ボクとあいつ
とある大陸の片隅に、一つの村がある。
この大陸には親魔物派の人々が住んでいるのだが、大陸そのものが小さいからか、教団に目を付けられることもなく、その村も毎日がのどかだった。
どれくらいのどかかというと、牛がモーと鳴きながらその辺の草を食べ、羊がメェーと鳴きながら羊飼いに連れられ、コカトリスの喘ぎ声が毎朝村中に響く…のは違うかもしれない。
まあ、それくらい平和だということだ。
そんな平和な村の一角にボクの家はある。
朝起きると真っ先に家から出て、目の前の花壇をチェックする。
すると、昨日まではただの地面だったところから小さな芽がいくつか出ているではないか。
「お〜、出てる出てる」
うんうん、元気に成長しているようでなによりだ。
満足の笑みを浮かべ、じょうろで水やりをする。
これがボクの毎朝の日課。
この後は裏の畑の野菜の確認だ。
頭の中でそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「よーリオ。朝から早いな」
ものすごくのん気な挨拶だが、急に声をかけられたものだから思わずビクリとしてしまう。
おかげで、見事に尻尾の毛が逆立ってしまった。
朝から心臓に悪い挨拶をしてきたヤツを、ボクは振り返って睨みつける。
「カイル!『よー』じゃないよ!急に声かけないでよ!びっくりするじゃんか!」
「いや、普通に挨拶しただけだろ」
全く悪びれもせず、ニカリと笑うカイルはボクのお隣りさんだ。
そして…ボクの好きな人。
…訂正、ボクも好きな人。
どういうわけか、このカイルはモテるのだ。
なぜかはよくわからないけど、同年代の男と比べてカイルの体つきがたくましいことが理由なんじゃないかと思う。
まあ、毎日力仕事をやっていればたくましくなっても不思議じゃないけど。
そんなカイルだが、性格に問題ありだったりする。
鈍感なのだ。
それもかなり。
どれくらい鈍感かというと、ラミアの友達のローザが勇気を振り絞って「私と付き合って!」と言ったところ、「いいぞ、どこにだ?」と真面目に返して三日間ベッドで泣き通しにさせ、ハーピーのリーンが「この羽、どう思います?」と訊いたところ、「空飛べるっていいよな」とバカ丸出しの発言をして茫然とさせた。
ちなみにボクも訊いたことがある。
毎日手入れを欠かさない尻尾を見せて「この尻尾、どう思う?」って。
そしたらカイルはなんて言ったと思う?
「なんか犬っぽくていいよな」だってさ。
…犬ってなんだよ。ボクは狐だよ!妖狐だよ!
もうカイルの言葉には怒る気すら失せて呆れるしかなかった。
そんな超絶鈍感野郎のカイルだが、それでも嫌いになれないから困る。
だから、こうして話しかけられたらやっぱり嬉しいのだ。
「もういいよ、挨拶は。で、なにか用?」
「おう。手を出してくれ」
言われた通りに素直に手を出すと、カイルは袋をボクの手に乗せた。
「なにこれ?」
「お前の好きなもの」
楽しそうに笑うカイルを訝しみながら袋の中を覗くと、そこに入っていたのは稲荷の文字が書かれた包み。
「これ、もしかしてなるさんのとこの油揚げ!?」
なるさんというのは隣り街でお店を開いている稲荷さんで、彼女の作る油揚げは絶品なのだ。
しかも、値段は良心的だからお店が開くと同時に即完売。
そんな滅多に手に入らない油揚げが目の前にあるのだ。
ボクが驚きの声を出したって少しもおかしくはない。
「おう。今朝は早くから隣り街に届け物があってさ。行ったついでに買ってきた」
そんなことをさらって言って笑うカイルだが、ボクはその言葉にドキリとしてしまう。
ついでって、もしかしてボクのために買ってきてくれたの?
「な、なんで買ってきてくれたの?」
変な期待が膨らみ、つい訊いていた。
「なんでって、この前、野菜をもらっただろ。その礼だよ」
確かに野菜はあげた。
だってカイル、ほっとくと肉しか食べないから。
「あげたけどさ。あれは、多めに採れたからおすそ分けしただけだよ?」
「おすそ分けだろうと、もらったことは事実だろ。だからその礼だよ」
「それだけ?」
「それだけ。なんだ、嬉しくなかったか?そんなことないよな、尻尾揺れてるし」
「!」
言われて尻尾を見れば、パタパタと揺れていた。
今更すぎるのに、それでもこれ以上揺れているとこを見られないようにと背後に隠す。
「まあ、そういうわけだから食べてくれよ。じゃーな」
カイルはそう言い残して行っちゃった。
その場にぽつんと取り残されたボクは、カイルが見えなくなると尻尾を掴む。
「なんで揺れるんだよ、ボクの尻尾!」
自分の体の一部なんだから、揺らしたのは間違いなくボクなのだが、それでも勝手に動いた尻尾に文句を言う。
うう、どうしても感情に反応して動いちゃうんだよな…。
雪のように真っ白な毛に覆われた尻尾を放すと、空を見上げる。
まだ太陽は昇りきっていないから涼しいが、あと数時間もしないうちに熱くなるだろう。
「今日も熱くなるかな…」
季節は夏。
言うまでもなく熱くなるはず。
そうなる前に、裏の畑にも水やりしなきゃだ。
とりあえず、もらった油揚げを家の中に置いてくると、ボクは裏の畑へと向かったのだった。
灼熱の太陽が照りつける昼過ぎ。
リオ、ローザ、リーンの三人は揃って麦を刈っていた。
「ふう。この辺りは大体終わりね」
額から流れる汗を拭い、ローザは辺りを見回す。
「毎年思いますけど、この村の麦畑って大きすぎません?」
リーンは三人が刈り取った麦と、残りの麦とを見てそう漏らす。
「ボクもそう思う。いくら隣り街の分も作ってるからって、大きすぎだよ」
毎年やっていることだからボク達三人も慣れているので、刈った麦の量はけっこうなものになる。
でもだ。
眼前にはどこまでも続く麦畑がどーんと存在している。
もちろんあちこちから他の村人が刈っているのだが、大きすぎて終わる気がしない。
「まあ、愚痴っても仕方ないわ。終了時間まで頑張りましょ」
「そうですね」
「はーい」
ボク達はその後、黙々と終了時間まで鎌を振るった。
そして夕方。
「疲れたわ…」
「ほんとだよ…」
「昼からずっと働きっぱなしですからね」
へとへとになった三人娘が向かっているのは、村の中央にある温泉場である。
働いた後はここで一日の汗を流すというのが、この村に住む人達の習慣なのだ。
ちなみに混浴ではない。
「今日も随分汚れたわ…。しっかり手入れしないと」
「まったくですよ。ああ、今日も時間かかりそう…」
「リーンは作業する度に汚れるもんね」
「そうなんですよ」
土埃で汚れてしまった自分の腕を見て、リーンはため息をつく。
「その点、リオは簡単でいいわよね」
ローザが羨ましそうに見てくるが、その言葉は心外だ。
「簡単じゃないよ。尻尾の手入れだって大変なんだから」
過酷な作業のせいで、いまやボクの尻尾は力なく垂れ下っている。
「でも、洗う面積は私達と比べて遥かに少ないですよね?」
「そうだけどさ。だからって楽じゃないよ」
「まあ、リオの毛は白いから汚れが目立つしね」
「そうなんだよ…」
髪も尻尾の毛も真っ白のボクは汚れるとすごくみすぼらしくなる。
なるさん曰く、白い毛の稲荷や妖狐は特別な力を持っているとかで、ジパングでは神の使いだとか言われるらしいけど、ボクに特別な力なんてなく、単純に毛が白いだけの妖狐である。
自分の髪や毛の色を嫌だと思ったことはないけど、汚れが目立つのはちょっと困る。
ボクも一応女だし。
そんなわけでリーンと同じようにため息をついた時だ。
「ちょっと!あれ見て!!」
なぜか隣りのローザに脇腹を肘打ちされた。
「はうッ!」
いきなりの攻撃に思わず体を折るボク。
なんで?なんでいきなり肘打ち??
「ちょっと、痛いよローザ!」
「知らないわよ。それより前を見なさい」
知らないって、ローザがどついてきたんじゃないか!
そう言おうと思いつつも、一応言われた通りに前を見る。
するとそこにはカイルと、その腕に抱きつくサキュバスがいた。
「なにあれ…」
つい今さっき脇腹をどつかれた事など忘れて茫然とした声を出すボク。
「隣りにいるの、エレナさんですよね?」
「そうみたいね。なんでみんなのカイルに抱きついているのかしら?」
二人の声が底冷えするくらいに冷たくなっている。
そんなボク達三人が無言で見つめているなか、カイルとエレナは楽しそうに近くの酒場に入っていった。
「…行くわよ」
目を細め、殺し屋みたいな顔になったローザがそう言い、
「そうですね。お腹空いてますしね」
と、口元を引きつらせたリーンが同意する。
「温泉なんていつでも入れるしね」
とボク。
三人とも同じ男に恋してるので恋愛関係についてはライバルなのだが、カイルが誰かのものにならないので、こういう時は息がぴったりなのである。
そんなわけで、当初の予定だった温泉場を素通りして酒場へ入る。
「いらっしゃいま―」
忙しそうに働いていた娘がボク達を見てぎょっとするが、それも無理はない。
ローザは半目で邪魔したら絞め殺すと無言の圧力を発しているし、リーンは笑っていない笑顔を顔に張り付け、何をしでかすかわからない雰囲気である。ボクはというと、毛の逆立った尻尾をゆらゆらと揺らし、話しかけるなと威嚇。
そんなボク達を見て固まってしまった娘などお構いなしに、店内をぎろぎろと見回し、目的の二人を発見する。
三人は無言で互いの目を見ると、向こうからは分かりづらく、こちらからは向こうの様子が分かりやすい席へと移動し、腰を下ろす。
当然、三人とも視線は同じ方向である。
カイルは何か注文したらしく料理を食べているが、エレナの前にあるのはジョッキだけみたい。
「あのー、ご注文は…」
「「「ビール」」」
素気ない上に、見事に揃った三人のビール発言に娘は顔をびくつかせるが、残念なことにボク達の目に娘は映ってない。というか、見向きもしてない。
「か、かしこまりました…」
おどおどしながら娘が去っていくと、ボクは耳をひくひくと動かし、カイルとエレナの会話を聞くことに集中する。
「どう、リオ?会話は聞こえる?」
「ばっちり。なんか、食べ物についての話みたい」
うう、楽しそうに話してる…。
内心そんなことを思いながら、会話の盗み聞きを再開する。
『カイル君はどんな食べ物が好きなの?』
『あー、そうだな。ハンバーグかな』
『そうなの?じゃあ、こんどお弁当に作ってきてあげよっか?』
『お、ほんとか?じゃあ、期待してるぜ』
『うん。任せて♪』
「だってさ」
聞いた内容を一字一句そのまま伝えると、ローザとリーンが爆発した。
「なによそれ!?好きな食べ物で自分に意識を向けさせようって魂胆が丸見えじゃない!!」
「ハンバーグが好きなら、私が十個でも二十個でも作ってあげるのに!!」
「カイルはほんとにバカだな。エレナの料理の腕前は壊滅的なのに」
ちなみに上からローザ、リーン、ボクの発言だ。
ローザとリーンは怒りと嫉妬で顔がすごいことになっている。
ボクもハラハラしてはいるけど、まだ二人ほどじゃない。
少しだけ余裕があるのだ。
けど、カイルが他の女の人と話しているのを見ると不安になるのは事実だ。
そんな不安を打ち消すように、運ばれてきたビールをちびちびと飲みながら二人の様子を監視する。
そして三十分後。
相変わらずカイルとエレナが楽しそうに会話をしているのを「うぐぐ!」だの「むぎぎ!」だのと、およそ乙女が発してはいけないような声を出しながら監視するボク達三人の姿があった。
正直、今の状況だけでも爆発しそうなのに、こういう時に限ってきっちりと鈍感野郎の名に恥じない仕事をするのがカイルという男なのである。
『カイル君。よかったら、これ飲んでくれない?なんだかお腹いっぱいになっちゃって』
『おう、いいぞ』
わざとらしく自分が口を付けた所をカイルの正面にして、ジョッキを差し出すエレナ。
当然、そんなことなどこれっぽっちも気にせずにカイルはジョッキを掴み、ごくごくと飲み始めた。
それを見たボク達はびっくり仰天である。
「ちょっとあの女狐、私のカイルになにしてんのよ!?」
「そんな…カイル君の唇が!!」
「うそ!?間接キス!?」
二人の会話が聞こえたのはボクだけだろうけど、ジョッキのやり取りで二人は全て理解したらしい。
あまりのショックに、ローザが言っていた『みんなのカイル』が『私のカイル』へと変化したことに突っ込む人はいなかった。
それくらい、目の前の光景が信じられなかったのである。
そんなボク達をよそに、ジョッキの中身をすっかり飲み干したカイルは立ち上がり、「じゃ、そろそろ帰るか」と言って出口へと向かう。
どうやら帰るらしい。
それがわかったボク達は、これ以上目の前でいちゃつかれることはないと安堵の表情を浮かべようとする。
けど、カイルはやっぱりカイルだった。
ボク達が座っている席の近くで立ち止まると、後ろにいるエレナに衝撃の一言を発したのだ。
「おっと、そうだ。飯をごちそうになったんだし、家まで送るよ」
「え、いいの?」
「おう。ま、大した距離じゃないから、そんなことしなくても問題はないだろうけどな。そういうのは嫌か?」
「ううん。是非お願い♪」
「おっし、任せとけ。じゃあ、行こうぜ」
まるで恋人みたいな会話を交わしながら、二人は悠々と酒場から出て行った。
それを茫然と見送るボク達。
多分、他の人が今のボク達を見たら揃って死んだ魚みたいな目をしていたに違いない。
だって、それからきっちり五分は三人とも固まってたから。
やがて夢から覚めたかのように、ローザが呟いた。
「…カイルに家まで送ってもらったことある人、挙手」
しかし悲しいかな、三人はピクリとも手が動かない。
つまり、送ってもらったことがない。
そして再び嫌な沈黙が訪れる。
そんななか、ボクはふと思った。
ボクなんかお隣りさんだから、家まで送ってもらう機会なんて一生ないじゃんか…。
変な事実に気づいてボクが一人でへこむなか、誰も手を上げないことにローザが感情を再び爆発させた。
「なんなの!?カイルは人の体におまけがついただけの無難な魔物娘がいいってこと!?それとも私達みたいなケモノ娘には興味ないってわけ!?」
「カイル君、エレナさんが好きなんでしょうか…」
「なにが任せとけだよ!カイルのくせに〜!!」
三人とも思い思いのことを口にするが、それで爆発した感情が治まるはずもない。
「こうなったら、今度の収穫祭は絶対にカイルと行ってやるんだから!」
「あ、それ私も!」
「ボクも!」
収穫祭とは文字通りのお祭りで、現在刈っている麦の収穫が終えると隣り街で行うお祭りである。
問題はお互いに一緒に行きたい相手が同じだということなのだが、そんなことはお構いなしに宣言する。
その後は三人ともぷんぷんしながら温泉に行ったのだった。
それから四日後。
収穫祭の前日になったのだが、ボクは未だにカイルと一緒に祭りに行く約束をすることができなかった。
ボクだけでなく、ローザやリーンもである。
ただその理由が、仕事が忙しくてカイルと話す暇がなかったなんてことではなく、ボク達女の間で変なルールが出回りだしたからである。
それは、女の方から祭りに誘わないこと。
一体誰が言い出したのかは分からないが、要するに男どもが誰に好意を持っているのかはっきりさせようという魂胆らしい。
普段はまとまりのないボク達村娘だが、こんなことだけはきっちりと息を合わせるのだから女って不思議なものだと思う。
まあ、そんなわけでボクもルールに従っていたわけだ。
で、現在。
当然といえば当然だが、カイルからお誘いの言葉をもらうこともなく、家の花壇の水やりをしていた。
一応言っておくと、カイル以外の人からなら何回か誘われた。
まあ、お断りしたけどね。
ボクが好きなのはカイルだし、なにより問題なのはボクに声をかけてきた人のほとんどが、ローザやリーンにお断りされた人達だったから。
女の子と祭りに行きたい気持ちはわからなくもないけど、本命の子に断られたからって、じゃあ別の人でいいやってなるのはどうなんだろう。
ちなみに、先にボクがお断りした人はローザやリーンを誘ったらしい。当然お断りされたらしいけど。
こんな行動を見てると、男って本当にバカなんじゃないかと思う。
その中でもダントツなのはカイルだけど。
「おいリオ。ちょっといいか?」
「わひゃいッ!?」
いきなり話しかけられ、思わず変な声な出てしまった。
振り向けば、カイルがいた。
うわ、こいつのこと考えてたら本人が来たよ…。
「カイル!何度も言うけど、いきなり声かけないでよ!」
「まあ、そう言うなよ。てか、また花の手入れか?なんていうか、お前は地味なことが好きだよな」
いきなり声をかけてきたと思ったら、今度はそんなことを言ってきた。
なにコイツ?ボクに喧嘩売ってんの?
そう思ったけど、カイルはバカだから単純な会話のつもりなんだろう。
いちいちコイツの言動に腹を立ててると切りがないので、今の言葉は聞かなかったことにする。
「余計なお世話だよ。それより、なにか用?」
「おう。リオ、お前、一緒に祭りに行くヤツはいるか?」
「いないけど」
「おし。じゃあ、俺と行こうぜ」
…え?今なんて言った?
「…もう一回言ってくれる?」
信じられないことを言われた気がしたので、思わず訊き返していた。
「だから、一緒に祭りに行こうぜって言ったんだよ。なんか今回は、男はみんな女を誘って行くみたいだし」
これ、奇跡じゃないだろうか?
まさかカイルが誘ってくれるなんて、夢にも思わなかった。
だからこそ、素直にうんと言えない。
「な、なんでボクなの?女の子は他にもいるじゃん」
ひょっとしてカイルが誘ってくれたのは、ボクのことを好きだから?
そんな期待が胸に湧き上がってしまい、それに呼応するように尻尾が揺れる。
だがボクのそんな淡い期待が消えるのは一瞬だった。
「あー、なんとなく?」
…なんとなくってなんだよ。しかも、なんで疑問形なんだよ。
がっかりしたボクの気持ちを代弁するように、揺れていた尻尾が垂れる。
「なにそれ。誘う気あるの?」
「まあまあ、細かいことはいいじゃねえか。んじゃ、明日迎えに来るから、それまでに準備しとけよ!」
「え、ちょっと!」
カイルは言うだけ言うと、返事も聞かずに行ってしまう。
「ボク、まだ行くって言ってないのに…」
しかもいつ迎えに来るかも言ってないし。
やっぱりカイルはカイルだ。
ため息が出てしまうが、それでも誘われたことが嬉しくて再び尻尾が揺れてしまう。
カイルがボクのことをどう思っているかは分からないけど、それでも一緒に祭りに行ける。
それがとても嬉しい。
「早く明日にならないかな♪」
その日、ボクはご機嫌で水やりをしたのだった。
そして迎えた収穫祭当日。
時刻が昼を過ぎたあたりから、ボクはいつカイルが迎えにくるのかとそわそわしていた。
隣り街までは大した距離でもないのでそう時間はかからないだろうが、やはり早く行きたい。
うきうきする気持ちは抑えられず、尻尾が左に右にと大忙しである。
「あ、服はどうしよう?」
せっかくカイルと一緒に行くんだし、少しはおしゃれをした方がいいかな。
あんなヤツでも好きな人には違いないし。
そんなことを思い、クローゼットの中をがちゃがちゃと見回しているとある服が目に入った。
「あ、これ…」
ボクが発見したのは、昔なるさんからもらったジパングの服。
「リオちゃんなら似合うから」と言いながら渡されたものだ。
確かユカタとか言ってた気がする。
空色のユカタは生地も薄く、夏というこの季節にはちょうどいいかもしれない。
よし、これにしよう。
ユカタの着方は教えてもらったのでちゃんと着ることができる。
けど、一つだけうろ覚えな点があった。
「あれ?ユカタの時って、下着は着るんだっけ?」
なるさんはなんて言ってたかな…?
中途半端にユカタを着た状態でなるさんの話を思い出そうとしていた時だ。
不意に家の扉がノックされた。
「おい、リオ。そろそろ行こうぜ」
続けて聞こえてきたカイルの声。
うそ、こういう時に限って迎えに来ちゃった!?
「す、すぐ行くよ!」
返事こそ返すが、慌ててしまう。
えーと、下着はどうしよう。どうすれば…。
相変わらず下着に関して思い出せない。
「もういい!下着なんていらない!」
カイルを待たせるのも悪いので、着用中の下着を脱ぎ捨てると、急いでユカタを着た。
鏡で着崩れがないかチェックし、問題ないことを確認する。
よし、行こう。
「お待たせ」
「おう。ん?なんか珍しい格好してるな」
「これ、なるさんからもらった服なんだ。どうかな?」
珍しくカイルが興味を示したものだから、ボクはちょっと訊いてみた。
まあ、ろくな返事が返ってこないことも計算済みだけど。
「そうだな。リオに似合ってると思うぞ」
「…え?」
うそ、カイルが褒めてくれたよ。
「そ、そう?似合ってるかな」
「おう。じゃ、行こうぜ」
「う、うん」
なんか、今日のカイルはバカっぽくない。
こういうのもいいかもしれない。
普段は見られないカイルの新たな一面を見せられて、不覚にもどきどきしてしまう。
でも、こういう様子もたまにはいい気がする。
だから、まだ隣り街に到着したわけでもないのに、早くも尻尾が揺れてしまう。
それに気づかないまま、ボクはカイルと一緒に隣り街へと出かけた。
「随分と人がいるね…」
「さすが村と街共同での祭りだな」
街の入り口でボクとカイルはそう呟いた。
毎年のことなので分かってはいたけど、とにかく人が多い。
まあ、その分知り合いとすれ違っても気づかないわけだけど。
「よし、とりあえず適当に回ろうぜ。なんかいい匂いがするし」
カイルは早くも食べ物の香りに釣られたようである。
まあ、それはボクも同じだけどね。
「そうだね。出店だけでもたくさんあるしね」
そのほとんどが食べ物だけど、中には射的やら金魚すくいといったものもある。
それ以外にも見せ物があちこちでやっているのだ。
ぶらぶらと街を回るだけでも楽しいに違いない。
そんなわけでまず向かったのはタイ焼きが売っている出店。
二人分のタイ焼きを買うと、さっそくぱくつく。
「やっぱ、祭りといったらタイ焼きとかき氷だよな」
「そう?ボクは焼きそばも祭りっぽく思うけど」
「あー、言われてみれば確かに。リオがそんなこと言うから、食べたくなったな」
「買えばいいじゃん。焼きそばはあっちにあったよ?」
「ほんとか?よし、買いに行こうぜ」
「仕方ないなあ」
口ではそう言いつつも、こうしてカイルと一緒に歩いているだけで楽しい。
正直、これだけで満足してると言えるかもしれない。
その証拠に、カイルが満面の笑みで焼きそばを買ってきて頬張ってる姿を見れば、つい笑ってしまったのだから。
「ふぇ、ふぃふぉはふぁにふぁふぁへないのふぁ?」
…食べ終わってから言ってよ。なに言ってるかさっぱり分からないし。
「とりあえず、口に入ってるのなくなってからしゃべってくれる?」
「ん」
呆れたため息とともに言うと、カイルは頷いて口の中身を嚥下する。
「で、リオはなにか食べないのか?」
どうやらさっきはこう言いたかったらしい。
「んー、何にしようか迷ってるとこ」
「そうなのか?油揚げを売ってる出店がないからがっかりしてるのかと思ったぞ」
出たよ、カイルのバカな発言が。
聞いた瞬間にボクは盛大にため息をついた。
油揚げしか売ってない出店なんてやだよ。一体誰が祭りの出店で油揚げを買うんだよ。まあ、ボクは買うけどさ。
「カイルはもう少し考えてからしゃべったほうがいいよ。バカっぽいから」
「そうか?」
不思議そうにカイルは首をかしげている。
どうやら自覚はないらしい。
カイルらしいといえばらしいけど。
「そうだから。それより、あれ見に行こ。なんかおもしろそう」
ボクの視線の先にあるのは射的である。
これを是非ともカイルにやってもらいたい。
先に言っておくと、別にカイルに景品を取ってもらいたいわけじゃない。
カイルに射的をやらせれば、おもしろいことになるからだ。
「射的か。いいな、行こうぜ」
意外にもやる気らしい。
「じゃあ、格好いいところ見せてね」
「おう、任せとけ」
返事だけは威勢がいいが、射的の結果は悲惨なものだった。
狙う的狙う的全て外すのだ。
そりゃもう華麗と言ってもいいくらいに。
「あれ、おかしいな。これ飛ぶ方向おかしくねぇか?」
カイルは猿みたいに首をひねっているが、ボクは爆笑である。
「おかしいのはカイルの腕だよ!なんでそんなに外せるのさ!」
尻尾をこれでもかと揺らし、腹を抱えて笑う。
「いや、あれでもちゃんと狙ってるんだぜ?なのに当たってくれないんだよ」
「それはカイルが下手だからだよ!」
期待通りのものが見えて大満足だ。
結局一つも景品を取れず、ボク達は射的を終わりにする。
「あー、集中してたら喉が渇いたな。かき氷でも食べようぜ」
「いいよ。じゃ、行こ」
その場を離れて適当に街をふらつくと、目当てのかき氷屋を見つけた。
さっそくとばかりに買いに行くと、店番をしてたのはとんでもなく美人の女性だった。
ボクと同じように藍色のユカタを身に纏った姿は、女のボクから見ても魅力的だ。
間違いなく魔物。けど、この人の種族が分からない。
尻尾の形からサキュバスなんじゃないかと思うけど、この人には角がない。
かなり不思議な人だ。
しかし、ボクにとっては不思議な人だろうとカイルはお構いなしである。
「すいません、かき氷一つ」
「いらっしゃい。じゃあ、味を選んでね」
女性は微笑むと、かき氷の準備を始める。
「そうだな。イチゴかな」
…随分と可愛い選択だ。
女性もそう思ったらしく、クスリと笑った。
「あなたの彼女、イチゴ味が好きなの?」
女性はボクを見て楽しそうに笑うが、ボクはその笑顔にドキリとしてしまう。
うう、この人、笑うとすごく魅力的…。
しかもよく見ればユカタを着てても分かるくらいにスタイル抜群だし、ボク、何一つ勝てる気がしないんですけど…。
ボクが一目で惨敗してへこむなか、カイルはのん気な返事を返していた。
「いや、リオは彼女じゃなくてお隣りさん」
そう言って手をひらひらさせる。
カイルならそう言うだろうとは思ってたけど、責めてこういう場では嘘でもいいから彼女って言ってほしい。
そんなことを思い、色々な意味でため息が出てしまう。
「あら、そうなの?」
ちょっと意外そうに女性はボク達を交互に見るが、やがて小さく笑った。
「ふふ、じゃあ仲のいいあなた達に一つ提案なんだけど、私とひと勝負してくれない?もし勝ったら特製のかき氷をプレゼントするわ」
「もし負けたら?」
カイルが興味を持ったらしく、そう返事を返すと女性は微笑む。
「その時は二人分のかき氷を買ってもらうということでどうかしら?」
なんとなく意味ありげな提案だが、それって勝てばタダ、負ければ二つ分買わされるだけじゃないの?
カイルも同じように思ったのか、特に気にすることなく勝負を受けることにしたらしい。
「よし、のった。で、勝負はなにをするんだ?」
「即断とは素晴らしいわ。やっぱり男はそうでなくてはね。勝負は簡単よ。ジャンケンにしましょう」
「は?ジャンケンなんかでいいのか?」
さすがのカイルにもその勝負内容は意外だったらしい。
「ええ。単純でいいでしょ?」
「よし、じゃあやろうぜ。じゃん、けん…」
ぽい、の掛け声とともにカイルと女性はそれぞれパーとグーを出した。
「おし!」
握りこぶしを作って喜ぶカイル。
ボクから見ると子供そのものである。
「あら、負けちゃったわ」
逆に女性はそんなことを言いつつも、全く悔しそうではない。
「じゃあ、約束通り特製のかき氷を作るわね」
そう言って容器にたんまりと氷を入れて、その上からシロップをかける。
そして最後に小さな小瓶を取り出すと、その中身を全部上からかけた。
「はい、お待たせ」
「これが特製かき氷なのか?」
カイルがそう言うのも無理はない。
だって、最後に謎の液体をかけただけだし。
「ええ、そうよ。恋人同士、仲良く食べてね」
「いや、だからリオはお隣りさんだって」
律儀に言い返すはカイルは放っておいて、ボクは女性に訊いてみた。
「あの、最後にかけたものはなんですか?」
「ああ、あれ?あれは特別なシロップよ」
そう言って女性はかなり意味深な笑みを浮かべる。
「ふーん。ま、シロップならいいか。じゃ、ありがとな」
女性に手を上げて礼をすると、カイルと一緒に出店から離れる。
ある程度店から離れると、さっそくかき氷を食べているカイルに訊いてみた。
「ねえカイル。味はどう?」
「そうだな。イチゴだけど、それほど甘くなくていい感じに抑えてあるな。特製なだけはあるかもしれない。リオも食べるか?」
「ううん、いい」
大して味は変わらないみたいだし、それなら別に食べなくたっていい。
だが、それから少し歩いたところで重大なことに気づいてしまった。
あれ?かき氷についているスプーンは一つだけしかない。
ということは…。
これ、食べるって言えばカイルと間接キスになるんじゃないの!?
「カイル、やっぱりボクも食べ―」
「あ?」
慌ててカイルに話しかけたボクだが、時既に遅し。
かき氷はすっかりなくなっていた。
「どうしたリオ?」
「なんでもない…」
食べるの早すぎだよ…。
微妙にしょぼんとしながら前方を見ると、街の入り口が見えた。
どうやらあちこち見てるうちに一周してしまったらしい。
道理ですっかり夜になっているわけだ。
「なんか、一周しちゃったみたいだね。今度は見てないとこに行こうか」
そう言ってみたものの、カイルの返事がない。
「カイル?」
「あ、ああ…そうだな」
ハッとしたようにカイルは返事を返してきたが、なんだか顔が赤い気がする。
もしかしたら、かき氷をがっつきすぎてむせたのかもしれない。
「じゃあ行こう」
そう言って広場の方へと歩き出したのだが、なぜかカイルに腕を掴まれた。
「カイル?どうしたの?」
「…リオ、こっちに来てくれ」
カイルはこちらを見向きもせずにボクを街の外へと引っ張っていく。
そして街道脇にある林の中へと入っていこうとする。
「カイル?そっちは林だよ?」
不思議に思って声をかけても反応なしだ。
どうしたんだろう?
首をかしげながらも、手を引かれて林の奥に入って行くとカイルが不意に立ち止まった。
「ねえカイル。どうしたの?ここになにかあるの?」
そう言った瞬間だ。
ボクの視界が急に変化した。
「え?」
気が付けば、ボクは押し倒されていた。
草むらの上に倒されたせいで痛みはなかったけど、いきなりの事態に戸惑ってしまう。
「カ、カイル?急になにを…あッ!!」
問い質そうとした矢先にユカタの上から胸を掴まれた。
当然それだけでは済まず、ゆっくりと揉みしだいてくる。
「ちょ、ちょっとカイル!急になにするの!?」
しかしカイルがボクの問いに答えることはなく、胸を揉みながら空いた手でユカタの腰帯を外していく。
え、ちょっと、コイツ急になにしてんの!?
さすがになすがままというのはまずい気がして、ユカタを脱がそうとするカイルの手を止めようとするけど、胸を揉まれる度に感じてしまい、阻むことが出来ない。
ほとんど抵抗できないままに腰帯が外されると、カイルは胸を揉むことをやめてユカタの前面をはだけさせた。
それによってボクの胸や大事なとこがあらわになる。
「ちょっとカイル、どうしちゃったの!?」
「わりぃリオ、もう我慢できそうにねぇ…!」
なにか変なものにでも憑かれたかのような顔のカイルは、そう言うなり下着ごとズボンを脱ぎ捨てた。
それによってもう一人のカイルがお披露目され、ボクはそこに目が釘付けになる。
カイルの息子はこれでもかと反り立ち、既に臨戦態勢だった。
うわ、カイルって体だけじゃなくて、こっちもたくましいの…?
状況が状況だというのに、ボクはカイルの息子を見てそう思ってしまう。
だが、急に冷めたように頭が現実を認識する。
猛々しいカイルの息子は、ボクが普段使っている鎌の柄の倍くらいある。
え?あれを今からボクの大事なとこに入れるつもりなの?
…無理無理無理!
あんな大きいのを入れられたら、ボクの大事なとこは壊れちゃう!
「ちょ、ちょっと待ってカイル!そんな大きいの入らな…あッ!!」
しかし、ボクの言葉が言い終わる前に、カイルは腰を進めてたくましい自分の息子をボクの大事なとこに挿しこんだ。
「つッ!!」
そして感じた激痛。
ボクの初めてだったわけだけど、それが破られたのだろう。
でも、カイルに捧げられるなら嫌じゃない。
だから痛みはすぐに和らぎ、太くて熱い棒がボクの膣を押し広げていく感触だけが残った。
「ふああああ♪」
初めての感覚に思わず声が出てしまう。
やがて先端が膣の最奥部に到達したらしく、カイルはそこで一旦動きを止めるとゆっくりと引き戻し、再び奥まで挿しこむといった行程を繰り返す。
そんな単純な動きのはずなのに、ボクはとんでない快感を味わっていた。
カイルに挿しこまれる度に快感が電流のように体中を駆け巡るのだ。
「カイル、カイル♪もっと、もっとぉ♪」
もっと気持ちよくなりたくて、知らず知らずのうちにカイルが挿しこむタイミングに合わせて腰を振っていた。
お互いに腰を振るようになって、結合部からはいやらしい音が聞こえてくるが、それがよりボクを興奮させる。
「カイル〜♪」
好きな人の名を呼びながら無我夢中で腰を振ってしまう。
その度に肉棒と子宮とがぶつかり、ボクの頭を蕩けさせていく。
だから、どれくらい繰り返していたかは分からない。
けど、急に快感が薄れた気がした。
あれ、なんで?
熱に浮かされていた頭が不思議に思って腰を振るのをやめると、いつの間にかカイルが動きを止めていた。
しかも、なぜか戸惑ったような、それでいて驚いたような顔になっている。
「カイル、どうしたの?」
ボクが声をかけると、カイルはどこか青ざめた顔でボクを見た。
「…リオ、俺達は一体…なにをしてるんだ?」
なにって、どう見てもボク達がしてるのはナニである。
「見ればわかるでしょ。そもそも、カイルの方から押し倒してきたくせに、なに変なこと言ってんの?」
「押し倒した!?俺が!?」
信じられないとばかりにカイルは素っ頓狂な声をあげる。
「そうだよ。それより、続き」
「いや、待て待て!続きじゃねぇ!わけもわからないまま、こんなことしていいはずないだろ!!」
カイルはそう言うなり、ボクの中から自分の息子を引きぬこうとする。
「だ、ダメだよ!」
膣の中からカイルがいなくなるのが嫌で、逃げられないようにカイルの腰に足を絡めてしがみつくような格好になる。
「おいリオ!なにすんだ!!」
「それはボクのセリフだよ!途中で中断されて満足できるわけないじゃん!ちゃんと最後までしてよ!」
「バカ!最後までって、自分がなに言ってんのかわかってるのかよ!?」
「わかってるよ!だから続き!」
催促の言葉とともに腰振りを再開する。
「うわ!おいリオ!ちょ、やめろって!」
「やめないもん!」
カイルにしがみついたまま、腰を振って膣の奥までカイルを迎え入れる。
さっきみたいにお互いに腰を振っていた時と比べるとちょっと物足りないけど、これでも充分に気持ちいい。
「バカ!おま、やめろ!それ以上動くな!ほんとにまずいんだって…!!」
カイルが辛そうな顔をしてるところを見ると、限界が近いらしい。
なんとか射精するのをこらえているようだけど、ボクは出してもらいたい。
じゃないと体の火照りが静まりそうにない。
「じゃあ我慢しないで出してよ!そうじゃないとやめないから!」
カイルがほとんど抵抗できないのをいいことに、ボクは腰を打ちつけて肉棒を膣の奥深くまで迎え入れると、そのまま締めつけた。
「くっ!で、出る…!!」
カイルの呻くような声が聞こえたと同時に、ボクの中で肉棒がビクンと痙攣した。
次の瞬間、ボクの中に熱いものが次々と吐き出されていくのを感じた。
「はうぅぅぅ!出てる、熱いの出てるよぉ♪」
カイルの精液を一滴でも多く受け止めようと、結合部をしっかり密着させる。
そうしてる間にも精は続々と吐き出され、ボクの膣を満たしていく。
やがて射精が終わると、カイルの腰に絡めている足を離した。
「…出しちまった…」
茫然とした声でカイルが呟く。
「そうだね、ボクのお腹の中、カイルの精液でいっぱいだよ♪」
カイルとは逆に、ボクは上機嫌だ。
なんだかお尻の辺りがむずむずするけど、今はそんなことはどうでもいい。
魔物だから精をもらって嬉しくないなずがないし、なによりその精をくれたのがカイルだし。
しかも、ボクの機嫌がよくなる理由はもう一つある。
「ふふ、カイル、これでボクのお婿さんだからね」
「は!?待て待て待て!なんでいきなり婿にされるんだよ!?」
「妖狐のきまりだよ。自分の尻尾の数だけ男の人をイかせることができたら、その人と結婚できるんだ。だからカイルはボクのお婿さん♪」
ボクが上機嫌になった最大の理由がこれだ。
ところがボクがそれを伝えると、カイルは光明を見たという顔になる。
「…尻尾の数だけ?」
そう繰り返した。
「そう。尻尾の数だけ」
ボクも同じように繰り返す。
「そ、そうか…」
カイルはそう呟くと、ボクの中から自分の息子をそっと引き抜いた。
「ん…」
引き抜かれる間際に膣の中と擦れて、思わず声が出てしまう。
糸を引きながら離れていくもう一人のカイルをつい目で追ってしまうが、今は満足だ。
続きは帰ったらすればいい。もう夫婦なんだしね。
棚から牡丹餅の展開に、思わず笑みがこぼれてしまう。
だから、次に発せられたカイルの言葉が信じられなかった。
「じゃあ、お前と結婚はできないな」
ボクから距離をとると、カイルはそう言い放った。
その言葉に、ボクは瞬時に立ち上がり、猛抗議する。
「なに言ってるのさ!カイル、ボクに射精したじゃん!」
「あ、ああ、した…。けど、一回だけだ」
「言ったでしょ!妖狐のきまりで尻尾の数だけ―」
「だから結婚できないって言ってんだよ。だってお前、尻尾が二本になってるし」
被せるように言われたカイルの言葉がすぐに理解できなかった。
「…え?」
慌てて自分のお尻を見てみると、なぜかもう一本尻尾があった。
信じられないものを見た気がして、目をぱちくりさせてしまう。
なにこれ?
カイルに抱いてもらったことが嬉しくて、幻覚でも見てるんじゃないの?
けど、目をこすっても、二本目の尻尾は消えてくれなかった。
「なんで尻尾増えてるの〜!?」
なんでもなにも、カイルから精をもらったせいでしかないのだが、そう叫ばずにはいられなかった。
「尻尾の数だけなんだろ…?つまり、あと一回は猶予があるってことだよな?」
後ずさりしながら、曖昧な笑みを浮かべるカイル。
「じゃ、じゃあ、もう一回!もう一回シよ!それでボク達結婚できるんだから〜!」
泣きそうになりながらカイルに詰め寄る。
「バカ!するわけないだろ!大体、俺はまだお前を養えるほど経済力ないんだよ!」
カイルは更に後ずさりながらそんなことを言うが、ボクはその言葉にぴたりと動きを止める。
…まだ?
まだってことは、いずれは結婚してくれるってことなの…?
「カイル、それどういう―」
ところが、ボクの言葉は後ろから聞こえた複数の足音で中断された。
思わず振り返ると、そこにはローザとリーン、そしてエレナの三人がいた。
「なんだかエッチな匂いがしたから覗きにきてみれば…」
「リオにカイル、あんた達なにしてんの…?」
三人の視線がボク達に向けられる。
「あれ、リオさんの尻尾の数が…」
リーンがそう呟き、他の二人の視線もボクに集まる。
「妖狐の尻尾が増える条件って確か…」
今度はエレナが呟き、三人の視線が恥ずかしげもなくカイルの下半身に向けられる。
そこにあるのは、未だにそそり立つたくましい肉棒。しかも、つい先ほどまで繋がっていたせいで愛液にまみれて妙な光沢を放っている。
そして、ユカタの前面をはだけさせ、胸や秘部が丸見えのボク。
状況証拠は充分である。
「ちょっとリオ!あんた、カイルのこと襲ったの!?」
ローザが瞬時に爆発した。
「違うよ!襲ってきたのはカイルだもん!」
「「え」」
ボクの言葉に、リーンとエレナがピクリと反応する。
「カイル君が…襲った?」
「カイル君に襲われてそのまま射精…」
茫然とするリーンと、自分がその状況になったことを想像したのか顔がにやけるエレナ。
「嘘言うんじゃないわよ!!絶対にあんたが襲ったんでしょ!!」
ローザがわなわなとふるえながら睨みつけてくるが、言いがかりだ。
「違うもん!カイルからだもん!ねえ、カイルからもなんとか言ってよ!!」
振り向いてカイルに助けを求めると、そこには心底戸惑った表情のカイルがいた。
「あ、いや、そのな…」
カイルはなんとも歯切れの悪い言葉を言いながら、落ちていた自分のズボンを拾い上げるとボクの傍まで来た。
そして瞬時にボクの腕を掴む。
「リオ、逃げるぞ!!」
そう言うなり、ボクを引っ張って走りだした。
「ふえ!?」
いきなり引っ張られて驚くが、遅れてこの状況はそうするべきだと判断し、カイルと一緒に走る。
「カイル!逃がさないわ!私にも襲わせなさい!」
「カイル君、私のことも襲って〜♪」
「私はバックで激しいのを♪」
自分の欲望を口にしながら追いかけてくる三人。
「なんでこんなことになるのさ〜!!」
ボクの泣き言が夜の林に響いたのだった。
林の中が軽く修羅場になっていることなど少しも知らないかき氷屋の女性、改めリリムは退屈そうに欠伸をしていた。
彼女の様子に見惚れて足を止める人が大勢いるが、リリムは全く気にしない。
そんな彼女のもとに、一人のサキュバスの少女がやってきた。
「待たせたわね。どう、売り上げは?」
「さっぱりね。退屈だったわ」
「いや、さっぱりってどうなのよ…」
リリムがそう答えると、少女は微妙そうな顔になるが、空になった瓶が目に入ると驚きの表情へと変わった。
「ちょっとあんた!これ…」
「ああ、これ?さっき来たお客さんに使ってみたの」
「それはあんたが作った媚薬でしょ!?」
「ええ。あなたに教えてもらいながら作った、ね」
「あんた、客に何してんのよ!?」
少女が声を張り上げるが、リリムは涼しい顔で流す。
「大丈夫よ。普通の媚薬と違って、これは好きな人にしか発情しないものだから。さっき来たお客さん、男の子のほうがかなり鈍感みたいでね。自分の気持ちにも気づいていないみたいで、女の子の方が不憫そうだったから、ついあげちゃったわ。今頃どこかで楽しんでるんじゃないかしら?」
「問題はそこじゃないわよ!客に媚薬もるって、あんたなに考えてるのよ!?」
「あら、私リリムよ?考えてることなんて、エッチなことに決まっているじゃない♪」
全く悪びれもしないリリムに、少女はため息をついた。
「はあ、あんたに店番任せたアタシがバカだったわ…」
「ふふ、そういうことをすると分かっていて誘ってくれたんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。あんたを誘ったのは、アタシは接客なんて向いてないからよ」
「だったら、断ればよかったんじゃないかしら?」
そう言われて少女は嫌そうな顔になる。
「アタシだってこんな面倒なことは断りたかったわよ!でも、けっこう大事な取引相手の頼みだったから、断り切れなかったの!」
「そうなの?まあ、私は色々と楽しめたから満足だけどね。頬を赤くしながら『た、頼みがあるんだけど…』って言ってきた時といい、今の姿といい、あなたの可愛い姿がたくさん見れたわけだし♪」
「なっ!!」
リリムにそう言われて、少女の顔がみるみる赤くなっていく。
少女はリリムと同じように、所々にピンクの肉球模様がある白い浴衣を着ているのだ。
「だ、大体、この浴衣はなんなのよ!?」
褒められて恥ずかしいからか、少女は苦し紛れに話題を逸らす。
「ああ、浴衣?出店で接客なんて初めてだし、せっかくだから形から入ろうと思ってジパングまで出向いて買ってきたの」
「なんでそういうところだけやる気を出すのよ!」
「たまにはこういう服を着るのもいいじゃない。それに、なんだかんだ言ってあなたも気に入ってるんでしょ?」
リリムが微笑むと、図星だったらしく、少女は言葉を詰まらせる。
「なっ、ち、違うわよ!これは、その、あんたが用意してくれたのに、着なかったらもったいないでしょ!それだけよ!」
顔を真っ赤にしてそう訴える少女に、リリムは再び微笑む。
「はいはい。それより、せっかくの機会だから私達も祭りを見て回りましょ」
「いや、あんたなに言ってんのよ!アタシ達は店番任されてんだから、そんなことしてる暇なんてないわよ!」
「こうすれば大丈夫よ」
そう言うなり、リリムは営業中の札をひっくり返して休業にしてしまう。
「全然大丈夫じゃないわよ!売り上げが増えないじゃない!」
「売り上げはどうしようもないわね。困ったことに、この店以外にもかき氷を扱ってる店がいくつもあるのよ。それなのに、ありふれた味しか用意できないようでは売れなくても仕方ないわ。だから、ね?」
「ね、じゃないわよ!」
リリムの提案を却下する少女だが、当のリリムは全く気にしていない笑みを浮かべる。
「さ、行きましょ」
「だから行かないって言ってるでしょ…って、ちょっと!袖引っ張んないでよ!脱げてるから!肩見えちゃってるでしょ!?」
袖を引っ張られているせいで白い肩をさらす羽目になっている少女は、顔を真っ赤にして悲鳴に近い声を上げるが、リリムは気にせずに少女を引っ張っていく。
そして二人は賑わう人波の中に消えていったのだった。
この大陸には親魔物派の人々が住んでいるのだが、大陸そのものが小さいからか、教団に目を付けられることもなく、その村も毎日がのどかだった。
どれくらいのどかかというと、牛がモーと鳴きながらその辺の草を食べ、羊がメェーと鳴きながら羊飼いに連れられ、コカトリスの喘ぎ声が毎朝村中に響く…のは違うかもしれない。
まあ、それくらい平和だということだ。
そんな平和な村の一角にボクの家はある。
朝起きると真っ先に家から出て、目の前の花壇をチェックする。
すると、昨日まではただの地面だったところから小さな芽がいくつか出ているではないか。
「お〜、出てる出てる」
うんうん、元気に成長しているようでなによりだ。
満足の笑みを浮かべ、じょうろで水やりをする。
これがボクの毎朝の日課。
この後は裏の畑の野菜の確認だ。
頭の中でそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「よーリオ。朝から早いな」
ものすごくのん気な挨拶だが、急に声をかけられたものだから思わずビクリとしてしまう。
おかげで、見事に尻尾の毛が逆立ってしまった。
朝から心臓に悪い挨拶をしてきたヤツを、ボクは振り返って睨みつける。
「カイル!『よー』じゃないよ!急に声かけないでよ!びっくりするじゃんか!」
「いや、普通に挨拶しただけだろ」
全く悪びれもせず、ニカリと笑うカイルはボクのお隣りさんだ。
そして…ボクの好きな人。
…訂正、ボクも好きな人。
どういうわけか、このカイルはモテるのだ。
なぜかはよくわからないけど、同年代の男と比べてカイルの体つきがたくましいことが理由なんじゃないかと思う。
まあ、毎日力仕事をやっていればたくましくなっても不思議じゃないけど。
そんなカイルだが、性格に問題ありだったりする。
鈍感なのだ。
それもかなり。
どれくらい鈍感かというと、ラミアの友達のローザが勇気を振り絞って「私と付き合って!」と言ったところ、「いいぞ、どこにだ?」と真面目に返して三日間ベッドで泣き通しにさせ、ハーピーのリーンが「この羽、どう思います?」と訊いたところ、「空飛べるっていいよな」とバカ丸出しの発言をして茫然とさせた。
ちなみにボクも訊いたことがある。
毎日手入れを欠かさない尻尾を見せて「この尻尾、どう思う?」って。
そしたらカイルはなんて言ったと思う?
「なんか犬っぽくていいよな」だってさ。
…犬ってなんだよ。ボクは狐だよ!妖狐だよ!
もうカイルの言葉には怒る気すら失せて呆れるしかなかった。
そんな超絶鈍感野郎のカイルだが、それでも嫌いになれないから困る。
だから、こうして話しかけられたらやっぱり嬉しいのだ。
「もういいよ、挨拶は。で、なにか用?」
「おう。手を出してくれ」
言われた通りに素直に手を出すと、カイルは袋をボクの手に乗せた。
「なにこれ?」
「お前の好きなもの」
楽しそうに笑うカイルを訝しみながら袋の中を覗くと、そこに入っていたのは稲荷の文字が書かれた包み。
「これ、もしかしてなるさんのとこの油揚げ!?」
なるさんというのは隣り街でお店を開いている稲荷さんで、彼女の作る油揚げは絶品なのだ。
しかも、値段は良心的だからお店が開くと同時に即完売。
そんな滅多に手に入らない油揚げが目の前にあるのだ。
ボクが驚きの声を出したって少しもおかしくはない。
「おう。今朝は早くから隣り街に届け物があってさ。行ったついでに買ってきた」
そんなことをさらって言って笑うカイルだが、ボクはその言葉にドキリとしてしまう。
ついでって、もしかしてボクのために買ってきてくれたの?
「な、なんで買ってきてくれたの?」
変な期待が膨らみ、つい訊いていた。
「なんでって、この前、野菜をもらっただろ。その礼だよ」
確かに野菜はあげた。
だってカイル、ほっとくと肉しか食べないから。
「あげたけどさ。あれは、多めに採れたからおすそ分けしただけだよ?」
「おすそ分けだろうと、もらったことは事実だろ。だからその礼だよ」
「それだけ?」
「それだけ。なんだ、嬉しくなかったか?そんなことないよな、尻尾揺れてるし」
「!」
言われて尻尾を見れば、パタパタと揺れていた。
今更すぎるのに、それでもこれ以上揺れているとこを見られないようにと背後に隠す。
「まあ、そういうわけだから食べてくれよ。じゃーな」
カイルはそう言い残して行っちゃった。
その場にぽつんと取り残されたボクは、カイルが見えなくなると尻尾を掴む。
「なんで揺れるんだよ、ボクの尻尾!」
自分の体の一部なんだから、揺らしたのは間違いなくボクなのだが、それでも勝手に動いた尻尾に文句を言う。
うう、どうしても感情に反応して動いちゃうんだよな…。
雪のように真っ白な毛に覆われた尻尾を放すと、空を見上げる。
まだ太陽は昇りきっていないから涼しいが、あと数時間もしないうちに熱くなるだろう。
「今日も熱くなるかな…」
季節は夏。
言うまでもなく熱くなるはず。
そうなる前に、裏の畑にも水やりしなきゃだ。
とりあえず、もらった油揚げを家の中に置いてくると、ボクは裏の畑へと向かったのだった。
灼熱の太陽が照りつける昼過ぎ。
リオ、ローザ、リーンの三人は揃って麦を刈っていた。
「ふう。この辺りは大体終わりね」
額から流れる汗を拭い、ローザは辺りを見回す。
「毎年思いますけど、この村の麦畑って大きすぎません?」
リーンは三人が刈り取った麦と、残りの麦とを見てそう漏らす。
「ボクもそう思う。いくら隣り街の分も作ってるからって、大きすぎだよ」
毎年やっていることだからボク達三人も慣れているので、刈った麦の量はけっこうなものになる。
でもだ。
眼前にはどこまでも続く麦畑がどーんと存在している。
もちろんあちこちから他の村人が刈っているのだが、大きすぎて終わる気がしない。
「まあ、愚痴っても仕方ないわ。終了時間まで頑張りましょ」
「そうですね」
「はーい」
ボク達はその後、黙々と終了時間まで鎌を振るった。
そして夕方。
「疲れたわ…」
「ほんとだよ…」
「昼からずっと働きっぱなしですからね」
へとへとになった三人娘が向かっているのは、村の中央にある温泉場である。
働いた後はここで一日の汗を流すというのが、この村に住む人達の習慣なのだ。
ちなみに混浴ではない。
「今日も随分汚れたわ…。しっかり手入れしないと」
「まったくですよ。ああ、今日も時間かかりそう…」
「リーンは作業する度に汚れるもんね」
「そうなんですよ」
土埃で汚れてしまった自分の腕を見て、リーンはため息をつく。
「その点、リオは簡単でいいわよね」
ローザが羨ましそうに見てくるが、その言葉は心外だ。
「簡単じゃないよ。尻尾の手入れだって大変なんだから」
過酷な作業のせいで、いまやボクの尻尾は力なく垂れ下っている。
「でも、洗う面積は私達と比べて遥かに少ないですよね?」
「そうだけどさ。だからって楽じゃないよ」
「まあ、リオの毛は白いから汚れが目立つしね」
「そうなんだよ…」
髪も尻尾の毛も真っ白のボクは汚れるとすごくみすぼらしくなる。
なるさん曰く、白い毛の稲荷や妖狐は特別な力を持っているとかで、ジパングでは神の使いだとか言われるらしいけど、ボクに特別な力なんてなく、単純に毛が白いだけの妖狐である。
自分の髪や毛の色を嫌だと思ったことはないけど、汚れが目立つのはちょっと困る。
ボクも一応女だし。
そんなわけでリーンと同じようにため息をついた時だ。
「ちょっと!あれ見て!!」
なぜか隣りのローザに脇腹を肘打ちされた。
「はうッ!」
いきなりの攻撃に思わず体を折るボク。
なんで?なんでいきなり肘打ち??
「ちょっと、痛いよローザ!」
「知らないわよ。それより前を見なさい」
知らないって、ローザがどついてきたんじゃないか!
そう言おうと思いつつも、一応言われた通りに前を見る。
するとそこにはカイルと、その腕に抱きつくサキュバスがいた。
「なにあれ…」
つい今さっき脇腹をどつかれた事など忘れて茫然とした声を出すボク。
「隣りにいるの、エレナさんですよね?」
「そうみたいね。なんでみんなのカイルに抱きついているのかしら?」
二人の声が底冷えするくらいに冷たくなっている。
そんなボク達三人が無言で見つめているなか、カイルとエレナは楽しそうに近くの酒場に入っていった。
「…行くわよ」
目を細め、殺し屋みたいな顔になったローザがそう言い、
「そうですね。お腹空いてますしね」
と、口元を引きつらせたリーンが同意する。
「温泉なんていつでも入れるしね」
とボク。
三人とも同じ男に恋してるので恋愛関係についてはライバルなのだが、カイルが誰かのものにならないので、こういう時は息がぴったりなのである。
そんなわけで、当初の予定だった温泉場を素通りして酒場へ入る。
「いらっしゃいま―」
忙しそうに働いていた娘がボク達を見てぎょっとするが、それも無理はない。
ローザは半目で邪魔したら絞め殺すと無言の圧力を発しているし、リーンは笑っていない笑顔を顔に張り付け、何をしでかすかわからない雰囲気である。ボクはというと、毛の逆立った尻尾をゆらゆらと揺らし、話しかけるなと威嚇。
そんなボク達を見て固まってしまった娘などお構いなしに、店内をぎろぎろと見回し、目的の二人を発見する。
三人は無言で互いの目を見ると、向こうからは分かりづらく、こちらからは向こうの様子が分かりやすい席へと移動し、腰を下ろす。
当然、三人とも視線は同じ方向である。
カイルは何か注文したらしく料理を食べているが、エレナの前にあるのはジョッキだけみたい。
「あのー、ご注文は…」
「「「ビール」」」
素気ない上に、見事に揃った三人のビール発言に娘は顔をびくつかせるが、残念なことにボク達の目に娘は映ってない。というか、見向きもしてない。
「か、かしこまりました…」
おどおどしながら娘が去っていくと、ボクは耳をひくひくと動かし、カイルとエレナの会話を聞くことに集中する。
「どう、リオ?会話は聞こえる?」
「ばっちり。なんか、食べ物についての話みたい」
うう、楽しそうに話してる…。
内心そんなことを思いながら、会話の盗み聞きを再開する。
『カイル君はどんな食べ物が好きなの?』
『あー、そうだな。ハンバーグかな』
『そうなの?じゃあ、こんどお弁当に作ってきてあげよっか?』
『お、ほんとか?じゃあ、期待してるぜ』
『うん。任せて♪』
「だってさ」
聞いた内容を一字一句そのまま伝えると、ローザとリーンが爆発した。
「なによそれ!?好きな食べ物で自分に意識を向けさせようって魂胆が丸見えじゃない!!」
「ハンバーグが好きなら、私が十個でも二十個でも作ってあげるのに!!」
「カイルはほんとにバカだな。エレナの料理の腕前は壊滅的なのに」
ちなみに上からローザ、リーン、ボクの発言だ。
ローザとリーンは怒りと嫉妬で顔がすごいことになっている。
ボクもハラハラしてはいるけど、まだ二人ほどじゃない。
少しだけ余裕があるのだ。
けど、カイルが他の女の人と話しているのを見ると不安になるのは事実だ。
そんな不安を打ち消すように、運ばれてきたビールをちびちびと飲みながら二人の様子を監視する。
そして三十分後。
相変わらずカイルとエレナが楽しそうに会話をしているのを「うぐぐ!」だの「むぎぎ!」だのと、およそ乙女が発してはいけないような声を出しながら監視するボク達三人の姿があった。
正直、今の状況だけでも爆発しそうなのに、こういう時に限ってきっちりと鈍感野郎の名に恥じない仕事をするのがカイルという男なのである。
『カイル君。よかったら、これ飲んでくれない?なんだかお腹いっぱいになっちゃって』
『おう、いいぞ』
わざとらしく自分が口を付けた所をカイルの正面にして、ジョッキを差し出すエレナ。
当然、そんなことなどこれっぽっちも気にせずにカイルはジョッキを掴み、ごくごくと飲み始めた。
それを見たボク達はびっくり仰天である。
「ちょっとあの女狐、私のカイルになにしてんのよ!?」
「そんな…カイル君の唇が!!」
「うそ!?間接キス!?」
二人の会話が聞こえたのはボクだけだろうけど、ジョッキのやり取りで二人は全て理解したらしい。
あまりのショックに、ローザが言っていた『みんなのカイル』が『私のカイル』へと変化したことに突っ込む人はいなかった。
それくらい、目の前の光景が信じられなかったのである。
そんなボク達をよそに、ジョッキの中身をすっかり飲み干したカイルは立ち上がり、「じゃ、そろそろ帰るか」と言って出口へと向かう。
どうやら帰るらしい。
それがわかったボク達は、これ以上目の前でいちゃつかれることはないと安堵の表情を浮かべようとする。
けど、カイルはやっぱりカイルだった。
ボク達が座っている席の近くで立ち止まると、後ろにいるエレナに衝撃の一言を発したのだ。
「おっと、そうだ。飯をごちそうになったんだし、家まで送るよ」
「え、いいの?」
「おう。ま、大した距離じゃないから、そんなことしなくても問題はないだろうけどな。そういうのは嫌か?」
「ううん。是非お願い♪」
「おっし、任せとけ。じゃあ、行こうぜ」
まるで恋人みたいな会話を交わしながら、二人は悠々と酒場から出て行った。
それを茫然と見送るボク達。
多分、他の人が今のボク達を見たら揃って死んだ魚みたいな目をしていたに違いない。
だって、それからきっちり五分は三人とも固まってたから。
やがて夢から覚めたかのように、ローザが呟いた。
「…カイルに家まで送ってもらったことある人、挙手」
しかし悲しいかな、三人はピクリとも手が動かない。
つまり、送ってもらったことがない。
そして再び嫌な沈黙が訪れる。
そんななか、ボクはふと思った。
ボクなんかお隣りさんだから、家まで送ってもらう機会なんて一生ないじゃんか…。
変な事実に気づいてボクが一人でへこむなか、誰も手を上げないことにローザが感情を再び爆発させた。
「なんなの!?カイルは人の体におまけがついただけの無難な魔物娘がいいってこと!?それとも私達みたいなケモノ娘には興味ないってわけ!?」
「カイル君、エレナさんが好きなんでしょうか…」
「なにが任せとけだよ!カイルのくせに〜!!」
三人とも思い思いのことを口にするが、それで爆発した感情が治まるはずもない。
「こうなったら、今度の収穫祭は絶対にカイルと行ってやるんだから!」
「あ、それ私も!」
「ボクも!」
収穫祭とは文字通りのお祭りで、現在刈っている麦の収穫が終えると隣り街で行うお祭りである。
問題はお互いに一緒に行きたい相手が同じだということなのだが、そんなことはお構いなしに宣言する。
その後は三人ともぷんぷんしながら温泉に行ったのだった。
それから四日後。
収穫祭の前日になったのだが、ボクは未だにカイルと一緒に祭りに行く約束をすることができなかった。
ボクだけでなく、ローザやリーンもである。
ただその理由が、仕事が忙しくてカイルと話す暇がなかったなんてことではなく、ボク達女の間で変なルールが出回りだしたからである。
それは、女の方から祭りに誘わないこと。
一体誰が言い出したのかは分からないが、要するに男どもが誰に好意を持っているのかはっきりさせようという魂胆らしい。
普段はまとまりのないボク達村娘だが、こんなことだけはきっちりと息を合わせるのだから女って不思議なものだと思う。
まあ、そんなわけでボクもルールに従っていたわけだ。
で、現在。
当然といえば当然だが、カイルからお誘いの言葉をもらうこともなく、家の花壇の水やりをしていた。
一応言っておくと、カイル以外の人からなら何回か誘われた。
まあ、お断りしたけどね。
ボクが好きなのはカイルだし、なにより問題なのはボクに声をかけてきた人のほとんどが、ローザやリーンにお断りされた人達だったから。
女の子と祭りに行きたい気持ちはわからなくもないけど、本命の子に断られたからって、じゃあ別の人でいいやってなるのはどうなんだろう。
ちなみに、先にボクがお断りした人はローザやリーンを誘ったらしい。当然お断りされたらしいけど。
こんな行動を見てると、男って本当にバカなんじゃないかと思う。
その中でもダントツなのはカイルだけど。
「おいリオ。ちょっといいか?」
「わひゃいッ!?」
いきなり話しかけられ、思わず変な声な出てしまった。
振り向けば、カイルがいた。
うわ、こいつのこと考えてたら本人が来たよ…。
「カイル!何度も言うけど、いきなり声かけないでよ!」
「まあ、そう言うなよ。てか、また花の手入れか?なんていうか、お前は地味なことが好きだよな」
いきなり声をかけてきたと思ったら、今度はそんなことを言ってきた。
なにコイツ?ボクに喧嘩売ってんの?
そう思ったけど、カイルはバカだから単純な会話のつもりなんだろう。
いちいちコイツの言動に腹を立ててると切りがないので、今の言葉は聞かなかったことにする。
「余計なお世話だよ。それより、なにか用?」
「おう。リオ、お前、一緒に祭りに行くヤツはいるか?」
「いないけど」
「おし。じゃあ、俺と行こうぜ」
…え?今なんて言った?
「…もう一回言ってくれる?」
信じられないことを言われた気がしたので、思わず訊き返していた。
「だから、一緒に祭りに行こうぜって言ったんだよ。なんか今回は、男はみんな女を誘って行くみたいだし」
これ、奇跡じゃないだろうか?
まさかカイルが誘ってくれるなんて、夢にも思わなかった。
だからこそ、素直にうんと言えない。
「な、なんでボクなの?女の子は他にもいるじゃん」
ひょっとしてカイルが誘ってくれたのは、ボクのことを好きだから?
そんな期待が胸に湧き上がってしまい、それに呼応するように尻尾が揺れる。
だがボクのそんな淡い期待が消えるのは一瞬だった。
「あー、なんとなく?」
…なんとなくってなんだよ。しかも、なんで疑問形なんだよ。
がっかりしたボクの気持ちを代弁するように、揺れていた尻尾が垂れる。
「なにそれ。誘う気あるの?」
「まあまあ、細かいことはいいじゃねえか。んじゃ、明日迎えに来るから、それまでに準備しとけよ!」
「え、ちょっと!」
カイルは言うだけ言うと、返事も聞かずに行ってしまう。
「ボク、まだ行くって言ってないのに…」
しかもいつ迎えに来るかも言ってないし。
やっぱりカイルはカイルだ。
ため息が出てしまうが、それでも誘われたことが嬉しくて再び尻尾が揺れてしまう。
カイルがボクのことをどう思っているかは分からないけど、それでも一緒に祭りに行ける。
それがとても嬉しい。
「早く明日にならないかな♪」
その日、ボクはご機嫌で水やりをしたのだった。
そして迎えた収穫祭当日。
時刻が昼を過ぎたあたりから、ボクはいつカイルが迎えにくるのかとそわそわしていた。
隣り街までは大した距離でもないのでそう時間はかからないだろうが、やはり早く行きたい。
うきうきする気持ちは抑えられず、尻尾が左に右にと大忙しである。
「あ、服はどうしよう?」
せっかくカイルと一緒に行くんだし、少しはおしゃれをした方がいいかな。
あんなヤツでも好きな人には違いないし。
そんなことを思い、クローゼットの中をがちゃがちゃと見回しているとある服が目に入った。
「あ、これ…」
ボクが発見したのは、昔なるさんからもらったジパングの服。
「リオちゃんなら似合うから」と言いながら渡されたものだ。
確かユカタとか言ってた気がする。
空色のユカタは生地も薄く、夏というこの季節にはちょうどいいかもしれない。
よし、これにしよう。
ユカタの着方は教えてもらったのでちゃんと着ることができる。
けど、一つだけうろ覚えな点があった。
「あれ?ユカタの時って、下着は着るんだっけ?」
なるさんはなんて言ってたかな…?
中途半端にユカタを着た状態でなるさんの話を思い出そうとしていた時だ。
不意に家の扉がノックされた。
「おい、リオ。そろそろ行こうぜ」
続けて聞こえてきたカイルの声。
うそ、こういう時に限って迎えに来ちゃった!?
「す、すぐ行くよ!」
返事こそ返すが、慌ててしまう。
えーと、下着はどうしよう。どうすれば…。
相変わらず下着に関して思い出せない。
「もういい!下着なんていらない!」
カイルを待たせるのも悪いので、着用中の下着を脱ぎ捨てると、急いでユカタを着た。
鏡で着崩れがないかチェックし、問題ないことを確認する。
よし、行こう。
「お待たせ」
「おう。ん?なんか珍しい格好してるな」
「これ、なるさんからもらった服なんだ。どうかな?」
珍しくカイルが興味を示したものだから、ボクはちょっと訊いてみた。
まあ、ろくな返事が返ってこないことも計算済みだけど。
「そうだな。リオに似合ってると思うぞ」
「…え?」
うそ、カイルが褒めてくれたよ。
「そ、そう?似合ってるかな」
「おう。じゃ、行こうぜ」
「う、うん」
なんか、今日のカイルはバカっぽくない。
こういうのもいいかもしれない。
普段は見られないカイルの新たな一面を見せられて、不覚にもどきどきしてしまう。
でも、こういう様子もたまにはいい気がする。
だから、まだ隣り街に到着したわけでもないのに、早くも尻尾が揺れてしまう。
それに気づかないまま、ボクはカイルと一緒に隣り街へと出かけた。
「随分と人がいるね…」
「さすが村と街共同での祭りだな」
街の入り口でボクとカイルはそう呟いた。
毎年のことなので分かってはいたけど、とにかく人が多い。
まあ、その分知り合いとすれ違っても気づかないわけだけど。
「よし、とりあえず適当に回ろうぜ。なんかいい匂いがするし」
カイルは早くも食べ物の香りに釣られたようである。
まあ、それはボクも同じだけどね。
「そうだね。出店だけでもたくさんあるしね」
そのほとんどが食べ物だけど、中には射的やら金魚すくいといったものもある。
それ以外にも見せ物があちこちでやっているのだ。
ぶらぶらと街を回るだけでも楽しいに違いない。
そんなわけでまず向かったのはタイ焼きが売っている出店。
二人分のタイ焼きを買うと、さっそくぱくつく。
「やっぱ、祭りといったらタイ焼きとかき氷だよな」
「そう?ボクは焼きそばも祭りっぽく思うけど」
「あー、言われてみれば確かに。リオがそんなこと言うから、食べたくなったな」
「買えばいいじゃん。焼きそばはあっちにあったよ?」
「ほんとか?よし、買いに行こうぜ」
「仕方ないなあ」
口ではそう言いつつも、こうしてカイルと一緒に歩いているだけで楽しい。
正直、これだけで満足してると言えるかもしれない。
その証拠に、カイルが満面の笑みで焼きそばを買ってきて頬張ってる姿を見れば、つい笑ってしまったのだから。
「ふぇ、ふぃふぉはふぁにふぁふぁへないのふぁ?」
…食べ終わってから言ってよ。なに言ってるかさっぱり分からないし。
「とりあえず、口に入ってるのなくなってからしゃべってくれる?」
「ん」
呆れたため息とともに言うと、カイルは頷いて口の中身を嚥下する。
「で、リオはなにか食べないのか?」
どうやらさっきはこう言いたかったらしい。
「んー、何にしようか迷ってるとこ」
「そうなのか?油揚げを売ってる出店がないからがっかりしてるのかと思ったぞ」
出たよ、カイルのバカな発言が。
聞いた瞬間にボクは盛大にため息をついた。
油揚げしか売ってない出店なんてやだよ。一体誰が祭りの出店で油揚げを買うんだよ。まあ、ボクは買うけどさ。
「カイルはもう少し考えてからしゃべったほうがいいよ。バカっぽいから」
「そうか?」
不思議そうにカイルは首をかしげている。
どうやら自覚はないらしい。
カイルらしいといえばらしいけど。
「そうだから。それより、あれ見に行こ。なんかおもしろそう」
ボクの視線の先にあるのは射的である。
これを是非ともカイルにやってもらいたい。
先に言っておくと、別にカイルに景品を取ってもらいたいわけじゃない。
カイルに射的をやらせれば、おもしろいことになるからだ。
「射的か。いいな、行こうぜ」
意外にもやる気らしい。
「じゃあ、格好いいところ見せてね」
「おう、任せとけ」
返事だけは威勢がいいが、射的の結果は悲惨なものだった。
狙う的狙う的全て外すのだ。
そりゃもう華麗と言ってもいいくらいに。
「あれ、おかしいな。これ飛ぶ方向おかしくねぇか?」
カイルは猿みたいに首をひねっているが、ボクは爆笑である。
「おかしいのはカイルの腕だよ!なんでそんなに外せるのさ!」
尻尾をこれでもかと揺らし、腹を抱えて笑う。
「いや、あれでもちゃんと狙ってるんだぜ?なのに当たってくれないんだよ」
「それはカイルが下手だからだよ!」
期待通りのものが見えて大満足だ。
結局一つも景品を取れず、ボク達は射的を終わりにする。
「あー、集中してたら喉が渇いたな。かき氷でも食べようぜ」
「いいよ。じゃ、行こ」
その場を離れて適当に街をふらつくと、目当てのかき氷屋を見つけた。
さっそくとばかりに買いに行くと、店番をしてたのはとんでもなく美人の女性だった。
ボクと同じように藍色のユカタを身に纏った姿は、女のボクから見ても魅力的だ。
間違いなく魔物。けど、この人の種族が分からない。
尻尾の形からサキュバスなんじゃないかと思うけど、この人には角がない。
かなり不思議な人だ。
しかし、ボクにとっては不思議な人だろうとカイルはお構いなしである。
「すいません、かき氷一つ」
「いらっしゃい。じゃあ、味を選んでね」
女性は微笑むと、かき氷の準備を始める。
「そうだな。イチゴかな」
…随分と可愛い選択だ。
女性もそう思ったらしく、クスリと笑った。
「あなたの彼女、イチゴ味が好きなの?」
女性はボクを見て楽しそうに笑うが、ボクはその笑顔にドキリとしてしまう。
うう、この人、笑うとすごく魅力的…。
しかもよく見ればユカタを着てても分かるくらいにスタイル抜群だし、ボク、何一つ勝てる気がしないんですけど…。
ボクが一目で惨敗してへこむなか、カイルはのん気な返事を返していた。
「いや、リオは彼女じゃなくてお隣りさん」
そう言って手をひらひらさせる。
カイルならそう言うだろうとは思ってたけど、責めてこういう場では嘘でもいいから彼女って言ってほしい。
そんなことを思い、色々な意味でため息が出てしまう。
「あら、そうなの?」
ちょっと意外そうに女性はボク達を交互に見るが、やがて小さく笑った。
「ふふ、じゃあ仲のいいあなた達に一つ提案なんだけど、私とひと勝負してくれない?もし勝ったら特製のかき氷をプレゼントするわ」
「もし負けたら?」
カイルが興味を持ったらしく、そう返事を返すと女性は微笑む。
「その時は二人分のかき氷を買ってもらうということでどうかしら?」
なんとなく意味ありげな提案だが、それって勝てばタダ、負ければ二つ分買わされるだけじゃないの?
カイルも同じように思ったのか、特に気にすることなく勝負を受けることにしたらしい。
「よし、のった。で、勝負はなにをするんだ?」
「即断とは素晴らしいわ。やっぱり男はそうでなくてはね。勝負は簡単よ。ジャンケンにしましょう」
「は?ジャンケンなんかでいいのか?」
さすがのカイルにもその勝負内容は意外だったらしい。
「ええ。単純でいいでしょ?」
「よし、じゃあやろうぜ。じゃん、けん…」
ぽい、の掛け声とともにカイルと女性はそれぞれパーとグーを出した。
「おし!」
握りこぶしを作って喜ぶカイル。
ボクから見ると子供そのものである。
「あら、負けちゃったわ」
逆に女性はそんなことを言いつつも、全く悔しそうではない。
「じゃあ、約束通り特製のかき氷を作るわね」
そう言って容器にたんまりと氷を入れて、その上からシロップをかける。
そして最後に小さな小瓶を取り出すと、その中身を全部上からかけた。
「はい、お待たせ」
「これが特製かき氷なのか?」
カイルがそう言うのも無理はない。
だって、最後に謎の液体をかけただけだし。
「ええ、そうよ。恋人同士、仲良く食べてね」
「いや、だからリオはお隣りさんだって」
律儀に言い返すはカイルは放っておいて、ボクは女性に訊いてみた。
「あの、最後にかけたものはなんですか?」
「ああ、あれ?あれは特別なシロップよ」
そう言って女性はかなり意味深な笑みを浮かべる。
「ふーん。ま、シロップならいいか。じゃ、ありがとな」
女性に手を上げて礼をすると、カイルと一緒に出店から離れる。
ある程度店から離れると、さっそくかき氷を食べているカイルに訊いてみた。
「ねえカイル。味はどう?」
「そうだな。イチゴだけど、それほど甘くなくていい感じに抑えてあるな。特製なだけはあるかもしれない。リオも食べるか?」
「ううん、いい」
大して味は変わらないみたいだし、それなら別に食べなくたっていい。
だが、それから少し歩いたところで重大なことに気づいてしまった。
あれ?かき氷についているスプーンは一つだけしかない。
ということは…。
これ、食べるって言えばカイルと間接キスになるんじゃないの!?
「カイル、やっぱりボクも食べ―」
「あ?」
慌ててカイルに話しかけたボクだが、時既に遅し。
かき氷はすっかりなくなっていた。
「どうしたリオ?」
「なんでもない…」
食べるの早すぎだよ…。
微妙にしょぼんとしながら前方を見ると、街の入り口が見えた。
どうやらあちこち見てるうちに一周してしまったらしい。
道理ですっかり夜になっているわけだ。
「なんか、一周しちゃったみたいだね。今度は見てないとこに行こうか」
そう言ってみたものの、カイルの返事がない。
「カイル?」
「あ、ああ…そうだな」
ハッとしたようにカイルは返事を返してきたが、なんだか顔が赤い気がする。
もしかしたら、かき氷をがっつきすぎてむせたのかもしれない。
「じゃあ行こう」
そう言って広場の方へと歩き出したのだが、なぜかカイルに腕を掴まれた。
「カイル?どうしたの?」
「…リオ、こっちに来てくれ」
カイルはこちらを見向きもせずにボクを街の外へと引っ張っていく。
そして街道脇にある林の中へと入っていこうとする。
「カイル?そっちは林だよ?」
不思議に思って声をかけても反応なしだ。
どうしたんだろう?
首をかしげながらも、手を引かれて林の奥に入って行くとカイルが不意に立ち止まった。
「ねえカイル。どうしたの?ここになにかあるの?」
そう言った瞬間だ。
ボクの視界が急に変化した。
「え?」
気が付けば、ボクは押し倒されていた。
草むらの上に倒されたせいで痛みはなかったけど、いきなりの事態に戸惑ってしまう。
「カ、カイル?急になにを…あッ!!」
問い質そうとした矢先にユカタの上から胸を掴まれた。
当然それだけでは済まず、ゆっくりと揉みしだいてくる。
「ちょ、ちょっとカイル!急になにするの!?」
しかしカイルがボクの問いに答えることはなく、胸を揉みながら空いた手でユカタの腰帯を外していく。
え、ちょっと、コイツ急になにしてんの!?
さすがになすがままというのはまずい気がして、ユカタを脱がそうとするカイルの手を止めようとするけど、胸を揉まれる度に感じてしまい、阻むことが出来ない。
ほとんど抵抗できないままに腰帯が外されると、カイルは胸を揉むことをやめてユカタの前面をはだけさせた。
それによってボクの胸や大事なとこがあらわになる。
「ちょっとカイル、どうしちゃったの!?」
「わりぃリオ、もう我慢できそうにねぇ…!」
なにか変なものにでも憑かれたかのような顔のカイルは、そう言うなり下着ごとズボンを脱ぎ捨てた。
それによってもう一人のカイルがお披露目され、ボクはそこに目が釘付けになる。
カイルの息子はこれでもかと反り立ち、既に臨戦態勢だった。
うわ、カイルって体だけじゃなくて、こっちもたくましいの…?
状況が状況だというのに、ボクはカイルの息子を見てそう思ってしまう。
だが、急に冷めたように頭が現実を認識する。
猛々しいカイルの息子は、ボクが普段使っている鎌の柄の倍くらいある。
え?あれを今からボクの大事なとこに入れるつもりなの?
…無理無理無理!
あんな大きいのを入れられたら、ボクの大事なとこは壊れちゃう!
「ちょ、ちょっと待ってカイル!そんな大きいの入らな…あッ!!」
しかし、ボクの言葉が言い終わる前に、カイルは腰を進めてたくましい自分の息子をボクの大事なとこに挿しこんだ。
「つッ!!」
そして感じた激痛。
ボクの初めてだったわけだけど、それが破られたのだろう。
でも、カイルに捧げられるなら嫌じゃない。
だから痛みはすぐに和らぎ、太くて熱い棒がボクの膣を押し広げていく感触だけが残った。
「ふああああ♪」
初めての感覚に思わず声が出てしまう。
やがて先端が膣の最奥部に到達したらしく、カイルはそこで一旦動きを止めるとゆっくりと引き戻し、再び奥まで挿しこむといった行程を繰り返す。
そんな単純な動きのはずなのに、ボクはとんでない快感を味わっていた。
カイルに挿しこまれる度に快感が電流のように体中を駆け巡るのだ。
「カイル、カイル♪もっと、もっとぉ♪」
もっと気持ちよくなりたくて、知らず知らずのうちにカイルが挿しこむタイミングに合わせて腰を振っていた。
お互いに腰を振るようになって、結合部からはいやらしい音が聞こえてくるが、それがよりボクを興奮させる。
「カイル〜♪」
好きな人の名を呼びながら無我夢中で腰を振ってしまう。
その度に肉棒と子宮とがぶつかり、ボクの頭を蕩けさせていく。
だから、どれくらい繰り返していたかは分からない。
けど、急に快感が薄れた気がした。
あれ、なんで?
熱に浮かされていた頭が不思議に思って腰を振るのをやめると、いつの間にかカイルが動きを止めていた。
しかも、なぜか戸惑ったような、それでいて驚いたような顔になっている。
「カイル、どうしたの?」
ボクが声をかけると、カイルはどこか青ざめた顔でボクを見た。
「…リオ、俺達は一体…なにをしてるんだ?」
なにって、どう見てもボク達がしてるのはナニである。
「見ればわかるでしょ。そもそも、カイルの方から押し倒してきたくせに、なに変なこと言ってんの?」
「押し倒した!?俺が!?」
信じられないとばかりにカイルは素っ頓狂な声をあげる。
「そうだよ。それより、続き」
「いや、待て待て!続きじゃねぇ!わけもわからないまま、こんなことしていいはずないだろ!!」
カイルはそう言うなり、ボクの中から自分の息子を引きぬこうとする。
「だ、ダメだよ!」
膣の中からカイルがいなくなるのが嫌で、逃げられないようにカイルの腰に足を絡めてしがみつくような格好になる。
「おいリオ!なにすんだ!!」
「それはボクのセリフだよ!途中で中断されて満足できるわけないじゃん!ちゃんと最後までしてよ!」
「バカ!最後までって、自分がなに言ってんのかわかってるのかよ!?」
「わかってるよ!だから続き!」
催促の言葉とともに腰振りを再開する。
「うわ!おいリオ!ちょ、やめろって!」
「やめないもん!」
カイルにしがみついたまま、腰を振って膣の奥までカイルを迎え入れる。
さっきみたいにお互いに腰を振っていた時と比べるとちょっと物足りないけど、これでも充分に気持ちいい。
「バカ!おま、やめろ!それ以上動くな!ほんとにまずいんだって…!!」
カイルが辛そうな顔をしてるところを見ると、限界が近いらしい。
なんとか射精するのをこらえているようだけど、ボクは出してもらいたい。
じゃないと体の火照りが静まりそうにない。
「じゃあ我慢しないで出してよ!そうじゃないとやめないから!」
カイルがほとんど抵抗できないのをいいことに、ボクは腰を打ちつけて肉棒を膣の奥深くまで迎え入れると、そのまま締めつけた。
「くっ!で、出る…!!」
カイルの呻くような声が聞こえたと同時に、ボクの中で肉棒がビクンと痙攣した。
次の瞬間、ボクの中に熱いものが次々と吐き出されていくのを感じた。
「はうぅぅぅ!出てる、熱いの出てるよぉ♪」
カイルの精液を一滴でも多く受け止めようと、結合部をしっかり密着させる。
そうしてる間にも精は続々と吐き出され、ボクの膣を満たしていく。
やがて射精が終わると、カイルの腰に絡めている足を離した。
「…出しちまった…」
茫然とした声でカイルが呟く。
「そうだね、ボクのお腹の中、カイルの精液でいっぱいだよ♪」
カイルとは逆に、ボクは上機嫌だ。
なんだかお尻の辺りがむずむずするけど、今はそんなことはどうでもいい。
魔物だから精をもらって嬉しくないなずがないし、なによりその精をくれたのがカイルだし。
しかも、ボクの機嫌がよくなる理由はもう一つある。
「ふふ、カイル、これでボクのお婿さんだからね」
「は!?待て待て待て!なんでいきなり婿にされるんだよ!?」
「妖狐のきまりだよ。自分の尻尾の数だけ男の人をイかせることができたら、その人と結婚できるんだ。だからカイルはボクのお婿さん♪」
ボクが上機嫌になった最大の理由がこれだ。
ところがボクがそれを伝えると、カイルは光明を見たという顔になる。
「…尻尾の数だけ?」
そう繰り返した。
「そう。尻尾の数だけ」
ボクも同じように繰り返す。
「そ、そうか…」
カイルはそう呟くと、ボクの中から自分の息子をそっと引き抜いた。
「ん…」
引き抜かれる間際に膣の中と擦れて、思わず声が出てしまう。
糸を引きながら離れていくもう一人のカイルをつい目で追ってしまうが、今は満足だ。
続きは帰ったらすればいい。もう夫婦なんだしね。
棚から牡丹餅の展開に、思わず笑みがこぼれてしまう。
だから、次に発せられたカイルの言葉が信じられなかった。
「じゃあ、お前と結婚はできないな」
ボクから距離をとると、カイルはそう言い放った。
その言葉に、ボクは瞬時に立ち上がり、猛抗議する。
「なに言ってるのさ!カイル、ボクに射精したじゃん!」
「あ、ああ、した…。けど、一回だけだ」
「言ったでしょ!妖狐のきまりで尻尾の数だけ―」
「だから結婚できないって言ってんだよ。だってお前、尻尾が二本になってるし」
被せるように言われたカイルの言葉がすぐに理解できなかった。
「…え?」
慌てて自分のお尻を見てみると、なぜかもう一本尻尾があった。
信じられないものを見た気がして、目をぱちくりさせてしまう。
なにこれ?
カイルに抱いてもらったことが嬉しくて、幻覚でも見てるんじゃないの?
けど、目をこすっても、二本目の尻尾は消えてくれなかった。
「なんで尻尾増えてるの〜!?」
なんでもなにも、カイルから精をもらったせいでしかないのだが、そう叫ばずにはいられなかった。
「尻尾の数だけなんだろ…?つまり、あと一回は猶予があるってことだよな?」
後ずさりしながら、曖昧な笑みを浮かべるカイル。
「じゃ、じゃあ、もう一回!もう一回シよ!それでボク達結婚できるんだから〜!」
泣きそうになりながらカイルに詰め寄る。
「バカ!するわけないだろ!大体、俺はまだお前を養えるほど経済力ないんだよ!」
カイルは更に後ずさりながらそんなことを言うが、ボクはその言葉にぴたりと動きを止める。
…まだ?
まだってことは、いずれは結婚してくれるってことなの…?
「カイル、それどういう―」
ところが、ボクの言葉は後ろから聞こえた複数の足音で中断された。
思わず振り返ると、そこにはローザとリーン、そしてエレナの三人がいた。
「なんだかエッチな匂いがしたから覗きにきてみれば…」
「リオにカイル、あんた達なにしてんの…?」
三人の視線がボク達に向けられる。
「あれ、リオさんの尻尾の数が…」
リーンがそう呟き、他の二人の視線もボクに集まる。
「妖狐の尻尾が増える条件って確か…」
今度はエレナが呟き、三人の視線が恥ずかしげもなくカイルの下半身に向けられる。
そこにあるのは、未だにそそり立つたくましい肉棒。しかも、つい先ほどまで繋がっていたせいで愛液にまみれて妙な光沢を放っている。
そして、ユカタの前面をはだけさせ、胸や秘部が丸見えのボク。
状況証拠は充分である。
「ちょっとリオ!あんた、カイルのこと襲ったの!?」
ローザが瞬時に爆発した。
「違うよ!襲ってきたのはカイルだもん!」
「「え」」
ボクの言葉に、リーンとエレナがピクリと反応する。
「カイル君が…襲った?」
「カイル君に襲われてそのまま射精…」
茫然とするリーンと、自分がその状況になったことを想像したのか顔がにやけるエレナ。
「嘘言うんじゃないわよ!!絶対にあんたが襲ったんでしょ!!」
ローザがわなわなとふるえながら睨みつけてくるが、言いがかりだ。
「違うもん!カイルからだもん!ねえ、カイルからもなんとか言ってよ!!」
振り向いてカイルに助けを求めると、そこには心底戸惑った表情のカイルがいた。
「あ、いや、そのな…」
カイルはなんとも歯切れの悪い言葉を言いながら、落ちていた自分のズボンを拾い上げるとボクの傍まで来た。
そして瞬時にボクの腕を掴む。
「リオ、逃げるぞ!!」
そう言うなり、ボクを引っ張って走りだした。
「ふえ!?」
いきなり引っ張られて驚くが、遅れてこの状況はそうするべきだと判断し、カイルと一緒に走る。
「カイル!逃がさないわ!私にも襲わせなさい!」
「カイル君、私のことも襲って〜♪」
「私はバックで激しいのを♪」
自分の欲望を口にしながら追いかけてくる三人。
「なんでこんなことになるのさ〜!!」
ボクの泣き言が夜の林に響いたのだった。
林の中が軽く修羅場になっていることなど少しも知らないかき氷屋の女性、改めリリムは退屈そうに欠伸をしていた。
彼女の様子に見惚れて足を止める人が大勢いるが、リリムは全く気にしない。
そんな彼女のもとに、一人のサキュバスの少女がやってきた。
「待たせたわね。どう、売り上げは?」
「さっぱりね。退屈だったわ」
「いや、さっぱりってどうなのよ…」
リリムがそう答えると、少女は微妙そうな顔になるが、空になった瓶が目に入ると驚きの表情へと変わった。
「ちょっとあんた!これ…」
「ああ、これ?さっき来たお客さんに使ってみたの」
「それはあんたが作った媚薬でしょ!?」
「ええ。あなたに教えてもらいながら作った、ね」
「あんた、客に何してんのよ!?」
少女が声を張り上げるが、リリムは涼しい顔で流す。
「大丈夫よ。普通の媚薬と違って、これは好きな人にしか発情しないものだから。さっき来たお客さん、男の子のほうがかなり鈍感みたいでね。自分の気持ちにも気づいていないみたいで、女の子の方が不憫そうだったから、ついあげちゃったわ。今頃どこかで楽しんでるんじゃないかしら?」
「問題はそこじゃないわよ!客に媚薬もるって、あんたなに考えてるのよ!?」
「あら、私リリムよ?考えてることなんて、エッチなことに決まっているじゃない♪」
全く悪びれもしないリリムに、少女はため息をついた。
「はあ、あんたに店番任せたアタシがバカだったわ…」
「ふふ、そういうことをすると分かっていて誘ってくれたんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。あんたを誘ったのは、アタシは接客なんて向いてないからよ」
「だったら、断ればよかったんじゃないかしら?」
そう言われて少女は嫌そうな顔になる。
「アタシだってこんな面倒なことは断りたかったわよ!でも、けっこう大事な取引相手の頼みだったから、断り切れなかったの!」
「そうなの?まあ、私は色々と楽しめたから満足だけどね。頬を赤くしながら『た、頼みがあるんだけど…』って言ってきた時といい、今の姿といい、あなたの可愛い姿がたくさん見れたわけだし♪」
「なっ!!」
リリムにそう言われて、少女の顔がみるみる赤くなっていく。
少女はリリムと同じように、所々にピンクの肉球模様がある白い浴衣を着ているのだ。
「だ、大体、この浴衣はなんなのよ!?」
褒められて恥ずかしいからか、少女は苦し紛れに話題を逸らす。
「ああ、浴衣?出店で接客なんて初めてだし、せっかくだから形から入ろうと思ってジパングまで出向いて買ってきたの」
「なんでそういうところだけやる気を出すのよ!」
「たまにはこういう服を着るのもいいじゃない。それに、なんだかんだ言ってあなたも気に入ってるんでしょ?」
リリムが微笑むと、図星だったらしく、少女は言葉を詰まらせる。
「なっ、ち、違うわよ!これは、その、あんたが用意してくれたのに、着なかったらもったいないでしょ!それだけよ!」
顔を真っ赤にしてそう訴える少女に、リリムは再び微笑む。
「はいはい。それより、せっかくの機会だから私達も祭りを見て回りましょ」
「いや、あんたなに言ってんのよ!アタシ達は店番任されてんだから、そんなことしてる暇なんてないわよ!」
「こうすれば大丈夫よ」
そう言うなり、リリムは営業中の札をひっくり返して休業にしてしまう。
「全然大丈夫じゃないわよ!売り上げが増えないじゃない!」
「売り上げはどうしようもないわね。困ったことに、この店以外にもかき氷を扱ってる店がいくつもあるのよ。それなのに、ありふれた味しか用意できないようでは売れなくても仕方ないわ。だから、ね?」
「ね、じゃないわよ!」
リリムの提案を却下する少女だが、当のリリムは全く気にしていない笑みを浮かべる。
「さ、行きましょ」
「だから行かないって言ってるでしょ…って、ちょっと!袖引っ張んないでよ!脱げてるから!肩見えちゃってるでしょ!?」
袖を引っ張られているせいで白い肩をさらす羽目になっている少女は、顔を真っ赤にして悲鳴に近い声を上げるが、リリムは気にせずに少女を引っ張っていく。
そして二人は賑わう人波の中に消えていったのだった。
11/10/27 00:11更新 / エンプティ