連載小説
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東の国にて

ひょんなことから取材という名の逃避行をするようになったリックとノエル。ハイテンションになってきた二人は東の国に向かう途中、家出をしてきたというリャナンシーのミュウに出会い、連れて行くことになった。リックは明らかに上機嫌に、ノエルはやや不機嫌そうな顔で、そしてミュウはリックの作品をじっくり読みながら三人はジパングにたどり着いた。

「ふぅ〜、やっとついたぜぇ!」

船旅を終え、全身をのばしながらリックはジパングの土を子供のようにはしゃぎながら踏んでいく。そんな見た目は大人、中身は子供丸出しのリックにノエルはいつものようにため息をつき、ミュウは面白そうにくすくす笑っている。

「少しはしゃぎ過ぎじゃないのかリック?」
「だってよ、いくら俺たちが親魔物領に住んでるとはいえジパングの魔物のことなんてあまり聞くことねぇだろ?」

大陸の東に位置するジパング。大陸とは全く違う文化をもち、木造の町並みや着物と呼ばれる衣類が有名であるが、親魔物領の者達にとっては有名な点が一つある。それは稲荷や鴉天狗などの独自進化した魔物娘である。近年では大陸でもたまに見かけるようになったがそれでも大陸の者にとって珍しいのには変わりはない。ジパング出身の魔物は通常の魔物とは違い比較的、人間に親しい種族が多い。そのため、魔物に関する知識人達にとって一度は行ってみたい土地なのである。

「で、今の俺たちは彼女達を知ることが出来る!そう思うとわくわくしねぇか?」
「まぁ、概ね同意するが…」
「私もジパングの魔物娘がどんな恋愛するのか興味がありますね。」

三者三様にまだ見ぬ魔物娘に期待に胸を高ぶらせ、大陸とは全く違う風景の中へと足を進めていった。どこからどう見ても観光にきたようにしか見えない彼らは、目に映るもの全てを焼き付けるように見回っていく。もちろん、すれ違ったジパングの魔物娘も失礼のない範囲で観察していく。ジパングの魔物娘は無理に人間を襲うよりも、献身的に接し友好的な関係を作ったあとに夫婦になろうとする亜種が存在がいる。そのため、近年においてジパングに旅行にくる大陸の人々が後を絶えないと言われている。もちろんリックたちもその一部である。ミュウが現地の人々が着ている民族衣装を興味深そうに見つめる。

「あれがキモノと呼ばれている衣装ですか… 本で読んだことはありますが、あんな感じなんですね… 」
「ん? 見るのは初めてなのかミュウ?」
「はい、ジパングを舞台にしたお話を何度か読んだことがありますが、特徴を表現する文章や挿絵でしか知らなかったので。」
「そういえば、俺たちは何度か見たことがあるが、触ったり着たことはなかったよな?」
「はいはい、ちゃんと買ってやるからその暑苦しそうな顔を向けるな。」

リックがいつものような面倒ごとを持ってきそうな顔でノエルに顔を向けてきたので、リックの次に言いそうな要求を答える。その言葉にリックはさも当然のようにうなずき、ミュウはうれしそうに微笑えみ、ノエルはいつものようにため息を吐いた。







それから一時間もしないうちにリックたちはノエルが見つけた呉服屋で着物を選び、それぞれ個室で着物に着替えることにした。ちなみにノエルが選んだのはごくごく一般的な無地のものを、リックは比較的に派手なものを、そしてミュウは薄い青を基調とし、ジパングの花が描かれた落ち着いたものを選んだ。

「これならジパング人に紛れ込んでも違和感がないんじゃね?」
「いや、髪と顔立ちで普通にわかるだろ。」

着物に着替え終えたリックとノエルがいつものノリで漫才していると、女性の着替え室からミュウが恥ずかしそうに出てきた。心なしか股が落ち着かないようなそぶりを見せている。不思議に思ったリックが問いかける。

「大丈夫かミュウ? サイズが合わなかったのか?」
「い…… いえ、そうではなくてですね……」

二人が首を傾げると、ミュウは恥ずかしそうにほおを染め、もじもじしながらも今着ている着物の感想を述べた。

「キモノは女性用でも本当に下には何も履かないのですね…… 」
「マジか! 実はジパングの住人って俺が思っている以上に淫乱なのか!?」
「いや、魔物娘のための配慮かもしれないぞ。」
「…… ノエル、それってやっぱり淫乱って言ってね?」

着物の感想を言い終えた一行は近くを散策することにした。この町は、観光地として設計されていたのか、適当に歩いていても、その向かう先でジパングでしか見られない美しい光景と出会うことができた。自分たちとは待った違う文化圏ということもあり、家出してきたばかりのミュウはもちろん、少し旅慣れたリックとノエルにも新鮮に感じ、自分がジパングを舞台にした物語の登場人物の一人になったかのように感じた。三人が町を回るうち、日は沈み始めきたのでリックたちは宿をとることにした。






彼らが選んだ宿はそこそこ大きめの旅籠で稲荷が女将を努めており、大陸からの観光客が良く来るためか、特に驚きはせず、彼らを歓迎した。何もかもが初めてなリックたちは彼女たちからのジパング流の持て成しを受け、夕餉を前に野外浴場で旅の疲れを癒すことにした。尚、ノエルがまだ未婚といことで、リックとミュウは混浴に入らず、男湯と女湯に分かれることにしていた。

「はぁぁ…… 野外浴場たぁ、ジパングもすげぇことも考えるんなぁ…… 欲を言えばミュウと入りたかったんでけどなぁ…… 」

温泉に入ったリックは湯に浸かり旅の疲れを癒しながらも、今この場にいない事実上の恋人と自分を引き裂いたノエルを恨めしそうに睨む。一方、睨まれたノエルは全く動じず、むしろ見定めるような視線をリックに送りながら今ある疑問を投げかける。

「リック、やっぱりミュウと結婚するのか……?」
「はぁ? 何言ってんだ? リャナンシーと結ばれるってことは作家、いや創作物の関係者にとって最高位の名誉じゃねぇか。」
「そうか、そうだよな。」

いきなりの問いにリックが首を傾げ不思議そうに相方を見つめ、ノエルは湯を囲む岩場にもたれ、空を見るかのように天を仰ぎ、思考の海に身を沈める。

(危険だな……)

心の中でノエルがつぶやく。リックが言ったことは何一つ間違っていない。リャナンシーに選ばれた作家は巨万の富と名声を得る可能性が高い。だが、その代償にその作家達は例外なくリャナンシーのためだけに作品を捧げるようになり、やがて、社会的立場を全て捨て、彼女達と共に妖精郷へと旅立つ。そうなれば、二度と表舞台に立つことはないだろう。

それは出版社の人間として看過できないことであり、ノエル自身、リックの力を借りて叶えたい野望がある。そのためにもリックをこの世界に留まらせるための楔となる一手をうたねばならない。そこまで考え、ノエルは深くため息を吐いた。


それから数日がたった夜、旅籠の部屋でリック達がジパングの夕餉を終え、思い思いにくつろいでいるところでノエルがここに来てからの疑問が口に出した。

「リック、なんでジパングの魔物娘は献身的に尽くすタイプがいるんだろうな?」
「それは俺も考えてみたんだけどよ、とりあえず仮説程度にはなんとか。」
「聞かせてもらってもいいか?」
「私も聞きたいです。」
「おう。」

リックの言う仮説はまず、元々この土地には強力な魔物と敵対する組織があるということ。この組織に退治されないようにするために協力な魔物娘達以外は力ずくという手段は排除されるため、無理矢理押し倒すことができなくなるから。
次に大陸に比べ小規模な国土の島国に理由があるということ。島国であるが故に渡海能力のない魔物娘にとって男は狭い土地から得る必要があり、狙った男性を確実に結ばれるために気に入られるようにするため。
最後にこの土地には主神信仰が根付かったこと。これは先ほど述べた島国であるが故に主神信仰の宣教師があまり来ることができないため、近くにいて強力な魔物娘を信仰しやすい環境にあったから。

これらが重なりあい、結果として献身的に尽くすタイプの魔物娘の生態ができたのではないかという所まで話した後、リックはあくまで仮説だと結んだ。それを聞いたミュウは素直に関心し、ノエルはそれを証明する手段が自分たちにないことを悔やんだ。

「まぁ、いいじゃねぇか。 そういうのは学者の仕事だろ。」
「それもそうか……」

ノエルが残念そうに言葉を発したところで、襖が開く音がしたため、三人は音の発信源に顔を向ける。そこには女将の稲荷が一通の手紙を持っていた。ノエルがそれを受け取り、内容を確認すると、無言で手紙をリックに渡した。渡された手紙の差出人は自分たちの上司である編集長から。単純な内容は帰還命令だった。
13/02/27 06:15更新 / のり
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■作者メッセージ
補足説明

ミュウ

文学系のリャナンシー。母親との作品の見解が分かれたため喧嘩し家出、その後リック達と出会う。未知への好奇心がやや強い。


お久しぶりです。ずいぶんお待たせた上にこの体たらくなのりです。

ジパング編、リャナンシーちゃんを楽しみにしてた方々、すいません!ネタが思いつきませんでした!これなら、前の話と今回の話の順番を逆にすれば良かったです。自分の未熟さを噛み締めています。

あとリックの仮説は公式の設定とは一切関係がありません。
もう、ネタがないので、次かその次で完結させる予定ですが、時期は未定です。

こんな私と作品ですが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。

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