連載小説
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お兄さんちょっと心配かもよー。
「…………ソピアちゃん?」
「?」
「何でこの本を選んだの?」

ソピアと同じ目線になるように屈みながら尋ねてみた。魔物が教会関連の本を…というかその前に幼子にこの本は刺激が強すぎる(グロ的な意味で)。知っててこれを選んだのだろうか。だとしたら凄い渋いぞ。

「きらきらしててきれいだったからだよ?」
「…………。」

良かった。まあ、確かにこの本の装飾綺麗だし何かファンタジーな物語だと思ったんだろう。

「この本はソピアちゃんが読むにはちょっと早いかなぁ…。他に読みたい本は無い?」
「わたし、それがいい。」
「…………………。」

…困ったな。神曲自体は内容を全部覚えてるけど、こんなちっちゃい子に語って聞かせて良いものなのだろうか…。

「…よんでくれないの?」
「う゛っ…。」

涙目で上目遣いとか反則です。ヤバい、落ち着けあっしはロリコンじゃないロリコンじゃないロリコンじゃない。
…よし、危うく堕ちる所だったが助かった。今が旧暦上の晩夏でなかったら危なかったぜ…。

「…分かった、一度言った事は守ろう。これ、読んであげるよ。」
「ほんと!?」
「本当。」

…まあ、ダンテさんにゃ悪いけど子供向けに中身を改竄させてもらいますかね。
「おにいちゃんだいすき!」

さっきまでの涙はどこへやら、向日葵みたいな笑顔でソピアが抱きついてきた。…モチツケ、こんな時こそ冷静になるんだあっし。KOOLに、KOOLになれ。

「さ…さぁ、何処か座れる所に行こうか。ソピアちゃんもこんな暗い所に居たら分かんないだろ?」
「……………むぅー。」

脇を持って少し体から放すと、ソピアは不機嫌そうに頬を膨らませた。また抱きつかれては(精神的に)敵わないので立ち上がり、ソピアをゆっくりと床に下ろした。

「…こっちにいつもおかあさまがごほんよんでくれるとこがあるの、はやくいこ?」
「うわっと…。」

あっしの中指と人差し指とを小さな両手で掴み、ぐいぐい引っ張ってくる。子供ながら流石は魔物、体重70後半の大人の体が大きく傾いた。


――――――


「…すげ。」
「?」

ソピアに連れて来られたのは、城内にあるやたらドアが大きな図書館だった。何でドア越しに図書館って分かるかって?だって書いてるもの、ドアノブの丁度真上に『library』って。

「ん〜…っ!!」

ソピアが一生懸命背伸びしてドアノブに手を掛けようとする。何この超可愛い生き物。見ててマジ癒され…いやいやいやいや。飛べよ、その腰の羽を使って羽ばたきなさいよ!もっと、熱くなれよぉぉ!!って何言ってんだあっし。混乱し過ぎだろ。

「…………くすん…。」
「開けてあげるから泣かないで、な?」

混乱してたらソピアが今にも泣きそうになってたのですかさず頭を撫でてやる。いくら無垢に可愛かろうと魔王の子、泣かせたりしたら文字通りのモンスターペアレントに〇されるだろう。…両方の意味で。

「さ、入ろうか。」
「………すん。」

鼻水を啜ったのか返事をしたのか解らないが、首を縦に振った辺り返事をしたんだろう。そんなソピアの手を引き、図書館の中に入る。

「………………。」

入った瞬間、あっしは思わず呆気にとられてしまっていた。十数米は下らない天井に届き、壁という壁を隙間無く埋め尽くす本棚。そしてそれにまた隙間無く収められている数十万とある蔵書の数々。多分どれもこれも魔法やこの世界の地理歴史の類が記されているだろうそれらは本の虫であるあっしにとって我を忘れて歓喜してしまいしそうな程興奮を促す物だった。

「…おにいちゃん?」
「ん、ああ。ごめんごめん。」

声を掛けられたので見てみると、ソピアが不安そうな目で見上げてきていた。…おっとっと、今はこの子に神曲(改竄)を読み聞かせてあげないとな。何処か座れる所はっと…。ああ、あったあった。丁度いい所にテーブルと椅子があったのでそこまで歩いて座り、テーブルに本を置く。…子供用の椅子が無いな。無いとソピアが座れな

「よいしょ…。」

なん…だと…。腰の羽を使って宙に浮いたソピアがポスンと音を立てて着地したのはあっしの足の上。いくら子供でも初対面の大人相手に無防備過ぎるでしょ…。いや何もせんけどもね?お兄さんちょっと心配かもよー。

「ねぇねぇおにいちゃん、はやくよんでー。」
「はいはい。」

ソピアが体全体を揺らして催促してくる。そして今気付いた、いつの間にか呼び方が『お兄さん』から『お兄ちゃん』にランクアップ(?)している事に。ま、いいやとにかく読んでやるのが先決だに。

「さて…。今は昔、とある国のとある田舎に二人の夫婦が住んでいました。二人は………………………」












――――――――――――――――












「こうして、ダンテは先生に導かれて三つ目の階層を…ん?」

ふと、腹に掛かる重さが増えた気がしたので下を見てみるとソピアが寄りかかって小さく寝息を立てていた。

「…やれやれ。」

寝てしまったなら仕方ない。もう読む必要のない本を畳んでテーブルに置き、ソピアの白髪を優しく撫でてやる。柔らかい髪を撫でている内に、改めてこの部屋の蔵書に興味が湧いてきた。あっしの居た世界の人間が誰も見た事がないそれらの内容を。逸る気持ちを抑えつつ、ソピアを起こさないように慎重に抱きかかえてやる。

「…………んぅ。」

持ち上げた時に少しだけ身動いだが、起きる気配はない。…さ〜て、どれから読むかな〜♪ソピアの体を片手で持ち、もう片手で手近な本の背表紙をなぞっていく。…ここら辺は魔術関連っぽいな。『magic』とか『spell』といった単語が背表紙に金色の押書で書かれていた。試しにその中の一冊を手に取って開いてみる。…見事に仏語か西語か凡人にゃ全く分からん単語が紙面を覆ってたヨ…。英語ならある程度読めたのに…。がっかりしつつも諦め切れず、もう一度紙面を覗き込んでみる。…無理、か。

「…ハァ。」

溜め息を吐いて本を棚に戻した瞬間、視界の端から白い大きめの綿毛のような物が横切ってきた。…埃か?いや、埃にしちゃデカいな…。何だこれ?

「……………。」

丁度目の前まで来たそれを掴んでみると、ほんのりと温かく思わず頬擦りしたくなるほどふわふわしていた。

「おぉう、ふもっふふもっふ。」

気付けばあっしはその誘惑に耐えきれずそれに頬擦りしていた。ん〜…気持ちいいな〜…それに何だか幸せな気分になってきた…。

「……………ぷはっ!」
「へ…………?」

い、今目の前で起きた事を正直に話すぜ…!綿毛が急に『震え始めた』と思ったら、『綿毛の中から幼女が出てきた』んだ…。何言ってるかわかんねーだろうが、あっしも驚いた…奇術とか手品とかそんなちゃちなモンじゃねぇ…。もっと違うものの片鱗を味わったぜ…。

「…………パパ!」

えぇええぇえええぇええええぇええぇえええぇえええ!?
12/07/03 19:41更新 / 二文字(携帯版一文字)
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