第八章
昼の中央通りは混雑していた。通りに面した酒場の窓際の席に座っていたディーノはそれを眺めつつ、手元のジョッキを口に運んでビールを飲んだ。炭酸と苦みが喉を通過する快感を求め、つい多めに飲んでしまった。やはり酒は良いものに限ると彼は思った。
カトレアから商館の代金を受け取ってはいたが、ディーノは今日までそれを使ってはいなかった。急に手に入った大金の用途が思い浮かばなかったからだ。とはいえ、金は使うものなので久しぶりに少しだけ贅沢をしてみた。ぶ厚いステーキも見事な柔らかさで、つい酒が進んでしまう。毎日食べたくなる誘惑に駆られるが、ディーノはそれを自制した。商館売却の代金は大金とはいえ一時的な収入だ。調子にのって使えば、いずれまた不味い酒を飲むことになる。それだけは避けたかった。
たっぷり時間をかけて昼食を終え、店を後にしたディーノはのんびりと東に向かって歩いた。中央通りほどではないが、こちらもけっこうな賑わいぶりだ。正面から歩いてきた中年の婦人を避けた時、ふとディーノはある場所に目を向けた。
二週間前にオープンしたばかりの『S&K』の看板が掲げられた商館は、少し前まで寂れた雰囲気を漂わせていた建物とは思えないほどに賑わっていた。なんでも、遠方の地から取り寄せている品がほとんどだからか、物珍しさもあってすぐに繁盛しだしたと聞いたが、実際に見るとそれ以上のようだった。
「あの女なら不思議ではないか……」
ディーノは脳裏にカトレアを思い浮かべた。美しいだけでなく、商才も持ち合わせた女。しかし、その内側には魔性のようなものが渦巻いている気がしてならない。妖花という表現があれほど似合う女もいないだろう。取引をした日のことを思い出し、それを追い払うようにディーノは首を振った。
もう関わることはない。
ほんの少し前まで自分の所有物だった建物から目を逸らすと、ディーノは逃げるようにその場を去った。
その夜。夕食を済ませてディーノが一人晩酌をしていると、家の扉がノックされた。時計を見ると九時だった。こんな時間に訪問してくる知人に心当たりはないと思いつつ、玄関に向かい扉を開けた。そこに立っていたのは黒のドレスに身を包んだ美しい女性だった。むき出しの白い肩や僅かに覗く谷間が夜の闇の中で一際目立ち、つい目を奪われそうになる。
「どちらさまかな」
「夜分遅くにごめんなさい。私、アンナといいます。こちらで家を貸していただけると聞いてきたのですが」
どうやら客らしい。ディーノは扉を開け放った。
「お客さんは歓迎だ。入ってくれ、詳しい話をする」
「ありがとうございます。あの、これ差し入れです」
アンナが手にしていた紙の箱を差し出してきた。
「これは?」
「ケーキです」
「そうか。ありがとう。では、説明の時にいただくとしよう。ついてきてくれ」
アンナを依頼者の用の席につかせるとディーノは声をかけた。
「飲み物はコーヒーでいいかな」
「はい。気遣いありがとうございます」
コーヒーとケーキ用の皿とフォークを用意して戻ると、ディーノもアンナの向かい側に座った。
「さて、さっそくだが話を始めていいかな」
そう切り出した時、初めてアンナがディーノをじっと見つめていることに気付いた。
「なにか?」
怪訝に思って尋ねると、アンナは小さく笑った。
「いえ、聞いていた通りの人だと思いまして」
「聞いていた? どういうことかな」
「ふふ、後でお話します。それよりディーノさん、せっかくコーヒーを用意してくれたんですし、先にケーキを食べませんか?」
アンナの目が机に置かれた箱に向かった。
「あ、ああ。そうだな。ではそうしよう」
話を逸らされたなと思いつつ、ディーノは箱を開いた。そこには二つのショートケーキが納まっていた。ただ、乗っているフルーツがどちらも苺ではなく、片方は赤い果実、もう片方は青い果実だった。両方ともディーノは見たことがなかったが、見るからに熟れていて美味しそうだ。
「珍しい果物を使っているようだね。アンナさんはどっちがいい?」
「あら、私が先に選んでいんですか?」
「ああ、構わないよ」
「では、私は赤い方をいただきますね」
アンナが赤い果実の方を選んだので、ディーノは必然的に残った青い果実のケーキとなった。
さっそくフォークで食べてみると、意外なことに青い果実は酸味が強かった。それがクリームの甘さと合わさってくどさを相殺し、上品な味となっていた。
「ふふ、甘くて美味しいですね」
「ん? アンナさんの方は甘いのか。俺の方は酸味があるよ」
「あら、そうなのですか? では、こちらも食べてみます?」
「いや、けっこうだ。酸味があるとは言ったが、くどくなくてこっちも美味しいよ」
「そうですか。それはよかった」
目を細め、アンナは嬉しそうな笑みを浮かべた。
ケーキを食べ終えてから、契約の話をした。
「こんなところかな。ここまでで聞きたいことはあるかな」
ざっと契約について話し終え、質問がないか確認するとアンナは首を振った。そこでディーノは席を立って、窓際に行くと窓を開けた。説明をしている途中からなぜか体が熱くなっていたので、夜風が心地いい。
「ディーノさん、どうかしたんですか?」
「ああ、すまない。少し熱くなってね。緊張しているのかもしれない」
声をかけられ、振り向くと不思議そうな目で見てくるアンナが映った。その途端、体が更に熱くなった。
「具合が悪いんですか」
「いや、大丈夫だ。君が来る前に晩酌をしていたから、少し酔いが回ったんだろう。ああ、それより勝手に開けてしまったが、寒いかな。もしそうなら言ってくれ。すぐに閉めるよ」
彼女を見ていると体の熱がどんどん上がってくるので、ディーノは再び窓の外へと視線を逃がした。
「いいえ、私は大丈夫です。それより、契約の話をさせて下さい」
「あ、ああ……」
契約と言われては背中を見せたままというわけにもいかず、ディーノは仕方なく振り向く。そこで体を硬直させた。すぐ目の前にアンナが立っていたのだ。
「ア、アンナさん? 一体なんだ……?」
「言ったでしょう、契約の話をしたいと」
すっと目を細め、アンナの顔に妖艶な笑みが浮かぶ。それを見た途端、ディーノはさーっと感覚が覚めていき、慌てて壁際へと身を引いた。それを見て、アンナは首を傾げる。
「どうかしたの?」
「アンナさん、君は俺のことを聞いてきたようだが、一体誰から聞いたんだ……?」
「カトレアさんから」
さらりと告げられた言葉に、ディーノは目を見張った。
「カトレアさんって、じゃあ君は……」
アンナは胸に手を当てて微笑んだ。
「『S&K』幹部の一人、アンナよ」
「『S&K』の幹部だっていうなら、俺から家を借りずとも、いくらでも用意できると思うが」
「ふふ、そう連れないことを言わないで。確かにその通りだけど、私も最初はちゃんと家を借りるつもりで来たのだから」
「では、今はその気はないということかな」
じりじりと壁に沿って動きながら、ディーノはアンナから目を逸らさずに言う。少しでもアンナから離れないと、体が爆発しそうなくらいに熱くなってきていた。
「ええ、気が変わったわ。家は借りない。代わりに、ここに住むことにするわ」
「どういう意味だ」
アンナは笑みを浮かべながら、ゆっくりとディーノに向かって歩き出した。
「あら、分からない? あなたと夫婦の契約を結べば、私はここに住めるでしょ?」
言いながら、アンナの手が動いて首の裏のドレスの結び目を解いた。黒いドレスがするりとアンナの体を滑り落ちていく。
ディーノは息を飲んだ。アンナの裸を見せつけられたというのもあるが、それ以上に目を奪われたのが獣の耳と尻尾だ。
「魔物……」
教会曰く、人に危害を加える害獣のような存在。それだというのに、なぜかディーノの体は興奮状態になっていた。自分でも不思議なくらいに彼女に欲情している。ペニスが勃起してズボンを押し上げているのがはっきりと分かった。
「ええ、私は魔物。でも、同時に女でもある。だから私はあなたが欲しい。ねえディーノ、私と結婚しましょ」
目の前にやってきたアンナがそっとディーノの頬に手を触れる。
「誰が魔物なんかと……」
逃げ出すこともできず、ディーノは間近でアンナを見つめながらそう言い捨てた。
「うふふ。口ではそう言っても、ここは正反対みたいだけど?」
アンナの手がするりとズボンの中に侵入し、直接ペニスに触れる。それだけで体がぴくりと反応してしまう。
「やめ……」
アンナの手を払いのけようとするディーノだったが、そうするより先にズボンが引きずり下ろされてしまう。
「素敵……」
まろび出たペニスを見て、アンナはうっとりとした表情でそれを見つめる。そしてそっと右手を伸ばし、優しく撫で始めた。扱かれているわけでもないのに、たったそれだけのことでぞくぞくと快感が走り、思わず声が漏れてしまう。
「っぅ……や、やめ……」
「そんなこと言っても、私が欲しいからこんなことになってしまっているんでしょう? エステルさんお手製の夫婦の果実を使ったケーキは美味しかったものね」
「エステルさんって、じゃあ、彼女も……」
アンナの顔に楽しげな笑みが浮かんだ。
「ええ、魔物よ。妖狐ではないけれど。ああ、そういえば、あなたはあの人に相手をしてもらったことがあるんだったわね。でも、フェラだけだったんでしょ? 私は違うわ。ほら、見て。あなたが欲しくてこんなにぐちゃぐちゃになってる……」
空いている左手でアンナは秘部を広げてみせる。割れ目が口を開いて赤い内部を晒したと同時に愛液がぽたぽたと垂れ落ちた。それを見て、ペニスが正直に反応してしまう。
「入れてみたいでしょ? いいのよ、入れて。たっぷり愛してあげる……」
「だ、誰が……」
虚勢を張ってみたが、ここに自分のモノを入れてアンナと交わりたいという欲求が理性をグラグラと揺らしてくる。
「あなたが好きなの。ね、一生あなたの性処理係にして。この身体を好きにしていいから」
アンナの綺麗な顔がぐっと近づけられた。
「だから……夫婦の契約を交わしましょ?」
甘く囁くような声が頭に浸透していき、ほんの僅かだが頷いてしまった。心が折れたとでも言えばいいのかもしれない。
ディーノが誘惑に屈したからか、うっとりとした顔でアンナが一歩前に出た。
「じゃあ、入れるわね」
ディーノのペニスを掴むと膣内へと導いた。ぬるぬるとした狭い膣穴に、ペニスが沈みこんでいく。
「あぁぁぁぁ……」
とろけるような熱さ、引き込むような絡みつき、締めつけ。
アンナの膣内の感触に感嘆の声が漏れてしまう。
「気持ちいい? 私も気持ちいいわ。あなたのおちんちんが私の中を押し広げて……ふふ、立ったままするセックスというのも悪くないものね」
ディーノの体を壁に押し付けたまま、アンナはぐっと下半身を突き出す。ディーノはこれ以上後退できないので、その分ペニスが奥へと沈んでいく。そして先端が不思議な感触のものにぶつかった。
「あはぁ……♪ 子宮口がぐりぐりされて、感じちゃうわぁ♪」
ペニスを奥まで引き込み、アンナは恍惚とした表情を浮かべる。それでも目はしっかりとディーノを見ていた。
「ねえ、子宮がきゅんきゅん疼いているの。早くあなたの愛の証で満タンにして……」
アンナが更に身を寄せてきて、お互いの体が密着する。膣内では亀頭が子宮口と触れ合い、ただ密着しているだけで足腰から力が抜けていきそうなくらいに気持ちいい。
「あ、あぁぁぁぁ……!」
「ほら、早く出して? 子宮も欲しがってるわ」
アンナが腰を打ち付けるように動かす。それによってペニスが奥まで招かれたと同時に、膣全体が精を搾り取ろうと収縮した。
その快感の前に、ディーノはついに限界を迎えてしまった。
「っあ、出る……!」
膣穴の最奥でドクドクと射精してしまう。
「んうぅ……♪ 温かいのがいっぱい入ってくるわぁ……♪」
中に出される快感がたまらないのか、アンナはディーノに抱きつくようにしながら身悶えする。射精は止まらず、それを受け入れる膣内もぎゅっと締め付けて、一滴も残さず搾り取ろうと収縮を続けた。
「ふぅ……たくさん出たわね。気持ちよかったわよ、あなたとのエッチ」
満足そうな様子でアンナが微笑む。その瞬間、ディーノの中で何かが吹っ切れた。目の前のアンナの身体を抱きしめると、床へと押し倒す。
「きゃっ……」
いきなりだったからか、アンナは驚いたように目を見開く。だが、すぐに嬉しそうに両手を首に回してきた。
「もっとしたいの? いいわ、あなたが満足するまで好きなだけ中に出して。でも、せっかくの新婚初夜なんだから、続きはベッドでしましょ。ね?」
ちゅっとキスをされ、頭の中が真っ白になっていく。思考が止まり、残ったのはアンナの身体を堪能したいという獣じみた本能だけだ。
寝室へ移動すると、アンナは先にベッドへと横になった。
「さあ来て、あなた。たっぷり注いであなたの子を孕ませて♪」
誘いに応じ、アンナの上に覆い被さると、すぐにペニスを挿入する。魔物と性行為に及ぶなど、少し前までは考えられないことだったが、そんな思考はアンナと交わったことですっかり消え去ってしまった。
先程の交わりで充分に濡れたアンナの膣穴はスムーズにペニスを呑み込んでいく。そこから、記憶があやふやになるほどアンナの身体に溺れていった。
執務室でカトレアが帳簿に目を通していると、扉がノックされた。
「失礼します、店長。お客様をお連れしました」
「どうぞ」と返すと、従業員に案内された人物が部屋に入ってきた。
「商売は好調みたいね、カトレア」
机の前に立ったエステルはそう言ってにこりと微笑んだ。
「ええ、おかげさまで。どうぞ座って、私もそちらに行くから」
テーブルを挟んで向かい合った幅広のソファにエステルが座る。カトレアはその正面に座った。
「さて、どこから報告しましょうか。とりあえず、彼を堕としたとアンナから報告があったわ」
「それは嬉しい報告ね。これで新たに一組、こちら側が増えたのね」
報告を聞いてエステルは目を細めた。
「あら、意外と普通な反応ね。一度相手をしてあげたのでしょう?」
「フェラだけよ。精の味は悪くなかったのだけど、どうも彼にはピンとこなかったから」
「ふふ、好みじゃなかったのね。彼、可愛いじゃない。先に出会ったのが彼だったら、私がものにしていたかもしれないわ」
「それこそ意外ね。あなたの夫と彼は違うタイプじゃない」
「確かにタイプは違うわね。でも、ああいう警戒心の強い男って、小動物みたいで、つい可愛がりたくなるのよ」
楽しげなカトレアにエステルは肩をすくめた。
「妖狐の嗜好は理解しかねるわ。それより、本題の方はどう?」
「既に連絡済み。すぐに送るそうよ。ああ、あなたによろしくとも言っていたわ」
エステルはくすぐったそうに笑った。
「彼女は元気かしら?」
「ええ。最近、三人目が生まれたらしくて、育児と商売とで大忙しだそうよ」
「元気ならよかったわ。あなたも負けてられないわね。もっとも、その調子なら問題なさそうだけど」
エステルの目がカトレアの背後に向かった。五本の尾が楽しげに揺らめいていた。
「ええ、そうね。でも、今は子供より優先して作るものがあるでしょう?」
エステルの目がすっと細まった。
「ふふ、そうね。あなたの友達にも連絡が取れたみたいだし、計画を次の段階へと進めましょうか」
「これから忙しくなるわね。ああそうそう、エステル、あなたも魔物化を手伝ってくれないかしら。このままだとこの町、妖狐だらけになるわよ?」
あながち冗談でもないカトレアの発言に、エステルもつられたように笑った。
「私が手伝ったところで大差ないじゃない。でもまあ、あなただけに押し付けるわけにもいかないし、了承しておくわ」
「そうこなくっちゃ。私の方で一つ店を用意しておくわね」
「店? どういうことかしら。話が見えないのだけど」
「簡単よ。虜の果実をはじめとした魔界産の果物を使ったお菓子屋を作るの。それを売りにすれば、あっという間に知名度が広がって多くの女性客がやって来るわ。あなた、お菓子作りは得意でしょ?」
商人の顔になって語るカトレアに、エステルも計算高い笑みを浮かべた。
「なるほど、さすが商人ね」
「褒め言葉と受け取っておくわ。それに、あなたも酒場の娘二人は手懐けてあるみたいだし、いつまでもあそこにいるつもりはないのでしょう?」
「そうね。計画を進める以上、情報収集役はそろそろ潮時ね」
話の終わりを感じ取り、カトレアは立ち上がった。
「じゃあ、早速店を手配しておくわ。用意できたら、使いを出すから」
そのまま部屋を出て行きかけて、カトレアはぴたりと止まり、振り向いた。
「そうそう、私の勘だとそろそろ猟犬が動き出す頃だけど、そちらはどうかしら」
「こちらも連絡済みよ。もう向かっているそうだから、数日のうちに到着するんじゃないかしら」
「万事順調ね」
「ええ」
言葉を交わし合い、二人は怪しい笑みを浮かべた。
「マスター、まだですかぁ?」
リゼが厨房に顔を出し、アデルは切っていたローストビーフから顔を上げた。
「ごめん、これで終わりだよ」
残りのローストビーフを手早くスライスすると皿に盛り付ける。これで料理は全て完成だ。
リゼに急かされつつ皿を持っていくと、ローナとエステルがこちらを見ていた。
「マスター、遅いですよ!」
四人用のテーブルに着いていたローナがそう喚いた。テーブル上にはアデルが気合を入れて作った料理がずらりと並べられている。それらを前にしながら手が出せずにいたのだから、ローナの不満も仕方ないというものだ。
「ごめんごめん、これで最後だから。エステルさんも待たせてごめん」
「まったく、今日は送別会なんですから、主賓を待たせるなんて言語道断です」
「ローナ、マスターは一人で準備してくれたんだから、そう意地悪なこと言ったら駄目よ。私は気にしてないから」
むくれるローナを苦笑しながらエステルがなだめる。職場での立場はローナの方が先輩に当たるはずだが、二人のやり取りはまったく逆に感じられる。それくらい仲がいいのだろう。仕事帰りに何度か二人揃ってエステルの家に泊まったこともあるらしい。つい先日もお泊りだと言って、仕事が終わると楽しそうに帰っていくのをアデルは思い出した。
「ありがとうエステルさん。リゼちゃんも席に着いて。送別会を始めよう」
本日のイコールは臨時休業だ。エステルの送別会ため、貸し切り状態になっていた。いつも賑やかな酒場に四人しかいないので静かではあったが、これはこれで悪くないと思いながら、アデルはグラスに年代物の赤ワインを注いでいく。
「じゃあ始めようか。エステルさん、今までお疲れ様でした。大変助かりました。エステルさんの新しい門出を祝って」
アデルがグラスを持ち上げ、他の三人も続く。「乾杯」の声とともにグラスが打ち合わされた。
「はぁ〜、でもいきなりお店任されるなんてすごいですよねぇ」
「でもエステルさんなら納得でしょ。いつも作ってくれてたまかないのお菓子、すっごく美味しかったし。あーあ、今度からはお金を払わないと食べられないのかぁ……」
がっくりと肩を落とすローナに、三人が笑った。
「いや、むしろタダで食べられる今までがおかしかったんだよ。飲食店を経営している身から見ても、商品として十分通用する出来だしね。うちは酒場だから泣く泣く諦めたけど、もし喫茶店だったら店のメニューに加えていたよ」
「はぁ、そんなお菓子を作れるエステルさんは今日でいなくなっちゃうのかぁ。これから忙しくなりますねぇ」
しみじみとした感じでリゼが言った。アデルも同じ考えだった。ただ、彼はそれほど問題はないだろうと思っていた。エステルが抜けるのは痛手には違いないが、元々は三人でやっていたのだ。看板娘が一人減ることになるが、それもここ最近の様子を見るに問題はなさそうだ。それくらい、ローナとリゼは魅力的になった。
アデルはさり気なく二人を見た。それなりに長い間一緒に働いているので彼女達の魅力は理解しているつもりだが、ここ最近はますますその魅力に磨きがかかったように感じられた。そのせいか、彼女達の何気ない仕草にしばしば劣情を感じるのだ。今も火照ったと言ってぱたぱたと胸元に風を送るリゼに胸がどきどきしている。
「ごめんなさいね、こちらの都合で抜けることになってしまって」
「エステルさんが謝ることは何もないですよ。すごくお世話になりましたし」
「まったくですよ。本当に感謝してます。後は……」
リゼとローナがちらりとアデルを見た。
「ん? 僕がどうかしたかい?」
「ふふ、なんでもありませんよ」
「まだ秘密です。マスターは楽しみにしてて下さいねぇ♪」
彼女達だけの秘密らしく、二人は意味ありげに笑った。
どういうことなのか気になったが、エステルが忙しかった日の話を切り出したことで聞くタイミングを逃してしまい、話に花が咲いたこともあってアデルはすぐに忘れてしまった。
やがて料理がなくなると、それが終わりの合図となった。時計を見ると、もうすぐ日付が変わる時間だった。
お開きの雰囲気を察したのか、エステルはそっと立ち上がると頭を下げた。
「マスター、今日はありがとうございました」
「いやいや、お礼を言うのは僕の方だよ。エステルさんが来てくれたおかげですごく助かった。今までありがとう」
「ふふ。では、最後のお手伝いを」
慣れた手つきで空いた皿を重ねていく。どうやら片付けを手伝ってくれるつもりらしい。主賓にそんなことをさせるわけにいかないと立ち上がるアデルだったが、ローナとリゼが揃って先に動いた。
「駄目ですよぉエステルさん、後のことは私達の仕事なんですからぁ」
「そうですそうです。今日のエステルさんは主賓なんですから、そういうのはなしです。私達がやりますから」
ほとんど奪うように皿を取られ、エステルは困ったように笑っていたが、一つ頷いて言った。
「そうね。じゃあ、後のことはお願い」
二人にそう告げるとエステルは立ち上がった。
「マスター、色々とお世話になりました」
「いや、こちらもすごく助かったよ。ありがとう、それとお疲れさま」
一礼して踵を返すと、エステルは酒場から出て行こうと扉に手をかけ、そこで振り返った。
「それでは良い夜を。今度は別の形で会いましょう、アデルさん」
意味深な言葉だった。アデルはその意味を確認したかったが、エステルは声をかける間もなく出て行ってしまった。
「どういう意味だ?」
「すぐに分かりますよ。さ、リゼ、さっさと片付けよ」
「そうですねぇ。デザートもあることですし、手早くやっちゃいましょう」
二人も何か知っているようだが、教えるつもりはないらしく、それ以上は何も言わずに皿を片付け始めた。
仕方なくアデルも皿を手に持って洗い場に運んでいく。その間に二人に目を向けてみるが、二人はアデルの視線に気付きつつも敢えて無視しているようだった。そうなってくると声をかけても返事はもらえないと思い、洗い物に意識を向ける。そうすると不思議なもので、頭から雑念は取り払われ、目の前の仕事に集中できる。どれだけ大変な事情を抱えていようと、いざ仕事となればそちらに集中できるのがアデルの特技だった。
慣れきっている食器洗いはほとんど時間をかけずに終わった。時計を見るとあと数分で十二時になるところだった。
「二人ともお疲れさま。後は僕がやっておくから上がっていいよ」
アデルがそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「分かりましたぁ」
「じゃ、仕事は上がらせてもらいます」
この後用事でもあるのか、二人は素直に厨房から出て行った。
「さてと……」
タオルで手を拭くと、アデルは店内に向かって歩き出した。営業時間を終え、静かになった店内を歩くのが彼は好きだった。ただ、今夜はいつもと違った。ローナとリゼが揃って店内に残っていたのだ。
「二人ともどうしたんだ? 何か忘れ物かい?」
「マスター、シンデレラの話って知ってます?」
「ん? ああ、知ってるけど……」
ローナの唐突な質問に戸惑いつつもアデルが答えると、今度はリゼが水を向けてきた。
「じゃあ、シンデレラがお城に行くことも知ってますよねぇ。そこで王子様と踊るんですけど、シンデレラは慌てて帰りましたよね。それはなんでですかぁ?」
「十二時になったら魔法が解けてしまうからだろ。そうしたら、シンデレラは元の姿に戻ってしまうからね」
「ええ、その通りです。こんなふうに」
リゼがそう言ったと同時に二人に異変が起きた。二人の頭から音もなく白い角が生えてきたのだ。それだけでもアデルには衝撃的だったが、彼女達の変化はそれだけではなかった。続けて腰の辺りの裾をつまんでめくり上げると、ほとんど皮膜のない翼と小さな尻尾まで現れた。腕まくりをしていたローナはその細い腕にピンク色の毛まで生えてきている。あまりにも非現実的な光景に、アデルは目を丸くした。
「魔物、だったのか……」
「うふふ、違いますよぉ。魔物だったのではなく、魔物になった、が正解です」
「十二時を過ぎましたからね。魔法が解けちゃいました♪」
楽しげに二人に言われ、アデルは時計を見た。二つの針は十二時を回ったことを示していた。
「何を……するつもりだい?」
「うふふ」
二人は妖艶な笑みを浮かべつつ上着に手をかけると、ゆっくりとそれを持ち上げていく。そこから現れたのはピンクの毛に覆われた腹部だった。服はどんどん持ち上げられ、やがて胸に到達したが二人の手は止まらなかった。女性の象徴ともいえる乳房もやはり毛に覆われていたが、それでも膨らんだ胸はくっきりと谷間を作っており、アデルの目は釘付けになる。
アデルの視線がどこに向いているのか分かっているらしく、二人はわざとらしく胸を突き出すような体勢を取りつつ上着を脱ぎ去った。続けてスカートに手をかけると、こちらも躊躇いなくするりと落とされる。
裸になった二人は息を飲む美しさだった。角、翼、尻尾、身体のところどころに生えたピンク色の体毛と、完全に異形の姿となっているはずなのに、アデルにはとても魅力的に見えた。本能は逃げるべきだと訴えているのに、身体が動かない。
その場に固まったアデルを見てローナとリゼは一際妖艶な笑みを浮かべると、ゆっくりと歩み寄ってきた。その途端に例えようのない甘い匂いが鼻についた。嗅いではいけないと思いつつも、一度嗅いでしまったらもう駄目だった。二人から発せられている香りには何か特別な効能があるらしく、アデルは身体がかっとしてきた。強烈な酒を一息に飲んだ時のような感覚だ。匂いだけで自分は酔っているとアデルは直感した。
それでも今ならまだ逃げられる気がした。二人に捕らわれていない今なら、まだ大丈夫だ。実際に意識を集中すれば、足は動かせた。だが、アデルはその場から動こうとしなかった。逃げることよりも、この場に残って二人にどんなことをされるのかという誘惑に近い好奇心に気持ちが傾いていた。
そんなアデルの両脇にローナとリゼが並び立ち、するりと腕に抱きついてきた。この瞬間、アデルは魔物二人に捕まってしまったわけだが、彼女達の甘い香りや体の生々しい感触が彼の頭から余計な思考を消し去った。これからどんなことをしてもらえるのかという期待がペニスを反応させていく。
「さあ、マスターも脱ぎましょうねぇ」
二人の腕がアデルの身体を撫でつつ服を脱がそうと動く。アデルはそれに抵抗せず、あっという間にシャツを剥ぎ取られる。
「はぁぁ……♥ いい匂い……」
アデルの上半身が裸になると、ローナはうっとりとした感じで顔を肩に擦りつける。まるで猫のようだ。
「ローナ、お楽しみはこっちですよぉ」
リゼの手が向かったのはズボンだ。彼女は少しも躊躇うことなく手をかけて脱がそうとする。
「あ、待った……」
そこを晒すのはさすがに抵抗があり、反射的に手がローナを阻もうとした。彼女達に抱きつかれているだけで既に勃起しているのだ。だが、腕が動きかけた瞬間、二人は想像もできないほど強い力でアデルの両腕に抱きついて拘束した。
「駄目ですよぅ。私達はそこが見たいんですからぁ♥」
「さ、マスターのおちんちん見せて下さい♥」
アデルを押さえつけつつ、二人の手がいそいそとズボンを下ろしていく。そしてそり立ったペニスが露わになった。ローナとリゼの目がそこに集中する。それを見る二人の横顔は初めて見る玩具を前にした子供のようだった。
「これがマスターの……」
「すごい……こんなに大きくなるんだ……」
恥ずかしげもなくアデルのペニスを興味深そうに眺めていた二人だが、不意に顔を上げた。その顔になんとも魅惑的な笑みが浮かぶ。
「こんなに大きくしてるってことは、マスターもその気ってことですよね?」
「いや、これは勝手にこうなってるだけで、僕の意思では……」
魔物に欲情しているという事実を認めるのは恥ずかしい気がして、アデルはつい言い訳を口にしていた。
「へぇ……」
発言の内容を吟味するような声音だった。
「じゃあ、試してみますかぁ」
ローナに続いてリゼがそう言うと、両腕から二人が離れた。当然、二人の温もりや柔肌の感触も消えてしまう。それを物足りなく思いながら二人を見つめていると、彼女達はアデルから数歩離れた位置で振り返った。
「ねえマスター、本当に私達とエッチしたくないんですかぁ?」
「ほらマスター、見て下さいよ。私のここなんて、マスターが欲しくてこんなことになってるんですよ?」
ローナはその場に腰を下ろすと足を開き、自らの股間をアデルに見せつける姿勢になった。そのまま手でピンクの毛をかき分けて秘部をさらけ出すと、指でそこを開いて見せる。毛とはまた違ったピンクが覗くそこは既に潤滑液で溢れ、ペニスを迎え入れる準備が整っているのだと一目で分かった。
「ローナだけじゃなくて私もですよぉ♥」
リゼもローナとまったく同じ姿勢になり、足を開いて綺麗な割れ目を披露してくる。続けて開かれたそこはやはり愛液で濡れており、催促するようにクリトリスがひくひくと動いた。
「っ……」
二人の艶姿にアデルのペニスが正直に反応する。このまま二人を抱いてしまいたい。そんな欲求が盛大に膨れ上がっていく。
「あは♥ マスター、エッチな匂いが強くなりましたよ♥ いつまでも我慢してないで早く突っ込んで下さいよ♥」
我慢しきれなくなったのか、ローナが僅かに腰を浮かせ、ゆっくりと動かしてみせる。その艶めかしい動きに刺激され、ペニスからは先走りが出始めた。
「ねえマスター、本当はこういうことしたかったんでしょう? 仕事中に私達をちらちら見てたのだって知ってるんですよぉ? だからこうして誘ってるんです。どちらかだけじゃなく、私達二人両方を選んでいいんですよぉ? それでもマスターは抱きたくないんですかぁ……?」
その一言で、アデルの欲望は限界を迎えた。
「抱きたい……」
二人の顔に歓喜の笑みが浮かんだ。
「じゃあ、どうぞ♥ 私達はどちらからでも構いませんから♥ でも、ちゃんと二人を抱いて下さいよ♥」
早くアデルを迎え入れたくて仕方ないといった様子で、ローナとリゼはより足を開く。それだけでこの場に広がるメスの匂いがより一層濃くなった。その香りに突き動かされるように、アデルはズボンを完全に脱ぎ捨てるとローナの前に移動した。
「やった、私が先ですね♥」
「私は次ですか、残念ですねぇ……」
アデルの選択に一喜一憂する二人。肩を落とすリゼには申し訳なく思うが、今のアデルは早く繋がりたいという欲求に支配され、彼女に声をかける余裕はなかった。
「さ、マスター、遠慮なくどうぞ♥」
入れやすいようにと割れ目を広げてみせるローナに覆い被さると、ペニスの位置を調整する。先端が入り口に接触すると、アデルはローナを見つめた。
「入れるよ」
そう言い捨て、ローナの返事を待たずに腰を突き出す。ローナの中は大量の潤滑液で溢れており、するするとペニスが進んでいく。
「んんっ……」
ローナの口から嬌声じみた声が漏れた。膣穴にペニスが埋没していく感覚に我慢ができなかったらしい。自分で感じてくれているという事実がアデルをたまらなく興奮させ、ローナの身体を抱きしめると残りを一気に押し込んだ。
「ひぁっ……♥」
ローナの身体がびくりと弓なりに逸れてアデルをぎゅっと抱きしめる。それに合わせて膣内も収縮し、ペニスをしっかりとくわえ込んだ。たったそれだけで果てそうになるのをアデルは歯を食いしばって耐えた。
「んふふ、マスターのおちんちん入っちゃった♥」
「ローナ、マスターのおちんちんはどうですかぁ?」
横から興味深そうな目で二人を眺めながらリゼが聞いてくる。
「すごい♥ お腹の中に熱くて固い棒を入れた感じ♥」
挿入しただけで達しそうなアデルと違ってローナは余裕があるらしく、そんな感想を述べた。
「ほらマスター、せっかく入ったんですから動いて下さいよ♥ これじゃ物足りないです♥」
控えめに腰を動かすローナ。彼女としては急かしているだけなのだろうが、膣内のペニスはまとわりついた柔壁によって様々な方向にシェイクされ、信じられない快感を与えられていた。
「わ、分かった! 動くから! だからその動きはやめてくれ! これ以上やられたら出る!」
自分でも情けない申し出だと思ったが、ローナは大人しく動きを止めてくれた。
「マスター可愛い♪ じゃあ動いて下さいよ」
ローナの期待に満ちた目を見つめ返しつつ、ゆっくりと抽送を開始する。
最初こそ戸惑っていたのでぎこちない動きだったアデルだが、すぐに膣へと突き入れる行為に夢中となった。ローナの膣は入れればぎゅうぎゅうと包み、抜こうとすれば擦れて断続的に快感を与えてくる。それは中毒になりそうなくらいの心地良さだった。
「やぁん♥ マスター、もっとぉ♥」
加えて、一回突き入れるごとにアデルの身体の下でローナがよがってくれるのだ。すっかり興奮状態になったアデルは貪るように腰を動かし続けた。
何度目か分からない抽送をしようとした時だ。
「マスター、私もそろそろ限界ですよぉ……」
そんな言葉とともに、背中にリゼがのしかかってきた。その弾みでペニスが奥深くに挿し込まれ、先端が不思議な感触のものにぶつかる。
「ひゃっ……♥」
今まで気持ち良さそうに喘いでいたローナが一際大きく喘いだ。
「その様子だと子宮口に当たったみたいですねぇ。どうですローナ、そこを突かれた気分は?」
「気持ち、いい……♥」
嬉しそうな声だ。それを聞いたリゼが耳元で囁いた。
「だそうですよマスター。そろそろローナは切り上げて私の相手もして下さい。ほら、私のここ、こんなにマスターを待ち望んでいるんですよぉ?」
アデルの腰の辺りで、さらさらした毛とぬるぬるとした生温かいものが同時に動いた。どうやらリゼが自分の性器を押しつけているらしい。彼女が動いた箇所には愛液が塗りつけられ、しっとりとしてくる。
「わ、分かったから退いてくれ……。このままじゃローナが重いだろうし……」
「嫌です。もう充分待ちました」
ローナとリゼにサンドイッチにされている今の状況は色々とまずい。身体の前後に二人の柔肌やさらさらな毛の感触が万遍なく与えられ、ペニスが今にも暴発しそうだった。
しかし、リゼは退かないどころか、アデルに覆いかぶさったまま突き出すように腰を動かしてきた。そんなことをされれば当然アデルの腰は押される形になり、ペニスがローナの中に強引に押し込まれて子宮口にぶつかった。
「んんっ♥ 深……いぃ♥」
「ほらマスター、ローナも喜んでますよ。もっとずんずんしてあげましょ。私もお手伝いしますからぁ」
アデルの返事を待たずにリゼが腰を動かし始めた。その腰使いは激しく、押される形で挿入されるペニスが何度も子宮口にぶつかる。
「あん♥ やっ♥ はっ、激しっ♥」
「ちょっとリゼちゃんストップ! これはいくらなんでも……!」
敏感なところが勢いよく接触する際に生じる快感は恐ろしいほどで、歯を食いしばっていないとすぐに達してしまいそうだった。ローナも同じようで、頬は上気し「はあ、はあ」と浅い息をこぼしている。しかしリゼは止まらなかった。
「なんだか私がローナとエッチしてるみたいですねぇ♪ さ、ラストスパートですよぉ♪」
楽しくなってきたのか、リゼが腰使いのペースを上げた。それだけ早く抽送することになり、結合部からにちゃにちゃと卑猥な音が漏れる。意識が燃えるような感覚に襲われ、アデルはリゼの腰の動きに合わせて抽送を繰り返した。
限界が近づいている。ローナも同じらしく、一突きするごとに荒い息を漏らすだけになっていた。
そして一際大きくペニスが挿し込まれ、子宮口と完全に接触した時だ。不意に首筋をリゼが舐め上げた。舐められた箇所を中心にぞくりと快感が走り、それはすぐに下半身に到達する。結果、ぎりぎりのところで堪えていたペニスは限界を迎え、おびただしい量の射精を開始した。
「あっ♥ はっ、うぁぁっ♥」
子宮に精を注ぎ込まれ、ローナは過呼吸にでもなったかのように口をパクパクさせる。だが、彼女の膣内はしっかりとペニスを締め上げ、精を搾り取ろうと収縮した。そうして最後の一滴までを搾り取ったところでローナがくてっと脱力し、膣の締めつけも緩む。
「どうですローナ、マスターとのエッチは?」
「す、すごい……」
夢でも見てるかのようにとろんとした目でローナは満足そうに笑った。それを確認したリゼはアデルの身体を引っ張り、二人の結合を解除しにかかった。
「んっ……」
ペニスが引き抜かれ、床に寝ているローナが少しばかり残念そうに見上げてくる。しかし、次の瞬間にはアデルはリゼと向かい合う形で座らされていた。
「さあ私の番です♪」
いそいそとアデルの太ももの上ににリゼが跨り、対面座位の体勢になる。
「リゼちゃん、ちょっと待って……。いくらなんでも続けては……」
酒場のマスターはなんだかんだで体力仕事なので、アデルも体力には自信がある。だが、ローナとのセックスはかなりの体力を消費した。それこそ、精と一緒に体力も吸い取られたと思うくらいだ。
「嫌です♪ 私は目の前でエッチしてるとこを見せつけられてたんですよ? もう待ちません」
未だに萎えず大きさを維持しているペニスを逆手で掴むと、リゼは割れ目へとあてがった。
「本当に待ってくれリゼちゃん。さすがに今はまだ動けそうにないよ。ちゃんと相手はするから、少しだけ待ってくれ……」
「ふふ、いいですよ♪」
肩を掴んできちんと頼みこんだからか、リゼはにこっと笑った。それを見てアデルはほっと長い息を吐く。直後、ペニスがリゼの膣へと呑み込まれていた。
「ちょ、リゼちゃん、待ってくれるって言ったよね……!?」
「うふふ♥ ええ、もちろん言いましたよー。でも、私が待つのはマスターが動いてくれるのを、です。おちんちんを入れることまで待つとは言ってませんよぉ♪」
言いながらもリゼは腰を進め、ペニスを呑み込んでいく。
リゼの膣はローナよりもきつく、無理矢理ねじ込んでいく感覚だ。
「いや、僕が言ったのは、行為そのもののことで……!」
「大丈夫です、マスターが休んでいる間は私が動いてあげます♥ ああ、マスターがお腹の中にどんどん入ってきてますよぉ♥」
せまい膣内をかき分け、強引に進んでいく感触は想像以上の快感だった。それを直に感じているペニスは現金にも活力を取り戻し、行為に及ぶための準備を整えていく。
「やぁん、マスターが私の中でぴくぴくしてます♥」
くわえ込んでいるペニスに変化があったことを敏感に感じ取り、リゼが身体をくねらせる。
「ほら、もっと奥まで来て下さい♥」
リゼが首に両腕を回し、ぐいっと身を寄せてくる。ペニスを根元まで呑み込み、互いの性器が密着した。中では亀頭が子宮口と触れ合い、先端を中心に痺れるような快感が生じる。
「ふふ、全部入りましたねぇ♪ じゃあ、動きますよぉ♪」
アデルの肩を掴むとリゼは腰を振り始めた。最初からハイペースで動き、リゼが腰を突き出す度に亀頭が子宮口にぶつかる。
「ん、は、んん♥ あん、ずんずんされて、おかしくなっちゃいそうですよぉ……♥」
子宮口を突かれる快感がたまらないのか、リゼの顔が蕩けてくる。性器の接触で得られる快感ではアデルも負けていなかったが、一度たっぷりと出しているからか、ローナの時と比べて余裕があった。おかげで、目の前で弾む二つの大きな乳房に目がいく。
リゼの動きに合わせてぶるんぶるんと弾む胸はいかにも柔らかそうで、アデルはほとんど無意識に手が伸びていた。
「ふふ、触りたいんですかぁ?」
アデルの手が向かう先に気付き、リゼは動きを止めないまま聞いてくる。
「ああ、触りたい」
「マスター……」
アデルが素直に答えたのが意外だったのか、リゼは驚いたように目を見開いた。だがすぐに笑みを浮かべた。
「じゃあ好きなだけどうぞー♪ ん♥ マスターに収穫してもらうために大きくなったんですからぁ♥」
許可を貰い、そっと包むようにピンク色の毛に覆われたリゼの胸に触れる。 獣のようにごわごわしていると思った体毛は予想に反してつやつやとしており、上質な毛皮のようだった。そんな毛に覆われている二つの胸はとても柔らかく、少し力を入れるとふにゃりと指が沈む。
女性の胸とはこんなにも柔らかくて触り心地がいいのかと思いながら、アデルはリゼの胸を触り続けた。
「んん……♥」
性器と揉まれている胸、両方で快感が生じているリゼが堪え切れずに嬌声を漏らす。それと同時に、手のひらを押し返そうとする小さな突起の存在に気付いた。
「マスター、私のおっぱい、そんなに気に入ったんですかぁ?」
「うん。すごく柔らかくて、触ってて気持ちいい。リゼちゃんも、触られて気持ちいいんでしょ?」
「もちろんですよぉ♥ でも、毛があるのは今だけですから、今のうちに堪能して下さいねぇ♥」
さらりとリゼがそんなことを言った。
「今だけ?」
「はい、毛があるのは半人前の時だけって、エステルさんが言ってましたぁ♥」
「エステルさんがって……じゃあ、彼女も」
「ええ、魔物ですよ」
頭に変な衝撃が走った。すぐ傍に魔物がいたという事実がアデルを硬直させる。そうだ、言われてみればローナやリゼと違ってエステルは最初から並外れた美しさだった。あれが、魔物特有のものだとしたら納得がいく。
覚めた頭でリゼに更なる質問をしようとした時だ。急にペニスが強く締めつけられた。
「っぅ!」
一瞬にして射精感が込み上げてきて思わず声が出てしまう。
「駄目ですよぅマスター、私とエッチしてるのに他のこと考えちゃ。気になることは後でエステルさんが答えてくれますから、今は私達が一人前の魔物になることに協力して下さい♥」
「協力って、何すれば……」
目尻を下げ、蕩けたような笑みを浮かべながらリゼが自分の腹に手を当てた。
「ここにいっぱいマスターの精液を注いで下さい♥ そうすれば、私もローナも一人前のサキュバスになれますから♥」
「いっぱいって、そんなことしたら……」
妊娠という言葉が頭をよぎる。
「ふふ、もしかしたら妊娠するかもって考えてます? 構いませんよぉ♥ マスターの赤ちゃんができちゃうくらいたっぷりと注いで下さい♥ そもそも、私もローナもマスターの赤ちゃん産む気ですし、問題ないです♥」
「いや、産む気って、待っ―っぅ!」
人と魔物との間に子供ができるのか疑問だったが、リゼが再び腰を振り始めたことで思考が強制的に中断され、快楽に押し流されていく。
先程よりも激しい腰使いで、亀頭が何度も子宮口をノックし、それに呼応して膣内がそこで射精するように締め上げてくる。完全に精を搾り取ろうとする膣内の動きに、アデルの身体は正直に反応した。ペニスが二度目の精を放とうと膨張し、全身が熱くなってくる。
「待ってリゼちゃん! 妊娠はまずいって!」
「でも、ローナにはたっぷりと出したじゃないですかぁ。私だけなしなんて駄目です。ちゃんと平等に愛してくれなくちゃ」
逃がさないとばかりにリゼが両足を腰に絡めてくる。柔壁もしっかりと絡んで締めつけ、ペニスが限界が近いことを示すようにぴくついてしまう。
自分ではもうどうにもできない状況に追い込まれ、アデルは混乱する頭で一つの決断を下した。現実を受け入れたのだ。それは、既にローナには膣内に射精してしまったことだし、もうどうにでもなれという開き直りに近かった。
ほとんど自棄になったアデルはリゼの背中に両腕を回して抱き寄せると、彼女の腰の動きに合わせるようにペニスを突き入れた。
「ひんっ♥ マスター……」
いきなりのアデルの行動に思わずリゼは動きを止めた。だが、すぐにアデルの意図を察してくれたらしく、嬉しそうに腰振りを再開する。それに合わせ、アデルはリゼの蜜壺を突き上げた。
「あ、ん、んんっ、やぁ……♥」
一人で動いていた時よりも感じているのか、リゼが漏らす喘ぎ声が艶めかしい。内部の熱さも上昇してきていることから、リゼも限界が近いらしい。
「そろそろ、出すよ……! リゼちゃん……!」
「あん、どうぞぉ……♥ ん、孕むくらいいっぱい下さいぃ……♥」
蠕動する窒内に、ついにアデルは限界点に誘われた。抉るように突き上げて最奥に到達すると、そこで精を迸らせた。
「ああっ!」
勢いよく子宮口を突かれたことでリゼの身体がびくりと強張った。反応した膣内がぎゅっと締めつけ、それによってペニスから精が勢いよく飛び出していく。
「ああ、んぅぅ、すごいぃぃ……♥」
蕩けた表情で苦しげな息を吐きつつ、リゼが脱力する。長々と続いた射精を終えたアデルも荒い息を吐きながら、強張った身体から力を抜いた。
「はぁぁ、お腹の中が熱いですよぉ。これがマスターの子種なんですねぇ……♥」
嬉しそうにお腹を撫でるリゼを見るに、満足してくれたようだ。だが、そこで予期せぬことが起こった。
「さ、マスター、今度は私の番ですよ」
いつの間にか背後にいたローナが無理矢理自分の方へとアデルの顔を向かせ、楽しげな笑顔で信じられないことを言った。
「え……いや、私の番って、ローナちゃんは最初に……」
「あれだけじゃ足りません♥ それにほら、まだ私もリゼも完全なサキュバスになれてませんし。だから協力して下さい♥ それが済んだら、お礼に私とリゼがマスターのお嫁さんになって子供を産みますから♥」
リゼがアデルの前から退き、ローナがそこに陣取る。どうやらアデルがリゼの相手をしている間に回復したらしい。それを見てアデルは絶句するしかなかった。彼女達はいい。一人が相手をしてもらっている間は休んでいられるのだから。しかし、相手をするアデルは休む間などない。これでローナの相手が終われば今度は再びリゼの番になるだろう。それがずっと続いていく。この淫らな宴は二人が完全なサキュバスになるまで終わらないのだとアデルは確信した。
「さ、マスター、今度もたっぷりお願いしますね♥」
言葉とともに、未だ萎えないペニスがローナの膣へと呑み込まれていった。
礼拝が終わり、ぞろぞろと出て行く参拝者達を眺めながらサリサは無意識のうちにため息をついていた。まだ朝の礼拝が終わっただけだというのに、身体は少なくない疲労を感じている。まだまだ働く元気があるとはいえ、寄る歳波には勝てないと彼女は思った。
サリサが長を務める教会は町のほぼ中央に位置し、毎日訪れる人が絶えない。町の規模がそれなりなため、必然的に訪れる人の人数は多い。だが、ここで働いているのはサリサを始め、長年教会で働いてきた者ばかりなため、今のところ業務に問題はなかった。問題があるとすれば若い働き手がいないことだった。
どんな仕事であっても、必ず後を継ぐ者は必要になってくる。それは教会も同じだ。今でこそ働き手はいるが、後十年もしたら何人残っているかは分からない。この問題はここ最近、サリサをずっと悩ませていた。
どうやったら教会という場所に若い働き手を募ることができるか思案しながら事務室へ向かおうとすると、未だ一人の礼拝者が残っていることに気付いた。
空色の髪をしたまだ若い女性だった。彼女は目を閉じて両手を合わせ、静かに祈っていた。
「礼拝の時間は終わりましたよ」
静かに近づいて声をかけると、彼女はそこでサリサに気付いたらしく、祈るのをやめて顔をこちらに向けてきた。その顔を見てサリサは少しばかり口を空けて驚いてしまった。その女性はまだ若く、顔立ちは整っていて見事なまでの美しさだった。
綺麗な青い瞳がサリサを捉えると、彼女は困ったような笑顔を浮かべた。
「すいません。すぐに出ていきます」
「いえ、出て行けというつもりで声をかけたのはありませんよ。あまりに熱心に祈っているようでしたから、何か懸念でもあるのかと思ったのです。余計な気遣いでしたでしょうか」
彼女は小さく首を振るとすっと立ち上がった。
「お心遣い、感謝します。実は今日からお店を任されることになったのですが、経験のない私に上手くできるか不安になり、商売が上手くいくようにこうしてお願いしていたのです。神様にお願いするには、少し不純なことかもしれませんが」
商売の成功を祈るのは好ましいことではないと思っているのだろう。そう言った彼女は少し申し訳なさそうだった。
「労働は尊きことです。その成功を願うのは当然のこと。あれだけ熱心にお祈りすれば、主神様もきっと聞き届けて下さることでしょう」
「ありがとうございます、シスター。おかげで、少し緊張がほぐれたようです」
先程よりも彼女の表情が明るくなった。それにつられるようにサリサも笑顔を浮かべた。
「あなたのように分別を持った人であれば、仕事は必ず上手くいくことでしょう。この教会に欲しいくらいですよ」
人当たりのいい人物だったからか、つい本音が漏れていた。
「あら、人手が足りていないようには見えませんが、お困りなのですか?」
自分の失言を言及され、サリサは苦笑するしかなかった。やはり自分も歳だ。こうもうっかり口を滑らせている以上、早く後任を見つけなければと改めて思った。
「人手は足りています。ただ、皆もういい歳なのですよ。あなたのような若い人手は不足しているというのが現状なのです」
内部事情ではあったが、若手不足は教会に限ったことではないし、隠すようなことでもない。町の人々の間でも囁かれているので、サリサはほとんど躊躇うことなく話していた。誰かに話すことで問題が解決するわけではないのに、気は楽になるから不思議だ。
だが、サリサの愚痴にも近い言葉を聞くと、彼女は真剣な表情で口を開いた。
「……もしよければ、他の教会にいる私の知り合いを紹介しましょうか? まだ若いし、見習いの立場ではありますが、それでもよければ」
あまりにも出来すぎた話で、思わず彼女の顔を見返していた。だが、その美しい表情にからかいや冗談の色はなかった。
「それは……もしそれが本当なのでしたら大変ありがたい申し出ですが、よろしいのですか?」
「はい。ただ、彼女の都合もありますから、確約はできませんが、それでもよければ」
願ってもない話に、サリサは深く頭を下げた。
「ええ、それはもちろん承知の上です。どうかよろしくお願いします」
「分かりました。では、すぐに彼女に連絡してみます。結果は後日報告に来ますね」
軽く会釈すると彼女は歩き出した。
「あの、あなたの名前を窺ってもよろしいですか」
大事なことを聞き忘れていたと思ってサリサが声をかけると、彼女はゆっくりと振り向いた。
「エステルです」
そう名乗り、彼女、エステルは穏やかに微笑んだ。
カトレアから商館の代金を受け取ってはいたが、ディーノは今日までそれを使ってはいなかった。急に手に入った大金の用途が思い浮かばなかったからだ。とはいえ、金は使うものなので久しぶりに少しだけ贅沢をしてみた。ぶ厚いステーキも見事な柔らかさで、つい酒が進んでしまう。毎日食べたくなる誘惑に駆られるが、ディーノはそれを自制した。商館売却の代金は大金とはいえ一時的な収入だ。調子にのって使えば、いずれまた不味い酒を飲むことになる。それだけは避けたかった。
たっぷり時間をかけて昼食を終え、店を後にしたディーノはのんびりと東に向かって歩いた。中央通りほどではないが、こちらもけっこうな賑わいぶりだ。正面から歩いてきた中年の婦人を避けた時、ふとディーノはある場所に目を向けた。
二週間前にオープンしたばかりの『S&K』の看板が掲げられた商館は、少し前まで寂れた雰囲気を漂わせていた建物とは思えないほどに賑わっていた。なんでも、遠方の地から取り寄せている品がほとんどだからか、物珍しさもあってすぐに繁盛しだしたと聞いたが、実際に見るとそれ以上のようだった。
「あの女なら不思議ではないか……」
ディーノは脳裏にカトレアを思い浮かべた。美しいだけでなく、商才も持ち合わせた女。しかし、その内側には魔性のようなものが渦巻いている気がしてならない。妖花という表現があれほど似合う女もいないだろう。取引をした日のことを思い出し、それを追い払うようにディーノは首を振った。
もう関わることはない。
ほんの少し前まで自分の所有物だった建物から目を逸らすと、ディーノは逃げるようにその場を去った。
その夜。夕食を済ませてディーノが一人晩酌をしていると、家の扉がノックされた。時計を見ると九時だった。こんな時間に訪問してくる知人に心当たりはないと思いつつ、玄関に向かい扉を開けた。そこに立っていたのは黒のドレスに身を包んだ美しい女性だった。むき出しの白い肩や僅かに覗く谷間が夜の闇の中で一際目立ち、つい目を奪われそうになる。
「どちらさまかな」
「夜分遅くにごめんなさい。私、アンナといいます。こちらで家を貸していただけると聞いてきたのですが」
どうやら客らしい。ディーノは扉を開け放った。
「お客さんは歓迎だ。入ってくれ、詳しい話をする」
「ありがとうございます。あの、これ差し入れです」
アンナが手にしていた紙の箱を差し出してきた。
「これは?」
「ケーキです」
「そうか。ありがとう。では、説明の時にいただくとしよう。ついてきてくれ」
アンナを依頼者の用の席につかせるとディーノは声をかけた。
「飲み物はコーヒーでいいかな」
「はい。気遣いありがとうございます」
コーヒーとケーキ用の皿とフォークを用意して戻ると、ディーノもアンナの向かい側に座った。
「さて、さっそくだが話を始めていいかな」
そう切り出した時、初めてアンナがディーノをじっと見つめていることに気付いた。
「なにか?」
怪訝に思って尋ねると、アンナは小さく笑った。
「いえ、聞いていた通りの人だと思いまして」
「聞いていた? どういうことかな」
「ふふ、後でお話します。それよりディーノさん、せっかくコーヒーを用意してくれたんですし、先にケーキを食べませんか?」
アンナの目が机に置かれた箱に向かった。
「あ、ああ。そうだな。ではそうしよう」
話を逸らされたなと思いつつ、ディーノは箱を開いた。そこには二つのショートケーキが納まっていた。ただ、乗っているフルーツがどちらも苺ではなく、片方は赤い果実、もう片方は青い果実だった。両方ともディーノは見たことがなかったが、見るからに熟れていて美味しそうだ。
「珍しい果物を使っているようだね。アンナさんはどっちがいい?」
「あら、私が先に選んでいんですか?」
「ああ、構わないよ」
「では、私は赤い方をいただきますね」
アンナが赤い果実の方を選んだので、ディーノは必然的に残った青い果実のケーキとなった。
さっそくフォークで食べてみると、意外なことに青い果実は酸味が強かった。それがクリームの甘さと合わさってくどさを相殺し、上品な味となっていた。
「ふふ、甘くて美味しいですね」
「ん? アンナさんの方は甘いのか。俺の方は酸味があるよ」
「あら、そうなのですか? では、こちらも食べてみます?」
「いや、けっこうだ。酸味があるとは言ったが、くどくなくてこっちも美味しいよ」
「そうですか。それはよかった」
目を細め、アンナは嬉しそうな笑みを浮かべた。
ケーキを食べ終えてから、契約の話をした。
「こんなところかな。ここまでで聞きたいことはあるかな」
ざっと契約について話し終え、質問がないか確認するとアンナは首を振った。そこでディーノは席を立って、窓際に行くと窓を開けた。説明をしている途中からなぜか体が熱くなっていたので、夜風が心地いい。
「ディーノさん、どうかしたんですか?」
「ああ、すまない。少し熱くなってね。緊張しているのかもしれない」
声をかけられ、振り向くと不思議そうな目で見てくるアンナが映った。その途端、体が更に熱くなった。
「具合が悪いんですか」
「いや、大丈夫だ。君が来る前に晩酌をしていたから、少し酔いが回ったんだろう。ああ、それより勝手に開けてしまったが、寒いかな。もしそうなら言ってくれ。すぐに閉めるよ」
彼女を見ていると体の熱がどんどん上がってくるので、ディーノは再び窓の外へと視線を逃がした。
「いいえ、私は大丈夫です。それより、契約の話をさせて下さい」
「あ、ああ……」
契約と言われては背中を見せたままというわけにもいかず、ディーノは仕方なく振り向く。そこで体を硬直させた。すぐ目の前にアンナが立っていたのだ。
「ア、アンナさん? 一体なんだ……?」
「言ったでしょう、契約の話をしたいと」
すっと目を細め、アンナの顔に妖艶な笑みが浮かぶ。それを見た途端、ディーノはさーっと感覚が覚めていき、慌てて壁際へと身を引いた。それを見て、アンナは首を傾げる。
「どうかしたの?」
「アンナさん、君は俺のことを聞いてきたようだが、一体誰から聞いたんだ……?」
「カトレアさんから」
さらりと告げられた言葉に、ディーノは目を見張った。
「カトレアさんって、じゃあ君は……」
アンナは胸に手を当てて微笑んだ。
「『S&K』幹部の一人、アンナよ」
「『S&K』の幹部だっていうなら、俺から家を借りずとも、いくらでも用意できると思うが」
「ふふ、そう連れないことを言わないで。確かにその通りだけど、私も最初はちゃんと家を借りるつもりで来たのだから」
「では、今はその気はないということかな」
じりじりと壁に沿って動きながら、ディーノはアンナから目を逸らさずに言う。少しでもアンナから離れないと、体が爆発しそうなくらいに熱くなってきていた。
「ええ、気が変わったわ。家は借りない。代わりに、ここに住むことにするわ」
「どういう意味だ」
アンナは笑みを浮かべながら、ゆっくりとディーノに向かって歩き出した。
「あら、分からない? あなたと夫婦の契約を結べば、私はここに住めるでしょ?」
言いながら、アンナの手が動いて首の裏のドレスの結び目を解いた。黒いドレスがするりとアンナの体を滑り落ちていく。
ディーノは息を飲んだ。アンナの裸を見せつけられたというのもあるが、それ以上に目を奪われたのが獣の耳と尻尾だ。
「魔物……」
教会曰く、人に危害を加える害獣のような存在。それだというのに、なぜかディーノの体は興奮状態になっていた。自分でも不思議なくらいに彼女に欲情している。ペニスが勃起してズボンを押し上げているのがはっきりと分かった。
「ええ、私は魔物。でも、同時に女でもある。だから私はあなたが欲しい。ねえディーノ、私と結婚しましょ」
目の前にやってきたアンナがそっとディーノの頬に手を触れる。
「誰が魔物なんかと……」
逃げ出すこともできず、ディーノは間近でアンナを見つめながらそう言い捨てた。
「うふふ。口ではそう言っても、ここは正反対みたいだけど?」
アンナの手がするりとズボンの中に侵入し、直接ペニスに触れる。それだけで体がぴくりと反応してしまう。
「やめ……」
アンナの手を払いのけようとするディーノだったが、そうするより先にズボンが引きずり下ろされてしまう。
「素敵……」
まろび出たペニスを見て、アンナはうっとりとした表情でそれを見つめる。そしてそっと右手を伸ばし、優しく撫で始めた。扱かれているわけでもないのに、たったそれだけのことでぞくぞくと快感が走り、思わず声が漏れてしまう。
「っぅ……や、やめ……」
「そんなこと言っても、私が欲しいからこんなことになってしまっているんでしょう? エステルさんお手製の夫婦の果実を使ったケーキは美味しかったものね」
「エステルさんって、じゃあ、彼女も……」
アンナの顔に楽しげな笑みが浮かんだ。
「ええ、魔物よ。妖狐ではないけれど。ああ、そういえば、あなたはあの人に相手をしてもらったことがあるんだったわね。でも、フェラだけだったんでしょ? 私は違うわ。ほら、見て。あなたが欲しくてこんなにぐちゃぐちゃになってる……」
空いている左手でアンナは秘部を広げてみせる。割れ目が口を開いて赤い内部を晒したと同時に愛液がぽたぽたと垂れ落ちた。それを見て、ペニスが正直に反応してしまう。
「入れてみたいでしょ? いいのよ、入れて。たっぷり愛してあげる……」
「だ、誰が……」
虚勢を張ってみたが、ここに自分のモノを入れてアンナと交わりたいという欲求が理性をグラグラと揺らしてくる。
「あなたが好きなの。ね、一生あなたの性処理係にして。この身体を好きにしていいから」
アンナの綺麗な顔がぐっと近づけられた。
「だから……夫婦の契約を交わしましょ?」
甘く囁くような声が頭に浸透していき、ほんの僅かだが頷いてしまった。心が折れたとでも言えばいいのかもしれない。
ディーノが誘惑に屈したからか、うっとりとした顔でアンナが一歩前に出た。
「じゃあ、入れるわね」
ディーノのペニスを掴むと膣内へと導いた。ぬるぬるとした狭い膣穴に、ペニスが沈みこんでいく。
「あぁぁぁぁ……」
とろけるような熱さ、引き込むような絡みつき、締めつけ。
アンナの膣内の感触に感嘆の声が漏れてしまう。
「気持ちいい? 私も気持ちいいわ。あなたのおちんちんが私の中を押し広げて……ふふ、立ったままするセックスというのも悪くないものね」
ディーノの体を壁に押し付けたまま、アンナはぐっと下半身を突き出す。ディーノはこれ以上後退できないので、その分ペニスが奥へと沈んでいく。そして先端が不思議な感触のものにぶつかった。
「あはぁ……♪ 子宮口がぐりぐりされて、感じちゃうわぁ♪」
ペニスを奥まで引き込み、アンナは恍惚とした表情を浮かべる。それでも目はしっかりとディーノを見ていた。
「ねえ、子宮がきゅんきゅん疼いているの。早くあなたの愛の証で満タンにして……」
アンナが更に身を寄せてきて、お互いの体が密着する。膣内では亀頭が子宮口と触れ合い、ただ密着しているだけで足腰から力が抜けていきそうなくらいに気持ちいい。
「あ、あぁぁぁぁ……!」
「ほら、早く出して? 子宮も欲しがってるわ」
アンナが腰を打ち付けるように動かす。それによってペニスが奥まで招かれたと同時に、膣全体が精を搾り取ろうと収縮した。
その快感の前に、ディーノはついに限界を迎えてしまった。
「っあ、出る……!」
膣穴の最奥でドクドクと射精してしまう。
「んうぅ……♪ 温かいのがいっぱい入ってくるわぁ……♪」
中に出される快感がたまらないのか、アンナはディーノに抱きつくようにしながら身悶えする。射精は止まらず、それを受け入れる膣内もぎゅっと締め付けて、一滴も残さず搾り取ろうと収縮を続けた。
「ふぅ……たくさん出たわね。気持ちよかったわよ、あなたとのエッチ」
満足そうな様子でアンナが微笑む。その瞬間、ディーノの中で何かが吹っ切れた。目の前のアンナの身体を抱きしめると、床へと押し倒す。
「きゃっ……」
いきなりだったからか、アンナは驚いたように目を見開く。だが、すぐに嬉しそうに両手を首に回してきた。
「もっとしたいの? いいわ、あなたが満足するまで好きなだけ中に出して。でも、せっかくの新婚初夜なんだから、続きはベッドでしましょ。ね?」
ちゅっとキスをされ、頭の中が真っ白になっていく。思考が止まり、残ったのはアンナの身体を堪能したいという獣じみた本能だけだ。
寝室へ移動すると、アンナは先にベッドへと横になった。
「さあ来て、あなた。たっぷり注いであなたの子を孕ませて♪」
誘いに応じ、アンナの上に覆い被さると、すぐにペニスを挿入する。魔物と性行為に及ぶなど、少し前までは考えられないことだったが、そんな思考はアンナと交わったことですっかり消え去ってしまった。
先程の交わりで充分に濡れたアンナの膣穴はスムーズにペニスを呑み込んでいく。そこから、記憶があやふやになるほどアンナの身体に溺れていった。
執務室でカトレアが帳簿に目を通していると、扉がノックされた。
「失礼します、店長。お客様をお連れしました」
「どうぞ」と返すと、従業員に案内された人物が部屋に入ってきた。
「商売は好調みたいね、カトレア」
机の前に立ったエステルはそう言ってにこりと微笑んだ。
「ええ、おかげさまで。どうぞ座って、私もそちらに行くから」
テーブルを挟んで向かい合った幅広のソファにエステルが座る。カトレアはその正面に座った。
「さて、どこから報告しましょうか。とりあえず、彼を堕としたとアンナから報告があったわ」
「それは嬉しい報告ね。これで新たに一組、こちら側が増えたのね」
報告を聞いてエステルは目を細めた。
「あら、意外と普通な反応ね。一度相手をしてあげたのでしょう?」
「フェラだけよ。精の味は悪くなかったのだけど、どうも彼にはピンとこなかったから」
「ふふ、好みじゃなかったのね。彼、可愛いじゃない。先に出会ったのが彼だったら、私がものにしていたかもしれないわ」
「それこそ意外ね。あなたの夫と彼は違うタイプじゃない」
「確かにタイプは違うわね。でも、ああいう警戒心の強い男って、小動物みたいで、つい可愛がりたくなるのよ」
楽しげなカトレアにエステルは肩をすくめた。
「妖狐の嗜好は理解しかねるわ。それより、本題の方はどう?」
「既に連絡済み。すぐに送るそうよ。ああ、あなたによろしくとも言っていたわ」
エステルはくすぐったそうに笑った。
「彼女は元気かしら?」
「ええ。最近、三人目が生まれたらしくて、育児と商売とで大忙しだそうよ」
「元気ならよかったわ。あなたも負けてられないわね。もっとも、その調子なら問題なさそうだけど」
エステルの目がカトレアの背後に向かった。五本の尾が楽しげに揺らめいていた。
「ええ、そうね。でも、今は子供より優先して作るものがあるでしょう?」
エステルの目がすっと細まった。
「ふふ、そうね。あなたの友達にも連絡が取れたみたいだし、計画を次の段階へと進めましょうか」
「これから忙しくなるわね。ああそうそう、エステル、あなたも魔物化を手伝ってくれないかしら。このままだとこの町、妖狐だらけになるわよ?」
あながち冗談でもないカトレアの発言に、エステルもつられたように笑った。
「私が手伝ったところで大差ないじゃない。でもまあ、あなただけに押し付けるわけにもいかないし、了承しておくわ」
「そうこなくっちゃ。私の方で一つ店を用意しておくわね」
「店? どういうことかしら。話が見えないのだけど」
「簡単よ。虜の果実をはじめとした魔界産の果物を使ったお菓子屋を作るの。それを売りにすれば、あっという間に知名度が広がって多くの女性客がやって来るわ。あなた、お菓子作りは得意でしょ?」
商人の顔になって語るカトレアに、エステルも計算高い笑みを浮かべた。
「なるほど、さすが商人ね」
「褒め言葉と受け取っておくわ。それに、あなたも酒場の娘二人は手懐けてあるみたいだし、いつまでもあそこにいるつもりはないのでしょう?」
「そうね。計画を進める以上、情報収集役はそろそろ潮時ね」
話の終わりを感じ取り、カトレアは立ち上がった。
「じゃあ、早速店を手配しておくわ。用意できたら、使いを出すから」
そのまま部屋を出て行きかけて、カトレアはぴたりと止まり、振り向いた。
「そうそう、私の勘だとそろそろ猟犬が動き出す頃だけど、そちらはどうかしら」
「こちらも連絡済みよ。もう向かっているそうだから、数日のうちに到着するんじゃないかしら」
「万事順調ね」
「ええ」
言葉を交わし合い、二人は怪しい笑みを浮かべた。
「マスター、まだですかぁ?」
リゼが厨房に顔を出し、アデルは切っていたローストビーフから顔を上げた。
「ごめん、これで終わりだよ」
残りのローストビーフを手早くスライスすると皿に盛り付ける。これで料理は全て完成だ。
リゼに急かされつつ皿を持っていくと、ローナとエステルがこちらを見ていた。
「マスター、遅いですよ!」
四人用のテーブルに着いていたローナがそう喚いた。テーブル上にはアデルが気合を入れて作った料理がずらりと並べられている。それらを前にしながら手が出せずにいたのだから、ローナの不満も仕方ないというものだ。
「ごめんごめん、これで最後だから。エステルさんも待たせてごめん」
「まったく、今日は送別会なんですから、主賓を待たせるなんて言語道断です」
「ローナ、マスターは一人で準備してくれたんだから、そう意地悪なこと言ったら駄目よ。私は気にしてないから」
むくれるローナを苦笑しながらエステルがなだめる。職場での立場はローナの方が先輩に当たるはずだが、二人のやり取りはまったく逆に感じられる。それくらい仲がいいのだろう。仕事帰りに何度か二人揃ってエステルの家に泊まったこともあるらしい。つい先日もお泊りだと言って、仕事が終わると楽しそうに帰っていくのをアデルは思い出した。
「ありがとうエステルさん。リゼちゃんも席に着いて。送別会を始めよう」
本日のイコールは臨時休業だ。エステルの送別会ため、貸し切り状態になっていた。いつも賑やかな酒場に四人しかいないので静かではあったが、これはこれで悪くないと思いながら、アデルはグラスに年代物の赤ワインを注いでいく。
「じゃあ始めようか。エステルさん、今までお疲れ様でした。大変助かりました。エステルさんの新しい門出を祝って」
アデルがグラスを持ち上げ、他の三人も続く。「乾杯」の声とともにグラスが打ち合わされた。
「はぁ〜、でもいきなりお店任されるなんてすごいですよねぇ」
「でもエステルさんなら納得でしょ。いつも作ってくれてたまかないのお菓子、すっごく美味しかったし。あーあ、今度からはお金を払わないと食べられないのかぁ……」
がっくりと肩を落とすローナに、三人が笑った。
「いや、むしろタダで食べられる今までがおかしかったんだよ。飲食店を経営している身から見ても、商品として十分通用する出来だしね。うちは酒場だから泣く泣く諦めたけど、もし喫茶店だったら店のメニューに加えていたよ」
「はぁ、そんなお菓子を作れるエステルさんは今日でいなくなっちゃうのかぁ。これから忙しくなりますねぇ」
しみじみとした感じでリゼが言った。アデルも同じ考えだった。ただ、彼はそれほど問題はないだろうと思っていた。エステルが抜けるのは痛手には違いないが、元々は三人でやっていたのだ。看板娘が一人減ることになるが、それもここ最近の様子を見るに問題はなさそうだ。それくらい、ローナとリゼは魅力的になった。
アデルはさり気なく二人を見た。それなりに長い間一緒に働いているので彼女達の魅力は理解しているつもりだが、ここ最近はますますその魅力に磨きがかかったように感じられた。そのせいか、彼女達の何気ない仕草にしばしば劣情を感じるのだ。今も火照ったと言ってぱたぱたと胸元に風を送るリゼに胸がどきどきしている。
「ごめんなさいね、こちらの都合で抜けることになってしまって」
「エステルさんが謝ることは何もないですよ。すごくお世話になりましたし」
「まったくですよ。本当に感謝してます。後は……」
リゼとローナがちらりとアデルを見た。
「ん? 僕がどうかしたかい?」
「ふふ、なんでもありませんよ」
「まだ秘密です。マスターは楽しみにしてて下さいねぇ♪」
彼女達だけの秘密らしく、二人は意味ありげに笑った。
どういうことなのか気になったが、エステルが忙しかった日の話を切り出したことで聞くタイミングを逃してしまい、話に花が咲いたこともあってアデルはすぐに忘れてしまった。
やがて料理がなくなると、それが終わりの合図となった。時計を見ると、もうすぐ日付が変わる時間だった。
お開きの雰囲気を察したのか、エステルはそっと立ち上がると頭を下げた。
「マスター、今日はありがとうございました」
「いやいや、お礼を言うのは僕の方だよ。エステルさんが来てくれたおかげですごく助かった。今までありがとう」
「ふふ。では、最後のお手伝いを」
慣れた手つきで空いた皿を重ねていく。どうやら片付けを手伝ってくれるつもりらしい。主賓にそんなことをさせるわけにいかないと立ち上がるアデルだったが、ローナとリゼが揃って先に動いた。
「駄目ですよぉエステルさん、後のことは私達の仕事なんですからぁ」
「そうですそうです。今日のエステルさんは主賓なんですから、そういうのはなしです。私達がやりますから」
ほとんど奪うように皿を取られ、エステルは困ったように笑っていたが、一つ頷いて言った。
「そうね。じゃあ、後のことはお願い」
二人にそう告げるとエステルは立ち上がった。
「マスター、色々とお世話になりました」
「いや、こちらもすごく助かったよ。ありがとう、それとお疲れさま」
一礼して踵を返すと、エステルは酒場から出て行こうと扉に手をかけ、そこで振り返った。
「それでは良い夜を。今度は別の形で会いましょう、アデルさん」
意味深な言葉だった。アデルはその意味を確認したかったが、エステルは声をかける間もなく出て行ってしまった。
「どういう意味だ?」
「すぐに分かりますよ。さ、リゼ、さっさと片付けよ」
「そうですねぇ。デザートもあることですし、手早くやっちゃいましょう」
二人も何か知っているようだが、教えるつもりはないらしく、それ以上は何も言わずに皿を片付け始めた。
仕方なくアデルも皿を手に持って洗い場に運んでいく。その間に二人に目を向けてみるが、二人はアデルの視線に気付きつつも敢えて無視しているようだった。そうなってくると声をかけても返事はもらえないと思い、洗い物に意識を向ける。そうすると不思議なもので、頭から雑念は取り払われ、目の前の仕事に集中できる。どれだけ大変な事情を抱えていようと、いざ仕事となればそちらに集中できるのがアデルの特技だった。
慣れきっている食器洗いはほとんど時間をかけずに終わった。時計を見るとあと数分で十二時になるところだった。
「二人ともお疲れさま。後は僕がやっておくから上がっていいよ」
アデルがそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「分かりましたぁ」
「じゃ、仕事は上がらせてもらいます」
この後用事でもあるのか、二人は素直に厨房から出て行った。
「さてと……」
タオルで手を拭くと、アデルは店内に向かって歩き出した。営業時間を終え、静かになった店内を歩くのが彼は好きだった。ただ、今夜はいつもと違った。ローナとリゼが揃って店内に残っていたのだ。
「二人ともどうしたんだ? 何か忘れ物かい?」
「マスター、シンデレラの話って知ってます?」
「ん? ああ、知ってるけど……」
ローナの唐突な質問に戸惑いつつもアデルが答えると、今度はリゼが水を向けてきた。
「じゃあ、シンデレラがお城に行くことも知ってますよねぇ。そこで王子様と踊るんですけど、シンデレラは慌てて帰りましたよね。それはなんでですかぁ?」
「十二時になったら魔法が解けてしまうからだろ。そうしたら、シンデレラは元の姿に戻ってしまうからね」
「ええ、その通りです。こんなふうに」
リゼがそう言ったと同時に二人に異変が起きた。二人の頭から音もなく白い角が生えてきたのだ。それだけでもアデルには衝撃的だったが、彼女達の変化はそれだけではなかった。続けて腰の辺りの裾をつまんでめくり上げると、ほとんど皮膜のない翼と小さな尻尾まで現れた。腕まくりをしていたローナはその細い腕にピンク色の毛まで生えてきている。あまりにも非現実的な光景に、アデルは目を丸くした。
「魔物、だったのか……」
「うふふ、違いますよぉ。魔物だったのではなく、魔物になった、が正解です」
「十二時を過ぎましたからね。魔法が解けちゃいました♪」
楽しげに二人に言われ、アデルは時計を見た。二つの針は十二時を回ったことを示していた。
「何を……するつもりだい?」
「うふふ」
二人は妖艶な笑みを浮かべつつ上着に手をかけると、ゆっくりとそれを持ち上げていく。そこから現れたのはピンクの毛に覆われた腹部だった。服はどんどん持ち上げられ、やがて胸に到達したが二人の手は止まらなかった。女性の象徴ともいえる乳房もやはり毛に覆われていたが、それでも膨らんだ胸はくっきりと谷間を作っており、アデルの目は釘付けになる。
アデルの視線がどこに向いているのか分かっているらしく、二人はわざとらしく胸を突き出すような体勢を取りつつ上着を脱ぎ去った。続けてスカートに手をかけると、こちらも躊躇いなくするりと落とされる。
裸になった二人は息を飲む美しさだった。角、翼、尻尾、身体のところどころに生えたピンク色の体毛と、完全に異形の姿となっているはずなのに、アデルにはとても魅力的に見えた。本能は逃げるべきだと訴えているのに、身体が動かない。
その場に固まったアデルを見てローナとリゼは一際妖艶な笑みを浮かべると、ゆっくりと歩み寄ってきた。その途端に例えようのない甘い匂いが鼻についた。嗅いではいけないと思いつつも、一度嗅いでしまったらもう駄目だった。二人から発せられている香りには何か特別な効能があるらしく、アデルは身体がかっとしてきた。強烈な酒を一息に飲んだ時のような感覚だ。匂いだけで自分は酔っているとアデルは直感した。
それでも今ならまだ逃げられる気がした。二人に捕らわれていない今なら、まだ大丈夫だ。実際に意識を集中すれば、足は動かせた。だが、アデルはその場から動こうとしなかった。逃げることよりも、この場に残って二人にどんなことをされるのかという誘惑に近い好奇心に気持ちが傾いていた。
そんなアデルの両脇にローナとリゼが並び立ち、するりと腕に抱きついてきた。この瞬間、アデルは魔物二人に捕まってしまったわけだが、彼女達の甘い香りや体の生々しい感触が彼の頭から余計な思考を消し去った。これからどんなことをしてもらえるのかという期待がペニスを反応させていく。
「さあ、マスターも脱ぎましょうねぇ」
二人の腕がアデルの身体を撫でつつ服を脱がそうと動く。アデルはそれに抵抗せず、あっという間にシャツを剥ぎ取られる。
「はぁぁ……♥ いい匂い……」
アデルの上半身が裸になると、ローナはうっとりとした感じで顔を肩に擦りつける。まるで猫のようだ。
「ローナ、お楽しみはこっちですよぉ」
リゼの手が向かったのはズボンだ。彼女は少しも躊躇うことなく手をかけて脱がそうとする。
「あ、待った……」
そこを晒すのはさすがに抵抗があり、反射的に手がローナを阻もうとした。彼女達に抱きつかれているだけで既に勃起しているのだ。だが、腕が動きかけた瞬間、二人は想像もできないほど強い力でアデルの両腕に抱きついて拘束した。
「駄目ですよぅ。私達はそこが見たいんですからぁ♥」
「さ、マスターのおちんちん見せて下さい♥」
アデルを押さえつけつつ、二人の手がいそいそとズボンを下ろしていく。そしてそり立ったペニスが露わになった。ローナとリゼの目がそこに集中する。それを見る二人の横顔は初めて見る玩具を前にした子供のようだった。
「これがマスターの……」
「すごい……こんなに大きくなるんだ……」
恥ずかしげもなくアデルのペニスを興味深そうに眺めていた二人だが、不意に顔を上げた。その顔になんとも魅惑的な笑みが浮かぶ。
「こんなに大きくしてるってことは、マスターもその気ってことですよね?」
「いや、これは勝手にこうなってるだけで、僕の意思では……」
魔物に欲情しているという事実を認めるのは恥ずかしい気がして、アデルはつい言い訳を口にしていた。
「へぇ……」
発言の内容を吟味するような声音だった。
「じゃあ、試してみますかぁ」
ローナに続いてリゼがそう言うと、両腕から二人が離れた。当然、二人の温もりや柔肌の感触も消えてしまう。それを物足りなく思いながら二人を見つめていると、彼女達はアデルから数歩離れた位置で振り返った。
「ねえマスター、本当に私達とエッチしたくないんですかぁ?」
「ほらマスター、見て下さいよ。私のここなんて、マスターが欲しくてこんなことになってるんですよ?」
ローナはその場に腰を下ろすと足を開き、自らの股間をアデルに見せつける姿勢になった。そのまま手でピンクの毛をかき分けて秘部をさらけ出すと、指でそこを開いて見せる。毛とはまた違ったピンクが覗くそこは既に潤滑液で溢れ、ペニスを迎え入れる準備が整っているのだと一目で分かった。
「ローナだけじゃなくて私もですよぉ♥」
リゼもローナとまったく同じ姿勢になり、足を開いて綺麗な割れ目を披露してくる。続けて開かれたそこはやはり愛液で濡れており、催促するようにクリトリスがひくひくと動いた。
「っ……」
二人の艶姿にアデルのペニスが正直に反応する。このまま二人を抱いてしまいたい。そんな欲求が盛大に膨れ上がっていく。
「あは♥ マスター、エッチな匂いが強くなりましたよ♥ いつまでも我慢してないで早く突っ込んで下さいよ♥」
我慢しきれなくなったのか、ローナが僅かに腰を浮かせ、ゆっくりと動かしてみせる。その艶めかしい動きに刺激され、ペニスからは先走りが出始めた。
「ねえマスター、本当はこういうことしたかったんでしょう? 仕事中に私達をちらちら見てたのだって知ってるんですよぉ? だからこうして誘ってるんです。どちらかだけじゃなく、私達二人両方を選んでいいんですよぉ? それでもマスターは抱きたくないんですかぁ……?」
その一言で、アデルの欲望は限界を迎えた。
「抱きたい……」
二人の顔に歓喜の笑みが浮かんだ。
「じゃあ、どうぞ♥ 私達はどちらからでも構いませんから♥ でも、ちゃんと二人を抱いて下さいよ♥」
早くアデルを迎え入れたくて仕方ないといった様子で、ローナとリゼはより足を開く。それだけでこの場に広がるメスの匂いがより一層濃くなった。その香りに突き動かされるように、アデルはズボンを完全に脱ぎ捨てるとローナの前に移動した。
「やった、私が先ですね♥」
「私は次ですか、残念ですねぇ……」
アデルの選択に一喜一憂する二人。肩を落とすリゼには申し訳なく思うが、今のアデルは早く繋がりたいという欲求に支配され、彼女に声をかける余裕はなかった。
「さ、マスター、遠慮なくどうぞ♥」
入れやすいようにと割れ目を広げてみせるローナに覆い被さると、ペニスの位置を調整する。先端が入り口に接触すると、アデルはローナを見つめた。
「入れるよ」
そう言い捨て、ローナの返事を待たずに腰を突き出す。ローナの中は大量の潤滑液で溢れており、するするとペニスが進んでいく。
「んんっ……」
ローナの口から嬌声じみた声が漏れた。膣穴にペニスが埋没していく感覚に我慢ができなかったらしい。自分で感じてくれているという事実がアデルをたまらなく興奮させ、ローナの身体を抱きしめると残りを一気に押し込んだ。
「ひぁっ……♥」
ローナの身体がびくりと弓なりに逸れてアデルをぎゅっと抱きしめる。それに合わせて膣内も収縮し、ペニスをしっかりとくわえ込んだ。たったそれだけで果てそうになるのをアデルは歯を食いしばって耐えた。
「んふふ、マスターのおちんちん入っちゃった♥」
「ローナ、マスターのおちんちんはどうですかぁ?」
横から興味深そうな目で二人を眺めながらリゼが聞いてくる。
「すごい♥ お腹の中に熱くて固い棒を入れた感じ♥」
挿入しただけで達しそうなアデルと違ってローナは余裕があるらしく、そんな感想を述べた。
「ほらマスター、せっかく入ったんですから動いて下さいよ♥ これじゃ物足りないです♥」
控えめに腰を動かすローナ。彼女としては急かしているだけなのだろうが、膣内のペニスはまとわりついた柔壁によって様々な方向にシェイクされ、信じられない快感を与えられていた。
「わ、分かった! 動くから! だからその動きはやめてくれ! これ以上やられたら出る!」
自分でも情けない申し出だと思ったが、ローナは大人しく動きを止めてくれた。
「マスター可愛い♪ じゃあ動いて下さいよ」
ローナの期待に満ちた目を見つめ返しつつ、ゆっくりと抽送を開始する。
最初こそ戸惑っていたのでぎこちない動きだったアデルだが、すぐに膣へと突き入れる行為に夢中となった。ローナの膣は入れればぎゅうぎゅうと包み、抜こうとすれば擦れて断続的に快感を与えてくる。それは中毒になりそうなくらいの心地良さだった。
「やぁん♥ マスター、もっとぉ♥」
加えて、一回突き入れるごとにアデルの身体の下でローナがよがってくれるのだ。すっかり興奮状態になったアデルは貪るように腰を動かし続けた。
何度目か分からない抽送をしようとした時だ。
「マスター、私もそろそろ限界ですよぉ……」
そんな言葉とともに、背中にリゼがのしかかってきた。その弾みでペニスが奥深くに挿し込まれ、先端が不思議な感触のものにぶつかる。
「ひゃっ……♥」
今まで気持ち良さそうに喘いでいたローナが一際大きく喘いだ。
「その様子だと子宮口に当たったみたいですねぇ。どうですローナ、そこを突かれた気分は?」
「気持ち、いい……♥」
嬉しそうな声だ。それを聞いたリゼが耳元で囁いた。
「だそうですよマスター。そろそろローナは切り上げて私の相手もして下さい。ほら、私のここ、こんなにマスターを待ち望んでいるんですよぉ?」
アデルの腰の辺りで、さらさらした毛とぬるぬるとした生温かいものが同時に動いた。どうやらリゼが自分の性器を押しつけているらしい。彼女が動いた箇所には愛液が塗りつけられ、しっとりとしてくる。
「わ、分かったから退いてくれ……。このままじゃローナが重いだろうし……」
「嫌です。もう充分待ちました」
ローナとリゼにサンドイッチにされている今の状況は色々とまずい。身体の前後に二人の柔肌やさらさらな毛の感触が万遍なく与えられ、ペニスが今にも暴発しそうだった。
しかし、リゼは退かないどころか、アデルに覆いかぶさったまま突き出すように腰を動かしてきた。そんなことをされれば当然アデルの腰は押される形になり、ペニスがローナの中に強引に押し込まれて子宮口にぶつかった。
「んんっ♥ 深……いぃ♥」
「ほらマスター、ローナも喜んでますよ。もっとずんずんしてあげましょ。私もお手伝いしますからぁ」
アデルの返事を待たずにリゼが腰を動かし始めた。その腰使いは激しく、押される形で挿入されるペニスが何度も子宮口にぶつかる。
「あん♥ やっ♥ はっ、激しっ♥」
「ちょっとリゼちゃんストップ! これはいくらなんでも……!」
敏感なところが勢いよく接触する際に生じる快感は恐ろしいほどで、歯を食いしばっていないとすぐに達してしまいそうだった。ローナも同じようで、頬は上気し「はあ、はあ」と浅い息をこぼしている。しかしリゼは止まらなかった。
「なんだか私がローナとエッチしてるみたいですねぇ♪ さ、ラストスパートですよぉ♪」
楽しくなってきたのか、リゼが腰使いのペースを上げた。それだけ早く抽送することになり、結合部からにちゃにちゃと卑猥な音が漏れる。意識が燃えるような感覚に襲われ、アデルはリゼの腰の動きに合わせて抽送を繰り返した。
限界が近づいている。ローナも同じらしく、一突きするごとに荒い息を漏らすだけになっていた。
そして一際大きくペニスが挿し込まれ、子宮口と完全に接触した時だ。不意に首筋をリゼが舐め上げた。舐められた箇所を中心にぞくりと快感が走り、それはすぐに下半身に到達する。結果、ぎりぎりのところで堪えていたペニスは限界を迎え、おびただしい量の射精を開始した。
「あっ♥ はっ、うぁぁっ♥」
子宮に精を注ぎ込まれ、ローナは過呼吸にでもなったかのように口をパクパクさせる。だが、彼女の膣内はしっかりとペニスを締め上げ、精を搾り取ろうと収縮した。そうして最後の一滴までを搾り取ったところでローナがくてっと脱力し、膣の締めつけも緩む。
「どうですローナ、マスターとのエッチは?」
「す、すごい……」
夢でも見てるかのようにとろんとした目でローナは満足そうに笑った。それを確認したリゼはアデルの身体を引っ張り、二人の結合を解除しにかかった。
「んっ……」
ペニスが引き抜かれ、床に寝ているローナが少しばかり残念そうに見上げてくる。しかし、次の瞬間にはアデルはリゼと向かい合う形で座らされていた。
「さあ私の番です♪」
いそいそとアデルの太ももの上ににリゼが跨り、対面座位の体勢になる。
「リゼちゃん、ちょっと待って……。いくらなんでも続けては……」
酒場のマスターはなんだかんだで体力仕事なので、アデルも体力には自信がある。だが、ローナとのセックスはかなりの体力を消費した。それこそ、精と一緒に体力も吸い取られたと思うくらいだ。
「嫌です♪ 私は目の前でエッチしてるとこを見せつけられてたんですよ? もう待ちません」
未だに萎えず大きさを維持しているペニスを逆手で掴むと、リゼは割れ目へとあてがった。
「本当に待ってくれリゼちゃん。さすがに今はまだ動けそうにないよ。ちゃんと相手はするから、少しだけ待ってくれ……」
「ふふ、いいですよ♪」
肩を掴んできちんと頼みこんだからか、リゼはにこっと笑った。それを見てアデルはほっと長い息を吐く。直後、ペニスがリゼの膣へと呑み込まれていた。
「ちょ、リゼちゃん、待ってくれるって言ったよね……!?」
「うふふ♥ ええ、もちろん言いましたよー。でも、私が待つのはマスターが動いてくれるのを、です。おちんちんを入れることまで待つとは言ってませんよぉ♪」
言いながらもリゼは腰を進め、ペニスを呑み込んでいく。
リゼの膣はローナよりもきつく、無理矢理ねじ込んでいく感覚だ。
「いや、僕が言ったのは、行為そのもののことで……!」
「大丈夫です、マスターが休んでいる間は私が動いてあげます♥ ああ、マスターがお腹の中にどんどん入ってきてますよぉ♥」
せまい膣内をかき分け、強引に進んでいく感触は想像以上の快感だった。それを直に感じているペニスは現金にも活力を取り戻し、行為に及ぶための準備を整えていく。
「やぁん、マスターが私の中でぴくぴくしてます♥」
くわえ込んでいるペニスに変化があったことを敏感に感じ取り、リゼが身体をくねらせる。
「ほら、もっと奥まで来て下さい♥」
リゼが首に両腕を回し、ぐいっと身を寄せてくる。ペニスを根元まで呑み込み、互いの性器が密着した。中では亀頭が子宮口と触れ合い、先端を中心に痺れるような快感が生じる。
「ふふ、全部入りましたねぇ♪ じゃあ、動きますよぉ♪」
アデルの肩を掴むとリゼは腰を振り始めた。最初からハイペースで動き、リゼが腰を突き出す度に亀頭が子宮口にぶつかる。
「ん、は、んん♥ あん、ずんずんされて、おかしくなっちゃいそうですよぉ……♥」
子宮口を突かれる快感がたまらないのか、リゼの顔が蕩けてくる。性器の接触で得られる快感ではアデルも負けていなかったが、一度たっぷりと出しているからか、ローナの時と比べて余裕があった。おかげで、目の前で弾む二つの大きな乳房に目がいく。
リゼの動きに合わせてぶるんぶるんと弾む胸はいかにも柔らかそうで、アデルはほとんど無意識に手が伸びていた。
「ふふ、触りたいんですかぁ?」
アデルの手が向かう先に気付き、リゼは動きを止めないまま聞いてくる。
「ああ、触りたい」
「マスター……」
アデルが素直に答えたのが意外だったのか、リゼは驚いたように目を見開いた。だがすぐに笑みを浮かべた。
「じゃあ好きなだけどうぞー♪ ん♥ マスターに収穫してもらうために大きくなったんですからぁ♥」
許可を貰い、そっと包むようにピンク色の毛に覆われたリゼの胸に触れる。 獣のようにごわごわしていると思った体毛は予想に反してつやつやとしており、上質な毛皮のようだった。そんな毛に覆われている二つの胸はとても柔らかく、少し力を入れるとふにゃりと指が沈む。
女性の胸とはこんなにも柔らかくて触り心地がいいのかと思いながら、アデルはリゼの胸を触り続けた。
「んん……♥」
性器と揉まれている胸、両方で快感が生じているリゼが堪え切れずに嬌声を漏らす。それと同時に、手のひらを押し返そうとする小さな突起の存在に気付いた。
「マスター、私のおっぱい、そんなに気に入ったんですかぁ?」
「うん。すごく柔らかくて、触ってて気持ちいい。リゼちゃんも、触られて気持ちいいんでしょ?」
「もちろんですよぉ♥ でも、毛があるのは今だけですから、今のうちに堪能して下さいねぇ♥」
さらりとリゼがそんなことを言った。
「今だけ?」
「はい、毛があるのは半人前の時だけって、エステルさんが言ってましたぁ♥」
「エステルさんがって……じゃあ、彼女も」
「ええ、魔物ですよ」
頭に変な衝撃が走った。すぐ傍に魔物がいたという事実がアデルを硬直させる。そうだ、言われてみればローナやリゼと違ってエステルは最初から並外れた美しさだった。あれが、魔物特有のものだとしたら納得がいく。
覚めた頭でリゼに更なる質問をしようとした時だ。急にペニスが強く締めつけられた。
「っぅ!」
一瞬にして射精感が込み上げてきて思わず声が出てしまう。
「駄目ですよぅマスター、私とエッチしてるのに他のこと考えちゃ。気になることは後でエステルさんが答えてくれますから、今は私達が一人前の魔物になることに協力して下さい♥」
「協力って、何すれば……」
目尻を下げ、蕩けたような笑みを浮かべながらリゼが自分の腹に手を当てた。
「ここにいっぱいマスターの精液を注いで下さい♥ そうすれば、私もローナも一人前のサキュバスになれますから♥」
「いっぱいって、そんなことしたら……」
妊娠という言葉が頭をよぎる。
「ふふ、もしかしたら妊娠するかもって考えてます? 構いませんよぉ♥ マスターの赤ちゃんができちゃうくらいたっぷりと注いで下さい♥ そもそも、私もローナもマスターの赤ちゃん産む気ですし、問題ないです♥」
「いや、産む気って、待っ―っぅ!」
人と魔物との間に子供ができるのか疑問だったが、リゼが再び腰を振り始めたことで思考が強制的に中断され、快楽に押し流されていく。
先程よりも激しい腰使いで、亀頭が何度も子宮口をノックし、それに呼応して膣内がそこで射精するように締め上げてくる。完全に精を搾り取ろうとする膣内の動きに、アデルの身体は正直に反応した。ペニスが二度目の精を放とうと膨張し、全身が熱くなってくる。
「待ってリゼちゃん! 妊娠はまずいって!」
「でも、ローナにはたっぷりと出したじゃないですかぁ。私だけなしなんて駄目です。ちゃんと平等に愛してくれなくちゃ」
逃がさないとばかりにリゼが両足を腰に絡めてくる。柔壁もしっかりと絡んで締めつけ、ペニスが限界が近いことを示すようにぴくついてしまう。
自分ではもうどうにもできない状況に追い込まれ、アデルは混乱する頭で一つの決断を下した。現実を受け入れたのだ。それは、既にローナには膣内に射精してしまったことだし、もうどうにでもなれという開き直りに近かった。
ほとんど自棄になったアデルはリゼの背中に両腕を回して抱き寄せると、彼女の腰の動きに合わせるようにペニスを突き入れた。
「ひんっ♥ マスター……」
いきなりのアデルの行動に思わずリゼは動きを止めた。だが、すぐにアデルの意図を察してくれたらしく、嬉しそうに腰振りを再開する。それに合わせ、アデルはリゼの蜜壺を突き上げた。
「あ、ん、んんっ、やぁ……♥」
一人で動いていた時よりも感じているのか、リゼが漏らす喘ぎ声が艶めかしい。内部の熱さも上昇してきていることから、リゼも限界が近いらしい。
「そろそろ、出すよ……! リゼちゃん……!」
「あん、どうぞぉ……♥ ん、孕むくらいいっぱい下さいぃ……♥」
蠕動する窒内に、ついにアデルは限界点に誘われた。抉るように突き上げて最奥に到達すると、そこで精を迸らせた。
「ああっ!」
勢いよく子宮口を突かれたことでリゼの身体がびくりと強張った。反応した膣内がぎゅっと締めつけ、それによってペニスから精が勢いよく飛び出していく。
「ああ、んぅぅ、すごいぃぃ……♥」
蕩けた表情で苦しげな息を吐きつつ、リゼが脱力する。長々と続いた射精を終えたアデルも荒い息を吐きながら、強張った身体から力を抜いた。
「はぁぁ、お腹の中が熱いですよぉ。これがマスターの子種なんですねぇ……♥」
嬉しそうにお腹を撫でるリゼを見るに、満足してくれたようだ。だが、そこで予期せぬことが起こった。
「さ、マスター、今度は私の番ですよ」
いつの間にか背後にいたローナが無理矢理自分の方へとアデルの顔を向かせ、楽しげな笑顔で信じられないことを言った。
「え……いや、私の番って、ローナちゃんは最初に……」
「あれだけじゃ足りません♥ それにほら、まだ私もリゼも完全なサキュバスになれてませんし。だから協力して下さい♥ それが済んだら、お礼に私とリゼがマスターのお嫁さんになって子供を産みますから♥」
リゼがアデルの前から退き、ローナがそこに陣取る。どうやらアデルがリゼの相手をしている間に回復したらしい。それを見てアデルは絶句するしかなかった。彼女達はいい。一人が相手をしてもらっている間は休んでいられるのだから。しかし、相手をするアデルは休む間などない。これでローナの相手が終われば今度は再びリゼの番になるだろう。それがずっと続いていく。この淫らな宴は二人が完全なサキュバスになるまで終わらないのだとアデルは確信した。
「さ、マスター、今度もたっぷりお願いしますね♥」
言葉とともに、未だ萎えないペニスがローナの膣へと呑み込まれていった。
礼拝が終わり、ぞろぞろと出て行く参拝者達を眺めながらサリサは無意識のうちにため息をついていた。まだ朝の礼拝が終わっただけだというのに、身体は少なくない疲労を感じている。まだまだ働く元気があるとはいえ、寄る歳波には勝てないと彼女は思った。
サリサが長を務める教会は町のほぼ中央に位置し、毎日訪れる人が絶えない。町の規模がそれなりなため、必然的に訪れる人の人数は多い。だが、ここで働いているのはサリサを始め、長年教会で働いてきた者ばかりなため、今のところ業務に問題はなかった。問題があるとすれば若い働き手がいないことだった。
どんな仕事であっても、必ず後を継ぐ者は必要になってくる。それは教会も同じだ。今でこそ働き手はいるが、後十年もしたら何人残っているかは分からない。この問題はここ最近、サリサをずっと悩ませていた。
どうやったら教会という場所に若い働き手を募ることができるか思案しながら事務室へ向かおうとすると、未だ一人の礼拝者が残っていることに気付いた。
空色の髪をしたまだ若い女性だった。彼女は目を閉じて両手を合わせ、静かに祈っていた。
「礼拝の時間は終わりましたよ」
静かに近づいて声をかけると、彼女はそこでサリサに気付いたらしく、祈るのをやめて顔をこちらに向けてきた。その顔を見てサリサは少しばかり口を空けて驚いてしまった。その女性はまだ若く、顔立ちは整っていて見事なまでの美しさだった。
綺麗な青い瞳がサリサを捉えると、彼女は困ったような笑顔を浮かべた。
「すいません。すぐに出ていきます」
「いえ、出て行けというつもりで声をかけたのはありませんよ。あまりに熱心に祈っているようでしたから、何か懸念でもあるのかと思ったのです。余計な気遣いでしたでしょうか」
彼女は小さく首を振るとすっと立ち上がった。
「お心遣い、感謝します。実は今日からお店を任されることになったのですが、経験のない私に上手くできるか不安になり、商売が上手くいくようにこうしてお願いしていたのです。神様にお願いするには、少し不純なことかもしれませんが」
商売の成功を祈るのは好ましいことではないと思っているのだろう。そう言った彼女は少し申し訳なさそうだった。
「労働は尊きことです。その成功を願うのは当然のこと。あれだけ熱心にお祈りすれば、主神様もきっと聞き届けて下さることでしょう」
「ありがとうございます、シスター。おかげで、少し緊張がほぐれたようです」
先程よりも彼女の表情が明るくなった。それにつられるようにサリサも笑顔を浮かべた。
「あなたのように分別を持った人であれば、仕事は必ず上手くいくことでしょう。この教会に欲しいくらいですよ」
人当たりのいい人物だったからか、つい本音が漏れていた。
「あら、人手が足りていないようには見えませんが、お困りなのですか?」
自分の失言を言及され、サリサは苦笑するしかなかった。やはり自分も歳だ。こうもうっかり口を滑らせている以上、早く後任を見つけなければと改めて思った。
「人手は足りています。ただ、皆もういい歳なのですよ。あなたのような若い人手は不足しているというのが現状なのです」
内部事情ではあったが、若手不足は教会に限ったことではないし、隠すようなことでもない。町の人々の間でも囁かれているので、サリサはほとんど躊躇うことなく話していた。誰かに話すことで問題が解決するわけではないのに、気は楽になるから不思議だ。
だが、サリサの愚痴にも近い言葉を聞くと、彼女は真剣な表情で口を開いた。
「……もしよければ、他の教会にいる私の知り合いを紹介しましょうか? まだ若いし、見習いの立場ではありますが、それでもよければ」
あまりにも出来すぎた話で、思わず彼女の顔を見返していた。だが、その美しい表情にからかいや冗談の色はなかった。
「それは……もしそれが本当なのでしたら大変ありがたい申し出ですが、よろしいのですか?」
「はい。ただ、彼女の都合もありますから、確約はできませんが、それでもよければ」
願ってもない話に、サリサは深く頭を下げた。
「ええ、それはもちろん承知の上です。どうかよろしくお願いします」
「分かりました。では、すぐに彼女に連絡してみます。結果は後日報告に来ますね」
軽く会釈すると彼女は歩き出した。
「あの、あなたの名前を窺ってもよろしいですか」
大事なことを聞き忘れていたと思ってサリサが声をかけると、彼女はゆっくりと振り向いた。
「エステルです」
そう名乗り、彼女、エステルは穏やかに微笑んだ。
14/02/20 19:55更新 / エンプティ
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