細雪が降る森
厚い曇り空の下、ふわふわと雪が舞っていた。
細雪は花弁のように揺れ落ちて、純白に覆われた大地に触れて止まる。足を埋めると音を立てて容易く崩れるその様は、心地良さすら覚えるほどだ。
早朝の散歩として、雪に染められた森を訪れるようになったのは何故だろうか。
余計な喧噪もなく静かな世界が好ましいからか。
生を感じさせない、一面の白の世界が残酷なまでに美しいからか。
今となっては知る術もないし、知らなくてもいいのだろう。
少なくともこうしてここに来る理由は、あの時とは変わっているのだから。
くいくい。
袖を引かれる感覚がして、右手の方へと意識を向ける。そこには一人の少女がこちらを見上げていて、何かを待っているようだった。小柄な体躯に似合わない大きな帽子を被り、危うげに首を後ろに傾けている。そしてそのまま、重さに耐え切れずに後ろに重心を傾けて――
「危ないっ!」
倒れる前に抱きかかえる羽目になった。とっさのことで雪に膝を付けてしまい、ひんやりと冷たい感触に思わず顔を顰める。幸いにも彼女は倒れることなく、こちらの腕の中にすっぽり収まった。細い首が倒れ、眉の辺りで切り揃えられた髪がふわりと揺れる。甘いミルクのような香りが鼻孔をくすぐった。
雪に埋まりそうになったにも関わらず、彼女はその表情を変えなかった。しぱしぱと目を瞬かせて、どこか呆けたような目で遠くを見つめている。
「ほら、気をつけないと」
傾いた彼女の身体を起こしつつ、怪我がないか視線を走らせる。
身の丈に合わない帽子――きのこの傘を模しているそれを軽く叩き、うっすら積もった雪を払い落す。帽子から離れた雪はふわふわと辺りに漂い、やがて地面に落ちた。同じようにして腰まで伸びた白い長髪や、サイズの合っていない男物のジャケットからも雪を取り除く。
その間も彼女は眉一つ動かさずに、しかしこちらの動きを止めることもなく、ふらふらと身体を揺らして立っていた。
「あんまり無理して首を振らなくてもいいんだよ」
彼女は分かっているのかいないのか、かくかくと危うげに首を振って肯定の意思を示した。そして何事もなかったようにまたこちらを見つめてくる。
まるで『おあずけ』をされている犬のようだ。
「あぁ、ごめんよ。ほら、ここで待ってるから遊んでおいで」
言葉を受け、こくりと頷くと彼女はとてとて走り出した。両の腕を大きく上下させ、雪に飛び込むかのように走り出して、案の定こけた。
「あちゃー……」
おそるおそる近づくと、彼女は大の字になって倒れていた。自分の身に何が起こったのか把握できていないらしく、倒れたままバタバタと手足を動かしている。そんな状態で助けるようものなら蹴りを入れられかねないので、仕方なしにその場から離れて様子を見守ることにした。
しばらく暴れていた彼女だが、やがてもぞもぞと身を動かして自力で雪から這い上がった。そして再び立ち上がると勢いよく走りだす。
雪に自分が居たしるしをつけるかのように走り転び起き上がる様は微笑ましいのだが、やはり見ていて心配になる。柔らかい雪がクッションになってくれて本当に良かった。
「あの頃から変わってないなぁ……」
脳裏に浮かぶのは初めて出会った時の光景。そう昔のことでもなく、さりとて最近のことでもなく。いつのことだったか曖昧な記憶のはずなのに、不思議とその光景は褪せることなく残っていた。
§
散歩の途中、変わらない雪景色の中に見慣れないものを目にして、ふと気になったのが始まりだった。
「君、こんなところで何してるの――ってそんな格好でどうしたの!?」
細雪が降る中、少女はポツンと独りきりで立っていた。虚ろな瞳には何も映していおらず、こちらに顔を向けることもない。
慌てて大声を出して近寄っても手を握っても、あまつさえ顔を近づけても、少女は何も反応を返さなかった。
「――っ、こんなに手が冷たい……いつからここに居るの!? お父さん、お母さんは!?」
目線を合わせるためにしゃがみこみ、両肩を掴んで問い詰める。少女からすれば、いきなり知らない人にこんなことをされれば怯えなり泣き出すなりしそうなものだが、それでも少女は何も反応を示さなかった。
「ねえ君、大丈夫!? お名前言える? どこから来たの? 誰かと一緒に来たの? はぐれちゃった?」
思わず矢継ぎ早に質問を繰り出してしまうが、やはり少女は答えない。慌てているこちらとは対照的に、ぼんやりと曖昧な表情を崩さずにいる。これではどちらが迷子なのかも分からないだろう。
「……もしもーし、ひょっとしておねむだったりする?」
ここにきて泡を食っていた自分もようやく平静を取り戻し、そんなアホなことを訊ねてみるも、反応は変わり映えしない。どうしていいかも分からず、しかし放っておくこともできない。
「とりあえずここで待ってて、人を呼んでくるから――」
そう言って立ち去ろうとした瞬間、誰かに掴まれた感覚があった。
「……えっ?」
「…………」
振り向くと、彼女はこちらの服の裾を掴んでいるのが見えた。何かを訴えるかのようにじっとこちらを見上げている。
「大丈夫だよ、人を呼んだらすぐ戻ってくるから」
掴む力は緩まない。
「ほら、ね、はぐれちゃったのならさ、大勢で探した方が効率がいいし」
相変らずだ。
「それにここから動いたら君のお父さんお母さんが戻ってきた時に心配するよ?」
返事もない。
「……寒いならこのジャケット貸してあげるから羽織っていいからね、だから手を放してほしいな」
それでも手を放してくれなかったので、仕方なしに空いている手の方から脱いで彼女に被せた。彼女はようやく手を放し、大人しくジャケットを着てくれた――ジャケットを着せるためにしゃがんでいたため、着終わった瞬間にズボンの裾を掴まれたのだが。
「…………。うん、いい子。それじゃあここで待っててね、すぐに戻ってくるからね」
立ち上がろうとしたら両手で足にしがみつかれた。
「…………。戻ってくるからね。だから、待っててね。約束だからね」
頭を撫でてあげるとようやく手を放してくれた。
「……待っててね、ついてきちゃだめだからね」
一抹の不安を感じつつ、走りながらまずはどこに行くべきかと考えを巡らせようとして、
「――ついてきちゃだめだって言ったよね! だめだって! だめだってば――だめって言ってるでしょうがーっ!」
迷いも躊躇いもなくこちらに突っ込んでくる少女を見て、悲鳴に近い叫び声を上げたのであった。
§
「全く、危なっかしいんだから、もう……」
少女の何度目か分からない転倒を見届けてそう愚痴った。
結局、あの後も追いかけてくる少女から半ば逃げるような形になって、案の定途中でこけた彼女を放っておけずに家に連れて帰る羽目になったのである。それでいいのかと自分でも思うのだが、下手に関わってしまった以上放り出す訳にもいくまい。
彼女が妙に勘が鋭く、離れようとすると逃がさないとばかりにしがみついてくるのは流石に予想外だったが。今ではもうすっかり慣れてしまって、彼女がいないと落ち着かないほどである。
……慣れとは恐ろしいものだ。
「〜〜♪」
目の前の少女はそんな悩みとは無縁なようで、両手を広げてくるくるとダンスを踊っていた。ふっくらした帽子が上下に揺れ、ジャケットからはみ出した襞がふわふわと少女の動きに合わせて舞い動く。歌を歌っているつもりなのだろうか、意味のない音が澄んだ世界に響き渡っていた。
でも、まあ。
「〜〜♪」
こうして静かな景色に色が付くのは、決して悪いことなんかじゃなくて。
「〜〜♪」
夢を見ているような心地で、細雪と共にくるくると舞い踊る彼女の姿を見続けるのだった。
§
ぱちぱち。
おとがしてふりむくと、おにいさんがてをたたいていました。
「さ、そろそろ帰ろう――今日も、見つからなかったね」
おにいさんはわたしのてをとると、ぎゅってにぎってくれました。
「大丈夫だよ、明日も、明後日も、見つかるまで一緒に居るからね」
そういったおにいさんはわたしのあたまをなでてくれました。そして、わたしのてをひくと、おにいさんのおうちにかえろうとします。
わたしはおにいさんのてをにぎりかえすと、いっしょにあるきだしました。
おにいさんはとってもやさしいです。
こうしてわたしをひろってくれて、めんどうをみてくれて、ころんだときもたすけてくれて、ずっといっしょにいてくれて。
だから。
だから。
(みんな、もうちょっとまっててね)
こっそり後ろを振り向いて、後ろで私たちを見ている『みんな』にそう伝えます。
(えー)
(ずるいよー)
(わたしたちもおにいさんといたいよー)
すると、木の影から隠れていた私の友達たち――マイコニドたちがぞろぞろと現れてきました。
(だーめ♡ もうちょっとまっててね)
(うー)
(おーぼー)
(ひとりじめはよくないー)
「ん? どうかした?」
おにいさんのこえがきこえて、わたしはあわててふりかえります。
「……? 誰かいたの? 忘れ物?」
わたしはへんじのかわりにふるふるとくびをよこにふります。さいわいなことに、みんなはちゃんとかくれてくれたみたいなので、おにいさんはくびをかしげていました。
「そう? ならいいけど……さ、帰ろ?」
わたしはこくこくとうなずくと、おにいさんにひかれるままあるきだすのでした。
(細雪に紛れて、ちょっとずつおにいさんにわたしを植え付けていくの)
(そうしたらおにいさんはわたしなしじゃいられなくなる)
(みんなも呼んでいっぱいいっぱいかわいがってもらえる)
「〜〜♪」
「楽しかった? 今日はご機嫌だね」
「〜〜♪」
(だからその日まで待っててね、おにいさん♡)
細雪は花弁のように揺れ落ちて、純白に覆われた大地に触れて止まる。足を埋めると音を立てて容易く崩れるその様は、心地良さすら覚えるほどだ。
早朝の散歩として、雪に染められた森を訪れるようになったのは何故だろうか。
余計な喧噪もなく静かな世界が好ましいからか。
生を感じさせない、一面の白の世界が残酷なまでに美しいからか。
今となっては知る術もないし、知らなくてもいいのだろう。
少なくともこうしてここに来る理由は、あの時とは変わっているのだから。
くいくい。
袖を引かれる感覚がして、右手の方へと意識を向ける。そこには一人の少女がこちらを見上げていて、何かを待っているようだった。小柄な体躯に似合わない大きな帽子を被り、危うげに首を後ろに傾けている。そしてそのまま、重さに耐え切れずに後ろに重心を傾けて――
「危ないっ!」
倒れる前に抱きかかえる羽目になった。とっさのことで雪に膝を付けてしまい、ひんやりと冷たい感触に思わず顔を顰める。幸いにも彼女は倒れることなく、こちらの腕の中にすっぽり収まった。細い首が倒れ、眉の辺りで切り揃えられた髪がふわりと揺れる。甘いミルクのような香りが鼻孔をくすぐった。
雪に埋まりそうになったにも関わらず、彼女はその表情を変えなかった。しぱしぱと目を瞬かせて、どこか呆けたような目で遠くを見つめている。
「ほら、気をつけないと」
傾いた彼女の身体を起こしつつ、怪我がないか視線を走らせる。
身の丈に合わない帽子――きのこの傘を模しているそれを軽く叩き、うっすら積もった雪を払い落す。帽子から離れた雪はふわふわと辺りに漂い、やがて地面に落ちた。同じようにして腰まで伸びた白い長髪や、サイズの合っていない男物のジャケットからも雪を取り除く。
その間も彼女は眉一つ動かさずに、しかしこちらの動きを止めることもなく、ふらふらと身体を揺らして立っていた。
「あんまり無理して首を振らなくてもいいんだよ」
彼女は分かっているのかいないのか、かくかくと危うげに首を振って肯定の意思を示した。そして何事もなかったようにまたこちらを見つめてくる。
まるで『おあずけ』をされている犬のようだ。
「あぁ、ごめんよ。ほら、ここで待ってるから遊んでおいで」
言葉を受け、こくりと頷くと彼女はとてとて走り出した。両の腕を大きく上下させ、雪に飛び込むかのように走り出して、案の定こけた。
「あちゃー……」
おそるおそる近づくと、彼女は大の字になって倒れていた。自分の身に何が起こったのか把握できていないらしく、倒れたままバタバタと手足を動かしている。そんな状態で助けるようものなら蹴りを入れられかねないので、仕方なしにその場から離れて様子を見守ることにした。
しばらく暴れていた彼女だが、やがてもぞもぞと身を動かして自力で雪から這い上がった。そして再び立ち上がると勢いよく走りだす。
雪に自分が居たしるしをつけるかのように走り転び起き上がる様は微笑ましいのだが、やはり見ていて心配になる。柔らかい雪がクッションになってくれて本当に良かった。
「あの頃から変わってないなぁ……」
脳裏に浮かぶのは初めて出会った時の光景。そう昔のことでもなく、さりとて最近のことでもなく。いつのことだったか曖昧な記憶のはずなのに、不思議とその光景は褪せることなく残っていた。
§
散歩の途中、変わらない雪景色の中に見慣れないものを目にして、ふと気になったのが始まりだった。
「君、こんなところで何してるの――ってそんな格好でどうしたの!?」
細雪が降る中、少女はポツンと独りきりで立っていた。虚ろな瞳には何も映していおらず、こちらに顔を向けることもない。
慌てて大声を出して近寄っても手を握っても、あまつさえ顔を近づけても、少女は何も反応を返さなかった。
「――っ、こんなに手が冷たい……いつからここに居るの!? お父さん、お母さんは!?」
目線を合わせるためにしゃがみこみ、両肩を掴んで問い詰める。少女からすれば、いきなり知らない人にこんなことをされれば怯えなり泣き出すなりしそうなものだが、それでも少女は何も反応を示さなかった。
「ねえ君、大丈夫!? お名前言える? どこから来たの? 誰かと一緒に来たの? はぐれちゃった?」
思わず矢継ぎ早に質問を繰り出してしまうが、やはり少女は答えない。慌てているこちらとは対照的に、ぼんやりと曖昧な表情を崩さずにいる。これではどちらが迷子なのかも分からないだろう。
「……もしもーし、ひょっとしておねむだったりする?」
ここにきて泡を食っていた自分もようやく平静を取り戻し、そんなアホなことを訊ねてみるも、反応は変わり映えしない。どうしていいかも分からず、しかし放っておくこともできない。
「とりあえずここで待ってて、人を呼んでくるから――」
そう言って立ち去ろうとした瞬間、誰かに掴まれた感覚があった。
「……えっ?」
「…………」
振り向くと、彼女はこちらの服の裾を掴んでいるのが見えた。何かを訴えるかのようにじっとこちらを見上げている。
「大丈夫だよ、人を呼んだらすぐ戻ってくるから」
掴む力は緩まない。
「ほら、ね、はぐれちゃったのならさ、大勢で探した方が効率がいいし」
相変らずだ。
「それにここから動いたら君のお父さんお母さんが戻ってきた時に心配するよ?」
返事もない。
「……寒いならこのジャケット貸してあげるから羽織っていいからね、だから手を放してほしいな」
それでも手を放してくれなかったので、仕方なしに空いている手の方から脱いで彼女に被せた。彼女はようやく手を放し、大人しくジャケットを着てくれた――ジャケットを着せるためにしゃがんでいたため、着終わった瞬間にズボンの裾を掴まれたのだが。
「…………。うん、いい子。それじゃあここで待っててね、すぐに戻ってくるからね」
立ち上がろうとしたら両手で足にしがみつかれた。
「…………。戻ってくるからね。だから、待っててね。約束だからね」
頭を撫でてあげるとようやく手を放してくれた。
「……待っててね、ついてきちゃだめだからね」
一抹の不安を感じつつ、走りながらまずはどこに行くべきかと考えを巡らせようとして、
「――ついてきちゃだめだって言ったよね! だめだって! だめだってば――だめって言ってるでしょうがーっ!」
迷いも躊躇いもなくこちらに突っ込んでくる少女を見て、悲鳴に近い叫び声を上げたのであった。
§
「全く、危なっかしいんだから、もう……」
少女の何度目か分からない転倒を見届けてそう愚痴った。
結局、あの後も追いかけてくる少女から半ば逃げるような形になって、案の定途中でこけた彼女を放っておけずに家に連れて帰る羽目になったのである。それでいいのかと自分でも思うのだが、下手に関わってしまった以上放り出す訳にもいくまい。
彼女が妙に勘が鋭く、離れようとすると逃がさないとばかりにしがみついてくるのは流石に予想外だったが。今ではもうすっかり慣れてしまって、彼女がいないと落ち着かないほどである。
……慣れとは恐ろしいものだ。
「〜〜♪」
目の前の少女はそんな悩みとは無縁なようで、両手を広げてくるくるとダンスを踊っていた。ふっくらした帽子が上下に揺れ、ジャケットからはみ出した襞がふわふわと少女の動きに合わせて舞い動く。歌を歌っているつもりなのだろうか、意味のない音が澄んだ世界に響き渡っていた。
でも、まあ。
「〜〜♪」
こうして静かな景色に色が付くのは、決して悪いことなんかじゃなくて。
「〜〜♪」
夢を見ているような心地で、細雪と共にくるくると舞い踊る彼女の姿を見続けるのだった。
§
ぱちぱち。
おとがしてふりむくと、おにいさんがてをたたいていました。
「さ、そろそろ帰ろう――今日も、見つからなかったね」
おにいさんはわたしのてをとると、ぎゅってにぎってくれました。
「大丈夫だよ、明日も、明後日も、見つかるまで一緒に居るからね」
そういったおにいさんはわたしのあたまをなでてくれました。そして、わたしのてをひくと、おにいさんのおうちにかえろうとします。
わたしはおにいさんのてをにぎりかえすと、いっしょにあるきだしました。
おにいさんはとってもやさしいです。
こうしてわたしをひろってくれて、めんどうをみてくれて、ころんだときもたすけてくれて、ずっといっしょにいてくれて。
だから。
だから。
(みんな、もうちょっとまっててね)
こっそり後ろを振り向いて、後ろで私たちを見ている『みんな』にそう伝えます。
(えー)
(ずるいよー)
(わたしたちもおにいさんといたいよー)
すると、木の影から隠れていた私の友達たち――マイコニドたちがぞろぞろと現れてきました。
(だーめ♡ もうちょっとまっててね)
(うー)
(おーぼー)
(ひとりじめはよくないー)
「ん? どうかした?」
おにいさんのこえがきこえて、わたしはあわててふりかえります。
「……? 誰かいたの? 忘れ物?」
わたしはへんじのかわりにふるふるとくびをよこにふります。さいわいなことに、みんなはちゃんとかくれてくれたみたいなので、おにいさんはくびをかしげていました。
「そう? ならいいけど……さ、帰ろ?」
わたしはこくこくとうなずくと、おにいさんにひかれるままあるきだすのでした。
(細雪に紛れて、ちょっとずつおにいさんにわたしを植え付けていくの)
(そうしたらおにいさんはわたしなしじゃいられなくなる)
(みんなも呼んでいっぱいいっぱいかわいがってもらえる)
「〜〜♪」
「楽しかった? 今日はご機嫌だね」
「〜〜♪」
(だからその日まで待っててね、おにいさん♡)
19/01/31 20:13更新 / ナナシ