戻る / 目次 / 次へ

ーー【傾国】第十三章 変人で偉人で・・・ ーー


奈々が精神的に打ちのめされた次の日の朝。
日が入って暖かくなり始める部屋の中。
今この部屋には奈々ではなく本来の主のみがおり、その主の長海が椅子に座りとてもでは無いが声をかけれられる様な和やかな雰囲気・・・とは程遠い酷く真剣に何やら文を読んでいた。

「・・・な、何を考えているんだ・・・あの人達はっっ!!」
グシャリと強い握力で文ごと握ったその両手の拳を肩幅のままで広げたまま机がへし折れるのではと言うくらいの力で無遠慮に叩きつけると長海は暫しそのままの体勢でいたが急に立ち上がり振り返りながら小声で呟く。

「・・・急いで焔に伝えなくてはっ!」
いつもの冷静な態度は何処へやら。
焦りを顔に貼り付けたまま長海は額から出た汗を拭わずに椅子を押し倒し扉の向こうへ駆けて行ってしまった。
・・・不意に吹いた風がまだ机の上にあった文の封筒を悪戯に巻き上げ、普段ごく稀にしか感情を表さない長海がこんなにも焦りを露にした相手の名前が日の光の中に炙り出された。

その名は・・・

『長海へ。  武工氏【伊児(いこ)】及び【紀磐(きはん)】』

武工氏。この時代の戦人達の象徴である武器を作る者達である。
そしてその二人のうち伊児の方は親魔国では右に出るものがいないと言われている職人で変わり者であった。
どこが変わっていると言うとそれはおいおいわかるので今は語らずにおこう。

さて、長海の足を追いかけてみよう。
っと、もうすでに焔達の部屋に居る様だ。

「おや? どうしたんだい? 長海。」
「そんなに息を切らせて・・・如何なさいました?」
肩で息をするほどに走って来た長海を出迎えたのは朝の一時を静かに謳歌して茶を飲んで落ち着いていた様子で長椅子に腰掛けた焔と葛篭だった。

「ゼェ・・・ゼェ・・・紀磐がくるっ!」
『っ!!』
優雅でのんびりとしていた茶会の空気は一気に凍り付いてしまい、あたかも全ての時間が止まったかのように小鳥の声すら止んでしまった。

「・・・馬鹿っ!? あの師弟共って馬鹿なのっ!?」
「お、おちついてください焔・・・」
時が動き出すきっかけは早く、焔が怒声を上げたことで鳥達が驚き一斉に羽ばたいてどこかへ行ってしまい代わりにやや遠方から、厳密に言うと天井裏から3人分の気配を感じると天井の一区画分の天板がはめ込みが外れた音を出してずれて上から見慣れた3人がやって来た。

「な、なにっ?! 焔どうしたの!?」
「一体なんだ?! 大きな声を出して・・・」
「あ、あのぅ・・・どうしました?」
三者三様で異口同音の言葉に焔は少しバツが悪い表情をするといつものように結界を張ることにした。

「長海、あの二人は一体今・・・?」
「葛篭・・焔・・あの二人だがな・・・」
『・・・・???』
長海が息を整えたのを見計らって葛篭は質問を投げかけそれに応える長海は呼吸に合わせて途切れ途切れになりつつも喋る。
勿論ただ焔の怒声を聞いて駆けつけた奈々、春、慎香は何も分からないので目を白黒させて三人揃って首を同じ方向に傾げるだけだ。



「・・・史厳の城下町にいやがる。」
『・・・はぁぁ!?/・・・えぇぇ!?』
『・・・・っ????』
呆れ顔の長海の一言が予想外の一言であった焔と葛篭は共に長海が喋り終わって一拍ついて同じ驚愕の声をほぼ同時に上げた。
対して普段そこまで感情の起伏が余り無い葛篭が焔共々驚いて声を上げたことに驚く三人は益々困惑するのである。

「・・・な、なぁ長海? 」
「・・・ぁ、あぁーすまん。奈々、実は俺の武器を補修・・・と言うより打ち直した武工氏が来ているんだよ。・・・伊児さんっていうヤツなんだが・・・」
「なにッ!? 伊児だとぉっ!? どうして長海がそんな凄い人と知り合いなんだ!?」
先にも述べたが伊児という【女の】武工氏は親魔の国においての最高の技量持ちという人だ。・・・いや人だろうか?
かの頑固者技工士は己の気に入った者にしか武器を作らず、逆に彼女から武器を作ってもらうという事は武人にとって誉とでも言うべきことである。

しかもその技術、ただの噂に非ず。

彼女は武器を作るとき、必ずその者に合う形の武器を己の目で見抜く。
その目で見たその者の本質を武器と言う【形】に映しこむ。
伊児の作業を見たとある武人は「その作業の様子はまるで何かに憑かれたかのようだ」と言う。

そして作られた武器はその武人にとって正しく手足の一部と化す。

ひとつ、彼女の打った薄身の刀で岩を斬っても折れず。
ひとつ、彼女の作った弓で矢を射れば見えなくなるまで空に矢が飛び続ける。
ひとつ、彼女の鍛えた槍で大金槌を防御しても大金槌が砕けてしまう。

比喩のように聞こえるだろうが、これは実際に彼女の作った武器を使用した武人達の経験談である。

それだけ凄い武工氏の彼女だが彼女に武器を作ってもらったどんな武人でも彼女のことで決して喋らないことがある。

それは【彼女の姿を絶対に語らない】。
何故かは分からないが彼女の武器を手にする武人は皆決してこの事だけは口に出すことが無かった。

そしてそんな偉人とどうして知り合いなのか、と長海に飛び掛り胸倉を掴んで前後に揺さぶるは奈々である。
先日の事は涙とともに吹っ切れ、今日も剣速を伸ばす為の筋力強化をしていた矢先にコレだあった。

「わ、わかった! は、話す、からっ! だ、だから・・奈々、お、おちつ、つけって!」
「っあ・・・ご、ごめん・・・長海・・・」
長海の途切れ続ける会話を聞き取った七は不意に自分のしてる行為を止めて耳と尻尾を力なく垂らし長海への謝罪と共に開放する。

再び呼吸を整えた長海は奈々たち三人に対して自分達と伊児という偉人の接点を語ることに。

「まず俺と伊児さんの関係だが・・・伊児さんには養父の代からのつながりで子供の頃にあの人に気に入られてな? それ以降は何かと世話してもらっていたんだ。
そして俺が元服の儀を終えたことをいうと一振りの小鎌付き棍・・・戦戈【せんか】っていう武器をくれたんだよ。そこからまた付き合いが・・・」


「・・・まて。長海・・・今【棍】っていったよな? ・・・長海の部屋の何処にも無かったぞ!?」


皆それぞれ思い思いの場所に座り長海の語りを聞いているととある場所で疑問になった奈々が話の途中というのに割り込み質問をする。


「あぁ。・・・だが今は手元に無いんだ。楼坑で模擬戦しているときに誤って岩をかなり強かに打ち付けてしまってな。
その時小鎌の刀身に皹が入ってしまって伊児さんに持っていったら・・・

『へぇ! アタイの想像以上の力だったって事か! ふふっ嬉しいねぇ♪・・・何、心配すんな、長海の坊。これはアタイが坊の実力を過小評価していたってことだ。気にするこたぁないよ? ・・・よし。待ってな! もっと強い力でも耐えられるように作り直してやるよっ♪』

・・・といって武器を預けられちまってな。その次の日に史厳に移動の話が来て・・・

『なにっ? 史厳?・・・そうかそうか♪ 坊も随分と重役になったもんだ! 嬉しいねぇ!坊はアタイにとっては我が子同然だからな。・・・親としてこいつぁ愈々覚悟決めなきゃなっ!
・・・坊・・いや。長海。オマエの武器は責任もってアタイがオマエの下へどうにかして届けるよ。楽しみにしてな♪』

・・・んで今になる訳だ。」


「・・・なるほどな。」
「・・・さて。奈々が納得したところで次はあたし達と伊児さんの関係だね。」
長海の説明に納得のいった奈々は静かに頷くとその様子を見ていた焔が間髪いれずに語り始める。

「私達は伊児さんに直接関係あるわけじゃないのよ。ただそのお弟子さんに・・・」
「弟子も知り合いなのか!?」
武人の奈々にとって今日は驚くことばかり。
焔の話を遮るようにして両手を突っ張って体を急に上げて椅子から少し腰を浮かせた様を見ればどれほどかお分かりになるかと。

「・・・奈々、お座り。」
「っ!?・・・・きゅーん・・・」
長海から着席命令が出ると吃驚した顔と耳を一度だけピンと立ててすぐに悲しげな顔になり力なく耳を尻尾共々下げて小さくなりながら席に着く。

「・・・んで。そのお弟子さんにいる紀磐という娘が私ら楼坑の女組の大親友なの。」
「えぇ。そして長海とも友達ですよ。」
「まぁな。」
楼坑組みは皆が皆「懐かしい・・・」と呟いて口角が少し緩み微笑んでいた。

「そして今では数人いるお弟子さんの中で一番弟子になったのよ。」
「今回は伊児さんの付き添いみたいですね。」
「・・・そんな関係があったんだ・・・でも私史厳育ちだから知らなかったよ、伊児っていう【人】。」
春が不意に漏らしたその一言に先ほどまで和やかだった空気が目に見えて重くなっていく。
その原因は頭を抱えて溜息を同時に漏らす楼坑税のせいであるが、表情も暗い。

「・・・いえ、ね? ・・・あの人・・・というか【人】じゃないし。・・・魔物だし・・・。」
「しかも紀磐も・・・魔物ですし・・・」
「史厳が反魔物って分かっていながら飄々とやってくる伊児さんらときたら・・・」

『はぁ〜・・・・』

また溜息が被った。


「・・・え、それって危ないんじゃ?」
「いや、春。どう考えてもその二人おかしいぞ!?」
「は、はやく城下町に助けに行きましょう!?」
先程まで楼坑勢が大慌てだった理由が分かった奈々達もやはり事の重大さに大慌て。
春はあたふたと両手を振り、奈々は席を立って何処かに行こうとするも長海に止められて耳と尻尾が力なく垂れ下がり、慎香にいたっては口前を両手で塞ぎ「あぅあぅ」と耳をペタンと下げて尻尾を不規則に揺らし唸っていた。

「・・・あぁー・・・それで、だ。これより馬鹿師弟達を救出する為に・・・」
パン、と手を打って場を沈めさせて軍師としての知識を使ってこの作戦に最良の組み合わせを瞬時に考えてそれを公表しようと口をつぐもうとしたその時。




「・・・その必要はありませんよ。」



「・・・なにか用かしら? 季礼?」
『っ・・・・』
皆が座る椅子へ外から投げかけた言葉の主である季礼は配下も連れず一人だけで本来の姿ではなくて黒い武官服に身を包んでいた。
・・・勿論武器は携帯していない。
しかし、未だ術が聞いている部屋へ入るのだから姿は見えずとも禄はいるのだろう。

「あら?貴方達の客人に道案内をしていただけですが?」
長く伸ばした黒髪を馬尾のように纏めて白い細布で縛った季礼はその性質も合ってか非常に凛々しく見え、清廉潔白が服を着て歩くとはこのことを言うのだろう。
しかし気になったのは・・・

「・・・客人?」
「そう、客人。・・・この方々ですが、違いますか?」
客人という言葉に疑問を持った楼坑勢の面々を代表するように焔が片方の眉を吊り上げて季礼に対して疑問を返す。
すると季礼は「心外だ。」とでも言うような表情で自身の体を一歩引き左にずれて後ろにいる客人と思われる者へ焔達の視線を誘導する。
そして季礼が退いたことで見えた客人とは・・・

「お久しぶりです。」
「ひさしぶり♪」

・・・幼女と長身の女性であった。
幼女は臙脂色の髪を後ろで二房に束ねて後ろに跳ね上げて落とした髪型で宛ら二つの馬尾の様だ。
蒼い瞳、微笑む口元から覗く白い八重歯、どう見ても長海の腰まで届かない身長。
平らではなくともある、とも言い切れない胸。
着ている服は楼坑でよく見られる厚手の服であり長身の女性と同じ国王の名と同じ色である瑠璃色を着ている。

何処から見ても幼女であった。

対して長身の女性は藤色の髪を肩より少し上で横一直線で切りそろえ揉み上げだけ肩に届くほど伸ばし前髪は額が隠れる程度に伸びている。
左に眼帯をする花浅葱色の瞳、微笑むという言葉通りの笑顔、おしとやかな挨拶から観れる温和な感じ、長海と同じくらいかそれ以上に高い身長。
幼女と同じ瑠璃色の服の上からでも分かる山は前の布地を少し窮屈そうにして張っている。

何処からどうみても幼女の保護者みたいに見えた。

「お久振りです。伊児さん、紀磐。」
「伊児さん・・・あの手紙で肝が冷えました。」
「お久しぶりですね伊児さん、紀磐。」
楼坑組はその姿を確認すると安著の溜息と共に笑顔へと変わりそれぞれ挨拶するのだった。
対して他の三人はというと?

「(・・・ねぇ、奈々。慎香。・・・どっちが伊児さん?)」
「(・・・わ、分からん・・・)」
「(・・・わ、私も・・・)」
初見でどちらが伊児か判別が難しい為に全く行動できずにいた。

「え、伊児・・・っ?!」
一方伊児がいると言う事を聞いた季礼は驚きそして若干興奮気味で長身の女性に詰め寄り腕を胸前で左握右包の構えをとる。

「伊児様、お噂は常々お伺いいたしております。」
『・・・あ。』
季礼は今の種族になってから親魔との戦場を点々としており伊児の名工ぶりの噂を度々みみにすることがあった。
首だけを下げる簡素ながらも敬意を払った礼のまま謝辞を述べていく季礼だったがその様子を見ていた楼坑組は皆揃って「やっちまったな・・・」という顔をした。

何故ならば。



「・・・え、えっと・・・伊児師匠は・・・こちら・・・」
「・・・え゛?」



眼帯をつけた女性が申し訳なさそうに眉尻を下げて開けた手をそろりと隣の幼女に向けると季礼にしては珍しく濁った声をして顔を含め全身が固まり、首を錆びた螺子のようにぎぎぎっと回すと幼女改め伊児が悪戯が成功した子供のような満面の笑みで季礼を見つめていた。

「あっはっはっは! いやぁ〜その顔! やっぱり何時、何度みてもいいねぇ♪ そうさ、アタイが天下の名武工氏・伊児さっ!」
快活良く自慢げに語るその様はまさに偉人。しかしその行動たるや変人。

「ついでに言うとアタイは小工技人【ドワーフ】。小さいのは種族の為さね。気にすることないよ、季礼の嬢ちゃん♪」
先程の焔との会話で目の前の黒服の武人の名を知った伊児はなんの億尾もなく未だ固まったままの季礼に近寄り太ももをバシバシと力強く叩いて大笑いしていた。

これには元々楼坑組でない奈々達三人も声を上げずに固まってしまう。

「・・・し、失礼いたしました!!」
「おっと! ・・・いいさね♪ この反応がみたい為に態とと面割を防いでいのからね♪」
と、再び起動した季礼は深々と謝罪のために頭を下げるも下げた先にあった伊児の手がそれを制して動けなくなってしまった。だがすぐにその手が退かされて季礼は再び表を上げて立ち直って姿勢を正して伊児に向き直る。

「・・・あんた、相当な修羅道をすすもうとしているね? その道は数多の黒い感情を担がにゃいかん。そんな細い心で大丈夫かね?」
「っ・・・・・それでも進むのが私の道です。」
季礼が顔を伊児に向けた瞬間、伊児に瞳を見つめられその合わせた伊児の瞳に体の奥を覗かれるような感じがしたがすぐにその感覚が消えて伊児はまるで説教をするように季礼に語り始めた。
季礼自身、己のことをこの短時間で見抜かれたことに驚愕するも一瞬でいつもの鉄面皮にもどりいつもの覇気を纏った威風堂々の将軍としての返答をする。

「・・・気が向いたら作ってやるよ。嬢ににあう武器をね。」
「っっ! あ、ありがとうございます!!」
『っ!?』
思いもしない事に先ほどまで被っていた鉄面皮がはがれて晴れやかな顔になる季礼とは裏腹に楼坑側の傾国勢は皆『なぜっ?!』という顔をして伊児を見やる。

「ま、気長に待ちなね。」
「は、はいッ! ・・・それでは私はコレにて失礼いたします。」
手を振って気だるそうに話す伊児だが約束はきっちりと守る。
伊児との思いがけない約束を取れた季礼は上機嫌のまま一礼し部屋を後にした。

「・・・伊児さん! なんで・・・」


「だまんなっっ!! ・・・あたしゃ武工氏だ。気に入ったヤツの武器を打って何が悪いんだい? 焔の嬢ちゃん。気に入ったやつが悪か善かなんてのは二の次なんだよ。」


強気の抗議に出ようとした焔だったが伊児の強烈な一喝により黙らされてしまう。
伊児は言葉だけでなくその喝で場の空気をそこにいるだけで薔薇が体に巻きつくようなチクチクとした痛みが伴う鉛のように重い空気へと変えてしまい全員その場を動くことが出来なかった。


実際は数秒のその時間がいつ果てるとも分からない長い時間のように感じる。
しかし・・・


「・・・ま、大体アタイが気に入った連中は悪と言われていたヤツもいつのまにか善の側に来ているんだがね・・・まぁ、あの嬢ちゃんしだいじゃないかい?」
伊児はそういいながら廊下の闇に消えていった季礼の方をみながら呟くと最後にふっと微笑んで先程までの張り詰めた棘が刺さるような重い空気を吹き飛ばしいままでと同じ空気に換えたのだった。

「さて・・・紀磐。もう眼帯とっていいよ。」
「あ、はい。」
紀磐はこの空気に慣れているのかいつもの調子と言う気がするくらい逸早くこの空気から復帰し伊児に言われたとおりに左の眼帯を外す。

するとどうだろう。
健康的に見えた肌色の皮膚がみるみる青くなっていき額からは角が出てきたではないか。
しかし最も特徴的なのは・・・目。
今までみていた両目の顔が靄がかかったかのように不鮮明になり代わりに大きな目が一つだけ顔についたものへとはっきりしていく。

「ふぅ・・・ではそちらの方々とは初めましてですね? 私の名は紀磐。お師匠の一番弟子で種族は一眼技人【サイクロプス】です。種族上口数少ないと思われがちですが私は良く喋る方です。以後お見知りおきを。」
そう言うと今まで固まっていた奈々たちは自分達も自己紹介を伊児らにしていく。

「へぇ〜皆姫様なんかい? 別嬪さん揃いで長海の坊も困っちまうね♪・・・あ、そうそう。長海! 受けとんなっ!」
「っ! よっと・・・・おお・・・手になじむ・・・布をとっても?」
「当たり前だ。ちなみにそいつぁ過去に打った槍型の中で最高傑作だね♪」
卓を囲むようにして座った面々の自己紹介が終わると伊児は嬉しそうに長海を弄っていたが本来の目的である長海の武器のことを思い出すと不意に廊下側に置いた白い布でくるまれた長器械を片手でもって長海のほうへ放物線を描くようにして投げ渡し、長海は席を立ってそれを見事に空中で取った。

「・・・」
長海はその布を解いていく。
すると出てきたのが伊児曰く過去最高傑作と謳った長物。

「・・・すごい・・・」
「なんて・・・美しい・・・」
「す、すごい・・・これが伊児様の・・・」
「わぁ〜! 私も見るのははじめてですっ!」
「きれぃ〜!!」
「・・・美しい・・・です・・・」

それを見た伊児を除く女性陣営は皆が皆感嘆の意を示す褒め言葉を送る。

長海の身長と同じ高さの棍の先には横に伸びた手首から肘までの長さ位の両刃の鎌が付いており芯の周りの部分がまるで馬の蹄を思わせるような波紋が幾重にも且つ無数に散らばっていた。
またその鎌の白刃に至ってはなんと向こう側が薄っすらと視認できるくらいの薄さ。
しかし決して柔らかいということはなく寧ろ硬い。
その美しい波紋と白刃は鎌だけに非ず。
鎌の部分と垂直に、棍の部分の先端に付いた掌くらいの長さと幅で作られた刃先もまた同じ製法のものだというのが窺えるものだ。
鎌の上段と穂先の一端は繋がっており三日月を思わせる曲線を描いている。
そして棍の終わりには先が丸くなったのような金属が円錐の形でくっ付いている。
刃は白に近く芯は黒。棍の刃先近くの部分には虎の彫り物がされており紺色の棒に対して虎の縁取りと刃以外の金属部品が控えめに輝く金色であった。

・・・芸術品と言われれば殆どのものが納得してしまうであろう完成度。

「どうだい? 気に入ってくれたかい? 長海の坊。」
「・・・最高です・・・ありがとうございます!」
長海も例外ではなかった。
長海はその武器を天に掲げて子供のような無邪気な笑顔をして伊児に対して礼を述べる。

「なぁに、ちょっと遅めの誕生日祝いと思って受け取ってくれさね。」
フフッ、と微笑む伊児はそれはとてもとても嬉しそうであった。

【続】

戻る / 目次 / 次へ

古き友人が師匠共々やってきた。

師匠と呼ばれたかの名工は偉人であり・・・変人であった。

長海は無事に得物を得ることが出来たが、はたて長海の本当の力は如何程なのだろうか・・・

11/11/10 01:26 じゃっくりー

top / 感想 / 投票 / RSS / DL

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33