愛する彼女に永遠に囚われちゃうお話
妻が死んだ。
彼女とは成人して間もない頃に出会った。一目惚れだった。
絹のように滑らかな肌、銀色に輝く髪、端正な顔立ち、どれを取っても一級品だった。
その中で、俺が惚れたのは……笑顔だった。ふとしたきっかけで目が合った時に微笑えまれた。
口角がつり上がった、少しぎこちない微笑み。それが、なぜだかたまらなく愛おしく思えてしまい、気がついたら柄にもなく声をかけていた。
何を言ったのかはよく覚えていない。天気の話をしていたような、お茶の誘いをしていたような……そうやって必死に彼女との接点を作ろうとしていた。
そんな挙動不審で必死な俺に対して、彼女は微笑みながら名を教えてくれた。
フィーゼ、それが彼女の名前だった。
彼女は病弱だった。
俺が声をかけたあの日、あれは一ヶ月ぶりの外出だったらしい。
生まれつき体が弱く、体調が良ければ外を出歩けるが、悪い時はベッドから出ることすらできない。
「どこが悪いんだ」と尋ねると、「脚が悪いし、呼吸もうまくできないのよ」と返された。
その時の彼女は、困ったような、憂いたような、そんな表情で俯いていた。
そしてそのまま、こう続けた。
「もし、私が幽霊みたいにふよふよ浮けたら、この世界はもっと面白くなるのにね」
自らの死を仄めかす自虐のような呟きを、今でもよく覚えている。
俺はそんな呟きに対して、「俺がもっと面白くさせてやる」みたいなことを反射的に言った気がする。
あの頃の自分は恋という熱に浮かされていた。いつも熱の中で、彼女に酔っていた。
そんな必死で、くさいアプローチの何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが、こうしたやり取りをしているうちに次第に距離を詰めていった。
彼女の調子がいい時は逢引をして、大人な雰囲気になったら不慣れなキスをして、そうして愛を深め、結婚まで至った。
彼女は愛が深かった。いや、執着深かった。
毎朝仕事に行く時は、例え調子が悪くてベッドから出られなくとも裾を掴まれた。
くいっ、くいっ、と裾を引き、「ねぇ、お仕事休んでしまわない?」と悪いお誘いをよくしてきた。
それは出来ないよと断り、それでもワガママを言う彼女に軽くキスをして諭し、「…恨むわよ」という呟きと共にジトっと見つめられながら家を出るのが日課だった。
休みの日はひたすらベタベタしてきた。何をするにもくっついてきて、不意打ちのようにキスされることも多かった。その行為にドキッとして振り向くと、彼女は口角を吊り上げ、まるで悪魔のような微笑みをしているのをよく覚えている。
彼女は積極的だった。いや、嗜虐的だった。
彼女は病弱だったが、体調がいい時は積極的に体を重ねることを求めてきた。
体調を気遣って、ゆっくりと長時間かけて彼女を悦ばせていたが、毎回それだけでは終わらなかった。
俺が一発だして少しゆっくりしていると、彼女は覆いかぶさってる俺をぐいぐいと押しのけてきて、跨って、いわゆる騎乗位の形で挿入してくるのだった。
細く、綺麗な四肢をあらわにしつつ、淫らに腰を揺らし、口を三日月のように歪めて愉悦に満ちた表情で見下ろして、俺の反応を愉しんでいた。
俺が気遣っているのを知っているから、それゆえ反撃できないのを知っているから、騎乗位でひたすら責め立ててくる。
射精直後で敏感になっている亀頭をナカでぐちゅりぐちゅりと締め付けながら擦り上げ、焼けるような快感に耐え切れず、動きを止めようと手を伸ばすと、しなやかな指が俺の手にすっと滑り込み、恋人繋ぎでぎゅっと握られてしまう。
もう出ない…と弱音を溢すと、より一層笑みを深めて腰を動かし、「このままシ続けたら、腰が抜けて明日は休みになるかもね」と恐ろしい囁きをされるのであった。
毎朝の恨みを晴らすような…そんな彼女のジメっとした愉悦に俺も中てられてしまって、はち切れんばかりに膨張して、そのまま彼女のナカに屈服してしまう……それが俺と彼女の関係だった。
彼女には薬が必要だった。
彼女の健康のためには一日も欠かすことが出来なかったが、薬は決して安くなかった。
特に、発作を抑えるための大事な薬はとても貴重な物であり、高価である上にわざわざ他国から取り寄せなければならなかった。
そんな彼女のために、俺は必死になって働いた。主に警邏の仕事だったが、人一倍勤勉に働き、昇進に繋がるような試験には積極的に受け、定期的に行われる武術大会では常に上位入賞を果たしてきた。
そんな実績が買われ、30歳を前にして警邏隊の隊長……とは言っても十数人程度の小隊のだが、それを任されるほどになった。
部下を持ち、彼らの管理という新たな仕事が増えた代わりに、ある程度倹約すれば問題なく薬を買えるようにはなった。
彼女の発作はひどかった。
ごほっ、ごほっと渇いた咳が響き、彼女の喉奥からはヒューヒューとかすれた笛のような音が漏れる。常に息苦しいらしく「まるで真綿でじわじわと絞められているみたいだわ」と呟いたこともあるほどだった。
そんな彼女の発作の時は出来る限り看病した。
「一生このままかもね……」
「今回こそは死ぬかもしれないわ」
そんな風に弱音を吐く彼女に
「そんなことはない、必ず治してみせる」
「俺が死なせやしないさ」
といった、何とも無責任な慰めをしていた。
薬を作れるほどの頭もないのに、死神を殺せるほどの超常的な力も持っていないクセに……
でも、彼女はそんな慰めを聞くとニコッと微笑んで
「そうね、あなたが居るから大丈夫ね」
と、心底嬉しそうに返してくれた。
そして同衾して後ろから抱きつくようにせがんだり、はたまた両腕を広げて暗に抱きつけと命令したり……そういった風に甘えてきて、発作が治まるまで過ごしていた。
だが、激しい発作の時は薬を飲んで安静にしていても中々治まらなく、彼女の苦しそうな呼吸を間近で感じるのが、とても辛かった。
俺に必死にしがみついて呼吸を整えようとするが、堰を切ったようにゴホゴホゴホと咳が溢れてきて、目に涙を溜めつつもまた呼吸を整えようとして……
そんな話すことすらままならない状態、それなのに彼女は必死に言葉を紡いで
「ねぇ……もし、このまま死んでも、ずっと一緒にいてくれる……?」
といつも尋ねてきた。
俺は必死に背中をさすりながら、「もちろんだ」と短く返すことしか出来なかった。
今回も大丈夫なはずだ、このヤマを超えたら落ち着くはずだ……そう思い込むのに必死だったからだ。
そんな発作を幾度も乗り越え、なんとか彼女と生活を続けていた。
かの大国、レスカティエが陥落した。
その凶報を聞いたのは、雪解けの時期だった。
薬を取り寄せてくれる商人に呼び出され、嫌な予感がしながら付いて行った先で知らされた。
あの発作の薬は遠くの国からレスカティエを通して取り寄せていたのは知っていた。
ゆえに、レスカティエの陥落は、妻の死を知らせるようなものだった。
さぁっと血の気が引いていくのが分かった、突然の凶報に混乱する。
彼女が死ぬ……?薬は家にあと何回分あったか……?どうしてこんなことに……?
そんな思考がぐるぐると頭の中を巡り、その末に商人にみっともなく縋りつき、
「いくらでも払うから……だからっ、どうにかして手に入れてくれ!お願いだ……」
と喚き散らした。外聞も気にせず喚き散らした。
商人は首を振った。
レスカティエは近づけない状態になっていること、そのせいで主要街道がいくつもやられてしまったこと、それらを極めて丁寧に俺に教えてくれた。
そんなことは分かっていた。そして商人ですらどうあがいても手に入れれない状況なのは察していた。
でも、それでも、諦めきれず商人に色々と提案した。だが、それら全てを丁寧に説き伏せられた。俺は何も出来なかった。
商人と別れ、家に帰り、ベッドで臥している彼女にそのことを知らせると、そっぽを向き、少し間をおいて
「そう」
と短く返すだけだった。その後ろ姿は幽かに震えていたのをよく覚えている。
俺はそれを、ただ抱きしめることしか出来なかった。ぎゅっと強く、その華奢な体がすぅっと通り抜けていってしまわないよう、力強く……
その日が来たのは南風が吹き始めた頃だった。薬を使い切った六日後のことだった。
これまでになく激しい発作が彼女を襲った。咳き込んでも咳き込んでも、一向に治まる気配がない。出来る限りの看病はしたものの、自分の無力感を膨らませるだけだった。
それなのに彼女はずっと微笑んでいた。どんなに咳き込んでも、ろくに呼吸が出来ず喉から空気が漏れても、口を閉じることすら出来ず涎が垂れても、微笑んでいた。
そして微笑みながら彼女は、一緒にレストランで食事をしたい、一緒に海を見てみたい、一緒に大都市の夜景を見てみたい、もっと一緒に遊びたい…普段は決して言わなかった願望を幾度となく俺に語った。
彼女は自分のことをよく分かっていたのだろう。でも、俺はそんな彼女の願望を、悪い予感をかき消すように下手くそな慰めの言葉を必死にかけていた。
そんな俺の声すら塗りつぶす一際大きな発作が彼女を襲った。彼女は何とか息を整え、ねぇ、と消え入るような声で呼んだ。俺は静かに、どうした、と返した。
彼女はこう続けた。
「死が二人を分かっても……愛してくれるって約束して……」
彼女はもう俺を見ることすら出来なかった。
そんな彼女を必死に抱きしめ、もちろんだ、と強くハッキリと答えた。とにかく安心させようと、彼女に聞こえるようにハッキリと。
彼女は頬を吊り上げて微笑んで、声にもならない音を口から出して、そのまま寝入ったように静かになった。
妻は死んだ。
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「オルゼットさん」
後ろから声をかけられ、現実に戻る。
職務中であったことを思い出し、振り向いて部下に返事をする。
「ああ、すまない、どうした?」
「いえ、防衛についてですが……」
あれから数ヶ月、魔王軍はレスカティエだけでなく近隣諸国をも侵攻し、次々と占拠していった。
そしてこの国、監獄都市国家『グレンティス』にその魔の手か襲ってくるのも時間の問題であった。
この国はその名前の通り、壁に囲まれた大規模の監獄が北部にあり、各国からの罪人が収容されている。
まあ、罪人の大半は各国のはみ出し者であり、実質的に就職支援施設のような扱いにもなっているが、それは今はどうでもいい。
収容されている罪人の中にはもちろん魔物も含まれており、その同胞を救出するために攻め入ってくるだろう、と予測されている。
だが、この国自体も監獄のようにぐるっと壁で囲まれている上に、北は山、西は森、東と南は湿地帯であり、まさに陸の孤島の要塞。防衛戦には滅法強い。
いくら魔物といえども、この難攻不落の国を完全に攻略するのは難しいであろう。
また、今の魔物は話の通じる個体が多いらしく、国の上層部は交渉の余地もあるかもしれないとして、戦力的に歯が立たない相手の場合は交渉で場を収める準備も進めているらしい。
そんな中、俺は自ら志願して壁の外で防衛する小隊の隊長を務めることになった。
担当は西側の壁であり、ここらは墓地になっている。広い草原に墓石がきちんと連なっており、すぐそこには鬱蒼とした森が広がっている。
この西側の壁には大きな門はないものの、精霊のいる森に行くための魔術師用の通用口が存在しており、万が一そこから侵入されないよう防衛をしている。
東や南の大きな門や広い通用口があるところに比べれば遥かに安全とはいえ、壁の外で真っ先に対峙するこの任務は極めて危険と言えよう。
だが、それでも俺が志願した理由は、この墓石にある。
フィーゼ
そう、ここには彼女の墓がある。
彼女が生きていたという数少ない証、それをもし、魔物共に踏み荒らされたら……と思うとゾッとしてしまう。
だから、この国を守るためにも、彼女の墓石を守るためにも……
だが、どうにも、おかしい
あんなに愛おしかった妻なのに、そんな妻が眠っている大事な墓石なはずであるのに、どうにもこれがただの墓石にしか思えない。
まるで、彼女はこの下にいないような……そんな気がしてならない。いや、それどころか、彼女はすぐ傍でまだ生きているように感じてしまう。
朝起きた時も、昼の職務中も、夜帰った時も、ふわりとした彼女の匂いが一瞬して、ふと辺りを見渡すとそこには誰もいないのに、なぜか安堵を感じてしまう。
この前なんか、ベッドに入って寝ている時に腕の中に誰かいるような感覚をかすかに覚え、目を覚ますと何かを抱きしめるような格好で寝ていたこともあった。
そして何より、彼女を亡くしたはずなのにこうして普通に生きてしまっていることがおかしい。自分よりも大事な彼女だったはずなのに、後を追う覚悟すら出来ていたのに……
そんな、平然としている自分が、ひどく気持ち悪い
彼女の死を認識しきれていない、それどころか逃げ続けている。そんな感じなのであろう。
だから、この墓石に通ってちゃんと彼女の死と向き合うようにしている。そうでもしないと、彼女を愛した自分がいなくなってしまいそうで、最後の約束すら果たせなくなりそうで……ひどく恐ろしいから。
とは言え、彼女の死を思い出すと、彼女との幸せな日々をかき消すような無力感、絶望、空虚を、一気に思い出してしまって……
「……オルゼットさん、体調が優れないようでしたらあちらで休みながら話しましょう」
部下の話はいつの間にか止まっていて、気遣いの言葉を投げかけてくる。チラリと彼の顔を見ると、すこし眉をひそめて複雑な表情をしていた。
部下に要らぬ気遣いをさせてしまったことを恥じつつ、「いや、大丈夫だ」と短く返し、大事な仕事の話に意識を向けた。
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いつものよう防衛……という名の単なる見張りをしていると、言葉では言い表せないような嫌な予感がした。
そう、目の前にある森がいつもと違うような、風に揺らめく草木の一つ一つがおかしいような、根本的に異質なような……そんな気がしてならない。
だが、いくら目を凝らしても、何も変化はないように思える。一応近寄ってよくよく確認してみるが、人が立ち入った跡どころか、獣の足跡すら見当たらない。
それらが余計に違和感を増幅させ、その感覚は何か確信めいた物に変わった。
魔物がいる
自然と手に持つ槍に力が籠る。
木々に覆われ、薄暗くなっている森の奥からナニカが覗き込んでいるような気がしてならない。
気を抜いたらそのまま引きずり込まれそうな予感がして、緊張を解くことができずにただただ奥底にいるナニカを睨みつけることしか出来ない。
この場から離れるために、そのままゆっくり、ゆっくりと後ずさりしようとすると
肩になにかが触れた。
心臓が飛び出しそうになりつつも、すぐさま振り返って槍を構えると、そこには影も形もなく、ただただ名も知らぬ花が風に揺られているだけだった。
この事実を受け止め、おそらく風だったのであろうと思い込もうとするが、やはり先ほどの肩に触れた柔らかい感覚を思い出してしまう。
やはり今のは風なのか……?それとも、ナニカが確かに触れたのだろうか……?
そんな風に思考を逡巡させて立ち尽くしていると
「どうかしましたか?」
心配した部下が話しかけてきた。
「なぁ、何かがこの森に居る感じがしないか?」
「えー…それは魔物が居るということですか?」
「いや、感じないなら大丈夫だ、俺の気のせいだろう」
その部下にこの異常な気配を感じているかどうか尋ねてみたが、怪訝な表情を見る限りどうやら毛ほども感じていないらしい。
すぐに持ち場に戻り、ただ気を張りすぎてたから変な妄想に囚われてしまったのであろうと結論付けようとする。
……だが、どうにも背筋が凍るような感覚が消えず、嫌な予感がしたため、隊員を全員集合させて、今日は厳重警戒することと、夜の見張りと灯りを増やすことを命令し、万が一の時のための作戦を伝えた。
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日が落ちて暫く経った頃、俺は異常なプレッシャーに潰されかけていた。
森からひたりひたりとナニカが歩いてきている。そんな感覚、恐らく魔力という物をハッキリと感じ取れてしまっている。こんなことは初めてだ。
たしかに強力な魔法陣等を目の前にすると、魔力特有のオーラのようなものを感じることはあった。だが、それは魔術師が何カ月も準備した魔法陣の話であって、一つの生物に対してこんなにハッキリと感じることはなかった。
これが魔物という存在なのだろうか、だとしたらこの国に勝ち目などないのではないか……?そんな考えすら思い浮かんでしまう。
だが、そうは思っても身を守るためには戦うしかない。一際大きな咳払いをして、部下にハンドサインで魔物が居る方向を指し示す。
そして、事前に打ち合わせていたように、墓石を使って身を隠し不意打ちを狙えるように準備をさせておく。墓石を壁にするのは罰当たりだが、この際は仕方ない。
……まあ、こんな異常な魔力を放つ化け物が相手なので位置がバレているであろう。それでも城壁に並んで立っているよりはマシだ。
そうして待ち構える。槍を握る手に力が入り、じわりと汗が滲んでくる。
森から二つ影が現れた。
暗くてよく分からないが、どちらも人のような姿をしていた。
片方は長い髪をまとめた気品溢れる貴婦人、もう片方は典型的なとんがり帽子を被った魔術師のように見えた。
一見すると人間のように見えるが、灯りに照らされあらわになった青白い肌と底冷えするようなオーラが、あれは人間でないと教えてくれる。
「こんばんは」
貴婦人のような魔物がニッコリとしながら話しかけてきた。
どうやら話の通じる魔物がいるというのは本当のことらしい、俺は尋常じゃないプレッシャーに気圧されながらも口を開いた。
「あぁ、こんばんは」
もしかしたら話し合いだけで何とかなるかもしれないという一縷の望みに賭け、なるべく刺激しないように返事をする。
「たくさん灯りを照らしているけど、何かパーティーでもしてるのかしら?」
「まぁ……こんなにいるとは思わなかった……」
背筋に冷や汗が伝う。
扇子で口元を隠しつつクスクスと笑う貴婦人、ぼそぼそと呟く魔術師、そのどちらも墓石に隠れている部下たちに気づいている様子だった。
部下をチラリと一瞥すると、突撃すべきかどうか確認を取ってきていた。今にでも飛びつかんばかりの眼光をしていた。
どうやら部下たちはこの二人の尋常じゃない圧を感じ取れていないらしい。たとえ、全員がこの二人に飛び掛かったとしても一瞬にして蹴散らされるのは目に見えている。
無駄な被害を増やさないように俺はそれを制止させて、貴婦人に話しかける。
「…あなた達の目的は、捉えられている魔物の解放であろう」
「上の人達もなるべく穏便に事を収めたいと思っている、俺から伝令を送って今すぐにでも交渉の場を設けることも――」
「あら、私が魔物の解放を望んでるなんて…いつ言ったかしら?」
「…だとしたら、何が目的だ」
じろりと睨みつける。
より一層背中にのしかかるプレッシャーが重くなる。冷や汗で全身が湿っていくのが分かる。
たとえ触れずとも術を使わずともこうして威圧されている時点で、勝ち目などほぼ無い。
だが、魔物の解放が目的でないと言うのであれば…もはや交渉の余地はない可能性が高い。
「私は別の用事だったけど……これはすごい……」
「私はねぇ、とっても素敵なことをしにきたのよ♪」
興味なさげに虚空を見つめる魔術師とは対照的に、貴婦人は喜色を声に含ませて子供のような笑みを浮かべる。
その笑みは、まるでこれから何かが起こるのを楽しみにしているようにも見え、何かの予兆のような嫌な感覚を覚える。
咄嗟に部下たちをその場から退避させようとするが、まるで首を絞められているかのように息苦しくなり、声が一瞬詰まってしまう。
「皆きっと、喜んでくれるわ♪」
そんな声と共に、地面からナニカが這いずり出すのを俺は目の当たりにした。
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一瞬だった。
地面から這いずり出てきたゾンビによって、一瞬のうちに我が隊は混乱に陥った。
足を掴まれ半狂乱になる者、それを助けようとしたら自分もゾンビに捕まって泣きわめく者、そんな状況に気をやられてしまい森の方へと走って逃げてしまう者も居た。
何とかゾンビによる奇襲を逃れた者たちも、どこからか現れたゴーストに憑りつかれ、その場でうずくまってしまった。
俺はそれを、呆然として眺めることしか出来なかった。
「うぅ…うぁ…」
「たすけてぇ…!」
「やぁだ…やだぁ…」
至る所から弱々しい悲鳴が聞こえてくる。魔物に貪られてしまって、もう息も絶え絶えなのであろう。
森からも何かが叫び声を上げているのが聞こえてくる。森に逃げ込んだ奴も魔物に出くわしてしまったのだろう。
しかも、自分の背後にある壁の向こうからも微かに悲鳴が聞こえてくる。壁の中にもすでに魔物が侵略してしまったらしい。
「ふふふ……素敵なパーティーね♪」
「まあ……同胞が増えるのはいいこと……」
目の前の二人の魔物はそんな様子を目の当たりにして、嬉しそうに呟く。
「ははは…」
渇いた笑いが出てくる。
魔物は俺から全てを奪った。
薬を奪った、妻を奪った、部下を奪った、そして国すらも奪われてしまった。
彼女の墓を見ると、ゾンビが掘り起こした泥に塗れて黒ずんでしまっていた。もしかしたら、彼女もゾンビになっているのかもしれない。
「なぁ、あんた」
「?」
貴婦人に語りかける。その瞬間、息苦しさが増すものの、構わず貴婦人に近づいて縋りつく。
「頼むから、死ぬなら、死ぬなら彼女に喰われて死にたいんだ」
「彼女はどれだっ、どれだ!あの墓の彼女はどこか教えてくれっ!」
もはや生きる気力を失った。
せめて最期は……どんな形であろうと彼女を抱きしめて死にたい。完全なエゴだが、もうそれで構わない。
みっともなくドレスに縋りつく。機嫌を損ねたのであろう、これ以上になく重いプレッシャーが全身にのしかかるが、それでも臆さない。
「え、えーと、それは出来ない願いね」
「なぜだ!死に方ぐらい選ばせてくれたって――」
喚き散らして貴婦人に詰め寄ろうとしたが
「あ な た」
後ろから底冷えするような声が聞こえた。
その声は、ひどく聞き覚えがあって、何度も何年も聞きなれた声だった。
まさか…と思い、首を後ろに向けると
「あは、やぁっと見てくれたぁ♥」
俺の肩に頭を乗せた『彼女』と目が合った。
生前の彼女と全く同じ顔立ちをしていたが、異常な青白い肌が魔物と化したことを教えていた。
さらに前よりも、目もとのクマがひどくなっており、その笑みはより獰猛さを感じられるようになってしまっていた。
「フィーゼ…なのか…?」
変わった彼女にそう問いかける。
「ええ、そうよ、あなたが一生離さないって約束したフィーゼよ」
「それに、死んでも愛するって約束したわね」
彼女はぺったりと背中にくっつきながら、そう返す。
吐息が首筋に当たり、ゾクゾクとしたくすぐったさが走る。
「ほら、ちゃんとこっち向いて」
そう言うと彼女は背中から離れ、宙を浮いてくるりと回転する。
彼女の全体をよくよく確認すると、生前の頃と変わらぬ顔、服装は黒を基調としたドレスで、ふと足元を見ると鋼鉄のシャンデリアのような受け皿の上に青い炎が揺らめいており、そこから彼女の脚がすらっと伸びていた。
完全に人外のモノと化した彼女、だけれども、それでも、彼女に会えたことは嬉しくて、思わず抱きしめてしまう。
彼女の体はふわりと柔らかく、生前よりも肉付きがよくなっていて、そこに確かに居た。
「フィーゼ……!ほんとに、本当に会いたかった……!」
「わっ……♥」
「ふふっ…よしよし…そんなに会いたかったんだ」
「うれしいな、うれしいなぁ♥」
こちらが抱きついたのに対して、ぎゅっと抱き返してくる。
その手は背中を撫でまわし、俺と同じようにその存在を確かめているようだった。
「…ほんと、こんなに甘えん坊になっちゃって」
まるで子供扱いするようにぽんぽんと頭を撫でられる。気恥ずかしさはないわけではないが、それよりも彼女に再開できた嬉しさが勝り、されるがままになってしまう。
出来ることなら、ずっとこのまま、彼女と抱きしめていたいと思ったが
「とっても美味しそう♥」
そんな声と共に後ろからガシャンと無機質な音が聞こえた。
いつの間にか空が黒い格子で覆われていた。後ろを向くと、鋼鉄の檻が後ろを塞いでいた。その檻の格子は俺の股下を通っており、そこでようやく閉じ込められたことを把握した。
そうだ、そうだった、彼女は魔物になってしまったのだ。
「そっぽ向いちゃダメでしょ」
「こっちだけ見て」
「だって私とずっと一緒にいるんでしょ?」
「死んでも愛してくれるっていったよね?」
彼女はまばたき一つもせずにじぃっと見つめてくる。
逃げなきゃ、このままだと彼女に喰われてしまう、どうにかしなくては…
だが、彼女の執着に塗れた言葉が俺の心をじわりじわりと蝕んでいく。
そしておもむろに
「ん…んぅ…」
キスをされた。
「ん…はぅ…じゅるる…」
青白い肌とは打って変わって、熱いほどに火照った舌が口内に侵入してくる。
唇をぴったり合わせてそのまま舌を深く絡めてきたかと思いきや、唇を合わし直してじゅるるると音を立てながら舌で搦めとった唾液を啜ろうとしてくる。
そんな刺激的な感覚に合わせて、口の奥から、ナニカ、大事な物が奪われているような感覚に襲われてしまって、力が段々と入らなくなってしまう。
それなのに、股間のモノはこれ以上になく怒張してしまっていて、その切なさで思わず小さな呻き声をあげてしまう。
「ん…♥」
「んん…んー…はむっ…じゅるる…」
彼女はそんな声に気がついてニコッと目元を細めるものの、そのままひたすらキスを続ける。
彼女に啜られる度に、心の奥底からすぅっと力が抜けていってしまい、彼女を抱きしめる腕が徐々に下がってしまう。
さらに股間が切なくなって、じわりと我慢汁が染み出してしまうのも分かって…
すると、ズボンをすっと降ろされてしまって、パンツの中で張り詰めたナニに彼女の太ももがあてがわれ、そのままじわりじわりと押しつぶされてしまう。
そんな、ちょっとキツくてとても甘美な快感に、思わず腰を震わせて、かくかくと押しつけてしまう。
「ふふっ…いいわ、私の太ももでオナニーしちゃいましょ♥」
「ぎゅーって潰されちゃって、そのままお漏らし射精……そんな情けない姿をちゃんと見てあげるわ♥」
そんな彼女の囁きで自分のみっともない行為を自覚してしまい羞恥心が膨れていくものの
スリスリスリ……ぎゅぅぅ……
太ももによる責めで快楽漬けにされてしまい、そんな羞恥心も余計に被虐的な快楽を増幅させるスパイスになってしまう……
一擦りされるだけでびゅるっと我慢汁が噴き出て、パンツからねっとりしたシミが広がり、彼女の太ももに糸を引いてくっつく。
ぬちゃぬちゃ……ぶちゅ……
太ももが奏でる音が次第に湿っぽくなってきて、自分がどれほど我慢汁を吹き出しているのかを知ってしまい、みっともなさがまた増幅して……
でも、彼女に抱きついてると離れられないし、彼女の首筋に顔を埋めると脳を震わすような匂いがして……本能に従って腰をかくかくと震わしてしまう。
「ほら……ちゅ……一滴残らず搾り出して」
「出して、出して、全部私に出して」
首筋に軽く口づけをされゾクゾクと背筋に快感が走り、そのまま太ももをぬちゃぬちゃと激しく擦って、一気に搾り取ろうと責め立ててくる。
抗うことの出来ない暴力的な快感。
「うぅ……も、もぅ……」
もはや呻き声を上げることしか出来ず
「出せ、私にぜーんぶ出しちゃえ」
その囁きがダメ押しとなって
ドプッ
ドクッドクッドクッドクッドクッ
ビュルッ……
限界を迎えてしまう。
彼女がズリっと太ももを擦る度に精液が奥底から溢れてきて、もっと出せと言わんばかりに激しく擦られ、何度も何度も絶頂の波を迎えてしまう。
そんな異常な射精、腰の奥底から無理やり引っこ抜かれているような大量射精、精液を一噴きするごとにまるで魂が抜けるような感覚がして、残った理性が必死に警鐘を鳴らすものの、この破滅的な快楽には抗えず、むしろ腰を押しつけてしまって、本能的に全てを彼女に捧げようとしてしまう。
もう全て出し切った……そう思っていたら、むぎゅっと不意打ち気味に太ももで圧し潰され、うぅっと呻きながら最後の一滴を出し切る。
「あーあ、出しちゃった」
「もう力が入らなくなってるの分かるでしょ?」
彼女の顔を見ると嗜虐的な……そう、俺を搾り取ってきていたあの時の顔をしていた。
三日月に口を歪ませる彼女は、前よりも青白く、目元のクマも一層酷くなっているのに、肌に艶が出てきて、とても生き生きとしていて……
あぁ、彼女に食べられているんだ。
そう思うと、ゾクゾクとした快感が体全体を走り、ぶるりと震えてしまう。
被虐的で、破滅的な悦びだが、彼女からされる全てに快感を覚えてしまい、もはやまともに理性が動かない。
パンツをするりと降ろされる。いつの間にか精液は一滴残らず無くなってしまっていたが、彼女に絡め取られたんだろうと何故か納得してしまう。
「あなたは今……生命を出しちゃってるのよ♥」
「私にだーいじな命を吸われちゃって……どうかしら、怖い?」
そう言いつつイタズラっぽい笑みを浮かべる。でも、言ってる内容はとても残酷で、悲しいもので、また彼女と別れる……そう思うと勝手に涙が溢れてしまう。
さっきまでは彼女に一目会って死にたいと思っていたはずなのに、こうして彼女に触れていると、その熱が、吐息が、匂いがとても愛おしく思えてしまって、離れたくない一心で一生懸命に抱きしめようとする。
だが、ろくに力が入らず、さすさすと手を動かすことしか出来ない。
「あは……泣いちゃった」
「そんなに怖い?やめてほしい?」
その端正な顔立ちが、無表情で、こちらを覗き込むように見つめてくる。
死にたくない、別れたくない…そんな必死な想いで何とか、やめてくれ、と声を喉から絞り出すが
「……絶対にやめてあげなぁい♥」
返ってくるのは無慈悲な死刑宣告
「や、やだ、やめ……」
「だって、あなたは私にたくさん酷いことしたじゃない」
酷いこと……
ああ、そうか、彼女は俺を呪い殺しにきたのだ、不甲斐ない俺を。そうに違いな……
「おねだりしてるのに、私を放って毎日お仕事にいったり」
「ずっと一緒って何回も約束したのに、私を置いてどっか行っちゃうし」
「あなたはいつも嘘ばっかだったわ」
そんな予想に反して、返ってきたのは恨み節というより拗ねたような言い分。
「それに、あなたは私に優しくした」
「あなたと会うまでは、死ぬことなんて怖くなかったのに」
「発作が起きてもこのまま死んでもいいわって思えてたのに」
「あなたが、励ますから、優しくするから、愛してくれるから」
「あなたと過ごす時間が、永遠に欲しいと思えるほど」
「あなたの全てを味わいつくしたいと思えるほど」
「あなたを閉じ込めて、独り占めにしてしまいたいと思えるほど」
「あなたのことが好きになってしまって」
「発作が来る度に、あなたと別れるのかもしれないっていう恐怖で狂いそうになって」
「あなたとずっと一緒にいることができないこの体が、とても憎く思えてきて」
なんでこんなことを言うのだろうか……?
まるで、長い間秘めてた想いを不器用に告白するような囁きを聞いてしまって、彼女が分からなくなる。
いや、こんな歪んだ愛の告白を受けてしまったら、もしかしたら彼女とずっと一緒に入れるのでは……という甘い期待が湧いてしまう。
「何も、何も怖くなかったのに、嫌じゃなかったのに」
「あなたのせいで、急に怖くなってしまって……」
そう言って、彼女は首筋に舌を這わし、そのままちゅぅっと強く吸い、真っ赤な痕を残してから
「あなたのせいよ」
じろりと見つめて、頬を吊り上げる。
彼女の、その嗜虐的な笑顔を見ると否応なしに興奮してしまって、一発出した後というのに、死の恐怖が迫っているのに、はち切れんばかりに勃起してしまった。
「ぜーんぶ、あなたのせい、あなたが悪いの」
「だからぁ」
「一生閉じ込めてやる♥」
「私から離れられないように、私のこと忘れられないように、魂ごと私の中に閉じ込めちゃう♥」
「出してぇ…やめてぇ…って懇願してもだーめ♥」
「私に酷いことした罰、罰として一生……いや、永遠に私の中で終身刑♥」
彼女のそんな、ひどく理不尽で甘い囁きに毒されてしまって、ゾクゾクっとした痺れが全身を走る。
彼女に永遠に閉じ込められてしまう、ずぅっと彼女にこうやってイジメられてしまう、そんな想像をするだけで頭が熱くなってクラクラしてくる。
「こうやって、飲み込んで……」
「ぜーんぶ搾り取ってあげるわ♥」
彼女は秘部に怒張したモノをあてがって、ずぷんと一気に呑み込んだ。
ナカは燃えるように熱く、二度と離すもんかと強くきゅぅっと締め付けてきて、隙間なく密着されてしまう。
あまりの快感から逃れようと腰を引こうにも、ヒダが返しのようになっており、腰を少しでも動かすとカリ首をぞりぞりと擦りあげ、おまけに子宮口が鈴口にちゅっちゅっとキスをしており、腰を引くどころか身じろぎすら出来なくされてしまう。
「ほぉら、私のナカがあなたのを絶対逃がさないよー…ってしてるでしょ♥」
「子宮口がちゅぽちゅぽってキスしちゃって、逃げようとしたら膣がぞりぃってイジメちゃうの」
「ふふふ……このまま、あなたは命を啜られちゃうのよ♥」
「出せば出すほど力が抜けちゃって、動けなくなっちゃって、そんな状態でひたすらひたすら私にイジメられちゃうの♥」
軽くバカにするような、そんな口調で淫語責めされてしまって、より射精欲が高まってしまう。
彼女はそんな俺の様子を把握しているようだが、それでも敢えてゆっくりと腰を動かし、悶える様を観察して笑みを深める。
何とか大事な命を出さないよう我慢をするが、大好きな彼女に騎乗位で見下ろされているだけで体は勝手に興奮してしまって、限界寸前になったところで
「さっさとイっちゃえ♥」
無慈悲な命令と共に思い切り腰をプレスされてしまい、限界を迎える。
びゅるるっ
びゅるるるるる
どぷっどぷっどぷっ…
びゅるるるっ
射精の快感で腰が痙攣する。それによって、肉壁が裏筋を、カリ首を、亀頭を、ぞりぞりと擦りあげられて、射精をしているのにまた奥底から精液を引っ張り出されてしまう。
背筋と脚をピンと伸ばして、声を押し殺しながら何とか快楽に耐えきろうと努めようとしたが、脚を絡められてぎゅっぎゅっとホールドされてしまい、また濃い精液を絞り出してしまう。
「んっ、んぅ…んふふふ♥」
「また出しちゃったね、私のナカに大事な命吐き出しちゃって……閉じ込められちゃった♥」
ニタリと笑り、被虐心を煽るように囁く彼女。
グリグリと腰をグラインドさせ、尿道の奥に残っていた精液すら搾り取られ、心地良い疲労感が体を包み込む。
ずっとこのままで居たい……そんな思考も頭をよぎるが、わずかに残った理性、死にたくないという一心で何とか言葉を紡ぐ。
「も、もう、やめてくれ……」
「……ふーん、抵抗しちゃうのね」
冷たい目で見下ろされる。
ああ、やはり彼女にとってはただの餌でしかないのか、甘い期待は興奮させる餌でしかなかったのか……。
そう思うと背徳的な感情も高まるものの、悲しさで目に涙が溜まってしまい、彼女の顔すらぼやけてしまう……
「いやだ……死にたくない……フィーゼとずっと一緒に居たい……」
もはや子供のワガママのような言葉しか出てこない。
彼女にみっともなく命乞いをすることしか出来ない……最期までなんて情けない奴なんだ、そんな自己嫌悪に苛まれる。
でも、でも、こんなのあんまりだ。なんで、どうして、こんなに苦しまなければならないのだ……
そう思っていたが、突然
「……ちょっとやりすぎちゃったわね」
「ほら、大丈夫よ大丈夫……ぎゅーってしてあげるから」
彼女はすっと表情を変え、泣いてる子供を宥めるかのように優しく抱きしめてきた。
その豹変具合に困惑する。まるで正常な彼女に戻ったみたいで、また甘い期待が湧いてくる。
そんなわけない、これも嘘に決まってる。そう心構えるが……
「このまま死んだりしないわ」
「だから拗ねないで、いーこいーこ」
そのまま優しく撫でられる。やはり多少の気恥ずかしさはあったものの安心感に身を委ねる。
彼女のその理性的な囁きが、魔物になったとはいえフィーゼのままなのだと確信させてくれる。
あの彼女だから、その言葉が嘘ではないと信じさせてくれる。
だから大丈夫、大丈夫なんだ……そんな考えと共に心地よい感触に蕩けていたが
「むしろ逆よ、ぎゃーく」
「絶対に死なせてあげなぁい♥」
「永遠に、私に抱きしめられて、私に愛を注がれて、私に魂をしゃぶられるだけの存在……」
「とってもかわいそう……♥」
突然、耳元で嗜虐心をあらわにした囁きを聞かされしまう。
絶対に死ねない、永遠に抱きしめられる、永遠に彼女と一緒……そんな甘すぎる毒に心がずぶずぶと侵されてしまう。
そして、その境遇を憐れむ言葉が、彼女に支配されてしまうんだ、という被虐的な興奮をより高ぶらせる。
ぐちゅりと腰を動かされる。突然の快楽に呻き声をあげてしまう。
ダメだ、死への恐怖が無くなって、命を出し切った先の結末が彼女とずっと一緒にいることだって知ってしまったから、理性がドロドロに蕩け切ってしまっている。
射精する度に最高の快楽と共に彼女に命を捧げ、その代償として永遠に彼女に閉じ込められてしまう……そう思うだけで体が震えてしまう。
その震えで、ぐちゅりとナカをかき混ぜてしまい、腰が抜けるほどの快感に襲われてしまう。
こんなの、すぐに壊されてしまう、堕ちてしまう……
そんな甘美な毒の沼から逃れるためにもがこうとするが
「ま、まって……」
「でも、当然でしょ?」
彼女は許さない。
「だって、あなたと別れたくない、もっと一緒にいたいを一心に思ってせっかく幽霊になれたのに……あなたは気付かなかったし」
「それどころか、空っぽになった私の抜け殻ことばかり気にしてたし」
「私がずぅっと付き纏ってたのに、抱きついたりキスしたりベッドで一緒に寝たのに……全然気付かなかったし」
ああ、やはり彼女はずっと俺の傍に居たのか、あの感覚は勘違いじゃなかったのか。
そう思うと嬉しさでいっぱいになる、が
「しかも……私が抱きついてたのに声をかけてたのに……他の女の人に話しかけて縋りつくなんて……」
怒気を孕んだ囁きが聞こえる。背筋が凍えるほど熱く、冷や汗が流れる。
「ち、違う、あれはまだ気がついてなくて……」
「……絶対に許さない」
「こんな旦那さんは重罪よ、私と一緒に永遠を過ごす終身刑……♥」
嫉妬が、恨みが、憎しみが、執着のような愛情で煮詰められてドロドロになった物をぶちまけられて、さらに深く沈められてしまう。
彼女はチロリと舌なめずりをして、そのまま頬に這わせる。その瞳を覗くと情念の炎がゆらめいている。
「あは、あはははは♥」
「ぜーんぶ私に捧げて、ぜーんぶ私が管理して、ずぅっと私がイジメてあげる♥」
そのまま上体を起こして騎乗位の体勢で嘲笑いながら腰を、、たんったんっ、とリズミカルに打ち付けてくる。
腰を打ち付けられる度に、ぎゅぽぎゅぽと吸い出されるような感覚と肉ブラシで擦りあげられる刺激が襲ってくる。
奥まで飲み込まれると子宮口にきゅぅと吸い付かれ、引き抜かれる時には名残惜しむようにきゅぽんと放される。
二回も出して敏感になった状態ではあまりにも強すぎる刺激で、思わず声が裏返ってしまう。
「あっ、やめっ、だめぇっ!」
「あはっ、絶対にやめてあげないわ♥」
「私のお願いを何回も無視して、お仕事行っちゃったお仕置きよ♥」
「そんなの理不尽……あああああぁ!!」
口答えをするとグリッと激しく腰をグラインドされてしまい、脳の神経が焼き切れるんじゃないかというほどの快楽を与えられてしまう。
びゅるっ、びゅるっ、と腰の奥から我慢汁が溢れ、また力が入らなくなっていく。
「それに、体の弱くて主導権を取れないのをいいことに、私をゆっくりと焦らすようにイジメてくれたわね」
「うぁ……そ、そういうつもりじゃ……」
「こんな風に乳首をコリコリ……カリカリ……ってイジメて、楽しかった?」
「ほら、カリカリ……ぎゅーって潰して……」
「あっ、うぁっ……」
指先で乳首をつつーっと円を描くようになぞられて、くすぐったい感覚に少し悶えていたら、そのまま摘ままれてすり潰され、爪で先っぽを引っ掻かれてしまい、くすぐったさがハッキリとした快感に切り替わってしまう。
未知の快感。そんな我慢のしようがない感覚に悶えていると、段々とお尻の奥がきゅぅっと締まってきて、次の射精の準備が始まってしまう。
これ以上出すともっとイジメられてしまう……そう思って我慢しようとするも、逆に被虐心を刺激してしまって、奥底でグツグツと欲望が煮詰まっていく。
「あーあ、そんなに気持ちよさそうにして、私に命を搾られちゃってるのに……」
「変態、変態、ド変態」
「や、やめっ、あっ……あっ!」
彼女はそんな俺を冷たい声で軽く罵るように言葉責めしつつ、乳首をねちっこくイジメつつ激しく腰を振って射精へと追い詰めようとしてくる。
変態、そう罵られる度に乳首をぎゅっと抓られ、電撃が走るような快感で体が跳ねてしまって、ナカで擦りあげられ……
そんな快楽に反応してしまう度に、彼女はジトっと目を細め、より強く、ねちっこく、指先を動かす。もっと悶えろ、と暗に命令される。
「ふーん、イジメられて出しちゃうんだ」
「変態って罵られて、一方的にレイプされてるのに……」
「れ、レイプって……」
「そうよ、レイプされてるのよ」
「愛するお嫁さんに、無理矢理、一方的にレイプされちゃって」
「びゅーびゅーって精液搾られちゃう」
「うぅっ……」
愛する彼女にレイプされてるという倒錯感が興奮を高める。
一方的にレイプ……彼女に好き勝手されちゃっている、そう思うだけで頭がかぁっと熱くなって、彼女以外見えなくなってしまう。
「何回出しても、やめてぇ……っていくら懇願しても」
「そんなお願い無視されちゃって、こうやって腰を打ち付けられちゃって」
「だせだせ、せーえき出せっ……!って一方的に搾取されちゃうの」
「やっ……あぁっ……」
「私の檻の中で一生搾られ続けちゃう……」
「旦那さんという名のザーメンタンクとして毎日ぎゅーって抱きしめられながら使い潰されちゃう……」
「そんなの嫌でしょ?ここで出しちゃったらそうなっちゃうよ?」
「うぁっ……もうっ……!」
容赦ない責めでじわじわと射精まで追い込まれ、さらには脅すような口調で快楽の檻に囚われる結末を仄めかされ、そんな破滅的な運命から逃れようと理性が働くが、それが逆に背徳感を増幅させてしまって、次第に脳が蕩けるようなそんな結末を望んでしまうようになって……
奥底からこみ上げてくる。抗いようのない最後の一線が徐々に迫ってくる。頭が白く塗りつぶされていく。形だけの我慢も、微かな理性も、塗りつぶされていく。
「あはっ、出しちゃうんだぁ♥」
「いいよ、一生飼い殺してあげる♥」
「ほらイけ♥早く私のモノになれ♥」
その言葉がトドメになった。
びゅるっ
びゅっびゅるるるる
びゅるるるるるるるる
「あっ、あー……うぁ……」
一気に解放される。尿道が押し広げられながら精液が勢い良く飛び出していく。
まるで長い糸のように、射精すればするほど奥から精液が引っ張り出されていくような感覚に、それに伴う心地よい快楽に身を委ねてしまう。
びゅるるる
びゅるるるるる
「あっ♥あっ♥出てるっ♥あなたのせーしが流れ込んでるっ♥」
「うぁぁ……」
「もっと出してっ♥大事な命ぜーんぶ出しちゃって♥」
頭を抱きかかえられたまま撫でられつつ、一滴も残らず搾り出すように腰を激しく打ち付けられる。
慈しむように安心させるように撫でてくる一方で、一片の容赦もなくぎゅぅっと締め付けながら腰を振ってくる。
射精する度にタマから新たな精液が生産され、そしてすぐに放出されていく。普通では有り得ないほど長い射精。
ホントに命を溶かしているような、そんな脱力感を伴った射精を止めるすべは無く、呻き声で反応することしかできない。
びゅるるっ
びゅるるるるるる
「もっと♥もっと♥」
「ちゅーしてあげるからもっと出して♥」
「あぅ……むぐっ……」
「んぅっ♥じゅるるるる♥ぷはっ、じゅるっ♥」
「ちゅっ♥ちゅるるる♥ちゅこちゅこ……ちゅっ、ちゅっ♥」
貪欲に腰を振られ、ずっと搾り取られ続け、それでももっと出せとキスされてしまう。
いきなりむしゃぶりついて、唾液を啜り、逆に唾液を流し込んできて、そうしてお互いの唾液が混ざったカクテルをむしゃぶりついて味わって、
そして忘れていたと言わんばかりに、おもむろに唇をついばみ、吸って、舌で扱き、また唇に吸い付いて……
びゅるるるる
びゅーびゅるるるる
「ちゅるるるる、じゅるるるる♥」
「んぁっ……もっと、もっと出して♥全部、全部出して♥」
「ぁ……あぁっ、ぁ……」
乳首をカリカリと引っかかれ、さらに出せとせがまれる。
快楽に耐えるために力を籠めることもできず、お尻の奥がきゅぅっと勝手に締まって、さらに奥から精液を搾り出してしまう。
射精する度に心地よい疲労感が体を包み込んでいく。温かくて、安心できるような心地よい感覚……
あまりにも気持ち良すぎて、このまま死んでしまうんじゃと急に心配になって、身じろぎをすると
「あっ……ごめんね、こうやって欲しかったんでしょ♥」
私はちゃんと分かってるわ、そんな風にしたり顔をしつつ両手を恋人繋ぎで囚われてしまう。
見当違いな解釈だったが、生前の頃の行為を思い出し、今もここでこうやって居ることがとても愛おしく思えて、さらに命を捧げてしまう。
びゅるっ
びゅるるるるるっ
びゅるるるるるるるっ
「好き♥大好き♥これからずぅっと永遠に一緒♥」
「あっ、そうだ、これいいかも……ほら、黒檻のリング♥」
一方的に好意をぶつけつつ、その黒いドレスの一部をちぎって、ぐにゃりと曲げて、お互いの薬指に黒いリングを勝手にハメる。
頬を吊り上げながら、無邪気に、そんな事をする彼女を見て、天にも昇るような心地だが絶対に死ねないんだと感覚的に分かってしまう。
これから永遠に、天に昇ることもできずに、幽霊と化した彼女に囚われ続けて搾られ続ける……
びゅるるるるるっ
びゅるるっ
びゅくっ
「ぅぁ……ぅぅ……」
「うふふ♥大丈夫よ、そのままちょっとだけ休んで構わないわ」
「これから時間はたっぷりあるわ……だから、ちょっとだけおやすみ……ちゅっ……♥」
長かった射精もついに勢いが衰えてきて、意識が徐々に奪われていく。
彼女の心地よい囁きを聞いていると、まぶたがゆっくりと降りてきて、視界が暗くなってきて
そして、おでこに温かいモノを感じたのを最後に、完全に意識が落ちていった。
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監獄都市国家『グレンティス』の陥落から数週間が経った。壁の中はもちろん、隣接していた森と墓地すら魔物の支配下に置かれた。
だからと言って、人間が悲惨な運命を辿ったわけではない。……いや、ある意味悲惨かもしれない。
魔物に伴侶として見初められた者は凌辱されつくし、すでに配偶者や恋人が居た者は片割れを魔物娘に変えられて凌辱されつくした。
ある者は空からいきなり襲われてそのままお婿さん調教という名目で何十発も搾られたり、またある者は恋慕っていた娘に調教されて性奴隷という名の旦那さんにされてしまったり……ほとんどの人は、そんなちょっと歪で甘い関係に落ち着いている。
そしてそのまま、女性……いや、魔物娘上位の国家が出来上がった。とはいっても、さっき言ったような感じでイチャラブ兼嗜虐趣向なだけであって、男性が通常時も虐げられているわけではない。
また、この国のシンボルでもあった監獄は『男性調教施設』……という名目の魔物娘攻め専のラブホテルと化し、日夜問わず嬌声が聞こえてくるようになった。
街も大きく変わった。今までは通貨取得のために使われていた特産品の香辛料が国内で使えるようになり、カレー屋が増えた。
魔物娘が移住してきて文化も大きく変わり、特に西側を中心に高貴なアンデッドが多く移住してきたため、暗いのに豪華絢爛という独特な街並みに変わっていった。
この国のシンボルでもある監獄と、この暗くて豪華な街並みはとてもマッチしており、その雰囲気を活かした街づくりが着実に進んでいる。どうやら観光客を増やしたいらしい。
あくまで噂程度だが、新たにこの国の執行部となった者たちは、魔物娘全体に本来の凶暴……というか嗜虐的な性格を思い出させるのを目的としており、この国でそういう思想を広めようとしてるとか何とか……
まあ、目的はなんであれ、平和に街が賑やかになっていくのであれば何でもいい。
そんな中、俺とフィーゼはというと……
「――こうして、死すら乗り越えた二人は永遠に結ばれましたとさ、めでたしめでたし」
まだ幼い魔物娘、主にアンデッド達に向けて紙芝居をしていた。
あの後、アンデッドが生まれ、たくさん移住したことにより、彼女らが信仰する生と死の女神『ヘル』を祀る教会が建てられることになった。
その場所は墓地があったところ……景観がよく、通用口がすぐ近くにありアクセスがよいので、ここになった。
俺とフィーゼは、あの進行の日に出会った貴婦人と魔術師……正確にはワイトとリッチの二人に、その教会での仕事を紹介された。
とはいえ、仕事らしい仕事はほとんどなく、フィーゼと一緒に幼い魔物娘の相手をしたり、教会を訪れた人を軽く案内する程度である。
因みに、今やっていた紙芝居はフィーゼの手作りであり、モチーフはもちろん俺らである。
「あぅー、おむこさんほしー」
「わたしもー」
「わたしも早く実体化できるようになりたいなぁ」
「いいなぁー」
それゆえ、幼い魔物娘が羨ましそうにしているのを見ると気恥ずかしさを覚えてしまう。
「ふふっ、そう強く思うことが大事よ」
「私みたいに……ね、あなた?」
「あ、ああ、そうだな」
膝の上に乗っているフィーゼが振り向く。柔和な笑顔だがどことなく含みがあって、ゾクリとしてしまう。
「羨ましい、気持ちよくなりたい、手に入れたい、そういう気持ちをたくさん抱けば抱くほど色々できるようになって……」
「こんな風に、好きな人を好き勝手できちゃうのよ♥」
そういって彼女は紙芝居を膝の上に置き、腰に回っていた俺の手をジャラリ掴み上げる。そこには黒い鎖が繋がっており、彼女に抱きつくような形で拘束されていた。
逃げる気はさらさら無いし、彼女もそれは分かっているが、こうして拘束されているという事実が被虐心をくすぐる。
あの後、彼女と再開して犯された後も毎日拘束されて徹底的搾られ続けている。
嫉妬や怒り、苛立ちを砂糖と一緒に煮詰めたような感情を延々とぶつけられて、抵抗しようにもできないように彼女の黒檻で拘束されて、命と共に精液を搾り取られている。
そう、射精する度に感じてた魂が抜けるような感覚は気のせいではなく、そういう『魔法』で実際に生命力を奪われているらしい。
とはいえ、暫くしたら戻ってくるらしく、一生寝たきり状態にされたりするわけではない……が、戻ってくる際に彼女の魔力や価値観などが混ざって返ってくる。
恐らくそのせいで、体力は以前よりも増しているものの、『あなたは私にイジメられる存在』という歪んだ彼女の価値観に侵されてしまって、被虐的性癖が進行してしまっている。
射精すればするほど被虐的な快楽に弱くなってしまい、それによってより多く搾られてしまって……という泥沼にハマってしまっているのだ。
だから、こうして手を繋がれて椅子のように扱われていると思ってしまうと、また被虐心がむくむくと膨らんでしまって……興奮してしまう。
「そのさ、そろそろお昼にしないか?」
「元部下がカレー屋始めたらしくて、割引券も貰ったから――」
半勃ちしてしまったソレに気づかれないように、話題を逸らして何とか窮地を脱しようとするが
「ふーん……こっちじゃなくて?」
「うぁっ……!」
彼女のお尻がグリグリと股間を圧迫する。ぎゅっぎゅっとすり潰される度に、鈍くて強い快楽が襲いかかってくる。
膝の上でリズミカルに跳ねられ、尻たぶの間で挟み込むようにズボンの上からナニを擦られ、ムチムチの尻に蹂躙されてしまう……そんな淫靡な光景を目の当たりにして余計興奮してしまう。
「ま、待って……こんなとこで……」
「どうしたの?イスにされちゃってるだけで出しちゃうの?」
「お尻に潰されるだけで白旗あげちゃう情けない旦那さんなの?」
「そんなことっ……!」
「ほら、ぎゅー……漏らしちゃえ♥」
「あぁっ!そ、それだめっ……!」
言葉で被虐心と羞恥心をコントロールされ、反抗した瞬間にズボンを透過して生肌を急に押し付けられる。幽霊だからこそ出来る芸当。
もっちりとした熱い肌にじわりじわりと圧し潰され、チューブを絞るかのように精液が奥から無理やり押し出されてしまって
どくっどくっどくっ
どぴゅっ、ぴゅる……
あえなく果ててしまう。
圧し潰されてるナニが狭い尿道から必死に精液を出そうと脈動し、尿道内を擦りながら出していく強い快楽に悶えてしまう。
彼女はそんな俺の表情をじぃっと見つめて、笑みを浮かべ、頬に手を当ててくる。
「お尻に潰されちゃうだけでも出しちゃう変態さん……♥」
「うっ……」
そうやって甘く罵倒され、奥底に残ってた精液をびゅるっと放出してしまう。
こんな風に彼女に性癖を掌握されて、永遠に精を搾り取られ続ける。快楽の檻に囚われて、もう二度と逃げることは出来ない。
改めてそう実感してしまって、射精したばかりなのにまた被虐心が膨らんでいく。このままでは連続搾精コース……
「ふふふ……、まあ、今はこれぐらいにしておくわ」
「え、えーと……いいの?」
「ええ」
「あなたの言ってたカレー屋さんも気になるし」
「それに、ここにはギャラリーが多すぎるわ」
「あっ……」
そんな彼女の言葉で冷静になって周りを確認すると
「ぅぁー……」
「すごい……」
「いいなぁ……」
幼い魔物娘たちが顔を赤らめて、この痴態を眺めていた。
そうだった。さっきまで紙芝居をしていたのだから、まだ小さい子が近くにいるのは当然で……
我が身を振り返って、先ほどまでの情けない姿を観察されていたと思うと、かぁっと顔が赤くなっていく。
「まあ、ここでたっぷり見せつけるのも悪くないけど」
「あなたの情けなぁい顔を独占できないから、続きは後でね」
「それにカレー屋ってことはスパイスの効能もたっぷり出るわけだから……今晩は抱き潰してあげる♥」
彼女は俺の手の黒檻を溶かしてふわりと浮き、後ろに回って俺の顔を手で隠す。
視界が青白い掌に覆われて暗くなったところで俺にしか聞こえない声で囁く。抱き潰す……そんな恐ろしい表現によって想像が膨らんでしまい、思わず期待でいっぱいになってしまう。
「っ……」
「くすくす……♥」
その期待だけで体が震えてしまって、彼女は満足そうにクスクスと笑う。
何をしても、何をしようにも、こうやって心を掌握されてしまう。
そう、彼女は的確に俺の心を掴んで離さない。
公然の前で羞恥を晒してしまうのに慣れていないのを察して、こうやって気を遣ってくれる。
それでいて、あたかも横暴で一方的で独りよがりに見える愛情で、俺の心を深く突き刺してくる。
彼女は口には出さないが、全て分かった上での行動なのだろう。その上で俺をイジメているのだ。そんな彼女から享受する一方で申し訳なくなって
「……じゃあ、早速行こうか」
「あら、エスコートしてくれるのね、ありがとう♥」
彼女の手を取って、ぎゅっと握る。せめてものお返し。
ふわりふわりと燃えながら浮いてる彼女の手はすべすべで、確かにそこにあった。
「こうやって、また一緒に歩けるなんて、とても幸せだよ」
思わず言葉が零れる。
生前の彼女と一緒に出歩けたのは数えられるぐらいしかなかった。
彼女が死んでからは、その散歩したルートを巡って感傷に浸っていた。
もう二度と彼女と歩けないんだ……そう思ってしまって涙を流したこともあった。
だけど今は、こうして幽霊になった彼女と一緒に歩いている。
――もし、私が幽霊みたいにふよふよ浮けたら、この世界はもっと面白くなるのにね
ふと、そんな彼女の言葉を思い出す。
ホントに幽霊になった彼女は、好き勝手に俺を振り回して毎日楽しそうにしている。
今も楽しそうにしてくれてるだろうか?そう思って彼女の様子を伺うと
突然、唇を重ねられた。
「っっ!?」
「んぅっ……んー、ぷはっ♥」
急なキスに驚いてる間に、彼女の舌は好き勝手に蠢き、甘く痺れるような快楽で為すがままにされてしまう。
奥深くまで舌が伸び、絡められ、深く繋がる。暫くすると満足して、唇が離される。
「あなたがとっても愛してくれたから、こうなったのよ♥」
そう言って彼女は口角を吊り上げて微笑む。
あぁ、そうだった。彼女が幽霊になる前から俺はこの微笑みに囚われていたのだ。そしてこれからも永遠に囚われ続けるのだろう。
彼女に恋した代償として生前の彼女に囚われ
彼女に恋をさせた代償として死後の彼女に永遠に囚われ続ける
そんな結末が変わらないこと願いながら青白く燃え盛る彼女を抱きしめた。
彼女とは成人して間もない頃に出会った。一目惚れだった。
絹のように滑らかな肌、銀色に輝く髪、端正な顔立ち、どれを取っても一級品だった。
その中で、俺が惚れたのは……笑顔だった。ふとしたきっかけで目が合った時に微笑えまれた。
口角がつり上がった、少しぎこちない微笑み。それが、なぜだかたまらなく愛おしく思えてしまい、気がついたら柄にもなく声をかけていた。
何を言ったのかはよく覚えていない。天気の話をしていたような、お茶の誘いをしていたような……そうやって必死に彼女との接点を作ろうとしていた。
そんな挙動不審で必死な俺に対して、彼女は微笑みながら名を教えてくれた。
フィーゼ、それが彼女の名前だった。
彼女は病弱だった。
俺が声をかけたあの日、あれは一ヶ月ぶりの外出だったらしい。
生まれつき体が弱く、体調が良ければ外を出歩けるが、悪い時はベッドから出ることすらできない。
「どこが悪いんだ」と尋ねると、「脚が悪いし、呼吸もうまくできないのよ」と返された。
その時の彼女は、困ったような、憂いたような、そんな表情で俯いていた。
そしてそのまま、こう続けた。
「もし、私が幽霊みたいにふよふよ浮けたら、この世界はもっと面白くなるのにね」
自らの死を仄めかす自虐のような呟きを、今でもよく覚えている。
俺はそんな呟きに対して、「俺がもっと面白くさせてやる」みたいなことを反射的に言った気がする。
あの頃の自分は恋という熱に浮かされていた。いつも熱の中で、彼女に酔っていた。
そんな必死で、くさいアプローチの何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが、こうしたやり取りをしているうちに次第に距離を詰めていった。
彼女の調子がいい時は逢引をして、大人な雰囲気になったら不慣れなキスをして、そうして愛を深め、結婚まで至った。
彼女は愛が深かった。いや、執着深かった。
毎朝仕事に行く時は、例え調子が悪くてベッドから出られなくとも裾を掴まれた。
くいっ、くいっ、と裾を引き、「ねぇ、お仕事休んでしまわない?」と悪いお誘いをよくしてきた。
それは出来ないよと断り、それでもワガママを言う彼女に軽くキスをして諭し、「…恨むわよ」という呟きと共にジトっと見つめられながら家を出るのが日課だった。
休みの日はひたすらベタベタしてきた。何をするにもくっついてきて、不意打ちのようにキスされることも多かった。その行為にドキッとして振り向くと、彼女は口角を吊り上げ、まるで悪魔のような微笑みをしているのをよく覚えている。
彼女は積極的だった。いや、嗜虐的だった。
彼女は病弱だったが、体調がいい時は積極的に体を重ねることを求めてきた。
体調を気遣って、ゆっくりと長時間かけて彼女を悦ばせていたが、毎回それだけでは終わらなかった。
俺が一発だして少しゆっくりしていると、彼女は覆いかぶさってる俺をぐいぐいと押しのけてきて、跨って、いわゆる騎乗位の形で挿入してくるのだった。
細く、綺麗な四肢をあらわにしつつ、淫らに腰を揺らし、口を三日月のように歪めて愉悦に満ちた表情で見下ろして、俺の反応を愉しんでいた。
俺が気遣っているのを知っているから、それゆえ反撃できないのを知っているから、騎乗位でひたすら責め立ててくる。
射精直後で敏感になっている亀頭をナカでぐちゅりぐちゅりと締め付けながら擦り上げ、焼けるような快感に耐え切れず、動きを止めようと手を伸ばすと、しなやかな指が俺の手にすっと滑り込み、恋人繋ぎでぎゅっと握られてしまう。
もう出ない…と弱音を溢すと、より一層笑みを深めて腰を動かし、「このままシ続けたら、腰が抜けて明日は休みになるかもね」と恐ろしい囁きをされるのであった。
毎朝の恨みを晴らすような…そんな彼女のジメっとした愉悦に俺も中てられてしまって、はち切れんばかりに膨張して、そのまま彼女のナカに屈服してしまう……それが俺と彼女の関係だった。
彼女には薬が必要だった。
彼女の健康のためには一日も欠かすことが出来なかったが、薬は決して安くなかった。
特に、発作を抑えるための大事な薬はとても貴重な物であり、高価である上にわざわざ他国から取り寄せなければならなかった。
そんな彼女のために、俺は必死になって働いた。主に警邏の仕事だったが、人一倍勤勉に働き、昇進に繋がるような試験には積極的に受け、定期的に行われる武術大会では常に上位入賞を果たしてきた。
そんな実績が買われ、30歳を前にして警邏隊の隊長……とは言っても十数人程度の小隊のだが、それを任されるほどになった。
部下を持ち、彼らの管理という新たな仕事が増えた代わりに、ある程度倹約すれば問題なく薬を買えるようにはなった。
彼女の発作はひどかった。
ごほっ、ごほっと渇いた咳が響き、彼女の喉奥からはヒューヒューとかすれた笛のような音が漏れる。常に息苦しいらしく「まるで真綿でじわじわと絞められているみたいだわ」と呟いたこともあるほどだった。
そんな彼女の発作の時は出来る限り看病した。
「一生このままかもね……」
「今回こそは死ぬかもしれないわ」
そんな風に弱音を吐く彼女に
「そんなことはない、必ず治してみせる」
「俺が死なせやしないさ」
といった、何とも無責任な慰めをしていた。
薬を作れるほどの頭もないのに、死神を殺せるほどの超常的な力も持っていないクセに……
でも、彼女はそんな慰めを聞くとニコッと微笑んで
「そうね、あなたが居るから大丈夫ね」
と、心底嬉しそうに返してくれた。
そして同衾して後ろから抱きつくようにせがんだり、はたまた両腕を広げて暗に抱きつけと命令したり……そういった風に甘えてきて、発作が治まるまで過ごしていた。
だが、激しい発作の時は薬を飲んで安静にしていても中々治まらなく、彼女の苦しそうな呼吸を間近で感じるのが、とても辛かった。
俺に必死にしがみついて呼吸を整えようとするが、堰を切ったようにゴホゴホゴホと咳が溢れてきて、目に涙を溜めつつもまた呼吸を整えようとして……
そんな話すことすらままならない状態、それなのに彼女は必死に言葉を紡いで
「ねぇ……もし、このまま死んでも、ずっと一緒にいてくれる……?」
といつも尋ねてきた。
俺は必死に背中をさすりながら、「もちろんだ」と短く返すことしか出来なかった。
今回も大丈夫なはずだ、このヤマを超えたら落ち着くはずだ……そう思い込むのに必死だったからだ。
そんな発作を幾度も乗り越え、なんとか彼女と生活を続けていた。
かの大国、レスカティエが陥落した。
その凶報を聞いたのは、雪解けの時期だった。
薬を取り寄せてくれる商人に呼び出され、嫌な予感がしながら付いて行った先で知らされた。
あの発作の薬は遠くの国からレスカティエを通して取り寄せていたのは知っていた。
ゆえに、レスカティエの陥落は、妻の死を知らせるようなものだった。
さぁっと血の気が引いていくのが分かった、突然の凶報に混乱する。
彼女が死ぬ……?薬は家にあと何回分あったか……?どうしてこんなことに……?
そんな思考がぐるぐると頭の中を巡り、その末に商人にみっともなく縋りつき、
「いくらでも払うから……だからっ、どうにかして手に入れてくれ!お願いだ……」
と喚き散らした。外聞も気にせず喚き散らした。
商人は首を振った。
レスカティエは近づけない状態になっていること、そのせいで主要街道がいくつもやられてしまったこと、それらを極めて丁寧に俺に教えてくれた。
そんなことは分かっていた。そして商人ですらどうあがいても手に入れれない状況なのは察していた。
でも、それでも、諦めきれず商人に色々と提案した。だが、それら全てを丁寧に説き伏せられた。俺は何も出来なかった。
商人と別れ、家に帰り、ベッドで臥している彼女にそのことを知らせると、そっぽを向き、少し間をおいて
「そう」
と短く返すだけだった。その後ろ姿は幽かに震えていたのをよく覚えている。
俺はそれを、ただ抱きしめることしか出来なかった。ぎゅっと強く、その華奢な体がすぅっと通り抜けていってしまわないよう、力強く……
その日が来たのは南風が吹き始めた頃だった。薬を使い切った六日後のことだった。
これまでになく激しい発作が彼女を襲った。咳き込んでも咳き込んでも、一向に治まる気配がない。出来る限りの看病はしたものの、自分の無力感を膨らませるだけだった。
それなのに彼女はずっと微笑んでいた。どんなに咳き込んでも、ろくに呼吸が出来ず喉から空気が漏れても、口を閉じることすら出来ず涎が垂れても、微笑んでいた。
そして微笑みながら彼女は、一緒にレストランで食事をしたい、一緒に海を見てみたい、一緒に大都市の夜景を見てみたい、もっと一緒に遊びたい…普段は決して言わなかった願望を幾度となく俺に語った。
彼女は自分のことをよく分かっていたのだろう。でも、俺はそんな彼女の願望を、悪い予感をかき消すように下手くそな慰めの言葉を必死にかけていた。
そんな俺の声すら塗りつぶす一際大きな発作が彼女を襲った。彼女は何とか息を整え、ねぇ、と消え入るような声で呼んだ。俺は静かに、どうした、と返した。
彼女はこう続けた。
「死が二人を分かっても……愛してくれるって約束して……」
彼女はもう俺を見ることすら出来なかった。
そんな彼女を必死に抱きしめ、もちろんだ、と強くハッキリと答えた。とにかく安心させようと、彼女に聞こえるようにハッキリと。
彼女は頬を吊り上げて微笑んで、声にもならない音を口から出して、そのまま寝入ったように静かになった。
妻は死んだ。
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「オルゼットさん」
後ろから声をかけられ、現実に戻る。
職務中であったことを思い出し、振り向いて部下に返事をする。
「ああ、すまない、どうした?」
「いえ、防衛についてですが……」
あれから数ヶ月、魔王軍はレスカティエだけでなく近隣諸国をも侵攻し、次々と占拠していった。
そしてこの国、監獄都市国家『グレンティス』にその魔の手か襲ってくるのも時間の問題であった。
この国はその名前の通り、壁に囲まれた大規模の監獄が北部にあり、各国からの罪人が収容されている。
まあ、罪人の大半は各国のはみ出し者であり、実質的に就職支援施設のような扱いにもなっているが、それは今はどうでもいい。
収容されている罪人の中にはもちろん魔物も含まれており、その同胞を救出するために攻め入ってくるだろう、と予測されている。
だが、この国自体も監獄のようにぐるっと壁で囲まれている上に、北は山、西は森、東と南は湿地帯であり、まさに陸の孤島の要塞。防衛戦には滅法強い。
いくら魔物といえども、この難攻不落の国を完全に攻略するのは難しいであろう。
また、今の魔物は話の通じる個体が多いらしく、国の上層部は交渉の余地もあるかもしれないとして、戦力的に歯が立たない相手の場合は交渉で場を収める準備も進めているらしい。
そんな中、俺は自ら志願して壁の外で防衛する小隊の隊長を務めることになった。
担当は西側の壁であり、ここらは墓地になっている。広い草原に墓石がきちんと連なっており、すぐそこには鬱蒼とした森が広がっている。
この西側の壁には大きな門はないものの、精霊のいる森に行くための魔術師用の通用口が存在しており、万が一そこから侵入されないよう防衛をしている。
東や南の大きな門や広い通用口があるところに比べれば遥かに安全とはいえ、壁の外で真っ先に対峙するこの任務は極めて危険と言えよう。
だが、それでも俺が志願した理由は、この墓石にある。
フィーゼ
そう、ここには彼女の墓がある。
彼女が生きていたという数少ない証、それをもし、魔物共に踏み荒らされたら……と思うとゾッとしてしまう。
だから、この国を守るためにも、彼女の墓石を守るためにも……
だが、どうにも、おかしい
あんなに愛おしかった妻なのに、そんな妻が眠っている大事な墓石なはずであるのに、どうにもこれがただの墓石にしか思えない。
まるで、彼女はこの下にいないような……そんな気がしてならない。いや、それどころか、彼女はすぐ傍でまだ生きているように感じてしまう。
朝起きた時も、昼の職務中も、夜帰った時も、ふわりとした彼女の匂いが一瞬して、ふと辺りを見渡すとそこには誰もいないのに、なぜか安堵を感じてしまう。
この前なんか、ベッドに入って寝ている時に腕の中に誰かいるような感覚をかすかに覚え、目を覚ますと何かを抱きしめるような格好で寝ていたこともあった。
そして何より、彼女を亡くしたはずなのにこうして普通に生きてしまっていることがおかしい。自分よりも大事な彼女だったはずなのに、後を追う覚悟すら出来ていたのに……
そんな、平然としている自分が、ひどく気持ち悪い
彼女の死を認識しきれていない、それどころか逃げ続けている。そんな感じなのであろう。
だから、この墓石に通ってちゃんと彼女の死と向き合うようにしている。そうでもしないと、彼女を愛した自分がいなくなってしまいそうで、最後の約束すら果たせなくなりそうで……ひどく恐ろしいから。
とは言え、彼女の死を思い出すと、彼女との幸せな日々をかき消すような無力感、絶望、空虚を、一気に思い出してしまって……
「……オルゼットさん、体調が優れないようでしたらあちらで休みながら話しましょう」
部下の話はいつの間にか止まっていて、気遣いの言葉を投げかけてくる。チラリと彼の顔を見ると、すこし眉をひそめて複雑な表情をしていた。
部下に要らぬ気遣いをさせてしまったことを恥じつつ、「いや、大丈夫だ」と短く返し、大事な仕事の話に意識を向けた。
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いつものよう防衛……という名の単なる見張りをしていると、言葉では言い表せないような嫌な予感がした。
そう、目の前にある森がいつもと違うような、風に揺らめく草木の一つ一つがおかしいような、根本的に異質なような……そんな気がしてならない。
だが、いくら目を凝らしても、何も変化はないように思える。一応近寄ってよくよく確認してみるが、人が立ち入った跡どころか、獣の足跡すら見当たらない。
それらが余計に違和感を増幅させ、その感覚は何か確信めいた物に変わった。
魔物がいる
自然と手に持つ槍に力が籠る。
木々に覆われ、薄暗くなっている森の奥からナニカが覗き込んでいるような気がしてならない。
気を抜いたらそのまま引きずり込まれそうな予感がして、緊張を解くことができずにただただ奥底にいるナニカを睨みつけることしか出来ない。
この場から離れるために、そのままゆっくり、ゆっくりと後ずさりしようとすると
肩になにかが触れた。
心臓が飛び出しそうになりつつも、すぐさま振り返って槍を構えると、そこには影も形もなく、ただただ名も知らぬ花が風に揺られているだけだった。
この事実を受け止め、おそらく風だったのであろうと思い込もうとするが、やはり先ほどの肩に触れた柔らかい感覚を思い出してしまう。
やはり今のは風なのか……?それとも、ナニカが確かに触れたのだろうか……?
そんな風に思考を逡巡させて立ち尽くしていると
「どうかしましたか?」
心配した部下が話しかけてきた。
「なぁ、何かがこの森に居る感じがしないか?」
「えー…それは魔物が居るということですか?」
「いや、感じないなら大丈夫だ、俺の気のせいだろう」
その部下にこの異常な気配を感じているかどうか尋ねてみたが、怪訝な表情を見る限りどうやら毛ほども感じていないらしい。
すぐに持ち場に戻り、ただ気を張りすぎてたから変な妄想に囚われてしまったのであろうと結論付けようとする。
……だが、どうにも背筋が凍るような感覚が消えず、嫌な予感がしたため、隊員を全員集合させて、今日は厳重警戒することと、夜の見張りと灯りを増やすことを命令し、万が一の時のための作戦を伝えた。
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日が落ちて暫く経った頃、俺は異常なプレッシャーに潰されかけていた。
森からひたりひたりとナニカが歩いてきている。そんな感覚、恐らく魔力という物をハッキリと感じ取れてしまっている。こんなことは初めてだ。
たしかに強力な魔法陣等を目の前にすると、魔力特有のオーラのようなものを感じることはあった。だが、それは魔術師が何カ月も準備した魔法陣の話であって、一つの生物に対してこんなにハッキリと感じることはなかった。
これが魔物という存在なのだろうか、だとしたらこの国に勝ち目などないのではないか……?そんな考えすら思い浮かんでしまう。
だが、そうは思っても身を守るためには戦うしかない。一際大きな咳払いをして、部下にハンドサインで魔物が居る方向を指し示す。
そして、事前に打ち合わせていたように、墓石を使って身を隠し不意打ちを狙えるように準備をさせておく。墓石を壁にするのは罰当たりだが、この際は仕方ない。
……まあ、こんな異常な魔力を放つ化け物が相手なので位置がバレているであろう。それでも城壁に並んで立っているよりはマシだ。
そうして待ち構える。槍を握る手に力が入り、じわりと汗が滲んでくる。
森から二つ影が現れた。
暗くてよく分からないが、どちらも人のような姿をしていた。
片方は長い髪をまとめた気品溢れる貴婦人、もう片方は典型的なとんがり帽子を被った魔術師のように見えた。
一見すると人間のように見えるが、灯りに照らされあらわになった青白い肌と底冷えするようなオーラが、あれは人間でないと教えてくれる。
「こんばんは」
貴婦人のような魔物がニッコリとしながら話しかけてきた。
どうやら話の通じる魔物がいるというのは本当のことらしい、俺は尋常じゃないプレッシャーに気圧されながらも口を開いた。
「あぁ、こんばんは」
もしかしたら話し合いだけで何とかなるかもしれないという一縷の望みに賭け、なるべく刺激しないように返事をする。
「たくさん灯りを照らしているけど、何かパーティーでもしてるのかしら?」
「まぁ……こんなにいるとは思わなかった……」
背筋に冷や汗が伝う。
扇子で口元を隠しつつクスクスと笑う貴婦人、ぼそぼそと呟く魔術師、そのどちらも墓石に隠れている部下たちに気づいている様子だった。
部下をチラリと一瞥すると、突撃すべきかどうか確認を取ってきていた。今にでも飛びつかんばかりの眼光をしていた。
どうやら部下たちはこの二人の尋常じゃない圧を感じ取れていないらしい。たとえ、全員がこの二人に飛び掛かったとしても一瞬にして蹴散らされるのは目に見えている。
無駄な被害を増やさないように俺はそれを制止させて、貴婦人に話しかける。
「…あなた達の目的は、捉えられている魔物の解放であろう」
「上の人達もなるべく穏便に事を収めたいと思っている、俺から伝令を送って今すぐにでも交渉の場を設けることも――」
「あら、私が魔物の解放を望んでるなんて…いつ言ったかしら?」
「…だとしたら、何が目的だ」
じろりと睨みつける。
より一層背中にのしかかるプレッシャーが重くなる。冷や汗で全身が湿っていくのが分かる。
たとえ触れずとも術を使わずともこうして威圧されている時点で、勝ち目などほぼ無い。
だが、魔物の解放が目的でないと言うのであれば…もはや交渉の余地はない可能性が高い。
「私は別の用事だったけど……これはすごい……」
「私はねぇ、とっても素敵なことをしにきたのよ♪」
興味なさげに虚空を見つめる魔術師とは対照的に、貴婦人は喜色を声に含ませて子供のような笑みを浮かべる。
その笑みは、まるでこれから何かが起こるのを楽しみにしているようにも見え、何かの予兆のような嫌な感覚を覚える。
咄嗟に部下たちをその場から退避させようとするが、まるで首を絞められているかのように息苦しくなり、声が一瞬詰まってしまう。
「皆きっと、喜んでくれるわ♪」
そんな声と共に、地面からナニカが這いずり出すのを俺は目の当たりにした。
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一瞬だった。
地面から這いずり出てきたゾンビによって、一瞬のうちに我が隊は混乱に陥った。
足を掴まれ半狂乱になる者、それを助けようとしたら自分もゾンビに捕まって泣きわめく者、そんな状況に気をやられてしまい森の方へと走って逃げてしまう者も居た。
何とかゾンビによる奇襲を逃れた者たちも、どこからか現れたゴーストに憑りつかれ、その場でうずくまってしまった。
俺はそれを、呆然として眺めることしか出来なかった。
「うぅ…うぁ…」
「たすけてぇ…!」
「やぁだ…やだぁ…」
至る所から弱々しい悲鳴が聞こえてくる。魔物に貪られてしまって、もう息も絶え絶えなのであろう。
森からも何かが叫び声を上げているのが聞こえてくる。森に逃げ込んだ奴も魔物に出くわしてしまったのだろう。
しかも、自分の背後にある壁の向こうからも微かに悲鳴が聞こえてくる。壁の中にもすでに魔物が侵略してしまったらしい。
「ふふふ……素敵なパーティーね♪」
「まあ……同胞が増えるのはいいこと……」
目の前の二人の魔物はそんな様子を目の当たりにして、嬉しそうに呟く。
「ははは…」
渇いた笑いが出てくる。
魔物は俺から全てを奪った。
薬を奪った、妻を奪った、部下を奪った、そして国すらも奪われてしまった。
彼女の墓を見ると、ゾンビが掘り起こした泥に塗れて黒ずんでしまっていた。もしかしたら、彼女もゾンビになっているのかもしれない。
「なぁ、あんた」
「?」
貴婦人に語りかける。その瞬間、息苦しさが増すものの、構わず貴婦人に近づいて縋りつく。
「頼むから、死ぬなら、死ぬなら彼女に喰われて死にたいんだ」
「彼女はどれだっ、どれだ!あの墓の彼女はどこか教えてくれっ!」
もはや生きる気力を失った。
せめて最期は……どんな形であろうと彼女を抱きしめて死にたい。完全なエゴだが、もうそれで構わない。
みっともなくドレスに縋りつく。機嫌を損ねたのであろう、これ以上になく重いプレッシャーが全身にのしかかるが、それでも臆さない。
「え、えーと、それは出来ない願いね」
「なぜだ!死に方ぐらい選ばせてくれたって――」
喚き散らして貴婦人に詰め寄ろうとしたが
「あ な た」
後ろから底冷えするような声が聞こえた。
その声は、ひどく聞き覚えがあって、何度も何年も聞きなれた声だった。
まさか…と思い、首を後ろに向けると
「あは、やぁっと見てくれたぁ♥」
俺の肩に頭を乗せた『彼女』と目が合った。
生前の彼女と全く同じ顔立ちをしていたが、異常な青白い肌が魔物と化したことを教えていた。
さらに前よりも、目もとのクマがひどくなっており、その笑みはより獰猛さを感じられるようになってしまっていた。
「フィーゼ…なのか…?」
変わった彼女にそう問いかける。
「ええ、そうよ、あなたが一生離さないって約束したフィーゼよ」
「それに、死んでも愛するって約束したわね」
彼女はぺったりと背中にくっつきながら、そう返す。
吐息が首筋に当たり、ゾクゾクとしたくすぐったさが走る。
「ほら、ちゃんとこっち向いて」
そう言うと彼女は背中から離れ、宙を浮いてくるりと回転する。
彼女の全体をよくよく確認すると、生前の頃と変わらぬ顔、服装は黒を基調としたドレスで、ふと足元を見ると鋼鉄のシャンデリアのような受け皿の上に青い炎が揺らめいており、そこから彼女の脚がすらっと伸びていた。
完全に人外のモノと化した彼女、だけれども、それでも、彼女に会えたことは嬉しくて、思わず抱きしめてしまう。
彼女の体はふわりと柔らかく、生前よりも肉付きがよくなっていて、そこに確かに居た。
「フィーゼ……!ほんとに、本当に会いたかった……!」
「わっ……♥」
「ふふっ…よしよし…そんなに会いたかったんだ」
「うれしいな、うれしいなぁ♥」
こちらが抱きついたのに対して、ぎゅっと抱き返してくる。
その手は背中を撫でまわし、俺と同じようにその存在を確かめているようだった。
「…ほんと、こんなに甘えん坊になっちゃって」
まるで子供扱いするようにぽんぽんと頭を撫でられる。気恥ずかしさはないわけではないが、それよりも彼女に再開できた嬉しさが勝り、されるがままになってしまう。
出来ることなら、ずっとこのまま、彼女と抱きしめていたいと思ったが
「とっても美味しそう♥」
そんな声と共に後ろからガシャンと無機質な音が聞こえた。
いつの間にか空が黒い格子で覆われていた。後ろを向くと、鋼鉄の檻が後ろを塞いでいた。その檻の格子は俺の股下を通っており、そこでようやく閉じ込められたことを把握した。
そうだ、そうだった、彼女は魔物になってしまったのだ。
「そっぽ向いちゃダメでしょ」
「こっちだけ見て」
「だって私とずっと一緒にいるんでしょ?」
「死んでも愛してくれるっていったよね?」
彼女はまばたき一つもせずにじぃっと見つめてくる。
逃げなきゃ、このままだと彼女に喰われてしまう、どうにかしなくては…
だが、彼女の執着に塗れた言葉が俺の心をじわりじわりと蝕んでいく。
そしておもむろに
「ん…んぅ…」
キスをされた。
「ん…はぅ…じゅるる…」
青白い肌とは打って変わって、熱いほどに火照った舌が口内に侵入してくる。
唇をぴったり合わせてそのまま舌を深く絡めてきたかと思いきや、唇を合わし直してじゅるるると音を立てながら舌で搦めとった唾液を啜ろうとしてくる。
そんな刺激的な感覚に合わせて、口の奥から、ナニカ、大事な物が奪われているような感覚に襲われてしまって、力が段々と入らなくなってしまう。
それなのに、股間のモノはこれ以上になく怒張してしまっていて、その切なさで思わず小さな呻き声をあげてしまう。
「ん…♥」
「んん…んー…はむっ…じゅるる…」
彼女はそんな声に気がついてニコッと目元を細めるものの、そのままひたすらキスを続ける。
彼女に啜られる度に、心の奥底からすぅっと力が抜けていってしまい、彼女を抱きしめる腕が徐々に下がってしまう。
さらに股間が切なくなって、じわりと我慢汁が染み出してしまうのも分かって…
すると、ズボンをすっと降ろされてしまって、パンツの中で張り詰めたナニに彼女の太ももがあてがわれ、そのままじわりじわりと押しつぶされてしまう。
そんな、ちょっとキツくてとても甘美な快感に、思わず腰を震わせて、かくかくと押しつけてしまう。
「ふふっ…いいわ、私の太ももでオナニーしちゃいましょ♥」
「ぎゅーって潰されちゃって、そのままお漏らし射精……そんな情けない姿をちゃんと見てあげるわ♥」
そんな彼女の囁きで自分のみっともない行為を自覚してしまい羞恥心が膨れていくものの
スリスリスリ……ぎゅぅぅ……
太ももによる責めで快楽漬けにされてしまい、そんな羞恥心も余計に被虐的な快楽を増幅させるスパイスになってしまう……
一擦りされるだけでびゅるっと我慢汁が噴き出て、パンツからねっとりしたシミが広がり、彼女の太ももに糸を引いてくっつく。
ぬちゃぬちゃ……ぶちゅ……
太ももが奏でる音が次第に湿っぽくなってきて、自分がどれほど我慢汁を吹き出しているのかを知ってしまい、みっともなさがまた増幅して……
でも、彼女に抱きついてると離れられないし、彼女の首筋に顔を埋めると脳を震わすような匂いがして……本能に従って腰をかくかくと震わしてしまう。
「ほら……ちゅ……一滴残らず搾り出して」
「出して、出して、全部私に出して」
首筋に軽く口づけをされゾクゾクと背筋に快感が走り、そのまま太ももをぬちゃぬちゃと激しく擦って、一気に搾り取ろうと責め立ててくる。
抗うことの出来ない暴力的な快感。
「うぅ……も、もぅ……」
もはや呻き声を上げることしか出来ず
「出せ、私にぜーんぶ出しちゃえ」
その囁きがダメ押しとなって
ドプッ
ドクッドクッドクッドクッドクッ
ビュルッ……
限界を迎えてしまう。
彼女がズリっと太ももを擦る度に精液が奥底から溢れてきて、もっと出せと言わんばかりに激しく擦られ、何度も何度も絶頂の波を迎えてしまう。
そんな異常な射精、腰の奥底から無理やり引っこ抜かれているような大量射精、精液を一噴きするごとにまるで魂が抜けるような感覚がして、残った理性が必死に警鐘を鳴らすものの、この破滅的な快楽には抗えず、むしろ腰を押しつけてしまって、本能的に全てを彼女に捧げようとしてしまう。
もう全て出し切った……そう思っていたら、むぎゅっと不意打ち気味に太ももで圧し潰され、うぅっと呻きながら最後の一滴を出し切る。
「あーあ、出しちゃった」
「もう力が入らなくなってるの分かるでしょ?」
彼女の顔を見ると嗜虐的な……そう、俺を搾り取ってきていたあの時の顔をしていた。
三日月に口を歪ませる彼女は、前よりも青白く、目元のクマも一層酷くなっているのに、肌に艶が出てきて、とても生き生きとしていて……
あぁ、彼女に食べられているんだ。
そう思うと、ゾクゾクとした快感が体全体を走り、ぶるりと震えてしまう。
被虐的で、破滅的な悦びだが、彼女からされる全てに快感を覚えてしまい、もはやまともに理性が動かない。
パンツをするりと降ろされる。いつの間にか精液は一滴残らず無くなってしまっていたが、彼女に絡め取られたんだろうと何故か納得してしまう。
「あなたは今……生命を出しちゃってるのよ♥」
「私にだーいじな命を吸われちゃって……どうかしら、怖い?」
そう言いつつイタズラっぽい笑みを浮かべる。でも、言ってる内容はとても残酷で、悲しいもので、また彼女と別れる……そう思うと勝手に涙が溢れてしまう。
さっきまでは彼女に一目会って死にたいと思っていたはずなのに、こうして彼女に触れていると、その熱が、吐息が、匂いがとても愛おしく思えてしまって、離れたくない一心で一生懸命に抱きしめようとする。
だが、ろくに力が入らず、さすさすと手を動かすことしか出来ない。
「あは……泣いちゃった」
「そんなに怖い?やめてほしい?」
その端正な顔立ちが、無表情で、こちらを覗き込むように見つめてくる。
死にたくない、別れたくない…そんな必死な想いで何とか、やめてくれ、と声を喉から絞り出すが
「……絶対にやめてあげなぁい♥」
返ってくるのは無慈悲な死刑宣告
「や、やだ、やめ……」
「だって、あなたは私にたくさん酷いことしたじゃない」
酷いこと……
ああ、そうか、彼女は俺を呪い殺しにきたのだ、不甲斐ない俺を。そうに違いな……
「おねだりしてるのに、私を放って毎日お仕事にいったり」
「ずっと一緒って何回も約束したのに、私を置いてどっか行っちゃうし」
「あなたはいつも嘘ばっかだったわ」
そんな予想に反して、返ってきたのは恨み節というより拗ねたような言い分。
「それに、あなたは私に優しくした」
「あなたと会うまでは、死ぬことなんて怖くなかったのに」
「発作が起きてもこのまま死んでもいいわって思えてたのに」
「あなたが、励ますから、優しくするから、愛してくれるから」
「あなたと過ごす時間が、永遠に欲しいと思えるほど」
「あなたの全てを味わいつくしたいと思えるほど」
「あなたを閉じ込めて、独り占めにしてしまいたいと思えるほど」
「あなたのことが好きになってしまって」
「発作が来る度に、あなたと別れるのかもしれないっていう恐怖で狂いそうになって」
「あなたとずっと一緒にいることができないこの体が、とても憎く思えてきて」
なんでこんなことを言うのだろうか……?
まるで、長い間秘めてた想いを不器用に告白するような囁きを聞いてしまって、彼女が分からなくなる。
いや、こんな歪んだ愛の告白を受けてしまったら、もしかしたら彼女とずっと一緒に入れるのでは……という甘い期待が湧いてしまう。
「何も、何も怖くなかったのに、嫌じゃなかったのに」
「あなたのせいで、急に怖くなってしまって……」
そう言って、彼女は首筋に舌を這わし、そのままちゅぅっと強く吸い、真っ赤な痕を残してから
「あなたのせいよ」
じろりと見つめて、頬を吊り上げる。
彼女の、その嗜虐的な笑顔を見ると否応なしに興奮してしまって、一発出した後というのに、死の恐怖が迫っているのに、はち切れんばかりに勃起してしまった。
「ぜーんぶ、あなたのせい、あなたが悪いの」
「だからぁ」
「一生閉じ込めてやる♥」
「私から離れられないように、私のこと忘れられないように、魂ごと私の中に閉じ込めちゃう♥」
「出してぇ…やめてぇ…って懇願してもだーめ♥」
「私に酷いことした罰、罰として一生……いや、永遠に私の中で終身刑♥」
彼女のそんな、ひどく理不尽で甘い囁きに毒されてしまって、ゾクゾクっとした痺れが全身を走る。
彼女に永遠に閉じ込められてしまう、ずぅっと彼女にこうやってイジメられてしまう、そんな想像をするだけで頭が熱くなってクラクラしてくる。
「こうやって、飲み込んで……」
「ぜーんぶ搾り取ってあげるわ♥」
彼女は秘部に怒張したモノをあてがって、ずぷんと一気に呑み込んだ。
ナカは燃えるように熱く、二度と離すもんかと強くきゅぅっと締め付けてきて、隙間なく密着されてしまう。
あまりの快感から逃れようと腰を引こうにも、ヒダが返しのようになっており、腰を少しでも動かすとカリ首をぞりぞりと擦りあげ、おまけに子宮口が鈴口にちゅっちゅっとキスをしており、腰を引くどころか身じろぎすら出来なくされてしまう。
「ほぉら、私のナカがあなたのを絶対逃がさないよー…ってしてるでしょ♥」
「子宮口がちゅぽちゅぽってキスしちゃって、逃げようとしたら膣がぞりぃってイジメちゃうの」
「ふふふ……このまま、あなたは命を啜られちゃうのよ♥」
「出せば出すほど力が抜けちゃって、動けなくなっちゃって、そんな状態でひたすらひたすら私にイジメられちゃうの♥」
軽くバカにするような、そんな口調で淫語責めされてしまって、より射精欲が高まってしまう。
彼女はそんな俺の様子を把握しているようだが、それでも敢えてゆっくりと腰を動かし、悶える様を観察して笑みを深める。
何とか大事な命を出さないよう我慢をするが、大好きな彼女に騎乗位で見下ろされているだけで体は勝手に興奮してしまって、限界寸前になったところで
「さっさとイっちゃえ♥」
無慈悲な命令と共に思い切り腰をプレスされてしまい、限界を迎える。
びゅるるっ
びゅるるるるる
どぷっどぷっどぷっ…
びゅるるるっ
射精の快感で腰が痙攣する。それによって、肉壁が裏筋を、カリ首を、亀頭を、ぞりぞりと擦りあげられて、射精をしているのにまた奥底から精液を引っ張り出されてしまう。
背筋と脚をピンと伸ばして、声を押し殺しながら何とか快楽に耐えきろうと努めようとしたが、脚を絡められてぎゅっぎゅっとホールドされてしまい、また濃い精液を絞り出してしまう。
「んっ、んぅ…んふふふ♥」
「また出しちゃったね、私のナカに大事な命吐き出しちゃって……閉じ込められちゃった♥」
ニタリと笑り、被虐心を煽るように囁く彼女。
グリグリと腰をグラインドさせ、尿道の奥に残っていた精液すら搾り取られ、心地良い疲労感が体を包み込む。
ずっとこのままで居たい……そんな思考も頭をよぎるが、わずかに残った理性、死にたくないという一心で何とか言葉を紡ぐ。
「も、もう、やめてくれ……」
「……ふーん、抵抗しちゃうのね」
冷たい目で見下ろされる。
ああ、やはり彼女にとってはただの餌でしかないのか、甘い期待は興奮させる餌でしかなかったのか……。
そう思うと背徳的な感情も高まるものの、悲しさで目に涙が溜まってしまい、彼女の顔すらぼやけてしまう……
「いやだ……死にたくない……フィーゼとずっと一緒に居たい……」
もはや子供のワガママのような言葉しか出てこない。
彼女にみっともなく命乞いをすることしか出来ない……最期までなんて情けない奴なんだ、そんな自己嫌悪に苛まれる。
でも、でも、こんなのあんまりだ。なんで、どうして、こんなに苦しまなければならないのだ……
そう思っていたが、突然
「……ちょっとやりすぎちゃったわね」
「ほら、大丈夫よ大丈夫……ぎゅーってしてあげるから」
彼女はすっと表情を変え、泣いてる子供を宥めるかのように優しく抱きしめてきた。
その豹変具合に困惑する。まるで正常な彼女に戻ったみたいで、また甘い期待が湧いてくる。
そんなわけない、これも嘘に決まってる。そう心構えるが……
「このまま死んだりしないわ」
「だから拗ねないで、いーこいーこ」
そのまま優しく撫でられる。やはり多少の気恥ずかしさはあったものの安心感に身を委ねる。
彼女のその理性的な囁きが、魔物になったとはいえフィーゼのままなのだと確信させてくれる。
あの彼女だから、その言葉が嘘ではないと信じさせてくれる。
だから大丈夫、大丈夫なんだ……そんな考えと共に心地よい感触に蕩けていたが
「むしろ逆よ、ぎゃーく」
「絶対に死なせてあげなぁい♥」
「永遠に、私に抱きしめられて、私に愛を注がれて、私に魂をしゃぶられるだけの存在……」
「とってもかわいそう……♥」
突然、耳元で嗜虐心をあらわにした囁きを聞かされしまう。
絶対に死ねない、永遠に抱きしめられる、永遠に彼女と一緒……そんな甘すぎる毒に心がずぶずぶと侵されてしまう。
そして、その境遇を憐れむ言葉が、彼女に支配されてしまうんだ、という被虐的な興奮をより高ぶらせる。
ぐちゅりと腰を動かされる。突然の快楽に呻き声をあげてしまう。
ダメだ、死への恐怖が無くなって、命を出し切った先の結末が彼女とずっと一緒にいることだって知ってしまったから、理性がドロドロに蕩け切ってしまっている。
射精する度に最高の快楽と共に彼女に命を捧げ、その代償として永遠に彼女に閉じ込められてしまう……そう思うだけで体が震えてしまう。
その震えで、ぐちゅりとナカをかき混ぜてしまい、腰が抜けるほどの快感に襲われてしまう。
こんなの、すぐに壊されてしまう、堕ちてしまう……
そんな甘美な毒の沼から逃れるためにもがこうとするが
「ま、まって……」
「でも、当然でしょ?」
彼女は許さない。
「だって、あなたと別れたくない、もっと一緒にいたいを一心に思ってせっかく幽霊になれたのに……あなたは気付かなかったし」
「それどころか、空っぽになった私の抜け殻ことばかり気にしてたし」
「私がずぅっと付き纏ってたのに、抱きついたりキスしたりベッドで一緒に寝たのに……全然気付かなかったし」
ああ、やはり彼女はずっと俺の傍に居たのか、あの感覚は勘違いじゃなかったのか。
そう思うと嬉しさでいっぱいになる、が
「しかも……私が抱きついてたのに声をかけてたのに……他の女の人に話しかけて縋りつくなんて……」
怒気を孕んだ囁きが聞こえる。背筋が凍えるほど熱く、冷や汗が流れる。
「ち、違う、あれはまだ気がついてなくて……」
「……絶対に許さない」
「こんな旦那さんは重罪よ、私と一緒に永遠を過ごす終身刑……♥」
嫉妬が、恨みが、憎しみが、執着のような愛情で煮詰められてドロドロになった物をぶちまけられて、さらに深く沈められてしまう。
彼女はチロリと舌なめずりをして、そのまま頬に這わせる。その瞳を覗くと情念の炎がゆらめいている。
「あは、あはははは♥」
「ぜーんぶ私に捧げて、ぜーんぶ私が管理して、ずぅっと私がイジメてあげる♥」
そのまま上体を起こして騎乗位の体勢で嘲笑いながら腰を、、たんったんっ、とリズミカルに打ち付けてくる。
腰を打ち付けられる度に、ぎゅぽぎゅぽと吸い出されるような感覚と肉ブラシで擦りあげられる刺激が襲ってくる。
奥まで飲み込まれると子宮口にきゅぅと吸い付かれ、引き抜かれる時には名残惜しむようにきゅぽんと放される。
二回も出して敏感になった状態ではあまりにも強すぎる刺激で、思わず声が裏返ってしまう。
「あっ、やめっ、だめぇっ!」
「あはっ、絶対にやめてあげないわ♥」
「私のお願いを何回も無視して、お仕事行っちゃったお仕置きよ♥」
「そんなの理不尽……あああああぁ!!」
口答えをするとグリッと激しく腰をグラインドされてしまい、脳の神経が焼き切れるんじゃないかというほどの快楽を与えられてしまう。
びゅるっ、びゅるっ、と腰の奥から我慢汁が溢れ、また力が入らなくなっていく。
「それに、体の弱くて主導権を取れないのをいいことに、私をゆっくりと焦らすようにイジメてくれたわね」
「うぁ……そ、そういうつもりじゃ……」
「こんな風に乳首をコリコリ……カリカリ……ってイジメて、楽しかった?」
「ほら、カリカリ……ぎゅーって潰して……」
「あっ、うぁっ……」
指先で乳首をつつーっと円を描くようになぞられて、くすぐったい感覚に少し悶えていたら、そのまま摘ままれてすり潰され、爪で先っぽを引っ掻かれてしまい、くすぐったさがハッキリとした快感に切り替わってしまう。
未知の快感。そんな我慢のしようがない感覚に悶えていると、段々とお尻の奥がきゅぅっと締まってきて、次の射精の準備が始まってしまう。
これ以上出すともっとイジメられてしまう……そう思って我慢しようとするも、逆に被虐心を刺激してしまって、奥底でグツグツと欲望が煮詰まっていく。
「あーあ、そんなに気持ちよさそうにして、私に命を搾られちゃってるのに……」
「変態、変態、ド変態」
「や、やめっ、あっ……あっ!」
彼女はそんな俺を冷たい声で軽く罵るように言葉責めしつつ、乳首をねちっこくイジメつつ激しく腰を振って射精へと追い詰めようとしてくる。
変態、そう罵られる度に乳首をぎゅっと抓られ、電撃が走るような快感で体が跳ねてしまって、ナカで擦りあげられ……
そんな快楽に反応してしまう度に、彼女はジトっと目を細め、より強く、ねちっこく、指先を動かす。もっと悶えろ、と暗に命令される。
「ふーん、イジメられて出しちゃうんだ」
「変態って罵られて、一方的にレイプされてるのに……」
「れ、レイプって……」
「そうよ、レイプされてるのよ」
「愛するお嫁さんに、無理矢理、一方的にレイプされちゃって」
「びゅーびゅーって精液搾られちゃう」
「うぅっ……」
愛する彼女にレイプされてるという倒錯感が興奮を高める。
一方的にレイプ……彼女に好き勝手されちゃっている、そう思うだけで頭がかぁっと熱くなって、彼女以外見えなくなってしまう。
「何回出しても、やめてぇ……っていくら懇願しても」
「そんなお願い無視されちゃって、こうやって腰を打ち付けられちゃって」
「だせだせ、せーえき出せっ……!って一方的に搾取されちゃうの」
「やっ……あぁっ……」
「私の檻の中で一生搾られ続けちゃう……」
「旦那さんという名のザーメンタンクとして毎日ぎゅーって抱きしめられながら使い潰されちゃう……」
「そんなの嫌でしょ?ここで出しちゃったらそうなっちゃうよ?」
「うぁっ……もうっ……!」
容赦ない責めでじわじわと射精まで追い込まれ、さらには脅すような口調で快楽の檻に囚われる結末を仄めかされ、そんな破滅的な運命から逃れようと理性が働くが、それが逆に背徳感を増幅させてしまって、次第に脳が蕩けるようなそんな結末を望んでしまうようになって……
奥底からこみ上げてくる。抗いようのない最後の一線が徐々に迫ってくる。頭が白く塗りつぶされていく。形だけの我慢も、微かな理性も、塗りつぶされていく。
「あはっ、出しちゃうんだぁ♥」
「いいよ、一生飼い殺してあげる♥」
「ほらイけ♥早く私のモノになれ♥」
その言葉がトドメになった。
びゅるっ
びゅっびゅるるるる
びゅるるるるるるるる
「あっ、あー……うぁ……」
一気に解放される。尿道が押し広げられながら精液が勢い良く飛び出していく。
まるで長い糸のように、射精すればするほど奥から精液が引っ張り出されていくような感覚に、それに伴う心地よい快楽に身を委ねてしまう。
びゅるるる
びゅるるるるる
「あっ♥あっ♥出てるっ♥あなたのせーしが流れ込んでるっ♥」
「うぁぁ……」
「もっと出してっ♥大事な命ぜーんぶ出しちゃって♥」
頭を抱きかかえられたまま撫でられつつ、一滴も残らず搾り出すように腰を激しく打ち付けられる。
慈しむように安心させるように撫でてくる一方で、一片の容赦もなくぎゅぅっと締め付けながら腰を振ってくる。
射精する度にタマから新たな精液が生産され、そしてすぐに放出されていく。普通では有り得ないほど長い射精。
ホントに命を溶かしているような、そんな脱力感を伴った射精を止めるすべは無く、呻き声で反応することしかできない。
びゅるるっ
びゅるるるるるる
「もっと♥もっと♥」
「ちゅーしてあげるからもっと出して♥」
「あぅ……むぐっ……」
「んぅっ♥じゅるるるる♥ぷはっ、じゅるっ♥」
「ちゅっ♥ちゅるるる♥ちゅこちゅこ……ちゅっ、ちゅっ♥」
貪欲に腰を振られ、ずっと搾り取られ続け、それでももっと出せとキスされてしまう。
いきなりむしゃぶりついて、唾液を啜り、逆に唾液を流し込んできて、そうしてお互いの唾液が混ざったカクテルをむしゃぶりついて味わって、
そして忘れていたと言わんばかりに、おもむろに唇をついばみ、吸って、舌で扱き、また唇に吸い付いて……
びゅるるるる
びゅーびゅるるるる
「ちゅるるるる、じゅるるるる♥」
「んぁっ……もっと、もっと出して♥全部、全部出して♥」
「ぁ……あぁっ、ぁ……」
乳首をカリカリと引っかかれ、さらに出せとせがまれる。
快楽に耐えるために力を籠めることもできず、お尻の奥がきゅぅっと勝手に締まって、さらに奥から精液を搾り出してしまう。
射精する度に心地よい疲労感が体を包み込んでいく。温かくて、安心できるような心地よい感覚……
あまりにも気持ち良すぎて、このまま死んでしまうんじゃと急に心配になって、身じろぎをすると
「あっ……ごめんね、こうやって欲しかったんでしょ♥」
私はちゃんと分かってるわ、そんな風にしたり顔をしつつ両手を恋人繋ぎで囚われてしまう。
見当違いな解釈だったが、生前の頃の行為を思い出し、今もここでこうやって居ることがとても愛おしく思えて、さらに命を捧げてしまう。
びゅるっ
びゅるるるるるっ
びゅるるるるるるるっ
「好き♥大好き♥これからずぅっと永遠に一緒♥」
「あっ、そうだ、これいいかも……ほら、黒檻のリング♥」
一方的に好意をぶつけつつ、その黒いドレスの一部をちぎって、ぐにゃりと曲げて、お互いの薬指に黒いリングを勝手にハメる。
頬を吊り上げながら、無邪気に、そんな事をする彼女を見て、天にも昇るような心地だが絶対に死ねないんだと感覚的に分かってしまう。
これから永遠に、天に昇ることもできずに、幽霊と化した彼女に囚われ続けて搾られ続ける……
びゅるるるるるっ
びゅるるっ
びゅくっ
「ぅぁ……ぅぅ……」
「うふふ♥大丈夫よ、そのままちょっとだけ休んで構わないわ」
「これから時間はたっぷりあるわ……だから、ちょっとだけおやすみ……ちゅっ……♥」
長かった射精もついに勢いが衰えてきて、意識が徐々に奪われていく。
彼女の心地よい囁きを聞いていると、まぶたがゆっくりと降りてきて、視界が暗くなってきて
そして、おでこに温かいモノを感じたのを最後に、完全に意識が落ちていった。
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監獄都市国家『グレンティス』の陥落から数週間が経った。壁の中はもちろん、隣接していた森と墓地すら魔物の支配下に置かれた。
だからと言って、人間が悲惨な運命を辿ったわけではない。……いや、ある意味悲惨かもしれない。
魔物に伴侶として見初められた者は凌辱されつくし、すでに配偶者や恋人が居た者は片割れを魔物娘に変えられて凌辱されつくした。
ある者は空からいきなり襲われてそのままお婿さん調教という名目で何十発も搾られたり、またある者は恋慕っていた娘に調教されて性奴隷という名の旦那さんにされてしまったり……ほとんどの人は、そんなちょっと歪で甘い関係に落ち着いている。
そしてそのまま、女性……いや、魔物娘上位の国家が出来上がった。とはいっても、さっき言ったような感じでイチャラブ兼嗜虐趣向なだけであって、男性が通常時も虐げられているわけではない。
また、この国のシンボルでもあった監獄は『男性調教施設』……という名目の魔物娘攻め専のラブホテルと化し、日夜問わず嬌声が聞こえてくるようになった。
街も大きく変わった。今までは通貨取得のために使われていた特産品の香辛料が国内で使えるようになり、カレー屋が増えた。
魔物娘が移住してきて文化も大きく変わり、特に西側を中心に高貴なアンデッドが多く移住してきたため、暗いのに豪華絢爛という独特な街並みに変わっていった。
この国のシンボルでもある監獄と、この暗くて豪華な街並みはとてもマッチしており、その雰囲気を活かした街づくりが着実に進んでいる。どうやら観光客を増やしたいらしい。
あくまで噂程度だが、新たにこの国の執行部となった者たちは、魔物娘全体に本来の凶暴……というか嗜虐的な性格を思い出させるのを目的としており、この国でそういう思想を広めようとしてるとか何とか……
まあ、目的はなんであれ、平和に街が賑やかになっていくのであれば何でもいい。
そんな中、俺とフィーゼはというと……
「――こうして、死すら乗り越えた二人は永遠に結ばれましたとさ、めでたしめでたし」
まだ幼い魔物娘、主にアンデッド達に向けて紙芝居をしていた。
あの後、アンデッドが生まれ、たくさん移住したことにより、彼女らが信仰する生と死の女神『ヘル』を祀る教会が建てられることになった。
その場所は墓地があったところ……景観がよく、通用口がすぐ近くにありアクセスがよいので、ここになった。
俺とフィーゼは、あの進行の日に出会った貴婦人と魔術師……正確にはワイトとリッチの二人に、その教会での仕事を紹介された。
とはいえ、仕事らしい仕事はほとんどなく、フィーゼと一緒に幼い魔物娘の相手をしたり、教会を訪れた人を軽く案内する程度である。
因みに、今やっていた紙芝居はフィーゼの手作りであり、モチーフはもちろん俺らである。
「あぅー、おむこさんほしー」
「わたしもー」
「わたしも早く実体化できるようになりたいなぁ」
「いいなぁー」
それゆえ、幼い魔物娘が羨ましそうにしているのを見ると気恥ずかしさを覚えてしまう。
「ふふっ、そう強く思うことが大事よ」
「私みたいに……ね、あなた?」
「あ、ああ、そうだな」
膝の上に乗っているフィーゼが振り向く。柔和な笑顔だがどことなく含みがあって、ゾクリとしてしまう。
「羨ましい、気持ちよくなりたい、手に入れたい、そういう気持ちをたくさん抱けば抱くほど色々できるようになって……」
「こんな風に、好きな人を好き勝手できちゃうのよ♥」
そういって彼女は紙芝居を膝の上に置き、腰に回っていた俺の手をジャラリ掴み上げる。そこには黒い鎖が繋がっており、彼女に抱きつくような形で拘束されていた。
逃げる気はさらさら無いし、彼女もそれは分かっているが、こうして拘束されているという事実が被虐心をくすぐる。
あの後、彼女と再開して犯された後も毎日拘束されて徹底的搾られ続けている。
嫉妬や怒り、苛立ちを砂糖と一緒に煮詰めたような感情を延々とぶつけられて、抵抗しようにもできないように彼女の黒檻で拘束されて、命と共に精液を搾り取られている。
そう、射精する度に感じてた魂が抜けるような感覚は気のせいではなく、そういう『魔法』で実際に生命力を奪われているらしい。
とはいえ、暫くしたら戻ってくるらしく、一生寝たきり状態にされたりするわけではない……が、戻ってくる際に彼女の魔力や価値観などが混ざって返ってくる。
恐らくそのせいで、体力は以前よりも増しているものの、『あなたは私にイジメられる存在』という歪んだ彼女の価値観に侵されてしまって、被虐的性癖が進行してしまっている。
射精すればするほど被虐的な快楽に弱くなってしまい、それによってより多く搾られてしまって……という泥沼にハマってしまっているのだ。
だから、こうして手を繋がれて椅子のように扱われていると思ってしまうと、また被虐心がむくむくと膨らんでしまって……興奮してしまう。
「そのさ、そろそろお昼にしないか?」
「元部下がカレー屋始めたらしくて、割引券も貰ったから――」
半勃ちしてしまったソレに気づかれないように、話題を逸らして何とか窮地を脱しようとするが
「ふーん……こっちじゃなくて?」
「うぁっ……!」
彼女のお尻がグリグリと股間を圧迫する。ぎゅっぎゅっとすり潰される度に、鈍くて強い快楽が襲いかかってくる。
膝の上でリズミカルに跳ねられ、尻たぶの間で挟み込むようにズボンの上からナニを擦られ、ムチムチの尻に蹂躙されてしまう……そんな淫靡な光景を目の当たりにして余計興奮してしまう。
「ま、待って……こんなとこで……」
「どうしたの?イスにされちゃってるだけで出しちゃうの?」
「お尻に潰されるだけで白旗あげちゃう情けない旦那さんなの?」
「そんなことっ……!」
「ほら、ぎゅー……漏らしちゃえ♥」
「あぁっ!そ、それだめっ……!」
言葉で被虐心と羞恥心をコントロールされ、反抗した瞬間にズボンを透過して生肌を急に押し付けられる。幽霊だからこそ出来る芸当。
もっちりとした熱い肌にじわりじわりと圧し潰され、チューブを絞るかのように精液が奥から無理やり押し出されてしまって
どくっどくっどくっ
どぴゅっ、ぴゅる……
あえなく果ててしまう。
圧し潰されてるナニが狭い尿道から必死に精液を出そうと脈動し、尿道内を擦りながら出していく強い快楽に悶えてしまう。
彼女はそんな俺の表情をじぃっと見つめて、笑みを浮かべ、頬に手を当ててくる。
「お尻に潰されちゃうだけでも出しちゃう変態さん……♥」
「うっ……」
そうやって甘く罵倒され、奥底に残ってた精液をびゅるっと放出してしまう。
こんな風に彼女に性癖を掌握されて、永遠に精を搾り取られ続ける。快楽の檻に囚われて、もう二度と逃げることは出来ない。
改めてそう実感してしまって、射精したばかりなのにまた被虐心が膨らんでいく。このままでは連続搾精コース……
「ふふふ……、まあ、今はこれぐらいにしておくわ」
「え、えーと……いいの?」
「ええ」
「あなたの言ってたカレー屋さんも気になるし」
「それに、ここにはギャラリーが多すぎるわ」
「あっ……」
そんな彼女の言葉で冷静になって周りを確認すると
「ぅぁー……」
「すごい……」
「いいなぁ……」
幼い魔物娘たちが顔を赤らめて、この痴態を眺めていた。
そうだった。さっきまで紙芝居をしていたのだから、まだ小さい子が近くにいるのは当然で……
我が身を振り返って、先ほどまでの情けない姿を観察されていたと思うと、かぁっと顔が赤くなっていく。
「まあ、ここでたっぷり見せつけるのも悪くないけど」
「あなたの情けなぁい顔を独占できないから、続きは後でね」
「それにカレー屋ってことはスパイスの効能もたっぷり出るわけだから……今晩は抱き潰してあげる♥」
彼女は俺の手の黒檻を溶かしてふわりと浮き、後ろに回って俺の顔を手で隠す。
視界が青白い掌に覆われて暗くなったところで俺にしか聞こえない声で囁く。抱き潰す……そんな恐ろしい表現によって想像が膨らんでしまい、思わず期待でいっぱいになってしまう。
「っ……」
「くすくす……♥」
その期待だけで体が震えてしまって、彼女は満足そうにクスクスと笑う。
何をしても、何をしようにも、こうやって心を掌握されてしまう。
そう、彼女は的確に俺の心を掴んで離さない。
公然の前で羞恥を晒してしまうのに慣れていないのを察して、こうやって気を遣ってくれる。
それでいて、あたかも横暴で一方的で独りよがりに見える愛情で、俺の心を深く突き刺してくる。
彼女は口には出さないが、全て分かった上での行動なのだろう。その上で俺をイジメているのだ。そんな彼女から享受する一方で申し訳なくなって
「……じゃあ、早速行こうか」
「あら、エスコートしてくれるのね、ありがとう♥」
彼女の手を取って、ぎゅっと握る。せめてものお返し。
ふわりふわりと燃えながら浮いてる彼女の手はすべすべで、確かにそこにあった。
「こうやって、また一緒に歩けるなんて、とても幸せだよ」
思わず言葉が零れる。
生前の彼女と一緒に出歩けたのは数えられるぐらいしかなかった。
彼女が死んでからは、その散歩したルートを巡って感傷に浸っていた。
もう二度と彼女と歩けないんだ……そう思ってしまって涙を流したこともあった。
だけど今は、こうして幽霊になった彼女と一緒に歩いている。
――もし、私が幽霊みたいにふよふよ浮けたら、この世界はもっと面白くなるのにね
ふと、そんな彼女の言葉を思い出す。
ホントに幽霊になった彼女は、好き勝手に俺を振り回して毎日楽しそうにしている。
今も楽しそうにしてくれてるだろうか?そう思って彼女の様子を伺うと
突然、唇を重ねられた。
「っっ!?」
「んぅっ……んー、ぷはっ♥」
急なキスに驚いてる間に、彼女の舌は好き勝手に蠢き、甘く痺れるような快楽で為すがままにされてしまう。
奥深くまで舌が伸び、絡められ、深く繋がる。暫くすると満足して、唇が離される。
「あなたがとっても愛してくれたから、こうなったのよ♥」
そう言って彼女は口角を吊り上げて微笑む。
あぁ、そうだった。彼女が幽霊になる前から俺はこの微笑みに囚われていたのだ。そしてこれからも永遠に囚われ続けるのだろう。
彼女に恋した代償として生前の彼女に囚われ
彼女に恋をさせた代償として死後の彼女に永遠に囚われ続ける
そんな結末が変わらないこと願いながら青白く燃え盛る彼女を抱きしめた。
21/03/01 08:39更新 / よね、