勇者
「それでは商業目的で1ヶ月ほどの滞在ということですね」
「ああ、そうだ」
顎鬚の商人と話をしながら私は入国審査を進めていく。
私の手元には二人分の入国許可証があり、
商人の横には隠れるように魔物娘が並んでいた。
「そちらの女性はどのような目的ですか」
「・・・」
頭に丸い耳を生やし、太い尻尾が緊張を表すように
ピンと張っていた彼女は顔を伏せた。
「すまないね。彼女は私の弟子のようなものだ」
「そうですか」
「ジパングの訛りがひどくてね、まだこちらの国の言葉を喋れないんだ」
見慣れない服装なのはそういうことか。
私は商品のリストをチェックし
禁制品がないか調べる。
どうやら問題はなさそうだろう。
その間、商人の男は時間を潰すように話を始めた。
「この国の入国許可はなかなか取れなくてね。今回も苦労した」
「昨晩、強行突破しようとしたサキュバスがいたらしいが」
「恐ろしいね、この国の兵士は。あっという間に撃ち落としてしまった」
男の世間話を耳に入れながら
入国許可の印を押す。
「魔物娘は国内では耳と尻尾を隠すように」
「ようこそ。我々の国へ」
男女の商人を目で見送りながら、私は深く息を吐く。
彼らは合法的な目的と手段で入国した。
かつてバイコーンを馬という名目で、
ジーニーやつぼまじんを商品という名目で
入国審査をすり抜けようとした商人と比べれば遥かにましだ。
私は拡声器持って次の入国者に入るように言った。
幽鬼がそこにいた。
頭に角、蝙蝠の羽、悪魔の尻尾、たわわに実った豊満な胸
特徴がそれだけならばサキュバスだが
扇情的ながらも急所は守られた鎧、腰には剣
淫靡なオーラを携えた魔界の騎士とでもいうような恰好だった。
所々焦げて矢が数本刺さっていなければの話だが
「ここを通してくれ!」
「入国許可証はお持ちですか」
「何だそれは!」
「入国を許可する証明書です」
「持っていない!」
彼女は整った顔立ちで堂々と言う。
頭から血を流していなければ
まだ最低限の威厳はあっただろうが
これではとても残念だ。
「入国は許可できません」
「入国許可証とやらがないからか!」
「そうです」
「そうかそうか」
彼女は納得したように頷くと
「昨日は空から入ろうとして大量の矢と魔法に襲われて」
「仕方ない今日は歩いて入ろうと思ったが、また私の負けのようだな」
「侮れないな!この国は!」
ひとりでに勝手に納得し
また来ると言い残し、彼女は外に出た。
牝の香りに混じって血と焦げた匂いがして台無しだった。
私は机の上の報告書を開いた。
『昨晩、魔物娘が単独で我が国の上空に侵入。不法入国の恐れありとして
我が国の魔法使いと兵が迎撃。その際に「やめろー!私は勇者なんだぞー!」
と叫んでいたがその後国境から撤退。国内に関係者がいないか調査中だが
特定には至っておらず、引き続き調査中。
我が国に栄光あれ。』
私は再び彼女と会うことになるだろうと予感し
深くため息をついた。
「ああ、そうだ」
顎鬚の商人と話をしながら私は入国審査を進めていく。
私の手元には二人分の入国許可証があり、
商人の横には隠れるように魔物娘が並んでいた。
「そちらの女性はどのような目的ですか」
「・・・」
頭に丸い耳を生やし、太い尻尾が緊張を表すように
ピンと張っていた彼女は顔を伏せた。
「すまないね。彼女は私の弟子のようなものだ」
「そうですか」
「ジパングの訛りがひどくてね、まだこちらの国の言葉を喋れないんだ」
見慣れない服装なのはそういうことか。
私は商品のリストをチェックし
禁制品がないか調べる。
どうやら問題はなさそうだろう。
その間、商人の男は時間を潰すように話を始めた。
「この国の入国許可はなかなか取れなくてね。今回も苦労した」
「昨晩、強行突破しようとしたサキュバスがいたらしいが」
「恐ろしいね、この国の兵士は。あっという間に撃ち落としてしまった」
男の世間話を耳に入れながら
入国許可の印を押す。
「魔物娘は国内では耳と尻尾を隠すように」
「ようこそ。我々の国へ」
男女の商人を目で見送りながら、私は深く息を吐く。
彼らは合法的な目的と手段で入国した。
かつてバイコーンを馬という名目で、
ジーニーやつぼまじんを商品という名目で
入国審査をすり抜けようとした商人と比べれば遥かにましだ。
私は拡声器持って次の入国者に入るように言った。
幽鬼がそこにいた。
頭に角、蝙蝠の羽、悪魔の尻尾、たわわに実った豊満な胸
特徴がそれだけならばサキュバスだが
扇情的ながらも急所は守られた鎧、腰には剣
淫靡なオーラを携えた魔界の騎士とでもいうような恰好だった。
所々焦げて矢が数本刺さっていなければの話だが
「ここを通してくれ!」
「入国許可証はお持ちですか」
「何だそれは!」
「入国を許可する証明書です」
「持っていない!」
彼女は整った顔立ちで堂々と言う。
頭から血を流していなければ
まだ最低限の威厳はあっただろうが
これではとても残念だ。
「入国は許可できません」
「入国許可証とやらがないからか!」
「そうです」
「そうかそうか」
彼女は納得したように頷くと
「昨日は空から入ろうとして大量の矢と魔法に襲われて」
「仕方ない今日は歩いて入ろうと思ったが、また私の負けのようだな」
「侮れないな!この国は!」
ひとりでに勝手に納得し
また来ると言い残し、彼女は外に出た。
牝の香りに混じって血と焦げた匂いがして台無しだった。
私は机の上の報告書を開いた。
『昨晩、魔物娘が単独で我が国の上空に侵入。不法入国の恐れありとして
我が国の魔法使いと兵が迎撃。その際に「やめろー!私は勇者なんだぞー!」
と叫んでいたがその後国境から撤退。国内に関係者がいないか調査中だが
特定には至っておらず、引き続き調査中。
我が国に栄光あれ。』
私は再び彼女と会うことになるだろうと予感し
深くため息をついた。
19/12/30 15:44更新 / 二三の理
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