広い板張りの一室で、会議が開かれていた。
外国から取り寄せたと思しき巨大な楕円形の卓は、つやつやと磨き上げられており、出席者の表情を鏡のように映していた。
「このように先日の霜で小豆の価格高騰は確実で･･･」
卓を囲む若い刑部狸の一体が、額に汗を浮かべながら言葉を連ねる。
この一室が暑いわけではない。むしろ、気温としては過ごしやすい方だ。
だというのに、発言している狸は額に汗を浮かべ、体を小さく震わせていた。
それもそのはず。卓の上座に腰を下ろす、刑部狸の鋭い視線に、射抜かれているからだ。
上座に腰を下ろす彼女こそ、若い刑部狸を一とする卓に並ぶ面々、商人連合の長だった。
若い頃から商売をしており、時には犯罪すれすれのこともやって財を成したという噂もある。
「一方、米についても今年は冷夏が見込まれるため、古米も含めて値上がりは確実で･･･」
「･･････」
上座の刑部狸の視線に耐えながら、彼女は続けた。もう少し、もう少しで終わる。
「ですので、今年は農業分野への出資を控え、守りに徹した方がよいのではないかと考えます」
「ふむ･･･」
若い刑部狸は、上座の刑部狸の漏らした吐息に、少しだけ安堵を覚えた。
だが、油断し隙を晒した彼女の意識に、とがった言葉が突き刺さる。
「守りに入るのは良しとして、それでどうやって敵を蹴落とす？」
「･･･そ、それは･･･」
彼女は必死に答えを紡ごうとするが、口が開閉するばかりで何も出ない。
「不作で値上がりするときこそ、攻め時だ。今の内に田畑を買いあさり、農家と作物の売買契約を結ぶのだ」
「し、しかしそれでは･･･」
「なに、正々堂々と動き回っていれば、田畑の値段上昇にほかの連中も気が付くだろう。そして連中も、田畑を買いあさり始めるはずだ。。そこで地価が高騰したところで、連中に手持ちの田畑を売ってやるのだ。後に残るのは高騰した田畑と、冷夏による不作だけだ」
「そんな･･･」
そんなこと、思いつかなかった。若い刑部狸の口から、本心がこぼれそうになる。
「こちらは土地を買って、売っただけだ。何か悪いことでもしたか？」
「い、いいえ･･･」
若い刑部狸は、長の言葉に首を振った。
「だが、この方法は二十年前に一度やったから、今度は誰も食いつかないだろう。そこで、今年の農業分野でのたち振る舞いについては、引き続きお前の宿題とする」
「はい！？」
若い刑部狸が思わず声を上げた。なぜなら、先ほどの発言が考えた結果だったからだ。
「なに、さっきの私の例で、思考の幅が広がっただろう。柔軟な発想をし、それを明日口にするだけでいいんだ」
「は、はぁ･･･」
「若者の発想、期待しているよ」
若い刑部狸は、一度は下りたはずの重荷を肩に感じていた。
その後も、商人連合の会議は続いた。
漁業、木材、金属、宝石、嗜好品など分野は多岐に及び、出席する商人がその一つずつについて報告し、方針を述べるというものだった。
長の刑部狸はその一つ一つに対し、ある時はほめ、ある時は未熟な点を指摘し、ある時は容赦なく批判した。
曰く「新型の漁船購入と、港に隣接する干物工場の設立はいい。ただ、近隣の漁場は一年通して収穫できるのか？」
曰く「こっちの茶葉と向こうのたばこの交易は良好だな。それに紙巻きタバコはキセルより葉を使うが、手軽だから広く広まるだろう」
曰く「何？孔雀石の市場が荒らされている？安値で喧嘩をふっかけるからには、鉱山か研磨で相当の無理をしているはずだ。こちらの息のかかった者を鉱山に送り、ストを起こさせろ」
長の言葉に、商人たちは自身の方針の正しさを確認し、見直し、あるいは最初から考え直した。
そして、全員の発言が終了したところで、長が卓に並ぶ面々をぐるりと見回した。
「さて･･･もうこの連合を作ってそこそこになるが･･･未だ私を打ち負かして、長になろうという者が現れない」
彼女の言葉に、数人が顔を強ばらせる。
「何、最近の若いのには気合いが足りない、などと言うつもりはない。単に、少々不気味だと感じただけだ」
口調こそ穏やかなものの、視線の鋭さを増しながら、彼女は表情の変わった数人を順々に見た。
「それで、少々調べてみたところ･･･どうも最近、何か大きな出費をした者がいるらしいな。投資か博打かとおもったが、使い道がよく分からない。金が空中に消えているのだ。不思議だと思わないか？」
長はそう全員に向けて問いかけるが、返答する者はいなかった。
「まあ、不幸な事故で金が失われたのかもしれないな。それに聞くところによると、不慮の事故で当主を交代せざるを得ない商家もあるらしいな。仮に我々の連合で不幸な事故が起これば、誰が私の代わりを勤めるのだろうな･･･なあ、山上の」
「はぃっ！」
不意に名を呼ばれ、卓に付いていた男の商人が、裏返った声を上げた。
「お主も他人事ではないぞ？突然の不幸でお前は事故死、息子は病死などと言うことになったら･･･どうなるのだろうな？」
「は、はい･･･」
何か心当たりでもあるのか、商人はぎこちなく応えた。
「まあ、少々途中で話が飛んだ気もするが･･･皆、財産の扱いには気をつけろ、ということだ」
長はイスの背もたれに背を預けながら、息を付いた。
「それでは、今日はここまでだ。皆、己の商いにいそしむように」
彼女の解散の言葉に、出席者は頭を下げ、順番に一室を出ていった。
そして、長の刑部狸だけが残された。
「･･････」
無言のまま天井を見つめる彼女の耳に、小さな足音が入る。
目だけを部屋の入り口に向けてみると、ちょうど一人の男が入ってくるところだった。
「お疲れさま。今日も激しかったらしいな」
「ふふ、そうなのだよだぁりん」
会議の時とは打って代わった甘い言葉で、刑部狸は男に応じた。
「前に使い道の分からない大金が動いたって話しただろう？」
「ああ、誰かが殺し屋を雇ったかもしれないとか言ってたあれだな」
「今日そのことについて話したら･･･山上のところの坊主があからさまに表情変えてね。それで、一言釘を刺しておいたのだ」
「なるほど、通りで山上のが顔が青かったわけだ」
男は、つい先ほどすれ違った商人の顔色を思い返し、頷いた。
「全く、長の座がほしければ正々堂々挑めばよいのに」
「挑んだ結果、財産はおろか身ぐるみはがれて追い出されてはかなわないだろう」
単純な資金で計算しても、連合の商人のうち半分が手を組まねば、彼女と並ぶことはできない。
「なに、それぐらい強い商人になってもらわないと、大陸の商人と渡り合えるはずもない。もうジパングだけでちまちまと商売をしている時代は終わりつつあるのだからな」
そう、これからは世界規模でもののやりとりが始まるのだ。
小さな土地に閉じこもらず、柔軟な発想で商売をしなければ。
「さて、それじゃあそろそろ、連れていってもらおうか」
「はいはい」
男は刑部狸の言葉に、彼女の腰掛けるイスのそばまで歩み寄った。
そして背中と股の裏に手を差し入れ、力を込める。
すると、刑部狸の体が持ち上がった。
「ん、らくちんらくちん」
男の首に腕を回し、体を支えながら、刑部狸は満足そうに言った。
「それにしても、会議室から私室まで百歩もないだろう」
「その百歩も歩けないほど、私は会議に全力投球して疲れきっているのだ」
「じゃあ、次回から余力を残して会議に臨みなさい」
刑部狸の太腿に生えたふわふわの毛を感じながら、男はそう言った。
「えー、でも商人たちは全力で私に向かってくるから、全力で相手してあげないと」
「全力と言っても、罵倒はだめだぞ。下山さんところの刑部狸、泣いてたぞ」
「最近の若いのは、打たれ弱いなあ」
廊下を進みながら、二人は言葉を交わした。
やがて、男は開け放たれた刑部狸の私室に入り、あらかじめ強いておいた布団の上に、彼女をそっと横にした。
「はぁ、動かず布団だなんて、極楽極楽」
「それはよかった」
私室のふすまを閉め、男が刑部狸の方を振り返ってみると、彼女が男に向けて両腕を伸ばしているのが見えた。
「ほら、抱っこせんか」
「人にものを頼む態度か」
「だぁりん、抱っこして」
「はいはい」
男は彼女に歩み寄り、その両腕に体を預けた。
「はぁ･･･やっぱりこっちの方がいい･･･」
男の背中に両腕を回し、肩に顎を乗せながら、刑部狸が満足げにため息を吐く。
「前々から聞きたかったんだけど、運ぶ抱っことこっちの抱っこって、そんなに違うのか？」
「うむ。運ぶ抱っこは自動的に移動できるところがいいが、密着感ではこの抱っこには負ける」
男の体温を感じながら、彼女は答えた。
「じゃあ、仮に俺の抱っこに一回･･･」
「そんな商談持ちかけた奴から、だぁりんを買い取ってやる」
「即答だな」
一回いくらまでなら出せるか、という問いも言い切らないうちの返答に、男は苦笑した。
「じゃあ、全財産か俺か選ばないといけなくなったら？」
「どっちも守れる策を考えるが･･･どうしても片方だけ、というのならだぁりんだ」
刑部狸の言葉に、男はうれしさを感じた。
外では資産を増やすことにしか興味がないように思われているようだが、こうして金よりも大事なものを見つけている。
会ったばかりの頃の、金の亡者だった彼女とはもう違うのだ。
「ふふ、そう考えると、こうしてだぁりんを抱きしめられるのは最高の贅沢なのだな･･･」
男の背中を撫でながら、刑部狸は彼の耳元で囁く。
「だぁりん、もっと私のことも抱きしめてくれないか？」
「おいおい、今の時点で最高の贅沢じゃなかったのか？」
「ふふ、私は強欲だからな･･･」
「じゃあ、欲張りさんのご注文に応えてあげましょうか」
男は、布団と刑部狸の背中の間に腕を入れると、彼女の求めに応えてやった。
彼女は抱きしめられるままに、男の耳元でふぅ、とため息のように息をもらした。
肺から息が搾られたのだ。
「温かいな･･･」
「ああ」
互いの温もりを感じながら、二人は言葉を交わす。
「ん･･･何か固くなってきたな･･･？」
股間に触れる刑部狸の太腿の感触に、男が自然な生理的反応を起こすと、彼女はそう呟いた。
「ちょうど、私もしたくなってたところだ」
布団に横たわったまま、太腿を軽く持ち上げて、男の股間を軽く圧迫する。
ふわふわとした毛と、その奥の柔らかな太腿が、男に心地よさをもたらした。
「夕食があるから、あまり時間はかけられないぞ？」
「いい。少しでもいいから、だぁりんがほしい」
「全く･･･お前は欲張りさんだな･･･」
刑部狸の求めに、男は苦笑いで囁いた。
そして、一度腕をゆるめて体をはなすと、二人は自分の着物に手をかけた。
男が裾を広げて腰から下をむき出しにし、刑部狸が着物を袂を開いて胸元を露わにする。
屹立した肉棒と、やや小振りな乳房が、互いの目に入った。
「準備万端だな」
「お前も、乳首かちかちになってるじゃないか」
互いの興奮の証を確かめ合うと、男が刑部狸の着物の裾を広げ、彼女は足を開いた。
刑部狸の、毛むくじゃらの太腿とは裏腹に無毛の股間が晒される。たて一文字に刻まれた女陰は薄く開いており、桃色の内側を晒しながら、透き通った滴を一筋流していた。
「入れるぞ」
「あぁ･･･来て･･･！」
彼女の太腿を肩に担ぐようにしながら、男が腰を突きだした。
女陰に肉棒の先端が沈み、にじむ愛液に擦られながら亀裂の奥に入り込んでいく。
「ん･･･」
肉棒が根本近くまで入り込み、亀頭が子宮口に軽く触れた瞬間、刑部狸が小さく息をもらした。
屹立の帯びた熱が、子を育む小さな臓器を通じて、彼女の前進に広がっていく。
ただ抱き合っているのとは少し違う温もりに、彼女は胸の奥に疼きを感じた。
もっと、男と触れあいたい。もっと男の熱を感じたい。
その想いが彼に通じたのか、男はゆっくりと腰を揺すり始めた。
「う･･･ん･･･」
腰を引けば肉棒を引き留めようと絡み付き、腰を突き出せば逃すまいと締め付けてくる刑部狸の膣壁に、男は低く声を漏らしながら腰を動かした。
屹立に刑部狸の愛液が塗りたくられ、膣の凹凸や襞が屹立をなめらかに擦っていく。
張り出したカリ首が、連なる襞を弾くように擦っていき、肉棒の反りを正そうとするように女陰全体が締め付ける。
刑部狸の、柔らかで温かな肉穴のもたらす快感は、徐々に男を高ぶらせていった。
一方彼女の方も、男に快感を与えるばかりではなかった。
屹立の出入りの度、彼女の膣道が押し広げられる。そして肉棒自体の凹凸が、収縮する膣の形を変えていく。
折り重なる粘膜越しに、彼女の神経が擦り立てられる。
熱と胎内を擦る肉棒の感覚に、彼女もまた高見に向かっていた。
「く･･･う･･･」
「あ･･･そこ、ぁ･･･」
肉棒に絡み付く膣肉に男がうめき、女陰を押し広げられ至急を小突かれる感覚に刑部狸が喘ぐ。
いつしか男は、肩に担ぐように抱え込んでいる彼女の太腿に、指を食い込ませていた。
だが、男は自身の力みに気が付かず、刑部狸も太腿への力に気を向ける余裕はなかった。
男の腰を揺する動きが、徐々にぎこちないものになり、二人のつながり合っている場所から響く音が濡れたものに変わっていく。
すると腰を突きだした瞬間、不意に男の亀頭にこりこりと弾力のあるものが触れた。
「あ、あ･･･あぅ！」
同時に刑部狸が、一際高いあえぎ声を漏らした。
彼女の反応や、肉棒の感触としては子宮口に近いが、まだ肉棒の根本は女陰から顔を覗かせている。
では、何だろうか。
もちろん子宮口だった。
男の肉棒の脈動から、彼の絶頂の近さと肉棒の根本に蓄え込まれた精の気配に、刑部狸の子宮が下りてきているのだ。
放たれた精を一滴残らず啜りとろうと、亀頭と子宮口が接吻を交わす。
そして子宮口を小突かれ、子宮全体を突き上げられる感覚は、喉元まで肉棒が突き上げているような錯覚と強烈な快感を、刑部狸に伝えていた。
「あぅ･･･あぁ･･･！」
一突きごとに刑部狸が大きなあえぎ声を漏らし、背筋を反らせた。
そして彼女の両足に力がこもり、男の首をふわふわの毛に覆われた両足が締め付ける。
柔らかな毛がいくらか受け止めるものの、首を絞め上げられる息苦しさに、男は意識が少しだけもうろうとした。
だが、理性の力が弱まったせいか、彼女の膣肉のもたらす刺激が直接脳に届き、快感が強まる。
もはや男には部屋はおろか、自身と刑部狸以外のものが感じられなくなっていた。
そして、男が小さくうめき声を漏らし、腰を思い切り突きだした。
肉棒が根本まで女陰に埋まり、子宮口と接吻を交わした亀頭が、そのまま子宮を奥へと突き上げる。
その瞬間、男の我慢が限界に達し、大きな肉棒の脈動とともに写生が始まった。
「･･･ぁっ･･･！」
子宮を突かれたことに対する快感に、興奮にたぎる男の白濁がたたきつけられる刺激が加わり、刑部狸は口から掠れたあえぎ声を漏らした。
肺から空気が完全に絞り出されても、彼女の口は喘ぎを紡ごうと開いたままだった。
子宮口を打ち、すすり上げられて子宮の内側を灼く精液の感触が、彼女を絶頂に押しやったまま下ろそうとしないからだ。
腹の中に熱湯がそそぎ込まれたような熱と、ともすれば口から白い粘液がでるのではないかというような勢いが、彼女を襲う。
頭の中でばちばちと火花が散り、視界が真っ白に染め上げられていく。
そして、男がたっぷりと、数十度に及ぶ脈動の果てに射精を収めたところで、刑部狸もまた意識を焦がす絶頂から解放された。
「はぁ、はぁ･･･」
男が荒く息を付き、脱力した刑部狸の両足を放しながら、ふらりと倒れ込んだ。
だが、刑部狸の体の上でなく、彼女の隣を目指して、彼は少しだけ身をひねった。
敷き布団の上にどさりと彼は崩れ落ちる。
「はぁ･･･はぁ･･･」
男の無意識のうちの気遣いに、刑部狸は絶頂の余韻にたゆたいながらも、うれしさを感じた。
どんな時も、彼は自分を気遣ってくれているのだ。
疲労感が全身を満たしているが、彼女は半身を起こして、うつ伏せに横たわる男の体に自身の体を添えた。
猛りの名残の熱が彼の全身に残っており、その温もりが心地よかった。
「･･･ふふ･･･」
ゆっくりと呼吸を落ち着かせながら、刑部狸は小さく声を漏らした。
そこには、かつての金の亡者も、商人連合の長もおらず、ただ男の体と触れあっているだけで心地よいという、一人の女の姿しかなかった。

■作者メッセージ
すごい大商人ときたら、老け込んでも性的にはお盛んなイメージがあります。
こう、六十頃だというのに社長室で秘書をバックで責め立てながら、部下が報告のため入ってきて「す、すみません！お楽しみのところ失礼しました」とか言って出直そうとすると、「いい、そのまま報告しろ」とか言ったりとか。
七十迎えてもいかがわしい店にかよって、ベリーダンスとかレズビアンショーとかキャットファイトとかをかぶりつきで見物したりだとか。
八十過ぎのジジイだというのに、四十ぐらいのお姉さんにマッサージしてもらいながらおさわりまんこっちしたりとか。
そんぐらいお盛んなイメージがあるんですよ。
でも刑部狸さんは、表向きは冷酷で強引で恐ろしい商人でも、旦那さん相手には甘えまくりのかわいい子猫チャンがいいと思います。
本ＳＳの狸さんも、旦那さんとイチャコラしているところに配下の刑部狸さんが入ってきたら、とりあえず姿勢を正していつもの口調で『何のようだ？』と取り繕うとか。
そういうのがいいと思います。