。 「・・・なんであの男を気にしてるのかしら・・・私・・・」 「・・・」 「・・・・はやく帰りましょ、っと・・・・・」 そして『彼女』はズリズリと下半身を引きずって森の奥へと帰っていった・・・ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「・・・・はぁ・・・一目惚れって・・・ほんとにあるんだな・・・」 そんな呟きを零しながらベッドで腕組枕して寝そべるケイン。 寝返りをうつと・・・ ベッドの傍に・・・『春車菊(ハルシャギク)』が一輪花瓶に挿してあった。 (・・・この花・・・『彼女』がもってきたんだよなぁ・・・たしか・・・花言葉は・・・) 『陽気』『上機嫌』そして・・・『一目惚れ』・・・ (・・・何考えてんだ、オレは・・・意識なんてしてなかったじゃないか。『彼女』は・・・) それは1週間前の昼のこと・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・ 「ありがとうございました!! 」 ある程度客が引いた昼時。店内の最後の客が出て行ったのを確認して、午後の為に軽く清掃と手入れをしようと店を出ようとしたとき・・・ カランカラン・・・ 「いらっしゃいまs・・・・!!!!!」 いつもの営業ボイスで入口をみると・・・ 「あら、すいません・・・花の買取やっていただけると聞いてきたのですけど・・・」 『彼女』が・・・『白いラミア』がいた。 「・・・っは!! は、はい。受け付けております。」 「そう? じゃぁ・・・・」 『彼女』はそういうとな花で満たされたバスケットをコトリっと置いた。 「・・・・で、ではコノくらいでよろしいですか?」 「・・・えぇかまわないわ。」 とお金を渡し、やり取りが終わって店を出る間際・・・『彼女』は振り返り、徐にバスケットから一輪取り出して・・・ 「あなたはもう少しこの『花』のように振舞ったほうがいいんじゃないかしら?」 と、ケインに『春車菊』を渡し去っていった・・・ ケインは暫く何も出来なかった・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・ 「・・・はぁ・・・明日こそは!! 」 そう決意して明日の為に寝るケインであった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「・・・はぁ」 (なんで私あの人のこと・・・気にしてるんだろう・・・) どうやら『彼女』も気にしているみたいで・・・ ベッドの上でゴロゴロと枕を抱きながら思案に耽っているようだ。 「・・・」 (あの元気のなさ・・・ホントに商売やっていけてるのってカンジだったし・・・ほんとあの性格がネックね・・・でも・・・) ゴロンと寝返りをうち・・・ (・・・あの人、私見ても怖がらなかったのよね・・・・・・・) 『彼女』はただ肌が他より白いというだけでヒトからも魔物の同属からも少々距離を置かれ、時折イジメや暴行を受けたりもしていた・・・それにより重度の人間(魔物含む)不信になっていた・・・ 「・・・・ふぅ〜、なんで気になるのかしら・・・・」 と、枕をギュッと抱いて愚痴を零しながら・・・・寝たようだ・・・ ・・・明日が人生の転機と知らないで・・・・ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 次の日、『彼女』が街を出て自宅に帰ると・・・ 「!!? ちょっと!! 貴方たち何しているの!!!」 数人の男が花を毟っていた・・・『彼女が大切に育てた花畑』の花を・・・ 「あぁん? みりゃわかんだろ? 花の採取だよ!!」 「随分と珍しい花だからよ!!」 「ここら一帯毟りとって近くの大市場に売りつけんだよ!!」 「ここは私の畑よ!! 勝手に入らないで!! 」 「あぁん? 畑だぁ? 魔物風情が畑なんかつくんのかよ?」 「どうせ嘘だろ? いいからサッサと積んじまおうぜ?」 「それに本当なら力ずくで止めてるだろうしな!! はっはっはっ!! 「っ・・・・くっ!!・・・」 ギリリッ!! ・・・握りこぶしが食い込み血が少しでた。 ・・・だが『彼女』は動けなかった。過去のトラウマのせいで魔力を行使することが出来ず、元来のラミアより力のない彼女では力を振るうこともできない・・・ 『彼女』は悔し涙を流した。 そのとき・・・ 「い、いい加減にしろ!! お前ら!! 」 ケインが森から出てきた。・・・及び腰で・・・ 「あぁん? なんだ? にぃちゃん??」 「そんな引け腰でどうしたい?? 」 『『『あっはははははは!!!』』』 「そ、その畑は彼女が丹精込めて育てたものだ!! 勝手な真似は・・よ、よせ!!」 「ぷっ!! そんなビビリじゃ全然凄みがねぇぞ!! ボウヤ!!」 「そうだな〜止めたきゃ力ずくで止めろよ!! はっはっはぁ!!」 小馬鹿にしている男たちを尻目に・・・ 「う、うぉぉぉぉ!!! 」 (な、何やってるのよ!! そんなんじゃ勝てるわけないでしょうに!!) ケインは男たちへ突っ込んでいった。その行動に驚く『彼女』。 「っ!! こいつっ!!」 ドグッ!! 「ぐふぅ!!」 やっぱり敵わず腹を殴られるケイン。・・・・だが倒れない。 「あんまり調子に乗るなよ!! 」 ドカッ!! 「っくぅ!!」 頬を打ち抜かれふら付くケイン。・・・・だが倒れない! 「っ!? こ、この野郎!!」 ドカッ!! グチャッ!! 「ヴぇっ!!? ぐぷぅ!!?」 顔を蹴られ、再び腹を殴られ・・・・それでもケインは倒れない!! 「っ!! も、もうやめてぇぇぇ!!」 悲痛な叫びがあたりに響くが男たちはまだケインに暴力を振るっていた・・・ ・・・・・・暫くして・・・・・・ 「はぁっはぁっ・・・な、なんだコイツ・・・気持ちわりぃ!!」 「ぜぇぜぇ・・・なんで・・・・なんでだ・・・」 「ふぅふぅ・・・コンだけやってんのに・・・」 「・・・ヒュー・・・ヒュー・・・・」 『『『どうして倒れねぇんだよ!!!』』』 男たちの叫び通り・・・ケインは顔面の原形がわからないくらい晴れ上がり体のいたるところで出血がおこっており・・・もう意識があるかどうかも分からないのに・・・ ケインは立っていた・・・ 「・・・・かの・・・じょの・・・はた・・・け・・・から・・・でて・・・いけ・・・」 『『『っ!!!!??』』』 フラフラなケインは・・・そんな状態でも・・・口がきけるかどうかも怪しいのに・・・・『彼女』の畑を返すようにと・・・男たちに語りかけた!! 「どう・・・して・・・どうして・・・そこまで・・・私を・・・そんなになってまで・・・」 口を両手で隠すように覆いながら・・・『彼女』は涙を堪えていた・・・・ 「・・・あなた・・・が・・・すき・・・だから・・・」 「!!!!!!!!!」 ・・・そんな呟きに近い声を拾い聞き、もう振り向く力が残っていないのか・・・囁くように言った一言はしっかりと『彼女』に届き・・・・うれしさのあまり『彼女』は涙した・・・ 「・・・っけ!! 愛の告白は終わったかよ!?」 「これで遠慮なく・・・」 「あの世に行けるな!!!」 と、男たちが殴りかけた・・・・そのとき!! 「お前たち!! 窃盗及び不法侵入!! さらに傷害の罪で連行する!! 大人しくしろ!!」 街の警備団がやってきた!! ・・・どうやら『彼女』が叫んだとき近くを通りかかった旅人が不審に思い警備団に通報したようだった。 男たちは漏れなく縛につき・・・ 「・・・ヒュー・・・ヒュー・・・・」 「ねぇ!! しっかりして!! ねぇ!! 聞こえる!?」 ケインのもとに駆け寄った『彼女』はケインに必死で呼びかける・・・ 「・・・ねぇ・・・あな・・た・・・の・・・・なま・・・えは・・・なんt」 「『ネリー』よ!! それより!! はやく病院に・・・」 スッ・・・ 彼はブルブル震える手で服の中から・・・・ボロボロになった一輪の『春車菊』を とりだし・・・ 「あな・・・たにひ・・・とめぼれ・・・しま・・し・・た。ねり・・・ぃ・・さん・・ぼく・・・と・・・つきあっ・・・t・・・」 ガクッ・・・・バタッ とうとうケインは倒れてしまった!! ・・・大事に『春車菊』を握ったまま・・・ 「っ!! しっかり!! しっかりしてぇぇぇぇぇ!!!!!」 『彼女』・・・ネリーの悲痛な叫び声が当たりに木霊した・・・・ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「・・・ここは・・・」 「診療所のベットよ」 「っ!!」 直ぐ傍で聞こえた声・・・・それに驚き振り向くと・・・ 「・・・あなた・・・1週間も寝ていたのよ? 」 夢にまで見た・・・ネリーがいた。 「・・・その・・・先に言わせてもらうわ・・・・ありがとう・・・」 「・・・これで夢だったら・・・どうしよう・・・」 「・・・現実よ。ほ、ほらっ!!」 と、ネリーはベッドに身を乗り出して・・・ チュッ 「・・・へっ?」 「・・・///」 ケインはキスされた・・・頬に・・・ 「あ、あなたの名前・・・な、なんていうの?」 「えっと・・・ケ、ケイン・・・です・・・」 気まずい空気を打破せんとネリーが名前を聞いてきた・・・ 「・・・ケ、ケイン・・・その・・・あのとき・・・ぁぅ・・・返事返す前に倒れちゃったから・・・ぁぅぁぅ・・・今言うね・・・」 「・・・・う、うん・・・」 顔をこれでもかって位に赤くし、人指し指同士をつき合わせながらネリーはおずおずとケインを上目遣いで見やるネリー・・・尻尾は少しフリフリしている・・・ 「わ、私以外の・・・女と絶対付き合わないって・・・約束して・・・」 「・・・うん!! 約束する!!」 下を向き、ツンと唇を尖らせて喋る仕草にケインはかわいくなって笑顔で返事をした。 「・・・じゃ、じゃあ・・・はいっ!!」 そういって目の前に出されたのは・・・・ 「『春車菊』?」 「・・・多分・・・私も・・・一目惚れだったかも・・・貴方のところに行ってから・・・なぜか貴方が気になるようになったの・・・」 「・・・」 「だから・・・今度の意味は・・・」 ギュッ 「えっ?」 ネリーの手ごと包み込むようにして握るケイン。 「これから・・・よろしくお願いします・・・ネリーさん。」 「・・・ネリー・・・ってよんで。ケイン・・・」 ・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 新魔領の一角にある街・・・『イロトワーホル』 その町にある花屋には色とりどりの花が置かれており、ここで揃わない花はないという。 もし花が欲しいならその店に寄ってみるといい。 店内に飾られている『春車菊』とともにそこの看板娘は『白いラミア』夫婦と3人の『白いラミア』の子供が迎えてくれるだろう・・・・ 幸せそうな笑顔とともに・・・ FIN |
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