猫と虎との猫科戦争
犬も歩けば棒に当たる、という格言がある。
何かしら行動を起こせば、思いがけないような事に遭遇する事の例えだ。
犬だって歩けば棒に当たるのだから、僕みたいな人間にだって勿論それは起こりうる。
ただし、人間である僕が当たったのは棒なんてものではなく虎……それも、人虎と呼ばれる魔物だった。
生まれつき動物が大好きだった僕が幸運にも当たる事になった、人虎のリンさん。
発情期だった彼女に押し倒された僕は、その後彼女とまぐわう事になった挙げ句に、彼女を妻として迎える事になった。
とはいえ、現実はそれで都合良くハッピーエンドになってくれるとは限らない。
僕には家があって、家族がいる。
僕とリンさんはお互いに両想いだからいいけれど、親がそれを快く承諾してくれるかは別問題な訳で。
……最悪、家を出る事も想定はしている。
けれど僕としてはやっぱり、せっかく僕を育ててくれた親にぐらい、認められたいなぁ……と、いう思いがある訳で。
「ふふふ、ご両親にご挨拶か……腕が鳴るな」
まぁ、僕の隣にいるリンさんが微塵も不安に思っていないというのが幸いなんだろうね。
……なんか勘違いしてる気はするけど。
「えっと、リンさん?一応言っておきますけど……僕の両親は普通の人なので倒しちゃ駄目ですよ?」
「……む、何故だ?両親というのは共に研鑽し、最初の目標となるべく人ではないのか?」
「それはリンさんの家庭ぐらいのもんですよ……」
てゆうか、両親って事はお父さんも戦う人なのか。
リンさんって、実際戦うとどれだけ強いんだろう……
「ふむぅ、そうなのか……うぅむ、人間とは難しいな……」
僕の言葉に、リンさんはぶつぶつと言って何かを考えだした。
まぁ、人虎さんって普段は山に籠もってあんまり人と関わらないって言うしね……
本来だったら、僕みたいな普通の人間では、彼女とは一生縁なんて持てなかったんだろう。
……だからこそ、僕を好きになってくれた事は、本当に幸せだ。
慣れない事を必死に考えるその姿に、僕はうれしさで顔がにやけてしまっていた。
「なぁナスタ、私はどうすれば……何だ、何がおかしい?」
「いや、リンさんみたいな人の夫になれて幸せだなぁ……って」
「……突然、何を言い出す」
口では戸惑っている風に言って目を逸らしながらも、尻尾はぶるんぶるんと揺れていて。
……可愛いなぁもう。
「大丈夫ですよ、リンさんならきっとそのままで」
「む、そ、そうか……?なら、いいんだが……」
手を握ると伝わる、暖かい肉球の感触。
リンさんに言い聞かせるつもりの言葉だったけれど、僕自身も随分と楽になったような気がする。
「ここが僕の家です。僕の親はまだ帰ってきてないと思うんですけど……」
「ふむ、そうか……それでは、お邪魔するぞ」
ドアを開ける僕に続いて、リンさんは礼儀正しく挨拶をする。
大丈夫だ、どんな結末になろうともこの人と一緒ならきっと二人で……!!
「お帰りなのにゃー、ご主人!!」
二人、で……?
「……うにゃにゃ!?何なのにゃその女は……!?ご主人、どういう事だにゃこれは!?」
玄関で僕を待っていたのは、袖の短い着物を身に着けた、小柄な女の子。
リンさんのように模様のある髪とは対照的に、真っ白な短めの髪がまず目を引いた。
……だけど、それ以上に特徴的なのがその頭に生えた白い耳と、尻の辺りから突き出た二つの尻尾。
「む……私は本日よりこの男、ナスタの嫁をやらせてもらっているリンと言う。お前こそ、ナスタの一体なんなんだ?」
彼女の身体は、ついこの前まで僕が夢見てたようなもので……まさか、この子……
「みーはご主人のペット兼恋人のタマだにゃ!!なんなのにゃ、いきなり家に押し掛けてきて嫁にゃんて……!!あんたにゃんかにご主人は渡さないのにゃー!!」
「……やっぱり、タマなんだね」
やはりというかなんというか、その正体は家で飼っていた白猫のタマだったらしい。
そっか、タマ……ついに、ネコマタになってくれたんだね……
それは、いつも夢見てた事だ。
家でタマを撫でる度に彼女がネコマタになって出てくれないかなぁ、あわよくば犯してくれないかなぁとまではいつも考えていたし、恋人になってほしいなぁ、とは実際に独り言で言った事もある。
それを本当にタマが聞いていてくれた事は、確かに嬉しい。嬉しい、けど……
「なんだと!?それは聞き捨てならんぞ、この猫!!ナスタは私の嫁だ!!他の誰にも渡さない!!」
「ふかーっ!!ご主人と昔からずっと一緒にいたみーを差し置いて嫁とは図々しいのにゃこの虎ー!!こっちこそ、野生の虎なんかにご主人は渡さないのにゃー!!」
やっぱりこうなるよなぁ……
リンさんとタマは睨み合って、互いを威嚇するように虎と猫の鳴き声を喉から鳴らしている。
……怒った顔さえ可愛いと思ってしまったのは、内緒だ。
とはいえ、ここは喧嘩の原因である僕が止めないとね。
「ま、まぁまぁ二人とも、落ち着いて……」
「これが落ち着いていられるか!!そうだナスタ、そもそもお前はどっちを選ぶというんだ!!」
「そうだにゃご主人!!折角白い髪のお姉さんにこの姿にしてもらったのにゃ、ご主人はみーを選んでくれるにゃーね!?」
「なんだと!?先にナスタの童貞を奪ったのは私だ!!私を選んでくれるだろ、ナスタ!!」
二人の猫科が、必死になって僕に詰め寄ってくる。
こんな風にして取り合ってくれるなんて……あぁ、僕はなんて幸せなんだ……
……でも、僕は答えを言わなきゃいけない。
二人が喧嘩した時から、ずっと心に決めていた僕の答え。
それは……
「あの……二人とも僕のお嫁さん、じゃ駄目なのかな……?」
ケモナーを自称して、いつもタマをかわいがっていたこの僕が。
リンさんを初めて見たとき、目が離せなかったこの僕が。
どちらかなんて……選べるわけ、ないってことだ!!
「…………」
「…………」
僕の言葉に、二人ともポカンとした顔をしてしまう。
……まぁ、そりゃそうだよね。
どっちが嫁になるかって話だったのに、両方なんて言われちゃ……
「なるほど……その手があったかにゃ!!さっすがご主人だにゃ!!」
「ふむぅ……嫁になれるなら、私もそれでいいぞ」
……あれ。
二人とも、全然反対する気配がないぞ?
むしろ……これは、喜んでる?
「そういうことなら、さっきはすまんかったにゃー。みーはご主人に飼われてた猫で、ネコマタのタマだにゃ。長い付き合いになるだろうからこれからよろしくお願いするにゃー!!」
「私の方こそすまんかったな。私は人虎のリンだ、こちらこそよろしくお願いする」
「ちょ、ちょっと待って!!自分で言っておいてなんだけど、二人共それでいいの!?」
すごく雰囲気が和気藹々となっているところに割り込むのは気が引けたが、どうしても気になってしょうがなかった。
ひょっとしたら仲良さそうに見えるのは表面的なだけで、僕のいないところでまた喧嘩を始めるんじゃないか……そんな考えさえ浮かんでしまっていた。
「にゃに言ってるんにゃご主人、みーはご主人がみーの事を好きってわかったからそれでいいのにゃ!!」
「あぁ、タマの言うとおりだ。私はナスタ、君が幸せになってくれればそれでいい」
「あ、リンの方が言ってることかっこいいにゃー!!みーがそれ言いたかったにゃー!!」
「む、そうか?そんなつもりはなかったが……まぁ、そう言ってもらえるのは嬉しい」
でも、二人が楽しそうに話しているところを見ると、そんな考えはどこか遠くに行ってしまっていた。
僕の事を好きでいてくれるリンとタマ、そして僕が好きな彼女達。
二人じゃなくて三人になっちゃったけど、この三人でならきっといつまでも……!!
「それじゃあ、二人で嫁ににゃることだにゃーし……みーが正妻でリンが後妻で決定にゃ!!」
いつま、でも……
「……む、どうしてそうなるんだ?私の方が先にナスタに種付けされたのだぞ、私が正妻となるべきだろう」
「みーの方がリンより先にご主人様と会ってるのにゃ!!それにゃらみーが正妻で決定にゃ!!」
「この際いつ会ったのかなど関係ないだろう!!大切なのは、私の方が先にナスタの童貞を奪ったという事だ!!」
「ふかーっ!!たまたまそれが出来ただけで何を偉そうに言うのにゃー!!みーだってこの姿にもっと早くなってたら真っ先にご主人の童貞を奪っていたのにゃ、そんなのより大切なのは一緒に過ごした時間の長さだにゃー!!」
……あれ、雲行きがおかしくなってきたぞ?
仲直りしたと思ったら、今度は別の問題が出てくるなんて……
「あ、あの……僕は二人とも正妻でいいかな、て思うんだけど……」
「「そんなの駄目に決まってるだろう(のにゃー)!!」」
こういう時に限って息のあった返事で、二人は僕の方を睨み付ける。
二人とも妻になるのは全然良いのに、何でここまで反応が違うんだろう……魔物の基準がよくわからない……
「ご主人でも決められにゃーみたいだし……こうなったら、勝負だにゃ!!勝った方が正妻で、負けた方が後妻!!これで文句にゃーか!?」
「む、勝負を挑まれたとあらば人虎の私が逃げ出す訳にはいかん。その勝負、乗らせていただこう」
……どうしよう、僕の話を聞かないまま二人の話がなんだかまずい方向に行き始めている気がする。
「ちょっと待ってタマ!!人虎さんってものすごく強い種族なんだ、いくらタマも魔物になったからってリンさんは簡単に勝てる相手じゃ……!!」
「それはわかってるにゃ!!だから、勝負って言っても家の中でできる勝負にするにゃ。それならタマにも勝ち目はあるのにゃ!!」
えっへん!!と、少しはだけている着物の胸部分を張って得意げに自慢するタマ。
あぁもう、頭の上でぴこぴこ揺れる猫耳が可愛いなぁ。
「家の中でできる?それだと、少なくとも武術というわけではなさそうだが……おい、何をする気なんだ?」
「それなんにゃけど……ご主人〜」
リンさんにもっともな質問をされたタマは、突然こちらの方を向いて甘えたような猫なで声を出す。
「ちょっと、頼みたいことがあるんにゃけど……構わにゃーか?」
小首を傾げる仕草のかわいらしさに、僕は思わず二つ返事で頷いてしまっていた。
「んっ……ちゅ、ちゅぅっ……り、リン……そろそろ、やばいんじゃ、にゃーか……?ぁにゃっ……!!」
「ふ、ふぅっ……!!タマ、こそぉ……!!いい加減、負けを、認めろぉっ……!!ふにぃっ……!!」
……えっと、どういう状況だろうこれ。
僕のベッドに産まれたままの姿で横になる、リンさんとタマ。
二人の唇がついばむように近づいては離れ、銀色の糸がぽたりぽたりと僕のベッドを濡らす。
肉球のついた二人の手が、互いの身体を全て支配でもしようかというようにくまなく全身に触れる。
胸、脇、首筋、足、そして二人の性器……
どこかに手が触れるその度に、喘ぎ声が僕の部屋の中に反響する。
二人のやろうとしている事は、酷く単純。
目の前の相手を、絶頂に追いやろうとしているのだ。
タマの提案したことは、たった一つの事だった。
……『先にイッてしまった方が負け』。
僕の正妻になるためにリンさんはその条件を飲んで、小さな戦争が僕のベッドの上で展開されている。
「にゃっ、ぁっ……こ、これでも、かにゃっ……!!」
「にぃっ……!!ま、まだ……これから、だっ……!!」
他でもない僕の為に、二人の猫が繰り広げる淫らな争い。
リンさんと散々『交尾』したばかりだと言うのに、目の前の光景にもう僕のズボンは立派なテントを張っていた。
それなのに、「ご主人には審判をやって欲しいのにゃー!!」だなんて……生殺しにも、程があるよ、タマ……!!
でも、僕の為に真剣になってくれているタマの頼みを断る事もできなくて、こうして眺めることしかできずにいるわけだけれど。
「っ……!!ふ、ぅっ……!!」
そんな僕の願いを察してくれたのかはわからないが、リンさんの身体がびくりと一際強く震える。
タマの手は、リンさんの足と足の間……股間に、伸びていた。
多分だけど、リンさんの一番弱いところを突いたんだろう。
その証拠に、タマの顔はとても得意げだ。
「ふっふ、ふぁっ……!!これで、みーの……勝ち、にゃっ……!!」
「……っ!!私が、負け……!?にぃっ!!」
悔しそうな声音さえも、すぐに嬌声にかき消されてしまうリンさん。
それこそ、あと数秒の内に彼女は果ててしまうのだろう。
顔を赤く染めてこそいるものの、その程度ならタマは逃げ切れる。
僕も、恐らく彼女自身も、タマの勝ちを確信したその時だった。
「人虎が、負ける、訳にはっ……!!ぁむっ!!」
「ふにゃっ!?」
リンさんが大きく動いて、タマの耳を口の中にくわえ込む。
突然の出来事に動揺したらしく、タマの尻尾がピン!!と大きく立った。
「むっ、むぐぐぅっ……!!ふむぅぅぅぅぅぅ!!」
「みゃっ、耳、駄目っ……!!うみゃぁぁぁぁぁ!!」
ぷしゃっ、ぷしゃぁっ……!!
二人の股間から、二人の愛を示す液体が弾けるようにして同時に放出される。
「ぁ、はぁっ……!!どうだ、ナスタに、教えてもらったんだぞ……」
「み、耳……あんなに舐めるなんて、ズルいにゃよ……ふにゃぁ……」
リンさんとタマは、ゴロンと僕のベッドに脱力して寝転がってしまった。
裸のままで顔を赤らめて寝転がる、二匹の猫。
……胸の動悸が、どんどん高まっていくのがわかる。
「あ、あの……二人とも……」
「な、ナスタ……そうだ、私は……ちゃんと、タマに勝ったのか……?」
「いいや、それでも……勝ったのは、みーにゃ……そうにゃよね、ご主人……?」
はぁはぁと、息を荒くして僕を見上げる二人。
物欲しそうにしているのは、どちらも同じだった。
……でも。
「ご、ゴメン……僕には、二人とも同じぐらいのようにしか見えなかった……」
……そう。二人が絶頂したのは、お互い示し合わせたかのように寸分の狂いも無く同時の事。
少なくとも、目に自信があるわけでもない僕にはそういう風にしか見えなかった。
「…………」
「…………」
またしても、二人して僕の言葉に黙ってしまう。
しかし、こうして息が揃うところを見るとこの二人、結構仲良くできそうなもんだけどなぁ……
「……それならご主人、ちょっとこっち来るにゃ」
上半身を起こしたタマが、僕に向かって手招きをする。
タマは白いから招き猫みたいだなぁ、なんてちょっとだけ思いながら大人しくタマの言うことに従って……
「隙ありだにゃ♪」
「うわぁっ!?」
……ベッドに引き摺りこまれた。
「リン、ご主人の服を剥くの手伝って欲しいのにゃー♪」
「む、なんだかわからんがいいだろう!!」
「うわっ、ちょっと!?」
羞恥心から僅かばかりの抵抗をしてみても、魔物二人が本気を出して敵うはずもなく。
あっという間に、僕は猫二匹の間で丸裸にされてしまった。
「な、何を……!?」
「さっきので決着が着かなかったから、勝負方法を変えるにゃ!!今度はご主人様をより悦ばせた方が勝ち、それでどうにゃ!!」
「む、さっきよりもわかりやすくなったではないか!!よし、のった!!」
「いや、僕はまだそれをやるとは言ってな……!!」
「むふふー、何を言ってるのかにゃご主人?ここはもう、早く出したいってうずうずしてるにゃーよ?」
「うっ……!?」
咄嗟に止めようとする僕の上に覆い被さるようにして現れたタマが、尻をこちらに向けながら人差し指の肉球を先端にぷにぷにと押しつける。
テントを張っていた事は、タマにはとっくにばれてしまっていたらしい。
息子から受ける刺激に、身体は正直に反応してしまっていた。
「ご主人、やっぱりこの手で撫で撫でしてあげると悦ぶんにゃねぇ♪」
「た、タマだけずるいぞ!!私も……こ、こうか……?」
タマに続いてリンさんが、タマと同じように僕に尻を向けながら手でくりくりと僕自身をいじくってくる。
猫の毛のふさふさとした心地よさと肉球の柔らかい感触が、挟み込む形で竿に襲いかかる。
しかも、それは一人の両腕ではなく二人の片腕。
当然二人の動きにはズレが生じて、おかげで統一性のない刺激にはちっとも慣れさせてはくれない。
硬く、大きく。
片手でやるよりも段違いの早さで、そこは張り詰めていく。
でも……僕の関心は、そんなところになかった。
「はふぅ……ご主人のおチンポから、良い匂いがするのにゃぁ……♪」
「は、はぁっ……もうすぐだ、もうすぐ子種が……!!」
白が二つと、黄色と黒の縞模様が一つ。
尻の上でフリフリと揺れる、三つの尻尾。
そして、僕の顔のすぐ横に向けられた足。
白の中には薄いピンク色、縞模様の中には黒色の肉球。
……気がつけば、溢れる好奇心のままに行動していた。
「ふにゃっ!?」
「ふにっ!?」
左手に白い尻尾、右手に縞模様の尻尾を、それぞれむんずと掴んで。
加えて、眼前のピンク色の肉球にペロリと舌を差し出していた。
「な、ナスタぁ……!!また、尻尾なんか触って、ぇ……!!」
「ご、しゅじっ……!!あしのにくきゅ、なんて……なんで、なめっ……!!んにゃぁっ!!」
それぞれが違った声を上げるのも、今の僕にとっては興奮を増長させるスパイスでしかない。
僕に身体をいじられながらも、彼女達は僕の愚息を責め立てるのを止めなかった。
息子を回そうとするかのように二つの手が、手前と奥を左右違ったリズムで行き来する。
毛の次に肉球、肉球の次に毛……そんな、感触のスパイラル。
正直、口を使っていなかったら僕だって変な声を出してしまいそうなぐらいの、暴力的な快感だ。
「はっ、ふぅっ……!!こっちは、そろそろ……仕上げ、かにゃぁ……♪」
しかしそこで、急に片方の手が動作を止めてしまっていた。
心配になった僕はピンク色の肉球に釘付けになっていた視線を、タマ本人の顔の方へと向ける。
尻を僕の方に向けている為、ここからでは僕はタマの行動の全てを把握できるわけではない。
それでも、タマが僕のモノへと向かって口を近づけている事ぐらいは、わかる事ができた。
「んむっ……!!んっ、れろ、えろぉ……!!」
「む……ちゅ、ちゅぅ……こ、こうか?」
それにリンさんも加わって、いつの間にかダブルフェラの構図が出来上がってしまっていた。
猫科特有のざらざらとした舌が、二つ。
片方は活発な彼女を示すかのように大胆にあちこち表面を動いて、もう片方は真摯な彼女を表すかのように一点を集中的に舐める。
舌の上のつぶつぶが肉棒を擦る感覚に、僕は悶えた。
その中でなんとか尻尾を握る手を上下に振り、ぺろぺろと肉球を舐める舌をタマからリンさんへと変更する。
「れろ、に、にゃおっ……!!にゃっ……!!」
「ちゅ、ふにゅ、にぃっ……!!ふにゅっ……!!」
恐らく三人とも、限界が近い事を肌で感じる。
それは無論、僕自身も含めて。
けれど、二匹の猫に責められてそれを我慢出来るほど、僕は辛抱強くなどできてはいなかった。
「……っ、出っ……!!」
「あにゃっ……!!あ……ふにゅう……」
「ふにゃぁ……♪」
どくり、どくり。
心臓の鼓動のようなリズムを刻んで、僕の欲望の塊が天を目がけて発射される。
本来ならば重力に従って僕の身体に落ちてくるであろうそれは、しかしいくら待っても僕の身体になど触れさえしない。
「ご主人の、精液……はむ、ん、んちゅっ……♪」
「あぁやはり、何度味わっても美味だ……♪れろ、んむっ……♪」
顔にかかったそれを舐め取っているのだろうか、僕の股間の上ではくちゃくちゃと卑猥な音を立てて猫たちが必死に舌を動かしているのがわかる。
可愛らしい少女のような顔をしたタマが、堂々とした大人の風格を纏うリンさんが。
僕の白濁を一心不乱に舐め取っている様を想像すると……それだけで、喉がゴクリと鳴った。
「んむむ……まだ、イケそうだにゃぁご主人……♪」
けれど、それだけの精液を放出したというのに、まだ僕の愚息は全く衰えちゃいなかった。
それどころか、もっと出させろと言わんばかりに天に向かってそびえ立ち、二匹の目を惹きつけてやまない。
ひょっとして……リンさんと何度もやったせいで僕、とっくにインキュバスになっちゃったのかな?
「それなら……今度は、おチンポばっかを責めるだけじゃ、にゃーって事を教えてやるにゃぁ……♪」
上機嫌そうに言いながら、タマは身体をこちらに向けて来た。
仰向けの姿勢になっている僕と、自然に目が合う。
何をするのかと、疑惑の表情で見つめているとにやりと笑って……猫の舌で、僕の小さな乳首をつんと突いた。
「ぅ、ぁっ……!?」
たまらず、そんな声を漏らして顔を上げる。
タマは皿のミルクを飲む時のようにちろちろと、僕の乳首の先端を執拗に舐め続ける。
さっき僕の息子を刺激していたつぶつぶが、今度は僕の身体を刺激している。
何よりも、フェラの時と違って僕にはタマの顔がはっきりと見えるんだ。
鰹節をなめる時よりも、爛々と輝く目の色……そんな顔をされてしまえば、そこに釘付けになってしまうのは仕方無い。
「はぁ、はぁっ……!!足が、お前の唾でべとべとじゃないか……これは、責任取ってもらわないとなぁ……♪」
そんな風にタマのする事に夢中になっていたものだから、リンさんが尻を向けたまま上半身を完全に起こしている事に気がつかなかった。
「ほら、ぁ……!!こう、すれば……お前も気持ち、いいだろう……♪」
圧迫するような重みが、僕自身に降りかかってくる。
けれどそこにあるのはそれだけではなくて、滑らかな毛のような感触と柔らかく、けれど芯を持った確かな感触で……
「どうだ?私の足で扱かれる感覚は……このまま、お前の唾をここで拭きとってやる……♪」
僕の隣に座るリンさんが、足で僕の逸物を踏んづけていた。
堂々たる風格のリンさんに踏まれるというのは、まるで自分が征服されてしまったような気分で。
でも、それをリンさんにやられるなら、ちっともそれが嫌じゃなかった。
「ぐむむ、これだけじゃ足らにゃーか……よーし、そんにゃら……!!」
その時、僕の乳首を舐めるのを止めたタマが何かを呟いたかと思うと、二股の尻尾を自在に動かしてリンさんに踏まれた僕の性器の前まで持ってくる。
「ご主人……ふにっ!!こういう、のは……どうか、にゃっ……にゃぁっ!!」
するするとリンさんの足と僕の身体を避けた二つの尻尾が、二カ所から同時に僕の事を挟み込んで責め立てた。
二人でやるのとは違う、一人でやることによる完璧な責め立て。
顔はなおも僕の乳首を舐める為にこちらに向けているというのに、尻尾はまるでそれ自体が生き物なのかのように僕の弱い所を的確についてきた。
性器を上から抑えつけるリンさんの足と、横から刺激するタマの尻尾。
乳首を狙ってくる、タマの猫舌。
「に、二カ所同時だと……!?それなら、私も……!!」
これだけでもすぐに達してしまいそうな程心地良かったのに、僕へととどめをさそうとリンさんが動いてくる。
尻を少しこちらに向けてきたかと思うと、タマのように尻尾を動かし始める。
どこへ動かすのかと思えば、それはタマの舐める物とは逆の乳首を狙って一直線にやってきた。
虎柄の尻尾が、つつくように僕の乳首の先端に触れる。
つん、つん。
足は今でもなお僕の逸物を執拗に責めているというのに、そこだけ別物になってしまったかのように慎重だ。
……けれど、それは決壊を及ぼすには充分すぎる刺激で。
「ぺろ、ぺろ……ふにい……♪」
「あっ……あぁっ……♪」
尻尾を汚すものに、足を汚すものに、安堵したのだろう。
タマは蕩けたような表情で、リンさんも頬を緩めさせて、流れ出る僕の精をただその身体の一部で受け止めていた。
「な、なぁ、タマ……もうそろそろ、いいと思うのだが……」
「奇遇、にゃね……ちょうど、みーもそう思ってたのにゃー……」
僕がようやく二度目の射精を終わらせたところで、二人で起き上がったタマとリンさんは口々にそんな事を言う。
何の事だ、と僕が尋ねるまでもなく、二人はリンさんを仰向きで下、タマがその上にうつ伏せで寝転ぶ姿勢になる。
尻がこちらを向いていて、非常に扇情的な姿となった彼女達は、僕に向かって手を伸ばした。
「「……今度は、そっちからみー(私)にして欲しいのにゃー(だ)♪」」
……どうやら、僕がインキュバスになってしまった事はほぼ確定の事となっているらしい。
だって、二人が僕を誘ってくれたというだけで……二度も出したのに、こんな硬くなっているのだから。
「うにゃぁっ♪」
「うにぃっ♪」
だから僕は二人の股と股の隙間に自分のモノをねじ込んだ。
……暖かい。
それが、僕が最初に思ったこと。
リンさんの中に入れた時とは、また違う。
人間に近い二つの女性器の表面は、僕と彼女達の様々な行為の果てにとっくに濡れそぼっていて。
僕の物を挟み込んでいるというのに、抜くのも挿すのも自由自在。
つるりと滑って僕を受け入れ、その度に上か下かの彼女が可愛らしい鳴き声を発する。
ペシンと僕の腹を叩くのは、タマの尻尾。
「にゃっ、ぁっ、ふっ……!!ふにっ、ぃっ……!!」
けれどそれさえも快感になってしまっているようで、心なしかタマの方が喘ぎ声を多く出してしまっているような気がする。
けれどすぐに達してしまいそうなのは、僕だって一緒だ。
初めてご主人様と一緒にいられる事を喜んでくれた、タマの夢中になっている顔。
僕のお願いを聞いて番になってくれた、リンさんの雌の顔。
本当は入れていないのに、まるで二人を同時に犯しているような錯覚さえもして……
そんな可愛い表情をして僕を受け入れてくれているのに、耐えられる訳がない。
「げ、げん、か……!!リンさん、タマ……そろそ、ろぉ……!!」
「出すにゃ!!出して、欲しいにゃっ、ぁ……!!何回でも、何回でもぉ……!!んにぃっ!!」
「な、すたぁ……私も、一緒に……ふにゃぁっ!!」
ぐちゅぐちゅと、互いが重なり合っている場所から響く音。
僕の奥から、せり上がってくるものがある。
一番大きなそれを、待ち望んでいる彼女達にあげようとして……僕は、解き放つ。
僕と彼女達との愛を、結晶として産み出せる物を。
「あっ、にっ、にゃ、にゃぁ……ふにぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ふにゃぁぁぁぁ!!」
膣の周り、腹、足。
それは彼女達の身体をどこまでもむさぼろうと白く汚していく。
それと引き替えになるかのように、二カ所から僕に向けて放たれるのもまた愛の証。
透明な液体が僕の身体を濡らす度、それすらも愛おしく感じてしまう。
けれど……それ以上に、起き上がっているのが限界だった。
いくらインキュバスでも、この短時間で立て続けに三度もやればそれなりに疲労というものは溜まってしまうらしい。
息は上がって、全身は汗でぐっしょりになって。
それでも僕は、愛しい彼女達と一緒の場所で寝る事ができて、とても満足だった。
これからもきっと、僕達は三人で仲良く……
「ごしゅ、じんー……みーの方が、やっぱり気持ちよかったんじゃにゃーか……?」
「いや、それは私だろう……ナスタなら、きっと私を選ぶ……」
なか、よく……
「……どっちも気持ちよかったじゃ、駄目?」
僕の言葉に、さっきまでの疲れはどこに行ったのか二匹はガバッと起き上がる。
「引き分けだなんて絶対認めないのにゃー!!リン、こうなったら決着は明日の夜に持ち越しにゃ!!今度こそ、決着をつけるにゃーよ!!」
「望むところだ!!正妻は私の方がふさわしいということ、ありとあらゆる手段を用いてお前に思い知らせてやる!!」
「その言葉そのままそっくりお返しするにゃ!!正妻にふさわしいのはこのみーなのにゃー!!」
やれやれ……さっきまであんなに息ぴったりだったのに、どうしてこうなっちゃうのかなぁ……
でも……このままでも、いいか。
この二人がこんなに争ってくれるのは、それだけ僕の事を好きでいてくれる証なんだから。
それなら僕は、全力でそれを受け入れよう。
二人の妻たちの、僕への愛の証を。
猫と虎との猫科戦争は、まだまだ終わりそうにはなかった。
14/02/11 10:46更新 / たんがん