『誰か私の石版知りませんかー!?』



「なんで…何時なくしちゃったの…っっ!?」
青く澄んだ水の中、ふよふよと呑気に浮かぶシースライムとは裏腹に目を皿のようにして忙しなく見回す一人の女性…否、魔物さんがいました。
マーメイド種特有の尾ひれがついていてその鱗は青緑色。白い法衣のようなものに身をつつんでいるのを見る限りどうやらシービショップのようです。

「んー? シリル?」
「あぁっ! カナンっ! いいところにいらっしゃいました…」
「…どったの?」
わたわたと手を振りながら岩の陰や雲丹の群生を書き分けて必死に探し物をしている彼女へ声をかけるものがあり彼女がその声に反応して背後へ振り向けば縦横無尽に動く下半身をうねうねと動かすスキュラの女性が要るではありませんか。
スキュラの女性の話かたからして親しい間柄のようですが…。

「失くしちゃったんです…」
「失くした? また帽子? それともお気に入りの抱き枕? はたまた彼が出来たときの勝負ブラ?」
「も、もぅ! そんなんじゃありませんよっ! 今回はっ!!」
うーん…どうやら彼女、結構頻繁になくし物をするドジッ娘みたい。
頬を膨らませて怒っていますオーラが全開の可愛い顔した彼女に親友のスキュラはというとケラケラと笑ってしまい海中というのも相まって本当にその場でぐるぐると回っていますね。

「あっはっはっ…はぁー面白いっ! んで? 今回は何なの??」
「…きば…」
「は? きば?」
一頻り笑ったスキュラは彼女へ謝罪をすると共に本命の失くし物の探索に意欲的になったのか今回の失くし物を彼女の口から聞こうと質問を投げかけると不意に俯いて小声になってしまう彼女。
スキュラが「おや?」という顔をしてゆらゆらとゆっくりとした動きで彼女へと近づいていき小声の一部を辛うじて聞き取ったみたいだが…「きば」? はて??
もっと良く声を聞こうと耳を彼女に向けた瞬間。



「石板ですぅぅっ!!!」



「はひゃぁ!?…っっ…」
タイミング悪く彼女の大声に当てられてしまって耳の中がキンキンしているようで両耳を押さえ込んで涙目になってしまったスキュラ。
…ご愁傷様です。
さてその彼女はというと言うこといって叫ぶときに閉じていた目を開けて彼女の親友が大変なことになっているのにようやく気付いたようでまた先の失くし物探しのときと同じように「はわわっ!」と声を出して親友へと頭を下げ続けている。

「っぁ…あ、あぁー…大丈夫だから、私のミスだからいいって…で、そんなことより…」
「は、はぃ?」



「あんたは馬鹿かっ!! 種族の特徴であるましてやポセイドン様から頂いた石板を失くしたぁあ?! ドジッ娘ってレベルじゃないでしょうがっっ!!」



「はひぃぃぃ!? ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「謝るのは後っ! まずは目星をつけてソコから探しましょうっ!」
石板が無いということで非常に慌てていたようです。
確かに種族上この上なく大切なもの、って図鑑にもちゃんと明記してありますし…っと彼女たちが移動を開始したようなので一緒についていって見ましょう。

…それにしてもスキュラの足…オイシソウ…

「っっ!?」
「わわっ!? どうしたんです?」
「…い、いえ…気のせいよね…??」
おっとと…いけないいけない。
ちょっと食欲が出てしまったようです。

と、そうこうしているうちに辿り着いたのは何処かの浜辺でしょうか?
…マーメイド種が尾ひれで立ち上がって砂浜をピョンピョン跳ねる姿って想像できますか? 皆さん??

「な、ないですぅ…最後に儀式した浜辺にきたのにぃ…」
「むぅ…よし。ここからさっきの場所まで順を追って説明しながら移動しましょう」
「は、はぃぃ」
砂浜の岩陰とか儀式の後の余韻で魔力がある場所の砂を掻き出したりと必死な様子の彼女に対しやはりここではないのか石板の影どころか゛せ ゛の字すら見当たらなかった。
仕方なしに一緒に探していたスキュラはあごに手を当てて順を追って彼女に先に至るまでの道案内を頼んで再び彼女らは海の中へ。

「まず何をしたの?」
「まずは…長旅続きだったのでちょっと一休みをと思ってその岩場で休憩をとったんです」
「ふむふむ…」
海中に移動した彼女達は一度近場の岩に腰を落ち着かせて状況整理を開始した模様。
彼女が指差したのはまさにいま彼女たちが座っているその岩であるがスキュラはそれに構わず続きを彼女へ促すと彼女のほうもソレを察知してさらに言葉を紡ぎだす。

「そしてこの先に汽水湖があるアトワーって言う街の前を通ったときに『あーそういえばアルル先輩はこの町にいるんだなぁ…』って思案してたの」
「…あれ? なんか落ちが読めたような…」
「そしたらちょうど海水が流れ込む時間帯だったみたいで…どどーっ、て流れに流されて必死に泳いだら抜けれたんだけど…気付いたら、なぅ」
…お、お約束すぎる。
彼女の言葉を最後まで聞いたところでスキュラの彼女は頭痛がするのか頭を抱えて脱力してしまった。

「…さぁ行くわよ。」
「へ、何所へですぅ?」
「アトワーに決まってんでしょうがっっ!!」

ーーー

親魔領の街『アトワー』。
この街はその領内どころか他の地域には無いぐらいの水の加護がある。周りの山々から流れてくる栄養を多く含んでいるのに2メートルの深い水底にある小石ひとつまでくっきり見える清流が5本ありそれらが絶えず流れ込み出来た大きな・・・そう『余りの大きさに海と間違える』くらい大きな湖『アトワー湖』。
この湖・・・・淵から海まで干潮時が1キロほどしか無く満潮時では土手を越えて水位の増した海面がアトワー湖に流れ込むと言う時間帯によって海水が淡水と混ざり合う汽水湖と言う特異な湖である。

ーーー

と、観光パンフレットに載っているその街へ急ぎ足(?)で向かい始める彼女達であった。
流れに乗って大きめの川を遡るとやっと見えてきたのは街の四方を水という水で覆われたまさに水の街といえるその場所こそが目的地であるアトワーであった。

「わぁ…おっきぃですっ!」
「何を子供みたくはしゃいでんのっ!? アンタそんだけボンキュッボンな癖して中身は子供かっ!?」
「うー…カナンが意地悪です…」
そんな彼女は上目遣いで膨れっ面をするもスキュラはそれに構うことなくアトワーの街のとある一角に向けて泳ぎ始めたのだ。
勿論彼女も慌てて後をついていくのだがその焦った表情に対して揺れ動く大きなものが…。
少し先で待っていたスキュラがその弾むものを見て更に機嫌が悪くなったのは言うまでもない。

更に街へ近づいた二人だったがここで思わぬハプニングが発生してしまうのだ。
主にスキュラに

「ん? …っはっ…こ、コレは…」
「きゃっ!? カ、カナン?? どうしたの?」
いそいそと泳いでいた親友が行き成り急ブレーキをかけるものだから後ろで追従する彼女は止まりきれずにその原因であるスキュラへと軽く追突してしまうものの声一つ上げない親友。
普段なら「いったいなぁ〜」とか文句を言うのに…何か異変があったのか?
彼女が恐る恐る親友の肩口の後ろ側から前を覗き見るとそこにはただの釣り針に何かメモが貼ってあるのだが親友はそのメモを穴が開くほどに凝視している。

「…あ、あのぅ…カナン?」
「むふぅ…ちょっと待ってて?」
更には彼女に静止の声をかけてそのまま浮上していったではないか。
不審に思っていた彼女だったが突然親友がさっきまで凝視していたメモが吊るされた釣り針が物凄い勢いで急浮上し始めてその勢いの余りメモが置き去りになってしまった。

「あっ…何が書いてあるんだろう…」
この数秒後に彼女は後悔するんだが…サバトのマークが入ったメモにはこう書かれていた。







『嫁募集。スキュラ、シースライム、カリュプディス希望。職業は漁師をしている27歳です。もし気に入っていただけたらその場でファック♂いたします』







「……ナニモイエネーデス…」
ね? 後悔したでしょう?

「むぅっ! いいもん! 一人で探すからっっ!!」
あらら…また可愛い顔の膨れっ面になって泳ぎ去ってしまったよ。

でも神様だって意地悪ばっかりするんじゃないんだよ?
現に…ほら。

「…あら? これって…」
と不貞寝ならぬ不貞泳(ふてえい)をすれば彼女の前に親友を奪われた(?)時のようなメモがぶら下がっているではないか。
「どうせまた…」と不機嫌全開で、でも気になったので彼女はそのメモをちょっと読んでみることにしたみたい。





『落し物あります。たぶんシービショップさんの石板です。裏に【シリル】と書いてあるので心当たりのある方もしくは伝言していただける方、どうか釣り糸を引いてください。もし反応が無かった際はテュリエグという者が預かっていますので街までお越しいただき案内人に聞いてください』





「…えっ!? 私の石板っ!?!?」
おやおや、どうやら失くし物は見つかったみたいだね。
彼女は目の前に垂らされた糸をどこぞの噺のように蜘蛛の糸を掴むような気持ちで握りちょいちょいと二度三度糸をひいた。
するとどうだ、糸が再び二度三度引かれて答えたではありませんか。
と言うことは上にその【テュリエグ】と言う人が居るということだろう。
彼女は何の迷いも無く釣り糸の大元のある小船めがけて今までで一番速い速度で航行するとその勢いは海面近くになっても衰えず…

華麗なドルフィンジャンプを決めて…

「っぱぁ! す、すいませんっ! その石板私のなんですぅぅ!!」
ぱしゃんと水音ひとつ立てて見事その釣り糸が垂れた竿のかかる小船に着地をしたのだが…

「…き、君のか…」
「はわぁぁぁ!? び、びしょ濡れぇぇっ!? わ、私のせいですよねっ!? ご、ごめんなさいぃぃぃっっ!!!」
「ははっ! 元気があっていいと思いますよ?」
その勢いが激しすぎて水族館のイルカショーの最前列の如く頭の先からつま先まで乾いている場所が全く無い程に水を被った青年が頬を少しばかり引きつらせて彼女へと優しい視線を向けている。

「は、はわわ…あ、あぁぁ、わた、わたわた、私が責任持って洗濯をぉぉぉ!?!?」
「あーいやいや、気にしないd…ファックシュン!!
「あぁぁ!! か、風邪まで引かせてしまいまして…あぅぅ…神官としてやっていけないかもですぅ…」
しかしちょっと肌寒い風が吹く中でそんな無格好をしていれば風邪を引いてしまうのは自明の理。
先ほどからあわわはわわを連呼している彼女の言葉にあぅぅが追加されるのもなんら不思議は無いのだろう…か?
まぁ彼女のせい、とはまさにその通りなのだがね。

「あぅあぅ…せ、責任とりましゅ! テュリエグしゃんっ! 結婚してくだしゃいぃっっ!」
「いやいや待て待てっ! 行き成り結婚ってちょっとテンパリすぎ…ファックシュン!!
「あぁあぁぁ!!!?? や、やっぱり私のせいでしゅねぇ!? あぅあぅ…こ、こういうときは人肌で暖めあうってメロウさんから…」
いや待てメロウって…。
それに彼女、さっきから早口で捲くし立てている割には目は確りとしているんだが?
そんな彼女の気迫に気おされるようにして不安定な小船の上で尻餅ついて後ずさる彼をすかさず這って追いかける彼女。

「い、いや待って君っ!!」
「君じゃないれふ! シリルでしゅっ!」
「えっ、あぁこれは失礼…じゃなくてっ!?」
更には小船の端まで彼を追い詰めると彼女は彼の下半身から徐々に這い上がっていく。

「うぅ…私…そんなに嫌ですか…?」
「っ?! い、いや嫌じゃないけど…ちょっと強引過ぎて…まずは交換日記かr」
「だがお断りですっ♪」

あはれ、かれはかのじょのえものになったのだった!!
…ただ彼のほうも満更ではなかったみたいですかね。


ーーーこうしてとある彼女の失くし物は色をつけて戻ってきたのであった♪

【完】

皆様お久しぶりです!
ジャックリーですっ!

さてさて今回のこのSSを書く動機(インパクト)をくれた可愛らしいシービショップさんですが冒頭で紹介したとおり「ナウィリア・ヴィレ」さんのものでございますw
主にピクシブで活動されているので興味のある方はこちらへ♪
ttp://www.pixiv.net/member.php?id=297730
(h抜きですので頭にhをつけて検索をっ!)

さてさて…この場を借りて2.3ほど連絡をば…
一つ。3/27でとうとう執筆暦3年を迎えましたっっ!!
これもひとえに皆さんの応援のおかげでごぜぇますっ(涙
これからもよろしくお願いしますっっ!!
連載ちゃんと続けないといかんですなw

一つ。同人販売【人間じゃない】に参加することになりましたっ!!
といっても自分がサークルを出すんではなくて寄稿という形を取らせていただきましたw
【若草 雅也】さんのサークル【苗木堂】の次の新刊に参加させていただけることになりました。詳細は後ほど…あ、HPありますのでそちらからお願いしますw
ttp://naegidou.web.fc2.com/index2.htm
(h抜き(ry…)
ガッツリ書き込んだんで自信はあるんですが果たしてどれほどの人に読んで頂けるか


…よし連絡終わりっ!ww
さて今年は【目指せ100作品っ! 】と【妖狐タグ50%含有のジャックリー】を目指しますっ!!
これからも皆様方よろしくお願いしますっ!

そして今回のSSはいかがだったでしょうか?(´・ω・`)
感想おまちしています。

12/04/17 17:55 じゃっくりー

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