『普段の彼女…』 |
「ふっ、はぁ!!」
朝霧がかかる夜明けの頃、肌にあたる空気がひんやりした森特有の空気。 青々と朝日を遮るほど隙間なく茂る高木な木々のその下、やや開けたところに彼女と私の家がある。 ログハウスと言えば聞こえがいいけど実際の所は彼女の鍛錬によって倒された木々の寄せ集めであり、てんでバラバラなサイズのお蔭で隙間風は当たり前だ。 二部屋もない、たった一部屋だけ。 家具らしい家具……ベッドもない、シャワーもない、椅子もない。 テーブルだってない。 ただそれらのないない不便は全て補うように森の中で事足りるから構わないけどね。 片隅にある敷き藁によるベッドと滝があのでシャワーがわりに、家を出てすぐの薪と切り株椅子と煤けた地面。 ……全て彼女が「これでいい」という言葉から。 「せっ、はっ!」 僕はそんなワイルドな彼女に惚れた者だ。 毎回ある時期に私が住んでいた街へと定期的にやってくる彼女。 その姿を一目見てから私は彼女のことを気にするようになっていった。 ワーキャットのようなシルエットなのにまったく別物。 鋭く尖った黒光りする爪、フカフカというよりフサフサな短毛の黄土色の体毛には黒い縞模様に節々が白い毛、出ている尻尾も太く、肉球はすこし固そう…… そして何より凛としたその表情。 普通のワーキャットなら私の街でも多々見受けられたがそんな彼女の瞳はこうなんというか、そう『媚びる』ような感じが無いのだ。 寧ろ『私に構うな』という意思が見て取れる程。 腰まである黒の毛が混ざった栗色の毛ょふわりと揺らし、小さ目の耳をピコピコとしながら肩に猪を担ぐ姿はなんともアンバランスだったのも覚えている。 そんな愛らしい彼女を見かけて数度目にして、愛しい彼女へ私は意を決して告白してみたのだ。 振られても当たり前、この思いを真正面から正直にぶつけた私は熱く彼女へ愛を告げた…… 『ほぅ、私の事を大層気に入ったようだな? ふむ……』 のだが、彼女の一言。 それっきり暫く言葉を聞くことはなかった。 ちょっとの沈黙の中、彼女は僕を上から下までじーっと食い入るように見続けて、その後に一言。 『ふむふむ、君は中々頑丈そうだな。これなら……私も安心して任せられそうだ』 と、一言だけ告げて私を住処の杜へと連れて行ったのだ。 こうなると予想して荷物をまとめて置いて正解である。 ……いや、確かに運搬とかいろいろな体力系の仕事を転々としてたので体つきは良かったけどね? 「……ふぅ」 それからというもの、いつも私は彼女と一緒にいるわけだ。 彼女はまだ未成熟なのか発情期と言うものが来ていない、とは言っていたもののどうもこの頃彼女から甘い吐息を夜な夜な漏らすことがある。 もうすぐその時期が来るらしい。 「お、なんだ君。起きていたなら声をかけてくれないか? 朝餉の魚を捕りにいかなくてはならないからな。……おはよう♪」 今ちょうど彼女の日課である何かの格闘技の素振りが終わったようだ。 人肌が見える筋肉質な腹筋やユサリと歩くごとに揺れる巨胸に珠のような汗を携えて爽やかに軽やかに彼女は私へと挨拶をした。 勿論私も挨拶を返す。 「ところで……」 彼女が私に背を向けて川へ行こうとしたところ、唐突に彼女は立ち止まって私に対してこういってきたのだ。 『……今夜、シないか?』 ーーー今夜からは長そうである。 【完】 |
|