人里離れた山の中に、二つの光があった。
青くゆらゆらと揺れる火だ。
だがそれは人の作った炎ではなく、とある稲荷の放った狐火だった。
支えも燃えるものもなく、ただ青い鬼火が二つ、木々の間をゆっくりと飛んでいる。
「はあ、男ほしいわぁ」
ゆらゆらと揺れる鬼火が、不意に言葉を発した。
「この山を下りれば村があるはずだから、そこまで我慢よ」
もう一方の狐火が、炎を揺らしながら応える。
「でも体が疼いて疼いてしょうがないのよぉ！ほら、体が火照って燃え上がっているみたい！」
「まあ、本当に燃えてるんだけどね」
叫びを上げる狐火に、もう一方が比較的冷静な声で応じる。
「あー、もうメラメラする･･･本当に村ってあるの？」
「主から聞いた話だと、五十年ぐらい前にあったらしいけど･･･って、ムラムラじゃないんだ」
「ムラムラを通り越してメラメラきてるのよ！このままだとモラモラに突入するわ！あー、チンポほしいー！」
人の姿をしていたら手足でも振り回しているのだろうか、狐火が炎を膨れ上がらせ、大きく揺れる。
「これで山下りて村がなかったら本当に私、メラメラどころじゃ･･･あ！」
「何？」
「私決めました！山下りて村がなかったら、私その辺の木の枝に処女捧げます！」
「そう、何言ってるの」
狐火は、明らかに様子のおかしい相棒の言動に、自身が帰って冷静になっていくのを感じた。
確かに彼女自身も男がほしいとは思っているが、相棒の言うメラメラほどはない。むしろ相棒がメラメラしているおかげで、ムラムラがミラミラに縮退したような気がする。
「やーい、ちんぽやーい！」
「静かにしなさいよ･･･」
二つの狐火は言葉を交わしながら、木々の間を通り抜けていった。
やがて、二つの鬼火は木々の間を抜けた。
斜面はいつの間にか平地になっており、二つの狐火は自分たちが山を抜けたことを悟った。
「あ、あそこにチンポが！」
「村でしょ･･･」
相棒の言葉にそう言いながらも、狐火は夜の闇の中にいくつかの灯火が浮かんでいるのを認めた。
村と言うにはやや規模が大きい。どうやら、五十年の間にだいぶ広がったようだ。
「はーい！チンポ見つけました！イってきまーす！」
そう声を上げながら狐火は勢いよく加速し、青い尾を引きながら飛んでいった。
「あ･･･」
狐火は飛んでいった相棒を見送りながら声を漏らした。
せめて町のどのぐらいを縄張りにするか決めておかないと、同じ男を取り合うことになるかもしれない。
だが、飛んでいった狐火の勢いを見ると、彼女が獲物をとらえる方が先のようだ。
「･･･気配を読めば大丈夫よね」
相棒の気配がしない男ならセーフ。
狐火はそう考え、ミラミラと疼く体をなだめながら、町に向けて飛んでいった。



暗い町の通りを、一人の男が歩いていた。
手には提灯を持ち、どこかふらつく足取りで進んでいる。
今の今まで仕事をしていたのだ。
提灯の明かりが照らす顔には、疲労が色濃く浮かんでいた。
着物の下では、疲れのあまり肉棒が屹立していたが、男は息子の相手をするより、家に帰って横になりたかった。
だが、ふと男の足取りが止まった。
通りの向こうに、明かりが一つ浮かんでいたからだ。
ゆらゆらと揺れる青い光は、むき出しの炎のようだった。
提灯も使わず、青く燃えるたいまつでも直接持っているのだろうか。
だが、男は徐々にこちらに近づく青い光に違和感を覚え、ついにその正体に気がついた。
青い炎を持つものが、誰もいないのだ。
ただ、青い火の玉が宙に浮かび、男に向けて近づいている。
「人魂･･･！」
男はひきつった声でそう漏らし、きびすを返して駆け出そうとした。
しかし、数歩も進まぬうちに彼の足がもつれ、その場に倒れ込んでしまった。
取り落とした提灯が地面に転がり、明かりが消える。
「ひ･･･！」
自分の持っていた明かりが消え、青い炎の放つ光によって自分の影が描き出されたことに、男は悲鳴を漏らした。
そして、疲れと恐怖によりろくに動かない足をもがかせながら、彼は逃れようとする。
だが、身の丈ほども動かぬうちに、男は動きを止めた。
自分の真上に人魂がいる。降り注ぐ青い光に、彼はそう悟った。
見たくない。このまま気を失いたい。
男はそう願うが、意志とは裏腹に彼の顔が動き、肩越しに振り返っていた。
すると、頭の中で重い描いていたのと全く同じ位置に、青い火が浮いていた。
「ああ･･･」
「ねえ、精気をくれないかしら？」
男に向けて、不意に女の声が降り注いだ。
人魂だけでも恐ろしいというのに、姿の見えない幽霊までいるのか。
男は、全身をいやな汗が濡らし、体を冷やしていくのを感じていた。
「あぁ、こっちの方がいいわね･･･」
怯える男に、人魂はそう呟くと、一気に膨れ上がった。
強まる火勢は、男の着物に火がつきそうなほどだったが、不思議と熱くはなかった。
そのかわり、瞬間的なまばゆさが男の目を射り、彼の目蓋を下ろさせた。
「っ･･･！」
まばゆさに思わず閉じてしまった目を開くと、男は自分の上に青い少女が浮いているのに気がついた。
細身の体つきに、すらりとした手足。背中に届きそうなほどの長い髪が、衣服の代わりに真っ青な炎をまとっている。
そして男は、青い少女の頭髪の間から、三角形の尖った耳が飛び出していることに気がついた。
「え･･･狐･･･？」
「そう、私は狐火。体が熱くてしょうがないから、あなたに抱いて冷ましてほしいの」
狐火が名乗りとともにそう続けた。
だが、混乱する男は、彼女の言葉に何の反応も返せずにいた。
「･･･さっきのは忘れて･･･」
狐火はどこか恥ずかしそうにそう言うと、気を取り直したように続ける。
「用件は簡単よ。私と交わって、精を注いでほしいの」
「な、何で僕が･･･」
「何日もシてないんでしょう？ため込まれた精の気配がぷんぷんするわ」
仕事のせいで、ここしばらく抜く余裕もなかった。
しかし、男は疲れはてており、狐火に対する恐怖のおかげで意識を保っているだけで、こうして地面に横たわっているだけで眠ってしまいそうだった。
「ほら、ここもこんなにして･･･」
青い炎をまとった狐火の足が、男の股間に触れる。
疲労故の生理現象に、男のそこは屹立していた。
「私の姿を見て、こんなにしたのかしら？」
「ち、違う･･･」
見せつけるように細身の体を撫でる狐火に、男は呻くように言った。
「仕事で、疲れていて･･･」
「でも、こうされると気持ちいいんでしょ？」
狐火の足に力がこもり、衣服越しに圧迫される。
瞬間、快感が生じ、男の体を震わせた。
「･･･！」
「ふふ、言葉も出ないのね」
下腹に肉棒を押し当て、土踏まずに裏筋を当てながら、狐火は男の反応に唇の端をつり上げた。
そして、狐火が男の股間から足を離すと、彼のそこは着物を押し上げて屹立していた。
「準備万端ね」
男を見下ろすように浮いていた狐火が、ふわりと彼の上に舞い降りて、男の帯をゆるめ、着物をはだけさせた。
すると布の下から屹立した肉棒が顔を出す。
「うふふ、元気ね･･･」
肉棒に燃え上がる指で触れながら、狐火が呟いた。
男の蓄え込んだ精の気配を感じているのか、彼女の表情にはいくらかの興奮がにじんでいる。
一方男も、肉棒に触れられているという事実に、屹立を脈動させて自身の興奮を表していた。
熱のない、ただ狐火の指にまとわりつき、肉棒をチロチロとくすぐる青い炎の感触が、徐々に彼を高ぶらせているのだ。
「ん･･･もういいかしら･･･」
狐火が、声音にかすかな艶を加えながら、指を離した。
そして、両足を広げて、毛一本生えていない慎ましやかな女陰を、彼女は指で広げた。
青い炎をまとっているが、彼女のそこが人間ならばきれいな桃色をしているであろうことは、想像に難くなかった。
「入れるわね･･･」
自身の興奮を表に出さぬように声を低くしながら、狐火がそうささやく。
すると、彼女の体がゆっくりと沈み、広げられた女陰に男の屹立が触れた。
一瞬の抵抗感の後、肉棒が柔らかなものに包まれていく。
「ぅあ･･･！」
男は、狐火の胎内の感触に、思わず声を漏らしていた。
狐火の足と指によって、高まりきっていた男の興奮は、肉棒に直接加えられる締め付けと弾力と柔らかさに、絶頂に向けて上り詰めつつあった。
「ん･･･そんなに声を漏らして･･･嬉しい、わ･･･んっ･･･」
身悶えする男に、狐火は言葉の合間に吐息を挟みながら、そう告げた。
そして、胎内に納めた屹立を、軽く腰を回して刺激する。
濡れた膣壁が肉棒をがっちりと掴み、愛液のぬめりでもってどうにか擦りたてる。
狐火の胎内の感触は、春の海のように温かであると同時に、蛇の締め付けのように苛烈だった。
「うぅ･･･あ、あぁ･･･！」
数日分の禁欲と、狐火の手足の快感の蓄積に、男が呻く。
そして、胎内の肉棒の脈動に、狐火は男の絶頂が近いことを悟った。
「ほら、我慢なんかしないで･･･たくさん出しなさい･･･！」
待ち望んだ精の迸りを腹で受け止められる。かきむしりたいほどに切なく疼く下腹をなだめながらも、狐火はそう男に向けて声を上げていた。
すると、男は彼女の言葉に呼応するように、腰を震わせながら狐火に精を放った。
「･･････！」
押し殺した呻き声のような音が、男ののどから響き、彼女の胎内に熱く粘ついたものがそそぎ込まれる。
「ん･･･！」
青い炎に包まれた彼女の体がのけぞり、膣奥や子宮口を白濁が叩く感触に彼女は声を漏らした。
瞬間、狐火も男に遅れて絶頂に押し上げられ、意識の底が白い炎に焼き尽くされるような錯覚に身を委ねた。
狐火の全身がびくびくとけいれんし、彼女の膣内もまた肉棒を断続的に締め上げる。
そして、男の精の迸りが弱まり、少しだけ萎えた屹立が狐火の胎内の圧力に屈して押し出されたところで、狐火の絶頂は終焉を迎えた。
「はぁはぁはぁ･･･」
狐火は、荒く息を吐きながら、胸中を満たす満足感を味わっていた。
腹の中の熱とぬめりが、なにもかもを満たしていくような感覚をもたらす。
だが同時に、狐火は物足りなさも感じていた。
もっと腹の奥に注いでほしい。
もっと腹の奥を突いてほしい。
そんな欲求と衝動が、狐火の胸の中を焦がす。
「ほら･･･もっと頑張れるでしょ･･･？」
呼吸を整えた狐火が、目蓋を下ろした男にそう呼びかける。
だが男は、彼女の言葉に応じず、ただゆっくりと呼吸を重ねるばかりだった。
「ねえ、ちょっと･･･」
男の肩に手を伸ばし、軽く揺する。だが、男は目を閉じたままだった。
まるで、眠っているように。
「あ･･･疲れてる、って言ってたわね･･･」
気を失うように眠り込んでしまっている男に、狐火は彼の言葉を思い出した。
あのときは、狐火自身から逃れるための方便かと思ったが、こうしてみると本当に疲れきっていたらしい。
狐火の胸中に、男に対する申し訳なさと、こんなに疲れるまで働いていた男に対する同情が芽生えた。
申し訳なさと同情は、彼女の胸の中で幸福感と欲望に結びつき、やがて一つの感情に練り上げられていった。
「･･･よし･･･」
狐火は小さくうなづくと、男の体に手を伸ばした。



「う、うぅ･･･」
男は、うめき声を漏らしながら目を覚ました。
今の仕事に就いてから、何時に横になろうとほぼ同じ時刻に目を覚ますことができるようになった。
二度寝をしたいという欲もあったが、それをしてしまっては職を失ってしまう。
男は、二度寝の誘惑を断ち切るため、掛け布団を跳ねのけながら身を起こした。
「うぁぁ･･･あぁぁ･･･」
伸びをしながらあくびをする。
昨夜は余りに疲れていたためか、妙な夢を見た。
青い炎に包まれた、人魂から変化した狐の少女･･･確か狐火と交わる夢だ。
股間を調べてみるが、何ともない。どうやら、淫夢はみたものの夢精には至らなかったようだ。
連日の禁欲生活のせいだろうか。
「さて、と･･･」
男は布団から立ち上がり、寝室を出ようとした。
朝食を作って、今日も一日がんばらねば。
どこからか漂う味噌汁の香りに腹を空かせながら、彼はふすまを開いた。
「あら、おはよう」
だが、寝室から続く居間にいた狐火の姿に、男はふすまを開いたまま身を固めた。
「朝ご飯できてるわよ」
青い炎をまとった裸体を、男の割烹着で隠したまま、湯気の立つ膳を用意しつつ彼女は言った。
なぜ、夢の中で出てきた狐火が、朝食の準備をしているのだろう。
「そうか、夢か」
男はそう結論づけると、軽く腕をつねった。
痛い。
「夢じゃないわよ。どのぐらい覚えてるかは知らないけど、昨日の晩のことは本当よ」
茶碗とお椀に、刻んだ漬け物の小皿を並べながら、狐火が男に言う。
「昨日、私があなたを襲って、あなたと交わって･･･あなたは眠るように失神したわ」
「ああ、僕の見た夢の通りだ」
「だから夢じゃないって･･･まあいいわ」
狐火は軽く頭を振ると、続けた。
「その後、私は失神したあなたの体を操って、どうにかあなたの家まで運んであげたの。なぜかわかるかしら？」
「ええと･･･そのまま放置して、何かあったら寝覚めが悪いからかな？」
「それもあるけど･･･あなたのことが気に入ったのよ」
狐火は、男をまっすぐ見つめたままそう言った。
「精の質というか、体の相性というか･･･そう言うのが私好みだったの。でも、仕事で忙しくて体調も思わしくないらしいじゃない？だからこうやって家まで連れ帰ってあげて、朝晩のご飯の準備をしてあげようってことにしたのよ」
「そんな。飯の準備ぐらい僕一人で」
「その準備と片づけに時間をとられるから、あまり休めないんじゃないかしら？」
狐火の言葉に、男は反論できなかった。
「まあ、これからは私がご飯の準備や、掃除をしてあげるから･･･代わりに、夜は私の相手をしなさい。いいわね？」
「ええと、でも･･･ほとんど初対面の相手にそんなことを頼むのはちょっと」
「かわいいお嫁さんが押し掛けたと思って甘えなさい」
狐火は、そう言葉を濁す男に言った。
「それより、味噌汁さめちゃうから、早く食べなさい」
「あっはい」
狐火の有無をいわさない口調に、男はおとなしく従った。
用意された膳の前に座り、箸を手に取りながら並ぶ料理を見る。
ご飯に味噌汁に焼き魚と、漬け物を刻んだ小皿。
男が今朝作ろうと思っていた献立だ。
「それと、必要ならお弁当作るけど、どうする？」
「うーん、じゃあお願いしようかな」
仕事の合間に外に食べに言っていたが、彼女の言葉に甘えることにした。
「なるべく早く、とは言わないけど、体をこわさない程度に帰りなさいよ？」
「うん、なるべく努力はする」
押し掛けた嫁と言うよりお母さんだな、と男は内心で苦笑しながら、味噌汁に唇をつけた。

■作者メッセージ
狐火さんに裸割烹着してもらいたい！
裸割烹着してもらうためには、嫁になってもらわないと。
嫁になってもらうためには、体の相性はいいけど、付きっきりで面倒見ないといけないって状況にしないと。
付きっきりで面倒見ないといけないって状況にするには、病弱か仕事でお疲れ設定つけないと。
仕事でお疲れ設定つけたからには、疲れマラパワーを「あら元気じゃない」ってシチュ入れないと。
疲れマラパワーを「あら元気じゃない」ってシチュに導くためには、狐火さんにそういう勘違いするレベルでムラムラしていてもらわないと。
狐火さんにムラムラしていてもらうには、男探しの旅をしてもらわないと。

そんな感じで、私はＳＳを書いているのです。