近い近い近い近い
―――――― 前回に引き続き、魔王城 謁見の間
「…つまり教会に対抗すべく科学者を喚ぼうとして、ミスってあっしを喚んだと…。」
「は、はい…。」
さっきまでの話を纏めると、最近教会側が急に戦力を拡大してきたらしい。彼女たちが見たことも無いもの、特徴からして此方の世界で言うショットガンとかの重火器やら無線機やらを使い始めたようだ。お陰で魔物側の被害は一気に増え、魔界もそれなりの規模に収縮せざるを得なくしまった。そこで、教会にスパイを送り込み情報を集めた所、此方の世界から人間を召喚している事が分かった。此方からしたら迷惑極まりない話だが、目的はさっきの通り此方の科学力。それに最も近い人間を魔物側でも召喚しようとした所、このちびっこ魔女が誤って呪文を唱えた為に魔法が暴走。そして今に至る…と言う事らしい。
「…で?」
「「「で?」」」
見事にハモりやがった。
「あっしは帰れるんでしょうね?召喚魔法がありゃ帰還魔法もある筈ですよね?」
「も…勿論なのじゃ。」
「コッチの目ぇ見て話せや。」
先程玉座から引っこ抜いたドライバーをゆらゆら揺らしながら明後日の方向を向いているネリダを睨み付けると、ネリダは小さく肩を跳ねさせた。
「…暴れられるのが嫌だからって嘘は止めて下さい。…もう一度だけ訊きます、帰る手段は?」
「な…ない…のじゃ。」
「…はぁ。」
見た目幼女なら中身も幼女か…。誰だよ、知的なロリババァって言ったの。…しかし帰れないのは痛いな…仕事も心配だけど一番は家の猫達だ。一日二日なら兎も角、この分じゃ数ヶ月以上は帰れないだろう。元々は野良とは言え獲物の捕り方だって知らないだろうしいざとなればヤス健呼べば良いやって此処魔界だから電波通じる訳ねぇし一体どうしたらいいのか誰か教えて…。
…悩んでたって仕方ない。とりあえず携帯の電波が通じるか…開いてみたらはい圏外ー。寧ろ予想通りだよ。
「ん?何それ?」
「うわぉっ!?」
いつの間にか魔王が目の前まで来てた。お陰でおもいっきり変な声で驚いちまったじゃねーかよ。
「ね、ね、何なのそれ?兵器か何か?」
本人はコッチの反応を全く気にせず子供みたいなキラキラした目で携帯を見る魔王。…こいつ本当に魔王か?カリスマのカの字もねーじゃんよ。
「これは携帯電話って言って、遠くの人間と会話したりメールを送ったりする機械です。」
「メール?」
魔王がきょとんとした顔で首を傾げる。…あーそうか、電波すら無いなら知らなくて当然だよな。
「この中に文章を書いて、それを電波に乗せて遠くの相手に送るんです。」
「よく分かんないわね…。でもケータイデンワかー…。…ねぇこれ、私達でも作れる?」
「まず電波が無いので無理ですね。」
「えー…。」
えー…。何をもってしてイケると思った…。あ、でも魔力を応用すれば出来るか?
「…魔力を応用すれば出来るかも。」
「本当!?」
「え、ええ…。」
近い近い近い近い。あっしの眼前2センチ程に紅い目を爛々と光らせた魔王の顔がある。端から見ればキスしてるようにも見えるだろう。
「いい事聞いたわ。マリネ、これロマニエに渡してきて頂戴。」
「あっ!!」
「ふぇ!?は、はい!!」
「返せ!」
目にも止まらぬ速さで魔王があっしの手から携帯を盗り、マリネに投げ渡す。マリネも上手い事キャッチして直ぐ様部屋の出口へと走っていく。
「返せコラアアァ!」
「ひぃええぇ〜〜〜!!」
あっしも追いかけるがあと一歩届かない。畜生、ちびっこの癖に速いじゃねーかよ!
部屋のドアが開け放たれ、マリネが出てすぐに右へと曲がる。続いて廊下に出るがその姿は既に無く。
「ちくしょ〜…。」
「…おにいさん、だれ?」
「ん?」
不意に声を掛けられたので振り返ると、丁度歩いて数歩の所にアルビノだろうか、眩しい白髪に薄い紅色の瞳をした年端もいかない少女が両手で本を抱えて目を丸くしていた。…魔王に似てるな、羽の色からしてリリムか?
「?」
少女はあっしの視線に警戒したのか、本をきゅっと抱え直して小動物よろしく小首を傾げた。なにこれ可愛い。
「きゃー!ソピアー!!」
「うわらばっ!?」
突然真後ろから弾き飛ばされ、大きく体勢を崩してしまった。
「あつつ…。」
「ソピアソピアー♪」
「あぅ…お、おかあさま…。」
体勢を立て直して振り返ってみると、魔王がソピアと呼んでいたさっきの少女を抱き上げてぐりぐりと頬擦りしていた。少女もほんの少し困ったような顔をしながら嬉しそうに目を細めている。
「私の可愛いソピア♪部屋に来たのは何でかな〜?」
「あ…あの…このごほんをよんでほしくて…。」
「ん〜?」
そう言ってソピアの持っていた本の表紙を覗き込んだ瞬間、魔王が固まった。
「おしろのみんなはおしごといそがしい、ってごほんよんでくれなかったので…。」
「あ、あはは〜…。お母さんもお仕事あるんだった♪ごめんね。」
あからさまに焦りながら、魔王はソピアをゆっくり床に下ろした。
「ごめんね〜。」
魔王はソピアの頭を優しく撫でた後にもう一度謝ると、物凄い速さで廊下を飛んでいった。ひでぇなオイ。
「あっ…。」
ソピアは小さく声を上げると、寂しそうに項垂れた。
「えっと…ソピアちゃん…だっけ。」
「…?」
あっしの声に気付き、ソピアがくるりと此方を向く。その目にはうっすらと涙が溜まっていた。…いかん、不覚にもキュンときた。落ち着け、あっしはロリコンじゃねぇ。
「良ければあっしが読んであげようか?」
「…ほんと?」
「本当。」
あっしの言葉を信じてくれたのか、ソピアはとてとてと歩いてきて手に持った本を差し出してきた。その本の表紙に書かれていたタイトルは『Divine Comedy』…あぁ、『神曲』ね。ダンテの。
……渋いな!選択が!!
「…つまり教会に対抗すべく科学者を喚ぼうとして、ミスってあっしを喚んだと…。」
「は、はい…。」
さっきまでの話を纏めると、最近教会側が急に戦力を拡大してきたらしい。彼女たちが見たことも無いもの、特徴からして此方の世界で言うショットガンとかの重火器やら無線機やらを使い始めたようだ。お陰で魔物側の被害は一気に増え、魔界もそれなりの規模に収縮せざるを得なくしまった。そこで、教会にスパイを送り込み情報を集めた所、此方の世界から人間を召喚している事が分かった。此方からしたら迷惑極まりない話だが、目的はさっきの通り此方の科学力。それに最も近い人間を魔物側でも召喚しようとした所、このちびっこ魔女が誤って呪文を唱えた為に魔法が暴走。そして今に至る…と言う事らしい。
「…で?」
「「「で?」」」
見事にハモりやがった。
「あっしは帰れるんでしょうね?召喚魔法がありゃ帰還魔法もある筈ですよね?」
「も…勿論なのじゃ。」
「コッチの目ぇ見て話せや。」
先程玉座から引っこ抜いたドライバーをゆらゆら揺らしながら明後日の方向を向いているネリダを睨み付けると、ネリダは小さく肩を跳ねさせた。
「…暴れられるのが嫌だからって嘘は止めて下さい。…もう一度だけ訊きます、帰る手段は?」
「な…ない…のじゃ。」
「…はぁ。」
見た目幼女なら中身も幼女か…。誰だよ、知的なロリババァって言ったの。…しかし帰れないのは痛いな…仕事も心配だけど一番は家の猫達だ。一日二日なら兎も角、この分じゃ数ヶ月以上は帰れないだろう。元々は野良とは言え獲物の捕り方だって知らないだろうしいざとなればヤス健呼べば良いやって此処魔界だから電波通じる訳ねぇし一体どうしたらいいのか誰か教えて…。
…悩んでたって仕方ない。とりあえず携帯の電波が通じるか…開いてみたらはい圏外ー。寧ろ予想通りだよ。
「ん?何それ?」
「うわぉっ!?」
いつの間にか魔王が目の前まで来てた。お陰でおもいっきり変な声で驚いちまったじゃねーかよ。
「ね、ね、何なのそれ?兵器か何か?」
本人はコッチの反応を全く気にせず子供みたいなキラキラした目で携帯を見る魔王。…こいつ本当に魔王か?カリスマのカの字もねーじゃんよ。
「これは携帯電話って言って、遠くの人間と会話したりメールを送ったりする機械です。」
「メール?」
魔王がきょとんとした顔で首を傾げる。…あーそうか、電波すら無いなら知らなくて当然だよな。
「この中に文章を書いて、それを電波に乗せて遠くの相手に送るんです。」
「よく分かんないわね…。でもケータイデンワかー…。…ねぇこれ、私達でも作れる?」
「まず電波が無いので無理ですね。」
「えー…。」
えー…。何をもってしてイケると思った…。あ、でも魔力を応用すれば出来るか?
「…魔力を応用すれば出来るかも。」
「本当!?」
「え、ええ…。」
近い近い近い近い。あっしの眼前2センチ程に紅い目を爛々と光らせた魔王の顔がある。端から見ればキスしてるようにも見えるだろう。
「いい事聞いたわ。マリネ、これロマニエに渡してきて頂戴。」
「あっ!!」
「ふぇ!?は、はい!!」
「返せ!」
目にも止まらぬ速さで魔王があっしの手から携帯を盗り、マリネに投げ渡す。マリネも上手い事キャッチして直ぐ様部屋の出口へと走っていく。
「返せコラアアァ!」
「ひぃええぇ〜〜〜!!」
あっしも追いかけるがあと一歩届かない。畜生、ちびっこの癖に速いじゃねーかよ!
部屋のドアが開け放たれ、マリネが出てすぐに右へと曲がる。続いて廊下に出るがその姿は既に無く。
「ちくしょ〜…。」
「…おにいさん、だれ?」
「ん?」
不意に声を掛けられたので振り返ると、丁度歩いて数歩の所にアルビノだろうか、眩しい白髪に薄い紅色の瞳をした年端もいかない少女が両手で本を抱えて目を丸くしていた。…魔王に似てるな、羽の色からしてリリムか?
「?」
少女はあっしの視線に警戒したのか、本をきゅっと抱え直して小動物よろしく小首を傾げた。なにこれ可愛い。
「きゃー!ソピアー!!」
「うわらばっ!?」
突然真後ろから弾き飛ばされ、大きく体勢を崩してしまった。
「あつつ…。」
「ソピアソピアー♪」
「あぅ…お、おかあさま…。」
体勢を立て直して振り返ってみると、魔王がソピアと呼んでいたさっきの少女を抱き上げてぐりぐりと頬擦りしていた。少女もほんの少し困ったような顔をしながら嬉しそうに目を細めている。
「私の可愛いソピア♪部屋に来たのは何でかな〜?」
「あ…あの…このごほんをよんでほしくて…。」
「ん〜?」
そう言ってソピアの持っていた本の表紙を覗き込んだ瞬間、魔王が固まった。
「おしろのみんなはおしごといそがしい、ってごほんよんでくれなかったので…。」
「あ、あはは〜…。お母さんもお仕事あるんだった♪ごめんね。」
あからさまに焦りながら、魔王はソピアをゆっくり床に下ろした。
「ごめんね〜。」
魔王はソピアの頭を優しく撫でた後にもう一度謝ると、物凄い速さで廊下を飛んでいった。ひでぇなオイ。
「あっ…。」
ソピアは小さく声を上げると、寂しそうに項垂れた。
「えっと…ソピアちゃん…だっけ。」
「…?」
あっしの声に気付き、ソピアがくるりと此方を向く。その目にはうっすらと涙が溜まっていた。…いかん、不覚にもキュンときた。落ち着け、あっしはロリコンじゃねぇ。
「良ければあっしが読んであげようか?」
「…ほんと?」
「本当。」
あっしの言葉を信じてくれたのか、ソピアはとてとてと歩いてきて手に持った本を差し出してきた。その本の表紙に書かれていたタイトルは『Divine Comedy』…あぁ、『神曲』ね。ダンテの。
……渋いな!選択が!!
12/06/27 04:19更新 / 二文字(携帯版一文字)
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