こっくりさん
今年で高校生になった僕には好きな人がいる。
由美さんという同じクラスの子。
取り立てて他の子より可愛いわけではないのだが、初めて見た時からずっと好きだった。
いわゆる一目惚れ。
まあ、思春期だしそんなこともあるはずだ。
当然、声をかけるなんて出来なかった。
よくある恥ずかしくて話しかけられないというやつだ。
同じクラスなんだから挨拶くらいしてもいいと思うのだが、僕は「おはよう」の一言さえ言えなかった。
「はあ…」
寄り道した本屋で僕はため息をつく。
今日も話しかけられなかった。そんな自分をどうにかしたくて、その手の事について書いてある本でも買おうと思ったのだ。
季節は5月に入ったばかりで、まだ「入学後のイメチェン」だの「これでばっちり！すぐにクラスに馴染む方法」といった本が棚に並べられていた。
そんな本を手に取っては戻すを繰り返していると、ある本を取った拍子に1冊の本が棚から落ちてしまった。
それは幅がほとんどない小さな本で、どうやら他の本の間にすっぽりと隠されてしまっていたらしい。
「恋占い。あの子の好きな相手は？」というタイトルだった。
僕は占いなんて信じないのでそのまま棚に戻そうとしたのだが、大した厚さでもないのでパラパラと本を流し読みしてみた。
その時、ふとあるページで偶然手が止まった。
そこに書いてあったのは、こっくりさんだった。
「今時こっくりさんかよ…」
一昔前には流行ったみたいだが、このご時世にそんなことをするヤツはいないだろう。
ほとんど馬鹿にしながらその内容を見てみたのだが、このこっくりさん、少し違うらしい。
具体的には一人でも出来ること、時間が指定されているという点だ。
その時間は午後四時半に始めることと書いてあった。
大して変わりないなと思いながら、携帯を取り出して時間を見るとまだ四時前。
「……」
一応、今から家に帰ればこのこっくりさんが出来る。
いや待て。何を考えているんだ、僕は。
こんなの迷信に決まっている。
そう思っていたのだが。
気がつけばダッシュで家に帰っていた。
親は共働きなので家には誰もいない。
それが後押しとなって、僕は家に着くとさっそくこっくりさんの準備を始める。
ルーズリーフを取り出して「はい」、「いいえ」、「男」、「女」、「鳥居」、「あ」から「ん」までを書き、10円玉を用意する。
ここまでしても信じてない割合は9割9分だったが、それでも興味本位で四時半になると僕はこっくりさんを始めた。
「こっくりさん、こっくりさん、来て下さい」
そう言ってしばらく待ってみたものの、これといった変化はない。
ま、当然だよななんて一人呆れながら、それでもダメ元で言ってみる。
「こっくりさん、いらっしゃいますか？」
すると、ゆっくりと10円玉が動き出したではないか。
「え！？」
誓って言うが、僕は少しも指を動かしていない。
それなのに10円玉は勝手に動いているのだ。
目の前の出来事が信じられなくて、動く方とは逆に指を進めようとするが、まるで自分の指ではないかのように勝手に動いていく。
そして10円玉は「はい」のところで止まった。
そんな馬鹿な。
本当にいるのか？こっくりさんが？
どうしても信じられない僕は一つ質問してみる。
「あなたは偽物ですか？」
すると今度は「いいえ」へと10円玉が動く。
「！！！」
間違いなくいる！
信じられないが、本当に存在しているらしい。
僕は唾を飲み込むと、次の質問をした。
「じゃ、じゃあ、由美さんに今付き合っている人はいますか？」
指は「いいえ」のまま動かない。
つまりいないらしい。
それに安堵のため息をつく。
「えっと、じゃあ由美さんに好きな人はいますか？」
その質問も答えは「いいえ」のまま。
その答えには複雑だ。
好きな人がいないということは、つまり僕のことも好きではないということだから。
微妙にしょんぼりしながら、僕はまた質問する。
「それじゃあ、僕のことを好きな人はいますか？」
いるわけないだろうなと思いながら言ってみると、10円玉が動き出した。
「え？いるの？」
意外だ。予想すら出来ないが、誰だろう。
首をひねる僕をよそに、10円玉は動いていく。
「わ」「た」「し」と。
え？わたし？
わたしって、こっくりさん？
「そう。私」
急に背後から声がした。
反射的に振り向くと、そこには着物を着た一人の若い女性がいた。若いといっても僕よりは年上で、見たところ二十前後だろうか。
「な…、が、あ…」
いきなり後ろにいたこともあるが、それ以上にその人の姿に僕は声が出なかった。
だって、頭には動物の耳があるし、お尻の辺りには三本も尻尾がある。
しかも、どちらも動いていた。
どう見てもコスプレなんかじゃない。
「ふう。久しぶりの世界はやはりいいですね。最近は誰もこっくりさんなんてしてくれないから、とても退屈でした。しかし、呼び出したのがこんなに若い男とは。まだまだ私の運も尽きてはいなそうですね」
僕を見て、この人？は満足そうに笑う。
「えっと、あなたは…こっくりさん？」
言っていることから当たりをつけて訊いてみる。
「いいえ、それは仕事の名前。私は麗狐（れいこ）、お見知りおきを」
妖艶な笑みを浮かべる麗狐に、僕はどきりとする。
なにしろ、今まで見た女性の中でダントツで美人だ。
思春期の男ならなにも感じないほうがどうかしてる。
「えっと、麗狐さん？一体どこからうちへ？」
「あなたが呼び寄せたのですよ。こっくりさんをすることによって」
「僕が？」
「ええ。私を呼び寄せる条件は三つ。まず、一人でこっくりさんをすること。そして、それを自分の部屋ですること。その時、近くに誰もいないこと。あなたはその全てを満たした。だから私はこうしてこの世界に出て来ることができました。感謝しますよ、これでようやく私も…」
麗狐は目を細めて笑った。
しかし、僕はその笑顔に背筋が寒くなる。
だって、麗狐の笑顔は何か良からぬことを企んでいるような笑顔だったから。
「一体なにをするつもりですか？」
「それは後で教えてあげましょう。それより、あなたには対価を払ってもらいます」
「対価？なんの？」
「私はこっくりさんとして、あなたの問いに答えました。その対価ですよ」
そう言うと、麗狐は着物をするりと脱いだ。
下着は一切身に付けておらず、それだけで一糸纏わぬ裸体があらわになる。
女性の秘部や、小ぶりのメロンのような形の良い胸を堂々と見せられ、僕の股間はものすごい勢いで反応していく。
「ちょ、ちょっと！！なんで脱ぐんですか！？」
僕は慌てて立ち上がると後ずさる。
「私があなたに要求する対価が、あなた達男しか持っていないものだからですよ」
麗狐はゆっくりと僕に近づいてくる。
それに合わせて僕も距離を取ろうとしたのだが、間近で生で見る女性の裸に体が硬直し、ろくに動かない。
麗狐はそんな僕を楽しそうな目で見ながら目の前まで来ると、僕の顔を両手で押さえ、キスをした。
「んむう！」
一瞬だけのキスではなく舌が口の中に入ってきて、僕の舌に絡みついてきた。
初めてのキスと麗狐の甘い匂いに僕は頭が蕩けそうになる。
そんな僕の体を、麗狐はゆっくりとベッドのほうへと押していく。
そしてベッドの傍まで来ると、ベッドへと突き飛ばされた。
「なっ…」
いきなりのことに驚く僕へと麗狐は跨ってくる。
「さあ、あなたも裸になってもらいましょう」
再びキスで口をふさがれて悶絶する僕の服を、麗狐は慣れた手つきで脱がしていく。
「や、やめ…」
上から順に脱がされ、最後のパンツが取り払われていきり立った僕の息子が顔を見せる。
「あら、こんなに大きくして…。なんだかんだ言ってもあなたのここは私を求めているようですね」
口を離した麗狐は僕の息子を見てクスリと笑う。
「さて、本来ならまずは前戯をするところですが、今の私は欲求不満です。さっそく本番といきましょうか」
そう言って腰を浮かせると、秘部を僕の肉棒の先端へと当てる。
「童貞なのでしょう？奪ってあげますね…」
「ま、待って！あっ！！」
しかし、無慈悲な笑みとともに彼女は腰を降ろし、僕の肉棒が蜜壺へと呑み込まれていく。
「犯してしまいました。どうですか、私の中は？初めてではたまらないでしょう？」
その通りだった。
彼女の膣の中は温かさと柔らかさを併せ持った肉壁が動いていて、僕の息子へと絡みついてくる。それは初体験の僕には信じられないほどの快感をもたらした。
「だ、だめ、こんなの…」
「ふふ、気持ちよさそうですね。では、もっと気持ちよくしてあげます」
麗狐は騎乗位のまま、腰を動かしてきた。
それに合わせて彼女の内部も動き、肉棒と膣とが擦れ合う。
結合部から卑猥な音がしてそれが僕を絶頂へと誘った。
「あ、やめ、やめて、出る、出ちゃうよ…！」
「おや、もうですか？初めてなだけあって早いですね。では、このまま私の中に出しなさい。全部子宮で飲んであげます…」
麗狐は嗜虐的な笑みを浮かべると僕の肩を掴み、今まで以上の速さで腰を動かしてきた。
それによってよりすごい快感を与えられ、僕はあっさり限界を迎えた。
「あああああッ！！」
麗狐の中で肉棒がビクンと脈打ち、大量の精液を注ぎ込んでいく。
「はぁぁ…。久しぶりの精はとても美味ですね…。それをくれたのが童貞のあなただから、とても濃くて…」
初めての射精で荒い息を吐く僕を麗狐はうっとりとした表情で見下ろす。
「ですが、これだけでは満足できません。もっと出してもらいましょうか」
「え？」
射精の余韻に浸っていた僕には信じられない言葉だった。
そんな僕に構わず、麗狐は再び腰を動かし始める。
「ああ…、そんな、待って…！」
当然、麗狐は待ってはくれなかった。
しかも、今度は上下だけでなく左右の動きまで加え、徹底的に僕へ刺激を与えてくる。
おかげで彼女の中にある肉棒は衰えるどころか、ますます元気になっていく。
「ふふ、あなたが私の中で喜んでいるのが分かります。私の膣はお気に召したようですね」
騎乗位のまま腰を動かし続ける麗狐。
その動きがさっきより激しくなったからか、二つの胸が動く度に揺れる。
体だけでなく視覚的な快楽まで与えられ、二度目のメルトダウンが急激に近づいてきた。
「ああ…、ま、また出る…！」
「構いませんよ、好きなだけ出して下さい。私の子宮にたっぷりと注ぎ込んで下さいな…」
麗狐は腰を浮かせると、止めとばかりに一気に下ろしてきた。
「あう！あ、ああぁぁ…！」
二度目だというのに我慢できず、僕は再び精液を噴出した。
「二度目だというのに、あなたの精は濃いですね…。はあぁ…」
精が膣へと吐き出されるのを恍惚とした表情で麗狐は感じている。
最初よりも長い射精が終わり、倦怠感からぐったりする僕。
「では、そろそろ話してあげましょう。私の目的を」
吐き出された精を全て子宮で吸い上げた麗狐は僕を見下ろす。
「私の目的はただ一つ。この仕事から解放されることです。仕事と言えば聞こえはいいですが、こっくりさんというのはほとんど呪いのようなものなのです。なにしろ存在自体が縛りつけられてしまいますからね。故に誰もやりたがらないのですが、誰かがこの仕事をやらねばなりません。そして運悪く私がやることになったのですが、この仕事を辞める方法があります。その方法は二つ」
麗狐は二本の指を立てて、説明を続ける。
「一つは後任者を見つけること。あなたのように、一人でこっくりさんをした人が女だった場合、私達はその力を注ぎ込み、妖孤にすることでその者を後任者とすることが出来ます。そしてもう一つは」
麗狐は目を細めて僕を見る。
「夫を見つけること。これでも、こっくりさんという仕事から解放されます。この場合、次の後任者は独り身の妖孤から新しく選ばれることになります。そして、ここからは私達妖孤の話。私達には古いきまりがありましてね。男を自分の尻尾の数だけイかせれば、その人を夫とすることが出来るのです」
え？夫に出来る？
僕は既に二回イかされてしまっている。
彼女の尻尾は三本。
つまり後一回イかされたら…。
ぼんやりする頭でそんなことを思いながら麗狐を見ると目が合った。
その途端に彼女はにんまりと不敵な笑みを浮かべ、ぺろりと舌舐めずりをした。
まさか。まさか！
「さて、少し休憩したことですし、続きを再開しましょうか。残りは一回ですから」
そう言うなり、麗狐は再び動き出した。
今まで以上に激しく。
精を搾り取るように。
膣が収縮し、それによって肉棒の性感帯が刺激され、僕の愚息は貪欲にも三度目の射精をしようといきり立つ。
「や、やめて！僕には由美さんが…あうッ！」
「あなたの片思いでしょう？そんな子よりも、今は私との交尾を楽しんで下さい。私はとても気持ちいいですよ…、あなたとの交尾。固くて熱いあなたの棒が私の中にあって…」
「お願いだからやめて！！放して！！」
射精したせいで力の入らない両手で麗狐を押し退けようとするが、効果はない。
僕の抵抗に構わず麗狐は腰を振り続け、それによって筒先に射精感が込み上げてくる。
駄目だ、これで出してしまったら僕は夫にされてしまう。
断続的に与えられる快楽に歯を食いしばってこらえていた僕だったが、それを見た麗狐は意地悪そうな笑みとともに腰を高く上げ、今まで蜜壺に埋没していた肉棒が根元から解放されていく。
しかし、あと少し腰を上げれば全て解放されるというところで麗狐は動きを止めると、一気に腰を下ろしてきた。
その動作は、なんとか耐えていた僕には致命的だった。
一瞬にして膣の最奥部まで迎えられ、筒先が子宮にぶつかった。
「あ、あ、あああぁぁぁ……！！」
未知の感触に衝撃を受けた肉棒が僕の意思を無視して子種を次々に吐き出していく。
「ふふふ、これで三度目…。きまりに従って私の伴侶になってもらいましょう」
三度目の射精をさせた麗狐はゆっくりと顔を近づけ、キスをしてきた。
無論キスだけで済むはずがなく、舌が再び口内に侵入してくる。
味わうかのように舌が動き回り、僕の唾液を舐めとっていく。
それと同時に頭が真っ白になっていくのを感じる。
まるで唾液と一緒に思考まで舐めとられてしまったようだ。
存分に口づけを堪能したと顔に大書した麗狐は唇を離すと、耳元で囁いた。
「私と由美さん、どっちがいいですか…？」
甘く囁く声と射精後の快感が僕のまともな思考を蕩けさせていく。
「あなた…です……」
それを聞いた麗狐は体を上げ、嬉しそうに僕を見下ろす。
「私もあなたが好きですよ…。やっとこっくりさんから解放されるのですから…」
もう視界がぼんやりとして麗狐の顔は見えなかったが、彼女が喜んでいることは分かった。
もっと、彼女を喜ばせてあげたい…。
こんなにも気持ちいい思いをさせてくれた麗狐にもっと喜んでほしい…。
溶けそうな頭がそう思い、僕はほとんど無意識に腰を振って彼女を突き上げた。
今出せるだけの力で突き上げたからか、肉棒と子宮が再び接触し、そこへありったけの精液を注ぎ込む。
「んうッ！！あぁぁ、まだ出るのですね…」
突き上げられたことを喜ぶように膣が収縮し、精を搾り上げる。
四度目の射精が終わると、麗狐は満足そうな顔で下腹部を撫でた。
「ふふ、私のお腹の中、あなたの赤ちゃんの種でいっぱいですよ。これだけ出されれば、子を孕むかもしれませんね」
そう言って再びキスをする。
しかし、今度はすぐに離すとそのまま僕の顔を至近距離で見つめた。
「これからは一緒に暮らしましょうね。なにもかも忘れて、毎日愛し合いましょう…。そう、永遠に…」
「は、い…」
僕の意識はそこで途切れた。
それと同時にテーブルの上にあったこっくりさんの紙が静かに燃えていく。
火は紙だけを跡形もなく燃やすと音もなく消えて、そこには10円玉が残っただけだった。
その日、一人の高校生が行方不明になった。
警察は誘拐事件として捜査を開始したが、青年の行方はもちろん、目撃情報さえ一件も入ってこなかった。
毎年、少なからずいる行方不明者。
もしかしたら、そのうちの何割かは彼女達魔物の仕業なのかもしれない…。
由美さんという同じクラスの子。
取り立てて他の子より可愛いわけではないのだが、初めて見た時からずっと好きだった。
いわゆる一目惚れ。
まあ、思春期だしそんなこともあるはずだ。
当然、声をかけるなんて出来なかった。
よくある恥ずかしくて話しかけられないというやつだ。
同じクラスなんだから挨拶くらいしてもいいと思うのだが、僕は「おはよう」の一言さえ言えなかった。
「はあ…」
寄り道した本屋で僕はため息をつく。
今日も話しかけられなかった。そんな自分をどうにかしたくて、その手の事について書いてある本でも買おうと思ったのだ。
季節は5月に入ったばかりで、まだ「入学後のイメチェン」だの「これでばっちり！すぐにクラスに馴染む方法」といった本が棚に並べられていた。
そんな本を手に取っては戻すを繰り返していると、ある本を取った拍子に1冊の本が棚から落ちてしまった。
それは幅がほとんどない小さな本で、どうやら他の本の間にすっぽりと隠されてしまっていたらしい。
「恋占い。あの子の好きな相手は？」というタイトルだった。
僕は占いなんて信じないのでそのまま棚に戻そうとしたのだが、大した厚さでもないのでパラパラと本を流し読みしてみた。
その時、ふとあるページで偶然手が止まった。
そこに書いてあったのは、こっくりさんだった。
「今時こっくりさんかよ…」
一昔前には流行ったみたいだが、このご時世にそんなことをするヤツはいないだろう。
ほとんど馬鹿にしながらその内容を見てみたのだが、このこっくりさん、少し違うらしい。
具体的には一人でも出来ること、時間が指定されているという点だ。
その時間は午後四時半に始めることと書いてあった。
大して変わりないなと思いながら、携帯を取り出して時間を見るとまだ四時前。
「……」
一応、今から家に帰ればこのこっくりさんが出来る。
いや待て。何を考えているんだ、僕は。
こんなの迷信に決まっている。
そう思っていたのだが。
気がつけばダッシュで家に帰っていた。
親は共働きなので家には誰もいない。
それが後押しとなって、僕は家に着くとさっそくこっくりさんの準備を始める。
ルーズリーフを取り出して「はい」、「いいえ」、「男」、「女」、「鳥居」、「あ」から「ん」までを書き、10円玉を用意する。
ここまでしても信じてない割合は9割9分だったが、それでも興味本位で四時半になると僕はこっくりさんを始めた。
「こっくりさん、こっくりさん、来て下さい」
そう言ってしばらく待ってみたものの、これといった変化はない。
ま、当然だよななんて一人呆れながら、それでもダメ元で言ってみる。
「こっくりさん、いらっしゃいますか？」
すると、ゆっくりと10円玉が動き出したではないか。
「え！？」
誓って言うが、僕は少しも指を動かしていない。
それなのに10円玉は勝手に動いているのだ。
目の前の出来事が信じられなくて、動く方とは逆に指を進めようとするが、まるで自分の指ではないかのように勝手に動いていく。
そして10円玉は「はい」のところで止まった。
そんな馬鹿な。
本当にいるのか？こっくりさんが？
どうしても信じられない僕は一つ質問してみる。
「あなたは偽物ですか？」
すると今度は「いいえ」へと10円玉が動く。
「！！！」
間違いなくいる！
信じられないが、本当に存在しているらしい。
僕は唾を飲み込むと、次の質問をした。
「じゃ、じゃあ、由美さんに今付き合っている人はいますか？」
指は「いいえ」のまま動かない。
つまりいないらしい。
それに安堵のため息をつく。
「えっと、じゃあ由美さんに好きな人はいますか？」
その質問も答えは「いいえ」のまま。
その答えには複雑だ。
好きな人がいないということは、つまり僕のことも好きではないということだから。
微妙にしょんぼりしながら、僕はまた質問する。
「それじゃあ、僕のことを好きな人はいますか？」
いるわけないだろうなと思いながら言ってみると、10円玉が動き出した。
「え？いるの？」
意外だ。予想すら出来ないが、誰だろう。
首をひねる僕をよそに、10円玉は動いていく。
「わ」「た」「し」と。
え？わたし？
わたしって、こっくりさん？
「そう。私」
急に背後から声がした。
反射的に振り向くと、そこには着物を着た一人の若い女性がいた。若いといっても僕よりは年上で、見たところ二十前後だろうか。
「な…、が、あ…」
いきなり後ろにいたこともあるが、それ以上にその人の姿に僕は声が出なかった。
だって、頭には動物の耳があるし、お尻の辺りには三本も尻尾がある。
しかも、どちらも動いていた。
どう見てもコスプレなんかじゃない。
「ふう。久しぶりの世界はやはりいいですね。最近は誰もこっくりさんなんてしてくれないから、とても退屈でした。しかし、呼び出したのがこんなに若い男とは。まだまだ私の運も尽きてはいなそうですね」
僕を見て、この人？は満足そうに笑う。
「えっと、あなたは…こっくりさん？」
言っていることから当たりをつけて訊いてみる。
「いいえ、それは仕事の名前。私は麗狐（れいこ）、お見知りおきを」
妖艶な笑みを浮かべる麗狐に、僕はどきりとする。
なにしろ、今まで見た女性の中でダントツで美人だ。
思春期の男ならなにも感じないほうがどうかしてる。
「えっと、麗狐さん？一体どこからうちへ？」
「あなたが呼び寄せたのですよ。こっくりさんをすることによって」
「僕が？」
「ええ。私を呼び寄せる条件は三つ。まず、一人でこっくりさんをすること。そして、それを自分の部屋ですること。その時、近くに誰もいないこと。あなたはその全てを満たした。だから私はこうしてこの世界に出て来ることができました。感謝しますよ、これでようやく私も…」
麗狐は目を細めて笑った。
しかし、僕はその笑顔に背筋が寒くなる。
だって、麗狐の笑顔は何か良からぬことを企んでいるような笑顔だったから。
「一体なにをするつもりですか？」
「それは後で教えてあげましょう。それより、あなたには対価を払ってもらいます」
「対価？なんの？」
「私はこっくりさんとして、あなたの問いに答えました。その対価ですよ」
そう言うと、麗狐は着物をするりと脱いだ。
下着は一切身に付けておらず、それだけで一糸纏わぬ裸体があらわになる。
女性の秘部や、小ぶりのメロンのような形の良い胸を堂々と見せられ、僕の股間はものすごい勢いで反応していく。
「ちょ、ちょっと！！なんで脱ぐんですか！？」
僕は慌てて立ち上がると後ずさる。
「私があなたに要求する対価が、あなた達男しか持っていないものだからですよ」
麗狐はゆっくりと僕に近づいてくる。
それに合わせて僕も距離を取ろうとしたのだが、間近で生で見る女性の裸に体が硬直し、ろくに動かない。
麗狐はそんな僕を楽しそうな目で見ながら目の前まで来ると、僕の顔を両手で押さえ、キスをした。
「んむう！」
一瞬だけのキスではなく舌が口の中に入ってきて、僕の舌に絡みついてきた。
初めてのキスと麗狐の甘い匂いに僕は頭が蕩けそうになる。
そんな僕の体を、麗狐はゆっくりとベッドのほうへと押していく。
そしてベッドの傍まで来ると、ベッドへと突き飛ばされた。
「なっ…」
いきなりのことに驚く僕へと麗狐は跨ってくる。
「さあ、あなたも裸になってもらいましょう」
再びキスで口をふさがれて悶絶する僕の服を、麗狐は慣れた手つきで脱がしていく。
「や、やめ…」
上から順に脱がされ、最後のパンツが取り払われていきり立った僕の息子が顔を見せる。
「あら、こんなに大きくして…。なんだかんだ言ってもあなたのここは私を求めているようですね」
口を離した麗狐は僕の息子を見てクスリと笑う。
「さて、本来ならまずは前戯をするところですが、今の私は欲求不満です。さっそく本番といきましょうか」
そう言って腰を浮かせると、秘部を僕の肉棒の先端へと当てる。
「童貞なのでしょう？奪ってあげますね…」
「ま、待って！あっ！！」
しかし、無慈悲な笑みとともに彼女は腰を降ろし、僕の肉棒が蜜壺へと呑み込まれていく。
「犯してしまいました。どうですか、私の中は？初めてではたまらないでしょう？」
その通りだった。
彼女の膣の中は温かさと柔らかさを併せ持った肉壁が動いていて、僕の息子へと絡みついてくる。それは初体験の僕には信じられないほどの快感をもたらした。
「だ、だめ、こんなの…」
「ふふ、気持ちよさそうですね。では、もっと気持ちよくしてあげます」
麗狐は騎乗位のまま、腰を動かしてきた。
それに合わせて彼女の内部も動き、肉棒と膣とが擦れ合う。
結合部から卑猥な音がしてそれが僕を絶頂へと誘った。
「あ、やめ、やめて、出る、出ちゃうよ…！」
「おや、もうですか？初めてなだけあって早いですね。では、このまま私の中に出しなさい。全部子宮で飲んであげます…」
麗狐は嗜虐的な笑みを浮かべると僕の肩を掴み、今まで以上の速さで腰を動かしてきた。
それによってよりすごい快感を与えられ、僕はあっさり限界を迎えた。
「あああああッ！！」
麗狐の中で肉棒がビクンと脈打ち、大量の精液を注ぎ込んでいく。
「はぁぁ…。久しぶりの精はとても美味ですね…。それをくれたのが童貞のあなただから、とても濃くて…」
初めての射精で荒い息を吐く僕を麗狐はうっとりとした表情で見下ろす。
「ですが、これだけでは満足できません。もっと出してもらいましょうか」
「え？」
射精の余韻に浸っていた僕には信じられない言葉だった。
そんな僕に構わず、麗狐は再び腰を動かし始める。
「ああ…、そんな、待って…！」
当然、麗狐は待ってはくれなかった。
しかも、今度は上下だけでなく左右の動きまで加え、徹底的に僕へ刺激を与えてくる。
おかげで彼女の中にある肉棒は衰えるどころか、ますます元気になっていく。
「ふふ、あなたが私の中で喜んでいるのが分かります。私の膣はお気に召したようですね」
騎乗位のまま腰を動かし続ける麗狐。
その動きがさっきより激しくなったからか、二つの胸が動く度に揺れる。
体だけでなく視覚的な快楽まで与えられ、二度目のメルトダウンが急激に近づいてきた。
「ああ…、ま、また出る…！」
「構いませんよ、好きなだけ出して下さい。私の子宮にたっぷりと注ぎ込んで下さいな…」
麗狐は腰を浮かせると、止めとばかりに一気に下ろしてきた。
「あう！あ、ああぁぁ…！」
二度目だというのに我慢できず、僕は再び精液を噴出した。
「二度目だというのに、あなたの精は濃いですね…。はあぁ…」
精が膣へと吐き出されるのを恍惚とした表情で麗狐は感じている。
最初よりも長い射精が終わり、倦怠感からぐったりする僕。
「では、そろそろ話してあげましょう。私の目的を」
吐き出された精を全て子宮で吸い上げた麗狐は僕を見下ろす。
「私の目的はただ一つ。この仕事から解放されることです。仕事と言えば聞こえはいいですが、こっくりさんというのはほとんど呪いのようなものなのです。なにしろ存在自体が縛りつけられてしまいますからね。故に誰もやりたがらないのですが、誰かがこの仕事をやらねばなりません。そして運悪く私がやることになったのですが、この仕事を辞める方法があります。その方法は二つ」
麗狐は二本の指を立てて、説明を続ける。
「一つは後任者を見つけること。あなたのように、一人でこっくりさんをした人が女だった場合、私達はその力を注ぎ込み、妖孤にすることでその者を後任者とすることが出来ます。そしてもう一つは」
麗狐は目を細めて僕を見る。
「夫を見つけること。これでも、こっくりさんという仕事から解放されます。この場合、次の後任者は独り身の妖孤から新しく選ばれることになります。そして、ここからは私達妖孤の話。私達には古いきまりがありましてね。男を自分の尻尾の数だけイかせれば、その人を夫とすることが出来るのです」
え？夫に出来る？
僕は既に二回イかされてしまっている。
彼女の尻尾は三本。
つまり後一回イかされたら…。
ぼんやりする頭でそんなことを思いながら麗狐を見ると目が合った。
その途端に彼女はにんまりと不敵な笑みを浮かべ、ぺろりと舌舐めずりをした。
まさか。まさか！
「さて、少し休憩したことですし、続きを再開しましょうか。残りは一回ですから」
そう言うなり、麗狐は再び動き出した。
今まで以上に激しく。
精を搾り取るように。
膣が収縮し、それによって肉棒の性感帯が刺激され、僕の愚息は貪欲にも三度目の射精をしようといきり立つ。
「や、やめて！僕には由美さんが…あうッ！」
「あなたの片思いでしょう？そんな子よりも、今は私との交尾を楽しんで下さい。私はとても気持ちいいですよ…、あなたとの交尾。固くて熱いあなたの棒が私の中にあって…」
「お願いだからやめて！！放して！！」
射精したせいで力の入らない両手で麗狐を押し退けようとするが、効果はない。
僕の抵抗に構わず麗狐は腰を振り続け、それによって筒先に射精感が込み上げてくる。
駄目だ、これで出してしまったら僕は夫にされてしまう。
断続的に与えられる快楽に歯を食いしばってこらえていた僕だったが、それを見た麗狐は意地悪そうな笑みとともに腰を高く上げ、今まで蜜壺に埋没していた肉棒が根元から解放されていく。
しかし、あと少し腰を上げれば全て解放されるというところで麗狐は動きを止めると、一気に腰を下ろしてきた。
その動作は、なんとか耐えていた僕には致命的だった。
一瞬にして膣の最奥部まで迎えられ、筒先が子宮にぶつかった。
「あ、あ、あああぁぁぁ……！！」
未知の感触に衝撃を受けた肉棒が僕の意思を無視して子種を次々に吐き出していく。
「ふふふ、これで三度目…。きまりに従って私の伴侶になってもらいましょう」
三度目の射精をさせた麗狐はゆっくりと顔を近づけ、キスをしてきた。
無論キスだけで済むはずがなく、舌が再び口内に侵入してくる。
味わうかのように舌が動き回り、僕の唾液を舐めとっていく。
それと同時に頭が真っ白になっていくのを感じる。
まるで唾液と一緒に思考まで舐めとられてしまったようだ。
存分に口づけを堪能したと顔に大書した麗狐は唇を離すと、耳元で囁いた。
「私と由美さん、どっちがいいですか…？」
甘く囁く声と射精後の快感が僕のまともな思考を蕩けさせていく。
「あなた…です……」
それを聞いた麗狐は体を上げ、嬉しそうに僕を見下ろす。
「私もあなたが好きですよ…。やっとこっくりさんから解放されるのですから…」
もう視界がぼんやりとして麗狐の顔は見えなかったが、彼女が喜んでいることは分かった。
もっと、彼女を喜ばせてあげたい…。
こんなにも気持ちいい思いをさせてくれた麗狐にもっと喜んでほしい…。
溶けそうな頭がそう思い、僕はほとんど無意識に腰を振って彼女を突き上げた。
今出せるだけの力で突き上げたからか、肉棒と子宮が再び接触し、そこへありったけの精液を注ぎ込む。
「んうッ！！あぁぁ、まだ出るのですね…」
突き上げられたことを喜ぶように膣が収縮し、精を搾り上げる。
四度目の射精が終わると、麗狐は満足そうな顔で下腹部を撫でた。
「ふふ、私のお腹の中、あなたの赤ちゃんの種でいっぱいですよ。これだけ出されれば、子を孕むかもしれませんね」
そう言って再びキスをする。
しかし、今度はすぐに離すとそのまま僕の顔を至近距離で見つめた。
「これからは一緒に暮らしましょうね。なにもかも忘れて、毎日愛し合いましょう…。そう、永遠に…」
「は、い…」
僕の意識はそこで途切れた。
それと同時にテーブルの上にあったこっくりさんの紙が静かに燃えていく。
火は紙だけを跡形もなく燃やすと音もなく消えて、そこには10円玉が残っただけだった。
その日、一人の高校生が行方不明になった。
警察は誘拐事件として捜査を開始したが、青年の行方はもちろん、目撃情報さえ一件も入ってこなかった。
毎年、少なからずいる行方不明者。
もしかしたら、そのうちの何割かは彼女達魔物の仕業なのかもしれない…。
11/08/06 00:18更新 / エンプティ