読切小説
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わたしだけのツルギ
 私は、布団の中で彼の温もりに包まれていた。お互いに衣服は身に着けていない。湯上りで火照った身体には、軽く被さっている布団の重みすら鬱陶しいくらいだ。まだほんのり湯気が立っている身体から、柑橘系を思わせる淡い香りが漂う。

「サヤ。それは新しい香油か」

 彼――ミツルギという名の私の夫だ――はそう言いながら、私の髪の毛を撫で梳いた。髪飾りを解いて肩にかかる程度の長さになった髪の毛が、彼の手の中でほぐされていく。余った指で頬を撫でられるのも心地良い。髪が踊る度、彼の匂いと私の香りが入り混じって辺りを染めていく。

「もう少し伸ばしても似合うのではないか?」

 問いかけに首を横に振って答える。伸ばすのも悪くないのだが、あまり長いと邪魔になる。ミツルギと暮らすようになって多少改めるようになったものの、元来こういった身だしなみには疎い性分なのだ。

――何より、剣を研ぐには邪魔になるだろう。

「っと、気が早いな」

 掛け布団の中に潜り込んた私に向かって、ミツルギは窘めるように声を掛ける。しかし、私は彼が伸ばした手をすり抜けると、彼の下腹部へ顔を近づけた。布団の中で籠った熱気と精臭が私の鼻をつく。

 すでにミツルギの剣は、彼の臍部に密着するほど雄々しく反り返っていた。先端を覆う皮は剥けていて、膨れ上がった亀頭が露出している。赤黒く光る亀頭とくすんだ竿は、収まるべき鞘を待ち望むかのように小刻みに脈動を続けていた。

 私はゆっくりと竿の根本へ舌を伸ばした。肥大した睾丸を軽く咥えると、弛んだ皮を唇で甘噛みして刺激する。ミツルギも湯舟に浸かったはずなのだが、たちまち私の口内は雄の精臭で満たされてしまう。咥えたまま鼻で息をすると、頭の奥まで精が染み込んでいくような錯覚を覚えた。

 僅かに霞がかった思考のまま、中の玉を舐め、時には甘噛みして刺激を加える。精を蓄えている袋を啜るだけでも、自分の中の欲望が満たされていく気がする。だが、すでに快楽に慣れ堕ちきった身体はそうはいかず、口内から涎が溢れだしてきた。

「相変わらずだな」

 下品な音を立てて涎を啜ったことを咎めるミツルギの声が聞こえてくる。しかし言葉の内容とは裏腹に、その口調は砕けた優しいものだった。暑くないか、と私の頭に被さっている布団を外して肩にかけると、布団に潜ったせいで乱れた髪を梳いてくれる。角の根本から離れるように髪を梳かしていき、

「っと、悪い」

 私の一つ目に触れようとしたところで、彼は弾かれたように手を引っ込めた。
 私は睾丸を咥えたままミツルギの方を見やる。真っ直ぐに梳かれた髪が揺れなびき私の視界を僅かに塞いだ。

「研いでくれてるんだ、邪魔しちゃいけないな」

 二度、首を横に振って答える。ミツルギの行動は私の邪魔にはなっていないからだ。それに、こうして髪を撫で梳かれるのも決して悪くない。もっとも、ミツルギがそれを把握しているかは知らないのだが。私からあえて話すことでもないだろう。

 ミツルギの顔から視線を外し、改めて睾丸を舌で愛撫する。刺激を与えれば与えるほどに睾丸は熱く重くなっていった。心なしか、鼻孔をさす精臭が強くなった気さえする。

――ここまですれば、もう十分だろうか。

「サヤ、そろそろ……」

 少し懇願が入ったミツルギの声を聞いて睾丸への愛撫を止める。首を動かして視線を上げると、真っ直ぐにそそり立った竿が鼻をついた。肉棒の向こう側にはミツルギが顔を赤らめているのが見える。私の口奉仕で快楽を得ていたのだろうか、口の端がだらしなく開いていた。

 両腕の力を使い上半身を持ち上げる。肩の布団がずり落ちて背中の半ばで止まった。外気に晒されているにも関わらず、私の身体から熱が引くことはない。むしろ身体の内側から快楽の炎が生まれ、この身を焼き焦がしていくような熱ささえ覚えていた。

 内なる衝動に逆らうことなく口を大きく開ける。口腔に溜まっていた唾液が泡となって弾け溢れ出した。そのままゆっくりと身体を傾けて――

「――あ、ぐっ」

 勢いのまま彼の肉棒を呑み込んだ。躊躇いなく中程までを収めたところで動きを止め、口を窄めた状態で引き上げる。亀頭のえらが唇に触れたところで再び動きを止めると、ミツルギに向けて顔を上げた。

 ミツルギは身体を仰け反らせ、言葉にならない苦悶の声を上げていた。私がこうやって剣を研ぐようになってそれなりに時間は経っているのだが、ミツルギはいまだに慣れていないらしく、いつもこの反応を返してくれる。いつの間にか彼のそんな様子を観察することが、私の密かな楽しみになっていた。

 視線を向けたままゆっくりと口を下ろす。完全に密閉状態を作り出すことができず、口内から唾液が垂れてしまう。零さぬよう口内で啜ると下品な音が漏れ出した。鼻の下が伸びていく感覚。今自分がどんな表情をしているのかは、ミツルギだけが知っているのだろう――彼が押し寄せる快楽に耐え、私を見続けることができたのであればの話だが。

 再び顔を持ち上げて口腔内に亀頭だけを残す。二度の抽挿で慣れたのか、ミツルギがこちらを見ようとしたところで、舌で亀頭をかき回した。
 敏感な鈴口やえらに加わった刺激に耐え切れなかったようで、ミツルギはくの字に身体を曲げるとこちらの頭を両手で掴んで引き剥がそうとする。

「〜〜〜〜っ!」

 だが、唾液と先走り汁で満たされた口腔から肉棒を抜き出すことは容易ではなかったようだ。引き剥がされまいと唇を固く閉じた状態で頭を掴んだことで、彼の剣に吸い込まんばかりの圧迫がかかる。ミツルギは声にならない声で抵抗していたが、その行為が無駄だと知るとその場にへたり込んでしまった。伏せた顔からは荒い息を断続的に吐いている。

 邪魔が入らなくなったことを確認してから、私は顔を動かして抽挿を始めた。口腔を行き来する肉棒の熱さに眩暈を覚えながら、半ば無我夢中になって顔を動かす。唇に入れる力の強弱を変えたり、咥え込む向きを変えて頬肉で亀頭を刺激したり。言葉もなく行われるそれらの行為は、不規則な快感となってミツルギを襲った。彼はその度に苦悶の声を上げたり、体を仰け反らせたり、あるいは蹲って身体を震わせていた。
 鈴口から塩気のある先走り汁が滲むも、すぐに大量の唾液の中に呑み込まれていく。肉棒に粘性のある液体が絡みつき、私の唇や顔に糸が生まれては切れる。肌色の剣は薄黒い光沢に塗れて淫靡な輝きを放ち始めた。

 そんな行為を続けること十数分。ミツルギの口の端から涎が垂れ始め、口腔に含んだ肉棒の痙攣が激しくなった。幾度となく迎えてきた現象である。たまりに溜まった精が解き放たれる感覚だ。

 最後の瞬間に向けて、私は動きをこれまでとは異なるものに変えた。彼の剣の根本までを喉奥で呑み込み迎え入れる。肉棒が喉奥にぶつかる度に息が詰まり、視界が白くぼやけていく。自身が何をしているのか、それすらも曖昧になった状態にも関わらず私は動きを止めなかった。何かに憑りつかれたかのように、あるいは狂ったかのように、彼が精を吐き出すその瞬間まで容赦のない抽挿を続けた。

 そして、その時は訪れた。

 ミツルギの咆哮。獣が吠えるような声と共に、頭を掴まれて喉の最奥まで剣を捻じ込まれる。気管を塞いだ肉棒が脈動し、溜め込んでいた精液を吐き出し始めた。振動に合わせて私の視界が歪み、精が流れ込んでいく。生臭さと粘着きを持った液体が容赦なく私の身体を内側から満たしていった。私という雌が彼の雄の色で染め上げられていく。触れたところが熱く焼けただれていくような錯覚を覚えるほど、その瞬間は甘美なものだった。

 力を使い果たしたのか、はたまた射精の快感に浸っているのか、ミツルギは私の頭を掴んだまま動かなかった。私もまた、口内に溢れてきそうなほどの精を受け止めようと絶え間なく喉を鳴らしていた。呼気すらも精液になってしまうほどの濃密な精を、喉で、胃で、口内でじっくり味わう幸福があった。

 ゆうに一分は経過しただろうか。ミツルギはようやく射精を終えると、我に返ったかのようにそそくさと肉棒を抜き出した。精を受け止めて恍惚状態にあった私に留める力があるはずもなく、彼のされるがままになっていた。

「その……大丈夫か?」

 遠くからミツルギの声が聞こえてくる。おそらく、力なく開かれた顎から舌を垂らし、視線が定まっていない私を心配しているのだろう。

 だが、その心配は無用だ。何故なら――

「やはり、いくら何でもお前の身が持たな――わっ!?」

 ミツルギの未だ萎えない肉棒を前にして、私は更なる欲望を抱いていたからだ。

 不意を突いてミツルギを突き飛ばし、彼の上に覆いかぶさる。あれだけの精を吐き出してもまだ足りないかのごとく天を衝く肉棒へと腰を下ろすと、すでに愛液まみれの膣穴へと擦りつけた。口腔奉仕のときと同じく、液と空気が交じり合う音が辺りに響き渡る。その音を聞いて、肉棒もますます硬度を増していくようだった。

 怯えと呆れが入り混じったミツルギを見据え、私は思わず舌なめずりをしていた。あれほどの大きさの肉棒が私の膣内に収まるのか、あれだけの量を膣内に吐き出されたらどうなってしまうのか、今の私はそんな歪んだ欲望で支配されていた。

――大事な、大事な、私だけのツルギ。

「あなたのサヤは、私だけですからね……♡」

 欲望の夜はまだ始まったばかりである。
19/01/06 18:26更新 / ナナシ

■作者メッセージ
Q.本文中でサイクロプスさんの要素が薄くないですか?
A.剣と鞘の関係ですから(意味不明)

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