とある薬師のグリフォンさん観察日記
○月×日 午前
怪我を負ったグリフォンが運び込まれた。彼女を運んできたサキュバス曰く、『遺跡のお宝狙いの冒険者と争った』『冒険者は追い払えたがこの子は無傷で済まなかった、安静をとって二、三日療養してほしい』だそう。後はいくつかの助言を早口で残して、嵐のように去っていった。彼の安否は心配しなくてもよさそうだ、おそらくはすぐに見つかることだろう。……その後どうなるかは私の知るところではない。
○月×日 昼
グリフォンの傷は深くなかった。そもそもだが、ただの人間では魔物娘に傷一つ負わせることさえ出来やしない。勇者と呼ばれる一握りの人間でようやく相手になるか、というほどである。冒険者とやらは手練れではあったようだが、それでも精々いくつかの青痣をこさえる程度でしかなかった。
問題は、グリフォンが私への警戒を解こうとしないことだ。薬を塗ろうとすると、低い唸り声をあげて患部に触れさせてくれない。かと思えばずいと顔を近づけあからさまに私の様子を窺ってくる。うっかり身を乗り出したときには、ぎゃう、と吠えられる有様だった。
当然かもしれない。彼女は人間に襲われた直後なのだから、私のような人間に対して何らかの不信感を持っていてもおかしな話ではない。が、依頼された以上、薬師として出来る限り手をつくすべきなのもまた事実なのだ。
○月×日 午後
このままではらちがあかないので、サキュバスが残した助言に頼るべきだろう。曰く、『グリフォンはお宝を守る性質を持つ魔物娘』だそうだ。つまりグリフォンへの信頼を得る良案は、彼女が守っていたお宝そのものにある。こんなこともあろうかと、サキュバスは二つのお宝を置いていったのだ。……『治療費』と称して置いていったのは、この際深く考えないでおく。
そっぽを向いているグリフォンに声をかけて小箱を、お宝の一つを差し出した。中身を見えるように蓋を開ける。大きな金剛石がはまった指輪、一介の薬師では一生かかっても手に入れられないほどの価値がある宝物を見て、グリフォンは目の色を変えた。何故お前がそれを持っている、と戸惑いの様子を隠せないグリフォンの手のひらの上に乗せてやると、
──これを返してあげるから、傷が治るまでは私の指示に従ってほしい。いいかな？
きょとんとした顔ですんすん頷かれた。どうやら毒気を抜かれたらしい。もっとも私も同じだ。魔物娘は進んで人を傷つけることはしないとはいえ、グリフォンは凶暴だと聞いていたのだが、これではまるで愚直で素直な番犬だ。
○月×日 夜
薬を塗って包帯を巻き、食事を摂ったグリフォンはあてがわれた部屋で過ごしているようだ。とはいえ、万一のことがないとも限らない。サキュバスから受け取ったもう一つのお宝を取り出す。やはり小箱から現れたのは指輪だった。それを手に取り強く念じる。しばらくすると、宝石の内側がぼんやりと靄がかかりだした。やがてそれは一つの光景を形どっていく。
映ったのはグリフォンの姿だった。サキュバス曰く『夫婦指輪、二つの指輪は繋がっていて強く念じることで持ち主の姿を映し出せる……ただし、夫から婦側への一方通行だけどね♡』とのこと。グリフォンが逃げ出さないよう監視するために渡してきたのだろう。
『くるる、きゅう♪』
グリフォンはお宝を愛でていた。彼女にとって守るべき宝物はそのまま愛すべき存在なのだろうか、宝石が傷つかないよう器用にかぎ爪を使って撫でている。今朝からころころ変わる彼女の表情に驚きつつも、これなら明日から問題は起きないだろうことに安堵を抱く。
○月△日 朝
朝食を持って行ったら凄まじい形相で睨まれた。何故だ。
○月△日 午前
包帯を取り換えがてら薬を塗り直す。指示に従ってこそくれるものの徹頭徹尾半目で睨まれ続けた。よく見ると目の下に隈が出来ている。寝心地が悪かったのだろうか。
──昨日はよく眠れなかったのかい？
問いかけても満足な回答は得られなかった。思えばグリフォンからは意味のある言葉を聞けていない。彼女をここに連れてきたのも、要件を述べたのもすべてサキュバスだ。グリフォン自身は拒絶の意思を示すにも鳴き声や唸り声をあげるに留まっている。
喋れない、なんてことはないはずなのだが。
──そうだ、午後は時間があるんだ。近くの商店で寝具を見繕ってもらおうか？ 気にいった肌触りのものがあったら取り換えよう。そうすればぐっすり眠──
顔を真っ赤にしたグリフォンは喚き声をあげつつ、私のお顔をもちもちして引っ張って伸ばして最後に頭を張り倒して去っていった。何故だ。
○月△日 午後
少し早い夕食を持って行ったら枕を投げつけられた。何故。
○月△日 夜
彼女の機嫌を何らかの理由で損ねてしまったまでは理解できた。だが原因が分からない。様子がおかしかったのは今朝からだが、だとすると昨日見せた呆けた表情はなんだったのか。聞いても答えは得られない以上、私は指輪の力に頼らざるを得なかった。
『くるぅ、くるぅ♪』
そのグリフォンは昨夜と同じ愛らしく無防備な様を見せていた。ベッドで横になっているからか、枕やシーツも映像に映りこんでいる。とりあえず寝具が不満ではなさそうだ。
『ふきゅ、くるぅ♪』
ご機嫌なのは変わらずだが、どうも様子がおかしい。顔が赤らんでいる。診察中に見せた怒りで真っ赤に染まった表情でない、例えるなら酒に酔ったような覚束なくだらしない赤ら顔だ。
『きゃう、くきゃぅ♡』
甘え媚びるような頼りない声で鳴いている。端正のとれた顔は滲んだ涙と口端から零れる涎で見る影もない。宝石に映る映像が曇るほどの吐息を何度も吐いている。やがて、かくかくと体を小刻みに痙攣させると、そのまま枕に顔を突っ伏せた。
まずいことになった。打撲痕だけとみていたが、知らず知らずのうちに私の知らない病魔に侵されていたのだろうか。私に垣間見せた不機嫌さは強がりでしかなかったのか。原因は掴めずとも、せめて解熱剤を飲ませなくては。
『──ぎゃうぅっ！！！』
○月▽日 朝
ひどく顔面が痛む。どうして私は彼女の寝室前の廊下で寝ているのだろうか。近くに落ちている枕は一体どういう訳か。何もかもが謎だ。
○月▽日 午前
昨晩何をしていたか思い出せない。辛うじて残された走り書きを推敲して日記の内容を補填したが、肝心のグリフォンは何も話してはくれなかった。
「ごめんくださーい、グリフォンちゃんいますー？」
気の抜けた来訪者の声、かのサキュバスの声が聞こえてきた。
サキュバスは二日前と変わらずの様子だった。冒険者とやらは連れていなかった。
「どうですか？ グリフォンちゃん、よくなりました？」
――よくなったと思うのですが、実は昨日もが
『ぎゃう！』
背後に忍び寄っていたグリフォンにしがみつかれ、口にかぎ爪を入れられて言葉を塞がれた。そこまでして話してほしくないのか。そうか。
「そお？ 薬師さん、ちゃーんと治療してくれた？」
『きゃ、きゅぅ』
「どうかしら、わたしにはちっともそう見えないけれど。薬師さんに聞いてみたいわねぇ」
手を離して、とサキュバスのジェスチャーにグリフォンは渋々従った。湿った目線で私を見つめる。
そんな目で見られても困る。知らないことは知らない、答えようがないのだから。だから私はこれまでの治療の経過について述べるだけに留まった。その結果、
「はぁ」
『ぎゃぅ』
サキュバスからは呆れの、グリフォンからは諦観だろうため息が漏れた。
「ご飯食べさせて、お薬塗って、包帯巻いて。それだけ？ 指輪使った？」
──そりゃ使いましたよ。怪我したままどこかに行かないよう見ていてあげないといけませ
言い切る前に私の体はぐるんと半回転した。真正面にグリフォンの姿を捉えたかと思えばがくがくと残像の如くブレ続ける。彼女に両肩を掴まれて揺さぶられていることに気づいたのは、文字通り口角泡を飛ばされて飛沫が顔にかかり始めてからだった。
「ストップストップグリフォンちゃん。薬師さんイっちゃうわよ」
サキュバスが割り込んだことでようやく凄まじい振動が止まる。ぐらついた視界では満足に立つことも出来ず、自然とグリフォンに寄りかかる体勢になる。グリフォンも私を突き放せないようで、抱き留めることこそしないものの手放せないでいた。
そんな状態の二人を見て、サキュバスはほくそ笑みながら近づいていく。
「ごめんなさいね、こんな真似しちゃって。……実はお二人に言い忘れていたことがあって」
呼気さえ鮮明に聞こえてきそうなところまで顔を近づけて、
「あれ嘘♡ ──あの指輪はね、お互いの姿を映し出せるようになってるの♡」
────は。
『────ぁ』
二人を凍りづけにした。
「だーかーらー、素直になれないグリフォンちゃんは宝石に映った薬師さんをじーっと見つめて一目惚れしちゃって、直接当人には顔も合わせられないクセにえっちなことはガマンできなくて独り遊び始めちゃったことも、ぜ・ん・ぶ、筒抜けな・の♪」
ぱくぱくと陸に上がった魚のように口を開け閉めするしか出来ないグリフォン。
「アハハ、バレちゃったバレちゃった♡ ──ねえグリフォンちゃん、バレちゃったんだから、どうしよっか？ どうする？」
そんな有様のグリフォンに、サキュバスは丁寧に『治療』を施していく。
「グリフォンちゃん、薬師さんから指輪貰ったんだよね？ この世にたった二つっきりの大事な指輪だもの、プロポーズみたいなものだよねぇ？ ──だったら」
そうして治療を施されたグリフォンは魔物娘として快癒した。
「犯してあげなきゃ♡」
目の前の雄を犯すために。
先日知らぬ間に私に見せた、熱に浮かされ切った顔で。
『……くるぅ、犯ス……♡』
その後何があったかは語るまでもない。
ただ、薬師の傍らには甘えたがりのグリフォンがいつまでも寄り添っていたという。
怪我を負ったグリフォンが運び込まれた。彼女を運んできたサキュバス曰く、『遺跡のお宝狙いの冒険者と争った』『冒険者は追い払えたがこの子は無傷で済まなかった、安静をとって二、三日療養してほしい』だそう。後はいくつかの助言を早口で残して、嵐のように去っていった。彼の安否は心配しなくてもよさそうだ、おそらくはすぐに見つかることだろう。……その後どうなるかは私の知るところではない。
○月×日 昼
グリフォンの傷は深くなかった。そもそもだが、ただの人間では魔物娘に傷一つ負わせることさえ出来やしない。勇者と呼ばれる一握りの人間でようやく相手になるか、というほどである。冒険者とやらは手練れではあったようだが、それでも精々いくつかの青痣をこさえる程度でしかなかった。
問題は、グリフォンが私への警戒を解こうとしないことだ。薬を塗ろうとすると、低い唸り声をあげて患部に触れさせてくれない。かと思えばずいと顔を近づけあからさまに私の様子を窺ってくる。うっかり身を乗り出したときには、ぎゃう、と吠えられる有様だった。
当然かもしれない。彼女は人間に襲われた直後なのだから、私のような人間に対して何らかの不信感を持っていてもおかしな話ではない。が、依頼された以上、薬師として出来る限り手をつくすべきなのもまた事実なのだ。
○月×日 午後
このままではらちがあかないので、サキュバスが残した助言に頼るべきだろう。曰く、『グリフォンはお宝を守る性質を持つ魔物娘』だそうだ。つまりグリフォンへの信頼を得る良案は、彼女が守っていたお宝そのものにある。こんなこともあろうかと、サキュバスは二つのお宝を置いていったのだ。……『治療費』と称して置いていったのは、この際深く考えないでおく。
そっぽを向いているグリフォンに声をかけて小箱を、お宝の一つを差し出した。中身を見えるように蓋を開ける。大きな金剛石がはまった指輪、一介の薬師では一生かかっても手に入れられないほどの価値がある宝物を見て、グリフォンは目の色を変えた。何故お前がそれを持っている、と戸惑いの様子を隠せないグリフォンの手のひらの上に乗せてやると、
──これを返してあげるから、傷が治るまでは私の指示に従ってほしい。いいかな？
きょとんとした顔ですんすん頷かれた。どうやら毒気を抜かれたらしい。もっとも私も同じだ。魔物娘は進んで人を傷つけることはしないとはいえ、グリフォンは凶暴だと聞いていたのだが、これではまるで愚直で素直な番犬だ。
○月×日 夜
薬を塗って包帯を巻き、食事を摂ったグリフォンはあてがわれた部屋で過ごしているようだ。とはいえ、万一のことがないとも限らない。サキュバスから受け取ったもう一つのお宝を取り出す。やはり小箱から現れたのは指輪だった。それを手に取り強く念じる。しばらくすると、宝石の内側がぼんやりと靄がかかりだした。やがてそれは一つの光景を形どっていく。
映ったのはグリフォンの姿だった。サキュバス曰く『夫婦指輪、二つの指輪は繋がっていて強く念じることで持ち主の姿を映し出せる……ただし、夫から婦側への一方通行だけどね♡』とのこと。グリフォンが逃げ出さないよう監視するために渡してきたのだろう。
『くるる、きゅう♪』
グリフォンはお宝を愛でていた。彼女にとって守るべき宝物はそのまま愛すべき存在なのだろうか、宝石が傷つかないよう器用にかぎ爪を使って撫でている。今朝からころころ変わる彼女の表情に驚きつつも、これなら明日から問題は起きないだろうことに安堵を抱く。
○月△日 朝
朝食を持って行ったら凄まじい形相で睨まれた。何故だ。
○月△日 午前
包帯を取り換えがてら薬を塗り直す。指示に従ってこそくれるものの徹頭徹尾半目で睨まれ続けた。よく見ると目の下に隈が出来ている。寝心地が悪かったのだろうか。
──昨日はよく眠れなかったのかい？
問いかけても満足な回答は得られなかった。思えばグリフォンからは意味のある言葉を聞けていない。彼女をここに連れてきたのも、要件を述べたのもすべてサキュバスだ。グリフォン自身は拒絶の意思を示すにも鳴き声や唸り声をあげるに留まっている。
喋れない、なんてことはないはずなのだが。
──そうだ、午後は時間があるんだ。近くの商店で寝具を見繕ってもらおうか？ 気にいった肌触りのものがあったら取り換えよう。そうすればぐっすり眠──
顔を真っ赤にしたグリフォンは喚き声をあげつつ、私のお顔をもちもちして引っ張って伸ばして最後に頭を張り倒して去っていった。何故だ。
○月△日 午後
少し早い夕食を持って行ったら枕を投げつけられた。何故。
○月△日 夜
彼女の機嫌を何らかの理由で損ねてしまったまでは理解できた。だが原因が分からない。様子がおかしかったのは今朝からだが、だとすると昨日見せた呆けた表情はなんだったのか。聞いても答えは得られない以上、私は指輪の力に頼らざるを得なかった。
『くるぅ、くるぅ♪』
そのグリフォンは昨夜と同じ愛らしく無防備な様を見せていた。ベッドで横になっているからか、枕やシーツも映像に映りこんでいる。とりあえず寝具が不満ではなさそうだ。
『ふきゅ、くるぅ♪』
ご機嫌なのは変わらずだが、どうも様子がおかしい。顔が赤らんでいる。診察中に見せた怒りで真っ赤に染まった表情でない、例えるなら酒に酔ったような覚束なくだらしない赤ら顔だ。
『きゃう、くきゃぅ♡』
甘え媚びるような頼りない声で鳴いている。端正のとれた顔は滲んだ涙と口端から零れる涎で見る影もない。宝石に映る映像が曇るほどの吐息を何度も吐いている。やがて、かくかくと体を小刻みに痙攣させると、そのまま枕に顔を突っ伏せた。
まずいことになった。打撲痕だけとみていたが、知らず知らずのうちに私の知らない病魔に侵されていたのだろうか。私に垣間見せた不機嫌さは強がりでしかなかったのか。原因は掴めずとも、せめて解熱剤を飲ませなくては。
『──ぎゃうぅっ！！！』
○月▽日 朝
ひどく顔面が痛む。どうして私は彼女の寝室前の廊下で寝ているのだろうか。近くに落ちている枕は一体どういう訳か。何もかもが謎だ。
○月▽日 午前
昨晩何をしていたか思い出せない。辛うじて残された走り書きを推敲して日記の内容を補填したが、肝心のグリフォンは何も話してはくれなかった。
「ごめんくださーい、グリフォンちゃんいますー？」
気の抜けた来訪者の声、かのサキュバスの声が聞こえてきた。
サキュバスは二日前と変わらずの様子だった。冒険者とやらは連れていなかった。
「どうですか？ グリフォンちゃん、よくなりました？」
――よくなったと思うのですが、実は昨日もが
『ぎゃう！』
背後に忍び寄っていたグリフォンにしがみつかれ、口にかぎ爪を入れられて言葉を塞がれた。そこまでして話してほしくないのか。そうか。
「そお？ 薬師さん、ちゃーんと治療してくれた？」
『きゃ、きゅぅ』
「どうかしら、わたしにはちっともそう見えないけれど。薬師さんに聞いてみたいわねぇ」
手を離して、とサキュバスのジェスチャーにグリフォンは渋々従った。湿った目線で私を見つめる。
そんな目で見られても困る。知らないことは知らない、答えようがないのだから。だから私はこれまでの治療の経過について述べるだけに留まった。その結果、
「はぁ」
『ぎゃぅ』
サキュバスからは呆れの、グリフォンからは諦観だろうため息が漏れた。
「ご飯食べさせて、お薬塗って、包帯巻いて。それだけ？ 指輪使った？」
──そりゃ使いましたよ。怪我したままどこかに行かないよう見ていてあげないといけませ
言い切る前に私の体はぐるんと半回転した。真正面にグリフォンの姿を捉えたかと思えばがくがくと残像の如くブレ続ける。彼女に両肩を掴まれて揺さぶられていることに気づいたのは、文字通り口角泡を飛ばされて飛沫が顔にかかり始めてからだった。
「ストップストップグリフォンちゃん。薬師さんイっちゃうわよ」
サキュバスが割り込んだことでようやく凄まじい振動が止まる。ぐらついた視界では満足に立つことも出来ず、自然とグリフォンに寄りかかる体勢になる。グリフォンも私を突き放せないようで、抱き留めることこそしないものの手放せないでいた。
そんな状態の二人を見て、サキュバスはほくそ笑みながら近づいていく。
「ごめんなさいね、こんな真似しちゃって。……実はお二人に言い忘れていたことがあって」
呼気さえ鮮明に聞こえてきそうなところまで顔を近づけて、
「あれ嘘♡ ──あの指輪はね、お互いの姿を映し出せるようになってるの♡」
────は。
『────ぁ』
二人を凍りづけにした。
「だーかーらー、素直になれないグリフォンちゃんは宝石に映った薬師さんをじーっと見つめて一目惚れしちゃって、直接当人には顔も合わせられないクセにえっちなことはガマンできなくて独り遊び始めちゃったことも、ぜ・ん・ぶ、筒抜けな・の♪」
ぱくぱくと陸に上がった魚のように口を開け閉めするしか出来ないグリフォン。
「アハハ、バレちゃったバレちゃった♡ ──ねえグリフォンちゃん、バレちゃったんだから、どうしよっか？ どうする？」
そんな有様のグリフォンに、サキュバスは丁寧に『治療』を施していく。
「グリフォンちゃん、薬師さんから指輪貰ったんだよね？ この世にたった二つっきりの大事な指輪だもの、プロポーズみたいなものだよねぇ？ ──だったら」
そうして治療を施されたグリフォンは魔物娘として快癒した。
「犯してあげなきゃ♡」
目の前の雄を犯すために。
先日知らぬ間に私に見せた、熱に浮かされ切った顔で。
『……くるぅ、犯ス……♡』
その後何があったかは語るまでもない。
ただ、薬師の傍らには甘えたがりのグリフォンがいつまでも寄り添っていたという。
22/10/02 19:17更新 / ナナシ