「
薄暗い荷馬車の中で、少年ぼんやりと空を眺めていた。
彼を含む数人の少年達が、半ば売られるような形で奉公に出されてから、既に数日が経過している。
同乗していた友人達は一人、また一人と道中の町や農場で下ろされ、今は彼一人しか荷台に乗っていなかった。
この数日で少年は生家のある村の方角はおろか、そこまでの距離すら分からなくなっていた。
やがて、荷馬車がその速度を落とし、小さな揺れと共に止まる。
『着いたぞ、降りろ』
御者の言葉に従い、少年はかすかに痛む尻を擦りながら、荷馬車を降りた。
『あれがお前の新しい家だ』
少年が逃げないよう、その小さな肩にごつごつとした手を載せながら、御者はある方向を指し示した。
彼の指先には大きく平たい木造の建物と、それに寄り添うように立てられた三階建ての家屋があった。
その向こうには柵に囲まれた草原が広がっており、少年にもそこが牧場であることが分かった。
『さ、着いて来な』
男は肩を掴んだまま、少年に歩くよう促す。
やがて二人は木造の家屋の前に着いた。
男は握りこぶしを作ると、建物の玄関のドアを力強くノックする。
『･･･はい』
しばしの間をおいて、女の声と共に玄関が開いた。
ドアの向こうから顔を覗かせたのは、三十過ぎほどの髪の黒い女だった。
『どうもお待たせいたしました！お約束の奉公人を連れてまいりました！』
現れた女に、男は少年の頭を抑えつつ、自らも深々と頭を下げた。
『ご希望通り、若くて頑丈そうで、大人しめの男です！お眼鏡に叶うといいのですが･･･』
女は顔を上げた少年に、頭の上から爪先まで、品定めするように視線を這わせた。
『ふぅん･･･いいじゃない』
『へ！毎度ありがとうございます』
女の言葉に、男は再び頭を下げつつ礼を述べた。
『それじゃあ支払いはいつも通り･･･』
『へぇ！宜しくお願いします！』
『いつもありがと、今度もお願いね』
『へ！へ！どうぞ今後ともご贔屓に！』
男は何度も頭を下げると、少年をその場に残し、歩み去っていった。
『･･････』
『さて、と･･･良く来てくれたわね、長旅で疲れたでしょう？』
足早に離れていく男の姿を見送る少年に、女が声をかけた。
振り返ると、先程まで男に向けていたものとは違う、優しい笑みを浮かべた女の姿が、彼の目に映った。
『まずは上がって、ちょっと休みなさい』
彼女はドアを大きく開き、少年を招き入れた。
『は、はい･･･』
ぎこちなく応えつつ、彼は建物の中に入る。
すると彼を迎えたのは、大きなテーブルに椅子が何脚か並べられた部屋だった。
大きなテーブルや部屋の様子も、少年は生家のある村では見たことがなかった。
『ここは食堂よ。ウチで働いているコたちが、ここで御飯を食べるの』
物珍しげに視線をあちこちに向ける少年に、女が簡単に説明する。
『とりあえず、そこに座って待ってて。飲み物を持ってくるわ』
彼女はそういうと、部屋の奥に設けられた扉をくぐり、隣の部屋へ消えていった。
少年は異様に広い食堂に戸惑いつつも、テーブルの端に位置する席に着き、女を待った。
程無くして再び扉が開き、女が出てきた。
その両手には大きなコップと、素焼きの水差しが握られている。
『お待たせ』
女は少年の側に歩み寄ると、手にした大きなコップを彼の前に置き、水差しを傾けた。
素焼きの水差しから、真っ白なミルクがコップへ注がれる。
『ウチで今朝搾ったばかりの牛乳よ。さ、どうぞ』
『あ、ありがとうございます･･･』
彼は緊張しつつも礼をいい、コップに手を伸ばした。
そしてコップの縁に唇をつけ、牛乳を飲んだ。
微かなとろみと僅かな甘みを含んだ、濃厚な味わいの牛乳が、少年の舌の上を滑り、胃の腑へ流れ込んでいった。
『･･････ぷはぁ･･･』
牛乳をすべて飲むと、少年は息を着く。
同時に、彼は身体が温まってくるのを感じた。
『･･･全部飲んだわね･･･』
特に喉が渇いたわけでもないのに、大きなコップの牛乳を飲み干した少年に、彼女は笑みを浮かべながら続ける。
『さ、そろそろウチの説明と案内をしてあげるわ･･･さ、行きましょう』
『あ、はい･･･』
身体の奥から湧いてくる温もりに戸惑いながらも、彼は椅子から立ち上がった。
『それで、ここが物置。あまり使わない道具はいつもここにおいてるの』
『はぁはぁ･･･』
女の後について、家屋の各部屋の説明を受けながら、少年は呼吸を荒くしていた。
牛乳を飲んだ直後から感じていたからだの温もりは、もはや発熱といっていいほどに高まっていた。
そしてそれにあわせるように呼吸も荒くなり、額には汗の玉が浮かんでいた。
まるで、辺りを思い切り走ってきた直後のようだ。
ただ一点、少年が欠片も疲労を覚えていない点を除けばだが。
『はぁ、はぁ･･･』
『･･････それじゃあ、次は牛舎に行きましょうか･･･』
女は少年の容態を認めつつも、特に言葉もかけず足を進めていった。
それを彼は、ややおぼつかない足取りで追う。
やがて二人は、一枚の扉の前に着いた。
『この先が牛舎よ』
『はぁ･･･はぁ･･･』
少年の意識は熱に侵され受け答えも危ういほどだったが、女は構わず扉を開き、少年を連れて入った。
広い牛舎は柵で細かく区切られ、その間を若い女性達が行き来していた。
だが、柵と柵の間に居るのは牛ではなく、豊満な体つきをした一糸まとわぬ女性たちであった。
『えっ･･･？』
熱に侵されているとはいえ、流石に少年の意識もこの異様な光景にぼんやりと反応していた。
『あ、オーナー！』
牛舎を行き交う女性の一人が、入ってきた二人に気が付き声を上げた。
『新しい子ですか？』
『ええ、さっき着いたばっかり』
全裸の女性が何人も首輪で柵に繋がれている側で、何事もないかのように言葉を交わすと、女は少年を連れて進んでいった。
そして、牛舎の奥の壁に設けられた扉の前で足を止める。
『あなたにはここで働くのはここよ』
そう言いながら彼女が扉を開いて少年を入れると、彼を熱気と濃密な匂いが包み込んだ。
部屋の中に居たのは床に四つんばいになり、尻を扉に向ける姿勢で繋がれた女性達だった。
んもぉぉっ！んもぉぉぉっ！！
女性達が首を捻り、少年の姿を認めるや否や牛のような鳴き声を上げ出した。
彼女らの声量と異様な光景に、少年は思わず退こうとした。
だがその肩と背中を、女は受け止めた。
『怖がらなくてもいいのよ･･･ウチで飼っているのはホルスタウロスだから･･･』
少年を迎え入れたときとは全く異なる、淫靡な笑みを浮かべながら女は言葉を続けた。
『魔物だけど、性質はとてもおとなしいし、乳牛よりいいミルクを出すのよ･･･』
恐怖によっていくらか正気を取り戻した少年が、つながれた女性達の尻から生える牛のような尾と、頭髪の間から覗く短い角に気が付いた。
『ホルスタウロスも牛も人も、妊娠しないとミルクが出ないのよ･･･それで昔は一頭一頭に夫を宛がってたの。
でもね･･･最近の研究で、一人の男を複数のホルスタウロスが奪い合う状況になると、ミルクの質と量が向上するってことが分かったの･･･。
それで、あなたにこのコたちと交尾して欲しいの』
『えぇ･･･え･･･？』
『大丈夫、さっき特製ミルクを飲んだでしょう？ほら、ホルスタウロスさんたちも、交尾したいって言ってるわよ？』
少年の視線の先では、ホルスタウロスたちがねだる様な鳴き声を上げつつ、その大きな尻を揺すっていた。
尻尾が揺れ、尻の間から覗く生殖器が赤い肉を晒し、ぼたぼたと粘液を滴らせている。
同時に、部屋の中に立ち込める匂いがその濃さを増し、引いていた少年の体内の熱を再び燃え上がらせた。
『あ･･･あぁ･･･！』
『ふふ･･･行ってらっしゃい･･･』
熱に侵され、臭いに誘われてふらふらと歩み出した少年に、女はそう声をかけた。
彼は一番近くに繋がれていたホルスタウロスの下に歩み寄ると、ズボンからパンパンに膨らんだ肉棒を取り出した。
そして微かに震える手を添え、少年は大きなホルスタウロスの尻に覆いかぶさるようにしながら、愛液で濡れそぼった穴に挿入した。
熱く濡れた柔らかな肉が、彼の分身を受け入れ、包み込んだ。
ホルスタウロスの胎内はその体格に見合った大きさで、未成熟な少年のペニスには少々広すぎたが、それでも柔らかな膣肉のもたらす感触は十分だった。
『あぁっ！』
ホルスタウロスの膣内のもたらす快感に、少年は声を漏らす。
快感は少年の足から力を奪うが、それでも彼は彼女のややくびれた腰に腕を回し、尻にしがみつくようにしながら耐えた。
そして特製のミルクと室内に立ち込める匂いに意識を侵され、彼はオスの本能に従って腰を揺すり始めた。
小さいながらも屹立する男根に、ホルスタウロスの膣が緩く絡みつく。
柔らかなホルスタウロスの胎内で彼が限界に達したのは、すぐのことだった。
『･･･っ･･･っ！』
両腕に力を込めてホルスタウロスに尻にしがみつき、嬌声をかみ殺しながら彼は熱い膣内に精を放った。
んもぉぉ･･･
胎内に迸る熱い精の感触に少年がしがみつくホルスタウロスが陶然と声を漏らした。
んもぉぉぉっ！んもぉぉぉっ！！
射精の余韻に浸る少年の耳を、不意にホルスタウロスたちの鳴き声が打つ。
その声は少年下部屋に入れられたときよりも大きかった。
『あらあら、このコたちも早くあなたと交尾したいって･･･あなた大人気ね。
気持ちよすぎて動けないのなら手伝ってあげるわ･･･』
ホルスタウロスの尻にもたれ掛かったまま荒く息をつく少年に声をかけると、女は彼の後ろに歩み寄って彼の身体を抱え上げた。
ホルスタウロスの膣から、硬さを保った男根が引き抜かれ、とろりと白い粘液が溢れる。
『さあ、次のコが待ってるわ･･･頑張ってね･･･明日も、明後日も、ずっと･･･ずっと･･･』
もぉぉぉっ！！んもぉぉぉ！！
むせ返りそうなほど濃厚な匂いの立ち込める一室で、女は腕の中の少年を、そう励ました」
「･･････」
「･･････」
男が発言を終え、並べられたベンチに腰を下ろしても、誰も口を開かなかった。
「あ･･･アウトだ･･･」
「あぁ･･･こいつぁ･･･アウトだ･･･」
しばしの間をおいて、そよ風に木の葉が揺れた時のように、夜中に家屋が軋みを立てるように、ごく小さいものだが声が男たちの間から漏れ始めた。
「ゴンザレスのヤツ･･･またか･･･」
「（全年齢）、だってのに･･･なんで･･･」
「とにかく、コイツはアウトだ･･･！」
「アウトだ！」
「アウトだ！」
「アウトォォォ！」
並べられたベンチに座る男たちの視線は一点に集中し、まばらだったその声は混ざり合い、大きなものになっていた。
ある者は大きく目を見開き、ある者は拳を振り上げ、今にも視線の的になっている男を袋叩きにせんほどの興奮に辺りは包まれていた。
だが、誰一人として立ち上がるものは居なかった。
「議長！」
男の一人が、声と共に並べられたベンチの先に顔を向けた。
そこにあったのは、彼らが場所を借りている教会の説教壇である。
「ゴンザレスの退場を要求します！」
説教壇に立つ四十代ほどの男に向けて、彼はそう声を上げた。
「ま、待ってください･･･」
説教壇の男は、少々前かがみになりながらそう応えた。
「待っても勝ってもありません！先程のゴンザレスの発言は明らかにアウトです！」
教会のベンチに腰掛けたまま、男は発言する。
「そうだ！いくらなんでもありゃアウトだ！」
「今回の議題は『働く女の子のコロリと来そうな台詞（全年齢）』のはずだ！」
「そうだ！働いている女の子がどこに出てたってんだ！」
「そこじゃねえよ！」
「てめえ、オーナーが女の子じゃないって言いたいのか！？」
「だからそこじゃねえよ！」
ベンチに腰掛けたまま、男たちが口々に発言する。
「み、皆さん！静粛に！どうか静粛に!」
若干前かがみの姿勢のまま、説教壇に立つ男が眼下で繰り広げられる口論を収めようと声を張り上げる。
だが口論は収まるどころか、益々加熱する一方だった。
「働く女の子って、牛舎に一人居ただろーが！」
「あんなのカウントできるか！」
「それよりもっと重要な問題があるだろ！？」
「そうだ、オーナーの外見がまだ定まってない」
「オーナー明らかに三十過ぎだろうが！」
「十分女の子じゃねえか！」
「お前はしばらく黙ってろ！」
誰も立ち上がらず、言葉を交わしているだけだったが、そこはまさに乱闘の場、いや、戦場だった。
「はぁ･･･どうしましょうか、ヨーガン」
溜息と共に議長が説教壇から身を乗り出し、説教壇の下に置かれたベンチに腰掛ける二人の男に声をかけた。
一人は疲れたような表情で背もたれに身を預け、もう一人は木の板とペンを手にしている。
「･･････」
ペンと木の板を手にした男は、それを傍らにそっと置くと無言で立ち上がった。
そして深く息を吸い、舌戦を繰り広げる男たちに向けて言い放った。
「黙れぇっ！！」
『っ･･････！』
前列のベンチに腰掛けていた者が、とっさに耳を押さえるほどの声量に、男たちは静まり返った。
「集会が荒れるのは毎度のことだが･･･今回は輪をかけて荒れたな･･･」
「し、しかしヨーガンさん･･･今回のゴンザレスの発言は･･･」
「それを承知の上で言っている」
恐る恐る声を上げた村人を、彼は一喝した。
「確かにゴンザレスの発言は、毎度のことだがアウトだ。
だが、先程の口論は何だ？一見ゴンザレスを責めているようだったが、実際のところ多数の派閥が攻守入り乱れての混戦だったではないか」
その場に居る若者は勿論、ヨーガンと呼ばれた男より年上の者までもが父親に叱られている時のような顔で、彼の話を聞いていた。
「私は舌戦をやめろといっているわけではない。
混戦を避けろ、他者の発言に横槍を入れるな。これだけだ。
以上」
彼は若干前かがみの姿勢のまま説教を結び、ベンチに腰を下ろした。
「なお、今回の集会はここで中断だ。全員帰宅し、各自反省するように」
「えー･･･と、いう事ですので今回の集会はこれで終わりです。次回の議題は『魔物に言われたらかなりぐっとくる台詞（全年齢）』です。
それでは解散」
彼の言葉と議長の宣言に、男たちはがっくりとうな垂れ、小さく溜息をつきながらベンチから立つ。
そして若干前かがみの姿勢のまま、教会から出るべくゆっくりと彼らは足を進め始めた。
「それとゴンザレス。今回の件について、お前にペナルティを与える」
男たちに混じって、教会を出ようとしていたことの中心人物に、ヨーガンは不意に声をかけた。
「今回の発言内容について、詳細な内容を後日談も含めて構成し、私たちの小屋まで提出に来るように」
「「「「･･･って、それのどこがペナルティだ！」」」」
一瞬の間も置くことなく、ヨーガン以外の全員が声を揃えて突っ込んだ。
こうして、エルンデルストの夜は更けていく。
彼を含む数人の少年達が、半ば売られるような形で奉公に出されてから、既に数日が経過している。
同乗していた友人達は一人、また一人と道中の町や農場で下ろされ、今は彼一人しか荷台に乗っていなかった。
この数日で少年は生家のある村の方角はおろか、そこまでの距離すら分からなくなっていた。
やがて、荷馬車がその速度を落とし、小さな揺れと共に止まる。
『着いたぞ、降りろ』
御者の言葉に従い、少年はかすかに痛む尻を擦りながら、荷馬車を降りた。
『あれがお前の新しい家だ』
少年が逃げないよう、その小さな肩にごつごつとした手を載せながら、御者はある方向を指し示した。
彼の指先には大きく平たい木造の建物と、それに寄り添うように立てられた三階建ての家屋があった。
その向こうには柵に囲まれた草原が広がっており、少年にもそこが牧場であることが分かった。
『さ、着いて来な』
男は肩を掴んだまま、少年に歩くよう促す。
やがて二人は木造の家屋の前に着いた。
男は握りこぶしを作ると、建物の玄関のドアを力強くノックする。
『･･･はい』
しばしの間をおいて、女の声と共に玄関が開いた。
ドアの向こうから顔を覗かせたのは、三十過ぎほどの髪の黒い女だった。
『どうもお待たせいたしました！お約束の奉公人を連れてまいりました！』
現れた女に、男は少年の頭を抑えつつ、自らも深々と頭を下げた。
『ご希望通り、若くて頑丈そうで、大人しめの男です！お眼鏡に叶うといいのですが･･･』
女は顔を上げた少年に、頭の上から爪先まで、品定めするように視線を這わせた。
『ふぅん･･･いいじゃない』
『へ！毎度ありがとうございます』
女の言葉に、男は再び頭を下げつつ礼を述べた。
『それじゃあ支払いはいつも通り･･･』
『へぇ！宜しくお願いします！』
『いつもありがと、今度もお願いね』
『へ！へ！どうぞ今後ともご贔屓に！』
男は何度も頭を下げると、少年をその場に残し、歩み去っていった。
『･･････』
『さて、と･･･良く来てくれたわね、長旅で疲れたでしょう？』
足早に離れていく男の姿を見送る少年に、女が声をかけた。
振り返ると、先程まで男に向けていたものとは違う、優しい笑みを浮かべた女の姿が、彼の目に映った。
『まずは上がって、ちょっと休みなさい』
彼女はドアを大きく開き、少年を招き入れた。
『は、はい･･･』
ぎこちなく応えつつ、彼は建物の中に入る。
すると彼を迎えたのは、大きなテーブルに椅子が何脚か並べられた部屋だった。
大きなテーブルや部屋の様子も、少年は生家のある村では見たことがなかった。
『ここは食堂よ。ウチで働いているコたちが、ここで御飯を食べるの』
物珍しげに視線をあちこちに向ける少年に、女が簡単に説明する。
『とりあえず、そこに座って待ってて。飲み物を持ってくるわ』
彼女はそういうと、部屋の奥に設けられた扉をくぐり、隣の部屋へ消えていった。
少年は異様に広い食堂に戸惑いつつも、テーブルの端に位置する席に着き、女を待った。
程無くして再び扉が開き、女が出てきた。
その両手には大きなコップと、素焼きの水差しが握られている。
『お待たせ』
女は少年の側に歩み寄ると、手にした大きなコップを彼の前に置き、水差しを傾けた。
素焼きの水差しから、真っ白なミルクがコップへ注がれる。
『ウチで今朝搾ったばかりの牛乳よ。さ、どうぞ』
『あ、ありがとうございます･･･』
彼は緊張しつつも礼をいい、コップに手を伸ばした。
そしてコップの縁に唇をつけ、牛乳を飲んだ。
微かなとろみと僅かな甘みを含んだ、濃厚な味わいの牛乳が、少年の舌の上を滑り、胃の腑へ流れ込んでいった。
『･･････ぷはぁ･･･』
牛乳をすべて飲むと、少年は息を着く。
同時に、彼は身体が温まってくるのを感じた。
『･･･全部飲んだわね･･･』
特に喉が渇いたわけでもないのに、大きなコップの牛乳を飲み干した少年に、彼女は笑みを浮かべながら続ける。
『さ、そろそろウチの説明と案内をしてあげるわ･･･さ、行きましょう』
『あ、はい･･･』
身体の奥から湧いてくる温もりに戸惑いながらも、彼は椅子から立ち上がった。
『それで、ここが物置。あまり使わない道具はいつもここにおいてるの』
『はぁはぁ･･･』
女の後について、家屋の各部屋の説明を受けながら、少年は呼吸を荒くしていた。
牛乳を飲んだ直後から感じていたからだの温もりは、もはや発熱といっていいほどに高まっていた。
そしてそれにあわせるように呼吸も荒くなり、額には汗の玉が浮かんでいた。
まるで、辺りを思い切り走ってきた直後のようだ。
ただ一点、少年が欠片も疲労を覚えていない点を除けばだが。
『はぁ、はぁ･･･』
『･･････それじゃあ、次は牛舎に行きましょうか･･･』
女は少年の容態を認めつつも、特に言葉もかけず足を進めていった。
それを彼は、ややおぼつかない足取りで追う。
やがて二人は、一枚の扉の前に着いた。
『この先が牛舎よ』
『はぁ･･･はぁ･･･』
少年の意識は熱に侵され受け答えも危ういほどだったが、女は構わず扉を開き、少年を連れて入った。
広い牛舎は柵で細かく区切られ、その間を若い女性達が行き来していた。
だが、柵と柵の間に居るのは牛ではなく、豊満な体つきをした一糸まとわぬ女性たちであった。
『えっ･･･？』
熱に侵されているとはいえ、流石に少年の意識もこの異様な光景にぼんやりと反応していた。
『あ、オーナー！』
牛舎を行き交う女性の一人が、入ってきた二人に気が付き声を上げた。
『新しい子ですか？』
『ええ、さっき着いたばっかり』
全裸の女性が何人も首輪で柵に繋がれている側で、何事もないかのように言葉を交わすと、女は少年を連れて進んでいった。
そして、牛舎の奥の壁に設けられた扉の前で足を止める。
『あなたにはここで働くのはここよ』
そう言いながら彼女が扉を開いて少年を入れると、彼を熱気と濃密な匂いが包み込んだ。
部屋の中に居たのは床に四つんばいになり、尻を扉に向ける姿勢で繋がれた女性達だった。
んもぉぉっ！んもぉぉぉっ！！
女性達が首を捻り、少年の姿を認めるや否や牛のような鳴き声を上げ出した。
彼女らの声量と異様な光景に、少年は思わず退こうとした。
だがその肩と背中を、女は受け止めた。
『怖がらなくてもいいのよ･･･ウチで飼っているのはホルスタウロスだから･･･』
少年を迎え入れたときとは全く異なる、淫靡な笑みを浮かべながら女は言葉を続けた。
『魔物だけど、性質はとてもおとなしいし、乳牛よりいいミルクを出すのよ･･･』
恐怖によっていくらか正気を取り戻した少年が、つながれた女性達の尻から生える牛のような尾と、頭髪の間から覗く短い角に気が付いた。
『ホルスタウロスも牛も人も、妊娠しないとミルクが出ないのよ･･･それで昔は一頭一頭に夫を宛がってたの。
でもね･･･最近の研究で、一人の男を複数のホルスタウロスが奪い合う状況になると、ミルクの質と量が向上するってことが分かったの･･･。
それで、あなたにこのコたちと交尾して欲しいの』
『えぇ･･･え･･･？』
『大丈夫、さっき特製ミルクを飲んだでしょう？ほら、ホルスタウロスさんたちも、交尾したいって言ってるわよ？』
少年の視線の先では、ホルスタウロスたちがねだる様な鳴き声を上げつつ、その大きな尻を揺すっていた。
尻尾が揺れ、尻の間から覗く生殖器が赤い肉を晒し、ぼたぼたと粘液を滴らせている。
同時に、部屋の中に立ち込める匂いがその濃さを増し、引いていた少年の体内の熱を再び燃え上がらせた。
『あ･･･あぁ･･･！』
『ふふ･･･行ってらっしゃい･･･』
熱に侵され、臭いに誘われてふらふらと歩み出した少年に、女はそう声をかけた。
彼は一番近くに繋がれていたホルスタウロスの下に歩み寄ると、ズボンからパンパンに膨らんだ肉棒を取り出した。
そして微かに震える手を添え、少年は大きなホルスタウロスの尻に覆いかぶさるようにしながら、愛液で濡れそぼった穴に挿入した。
熱く濡れた柔らかな肉が、彼の分身を受け入れ、包み込んだ。
ホルスタウロスの胎内はその体格に見合った大きさで、未成熟な少年のペニスには少々広すぎたが、それでも柔らかな膣肉のもたらす感触は十分だった。
『あぁっ！』
ホルスタウロスの膣内のもたらす快感に、少年は声を漏らす。
快感は少年の足から力を奪うが、それでも彼は彼女のややくびれた腰に腕を回し、尻にしがみつくようにしながら耐えた。
そして特製のミルクと室内に立ち込める匂いに意識を侵され、彼はオスの本能に従って腰を揺すり始めた。
小さいながらも屹立する男根に、ホルスタウロスの膣が緩く絡みつく。
柔らかなホルスタウロスの胎内で彼が限界に達したのは、すぐのことだった。
『･･･っ･･･っ！』
両腕に力を込めてホルスタウロスに尻にしがみつき、嬌声をかみ殺しながら彼は熱い膣内に精を放った。
んもぉぉ･･･
胎内に迸る熱い精の感触に少年がしがみつくホルスタウロスが陶然と声を漏らした。
んもぉぉぉっ！んもぉぉぉっ！！
射精の余韻に浸る少年の耳を、不意にホルスタウロスたちの鳴き声が打つ。
その声は少年下部屋に入れられたときよりも大きかった。
『あらあら、このコたちも早くあなたと交尾したいって･･･あなた大人気ね。
気持ちよすぎて動けないのなら手伝ってあげるわ･･･』
ホルスタウロスの尻にもたれ掛かったまま荒く息をつく少年に声をかけると、女は彼の後ろに歩み寄って彼の身体を抱え上げた。
ホルスタウロスの膣から、硬さを保った男根が引き抜かれ、とろりと白い粘液が溢れる。
『さあ、次のコが待ってるわ･･･頑張ってね･･･明日も、明後日も、ずっと･･･ずっと･･･』
もぉぉぉっ！！んもぉぉぉ！！
むせ返りそうなほど濃厚な匂いの立ち込める一室で、女は腕の中の少年を、そう励ました」
「･･････」
「･･････」
男が発言を終え、並べられたベンチに腰を下ろしても、誰も口を開かなかった。
「あ･･･アウトだ･･･」
「あぁ･･･こいつぁ･･･アウトだ･･･」
しばしの間をおいて、そよ風に木の葉が揺れた時のように、夜中に家屋が軋みを立てるように、ごく小さいものだが声が男たちの間から漏れ始めた。
「ゴンザレスのヤツ･･･またか･･･」
「（全年齢）、だってのに･･･なんで･･･」
「とにかく、コイツはアウトだ･･･！」
「アウトだ！」
「アウトだ！」
「アウトォォォ！」
並べられたベンチに座る男たちの視線は一点に集中し、まばらだったその声は混ざり合い、大きなものになっていた。
ある者は大きく目を見開き、ある者は拳を振り上げ、今にも視線の的になっている男を袋叩きにせんほどの興奮に辺りは包まれていた。
だが、誰一人として立ち上がるものは居なかった。
「議長！」
男の一人が、声と共に並べられたベンチの先に顔を向けた。
そこにあったのは、彼らが場所を借りている教会の説教壇である。
「ゴンザレスの退場を要求します！」
説教壇に立つ四十代ほどの男に向けて、彼はそう声を上げた。
「ま、待ってください･･･」
説教壇の男は、少々前かがみになりながらそう応えた。
「待っても勝ってもありません！先程のゴンザレスの発言は明らかにアウトです！」
教会のベンチに腰掛けたまま、男は発言する。
「そうだ！いくらなんでもありゃアウトだ！」
「今回の議題は『働く女の子のコロリと来そうな台詞（全年齢）』のはずだ！」
「そうだ！働いている女の子がどこに出てたってんだ！」
「そこじゃねえよ！」
「てめえ、オーナーが女の子じゃないって言いたいのか！？」
「だからそこじゃねえよ！」
ベンチに腰掛けたまま、男たちが口々に発言する。
「み、皆さん！静粛に！どうか静粛に!」
若干前かがみの姿勢のまま、説教壇に立つ男が眼下で繰り広げられる口論を収めようと声を張り上げる。
だが口論は収まるどころか、益々加熱する一方だった。
「働く女の子って、牛舎に一人居ただろーが！」
「あんなのカウントできるか！」
「それよりもっと重要な問題があるだろ！？」
「そうだ、オーナーの外見がまだ定まってない」
「オーナー明らかに三十過ぎだろうが！」
「十分女の子じゃねえか！」
「お前はしばらく黙ってろ！」
誰も立ち上がらず、言葉を交わしているだけだったが、そこはまさに乱闘の場、いや、戦場だった。
「はぁ･･･どうしましょうか、ヨーガン」
溜息と共に議長が説教壇から身を乗り出し、説教壇の下に置かれたベンチに腰掛ける二人の男に声をかけた。
一人は疲れたような表情で背もたれに身を預け、もう一人は木の板とペンを手にしている。
「･･････」
ペンと木の板を手にした男は、それを傍らにそっと置くと無言で立ち上がった。
そして深く息を吸い、舌戦を繰り広げる男たちに向けて言い放った。
「黙れぇっ！！」
『っ･･････！』
前列のベンチに腰掛けていた者が、とっさに耳を押さえるほどの声量に、男たちは静まり返った。
「集会が荒れるのは毎度のことだが･･･今回は輪をかけて荒れたな･･･」
「し、しかしヨーガンさん･･･今回のゴンザレスの発言は･･･」
「それを承知の上で言っている」
恐る恐る声を上げた村人を、彼は一喝した。
「確かにゴンザレスの発言は、毎度のことだがアウトだ。
だが、先程の口論は何だ？一見ゴンザレスを責めているようだったが、実際のところ多数の派閥が攻守入り乱れての混戦だったではないか」
その場に居る若者は勿論、ヨーガンと呼ばれた男より年上の者までもが父親に叱られている時のような顔で、彼の話を聞いていた。
「私は舌戦をやめろといっているわけではない。
混戦を避けろ、他者の発言に横槍を入れるな。これだけだ。
以上」
彼は若干前かがみの姿勢のまま説教を結び、ベンチに腰を下ろした。
「なお、今回の集会はここで中断だ。全員帰宅し、各自反省するように」
「えー･･･と、いう事ですので今回の集会はこれで終わりです。次回の議題は『魔物に言われたらかなりぐっとくる台詞（全年齢）』です。
それでは解散」
彼の言葉と議長の宣言に、男たちはがっくりとうな垂れ、小さく溜息をつきながらベンチから立つ。
そして若干前かがみの姿勢のまま、教会から出るべくゆっくりと彼らは足を進め始めた。
「それとゴンザレス。今回の件について、お前にペナルティを与える」
男たちに混じって、教会を出ようとしていたことの中心人物に、ヨーガンは不意に声をかけた。
「今回の発言内容について、詳細な内容を後日談も含めて構成し、私たちの小屋まで提出に来るように」
「「「「･･･って、それのどこがペナルティだ！」」」」
一瞬の間も置くことなく、ヨーガン以外の全員が声を揃えて突っ込んだ。
こうして、エルンデルストの夜は更けていく。
10/03/18 18:40更新 / 十二屋月蝕
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