(53)稲荷
日が沈み、月がそこそこの高さに上るころ、ある商家の一室に一体の稲荷がいた。
年の頃は、二十ほどだろうか。腰のあたりから五本のしっぽを揺らしながら、布を縫っていた。
すると、一室のふすまが開き、男が一人入ってきた。稲荷と同じぐらいの年に見える、若い男だ。
「あら、どうしました？」
突然の男の訪問に、稲荷は手を止め、金色の耳をぴんと立てながら問いかけた。
しかし男は返答もなく、稲荷の前に移ると、膝を畳に着き、正座した。
「稲荷さん、膝枕をお願いします」
「はい、どうぞ」
針と糸と布を傍らに避けながら、稲荷は男の開口一番の求めに、にっこりと微笑んだ。
「失礼します」
男は稲荷のそばににじり寄ると、一度背を向け、稲荷の二本の太腿の上にそっと頭を乗せた。
「ふふふ、どうしたんですか？何かいやなことでもありました？」
「うん、聞いてよ稲荷さん姉さん」
膝枕の前より少しだけ砕けた口調で、呼びかけの最後に姉さんと付け加えてから、男は続けた。
「狸がね、あの性悪狸がね、孔雀石の市場に入ってきたんだ」
「まあ、狸さんが？」
男の言葉に、稲荷は相づちを打った。
「うん。それも、たくさんの孔雀石を安値で売りさばいて、僕たちを虐めるんだ」
「あらあら」
「あんな値段で孔雀石を売られたら、僕たちの孔雀石を買ってくれる人なんていなくなるよ」
「でも、ウチも儲けがでるぎりぎりのところで、やってるんでしょう？狸さんのところがそんな売り方をすれば、きっと赤字になるのでは？」
「うん。絶対あの性悪狸は赤字だよ。でも、ほかの商売で赤字は補えるし、僕たちが日干しになって、孔雀石を独占してしまえば、いくらでもモトは取り返せるんだ」
「なるほど。困りましたねえ･･･」
稲荷は、うーん、と呻いた。
「どうしたらいいんでしょう、稲荷さん姉さん」
「本当に、どうしたらいいんでしょう」
男の言葉を繰り返す稲荷に、男は顔に微かな落胆を浮かべた。
「うふふ、冗談ですよ」
稲荷は男の落胆顔に、クスクス笑いながら続けた。
「簡単ですよ。狸さんの商売がほかにあるのなら、そっちをめちゃめちゃにしてしまえばいいんですよ」
「なるほど！」
男はポンと手を打った。
「確かあの性悪狸の本業は、米の売買だ。たぶん今度の飢饉を見越して、大量に買い占めているはずだから、それを狙おう」
「狙う、とは？」
「うん、人々の間に、『あの性悪狸がお救い米を出してくださる』って風説を流布するんだ。そうすれば腹を空かせた人々が、性悪狸の倉に集結。後は狸がおれるか、人々が打ち壊しを始めるか、だ」
「それより、お奉行様のお力を借りるのはどうでしょう？」
「お奉行様の？」
「ええ、お奉行様はとんちの効いた名裁きにあこがれていらっしゃいますから、人々が狸さんの倉に集まったところで、何とか丸く納めようとなさるはずです」
「そうか、そこで性悪狸が一度は納得するけど、倉の中身が空になるようなお裁きを下すのか！」
「ええ、そうです。お奉行様に多少入れ知恵する必要はありますが」
「でも、これでどうにかなりそうだよ！ありがとう稲荷お姉さん！」
「あらあら」
男の呼び方が再び変わったことに、稲荷はくすくすと笑った。
「あなたがお利口さんだから、解決法が思いついたんですよ。えらい、えらい」
膝の上の男の頭に手を乗せ、よしよしと撫でてやる。
「えらい？僕えらい？」
「ええ。えらいお利口さんには、お姉さんがご褒美あげちゃいます」
稲荷は言動が子供のようになった男に微笑むと、帯を少しゆるめ、着物の袂を広げた。
彼女の胸元の白い肌が露わになり、乳房が着物の下から溢れだした。
「はい、おっぱいですよ」
「いいの？」
「ご褒美ですよ」
「わぁい！稲荷お姉ちゃん大好き！」
男はそう声を上げると、稲荷と向かい合うように姿勢を変えた。そして、左右に広げた稲荷の腕の中に飛び込み、彼女の乳房に吸い着いた。
「うふふ･･･よしよし･･･」
腕の中の大きな子供を抱え、頭を撫でてやりながら、稲荷は穏やかな表情を浮かべた。
男は、着物の内側から立ち上る稲荷の甘い香りを胸一杯に吸いながら、無心で彼女の乳房の頂を吸った。
口を開いて乳輪全体を咥え、舌先でその中心をつつき、くすぐる。徐々に唇を窄め、乳輪を吸うと、絞り出されるように彼女の乳頭が膨れていく。小さな小さな肉の膨らみに、男は舌を絡み尽かせ、その表面をくすぐった。
「ん･･･」
稲荷が小さく声を漏らし、体を少しだけ震わせる。同時に、男が咥えていない方の乳房の先端も、膨らみを帯びていた。
「･･･ん･･･こうした方が･･･楽ですよ･･･」
胸からの甘い快感に、言葉を途切れさせながら、彼女は男の腰に手を回し軽く力を込めた。
男は乳房を吸いながらも、彼女の手の導きにあわせて腰を動かし、向かい合う姿勢から彼女の膝の上に横たわるような、姿勢になった。
稲荷の腕が男の頭を抱え、もう一方の手が彼の体に添えられる。
丁度、赤子を横向きに抱いて授乳しているときの姿勢のようだった。
「ん･･･よし、よし･･･」
男の頭を抱え込み、背中を軽くさすりながら、稲荷はあやすように呟いた。
出産はおろか、身ごもったこともないため、乳首から滲むものはなにもない。だというのに、男は一心不乱に彼女の乳を吸っていた。それだけで、稲荷の胸中に温かなものが広がっていた。
そう、この男は稲荷はもちろん、いろいろなものを守るために日夜働いているのだ。こうして子供のように甘えたくなるときぐらいあるだろう。ならば、いっぱい甘えさせるのが、稲荷の勤めだ。
「んちゅ･･･んむ･･･ちゅ･･･」
乳輪に唾液を塗りたくり、唇で吸い、今し方塗った涎を舐めとる作業を繰り返すうち、男がもぞりと身じろぎした。
稲荷は背中のあたりを撫でていた手を止めると、そのまま滑らせて、彼の腰のあたりに移した。すると彼の着物の下、腰のあたりになにやら堅いものがあった。
男の屹立だ。
稲荷は、胸を吸われながら、男の屹立を着物の内側から取り出した。
「うふふ、こんなにカチカチ･･･」
男の肉棒を撫で、軽く擦りながら稲荷は言葉を紡ぐ。
「おっぱいちゅっちゅしてるのに、こっちにもご褒美がほしいのかしら？」
「んんぅ･･･」
稲荷の乳房を吸いながらも、男は低い声で答えた。
だがその返事は、肉棒の形を確かめるような、やや控えめな指の動きに男が声を漏らしたようだった。
「はいはい。狸さんに虐められていたのを我慢したご褒美ですよ」
男のうめき声に、稲荷は肉棒を握り、ゆっくりと上下にしごき始めた。
屹立が彼女の手の中でびくびくと震え、男の興奮を彼女に伝えた。
「うふふ」
一心に乳首に吸いつき、彼女の手に素直に震える男に、稲荷は大きな赤子を抱いているような心地になった。
いや、事実男はこの瞬間、ほとんど赤子だった。
だが、稲荷の内側に男に対する嫌悪や侮蔑はない。むしろ、日頃がんばる男に対するいたわりと、彼が自信を求めていることへの安堵感があった。
一人の男が、一心に自身を求める。それは、何事にも勝る温もりのような感覚を、稲荷の胸中にもたらしていた。
「ふふ･･･」
男の肉棒をゆっくりとしごきながら、彼女は胸中で本当に母乳がでればいいのに、と望んでいた。
何も出ない乳房を吸うだけのご褒美ごっこより、本当に彼にご褒美をあげたいのだ。
しかし、男は乳房を吸い乳頭を舌で刺激し、稲荷にこそばゆい快感をもたらすばかりだった。
「んん･･･」
男が不意に声を漏らしながら、腰をもぞりと動かした。
「あら、そろそろおねむかしら？」
男が稲荷のゆるゆるとした手淫に十分興奮を高ぶらせ、さらなる刺激を求めている兆しに、稲荷は胸の奥で心臓がとくとくと打つのを感じながら語りかけた。
「はい、いっしょにねんねしましょうねぇ」
男の頭を抱えたまま、一度膝立ちになって正座を解く。
そして、彼の体を横たえながら、稲荷もその傍らに横になった。
「はい、よしよし･･･」
男の顔を胸に抱き寄せつつ、彼の体に自身の体を添え、五本のしっぽを彼の上にそっと乗せた。
柔らかな金色の毛に包まれたしっぽが、男の体をふわりと包み、温もりを彼にもたらす。
「じゃあ、ねんねの前にぴゅっぴゅしましょうねえ」
しっぽの下に手を差し入れ、男の肉棒を包み込むと、彼女は屹立を再びしごいた。
単に勃起を維持させ、徐々に興奮を高ぶらせていくゆっくりとしたものではない。
男に快感を与え、絶頂へ導いてやるための動きだった。
手首を軽やかに動かしながら、指をゆるめては握る。
時折親指を亀頭の先端に触れさせ、鈴口から滲み出す先走りを塗り広げる。
彼女の手の動きに、男は顔をしかめながら、低く呻いた。そして、男の唇がゆるみ、吸い付いたままだった乳頭が解放される。
「ぽんぽんいっぱいになったの？じゃあ、ぎゅうしてあげる」
乳首が解放された瞬間、彼女は男の顔を胸の間に抱き寄せながら、そう囁いた。
しかし、胸の谷間に顔を押しつけられたことで、男には彼女のささやきの半分ほども伝わらなかった。
だが、彼女の乳房の間に滲んだ汗の香りは、十分に稲荷が男に何を求めているかを、彼に伝えた。
「･･････」
「ん･･･！」
胸の谷間で深呼吸を始めた男に、稲荷が上擦った声を漏らす。
生温かな呼気が肌を熱した直後、吸気が彼女の乳房の間の火照りを冷ます。出入りする二つの呼吸が、彼女の肌を愛撫し、稲荷の興奮を高めていった。
同時に、男も呼吸を重ねることで稲荷の香りを胸一杯に吸い、頭の内側を彼女で染めあげつつあった。
乳房の谷間の汗の香り。着物に染み着いた、彼女の香り。しっぽから立ち上る、肌とは異なる狐の香り。
いくつもの香りが男の鼻腔をくすぐり、彼の肺を満たしていく。
そして、男の意識が稲荷で満たされ、何かが溢れだした瞬間、彼は絶頂に達した。
「･･････！」
稲荷の傍らに横たわる男が、彼女の乳房の間で顔を、彼女のしっぽの下の体を、彼女の手の中の屹立を震わせた。
直後、稲荷の指を押し開くように屹立が膨張し、覆い被さるしっぽに精液が迸った。
「ん･･･！」
手の中で震える屹立と、しっぽを濡らす熱と粘りけに、稲荷は男の絶頂を感じ取り、ほぼ同時に自身も達した。
直接的な肉体の快楽こそなかったが、それでも彼女の両足の付け根は濡れそぼち、三角形の耳がピクピクと震えた。
そして、男はたっぷりと稲荷のしっぽを汚してから、射精を止めた。
「･････････はぁ･･･」
絶頂の余韻に身をゆだねながら、しばしじっとしていると、男害なりの乳房から顔をはなし、息を付いた。
「稲荷さん、ありがとうございました･･･」
稲荷に頭を抱かれたまま、男が彼女を見上げるようにしながら言葉を紡ぐ。
「おかげで、疲れもとれたようです」
「そう。それはよかったわ」
未だ心のどこかで、赤子や幼子を抱いているような気分を有しながら、稲荷は男に応じた。
「狸の奴に負けることなく、俺はがんばります！」
「ふふふ。頼もしいわ･･･」
手の中の男の頭を軽く撫で、髪の毛の感触を楽しみながら、彼女は続ける。
「じゃあ、全部片づいて、あなたが楽に暮らせるようになったら･･･本物の赤ちゃん、抱きましょうね」
「･･･はい、必ず」
稲荷の求めに、男は決心を込めて頷いた。
年の頃は、二十ほどだろうか。腰のあたりから五本のしっぽを揺らしながら、布を縫っていた。
すると、一室のふすまが開き、男が一人入ってきた。稲荷と同じぐらいの年に見える、若い男だ。
「あら、どうしました？」
突然の男の訪問に、稲荷は手を止め、金色の耳をぴんと立てながら問いかけた。
しかし男は返答もなく、稲荷の前に移ると、膝を畳に着き、正座した。
「稲荷さん、膝枕をお願いします」
「はい、どうぞ」
針と糸と布を傍らに避けながら、稲荷は男の開口一番の求めに、にっこりと微笑んだ。
「失礼します」
男は稲荷のそばににじり寄ると、一度背を向け、稲荷の二本の太腿の上にそっと頭を乗せた。
「ふふふ、どうしたんですか？何かいやなことでもありました？」
「うん、聞いてよ稲荷さん姉さん」
膝枕の前より少しだけ砕けた口調で、呼びかけの最後に姉さんと付け加えてから、男は続けた。
「狸がね、あの性悪狸がね、孔雀石の市場に入ってきたんだ」
「まあ、狸さんが？」
男の言葉に、稲荷は相づちを打った。
「うん。それも、たくさんの孔雀石を安値で売りさばいて、僕たちを虐めるんだ」
「あらあら」
「あんな値段で孔雀石を売られたら、僕たちの孔雀石を買ってくれる人なんていなくなるよ」
「でも、ウチも儲けがでるぎりぎりのところで、やってるんでしょう？狸さんのところがそんな売り方をすれば、きっと赤字になるのでは？」
「うん。絶対あの性悪狸は赤字だよ。でも、ほかの商売で赤字は補えるし、僕たちが日干しになって、孔雀石を独占してしまえば、いくらでもモトは取り返せるんだ」
「なるほど。困りましたねえ･･･」
稲荷は、うーん、と呻いた。
「どうしたらいいんでしょう、稲荷さん姉さん」
「本当に、どうしたらいいんでしょう」
男の言葉を繰り返す稲荷に、男は顔に微かな落胆を浮かべた。
「うふふ、冗談ですよ」
稲荷は男の落胆顔に、クスクス笑いながら続けた。
「簡単ですよ。狸さんの商売がほかにあるのなら、そっちをめちゃめちゃにしてしまえばいいんですよ」
「なるほど！」
男はポンと手を打った。
「確かあの性悪狸の本業は、米の売買だ。たぶん今度の飢饉を見越して、大量に買い占めているはずだから、それを狙おう」
「狙う、とは？」
「うん、人々の間に、『あの性悪狸がお救い米を出してくださる』って風説を流布するんだ。そうすれば腹を空かせた人々が、性悪狸の倉に集結。後は狸がおれるか、人々が打ち壊しを始めるか、だ」
「それより、お奉行様のお力を借りるのはどうでしょう？」
「お奉行様の？」
「ええ、お奉行様はとんちの効いた名裁きにあこがれていらっしゃいますから、人々が狸さんの倉に集まったところで、何とか丸く納めようとなさるはずです」
「そうか、そこで性悪狸が一度は納得するけど、倉の中身が空になるようなお裁きを下すのか！」
「ええ、そうです。お奉行様に多少入れ知恵する必要はありますが」
「でも、これでどうにかなりそうだよ！ありがとう稲荷お姉さん！」
「あらあら」
男の呼び方が再び変わったことに、稲荷はくすくすと笑った。
「あなたがお利口さんだから、解決法が思いついたんですよ。えらい、えらい」
膝の上の男の頭に手を乗せ、よしよしと撫でてやる。
「えらい？僕えらい？」
「ええ。えらいお利口さんには、お姉さんがご褒美あげちゃいます」
稲荷は言動が子供のようになった男に微笑むと、帯を少しゆるめ、着物の袂を広げた。
彼女の胸元の白い肌が露わになり、乳房が着物の下から溢れだした。
「はい、おっぱいですよ」
「いいの？」
「ご褒美ですよ」
「わぁい！稲荷お姉ちゃん大好き！」
男はそう声を上げると、稲荷と向かい合うように姿勢を変えた。そして、左右に広げた稲荷の腕の中に飛び込み、彼女の乳房に吸い着いた。
「うふふ･･･よしよし･･･」
腕の中の大きな子供を抱え、頭を撫でてやりながら、稲荷は穏やかな表情を浮かべた。
男は、着物の内側から立ち上る稲荷の甘い香りを胸一杯に吸いながら、無心で彼女の乳房の頂を吸った。
口を開いて乳輪全体を咥え、舌先でその中心をつつき、くすぐる。徐々に唇を窄め、乳輪を吸うと、絞り出されるように彼女の乳頭が膨れていく。小さな小さな肉の膨らみに、男は舌を絡み尽かせ、その表面をくすぐった。
「ん･･･」
稲荷が小さく声を漏らし、体を少しだけ震わせる。同時に、男が咥えていない方の乳房の先端も、膨らみを帯びていた。
「･･･ん･･･こうした方が･･･楽ですよ･･･」
胸からの甘い快感に、言葉を途切れさせながら、彼女は男の腰に手を回し軽く力を込めた。
男は乳房を吸いながらも、彼女の手の導きにあわせて腰を動かし、向かい合う姿勢から彼女の膝の上に横たわるような、姿勢になった。
稲荷の腕が男の頭を抱え、もう一方の手が彼の体に添えられる。
丁度、赤子を横向きに抱いて授乳しているときの姿勢のようだった。
「ん･･･よし、よし･･･」
男の頭を抱え込み、背中を軽くさすりながら、稲荷はあやすように呟いた。
出産はおろか、身ごもったこともないため、乳首から滲むものはなにもない。だというのに、男は一心不乱に彼女の乳を吸っていた。それだけで、稲荷の胸中に温かなものが広がっていた。
そう、この男は稲荷はもちろん、いろいろなものを守るために日夜働いているのだ。こうして子供のように甘えたくなるときぐらいあるだろう。ならば、いっぱい甘えさせるのが、稲荷の勤めだ。
「んちゅ･･･んむ･･･ちゅ･･･」
乳輪に唾液を塗りたくり、唇で吸い、今し方塗った涎を舐めとる作業を繰り返すうち、男がもぞりと身じろぎした。
稲荷は背中のあたりを撫でていた手を止めると、そのまま滑らせて、彼の腰のあたりに移した。すると彼の着物の下、腰のあたりになにやら堅いものがあった。
男の屹立だ。
稲荷は、胸を吸われながら、男の屹立を着物の内側から取り出した。
「うふふ、こんなにカチカチ･･･」
男の肉棒を撫で、軽く擦りながら稲荷は言葉を紡ぐ。
「おっぱいちゅっちゅしてるのに、こっちにもご褒美がほしいのかしら？」
「んんぅ･･･」
稲荷の乳房を吸いながらも、男は低い声で答えた。
だがその返事は、肉棒の形を確かめるような、やや控えめな指の動きに男が声を漏らしたようだった。
「はいはい。狸さんに虐められていたのを我慢したご褒美ですよ」
男のうめき声に、稲荷は肉棒を握り、ゆっくりと上下にしごき始めた。
屹立が彼女の手の中でびくびくと震え、男の興奮を彼女に伝えた。
「うふふ」
一心に乳首に吸いつき、彼女の手に素直に震える男に、稲荷は大きな赤子を抱いているような心地になった。
いや、事実男はこの瞬間、ほとんど赤子だった。
だが、稲荷の内側に男に対する嫌悪や侮蔑はない。むしろ、日頃がんばる男に対するいたわりと、彼が自信を求めていることへの安堵感があった。
一人の男が、一心に自身を求める。それは、何事にも勝る温もりのような感覚を、稲荷の胸中にもたらしていた。
「ふふ･･･」
男の肉棒をゆっくりとしごきながら、彼女は胸中で本当に母乳がでればいいのに、と望んでいた。
何も出ない乳房を吸うだけのご褒美ごっこより、本当に彼にご褒美をあげたいのだ。
しかし、男は乳房を吸い乳頭を舌で刺激し、稲荷にこそばゆい快感をもたらすばかりだった。
「んん･･･」
男が不意に声を漏らしながら、腰をもぞりと動かした。
「あら、そろそろおねむかしら？」
男が稲荷のゆるゆるとした手淫に十分興奮を高ぶらせ、さらなる刺激を求めている兆しに、稲荷は胸の奥で心臓がとくとくと打つのを感じながら語りかけた。
「はい、いっしょにねんねしましょうねぇ」
男の頭を抱えたまま、一度膝立ちになって正座を解く。
そして、彼の体を横たえながら、稲荷もその傍らに横になった。
「はい、よしよし･･･」
男の顔を胸に抱き寄せつつ、彼の体に自身の体を添え、五本のしっぽを彼の上にそっと乗せた。
柔らかな金色の毛に包まれたしっぽが、男の体をふわりと包み、温もりを彼にもたらす。
「じゃあ、ねんねの前にぴゅっぴゅしましょうねえ」
しっぽの下に手を差し入れ、男の肉棒を包み込むと、彼女は屹立を再びしごいた。
単に勃起を維持させ、徐々に興奮を高ぶらせていくゆっくりとしたものではない。
男に快感を与え、絶頂へ導いてやるための動きだった。
手首を軽やかに動かしながら、指をゆるめては握る。
時折親指を亀頭の先端に触れさせ、鈴口から滲み出す先走りを塗り広げる。
彼女の手の動きに、男は顔をしかめながら、低く呻いた。そして、男の唇がゆるみ、吸い付いたままだった乳頭が解放される。
「ぽんぽんいっぱいになったの？じゃあ、ぎゅうしてあげる」
乳首が解放された瞬間、彼女は男の顔を胸の間に抱き寄せながら、そう囁いた。
しかし、胸の谷間に顔を押しつけられたことで、男には彼女のささやきの半分ほども伝わらなかった。
だが、彼女の乳房の間に滲んだ汗の香りは、十分に稲荷が男に何を求めているかを、彼に伝えた。
「･･････」
「ん･･･！」
胸の谷間で深呼吸を始めた男に、稲荷が上擦った声を漏らす。
生温かな呼気が肌を熱した直後、吸気が彼女の乳房の間の火照りを冷ます。出入りする二つの呼吸が、彼女の肌を愛撫し、稲荷の興奮を高めていった。
同時に、男も呼吸を重ねることで稲荷の香りを胸一杯に吸い、頭の内側を彼女で染めあげつつあった。
乳房の谷間の汗の香り。着物に染み着いた、彼女の香り。しっぽから立ち上る、肌とは異なる狐の香り。
いくつもの香りが男の鼻腔をくすぐり、彼の肺を満たしていく。
そして、男の意識が稲荷で満たされ、何かが溢れだした瞬間、彼は絶頂に達した。
「･･････！」
稲荷の傍らに横たわる男が、彼女の乳房の間で顔を、彼女のしっぽの下の体を、彼女の手の中の屹立を震わせた。
直後、稲荷の指を押し開くように屹立が膨張し、覆い被さるしっぽに精液が迸った。
「ん･･･！」
手の中で震える屹立と、しっぽを濡らす熱と粘りけに、稲荷は男の絶頂を感じ取り、ほぼ同時に自身も達した。
直接的な肉体の快楽こそなかったが、それでも彼女の両足の付け根は濡れそぼち、三角形の耳がピクピクと震えた。
そして、男はたっぷりと稲荷のしっぽを汚してから、射精を止めた。
「･････････はぁ･･･」
絶頂の余韻に身をゆだねながら、しばしじっとしていると、男害なりの乳房から顔をはなし、息を付いた。
「稲荷さん、ありがとうございました･･･」
稲荷に頭を抱かれたまま、男が彼女を見上げるようにしながら言葉を紡ぐ。
「おかげで、疲れもとれたようです」
「そう。それはよかったわ」
未だ心のどこかで、赤子や幼子を抱いているような気分を有しながら、稲荷は男に応じた。
「狸の奴に負けることなく、俺はがんばります！」
「ふふふ。頼もしいわ･･･」
手の中の男の頭を軽く撫で、髪の毛の感触を楽しみながら、彼女は続ける。
「じゃあ、全部片づいて、あなたが楽に暮らせるようになったら･･･本物の赤ちゃん、抱きましょうね」
「･･･はい、必ず」
稲荷の求めに、男は決心を込めて頷いた。
12/10/12 15:54更新 / 十二屋月蝕
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