連載小説
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(17)ゆきおんな
「暑い!いや熱い!」
玄関をくぐるなり、男は叫んだ。
「ついこの間までぽかぽかと温かく、日向でぼんやりしていたらうたた寝しそうなほどだったのに、今はどうだ!」
履物を脱ぎ捨て、帯を緩めながら彼は家の中を進んでいく。
「日の光の下を歩けば滝のように汗が吹き出し、『泳いでこられたのですか?』と問いかけられてもおかしくない!」
緩めた帯を脱ぎ捨て、着物を一枚、また一枚と放り出しながら彼は進む。
「四月から僅か四ヶ月でこの気温!もう四ヶ月経ったらどうなってしまうんだ!」
ついにふんどし一丁になると、男は屋敷の一番奥、地下へと続く階段を降り始めた。
「おそらく、餅はついた側から焼き餅になり、正月は暑さに尻尾を撒いて逃げ帰り、雪は夜更け過ぎに兄へと変わるだろう!」
一通りまくしたてると、最期の三段を飛び下りて床に降り立ち、彼は目の前の扉を押し開いた。
「ただ今戻りました!」
扉の奥からあふれ出した冷気を浴びながら、男は地下の一室の奥に向けて声を上げた。
「お帰りなさい…」
「聞いてよ!暑い、いや熱いん…」
「あなたが玄関潜ったところから聞いていました。それより、戸を閉めてください」
「はい」
男は部屋の奥からの声に静かに応えると、扉を閉めた。
流れ出て行く冷気が押しとどめられ、湿り気を帯びた冷気が彼を包んでいく。
そして、部屋の奥で火打石を打ち合わせる音が響き、ぼんやりと明かりがともった。
蝋燭の火に照らし出されたのは、四畳半ほどの狭い部屋と、ちゃぶ台座布団などの最低限の家具、そして男の方を向いて座る、薄手の着物を纏った女だった。
長い銀色の髪を一つにまとめてうなじを晒している彼女は、どこか青みを帯びた、白い肌をしていた。
青白い肌に銀色の髪は、部屋の冷気と相まって男に涼しさをもたらす。
「はあ、やっと人心地がついた…」
ちゃぶ台の側に置かれた座布団に腰を下ろしながら、男はほっと息をついた。
この部屋がこんなに涼しいのは、日の差さない地下にある為だけではない。目の前にいる彼女が、ゆきおんなだからだ。
「それで、今日はいつもよりずっと暑かったけど、どうだった?」
「ええ、おかげさまで特に変わりありません」
蝋燭の火を挟んで、彼女は男に向けてにっこりほほ笑んだ。
「屋敷がふもとまで滑り落ちた時は、どうなることかと思いましたが…」
「意外とどうにかなっただろう」
男はそう、彼女に向けて笑った。

男とゆきおんなが出会ったのは、昨年のことだった。
色々あって家を追い出された男が、自暴自棄になって悪態をつきながら、雪の積もる村の裏山へと登って行き、道に迷っていたところを彼女に助けられたのだ。
ゆきおんなは山奥の、彼女だけが暮らしている屋敷へと男を案内し、食事と寝床をよういしてやった。
冬場は完全に道が閉ざされる山奥で、一つ屋根の下男女が二人。男が命の恩人がゆきおんなだということを知りながらも、二人が深い仲になるのに時間はそうかからなかった。
本来ならば、二人は山奥の屋敷で末永く幸せに暮らしました、と話は締めくくられるのだろうが、違った。
やがて年が明け、節分が過ぎ、雪が解け始める。そしてふきのとうが雪の下から顔を覗かせはじめるころ、とんでもないことが起こった。
屋敷が、丸ごと山の斜面を滑り降りたのだ。
元より地盤の弱い土地に建てられた屋敷だったが、これまでゆきおんな一人が暮らしていたためぎりぎりのところで踏みとどまっていた。そして冬場は地面が固く凍りついていたおかげで、男が暮らすようになっても踏みとどまっていた。
だが、雪解けの到来とともに地盤は屋敷を支えきれなくなり、ついに滑り降りたのだ。
タンスが倒れ、茶碗が畳の上に転げ落ち、家具が震えながら転げる。突然の大きな揺れに、男はとっさに雪女に覆い被さり、必死に彼女を守ろうとした。
やがて揺れが止まり、二人がほっと胸を撫で下ろすと、二人は外の光景に驚いた。
屋敷が滑り降りた先は、かつて男が住んでいた村の外れだったからだ。


「一時はやれ引っ越しの手続きやら、親戚へのあいさつ回りで大変だったが、まあどうにかなった」
「私も、ふもとの夏場を耐えられるか不安でしたが、どうにかなりそうですね」
ゆきおんなを夏の暑さから守る為、屋敷の地下に作り上げた部屋で二人は微笑んだ。
最も、この一室を作り上げるために、屋敷の滑落で生き残った骨董品は全て売り払ってしまったが、どうにかなっている。
何故なら男には、住む家とゆきおんながいるからだ。
「さて、そろそろ、少し風呂に入って飯の準備をしてこよう」
「すみません、私がこのような体のせいで…」
彼女は立ち上がった男に向け、謝罪の言葉を口にした。
「なに、お前が居なくなることに比べれば、お安い御用さ」
梅雨明け頃、男が帰る前に夕食を作ろうと地下を出た彼女が、暑さに耐えかねて台所で倒れていた時は相当に肝が冷えた。
あの寒気を味わうのに比べれば、台所に立つことぐらいどうと言うことは無い。
そして男は地下の一室を離れ、一風呂浴びてから二人分の夕食をこさえた。
白飯に味噌汁、畑で採れたナスときゅうりの酢の物に、近所で分けてもらった魚を焼いたもの。
お盆に乗せた料理を、こぼさぬよう数度に分けて階段を降り、地下室でちゃぶ台を囲む。
男の手料理にゆきおんなは舌つづみを打ち、酢の物の味付けについて少し助言をし、談笑した。
そして、男は二人分の食器を片づけ、地下室に戻る。
すると、ちゃぶ台はすでに片づけてあり、四畳半の一室には布団が敷いてあった。
「お待ちしておりました」
「ああ、布団ぐらい俺が敷いたのに」
「風呂や食事の準備や、掃除洗濯も出来ないのですから、このぐらいさせていただきませんと」
彼女は布団の上で正座したまま微笑んだ。
その笑みには、どこか男の背筋をぞくりとさせる、冷気とは異なるものが宿っていた。
「さ、横になりましょう…」
「あ、ああ…」
彼女の言葉に男はこくこくと頷き、布団に身を横たえた。
すると雪女は、男の傍らに身を寄せるように、そっと横になる。
寝間着越しに、雪女の身体が男の二の腕や足に当たり、彼女の掌が男の胸に触れた。
夜とはいえ夏場のため、気温は高く空気は蒸しており、傾国の美女と言えども添い寝は辞退させていただきたいところである。
しかし、彼が横たわるのは心地よい冷気に満たされた一室で、身を添えるのはひんやりとしたゆきおんなの肉体だった。
外を動き回るうちに溜めこんでいた、身体の芯の熱が、徐々に冷気に溶け込んでいく。
「ああ、温かい…」
雪女は、じんわりと熱を放つ男の身体に声を漏らすと、彼の寝間着の袂から手を差し入れた。
しっとりと汗のにじむ彼の肌を、ひんやりとした彼女の掌が撫でる。その動きは、男の身体の芯の熱を少しでも和らげようとするようでもあり、男の温もりを味わおうとするようでもあった。
「今日も一日、お疲れさまでした…」
男の肩に頭を預けながら、彼女は静かに囁いた。
「この暑い日々、私にできることはこうしてあなたが心地よく休めるよう熱を冷ますことと、こうして夜の務めを果たすことです…」
優しく優しく、肌をなぞりながら彼女は続けた。
「どうなさいますか…?」
静かではあるものの、その奥に熱のこもった声で、ゆきおんなは問いかけた。
男は逡巡した。ゆきおんなの誘うような口調に乗り、彼女に欲望を叩きつけたいのは事実だ。しかし、このまま夜伽させてはまるで、男がゆきおんなをそういう目的で飼っているようではないか。
「…すまないなあ…」
「え?」
思わず口を突いて出た言葉に、彼女が声を漏らした。
「こんなところに閉じ込めて、一丁前にこういうことだけさせて…」
男がもう少し稼ぎ、夏でも涼しい土地へ移ることができれば、並の夫婦のように生活できたというのに。
「何をおっしゃってるんですか。外にも出られない私を捨てず、こうして臥所を共にしてくださることにあなたに感謝すれど、恨んだことなどありません」
薄闇の中、ゆきおんなのたしなめるような声が響いた。
「むしろ、あなたが明日も忙しいはずなのに、家事もせずただこうして求めることが申し訳ないくらいです」
彼女の言葉に、一瞬恥じらいのようなものが混ざった。
「ですが…あなたがそう思っていらっしゃったのなら、こう言わせていただきます」
だが直後、彼女は内心の熱を言葉に込めつつ、ゆっくりと続けた。
「どうか、お情けをくださいませ…」
男の胸を撫でていた掌が、すっと彼の寝間着の帯を緩め、前をはだけさせた。そして、そのまま男の股間に手が伸びる。
彼の両脚の付け根では、肉棒が雄々しく屹立していた。
「あら、もうこんなに…」
「遠慮しなくていいと分かったからな」
ゆきおんなの、どこか嬉しげな声に男は応えた。
「勝手にお前がかわいそうだと思っててすまなかった」
「私こそ、あなたを疲れさすまいと遠慮してすみませんでした」
男の腕が女の肩に伸び、ゆきおんなの手が肉棒に触れる。
「今夜は」
「たっぷり楽しみましょう」
男は彼女を抱き寄せ、二人の唇が重なる。
「ん…」
ゆきおんなが喉の奥から声を漏らしつつ、男の股間を優しく撫でる。すると屹立は頭を撫でられて喜んでいるかのように、彼女のひんやりとした柔らかな掌をびくびくと押し返した。
亀頭を軽く擦り、膨らむ裏筋をそっと撫であげる。そして緩やかに指を絡め、ゆっくりと穏やかに手を上下させる。
股間から響く甘い快感に、男はうめき声を漏らしつつも、ゆきおんなを抱き寄せるため肩に触れさせていた手を、彼女の首筋へ移した。
細く、力を込めれば簡単に折れそうなほどきゃしゃな首筋を、指先で軽く擦る。
首筋への温もりとくすぐったさに、彼女はぴくんと身体を震わせた。
男は、彼女の反応に笑みを浮かべつつ、二度三度と首筋を撫でた。一撫でごとにゆきおんなは身体を震わせ、肉棒を握る指にも不規則に力が籠る。
「んん…」
唇を重ねながら、ゆきおんなが小さく声を漏らした。もっと首筋を責めてほしいのか、他のところを刺激してほしいのか。
いずれにせよ、おねだりの声には変わりない。
男は彼女の耳の下に指を触れさせると、ゆっくりゆっくりと指を滑らせた。
あごのラインを越え、皮下の血管の脈動を感じながら、滑らかな肌をさすっていく。
ナメクジが這い降りるよりも遅い指の動きに、彼女はもどかしげに身をよじらせ、屹立を握る指に力を込めた。
男は股間を刺激する彼女の手に、小さくうめき声を漏らした。彼の胸の奥で、浴場と興奮がじわじわと熱を帯びていく。感情と本能に身を任せ、思うがまま腕の中の彼女を責め立てたい。
だが、男は内心の欲望を押さえ込み、ゆっくりゆっくりと手を動かし続けた。
指先は彼女の首筋を伝い切り、ついに寝巻の襟もとから覗く鎖骨に至っていた。
僅かに張り出した、湾曲する細い骨を、彼は青白い皮膚越しに優しくなぞる。
そして着物の襟もとを押し開きながら、彼は左右の鎖骨の間からゆっくりと手を下ろしていく。
寝間着のたもとが開き、左右の乳房が大きく顔をのぞかせ、その合間を男の手が伝って行った。
そして、彼の手がみぞおちから肋骨の合間をなぞろうとしたところで、ゆきおんなの指が男の肉棒を離れ、彼女の身体をまさぐる手に触れた。
「ん…ぷは…」
長々と続けていた接吻を中断させ、彼女が口を開いた。
「もう我慢できません…どうか…」
「ん?我慢比べをしていたつもりはなかったんだけどな…」
「…意地悪な方…」
ゆきおんなは闇の中そう呟くと、男の腕の中で身を動かした。
彼から離れぬようにしつつも、男の身体に跨るようにだ。
彼の肉棒の上に、ひんやりと濡れた物がのしかかる。
「このままお願いします…」
上半身を男のそれに重ね、彼の胸板に自らの乳房を押しつけながら、ゆきおんなはそう求めた。
彼女の愛撫により、興奮を煽られていた男には、もうそれ以上焦らす余裕はなかった。
ゆきおんなが腰を浮かせるのに合わせ、自身の肉棒を掴んで角度を整える。
そして、互いの敏感な粘膜に仄かな熱を帯びたものが触れたところで、二人は動きを止めた。
「ん…」
ゆきおんなが小さく声を漏らし、濡れそぼつ女陰に屹立を受け入れていく。
内側から粘液を滲ませる亀裂は、男の肉棒を受け入れ、歓待するように蠢動した。
「あ、つい…!」
「うぅ…!」
根元までを収めたところで、胎内を灼く屹立に彼女は声を漏らし、男も皮膚表面より温かなゆきおんなの胎内の温もりに呻いた。
胎内を押し広げ、興奮の熱を伝える肉棒。
屹立を包み込み、緩やかに蠢動しながら仄かな温もりを伝える膣洞。
二人の敏感な粘膜が、互いに触れ合って快感を生み出していた。
「ん…ん…」
青白い顔に赤みを帯びさせながら、彼女はゆっくりと腰を上下に動かし始めた。
尻を掲げることで、彼女の上半身が男の胸板に押し付けられ、微かな息苦しさをもたらす。
尻を落とせば、肉棒が温もりに包み込まれ、膣肉が屹立の凹凸に絡みつく。
「ん…ん…ん…」
腰を上下させ、体奥を肉棒で突かれるたび、彼女が鼻にかかった喘ぎ声を漏らした。
一方男も、肉棒を扱きながら絡みつき、ぬめる体液を塗りつける膣肉の感触に、時折体を震わせていた。
「ん…ん…ん…ちゅ…ん…」
腰を揺すりつつ、時折唇を重ね、乳房と胸板を擦り合わせる。
互いの指は、相手の顔や首筋、肩や二の腕を擦って刺激を生みだし、陰部から生じる甘い快感と共に二人の興奮を高めていく。
膨れ上がる快感と興奮が、二人にさらなる口付けと愛撫を促した。
相手が欲しい。相手と一つになりたい。
そんな想いが性器だけでは飽き足らず、口や手の動きとなって発散されているのだ。
男が唇を吸い、ゆきおんなが歯列を舐め、互いの口中をまさぐり合う。
幾度となく溢れだした唾液が往復し、互いの胃袋を満たしていく。
一方男の掌は女の背筋を這いまわり、彼女の背中に薄く浮かび上がる骨をなぞっていた。そしてゆきおんなの指は男の肩口に食い込み、時折背筋を走る快感に力が籠り、爪を彼の皮膚に食い込ませていた。
仄かな痛みが男の快感を際立たせる。
くすぐったさが彼女の意識を蕩けさせる。
そして、ゆきおんなが深々と腰を下ろした瞬間、男の指が彼女の背筋をすぅっとなぞった。彼女の背筋を電流が走り、反射的に男の肩を握る指に力が籠り、同時に彼女の胎内が痙攣した。
「うぐ…!」
突然の膣の不規則な締め付けに、じわじわと昂りつつあった男の興奮が弾け、肉棒から白濁が迸った。
「!?っつぅ…!」
胎内に注ぎ込まれる熱に、彼女は小さくのけぞりつつ声を漏らした。
体内でじっくりと熟成されていたためか、彼の精液は湯気をたてんばかりの熱を帯びていたからだ。
腹の奥に生じた熱に文字通り身も心も溶かされながら、彼女の意識もまた絶頂を迎える。
射精の度に男の肉棒が脈打ち、注ぎ込まれる精液を膣壁が蠕動しながら吸いつく。
絶頂による生殖器の動きが、互いの快感を煽っていき、さらなる高みへと上り詰めていく。
「うっ…!」
「く…ぅ…!」
快感が快感を呼ぶ螺旋の渦に二人の意識は絡め取られ、もはや口づけを交わし相手を愛撫する余裕もなく、絶頂感に身を震わせるしかなかった。
快感のうねりが、砂浜を撫でる波のように二人の意識を削り取っていく。
そして、意識の一欠けまでもが白く塗りつぶされた瞬間、二人はどちらからともなく、意識を手放して行った。
だが、いつの間にか男とゆきおんなの手は握りあわされていた。



男が目を開くと、蝉の鳴き声が聞こえた。
もう朝だ。
「うぅ…ん…」
身体に残る気だるさを堪えながら伸びをする。昨夜は少々張り切り過ぎたようだ。
「ん、ん…あれ?」
ふと男は、布団の上にいるのが自分だけだと言うことに気が付いた。四畳半の地下の一室に、ゆきおんなの姿はない。
「厠か…?」
薄く開いている扉を見ながら、男はそう呟いた。
さすがに朝方だから、厠に言って帰ってくるまでの間に暑さで倒れることはないだろう。
内心の不安感を抑えつけながら、彼は立ち上がり地下室を出た。
階段を上ると、彼の鼻を微かな良い香りがくすぐった。塩家を感じさせる、味噌の匂いだ。
「まさか…!」
男は脳裏に浮かんだ可能性に声を漏らすと、慌てて廊下を駆けた。
味噌の香りがすると言うことは、味噌汁を作っていると言うこと。いくら朝方と言えども、夏場にゆきおんなが厨房に立つのは危険だ。
「おい!」
声を上げながら、彼は台所に飛び込んだ。
「あらあなた、おはようございます」
かまどの前で、鍋を軽く掻き回しながら、ゆきおんながにっこりとほほ笑んだ。
「お前、大丈夫か!?」
「え?ああ、大丈夫ですよ。朝方は涼しいですから、火を起してもそこまで熱くありませんし」
ゆきおんなの言葉に、男はやっと少々動き回ったにもかかわらず、そこまで汗をかいていないことに気が付いた。それだけ気温が低いのだ。
どうやら火を起こしていたのもごく短い時間だったらしく、そこまで影響は受けていないようだった。
「それより、これで今日から朝食を用意できるようになりますね」
「お前…」
どこか嬉しげに言う彼女に、男は思わず小言を言いそうになるが、踏みとどまった。
彼女があまりにも心の底から嬉しげだったからだ。まるで、男がやって来た家事を少しでも手伝えるのが、嬉しいと言うようだった。
(あなたが明日も忙しいはずなのに、家事もせずただこうして求めることが申し訳ないくらいです)
男の脳裏に、昨夜の彼女の言葉が浮かび上がった。
そうだ。危ない危ないと彼女を閉じ込めることが、ゆきおんなにとっては心苦しく感じるのだった。
「…そうだな。じゃあ、朝飯にしようか」
「はい。じゃあ食卓の準備をお願いします」
「分かった」
男はそう頷くと、台所を彼女に任せてその場を離れた。
秋にはまだ遠かったが、ゆきおんなが地下を出られる時間は、ゆっくりと伸びていくだろう。
12/08/12 22:01更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
ゆきおんなの屋敷が山の斜面を滑り降りると言う短編ネタを使いました。
これを使えただけで十分です。
それより、夏場は嬉しいひんやりお嫁さんは、この季節どこを彷徨えば手に入るのでしょうか。
教えて、デルエラさん。

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