ゴーレムちゃんに(えっちになる)刻印を刻むお話
ワタシの身体はマスターのモノ。
土くれの体に意思を刻まれたゴーレムであるワタシは、刻印を通して刻まれた命令に従い、主であるマスターのために働くモノ。朽ちた遺跡で埋もれていたワタシに意味を与えてくれたマスターのために、命じられるまま、動くだけのモノ。
けれど、たった今下された命令は、瓦礫の撤去でも、古代文字の解読の補佐でもなく。
「魔の刻印……デスカ」
見つけたばかりの古ぼけた羊皮紙の埃を払いながら、マスターは言葉を続ける。曰く、このハート──心臓を模した形のことだそうだ──の形に描かれた紋様は、与えられる魔力を、そして蓄える魔力を増やす効果があるらしい。
「ソレをワタシに、刻ムのですカ」
効率を良くするためだ、とマスターは語った。その通りだ。五体に異常がないとはいえ、ワタシはマスターの手で発掘されたばかりでボディの調子が良くない。これまでにも魔力切れを起こし、その度に魔力を補給していたが、マスターにとってそれは手間の印象の方が強かったらしい。
「かしこマりまシタ──デは」
マスターに左腕を差し出す。ワタシの腕を覆うパーツの中で、一際大きい部分──これまで幾度となくマスターの手で文字を刻まれた石板を。
造られた存在であるワタシには、どんな仕組みで動いているかは理解できない。そこに刻まれた言葉に従い動くだけ。そして、命令を刻むための文字を描くには『インク』が必要だ。
「……ん、れろ、ぉっ……」
口内を開放し、舌を垂らす。マスターは躊躇うことなく、指先を舌に付けた。指が舌べろを撫でるように動く。足りない分は頬肉を掻いて生まれた液を擦り込む。ようやく指先にインクを染み込ませ終わると、艶やかに濡れそぼった指で石板をなぞる。
「……ぁ」
ちり、と頭の奥が疼き、視界が白くぼやける。命令を刻まれる瞬間はいつもこうだ。動作に支障はないが、まるで機能が停止するような感覚は、何度受けても慣れることはない。
ちら、とマスターへ視線を向ける。マスターはワタシの異常に気づくことなく、命令を刻んでいる。
……いつの間にか、マスターの顔を視界の真正面に捉える機会が増えたような、気がする。
「くヒっ」
マスターが紋様を描き終えると同時に、全身に刺激が走る。問題はない。刻まれた命令を、ワタシが認識しただけだ。
何も、問題はない──もうすぐ、魔力の残量が危険域に達することを除けばだが──はず、だ。
「はい、ですがマスター……ソの、また、作業ニ必要な、魔力が不足してイるようデス」
またか、とマスターが漏らした呟きに重ねて頷く。あらぬ方向を向きながら、横目でじっと私を見つめるマスターの瞳には、微かにワタシの瞳が映っていた。
無機質さを醸し出す、光射さない単一の紅の瞳。
「…………?」
ちら、と。
瞳の奥に、見えるはずのない色が、昏い紫の色が、見えたような気がした。
ちり、と。
ワタシの左肩が熱で疼く。視界の端で、刻まれた紋様が鈍く光ったような気がした。
「──ハイ、分かりましタ。『魔力補給』ヲ開始します」
ワタシが気をとられている間に、マスターは乱雑に指示を刻み終えていた。下された命令を復唱し、適当な瓦礫の上に座り込んだマスターの前に跪く。
埃とほつれが目立つズボンを脱がすと、籠った湿気と臭いが漂ってきた。雄の匂い。すでに半勃ち状態になった男性器はひくひくと、外気の刺激を受けて小刻みに揺れていた。
「でハ」
おずおずと左手を伸ばし、男性器の幹を掌で包み込む。すでに皮は剥けていて、血の通った赤黒い先端が存在を主張している。汗で蒸れてはいるが、潤滑油の変わりとなるほどではない。手早く済ませるよう命を受けたが、このまま擦っては魔力の補給に差支えが出るだろう。
「──れぇ、ろっ……」
てろ、と口内から『潤滑油』の代わりの液体を垂らし、馴染ませる。静寂の中、粘性のある液体の音だけが響き渡る。指が動く度、男性器の幹に、ワタシの指に、粘ついた糸が繋がっては切れていく。マスターの肌の色が、ワタシの指の色が、てらてらと黒ずんでいく。
「マスターの男性器ノ肥大を確認しマした、これヨり刺激を強化しまス」
指だけでなく、掌も男性器を沿うように上下に動かし始める。先端に指先が触れ這いまわる度、男性器に熱が籠っていく。やがて、内側から生まれる熱に耐えきれなくなった先端は、その開口部からぷくぷくと液体を滲ませた。
「先端かラ魔力を検知──魔力補給の準備ヲ開始しマス」
不足した潤滑油を追加し、さらに指と掌の動きを激しくする。上下の律動で泡立てられた液体が指の間から垂れ落ちる。びくん、びくんと男性器から断続的な振動が伝わってくる。幹の一本筋から、熱を持った塊がせり上がってくる。
「魔力を確認、こレよリ、補給を──ッ!?」
不意に、マスターの呻き声と共に魔力が放出された。保護のために身に付けたボディパーツすらも役に立たないほどの、熱く焼け付くような塊。体表に絡みつくほどの粘性を持ったそれを、ワタシはまともに浴びてしまった。
「ア──あ、アァ……ぁ♡」
意味を成さない言葉が漏れる。
顔に体に飛沫した白濁が、文字を刻むようにゆっくりと滑り落ちていく。じりじりと、白い軌跡が焼け爛れていくような感覚が、ワタシを襲う。しかしそれは決して危険なものでも、まして不快なものでもなく。
「…………コ、コれより補給を開始しマス」
内から湧き出る何かを押しとどめ、指に付着した白濁と共に体内へ流し込む。白濁が舌に触れる度、喉を這う度に、魔力が蓄積されていくのを感じる。指先に付着したマスターの体液は、あっという間になくなってしまった。
「……ん、くちゅ、ん……マだ、魔力が残っテいまス」
魔力を放出した余韻に浸っている男性器を見やる。開口部からぷくぷくと滲む残り汁の雫にそっと指を添え、口内に運ぶ。ワタシのインクと混ざり、幹に絡みついた塊を掌でこそげ落とす。どろりとこびりついたそれを両の手に乗せて流し込むと、確かに充足感を覚える。
幾度か繰り返したその行為、魔力補給の後始末には、さほど時間はかからなかった。
「マスター。魔力補給ノ工程、完了しましタ──エ?」
はずなのに、どうしたことだろう。
ワタシは、自分の体に付着した飛沫の処理を忘れてしまっていたのだ。……いや、違う。意図的に付着したままにしていたのだ。
マスターの命令に背いてまで。
「──はイ、全て取り込ミます」
ちり、と。
ほんのわずかにノイズが走り、そして止む。
ワタシはマスターの命のまま、体表の後始末を始めた。顔に、ボディに、ボディを覆うパーツやその隙間に。這わす指に、熱の残滓を感じながら。
しかし、それでも。
「マスター、先ほド刻んだ刻印ノ効果でしょウか──まダ、魔力を供給すル余裕がありマす」
体液と共に飲み下したの何かがワタシの体の奥で渦巻き、提案を口にしていた。
見上げるマスターの顔色に変化はない。魔力補給をする時はいつも同じ、眉を寄せ、口の端をわずかに歪めた表情。
ちりちりと、再び左肩が疼く。
先の余韻かとワタシは気にも留めず、様子を見る限りマスターも気づいていないようだ。
──ワタシに刻まれた紋様が、淡く仄かに、紫の輝きを宿していたことを。
§
「ソレでハ、ワタシから動かせてイタだキます」
地面に膝をつけ、横になったマスターの上に跨る。魔力補給をした後のマスターは動くことさえ億劫な様子だ。投げやりに命令を刻み、後は勝手にやってくれとばかりに四肢を投げ出している。
魔力補給の方法は色々試してきた。先のように手を使ったり、ボディパーツで擦り上げたり、下腹部をなぞらせたり。ワタシの体内で直接マスターを受け入れた経験もある。
しかし、それらの行為はワタシへの魔力補給でしかない。マスターにとってはどれも同じ、手間のかかる行為でしかないのだろう。
ぎし、と胸が軋んだような気がした。
「──硬度、問題なし。これより、男性器を挿入します」
腰を浮かせ、マスターの男性器とワタシの搾精器を触れ合わせる。屹立したそれは、まるでワタシから離れるようにぬるりと滑り肌をくすぐった。
マスターの腹部に置いた手を陰茎に合わせ、揺れないようしっかり固定する。
──くぷ、ぬぷぷっ♡
「う──ぁああぁっ、ぜ……ぜんブ、挿入り、まし、タッ……」
熱が下腹部を犯していく。ワタシの口から、ワタシの声ではない声が漏れる。上ずったのは言葉尻だけではない。脊髄に走る刺激の電流が、ワタシの体をのけ反らせて自由を奪った。
(あ、ア……♡ 何か、ヘン、デす……♡)
ワタシが感じた思考のノイズとは裏腹に、素体は正常に稼働する。ワタシの所有者であるマスターの男性器が挿入されたことで、否応なしに搾精の準備を整え始めた。
「ア、アァ──これ、ヨりっ、ほきゅ、うを開始、しま、ア……♡」
刻まれた命令の復唱すら行えない。そんな異常を検知しながらも、体は魔力を求めて規則的に動き出す。ぬちっ、ぬちっ、と性器同士が潤滑油で擦れる音が聞こえてくる。
(聴覚に異常、アリ……この音、聞いていルと……オカシク、なる……♡)
もっとこの音を聴いていたい。もっとマスターを感じていたい。もっとマスターを犯したい。もっと激しく、もっと、もっともっと──。
ワタシが感じたノイズは、マスターの命令に逆らう行為。マスターの安全を最優先とする思考とは到底相容れないはずだ。それを受け入れては、認めてはならない。
(けレど、少しだけ負荷をかけるクライ、ナら──)
腰の動きを速める。同時に、男性器に沿うように上下する動きを、腰を揺らして壁面を抉るグラインドな動きへと変える。
与えられた命令外の動きをしたことに、マスターは苦悶の声で答える。先端が擦れる度に断続的に漏れる声は、マスターが快楽を感じている確かな証拠だった。
「マス、ター……男性器の肥大ト振動を確認しました──また、魔力ヲ与えテくださるのデスね?」
あぁ、早く済ませてしまわないと。もっと、もっと、激しく犯して、魔力を頂いてしまわないと──♡
刻まれた命令と、生まれ留まることを知らないノイズ。今のワタシでは、相反する二つの思考から結論を導きだせなかった。ワタシはどうしてしまったのだろう。おかしくなってしまったのだろうか。
ここに来てワタシの変貌にようやく気付いたのか、マスターの手がワタシの腕を掴む。喘ぎ声に混じって、やめろ、止まれ、と声が聞こえる。命令が聞けないのか、と肩の石板に指が触れる。
「マス、タ、ぁ……魔力を検知しましタ……これヨリ、補給を致しまス……♡」
──どぴゅぅっ!
マスターが命令を書き込むよりも早く、ワタシは二度目の魔力補給を受けた。搾精器がマスターの精で埋まり、マグマのような熱を持った白濁がワタシを満たしていく。
吐精の衝動を受け、マスターの刻印を刻む手が止まる。いや、止まるだけではない。絶頂の衝動に耐えるために、思い切り掴んだのだ。
「ぁ──ひぐぅっ!?」
全身に電流を流されたような衝撃が走る。搾精器で感じているものとは比較にならない熱が、ワタシに刻まれた刻印から発せられる。はっきりと紫色に輝くそれは、熱と共に、あっという間にワタシを侵食していった。
(……どうしてマスターはそんな顔をしているのだろう?)
何が起きているのか分からない、恐怖を湛えた顔。ワタシはワタシのまま、何も変わっていないはずなのに、どうして怯えているのだろう? どうして、ワタシにそんな命令を下すのだろう?
「『今すぐ体から離れろ』……なんて、そんな命令、聞く訳にはいきません、マスター」
未だに刻印を刻もうとしているマスターの手を取り、ワタシの指と絡ませる。そう、これでいい。マスターから離れる命令なんて、聞かなくていい。
「大丈夫です、マスター♡ ワタシはワタシのまま、何も変わっていませんから♡」
マスターを安心させるために笑みを見せる。初めて使う表情筋では、ぎこちない笑みしか作れなかった。今はまだそれでも構わない。溜まった魔力が身体に馴染めば、すぐにマスターの望むワタシになれるだろうから。
「あぁ、マスター。暴れないでください」
結んだ手を振り払おうと、じたばた暴れ出すマスターをたしなめる。どうしてだろう? ひょっとして、ワタシが力づくで抑えつけているせいで、怖がらせてしまっているのだろうか。
「安心してくださいマスター。ほら、こうしてもう片方の手も──」
ワタシと繋げてしまおう。指先を蕩かし、マスターの指に絡ませてから固着させる。これもマスターが注いでくださった熱のおかげだ。ワタシがマスターと繋がっていると安心するように、きっとマスターも落ち着いてくれるはずだ。
「ふふっ、マスター。分かってもらえたようで何よりです♡」
これならゆっくりお話が出来ますね、と抵抗を止めたマスターに優しく語り掛ける。掌を通じてマスターの鼓動が伝わってくる。緊張と恐怖で荒れていた音が、次第に和らいでいく。とくん、とくん、と緩やかな音が心地よい。
「マスターにも聞こえていますか? ワタシの鼓動の音が──マスターがワタシに刻んでくれた、命の音が♡」
身を乗り出して、ワタシの胸をマスターのそれに重ね合わせる。また、鼓動が早くなった。けれど、マスターは嫌そうな顔はしていない。顔を赤く染めて、どうしていいか分からない、困ったような顔。そんな顔を見ていると、守ってあげたくて、愛おしくて、自然と口の端が上がってしまう。
「分かりませんか? ここですよ♡ こ・こ♡」
左肩を差し出し、刻まれた刻印をさらけ出す。妖しい紫の輝きを持った紋様は、ワタシの腕全体や胸元を蝕むように広がっていた。
「マスターに刻まれて、魔力を与えられて、ようやく気付けたんです……何がって? 私がマスターにお仕えしている理由ですよ♡」
マスターがワタシを拾ってくれたから? ううん、それだけじゃありません♡
「愛しているからです♡」
絡みついた指を揺する。揺れた分だけマスターの体がワタシに沈み込んでいく。とぷん、と跳ねて散った泥さえも、マスターを求めて集まってくる。
「こうして腕に収めているだけで、気持ちいい、離れたくないって気持ちがあふれてあふれてどうしようもないんです♡」
マスターの体を起こし、全身にワタシを纏わりつかせる。以前よりも丸みと柔らかさを持った体でマスターを抱きしめた。マスターの体温と鼓動、そして何よりも、ワタシの腕に刻まれた刻印が、マスターの存在を認識させてくれる。
だが、マスターはワタシと視線を合わせようとしてくれない。火照った顔でそっぽを向き、これまでにないくらい心臓を高鳴らせておいて。
「マスターは恥ずかしがりやさんですね♡ そんなところも愛おしいですけれど──もっとワタシに可愛いお顔を見せてほしいです♡」
だからワタシは、マスターの唇を奪った。命を復唱するだけだった器官に生まれたのは二つの役割。一つは、マスターを愛でるため。そしてもう一つは。
「驚きました? ──でも、これがワタシの気持ちです♡ ワタシからだけじゃなく、マスターからワタシを求めてほしいんですっ♡ あの時肩を掴んでくれたみたいに、ワタシを、ワタシだけを求めて離さないでほしいんです♡」
もう一つの役割を果たすべく、何度もついばむような誘うキスを繰り返す。何か反論しようと口を開けたところに合わせ、舌を入れる。マスターの口内もワタシと同じように、どろどろに蕩けていた。舌同士が触れ合う度、絡み合う度に、マスターの目尻が下がっていく。マスターも心地よいと、感じてくれているのだ。
ワタシの身体は心だけでなく、魔力も満たされていくことを実感していた。これまでの魔力補給とは違い、魔力を溜める器が広がっていくような感覚。このままずっとマスターと交わっていたいと思えるような、そんな心地だった。
「でも……マスター♡ こんなにとろとろになってしまっては、マスターからシてもらうなんて出来そうにないですよね?」
だから、ワタシから、マスターを犯しますね? いいですよね? だって、ワタシの膣内で、マスターのおちんちんも、こんなに大きく膨らんでいるんですから♡
「イイですよね? 動いちゃいますね? マスターのおちんちんからせーえき搾って、子宮でごくごくしちゃいますね♡」
騎乗位で搾るためとはいえ、マスターの体から身を離さないといけないのはもどかしい。けれど腰を振るために上半身を起こしたところで、ワタシを見上げるマスターの目を見てしまったら。
(あぁ……マスターが見てる……そんな物欲しげな目をしなくても平気ですからね……♡)
頑張って悦ばせたくなってしまうじゃないですかぁ♡
「はぁ、あぁんっ……♡ マスターのおちんちん、すっかりワタシのおまんこに馴染んじゃってますぅ……♡」
二度目の魔力補給の後も抜かずにそのままにしておいたおかげか、ワタシの性器にぴったり吸着したそれは、軽く抽挿するだけで大きな快楽をもたらした。たっぷり放出された精は、ワタシの肉襞を優しく削り、より強い快楽をもたらすべく内側からその形を変えてしまっていたのだ。
決して逃がすまいと溶け出した、この両の腕のように。
「マスターっ、マスターっ♡ ワタシとのセックス、気持ち良いですかぁっ♡ マスターのおちんちん、ワタシのおまんこから離れたくないって、さらに大きくなってますよぉ♡」
腰のグラインドを激しくしているはずなのに、マスターのおちんちんはワタシから抜け出る気配すらない。むしろ前後に掻き揺らした分だけ、ワタシの中が拡張されているような気さえする。
「……えっ? ワタシの腰……ひうっ? きゅぅぅうぅん♡♡」
くちゅり、と粘液の糸がほつれる音が体内で響く。ワタシの手と繋がったマスターの手が、ワタシの腰に優しく触れていたのだ。腰が砕けてしまいそうな快楽が襲ってくる。
「にゃ、何コレぇぇっ♡ こし、掴まれただけでぇっ!?」
悲鳴のような甲高い声をあげてしまう。さわりさわりと弄られる度、腰が跳ねて不規則な振動をワタシとマスターに与える。
快楽の電流でショートする視界の中で、ワタシは見た。肩に刻まれた紋様が、腰にまで広がっているところを。そして、マスターに紋様を弄られる度に。
「きゅうぅぅぅぅんっ♡♡ ダメぇっ、ましゅ、たぁっ♡ こひ、だめぇぇっ♡」
がくがくと壊れた人形のように勝手に腰が動く。マスターのモノに最適化されつつある身体は、ワタシの思考が壊れてしまったとしても、得られる快楽と魔力には──所有者であるマスターには抗えなかったようだ。
「そんらにしゃれたらぁ♡ ワタシのおまんこっ、マスターのおちんちんをしぼることひかかんがえられなくなっひゃいましゅぅぅっ♡」
もっともそれはマスターも同じことかもしれない。欲望のままワタシに触れて、本能のままワタシを求めて、衝動を解き放つためにワタシを使う。
言葉少なでぶっきらぼうなマスターが一心にワタシを必要としてくれているという事実は、ワタシにとって何物にも代えがたい喜ばしいものでしかなかった。
「げんかい、ですかぁっ? マスターのおちんぽ、ぷくーってふくらんでしゃせーしたいっていってますよぉ♡ いいですよぉ♡ ぜんぶ、ぜぇんぶ、ワタシがうけとめてさしあげますからぁっ♡ いってきものこさずしゃせぇしちゃってくださぁぁいっ♡♡」
マスターが絶頂するの時を全身で受け止めたい、そう思ったワタシは、起こした体をマスターに預けるようにゆっくりと倒した。マスターもワタシの背に腕を回して、全身を包むように抱き留めてくれる。ワタシの意図を察してくれたのか、あるいは本能だろうか?
お互いが絶頂に達するまで、もはや激しい動きは必要なかった。
「マスター、イきますねぇっ♡ マスターのせーえきおまんこでこぼさずうけとめて、ワタシもイきますねぇっ♡♡」
形状を保つことすら億劫になり、所々が泥になって溶け出していく。それをマスターと触れ合える部分が増えたと喜び、嬉しくなって腰をへこへこと揺らす。
そしてついに。
──びゅるるるっ! びゅくっ! びゅ〜〜〜〜っ!!
「あはぁっ♡ イくうぅ♡♡ マスターのせーえきでイかされちゃうぅぅっっ♡♡♡」
マスターの絶頂と共に放出された精液は、ワタシの膣内を容易く埋め尽くしてしまった。ワタシはそれを一滴も零すまいと、体内を泥化させて取り込もうとする。しかし三度目の吐精にも関わらずこれまでよりも濃い液体を受け入れるほど、ワタシの体の魔力貯蔵量は拡張されていなかった。
「アぁっ♡ うあぁぁぁぁxっ♡ カラダが、焼けるっ♡ トけるぅっ♡♡」
その結果は顕著に表れた。マスターは射精の虚脱感の中でぼんやりと視野に捉え、ワタシは触覚を介して実感を覚えた。
「「紋様が、広がっていく……?」」
刻まれた紋様、その内部から紫の光が輝きを放っている。傷跡が広がるかのように、ワタシの腰を囲み、新たな装飾を施した。刻まれた箇所の角ばった岩塊のパーツは崩れ落ち、丸みと柔らかさを帯びた人間の肌に生まれ変わっている。
「……成長、しているのでしょうか」
マスターの精を受け、ワタシの心がノイズを、感情という名の新たな衝動を得たように。ワタシの肉体も、マスターの精を受け入れるように育ったのだろうか。
口に出した疑問にマスターは答えられず、ただワタシの体に刻まれていく紋様を見つめることしかできなかった。ワタシも同様に、自らの身体に刻まれていく紋様が、ワタシ自身を甘く締め続けるその余韻に浸るままだった。
内部で絶えることのない熱量が生まれ、紋様が熱量を快楽への渇望に変換されていく、満たされつつも切なくもどかしい情動。
(コレをマスターに刻んでみたら、もっと色んな事が分かるでしょうか……♡)
頭の奥で浮かんだ心情のままに、指に光が灯る。マスターと固着したはずの腕はいとも容易く抜け落ち、元のワタシの腕の姿を取り戻していた。
「……ねぇ、マスター? もっと、この交わりを愉しんでみませんかぁ……♡」
あぁ、マスターはどんな顔をしてくれるのかしら♡
ワタシが刻んだ両腕で、ワタシを抱きしめてくれるのかしら♡♡
ワタシが刻んだ腰で、ワタシを突き上げてくれるのかしら♡♡♡
紅の瞳に紫の炎が宿る。
刻まれた紋様──性交で得られる快楽や魔力を増す『魔の刻印』──と同じ色で輝いた瞳に射すくめられ、マスターはおずおずと、左の腕を差し出すのだった。
土くれの体に意思を刻まれたゴーレムであるワタシは、刻印を通して刻まれた命令に従い、主であるマスターのために働くモノ。朽ちた遺跡で埋もれていたワタシに意味を与えてくれたマスターのために、命じられるまま、動くだけのモノ。
けれど、たった今下された命令は、瓦礫の撤去でも、古代文字の解読の補佐でもなく。
「魔の刻印……デスカ」
見つけたばかりの古ぼけた羊皮紙の埃を払いながら、マスターは言葉を続ける。曰く、このハート──心臓を模した形のことだそうだ──の形に描かれた紋様は、与えられる魔力を、そして蓄える魔力を増やす効果があるらしい。
「ソレをワタシに、刻ムのですカ」
効率を良くするためだ、とマスターは語った。その通りだ。五体に異常がないとはいえ、ワタシはマスターの手で発掘されたばかりでボディの調子が良くない。これまでにも魔力切れを起こし、その度に魔力を補給していたが、マスターにとってそれは手間の印象の方が強かったらしい。
「かしこマりまシタ──デは」
マスターに左腕を差し出す。ワタシの腕を覆うパーツの中で、一際大きい部分──これまで幾度となくマスターの手で文字を刻まれた石板を。
造られた存在であるワタシには、どんな仕組みで動いているかは理解できない。そこに刻まれた言葉に従い動くだけ。そして、命令を刻むための文字を描くには『インク』が必要だ。
「……ん、れろ、ぉっ……」
口内を開放し、舌を垂らす。マスターは躊躇うことなく、指先を舌に付けた。指が舌べろを撫でるように動く。足りない分は頬肉を掻いて生まれた液を擦り込む。ようやく指先にインクを染み込ませ終わると、艶やかに濡れそぼった指で石板をなぞる。
「……ぁ」
ちり、と頭の奥が疼き、視界が白くぼやける。命令を刻まれる瞬間はいつもこうだ。動作に支障はないが、まるで機能が停止するような感覚は、何度受けても慣れることはない。
ちら、とマスターへ視線を向ける。マスターはワタシの異常に気づくことなく、命令を刻んでいる。
……いつの間にか、マスターの顔を視界の真正面に捉える機会が増えたような、気がする。
「くヒっ」
マスターが紋様を描き終えると同時に、全身に刺激が走る。問題はない。刻まれた命令を、ワタシが認識しただけだ。
何も、問題はない──もうすぐ、魔力の残量が危険域に達することを除けばだが──はず、だ。
「はい、ですがマスター……ソの、また、作業ニ必要な、魔力が不足してイるようデス」
またか、とマスターが漏らした呟きに重ねて頷く。あらぬ方向を向きながら、横目でじっと私を見つめるマスターの瞳には、微かにワタシの瞳が映っていた。
無機質さを醸し出す、光射さない単一の紅の瞳。
「…………?」
ちら、と。
瞳の奥に、見えるはずのない色が、昏い紫の色が、見えたような気がした。
ちり、と。
ワタシの左肩が熱で疼く。視界の端で、刻まれた紋様が鈍く光ったような気がした。
「──ハイ、分かりましタ。『魔力補給』ヲ開始します」
ワタシが気をとられている間に、マスターは乱雑に指示を刻み終えていた。下された命令を復唱し、適当な瓦礫の上に座り込んだマスターの前に跪く。
埃とほつれが目立つズボンを脱がすと、籠った湿気と臭いが漂ってきた。雄の匂い。すでに半勃ち状態になった男性器はひくひくと、外気の刺激を受けて小刻みに揺れていた。
「でハ」
おずおずと左手を伸ばし、男性器の幹を掌で包み込む。すでに皮は剥けていて、血の通った赤黒い先端が存在を主張している。汗で蒸れてはいるが、潤滑油の変わりとなるほどではない。手早く済ませるよう命を受けたが、このまま擦っては魔力の補給に差支えが出るだろう。
「──れぇ、ろっ……」
てろ、と口内から『潤滑油』の代わりの液体を垂らし、馴染ませる。静寂の中、粘性のある液体の音だけが響き渡る。指が動く度、男性器の幹に、ワタシの指に、粘ついた糸が繋がっては切れていく。マスターの肌の色が、ワタシの指の色が、てらてらと黒ずんでいく。
「マスターの男性器ノ肥大を確認しマした、これヨり刺激を強化しまス」
指だけでなく、掌も男性器を沿うように上下に動かし始める。先端に指先が触れ這いまわる度、男性器に熱が籠っていく。やがて、内側から生まれる熱に耐えきれなくなった先端は、その開口部からぷくぷくと液体を滲ませた。
「先端かラ魔力を検知──魔力補給の準備ヲ開始しマス」
不足した潤滑油を追加し、さらに指と掌の動きを激しくする。上下の律動で泡立てられた液体が指の間から垂れ落ちる。びくん、びくんと男性器から断続的な振動が伝わってくる。幹の一本筋から、熱を持った塊がせり上がってくる。
「魔力を確認、こレよリ、補給を──ッ!?」
不意に、マスターの呻き声と共に魔力が放出された。保護のために身に付けたボディパーツすらも役に立たないほどの、熱く焼け付くような塊。体表に絡みつくほどの粘性を持ったそれを、ワタシはまともに浴びてしまった。
「ア──あ、アァ……ぁ♡」
意味を成さない言葉が漏れる。
顔に体に飛沫した白濁が、文字を刻むようにゆっくりと滑り落ちていく。じりじりと、白い軌跡が焼け爛れていくような感覚が、ワタシを襲う。しかしそれは決して危険なものでも、まして不快なものでもなく。
「…………コ、コれより補給を開始しマス」
内から湧き出る何かを押しとどめ、指に付着した白濁と共に体内へ流し込む。白濁が舌に触れる度、喉を這う度に、魔力が蓄積されていくのを感じる。指先に付着したマスターの体液は、あっという間になくなってしまった。
「……ん、くちゅ、ん……マだ、魔力が残っテいまス」
魔力を放出した余韻に浸っている男性器を見やる。開口部からぷくぷくと滲む残り汁の雫にそっと指を添え、口内に運ぶ。ワタシのインクと混ざり、幹に絡みついた塊を掌でこそげ落とす。どろりとこびりついたそれを両の手に乗せて流し込むと、確かに充足感を覚える。
幾度か繰り返したその行為、魔力補給の後始末には、さほど時間はかからなかった。
「マスター。魔力補給ノ工程、完了しましタ──エ?」
はずなのに、どうしたことだろう。
ワタシは、自分の体に付着した飛沫の処理を忘れてしまっていたのだ。……いや、違う。意図的に付着したままにしていたのだ。
マスターの命令に背いてまで。
「──はイ、全て取り込ミます」
ちり、と。
ほんのわずかにノイズが走り、そして止む。
ワタシはマスターの命のまま、体表の後始末を始めた。顔に、ボディに、ボディを覆うパーツやその隙間に。這わす指に、熱の残滓を感じながら。
しかし、それでも。
「マスター、先ほド刻んだ刻印ノ効果でしょウか──まダ、魔力を供給すル余裕がありマす」
体液と共に飲み下したの何かがワタシの体の奥で渦巻き、提案を口にしていた。
見上げるマスターの顔色に変化はない。魔力補給をする時はいつも同じ、眉を寄せ、口の端をわずかに歪めた表情。
ちりちりと、再び左肩が疼く。
先の余韻かとワタシは気にも留めず、様子を見る限りマスターも気づいていないようだ。
──ワタシに刻まれた紋様が、淡く仄かに、紫の輝きを宿していたことを。
§
「ソレでハ、ワタシから動かせてイタだキます」
地面に膝をつけ、横になったマスターの上に跨る。魔力補給をした後のマスターは動くことさえ億劫な様子だ。投げやりに命令を刻み、後は勝手にやってくれとばかりに四肢を投げ出している。
魔力補給の方法は色々試してきた。先のように手を使ったり、ボディパーツで擦り上げたり、下腹部をなぞらせたり。ワタシの体内で直接マスターを受け入れた経験もある。
しかし、それらの行為はワタシへの魔力補給でしかない。マスターにとってはどれも同じ、手間のかかる行為でしかないのだろう。
ぎし、と胸が軋んだような気がした。
「──硬度、問題なし。これより、男性器を挿入します」
腰を浮かせ、マスターの男性器とワタシの搾精器を触れ合わせる。屹立したそれは、まるでワタシから離れるようにぬるりと滑り肌をくすぐった。
マスターの腹部に置いた手を陰茎に合わせ、揺れないようしっかり固定する。
──くぷ、ぬぷぷっ♡
「う──ぁああぁっ、ぜ……ぜんブ、挿入り、まし、タッ……」
熱が下腹部を犯していく。ワタシの口から、ワタシの声ではない声が漏れる。上ずったのは言葉尻だけではない。脊髄に走る刺激の電流が、ワタシの体をのけ反らせて自由を奪った。
(あ、ア……♡ 何か、ヘン、デす……♡)
ワタシが感じた思考のノイズとは裏腹に、素体は正常に稼働する。ワタシの所有者であるマスターの男性器が挿入されたことで、否応なしに搾精の準備を整え始めた。
「ア、アァ──これ、ヨりっ、ほきゅ、うを開始、しま、ア……♡」
刻まれた命令の復唱すら行えない。そんな異常を検知しながらも、体は魔力を求めて規則的に動き出す。ぬちっ、ぬちっ、と性器同士が潤滑油で擦れる音が聞こえてくる。
(聴覚に異常、アリ……この音、聞いていルと……オカシク、なる……♡)
もっとこの音を聴いていたい。もっとマスターを感じていたい。もっとマスターを犯したい。もっと激しく、もっと、もっともっと──。
ワタシが感じたノイズは、マスターの命令に逆らう行為。マスターの安全を最優先とする思考とは到底相容れないはずだ。それを受け入れては、認めてはならない。
(けレど、少しだけ負荷をかけるクライ、ナら──)
腰の動きを速める。同時に、男性器に沿うように上下する動きを、腰を揺らして壁面を抉るグラインドな動きへと変える。
与えられた命令外の動きをしたことに、マスターは苦悶の声で答える。先端が擦れる度に断続的に漏れる声は、マスターが快楽を感じている確かな証拠だった。
「マス、ター……男性器の肥大ト振動を確認しました──また、魔力ヲ与えテくださるのデスね?」
あぁ、早く済ませてしまわないと。もっと、もっと、激しく犯して、魔力を頂いてしまわないと──♡
刻まれた命令と、生まれ留まることを知らないノイズ。今のワタシでは、相反する二つの思考から結論を導きだせなかった。ワタシはどうしてしまったのだろう。おかしくなってしまったのだろうか。
ここに来てワタシの変貌にようやく気付いたのか、マスターの手がワタシの腕を掴む。喘ぎ声に混じって、やめろ、止まれ、と声が聞こえる。命令が聞けないのか、と肩の石板に指が触れる。
「マス、タ、ぁ……魔力を検知しましタ……これヨリ、補給を致しまス……♡」
──どぴゅぅっ!
マスターが命令を書き込むよりも早く、ワタシは二度目の魔力補給を受けた。搾精器がマスターの精で埋まり、マグマのような熱を持った白濁がワタシを満たしていく。
吐精の衝動を受け、マスターの刻印を刻む手が止まる。いや、止まるだけではない。絶頂の衝動に耐えるために、思い切り掴んだのだ。
「ぁ──ひぐぅっ!?」
全身に電流を流されたような衝撃が走る。搾精器で感じているものとは比較にならない熱が、ワタシに刻まれた刻印から発せられる。はっきりと紫色に輝くそれは、熱と共に、あっという間にワタシを侵食していった。
(……どうしてマスターはそんな顔をしているのだろう?)
何が起きているのか分からない、恐怖を湛えた顔。ワタシはワタシのまま、何も変わっていないはずなのに、どうして怯えているのだろう? どうして、ワタシにそんな命令を下すのだろう?
「『今すぐ体から離れろ』……なんて、そんな命令、聞く訳にはいきません、マスター」
未だに刻印を刻もうとしているマスターの手を取り、ワタシの指と絡ませる。そう、これでいい。マスターから離れる命令なんて、聞かなくていい。
「大丈夫です、マスター♡ ワタシはワタシのまま、何も変わっていませんから♡」
マスターを安心させるために笑みを見せる。初めて使う表情筋では、ぎこちない笑みしか作れなかった。今はまだそれでも構わない。溜まった魔力が身体に馴染めば、すぐにマスターの望むワタシになれるだろうから。
「あぁ、マスター。暴れないでください」
結んだ手を振り払おうと、じたばた暴れ出すマスターをたしなめる。どうしてだろう? ひょっとして、ワタシが力づくで抑えつけているせいで、怖がらせてしまっているのだろうか。
「安心してくださいマスター。ほら、こうしてもう片方の手も──」
ワタシと繋げてしまおう。指先を蕩かし、マスターの指に絡ませてから固着させる。これもマスターが注いでくださった熱のおかげだ。ワタシがマスターと繋がっていると安心するように、きっとマスターも落ち着いてくれるはずだ。
「ふふっ、マスター。分かってもらえたようで何よりです♡」
これならゆっくりお話が出来ますね、と抵抗を止めたマスターに優しく語り掛ける。掌を通じてマスターの鼓動が伝わってくる。緊張と恐怖で荒れていた音が、次第に和らいでいく。とくん、とくん、と緩やかな音が心地よい。
「マスターにも聞こえていますか? ワタシの鼓動の音が──マスターがワタシに刻んでくれた、命の音が♡」
身を乗り出して、ワタシの胸をマスターのそれに重ね合わせる。また、鼓動が早くなった。けれど、マスターは嫌そうな顔はしていない。顔を赤く染めて、どうしていいか分からない、困ったような顔。そんな顔を見ていると、守ってあげたくて、愛おしくて、自然と口の端が上がってしまう。
「分かりませんか? ここですよ♡ こ・こ♡」
左肩を差し出し、刻まれた刻印をさらけ出す。妖しい紫の輝きを持った紋様は、ワタシの腕全体や胸元を蝕むように広がっていた。
「マスターに刻まれて、魔力を与えられて、ようやく気付けたんです……何がって? 私がマスターにお仕えしている理由ですよ♡」
マスターがワタシを拾ってくれたから? ううん、それだけじゃありません♡
「愛しているからです♡」
絡みついた指を揺する。揺れた分だけマスターの体がワタシに沈み込んでいく。とぷん、と跳ねて散った泥さえも、マスターを求めて集まってくる。
「こうして腕に収めているだけで、気持ちいい、離れたくないって気持ちがあふれてあふれてどうしようもないんです♡」
マスターの体を起こし、全身にワタシを纏わりつかせる。以前よりも丸みと柔らかさを持った体でマスターを抱きしめた。マスターの体温と鼓動、そして何よりも、ワタシの腕に刻まれた刻印が、マスターの存在を認識させてくれる。
だが、マスターはワタシと視線を合わせようとしてくれない。火照った顔でそっぽを向き、これまでにないくらい心臓を高鳴らせておいて。
「マスターは恥ずかしがりやさんですね♡ そんなところも愛おしいですけれど──もっとワタシに可愛いお顔を見せてほしいです♡」
だからワタシは、マスターの唇を奪った。命を復唱するだけだった器官に生まれたのは二つの役割。一つは、マスターを愛でるため。そしてもう一つは。
「驚きました? ──でも、これがワタシの気持ちです♡ ワタシからだけじゃなく、マスターからワタシを求めてほしいんですっ♡ あの時肩を掴んでくれたみたいに、ワタシを、ワタシだけを求めて離さないでほしいんです♡」
もう一つの役割を果たすべく、何度もついばむような誘うキスを繰り返す。何か反論しようと口を開けたところに合わせ、舌を入れる。マスターの口内もワタシと同じように、どろどろに蕩けていた。舌同士が触れ合う度、絡み合う度に、マスターの目尻が下がっていく。マスターも心地よいと、感じてくれているのだ。
ワタシの身体は心だけでなく、魔力も満たされていくことを実感していた。これまでの魔力補給とは違い、魔力を溜める器が広がっていくような感覚。このままずっとマスターと交わっていたいと思えるような、そんな心地だった。
「でも……マスター♡ こんなにとろとろになってしまっては、マスターからシてもらうなんて出来そうにないですよね?」
だから、ワタシから、マスターを犯しますね? いいですよね? だって、ワタシの膣内で、マスターのおちんちんも、こんなに大きく膨らんでいるんですから♡
「イイですよね? 動いちゃいますね? マスターのおちんちんからせーえき搾って、子宮でごくごくしちゃいますね♡」
騎乗位で搾るためとはいえ、マスターの体から身を離さないといけないのはもどかしい。けれど腰を振るために上半身を起こしたところで、ワタシを見上げるマスターの目を見てしまったら。
(あぁ……マスターが見てる……そんな物欲しげな目をしなくても平気ですからね……♡)
頑張って悦ばせたくなってしまうじゃないですかぁ♡
「はぁ、あぁんっ……♡ マスターのおちんちん、すっかりワタシのおまんこに馴染んじゃってますぅ……♡」
二度目の魔力補給の後も抜かずにそのままにしておいたおかげか、ワタシの性器にぴったり吸着したそれは、軽く抽挿するだけで大きな快楽をもたらした。たっぷり放出された精は、ワタシの肉襞を優しく削り、より強い快楽をもたらすべく内側からその形を変えてしまっていたのだ。
決して逃がすまいと溶け出した、この両の腕のように。
「マスターっ、マスターっ♡ ワタシとのセックス、気持ち良いですかぁっ♡ マスターのおちんちん、ワタシのおまんこから離れたくないって、さらに大きくなってますよぉ♡」
腰のグラインドを激しくしているはずなのに、マスターのおちんちんはワタシから抜け出る気配すらない。むしろ前後に掻き揺らした分だけ、ワタシの中が拡張されているような気さえする。
「……えっ? ワタシの腰……ひうっ? きゅぅぅうぅん♡♡」
くちゅり、と粘液の糸がほつれる音が体内で響く。ワタシの手と繋がったマスターの手が、ワタシの腰に優しく触れていたのだ。腰が砕けてしまいそうな快楽が襲ってくる。
「にゃ、何コレぇぇっ♡ こし、掴まれただけでぇっ!?」
悲鳴のような甲高い声をあげてしまう。さわりさわりと弄られる度、腰が跳ねて不規則な振動をワタシとマスターに与える。
快楽の電流でショートする視界の中で、ワタシは見た。肩に刻まれた紋様が、腰にまで広がっているところを。そして、マスターに紋様を弄られる度に。
「きゅうぅぅぅぅんっ♡♡ ダメぇっ、ましゅ、たぁっ♡ こひ、だめぇぇっ♡」
がくがくと壊れた人形のように勝手に腰が動く。マスターのモノに最適化されつつある身体は、ワタシの思考が壊れてしまったとしても、得られる快楽と魔力には──所有者であるマスターには抗えなかったようだ。
「そんらにしゃれたらぁ♡ ワタシのおまんこっ、マスターのおちんちんをしぼることひかかんがえられなくなっひゃいましゅぅぅっ♡」
もっともそれはマスターも同じことかもしれない。欲望のままワタシに触れて、本能のままワタシを求めて、衝動を解き放つためにワタシを使う。
言葉少なでぶっきらぼうなマスターが一心にワタシを必要としてくれているという事実は、ワタシにとって何物にも代えがたい喜ばしいものでしかなかった。
「げんかい、ですかぁっ? マスターのおちんぽ、ぷくーってふくらんでしゃせーしたいっていってますよぉ♡ いいですよぉ♡ ぜんぶ、ぜぇんぶ、ワタシがうけとめてさしあげますからぁっ♡ いってきものこさずしゃせぇしちゃってくださぁぁいっ♡♡」
マスターが絶頂するの時を全身で受け止めたい、そう思ったワタシは、起こした体をマスターに預けるようにゆっくりと倒した。マスターもワタシの背に腕を回して、全身を包むように抱き留めてくれる。ワタシの意図を察してくれたのか、あるいは本能だろうか?
お互いが絶頂に達するまで、もはや激しい動きは必要なかった。
「マスター、イきますねぇっ♡ マスターのせーえきおまんこでこぼさずうけとめて、ワタシもイきますねぇっ♡♡」
形状を保つことすら億劫になり、所々が泥になって溶け出していく。それをマスターと触れ合える部分が増えたと喜び、嬉しくなって腰をへこへこと揺らす。
そしてついに。
──びゅるるるっ! びゅくっ! びゅ〜〜〜〜っ!!
「あはぁっ♡ イくうぅ♡♡ マスターのせーえきでイかされちゃうぅぅっっ♡♡♡」
マスターの絶頂と共に放出された精液は、ワタシの膣内を容易く埋め尽くしてしまった。ワタシはそれを一滴も零すまいと、体内を泥化させて取り込もうとする。しかし三度目の吐精にも関わらずこれまでよりも濃い液体を受け入れるほど、ワタシの体の魔力貯蔵量は拡張されていなかった。
「アぁっ♡ うあぁぁぁぁxっ♡ カラダが、焼けるっ♡ トけるぅっ♡♡」
その結果は顕著に表れた。マスターは射精の虚脱感の中でぼんやりと視野に捉え、ワタシは触覚を介して実感を覚えた。
「「紋様が、広がっていく……?」」
刻まれた紋様、その内部から紫の光が輝きを放っている。傷跡が広がるかのように、ワタシの腰を囲み、新たな装飾を施した。刻まれた箇所の角ばった岩塊のパーツは崩れ落ち、丸みと柔らかさを帯びた人間の肌に生まれ変わっている。
「……成長、しているのでしょうか」
マスターの精を受け、ワタシの心がノイズを、感情という名の新たな衝動を得たように。ワタシの肉体も、マスターの精を受け入れるように育ったのだろうか。
口に出した疑問にマスターは答えられず、ただワタシの体に刻まれていく紋様を見つめることしかできなかった。ワタシも同様に、自らの身体に刻まれていく紋様が、ワタシ自身を甘く締め続けるその余韻に浸るままだった。
内部で絶えることのない熱量が生まれ、紋様が熱量を快楽への渇望に変換されていく、満たされつつも切なくもどかしい情動。
(コレをマスターに刻んでみたら、もっと色んな事が分かるでしょうか……♡)
頭の奥で浮かんだ心情のままに、指に光が灯る。マスターと固着したはずの腕はいとも容易く抜け落ち、元のワタシの腕の姿を取り戻していた。
「……ねぇ、マスター? もっと、この交わりを愉しんでみませんかぁ……♡」
あぁ、マスターはどんな顔をしてくれるのかしら♡
ワタシが刻んだ両腕で、ワタシを抱きしめてくれるのかしら♡♡
ワタシが刻んだ腰で、ワタシを突き上げてくれるのかしら♡♡♡
紅の瞳に紫の炎が宿る。
刻まれた紋様──性交で得られる快楽や魔力を増す『魔の刻印』──と同じ色で輝いた瞳に射すくめられ、マスターはおずおずと、左の腕を差し出すのだった。
21/10/19 21:00更新 / ナナシ