時刻は22時になろうとしていた。ハンソンカンパニーの社屋に残っているものはおらず、しんと静まり返っている。
　しかし地下倉庫の明かりの魔導具からは煌々と光が放たれ、庫内を明るく照らしていた。
　倉庫の奥、塗装のなされていない鉄扉の前には幾人かの人影がある。
　トーマ、トレア、ミラ、ノルヴィの４人はもちろんとして、ハンソンカンパニー社長トーマス・ハンソンとその秘書ダラード、治安部隊のゴードン・ウィリアムスと部下の３名。
 
「このような時間にこのような所に呼び出されるとは思いもよりませんでしたな。行方不明事件に関することと聞いていますが？」

　白々しくもハンソンは髭を撫でながら訊ねた。
　トーマは鼻で笑いハンソンを睨む。

「分かってるだろ？…この扉の鍵を渡せ」
「トーマ殿、我々にもどういうことか説明願いたい」

　ゴードンが説明を求めるが、ミラが彼にもキツい視線を向けた。

「あなたも、もうそんな演技はしなくていいわよ」
「いや、あなたはなにを―」
「教団の暗部」
「なっ―」

　反論を遮って放たれたトーマの一言に３人は思わず言葉を詰まらせた。
　さすがに彼らも、教団に属する者ということまで知られているとは思っていなかったのだろう。

「ノルヴィの言う通りだったか。大人しく鍵を渡せ…」

　トレアは剣を抜き、その剣先を３人へ向ける。
　するとゴードンの部下３人も剣を抜いた。彼ら抜剣を察したときトーマたちは思わず身構えたが、向き構えている相手が隊長のはずのゴードンやハンソンたちであることが分かると、安心しながらも困惑してしまう。

「…お前たち、なんのつもりだ？」
「申し訳ありません、隊長」
「しかし、今し方の反応を見てしまいますと、彼らの言い分を嘘とは思えないので…」

　ハンソンは諦めたようにふぅ…と息を吐くと笑みを浮かべた。

「ゴードン…良い部下に恵まれたものだな」
「ええ…全くですよ、“隊長”」

　ハンソンの言葉が皮肉だということを分からない者はいない。
　そしてゴードンがハンソンを隊長と言ったのを聞き、部下３名の手に力が入る。

「こうなってはしょうがないですね。鍵は私の内ポケットですよ」

　治安部隊の３人がハンソン達にそれぞれ剣を向けて見張り、トレアがハンソンの内ポケットから鍵を取り出してトーマに投げ渡した。

「他の二人はどこだ？どうせ、その辺で隙を伺ってるんだろう？」

　トーマは鋭い目線で問いかける。

「やはりバレていますか…おい、出てこい」

　荷箱の影から短剣を構えた男女が姿を現し、ハンソンの頷きによって短剣を手放した。
　トレアが男に近づき剣を向け見張り、ミラが弓を構えて女を見張る。
　トーマは扉の鍵を解き、扉を開ける。
　明かりのない部屋の中に光が差し込み、薄暗く中の様子を映し出した。
　床に無造作に横たわる魔物と女性の姿を確認したが、トーマはまず部屋の様子を伺った。
　部屋の四隅に燭台のようなものがあり、そこから煙が床に向かって流れ落ちていた
　倒れている魔物や女性たちを観察すると、一定のリズムで腹が上下していて呼吸があるのがわかった。

（つまり、睡眠薬か何かか…）

　彼は肘の内側を鼻と口に当てながら中に入り、椀型になった燭台の中でゆらゆらと燃える小さな火を消していった。

「みんな、これで大丈夫だ。被害者たちも全員生きてる」

　トーマのその言葉に場の空気が僅かに緩んだ。


「っ―！危ねぇ！」

　ノルヴィがミラに飛びかかるように抱え、2人が勢いのままその場から少し逸れる。
　その残像を消し去るように何かが飛来し、荷箱に突き刺さった。

「くそっ！退避！」

　突き刺さったのが矢だと見た治安部隊の誰かが叫んだ。直後、彼らとトレアに向けて続け様に幾本もの矢が襲いかかる。
　幸いにも全員が避けたり剣で切り落としたため当たることは無かったが、その隙にハンソンも含めた教団暗部の５人は身軽な動きで飛び退き武器を構えていた。

「くそっ、まだ仲間がいたのかっ！」

　苦々しげにトーマが吐き捨てる。
　そんな中トレアは教団暗部の５人に肉薄していた。
　単純に考えればいくら魔物といえど５対１はきついものがある。しかし、弓矢による援護という条件の元ならそれは可能であった。
　トレアは辺りの荷箱を巧みに利用し、立体的な立ち回りを見せていた。
　駆け回り、跳び返り、変則的な動きを見せる彼女に教団暗部の面々は翻弄されており、時たま彼女の隙を狙う者には、そのタイミングを見計らったミラの正確な矢が放たれるのだ。
　逆に教団暗部側の矢による援護は無くなっていた。いわずもがな、隠れている射手はミラほどの正確な射撃を行える訳ではなく、重ねて味方の包囲する中を、外を動き回るトレアに向かって矢を放てば同士討ちになる可能性が高い。
　更にはそれによって場所がバレれば治安部隊やトーマたちに狙われ、もしもその上で５人の中の誰かが射手の援護に回れば、今度はトレアの相手がキツくなるのだ。
　むしろ今は、トレアの邪魔をしないように誰も参戦しない故に成り立っている均衡なのであった。

「このっ！魔物風情がっ！」

　ゴードンがトレアに襲いかかる。
　彼女はその攻撃をさらりと躱し、背後に回り込んで反撃する。
　横凪の一閃を剣で受け止めたゴードンは、治安部隊の３人は元より、トーマたちも思っていなかった行動に打って出た。

「トゥルビディード！」

　その瞬間トレアの手から剣が零れ落ち、目眩でも起こしたようにフラフラとその場に崩れ落ちた。
　そして意外にもゴードンも膝を着いていた。

「トレアっ！」
「…やってくれる…！」
「くっ…」

　ミラは叫び、トーマは独りごち、ノルヴィはぼそを噛んだ。
　３人の反応はトゥルビディードという昏睡魔法の存在を忘れていたからではなく、明確な理由を持って下した、“使われることは無い”という判断を覆されたためである。
　そもそも、トゥルビディードという昏睡魔法は対象者に外的な魔力を持って神経に働きかけて意識を断つ通常の魔法とは異なり、対象者の魔力に自分の純粋な魔力を打ち込み、その魔力によって無理矢理対象者の魔力を乱流させて昏睡させるという魔法なのだ。
　そして、その純粋な魔力とは大量の魔力を高濃度に圧縮したものなのである。
　以上の理由からこのトゥルビディードは魔力操作技術と魔力保有量を常人の比ではない程に高めていなければ連発はおろか、発動すらままならないのである。

　ハンソン達をここへ呼んだとき、ミラは彼らの魔力量を感知していた。当然、潜んでいた男女も含めてである。
　結果は“現状誰にもトゥルビディードを行使するだけの魔力量はない“というものであった。
　トーマに対しトゥルビディードを行使したのは女と誰かもう１人。その２人に関しては所謂弾切れの状態であり、３時間程では十分に回復仕切ることは無かったのである。
　他の３人に関してはそもそもの魔力量が足りておらず、使用は不可能との判断であった。
　ちなみに射手の存在をミラが発見できなかった理由としては、ミラの探知範囲外にいたためである。特に５人だと思い込んで、魔力量を測るということに特化させた結果、探知範囲は通常の3分の1にまで狭まっていたのだ。

　ゴードンは肩で息をしていた。
　足らない魔力でトゥルビディードを行使した結果、彼の保有魔力は行動できなくなる寸前まで減少しており、あとほんの僅かでも魔力を持っていかれれば魔力切れで意識も途切れてしまうところであった。
　トレアとゴードンが倒れた時、ダラードが素早くトレアを抱えて人質にとっていた。
　首に短剣を向けてトーマ達を見据える。

「よくやった。さて、これで形勢は逆転かな？」

　ハンソンはいつの間にか手にした短剣をトーマたちに向ける。
　ゴードンも何とか立ち上がり、剣を構えていた。

「ホルン、サーシャ、お前たちは上に行き念の為逃走経路を確保しろ。殺すつもりだったが気が変わった、こいつらも贄として連れ帰る」

　初めに物陰に隠れていた男女、ホルンとサーシャは頷くと、足早にその場を後にした。

「さあ、大人しく後ろの部屋へ入れ…」

　ハンソンのこれまでとは違う低い声に従い、トーマたちは暗室へと後退した。
　そして目の前の扉が閉まり、錠の落ちる音が響く。
　文字通り、トーマたちの視界は闇に閉ざされたのだった。

「…みんな、少し静かにしててくれ」

　トーマは暗闇の中で扉に近づき、耳を付ける。
　音は小さいがハンソンたちの会話を多少聞く事が出来た。

「ミラ、灯りは出せるか？」
「ええ。―ライト」

　光の玉が現れ、部屋の中が薄明るく照らされる。

「やつらは何と？」
「ハンソンとダラード、ゴードンの三人はトレア連れて森に隠してある馬車に向かったらしい。勝手に作った裏口からな」

　治安部隊の１人が訊ね、トーマが答えた。

「恐らく見張りは射手の1人だけだ。ただし見えるところにはいない可能性が高い。そこで、ミラ」
「わかったわ。少し待って」

　ミラは目を瞑り薄く広げるようなイメージで魔力を延ばしていく。

「…倉庫全体を見てみたけど、一人だけね。場所はこの扉の正面、三十メートル先よ。」
「わかった」

　敵の位置取りがわかったところで、被害者の魔物と女性たちの状態を確認する。呼吸は安定していて、連れ込まれる時についたであろう僅かな擦過傷がある程度、現状で命に別状はないと思われた。

「ミラ、気付けの魔法って使えるか？」
「ええ。…彼女たちを起こすの？」
「ああ、ただしあの扉を開けてからな」

　トーマがいとも簡単そうに言うので、治安部隊の３人は驚いた顔をする。

「トーマ、解錠の魔法は対策されてるわよ？」

　ミラは心配そうな顔で訊ねるが、トーマは焦らない。

「あー、その手もあるのか…。大丈夫、もっと物理的な手だからな」

　そういうとトーマは懐からナイフと銃を取り出した。

「…またそれで切るのかしら？」

　不安そう、というか少し嫌そうな顔をするミラ。
　耳のいい魔物には高周波ナイフの切断音は耐え難いものがある。そもそも、人でも相当うるさく思うのだから当然だ。

「いやいや、今回はそれも必要ないんだ。まぁミラは耳を塞いだ方がいいのは間違いないけどな」

　そう言うとトーマは、左右の扉の間に左手に持ったナイフの刀身を差し込んだ。
　外から明かりが入って来る事はないが、それは片方の扉の表側が隙間を塞ぐために少し伸びているせいであり、ピッタリと扉同士が接している訳では無いのだ。
　胸あたりの高さで隙間に差し込んだナイフを、ゆっくりと下にスライドさせていく。
　するとヘソの高さでカツリと刀身が何かにぶつかった。閂である。 

「耳、塞いどけよ？」

　ミラはもちろん、一応他の４人も耳を塞いだ。

　それを見たトーマは右手に持っていたピストルを軽く掲げて振り下ろした。
　グリップの底面がナイフの背を叩き、特殊合金の刃は欠けることなく鉄の閂を叩き割った。

「思ったよりうるさかったな…」

　独りごちたトーマはナイフとピストルを収める。

「参りましたね…、恥ずかしながら我々の出る幕はなさそうです」

　治安部隊の１人がやや呆れたように言った。

「おいおい、若いの。そんなことないでしょうよ」

　ノルヴィは彼の肩を叩く。

「俺とミラと一緒に、この眠り姫達をエスコートする一大任務があるじゃないのよ？
　それに、上にいるお仲間さんたちがきっといい動きしてくれてるって」
「…そういうことですか…なるほど。今のボヤキは忘れてください」

　そう言って彼と、同僚の２人は未だ閉ざされたドアの前に立つ。

「一先ず、見張りは我々で抑えます」
「了解した。俺はハンソンの後を追わせてもらいます」
「分かりました。奴らの足取りは治安部隊が追っているはずです」

　治安部隊の３人はルトー、ハンス、スウェンといった。
　６人は素早く段取りを組み、すぐさま行動に移す。
　トーマ達はまず眠った被害者達をドアからの直線を避けるように両端へ移動させた。
　トーマたちも左右に分かれ、敵の射線に入らないように隠れると治安部隊の2人が両側からドアを少しだけ開ける。
　案の定、物陰から相次いで矢が放たれた。しかし過半数は隙間を通ることは出来ず、扉に当たって弾かれた。扉をくぐった矢も獲物を捉えることは無く床に転がるのみ。
　その間にもミラは慣れた手つきで数本の矢を取ると連続して放った。彼女は予めわかっていた敵の居場所をギリギリ覗ける位置におり、対照的に難なく隙間を抜けた矢は敵の隠れる荷箱に突き立っていった。
　ルトーが飛び出し、射手へと駆け寄っていく。
　彼は時たま放たれる矢を、怯むことなく剣で叩き落としながら進んでいき、ついに短剣を抜いた射手と切り結んだ。
　そしてルトーの影に隠れて小倉庫から出たハンスとスウェンがこの時両側から回り込んでおり、競り合う射手を取り押さえたのであった。

「さすがですね」
「恐縮です。では被害者たちは我々が」
「ああ、頼みます」

　トーマが疑惑のエレベーターを操作すると、ゴンドラが何の違和感もなく上階から降りてきた。
　彼が上の方を覗き込むと、そこには薄暗い通路が建物の裏手の方へと続いていた。

（やっぱりそういうことだよな）

　トーマは通路へとたどり着くと、警戒しながら先へと進んで行く。真っ直ぐ伸びた20メートル程の通路の先には梯子が見えていた。
　通路には罠などもなく、難なく辿り着いた梯子を登ると周りの壁は外壁のそれに変わっていた。

（壁の中をくり抜いたのか…ご苦労なことだ）

　それとも魔法があればそれ程大変でもないのかもしれない、と考えながら隠し扉を押し開いた。

「何者だ！」

　外にいた２人の治安部隊員が剣に手をかけたが、ランタンに照らされた者がトーマだと分かると安堵しつつ警戒を解いた。
　ゴードン達には内密に、トーマ達は治安部隊の他の班にも援護要請をかけていた。
　その結果、２班の総勢10名がハンソンカンパニーの正面と裏手の壁外に待機してくれることになっていたのだ。

「トーマ殿、やはり予想通り奴らはこちらから逃走しました。何とかゴードンの部下だったホルンと女は捉えましたが…」
「ハンソンたちはトレアを盾に逃走したんですね？」
「ええ。奴らはこのまま真っ直ぐ南西に向かったようです。小隊長含む四名と正面側から合流した四名の計八名が騎乗して追跡しています」 

　トーマは数メートル離れたところで繋がれている２頭の馬をちらりと見やり、後を追いたいが馬を扱ったことがないことを話す。
　すると快く隊員の１人がタンデムしてくれることになり、２人追跡を開始した。残った１人はミラやルトーと合流し、被害者達の救助に回ることとなった。
　追跡を開始して10分が過ぎた頃、前方に駆け足で進む治安部隊の灯りを目視した。

「いました！」 

　隊員はそう言うと、部隊に近づいていく。

「隊長！」
「ジェミー！トーマ殿も一緒か！」
「状況はどうなってますか？」
「あれを」 

　隊長の示した右前方の木々の向こう。そこには逃走する１台の馬車が見え隠れしていた。

「馬車か…」
「ええ。途中で割り込んできて、ハンソンら三名とトレア殿を乗せています。追いつくことは可能ですが、人質を取られている以上迂闊に手は出せません」

　トーマは馬車を睨みながら少し考え込んだ。

　その数分後、逃走する馬車の目前に火球が飛来し小さく爆発を起こした。
　驚いた馬は歩を止めて暴れ出そうとし、御者役はそれを宥めるのに必死になった。そしてその隙に周りを騎乗した治安部隊が取り囲む。
　１人の隊員が御者に向かってワンドを振って光球を放ち、命中した御者は弾き飛ばされ馬車から転げ落ちて気絶した。
　その後ハーネスを解いて尻を叩けば、馬は何処かへ走り去っていった。

「トーマス・ハンソン、及び以下二名に告ぐ！人質を連れて降りてこい！」

　小隊長が声を張ると、馬車の扉がゆっくりと開く。
　初めに見えたのはトレアの姿だった。文字通り盾にされており、その後ろには彼女を抱えるダラードが覗いている。
　扉は開けたものの降りてくる様子はなく、トレア首には短剣が向けられていた。

「分からないか、お前たち。このトカゲを見捨てるなら向かってくるもよいだろう。しかし、そうなればこれを死なせたのはお前達だ」

　治安部隊の誰しもが、この男たちは躊躇いなくトレアを刺すことは分かっている。だからこそ、これまでは追跡しかできなかったのだから。
　そしてこの状況は容易く予見できた流れであり、むしろ予見できたからこそ彼らは行動に移したのだ。

「わかったら大人し―」

　―パァァン

　ダラードの言葉を待たず、乾いた轟音と共にダラードの左肩からは血が飛び散った。

「ぐぅっ―！」

　ダラードは痛みにより声を上げ、思わずトレアを離していた。
　目前で起こった事とその音にその場の全員が驚愕するが、予め聞かされていた治安部隊側の動揺は少なく、即座に馬を宥めることに成功した。
　トレアを保護するため動いた治安部隊の２名と、人質を取り戻さんとするハンソンたち。近さからいえば、ハンソンがトレアに短剣を突き付ける方が当然早いはずであった。
　しかしハンソンがトレアへ手を伸ばした瞬間、先程の乾いた音がするとほぼ同時に馬車の乗降口の縁が２度小さく破裂した。
　ハンソンは咄嗟に馬車中に身を隠した。実際、あまり意味は無いのだが。
　その隙に隊員達がトレアを連れて退ったことで、治安部隊がハンソン達を取り押さえるまでにそう時間はかからなかった

　闇の広がる林の中からトーマは姿を現した。
　治安部隊員達はハンソン達の乗った馬車に自分達の馬を繋ぎ直しているところだ。

「お疲れ様です、トーマ殿。おかげで無事身柄を確保することが出来ました」
「上手くいって良かったです」
「しかし驚きました、どの様な手を使われたので？」

　トーマは治安部隊に馬車の動きを止めて包囲し、馬車の扉の直線上を塞がないように立ち回って欲しいこと、自分の手段は大きな音が伴うため馬を窘める必要があることを伝えていた。
　しかし、ピストルを無闇に見せることも細かく話すことも、隠せる選択肢がある以上は躊躇われたため話していなかったのだ。

「…申し訳ないですが、あまり詮索しないで貰えると助かります」
「…事情がおありのようだ、わかりました」

　大人の対応をして貰えたことに安心していると、街からの早馬が到着した。

「報告します。被害者は全員病院に搬送し終わり、命に別状はないことが確認されました。現在は皆さん眠っておられますが、救助の際にはミラ殿の魔法により意識は取り戻されておりました」
「なるほど、了解した」
「トーマ殿、ミラ殿とノルヴィ殿は宿に戻られております」
「分かりました、ありがとうございます」

　その後やって来た治安部の馬車にトーマは眠ったままのトレアを連れて乗り込み、宿まで送られた。日付の変わろうとする深夜のことであった。

■作者メッセージ
次回はお色気回です

お楽しみに！