波打ち際、月の光が照らす浜辺に、一組の男女の姿があった。
寄せては返す波に体を濡らしていることも気にせず、二人は唇を重ねあわせ、互いの体に触れていた。
女が、男の頬を撫でれば、男は彼女の首筋をさする。
男が女の背筋に触れれば、女は彼の日焼けした背中に手を回す。
互いの顔に触れ、唇を寄せ合うために使っていたはずの両腕は、もはや互いの全身を愛撫するのに使われていた。
男の指が、白い布に押さえられている女の胸元に触れる。
女の手が、男のわき腹から太股へと流れるように撫でる。
そして、男の手のひらが、海水に濡れる女の下半身、濡れた鱗に覆われた、魚のような下半身に至った。
「ん･･･！」
人間で言うと腰と太股の境目の辺りから生える鰭に指が触れ、女が小さく声を漏らした。
男は、弾力を帯びた薄く柔らかな鰭を破かぬよう注意しながらも、その形を確かめるように指を這わせ、鰭の付け根に触れる。
ぬめりを帯びた鱗の下、鰭を支える筋肉をほぐすように、彼はそこをやや強くマッサージしてやった。
彼の指先で、鱗の下に隠れていたしこりがこりこりとうごめき、女が時折身を震わせ、声を漏らした。
そして、左右の鰭をたっぷりとほぐしてやったところで、女の方から唇を離した。
「もう･･･気持ちよくしてほしい、ってそう意味じゃないんですけど･･･」
少しだけ怒ったふりをしながら、マーメイドは男に言った。
「分かってる。でも、漁の手伝いへのご褒美だと思ってほしいんだ」
男はそう、彼女に言い訳した。
「ご褒美は気持ちいいことで、って約束したじゃないですか」
「そうだな･･･また明日、『昨日の夜は不満だったの歌』を歌われても困るからな」
月明かりの元、二人は笑った。
そして、男が浮かべていた笑顔を弱め、口を開いた。
「それじゃあ･･･いくぞ･･･」
「はい･･･」
マーメイドが期待を胸に、男の抱擁を受け入れる。
男は、手をマーメイドの背中にのばすと、胸を押さえる布の結び目を解いた。
布の締め付けがゆるみ、濡れた布地が擦れる音を立てながら解け、押さえつけられていたマーメイドの乳房が月明かりに照らされる。
片手に余るほどの、半球の乳房が二つ。そして、柔らかな肉の球体の頂点では、色の薄い乳輪の中心で乳頭が膨れていた。
男は、彼女の乳房に手を触れ、優しく指を沈めながら、先端を擦った。
「ん･･･」
彼の腕の中で、マーメイドが恥ずかしさとくすぐったさの同居する声を漏らし、小さく身じろぎした。
男は、彼女の体を深く抱え込むように腕を回し、わき腹から手をのばして、彼女の乳房に触れた。
そしてそのまま、両手で腕の中のマーメイドを愛撫する。
抱え込むようにした腕で乳房を刺激しながら、先に胸に触れていた手を鳩尾へ移し、そのすべすべとした肌を確かめるように這わせる。
乳房と乳頭への直接的な甘い快感に、時折肌をくすぐる柔らかな刺激が加わり、彼女の意識を小さく揺らした。
「ん･･･ふ･･･」
堪えようとしても声が溢れでて、彼女の体が小さく跳ねる。
同時に、彼女の内側でくすぶっていた情欲の炎が、徐々に燃え上がっていく。
「ん･･･はぁ･･･ぁ、ん･･･！」
男は、マーメイドが大きくあえいだ瞬間、顔を寄せ彼女の唇に自身のそれを重ねた。
男の舌が、不意を付かれたマーメイドの口中に易々と入り込み、歌と言葉を紡ぐ彼女の舌に触れた。
唾液に濡れた軟らかな肉が微かな甘みを帯びていたのは、男の錯覚なのだろうか。
「ん･･･！」
突然のキスに、彼女は小さく喉の奥で声を紡ぐと、男の舌に自身の舌を絡めた。
そして、相手の味を知ろうとするかのように、二人の舌が互いを舐め合った。
そのころ、男の腕は鳩尾からマーメイドの腹にたどり着き、縦長のへそを中心として、すっきりと引き締まった腹を撫でていた。
なめらかな皮膚と薄い脂肪、そしてその下にある腹筋を指先が探り、肌の流れ、筋肉の流れに沿ってたどっていく。
「ん･･･！」
唇を重ねたまま、マーメイドが喘ぎ、蛇のように絡み付かせていた舌が動きを止める。
男はその隙をついて、逆に彼女の舌を自身のそれで擦り、息づかいとともにひくつく腹筋をなぞった。
「ん、ぁ、ぁ･･･」
唇の隙間から、マーメイドの甘い喘ぎ声が溢れ出す。
男は一通り、彼女の力を愛撫によって奪うと、手をさらに下へと移した。
滑らかな肌を這っていた指先が、ぬるりとしたわずかに固いものに触れる。マーメイドの魚体を被う鱗だ。
感想から身を守り、海中での水の滑りをよくするための粘液を指先に絡めながら、彼は鱗と鱗の間をたどりつつ、手を動かした。
そして、人体と魚体の境目から少しだけ下がった場所に、鱗に被われていない場所があった。
直に魚体の滑らかな表皮をさらすそこは、鱗を濡らす粘液や海水とは異なるもので濡れていた。
男は、その鱗に被われていない場所を軽く探ると、亀裂を見つけだした。
固さは残るものの、甘い快感と興奮、そして今宵の期待に緩んだ亀裂。
普段はきゅっと閉じ、海水一滴すら入る余地のない隙間に、男はそっと指を沈めた。
「･････････！！」
声を漏らすことなく、マーメイドが彼の腕の中で全身を震わせた。
体内へと続く秘めやかな門を少しだけいじっただけで、軽く達したのだ。無理もない。海水すら入ることのない、外部の刺激に全く慣れていない場所に、愛しい夫の指が触れたのだ。
ただでさえ夫の指がもたらす刺激は快感につながるというのに、陰部への強烈な刺激は、直接彼女を忘我の域へ連れ去った。
目をぎゅっと閉ざし、眉根を寄せながら、快感に耐えるマーメイド。眼前の愛しき者が身悶えする様に、男は胸の奥に悦びが芽生えるのを感じた。
自分の指で、こんなに感じてくれている。
その事実が、彼女にもっと気持ちよくなってほしいという気持ちを芽生えさせ、男の指を動かした。
浅く、爪の根本までしか差し入れていない指で、軽く亀裂の内側をかき回し、固さの残る穴をほぐす。
軟らかな肉が一瞬彼の指を受け止め、直後その肉を隔てた筋肉が指を押し留めようとする。
鰭の根本の凝りをほぐしたときのように、亀裂の周囲の筋肉をほぐしながら、彼は少しずつ、少しずつ、指を穴の奥へと沈めていった。
「んっ･･･んっ･･･ん･･･！」
男の指の動きに合わせ、マーメイドが身悶えする。
指を丸く回すたびに、彼女が声を漏らし、彼の手の中で乳房の先端が震える。
指を少し沈める度に、彼女が身を強ばらせ、彼の腕の中で震える。
魚体の末端、大きく広がる彼女の尾鰭が、浅い海面を叩いて飛沫をまき散らす。
まるで、必死に己の内を満たしていく快感を紛らわせようとするかのようにだ。
「ん･･･」
男は深く舌を差し入れ、彼女の口内を舐めた。じわりと口内に唾液が溢れだし、錯覚かもしれない甘い味わいが彼の意識に伝わる。
そして、マーメイドの魚体に刻まれた秘裂には、指がもう根本まで入り込んでいた。指をごくわずかに曲げ伸ばししながら、軽くかき回してやる。すると、指をきつく包み込む軟らかな肉や、指では届かない肉穴の奥底から、粘液が滲みだしてくる。
彼女の興奮の証は、指の動きを滑らかにし、さらなる快感と刺激をマーメイドに伝えた。
「ん、んん･･･！」
男の腕の中で、マーメイドが体を震わせながらも声を漏らし、不意に男の胸に手を当て押しやった。
彼女の抵抗に、男は素直に彼女の背中に回した腕を緩め、抱擁を説く。
二人の上半身が距離をとり、重ね合わせていた唇が、唾液の糸をいく本も引きながら離れた。
「はっ、はぁ、はぁ･･･」
やや苦しげに、彼女は荒れる呼吸を落ち着け、目元に涙を滲ませながら男を見据えた。
「お、おねがい･･･！ここ、きゅんきゅんして･･･もっと･･･！」
手を自身の下腹に当てながら、彼女はそう求めた。
「わかった」
男はそう頷くと、魚体の亀裂に沈めていた指を、ゆっくりと抜いた。
退いていく指を引き留めようとするかのように、亀裂の筋肉が指を締め付ける。だが、大量に滲み出した愛液により、男の指はぬるぬると穴から抜けていった。
そして、指を差し入れる前は閉じていたはずの穴が、物欲しげに口を開いたまま取り残された。
「よ･･･」
男は声とともに、マーメイドの体を仰向けにし、その上にまたがるように砂の上に膝を突いた。
もちろん、尻を魚体の上に載せるようなまねはせず、彼女と男の間に隙間を作っている。
そして、マーメイドの痴態によって勃起しきった肉棒を、片手を添えながら亀裂に押し当てた。
「きて･･･！」
マーメイドの震え声に合わせ、魚体の亀裂に屹立を押し込む。
いくらか指で解され、開きっぱなしになっていたとはいえ、まだまだきつい肉の穴が男を受け入れた。
愛液のぬめりを借りて、無理矢理穴を押し広げるようにして自身を挿入していく。
「ああああ･･･！」
入り込んでいく男根に、彼女は声を漏らした。
苦痛の声ではない。随喜の声だ。
指一本では広がりきらなかった肉の穴が広がり、届かなかった場所に男根が入り込み、指とは比べ物にならない熱が軟らかな肉を襲う。
その甘い刺激に、彼女は堪え難い快感を覚えていた。
加えて、愛する夫とまた一つになれたという感情が、快感の油とともに興奮の炎に注がれていく。
「う、動くぞ･･･」
根本まで肉棒を挿入し、上半身を倒してマーメイドに覆い被さりながら、男はそう呻くようにいった。
そして、腰を小さく、細かく前後に揺すり始める。
肉棒が少しだけ膣から抜け、再び根本まで挿入される。
指二本ほどの幅の前後運動でしかないが、二人の快感は非常に大きかった。
肉棒をきつく締め上げる肉壁が、小さな前後運動に合わせて屹立の凹凸を撫で擦り、刺激する。
一方狭い穴を荒々しく押し広げる屹立は、細かく前後に動いて、穴の奥をずんずんと突く。
「うう、き、きつい･･･！」
「おおき･･･あつ･･･！」
二人とも、脳裏に浮かんだ言葉をそのまま紡ぎ出しながら、互いの正規のもたらす快感に喘いだ。
そして、男の限界が近づいたところで、彼は低く呻いた。
「で、でる･･･！」
「そ、そのまま･･･！」
ごく短いやりとりだったが、二人にはそれで十分だった。
男が腰を深く沈め、肉棒の根本まで。それどころかもっと奥まで挿入した。
瞬間、男は亀裂の締め付けに堪えかねて白濁を放ち、マーメイドは一番奥深くをえぐられた刺激と、体内に広がる熱によって達した。
「ぐぅぅぅ･･･！」
男が砂を握りしめ、マーメイドは男の背中に回した両腕できつく抱擁した。
射精とともに、男は自分自身が放たれていくかのように錯覚し、彼女は胎内の熱に腹の奥が溶かされる用に感じた。
肉でできた棒一本と、体に刻まれたごく小さな亀裂。たったその二つでつながっているだけにも関わらず、二人は互いの体が溶け合い、一つになるような快感を覚えた。
そして、たっぷりと続いた射精が終わったところで、どちらからともなく二人は力を失い、砂の上に突っ伏した。
波が砂を洗う音と、二人分の呼吸だけが夜空の元に響く。
「･･･すごく･･･よかったです･･･」
しばしの沈黙を経てから、マーメイドがそう紡いだ。
「でも、もう少し･･･頑張ってください、ね･･･？」
「･･･ふふふ、わかったよ･･･」
快感のためというよりも、愛しいマーメイドのため、男はそう微笑んだ。

■作者メッセージ
「人魚は歌がうまいんだよ」
「歌が！」
「でも歌ネタはセイレーンで使うって決めてるんだよ」
「セイレーンで！」
「だから、若干『これマーメイドじゃなくて、他の人魚系の娘さんでもよかったんじゃないの？』って出来になってるんだよ」
「よかったんじゃねえの！？」