連載小説
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(38)アラクネ
森の中、消えかけの獣道を進んでいると、不意に腕が何かに引っ張られた。
目を向けると、きらきらと木漏れ日に光る糸のようなものが腕に絡み付いていた。どうやら蜘蛛が巣を張っていたらしい。
意図せず巣を崩したことを、巣の主に詫びながら糸を払いのけようとした。だが、糸はちぎれるどころか、更に腕に絡み付いてきた。
自由な腕を伸ばし、絡み付く糸を取ろうとする。しかしその腕も、中途半端に掲げたところで何かに引っかかった。
何かがおかしい。
俺は、とりあえずまだ動かせる両腕をそのままに、数歩退いてその場から離れようとした。
両腕に絡み付く糸は、俺の後退にゆっくりとのばされていく。しかし糸がちぎれるより前に、俺の背中を何かが抱き止めた。
目を向けると、肩口から数本のきらきら光る糸が、周囲の木々へと伸びていた。
「くそ・・・!」
今度は前に進み、背中に絡み付く糸を剥がそうとする。
しかし踏み出した足のすねに何かが触れ、足が前に進まなくなる。
もう片方の足で地面を蹴り、横に倒れようとする。
どうにかバランスを崩し体が傾くが、獣道の左右に生える草につっこむ遙か手前で、転倒が止まった。
獣道の真ん中で、俺は見えないほど細い糸によって宙吊りにされていた。
「くそ、くそ・・・!」
俺の脳裏に、巨大な蜘蛛の姿が浮かび上がり、恐怖が沸き起こる。
だが、俺は悪態を付きながら、恐怖が全身を支配しないうちに脱出しようと試みた。
糸の絡み付く上着の袖から腕を抜き、そっと上着を脱ぎ捨てる。ズボンのベルトをゆるめ、両足を引き抜いてきらきらと木漏れ日を照り返す糸の間に足をおく。
俺は下着姿になりながらも、衣服だけを糸の間に残すと、慎重に進んだ。
木漏れ日を反射させながら輝く糸の間を、触れぬように身をくねらせ、屈め、ゆっくりとまたぐ。
そして、木々から延びる糸を抜けたところで、俺は胸をなで下ろした。
脱出できたのだ。
「早いところ逃げないと」
衣服や荷物の一部は惜しいが、もうすぐこの糸の主が来るだろう。荷物に気を取られて留まっていたら、せっかく脱出した意味がなくなる。俺は宙吊りになった上着とズボンに背を向け、獣道を足早に進もうとした。
しかし、十歩も進まないうち、俺の顔に何かがへばりつく感触がし、それきり体が動かなくなる。
「え?あれ・・・?」
不自由ながらもどうにか動く手足を揺らすと、周囲の木々の枝が揺れ、木漏れ日が日陰になっている部分に差し込んだ。
すると、枝から俺の方に向けて延びる極細の糸が、日陰の中できらきらと光った。
糸の罠は二つあったのだ。
「あら、結構大きいのがかかってたわね」
獣道の横から、草をかき分ける音と共に声が響いた。
首を少しだけねじり、目をどうにかそちらに向けると、女の顔が見えた。
一瞬俺の胸に、助けが来たという安堵感とここに近づくことへの危機感が生まれる。だが、彼女の姿が視界に入ったところで、俺の意識は凍り付いた。
彼女の腰から下は、巨大な蜘蛛の姿をしていたからだ。
「ああ・・・」
「怖がっているわね」
糸の主を悟り、思わず声を漏らす俺の目の前に、アラクネが立った。
整った顔立ちに、ふくよかな胸元、そして引き締まった腰周りが美しいだけに、その下に続く巨大な蜘蛛の体が恐ろしかった。
「大丈夫よ。大人しくしていてくれたら、すぐに終わるから・・・」
肘までを覆う短い体毛に包まれた腕で、彼女は俺の頬を撫でた。
頬をくすぐる、犬や猫などの動物とは異なる感触の毛に、俺の固まっていた意識が動き出した。
「い、いやだ・・・」
「大丈夫よ、痛くないわ・・・気持ちいいぐらいよ」
彼女は俺をなだめるように、そう言った。
聞くところによるとある種の虫は、ほかの虫に毒を注入して痺れさせて食べるという。そして、その毒は苦しいものではなく、体の感覚を奪い、痛みも感じなくさせるものだそうだ。
きっとこのアラクネも、そんな毒を持っているに違いない。そしてその毒を俺に注入し、痛みを感じないうちに・・・
「う、うわぁぁぁ!」
不自由ながらもどうにか全身を揺り動かし、俺は声を上げて彼女から離れようとした。
「あらあら」
振り回される手足にぶつからぬよう、アラクネが数歩退く。
「大人しくしてくれたら、こっちも優しくしてあげようとしたのに・・・」
残念、といった様子で彼女はつぶやくと、地面を踏みしめる蜘蛛足をのばした。すると彼女の体の下に、大人一人が楽にかがんで入れそうな空間ができた。
直後、大きく膨れた蜘蛛の腹が、ぐいと曲げられて足の間の空間に入り込み、とがった先端を俺に向けた。すぼまった先端が開き、白井ものが見えた瞬間、その白が俺に向けて噴出した。
「うわ・・・!?」
蜘蛛の糸に拘束された俺の胸に、白い物が蜘蛛腹との間に糸を張りながらぶつかる。ねっとりとしたそれは、俺の胸にへばりついた。
「さ、くるくるまきまきしましょうね」
アラクネは笑みを浮かべると、糸が体に触れぬよう蜘蛛腹を戻し、体をおろした。
そしてそのまま、彼女はゆっくりと俺の周りを回り始めた。
胸にへばりついた固まりから延びる糸が、俺の右腕に張り付き、背中へ回り込んでいく。
彼女の姿が司会から消えるが、背中側に回った糸は俺の背中を這い、司会の左側からアラクネと共に現れ、左腕に巻き付く。
ぐるりぐるりと、糸を少しずつ紡ぎながら、彼女は俺の周りを回っていく。
一周ごとに腕や銅に糸が絡み付き、徐々に俺の体を縛り上げていく。
「ああ・・・ああ・・・」
蜘蛛の巣にかかり、糸の固まりに封じ込められた羽虫の姿が脳裏に浮かび、俺の口から声が漏れた。
そして、アラクネが俺の周りを二十ほど巡ると、俺は両手両足をそろえた姿勢で、宙吊りになっていた。
「出来上がり・・・ふふ」
何とか逃れる術はないかと、辺りに目を走らせる俺に近づき、彼女は蜘蛛腹の先端に付いていた粘液の固まりを俺の足に擦り付けた。
蜘蛛腹まで続いていた糸が断ち切られ、完全に拘束されたことを俺に伝える。
「さ、大人しくしていてね・・・これが私たちの食事だから・・・」
彼女はどこか妖艶な笑みを浮かべると、蜘蛛足を大きく屈めて上体を下ろした。そして、彼女の顔と俺の腰の辺りが、同じ高さになる。
腹から毒を注入するつもりなのだろうか。
俺の腹に、むずがゆい不気味な感覚が生じた。
しかし、アラクネが指を伸ばしたのは腹ではなく、股間だった。巻き付く糸をかき分け、下着をずらし、恐怖に縮こまった俺の陰茎を取り出す。
「怖がり過ぎよ・・・」
彼女は一度俺を見上げてそう笑うと、ぱくりと柔らかな肉棒を咥えた。
生命の危機に過敏になった俺の五感が、彼女の口の柔らかさと温もりを存分に感じる。
「うぉ・・・っ・・・!」
思わず声を漏らしそうになり、俺は口をつぐんだ。
心地よいのは確かだが、気を緩めた次の瞬間、噛み千切られるかもしれない。確か彼女は、委託はしないと言っていたが、それは俺が暴れる前だ。
彼女の不興を買って、心変わりした可能性は十分にある。
「うぐぅ・・・」
俺は歯を食いしばり、いつ痛みが来てもいいよう覚悟を決めた。
しかし、いくら待てども激痛は訪れず、むしろ彼女の唇や舌の感触が、心地よく這い上ってくるばかりだった。
恐怖に縮こまっていた肉棒は、素直にその快感に反応し、徐々に大きさを増していった。
吸い付く彼女の唇を押し広げ、触れる舌を圧迫しながら、肉棒が勃起していく。
そして、俺の陰茎が屹立しきったところで、彼女は顔を離した。
「ぷは・・・こんなものかしら・・・」
肉棒が萎えぬよう、唾液に濡れたそれを指で撫でながら、彼女は俺を見上げた。
「食べられるかと思っていたから、ちょっとびっくりしたでしょう?」
俺の内心を見抜いていたかのように、彼女が微笑んだ。
「私たち魔物は、こうやって精を得ないと生きていけないの・・・夫がいればこんな事しなくていいんだけど、いい人がいなくて・・・」
どこか困った様子でそう言いながら、彼女は屈めていた蜘蛛足をのばした。
そして、彼女は一度俺の肉棒から手を離すと、一番後ろの蜘蛛足だけを地面に残して立ち上がった。アラクネの人の姿をした部分が、俺の頭上より高くに登り、一対の蜘蛛足が俺の肩にのっかる。
肩に乗せられた一対はバランスを取るためのものでしかないらしく、ほとんど重さはかからなかった。
「ほら、見て・・・」
アラクネが膨れた蜘蛛腹を曲げ、とがった先端を再び俺に向けた。
「ここが私のアソコ・・・」
よく見ると上下に二つ並んでいた窄まりのうち、片方が彼女の言葉とともに広がる。
窄まりの内側は、鮮やかな桃色の肉がひしめいており、粘液に濡れててらてらと輝いていた。
「ここにあなたのおちんちんを入れるの」
気が付くと、蜘蛛腹の先端は俺の屹立の側にあり、彼女がほんの少し蜘蛛腹を動かせばいとも簡単に挿入できるようだった。
加えて、アラクネの穴は肉棒を迎え入れた後、どんな歓待をしてやるかアピールするように、折り重なる桃色の肉を波打たせ、粘液でぶじゅぶじゅと淫猥な音を立てた。
アラクネの口の温もりや柔らかさは消え去り、彼女の手の感覚もない。だというのに、俺の肉棒は萎えるどころか固く勃起し、蜘蛛腹の内側への期待に小さく揺れていた。
「さ、いらっしゃい・・・痛くないわよ・・・」
アラクネは優しくささやくと、蜘蛛腹の先端で俺の肉棒を包み込んだ。
熱とぬめり、そしてひしめき合う柔肉の作り出す襞が、俺の陰茎を一息におそった。
「うぉ・・・!」
「そんなに力を入れないで・・・受け入れて、気持ちよくなって・・・」
肉棒をしゃぶる肉穴の感触に思わず声を漏らすと、彼女はそう緊張を解すようにいった。
そして必死に快感を堪えようとする俺の頭に手を伸ばし、気を逸らそうとするかのように撫でる。
彼女の手のひらの感触に、いくらか俺は由来の分からない安堵感を覚えた。
だが、容赦なく背筋を這い上ってくる感覚が、無意識のうちに全身に力を込めさせる。
彼女の肉穴の感触は、簡単に例えると口に似ていた。ただ、その口には歯が一本も生えておらず、柔らかな舌が何十枚と生えており、ねっとりととした唾液が後から後から湧いていた。
肉穴は、襞の合間からにじみ出る粘液を陰茎に塗りたくると、入り口を窄めて根本を締め付け、塗りたくったばかりの粘液を奥へ奥へと吸い上げた。
襞の蠢きと、締め付けと、吸い上げ。繰り返される三つの動作が、ゆっくりと杭を打ち込むかのように、俺の意識に食い込んでいく。
このままでは、達してしまう。
悲しいかな、相手は魔物だというのに、男のプライドが妙なところで鎌首をもたげた。
一方的に射精させられるのではなく、彼女を一度は達せさせてから射精したい。
そんな欲が湧いてきた。
「ぐぐ・・・」
俺は歯を食いしばりながら、自信の状況を観察した。アラクネは蜘蛛足の一対で地面に立ち、一組を糸にひっかけ、もう一組を俺の肩に乗せている。おかげで俺の目の前には、アラクネの人間めいた下腹と蜘蛛の体の継ぎ目が来ていた。
白い肌と短い毛の生えた表皮。美と醜のコントラストは見事だった。
俺は一か八か、その継ぎ目に賭けてみることにした。もっとも、ほかの部分は糸で締め上げられており、ほかにどうこうできることなどないのだが。
俺は食いしばっていた歯を緩めて舌を出すと、彼女の継ぎ目を舐めた。
「はひっ!?」
すべすべとした肌と、短い毛が舌に触れた瞬間、アラクネが裏が選った声を漏らした。
予想外の刺激だったようだ。
俺はチャンスをものにするべく、間を挟まず二度三度と、継ぎ目で舌を動かした。
「ちょっと・・・ひゃっ・・・なに・・・ひぅ!?」
くすぐったくてしょうがないのか、アラクネの言葉が途切れ、途切れる度に声に甘い色が付いていく。
そして、蜘蛛足二本で体を支えるのが辛くなったのか、彼女は俺の頭に乗せていた手を離すと、俺を宙吊りにする糸をつかんだ。
「んっ・・・やめ・・・んふっ・・・」
紡ぎ出す言葉が短くなり、漏れる声を押し殺そうとする気配が宿る。
同時に、俺の肉棒を包む蜘蛛腹の内側も、舌の動きにあわせぴくん、ぴくんと断続的に痙攣していた。
俺は、糸で宙吊りにされた体をどうにか動かし、腰で円を描いた。
親指と人差し指で作った輪っかほどの円でしかなかったが、快感にふるえるアラクネの肉穴を刺激するには十分だった。
「んっ・・・ぁ・・・ん・・・!」
途切れ途切れに声を漏らしながら、彼女が全身を震わせる。
そして、俺が継ぎ目を舐めつつ、小さく腰を動かした瞬間、アラクネに限界が訪れた。
「〜〜・・・!」
声を押し殺したまま全身を小さく震わせ、彼女が絶頂を迎える。
同時に彼女の肉穴も肉棒を締め付け、吸い立てた。意地だけでどうにか堪えていた快感が、気のゆるみにより一気に俺の意識に流れ込み、屹立でせき止められていた興奮が爆発する。
まるで蜘蛛腹に吸い上げられるように、奥へ奥へと波打つ肉穴に、俺は射精していた。
「・・・!・・・!」
「・・・・・・!」
俺とアラクネは、無言のまま絶頂に体を震わせ、快感に意識を遠くした。
そして興奮の沸騰が収まり、心地よい余韻だけが取り残される。
精液とともに背骨まで放ったかのような脱力感が、俺に取り残された。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
アラクネは荒く息を吐きながら、手のひらで俺の頬に触れた。
彼女の細い指に力がこもり、俺の顔を上に向けさせる。
するとそこには、妙に顔を赤らめ、潤んだ瞳で俺を見下ろすアラクネの顔があった。
「すごく、よかったわ・・・」
彼女は興奮冷めやらぬ声音でそう言った。
「このまま、夫になってほしいぐらい・・・ねえ、いいでしょう・・・?」
アラクネの求めは、俺の意識に深く染み入り、無意識のうちに俺の頭を上下させていた。
「うふふ・・・うれしいわ、あなた」
彼女は俺をそう呼ぶと、抱擁を解きながら離れ、俺を宙に吊す糸を断ち切った。
「さ、私たちの家に帰りましょ・・・」
彼女に抱え上げられながら、俺はこれからの日々を夢想し、期待と喜びに胸を満たした。
12/09/15 17:18更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
久々に人外生殖器描写したら、描写力落ちてて笑った。
やはり毎日のイメージトレーニングは欠かせないのだな。

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